評論 作品別 内容・感想

ミステリの美学   The Art of the Mystery Story (Howard Haycraft)

1946年 出版
2003年03月 成甲書房

<感想>
 長らく放っておいた評論書であるが、手を付けてみたところ、これがかなり面白く、かつ興味深い内容であった。

 この書籍については海外ミステリ愛好家であれば必ず手に入れておいてもらいたい本である。内容云々に関わらず、“ノックスの十戒”“ヴァン・ダインの二十則”“カーの密室講義”が掲載されているので、これだけでも購入する価値は十分にあると思われる。

 本書の一番の特徴はなんといっても、評論家ではなく、有名作家たちが真剣にミステリを語っているというところにある。作家の中には評論でも有名な人もおり、よく目にするものもあるのだが、あまり評論など書きそうもない作家のものまでも掲載されているというところが目玉であろう。また、それが各作家ごとに特徴があり、よくその人の性格が表れているのを感じ取れるところがまた興味深いのである。

 初っ端には毒舌の批評家エドマンド・ウィルソンが推理小説を全否定しているのに、いきなり度肝を抜かれことに。

 そしてドロシー・セイヤーズによって海外ミステリの歴史の遍歴が丁寧にわかりやすく語られてゆき、オースティン・フリーマンとチェスタントンによってミステリのこだわりがわかりづらく語られている。

 エラリー・クイーンは評論ぶりではなく、“探偵書籍おたく”ぶりが作品名を延々と羅列することで表されており、チャンドラーはその冷徹な視点からミステリのこだわりを淡々と語っている。

 クレイグ・ライスは、彼女の作品同様、能天気な評論を展開してくれており、ジョン・カーターにおいては、クイーンに負けじと、さらなる書籍名を羅列することでこれもまた書籍収集家ぶりを証明している。

 といった具合に、これをいきなり読んだところで、どんな海外ミステリ作品を読んだらよいかということはわかりづらいと思うのだが、ある程度すでに海外のミステリ作品に触れている人にとっては格好のレベルアップの書となることであろう。

 とにかく、この作品は完全保存版といってよい評論集であるので、持っていない人で本屋で見かけた人は必ずや入手しておくべきであると断言しておく。まぁ、出版されてから4年も経って言うようなことではないのだが。




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