Earl Derr Biggers  作品別 内容・感想

鍵のない家   

1925年 出版
2014年08月 論創社 論創海外ミステリ128

<内容>
 アメリカ本土からホノルルに向けて出港する船にジョン・クィンシー・ウィンタスリップは乗っていた。彼はホノルルに住む資産家の叔父から、彼が以前住んでいた家から箱を持ち出し、船上から海に捨ててくれと頼まれていた。しかし、その家でジョンは何者かに襲われ、箱を奪われてしまったのである。途方にくれつつも、その報告をしなければならないジョンであったが、ホノルルに着いたとき、当の叔父は何者かに殺害されていたのであった! その犯人を見つけようと、ホノルル警察の巡査部長であるチャーリー・チャンと協力することとなり・・・・・・

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<感想>
 チャーリー・チャンが登場するシリーズはきちんと年内に読んでおかなければならないと、他の未読の論創海外ミステリを差し置いて着手したのだが・・・・・・期待通りの作品ではなかったと。

 まず、感じたのが、チャーリー・チャンがほぼ脇役だということ。実はこの作品こそがチャーリー・チャンが登場した初の作品であるのだが、このときはひょっとするとチャーリー・チャンを主人公にすえたシリーズとは考えていなかったのかもしれない。本書では、若き青年ジョンが主人公として行動し、それについてチャンが助言を与えるというような内容になっている。ときおりチャンが鋭いひらめきを見せることもあるものの、ミステリ的な内容として優れているというほどのものではなかった。

 内容はホノルルに資産家の叔父を訪ねてきたジョン青年が、その叔父の殺害事件の真相を探るというもの。事件の調査を行うと、叔父の過去の秘密が徐々に暴かれてゆき、さらにはジョン青年の恋の行方や彼を取り巻く人々の動向が注目されてゆく。そこに堅物の警部とチャーリー・チャン巡査部長がからんでくるというもの。

 物語は全体的に冗長であり(最初の100ページは余分というような感じにも)、タイトルの“鍵のない家”というものも、たいした意味はない。もし、このチャーリー・チャンのシリーズのなかで、この初作を最初に読んでいたら、他の作品については読まなかったかもしれない。そう思うのと、他の作品から読んで正解だったかなと。ただし、この作品はともかく、他の作品では優れているものがあるので、入手しづらい作品は是非とも復刊してもらいたいなと個人的な意見を付け加えておきたい。


黒い駱駝   

1929年 出版
2013年06月 論創社 論創海外ミステリ106

<内容>
 ハワイのホノルルに映画女優シェラー・フェイン一行がやってきた。シェラーはかつてハリウッドの有名女優であったが、現在はやや落ち目。とはいえ、彼女はまだまだ一線で活躍したいと思い、映画撮影のためにホノルルにやってきたのであった。しかしその矢先、彼女が何者かに殺害されてしまう。彼女の周囲に多数の取り巻きがいるなか、誰が犯行を行ったのか。彼女と結婚を願う恋人か、それとも元の夫か、彼女の秘書か、それとも占い師か? 彼女の死には、過去に彼女が関わったことのある殺人事件が関係しているようなのだが、いったい事件の動機とは!? 雲をつかむような事件のなか、チャーリー・チャン警部の必死の捜査が行われる。

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<感想>
 名探偵チャーリー・チャン警部が活躍する事件。今回は、地元ハワイでハリウッドの有名女優が殺害されるという事件が起き、その捜査を行うというもの。今作でも、濃厚な本格ミステリっぷりを堪能させてくれる。

 この作品の見どころは事件の構図。殺人を犯すに至った動機は何なのか? この動機が複雑に絡み、複数の人物が行動することにより、事件を複雑にしてしまっているのだ。この真の動機に関連する、それぞれの登場人物の行動がうまくはまっていると言えよう。そして最後の最後で予想だにせぬ犯人がチャン警部により指摘される。

 本書で惜しいと思われるのは、犯人の指摘について。これが最初から最後まで続く捜査の過程で明らかになるというものではなく、最後のちょこっとした捜査でチャン警部が簡単に明らかにしてしまうのだ。もうちょっと、犯人指摘に至るディテールがうまくできていれば完璧だったのにと惜しく思われてしまう。

 とはいえ、最近ここまで濃厚な本格ミステリを読むことはなかなかできないので、十分に堪能することができた。シリーズ未訳作品や、入手しづらい作品も含めて、チャーリー・チャン警部のシリーズ作品を全部読めるようにしてもらいたいと心から願うところである。


チャーリー・チャン最後の事件   

1932年 出版
2008年11月 論創社 論創海外ミステリ82

<内容>
 ホノルルの警視で名探偵の呼び声が高いチャーリー・チャンは、富豪ダッドリー・ウォードに招かれてサンフランシスコへとやってきた。そこに集められたのは、ダッドリー・ウォードが以前結婚しいていたオペラ歌手エレン・ランディーニと関連がある者たち。ダッドリーが最初の夫で、2番目3番目4番目に彼女と結婚した者達が集められた中で、ダッドリーは自分の目的を皆に話す。しかしそんな中、他の者と同じく呼び出されていたエレン・ランディーニが屋敷の中で何者かに殺害されてしまう。それぞれが動機や秘密をかかえているなか、いったい何が殺人へと駆り立てることとなったのか!? チャーリー・チャンの必死の捜査が始まる。

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<感想>
 私にとって、まだこれがチャーリー・チャンの2作目でしかないのだが、このシリーズは本当の良い本格推理小説であると感じずにはいられない。何が良いかといえば、チャーリー・チャンがかもし出す、その雰囲気である。

 本書の特徴は何といってもチャーリー・チャンの口から語られる数々の中国の格言にある。その格言が独特の“間”をとることとなり、他とは異なるミステリの世界へと引き込まれることとなってゆく。また、それらの格言の影に隠れてチャン警視が本音では何を言わんとしているのか、何を考えているのかなどと考えながら、登場人物らとともに犯人探しの旅へと出立することとなるのである。

 この作品では大きな決め手によって謎が解かれるというよりは、徐々に犯人像が見えてゆくことによって真犯人が定まってゆくというように感じられた。よって、大きなサプライズがあるというようなものではないのだが、これはこれで深みのある探偵小説を存分に堪能することができる。

 本書は“最後の事件”とはなっているものの、特にチャン警視が引退をほのめかすとかそういった内容ではなく、また他の作品との時系列などもいっさい関係ないので、単体で読んで楽しむことができる。ゆえに、チャーリ・チャンと共に人情味のあふれる大人の推理小説ともいうべきこの作品を是非とも多くの人に堪能してもらえればと願うところである。




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