John F Bardin  作品別 内容・感想

死を呼ぶペルシュロン   6.5点

1946年 出版
2004年04月 晶文社 晶文社ミステリ

<内容>
 精神科医マシューズの元に真っ赤なハイビスカスを髪に挿した青年がやってきた。彼は自分の身に奇妙な事が起こり、現実と夢との区別がつかなくなっているというのだ。マシューズはその虚実を確かめようと、青年に同行することにしたのだが・・・・・・そこで彼らを待っていたのは、小人と一頭の馬であった。そのときマシューズは、悪意に満ちた陰謀の中に足を踏み入れたことに・・・・・・悪夢が今始まる。

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<感想>
 バーディンの作品を読むのはこれで3作目。これでようやくバーディンが書いた初期の3作品が日本でも手に入れることができるようになった。そして本書はそのバーディンの処女作である。

 本書を読んでの感想は、今までの3作品の中で比べてみると、一番ミステリとして整合性が取れていると思える作品であった。2作目の「殺意のシナリオ」はサスペンスという感触。3作目の「悪魔に食われろ青尾蝿」はミステリという範疇からは飛び出すような作品であった。これら2作品の突出の仕方には驚かされたものだが、本書はサスペンス小説でありながら、先鋭的なミステリとしても完成されているという、また良い意味で裏切られたような作品であった。

 物語の最初では、いきなり奇怪な話が語られて現実かどうかの区別がつけられない状況から始まってゆく。そこからどういう展開で話が進んでゆくのかと思いきや、いきなり世界が反転したかのような、さらに奇怪な物語へと変貌してゆく。どのように奇怪な話に展開して行くのかは、ぜひとも自分の目で確かめてもらいたい。

 そしてさらに当初の話とは異なる目的で話は進んでゆくのだが、それが次第に全体の像を結びつつ、全ての決着が付けられてゆくように収束されてゆく。正直言って、当初はここまで物語の整合性がとられるものとは思っていなかった。読んでいる最中は、サスペンス小説とか怪奇小説という雰囲気が強かっただけにミステリとして解決されることに驚かされた。

 ただ一つだけ付け加えておきたいことがあるのだが、タイトルになっている“ペルシュロン”というもの自体にもっと大きな意味合いをつけてもらえたら完璧だったのにな、と思わずにはいられない。そこだけが気になったところである。それとも心理学上で“ペルシュロン(馬)”になんらかの大きな意味合いが隠されているということがあるのだろうか?


殺意のシナリオ   点6

1947年 出版
2003年12月 小学館 SHOGAKUKAN MYSTERY

<内容>
 フィリップが会社に行くと自分の机の上に原稿が置いてあった。原稿を読んでみると、そこにはフィリップの身にこれから起こる未来の出来事が書かれていた。いったい誰がこんなものを書いたのか。フィリップ自身はアルコールにおぼれていて、時々記憶を失うことがあり、これを自分で書いたかどうかも判断できなかった。そしてその日、その原稿に書かれているとおりに現実の生活が進行して行き・・・・・・

<感想>
 この著者の作品を読むのは「悪魔に食われろ青尾蝿」に続き2作目である。やはり印象としてはどうしても「悪魔に」のほうが強く残ってしまう。ただし、その分「殺意のシナリオ」のほうがきれいにまとめているという印象を受ける。どちらも倒錯したかのような出だしの印象は変わらないのだが、「悪魔に」のほうはそのまま悪夢に飲み込まれてゆくように話が進み、本書のほうはサスペンス調の流れにそって進んでいく。どちらが良いと思うかはお好みしだいというところであろう。

 それと一つ感じるのは訳が新しいせいもあるのだろうが、50年以上前に書かれた本にしては先鋭的な雰囲気が感じられる。これは現代に書かれたサスペンス小説であるといわれても違和感なく読めてしまう作品である。当時あまり評価されず、近年にいたって評価された作家だということがなんとなく伝わってくる。


悪魔に食われろ青尾蠅   6.5点

1948年 出版
1999年10月 翔泳社 単行本
2010年12月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 精神病院に2年間入院していたエレンは、ようやく退院が許されることとなる。指揮者である夫を持つエレン自身も音楽家であり、彼女はハープシコード奏者であった。再び奏者としての活動を目指すエレンであったが、日々を過ごすうちに奇妙な出来事が身近で起き、不安にかられることに。そして、ある人物との再会することにより、その不安は増大され・・・・・・

<感想>
 翔泳社版で読んでいたのだが感想を書いていなかったので、創元推理文庫版を購入し、再読。改めて読んでみると、内容についてほとんど覚えていなかったことがわかった。途中「あれ? こんな内容だったっけ?」と感じたくらい。

 精神病院から出てきたエレンが日々の生活にずれを感じ、不安を覚えてゆく。精神病院に入院していたこともあってか、エレンの描写がどこか不安定。時系列順に語られていない場面もあれば、ブツ切りのように場面が飛んでいたりと、どこか描写も不安定に感じられる。

 中盤にとある男の出現によって、話は一変することに。この男の出現と過去については、なんとなく話の流れとしては微妙な感触であった。単にエレンの思い違いかと思えばそういうわけではなく、男はエレンの過去にがっちりとはまる存在となっている。ただ、その後の時間が空きすぎている部分と再会の唐突さに関して納得しづらい部分があった。

 そして、終幕へとなだれ込むこととなり、そこである事実が浮かび上がり、物語の不安定さの真相が明らかとなる。ここはネタバレになってしまうので、詳細の説明は差し控えるが、「あぁ、こういうネタのサスペンスミステリであったのか」と。このネタが最後の最後に明かされるということについては、賛否両論ありそうな気もするが、こういった書き方というのも決して悪くはないように思える。また、1948年に書かれた作品であることを考えると、心理サスペンスの先駆けという風にも捉えられるであろう。さらには、最後の場面の不条理とも言える残酷さについても、何とも言えない味わいを感じさせられるものとなっている。




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