キャロラス・ディーン・シリーズ 作品別 内容・感想

死の扉   6.5点

1955年 出版
2012年01月 東京創元社 創元推理文庫(新訳復刊)

<内容>
 英国のニューミンスターにて、小間物店を営む老女が殺害され、さらに被害者を発見した警官までもが殺害されるという事件が起きた。被害者の老女は強請りを生業としており、彼女に恨みを持つものは多数。事件が起きた日も、何人もの人々が彼女の家を訪れていた模様。容疑者が多すぎて、肝心の真犯人の検討が付けられないなか、パブリック・スクールの歴史教師であるキャロラス・ディーンが素人探偵として事件の解決に名乗りを上げる!

<感想>
 歴史教師キャロラス・ディーンが活躍するシリーズは数多く書かれているようだが、日本で読めるのは7年前に原書房から出た「骨と髪」くらい。「骨と髪」を読んだ時はあまり“シリーズ”という感じがしなかったのだが、この主人公が登場する初の作品である本書を読むと、多くの魅力的なサブキャラクターが書かれていて“シリーズ”らしさが十分に感じられるものとなっている。これを機に是非とも他の未訳作品も出版してもらいたい。

 レオ・ブルースというと、ビーフ部長刑事シリーズのイメージのせいか、地味という印象がある。しかし、本書はそんなことはなく、まるでクリスティー作品のように軽快な内容となっており、非常に読みすすめやすかった。登場するキャラクター達が皆、軽快であり、かなり取っ付きやすい作品。さらには、展開も読者を惹きつけるようなものとなっており、実にうまくできている。

 読む前はタイトルが「死の扉」という硬めなものゆえに、理論的なミステリになっているのかと思っていたのだが、そういうわけではなかった。どちらかというと直感的なミステリであり、このように考えれば事件の様々な要素がピッタリと当てはまるというような考え方で事件を解決している。ゆえに、犯人を指摘しようとする場面もかなり綱渡り的なものであった。

 とはいえ、決してそういった構成が物語を損ねることはなく、全体的にうまくまとめられている。タイトルは硬めであるが内要は軽快なものとなっているので広く薦めることのできるミステリ作品である。


ミンコット荘に死す   6.5点

1956年 出版
2014年10月 扶桑社 扶桑社文庫

<内容>
 深夜、歴史教師であり素人探偵でもあるキャロラス・ディーンは、ミンコット荘の女主人、マーガレット・ヒップフォードから呼ばれることに。なんでも義理の息子であるダリルが自殺を図ったというのである。警察嫌いのマーガレットは、ディーンに電話をして、ごたごたを避けようとしたようであった。ディーンは銃により死亡しているダリルの様子を見て、殺人ではないかと疑いを抱く。しかも現場からは、ディーンが見つけたはずの怪しげなコップが消え失せていたのである。自殺であるという警察の見解をよそに、事件を調べていくディーンであったが、やがて第二の事件が起こることとなり・・・・・・

<感想>
 レオ・ブルースの作品という事で期待して読んだ一冊。実は、読み始めた時にはたいしたことないなと思ってしまったのだが、最終的な真相にたどり着くと、なかなか良い作品ではないかと感心させられてしまった。これは、十分に今年の目玉作品の一冊と言えよう。

 のっけから事件が起こり、それに対応する主人公で探偵役のキャロラス・ディーン。しかし、自殺と思われる事件を単にディーンが殺人事件だと言い張っているような状況が続いていくことに。そして、事件の状況を色々と調べていくのだが、事件に直接関係がなさそうな人物が多すぎる。しかも調べれば調べるほど、事件が起きた時に、ミンコット荘付近に、これでもかというくらい関係のない人々がいたことが明らかになっていく。

 前半はその登場人物の多さにだれてきそうになるのだが、後半になり第2の事件が起こると、そこから物語が加速し始める。そして、最終的にキャロラス・ディーンがたどり着く真相はなかなか驚くべきもの。ただ、その真相に関しては、実は似たような作品が色々とあったようなと感じられるもの。オリジナリティは薄い(ただ、書かれた年代を考えると実はパイオニアなのかも)ように思えるものの、実は数々の伏線がきちんと物語にちりばめられており、それが明かされたときには思わずうならされる。

