死者はよみがえる
To Wake the Dead   1938

 クリストファ・ケントは無銭旅行をしながらロンドンまで来ていた。空腹の彼はローヤルスカーレットホテルを見て食い逃げの計画を思いつく。彼はホテルに入り、ウェイターに適当な部屋の番号を伝えることによって、豪勢な食事にありつく。しかし、彼の元にウェイターがやって来たとき、食い逃げがばれたのかと思いきや、ウェイターから逆に頼みごとをされることになる。彼が適当に告げた部屋に前日宿泊していた女性が腕輪を忘れたというので、客室係が部屋に行くと“静かに”のふだがさがっている。奥様(客室係が勝手にそう思い込んでいる)が就寝中なので、部屋から腕輪を探してもらえないだろうか、という依頼であった。

 ケントはつい好奇心がまさり、エレベーターで上がってその部屋に入ってみると、そこには女性の死体が転がっていた。死体は顔をトランクに突っ込んだ状態であり、絞殺されたようであった。しかも死亡した後に顔を殴られたかのように踏みにじられていたのだった。ケントは一応部屋の中を探してみたが、腕輪はどこにも見つからなかった。のっぴきならない状況に追い込まれたケントは、客室係の待つドアとは別のドアから出て、ホテルを逃げ出し、手紙のやり取りをしたことのあるギデオン・フェル博士のもとへと向かうことにした。

 フェル博士の家にはハドリー警視が来ており、ケントは彼らの前で自分が遭遇した出来事について語った。そして死体は何時間も前に殺されており、そのおりケントは船に乗ってロンドンへ来る途中であり、アリバイが確かなことも付け加える。  ハドリーらはケントが来る少し前に事件の通報を受けており、まさにそのことについて話していたところであった。そして被害者は奇しくも、ケントのいとこのロドニー・ケントの妻のジェニーであったという。さらには二週間前に、そのロドニー・ケントもジェニーが殺されたのと同じ手口で殺されていたのであった。

 ロドニー殺害事件に関しては容疑者が拘留されていた。ロドニーはジャイルズ・ゲイル卿の屋敷で殺害された。その屋敷はいわくがあり、かつてはリチー・ベローズというものが所有しており、その後にジャイルズ・ゲイル卿の手に渡った。ロドニーが殺害されたとき屋敷にいたのは6人。ジャイルズ・ゲイル卿。リーパー夫妻(ダンとメリッタ)、その姪のミス・フランシーン・フォーブス、ハーヴィー・レイバーン、そしてロドニー・ケント。
 そして容疑者となっているのはリチー・ベローズであった。
 かつての屋敷の所有者リチー・ベローズは資産家だった父親の財産を食いつぶし、屋敷を売り、飲んだくれの生活を続けているという。彼は左手が麻痺しており、ろくな仕事につくことができないままぶらぶらした生活を続けている。それでも常日頃、酔っ払っていながらももめごとなどは起こしたことがなかったという。
 ベローズは酒場を出た後、林にあるベンチで一人酒を飲んでいたという。彼が目を覚ますと、なぜかそこは以前の彼の屋敷の廊下のソファーにいたというのだ。そこで彼は一人の男の姿を見たと証言する。その男はローヤルスカーレットホテルのボーイのような濃紺の制服を着ており、盆を持って立っていたというのだ。
 その後、ベローズがソファーで眠りこけているのをリーパー氏に目撃され、さらにリーパー氏はロドニーの死体を発見したという。


 フェル博士、ハドリー警部、ケントの三人はホテルへと出かけていき、支配人から事件当時の状況を聞く。支配人いわく、ジェニーの死体を客室係が発見したとき(ケントが逃げた後)件の腕輪を見つけた(ケントが探したはずの場所から)というのだ。
 そしてこのローヤルスカーレットホテルには現在、被害者となったジェニーもあわせて、ジャイルズ邸にいた者達が宿泊していたのだった。
 また、ホテルに宿泊していたリーパー氏からジェニー殺害時に山のようにタオルを抱えたホテルの使用人を見たというのだ。それも青っぽい服を着た、まるでベローズがジャイルズ邸で目撃したような男を。
 さらにジャイルズ卿から聞き込みをすることによって、今まで好人物とされて敵などはいないと考えられていたロドニー・ケント夫妻のジェニー・ケントのほうに、何やら男に誘いをかけるといったような悪女めいた一面が浮き彫りにされた。

 事情を聞くに従って、鍵がかけられた扉などの問題により、殺害が可能と思われるハーヴィー・レイバーンに容疑がかかる。しかし、彼から事情を聞くことにより、事件はさらに謎を深めてゆく。
 レイバーンはジェニーからせまられていたという。そして最近では何度かキスをするような間柄へとなっていったというのだ。彼女が殺された夜も二人は会っていて、その夜、なぜか彼女は腕輪をレイバーンにくれたのだという。そのとき彼女の部屋を誰かがノックしたので、それを機に彼は部屋から出たというのだ。次の日の朝、再び彼女の部屋に訪れると部屋の外側に鍵がささりっぱなしになっており、それを抜いて中に入ると彼女の死体があったという。おどろいて自分の部屋に引き返したものの、自分が彼女の腕輪を持っていることが怖くなり、再び彼女の部屋へと戻り(ちょうどケントが部屋を立ち去った直後)腕輪を部屋に置いて出てきたのだという。


<フェル博士による疑問点>
 一、犯人がホテルの使用人の制服を着ていたのはなぜか?
 二、その衣装はあとでどうなったか?
 三、いずれの場合にも被害者を絞殺するさいにタオルを用いているのはなぜか?
 四、犯人がジョセフィンに自分の顔を隠す必要を感じているが、ロドニーにはその必要を感じなかったのはなぜか?
 五、ジョセフィンは殺害される数時間前になって、初めて腕輪を身に付けだしたのはなぜか?
 六、なぜジョセフィンは一度も英国に来たことがないかのように装っていたのか?
 七、ジョセフィンは腕輪に彫られている文句に対して「これが読み取れさえしたら、そこにいっさいの秘密がひそんでいるのよ」と・・・
 八、犯人はホテルの鍵のかけてあるシーツ押入れにどうやって入り込んだのか?
 九、犯人はゲイの家の鍵のかかった書斎のデスクの引き出しをどうやって開けたのか?
 十、ミセス・ケントのハンドバッグやゲイの書斎から小銭が盗まれていたのはなぜか?
十一、ジョセフィンの事件の際、誰も部屋に入ってこないような工作をしながらも、札に赤インキで「女の死体」と書いたのはなぜか?
十二、ハンドバックの中にあったはずのの部屋の鍵を取り出し、ドアの外側から鍵穴に差し込んでいたのはなぜか?




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