 レオ・ブルースの未訳作品は結構あるものの、もう名作と言われるものはないのかなと思っていたが、まだこれだけの良作が残っていることに驚かされる。引き続き、未訳作品をどんどんと訳してくれることを期待したい。


ハイキャッスル屋敷の死   6.5点

1958年 出版
2016年09月 扶桑社 扶桑社文庫

<内容>
 キャロラス・ディーンは、普段は彼の探偵活動に眉をひそめるゴリンジャー校長から事件捜査の依頼を受けることに。校長の友人であるロード・ペンジの元に脅迫状が届き、命を狙われているというのである。話を聞いたキャルラスであったが、その内容から自分が乗り出すような事件ではないと断る。しかしその後、ロード・ペンジが住むハイキャッスル屋敷で、ロード・ペンジと間違われて秘書が射殺されたというのである。実際に殺人事件が起きたことにより、現地へとおもむくキャロラス・ディーン。そこで彼は捜査を始めるのであったが・・・・・・

<感想>
 なんと、いつもは探偵活動を反対する校長から事件の解決を依頼されるキャロラス・ディーン。乗り気はしなかったものの、実際に殺人事件が起きたことにより、渋々現地へと乗り出す。

 全体的には地味な作品。キャロラスの探偵活動も、ひたすら周辺の人から話を聴き、状況を確認していくという作業の連続。すると、作品の半分を超えたくらいのところで、キャロラスが犯人の正体がわかったと言い出す。そして、もう新たな殺人は起こらないとまでも。そこから、後半までどうやって話を続けてゆくのかと思いきや、さらなる事件が待ち受けることに!

 本書を読んでいる最中は、キャロラスの態度に対して疑問を持ち続けることとなるのであるが、事件が解決するとなるほどとうなずけるものとなっている。この作品はある意味、キャロラスの苦悩を描いた作品といえる。キャロラスは捜査と推理によって、事件の真犯人を見出すこととなるのであるが、そこから事を治めるためにどのように解決してゆけばよいのか、ということに頭を悩ませることとなるのである。

 読んでいる途中は、単調な作品と思え、読み進めるのがやや苦しかったというイメージが残る。ただし、終わってみれば、なかなか読み応えのある作品であったと思い知らされる。ちょっと異色な英国風本格ミステリということで。


骨と髪   7点

1961年 出版
2005年09月 原書房 ヴィンテージ・ミステリ

<内容>
 歴史教師で素人探偵のキャロラス・ディーンは、校長の紹介によりチョーク夫人の相談を受ける。その相談と言うのが、遺産の相続について話し合うために従妹に会いに行ったのだが、会う事ができず、その従妹の夫に追い返されたと言うのだ。チョーク夫人が言うには、従妹はすでにその旦那に殺されていると・・・・・・。捜査に乗り出したディーンが事件を調べてみると、驚くべき事実が次々と判明する事になるのだが・・・・・・

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<感想>
 取っ掛かりとなる話自体は簡単なもので、行方不明になった女性を探してもらいたいというもの。そして、その最重要容疑者(?)となるべき夫も失踪してしまうのである。

 それが、事件を調べて行くとその夫の存在がどんどんと胡散臭いものとなっていく。そこから話はやや複雑になる。ただ、複雑といっても基本的な部分は、女性の行方は? ということと、その胡散臭い夫がとる行動の謎を探るというものなので、読みにくいというような事は一切ない。とはいえ、登場人物が少々多かったように感じられ(ただし、その少し多めの登場人物の中に隠す! という効果を狙っていたのかもしれない)、それらを把握するのは大変であった。

 物語の展開としては、単純そうな事件に見えるものの詳細は入り組んでいるように考えられ、やはり夫が胡散臭く感じられるものの事件を指摘するには決め手にかけるという状況がずっと続いていく。

 そう思わせながらも、実は話のそこここに伏線が張られており、最終的にはもうこれしかないという結論にぴったりと当てはめられてしまったのには驚かされてしまった。一見、単純でいい加減そうな事件が、きちんとした行動に基づかれたものであるというところに感心させられる。

 ブルースというと、ビーフ部長刑事シリーズしか知らなかったが、このキャロラス・ディーン・シリーズのほうでもこのような良い作品があるのかと驚かされた。こちらのシリーズはまだまだ未訳本があるので、どんどん日本でも発表してもらいたい。




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