C. Daly King  作品別 内容・感想

海のオベリスト   6点

1932年 出版
2004年09月 原書房 ヴィンテージ・ミステリ

<内容>
 豪華客船の中でのオークションの最中、事件は起きた。突如、予期せぬ停電が起きた時、暗闇の中で2発の銃声が響き渡った。明かりがつき、周囲を見渡すと富豪のスミス氏が胸を血に染め崩れ落ちていた。そしてその近くには拳銃を持ち、呆然とたたずむ男の姿が・・・・・・。スミス氏はこの男の手によって殺されたのか? 次々と明らかになる複雑きわまる事件の状況。その事件を船に乗り合わせた4人の心理学者たちがこぞって謎を解かんとする。事件の結末は如何に??

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<感想>
 一言で言うとおしい作品といったところである。もう一押し欲しかった。

 不可解な殺人事件が起き、何人かの乗客たちが容疑者となる。そして事件を4人の心理学者が一人一人別々の観点から謎を解こうとする。まず3人の心理学者がそれぞれ自分達の意見を述べながらも次々と新たなる情報が持ち出されることにより、決め手を欠いたまま捜査は続けられる。そして物語が進み、徐々に謎が深まりつつあるものの、容疑者はだんだんと限られてくる。と、ここまでは良かったと思うのだが、最後の四人目の心理学者の存在を今ひとつ生かせなかったというか、ここで手詰まりになってしまったように感じられた。

 私はこの心理学者こそが事件の裏を読み解きながらも、あえて真相を述べないことによりキーマンとなりうる人物であると解釈した。しかし、結果は異なるものであり、こういう展開になってしまうのであれば、キーマンどころかただのやる気のない心理学者でしかなかったように感じてしまう。この辺をもうひとひねりすることができれば名作と謳われること間違いなかったのではないかと思うと残念でならない。

 結局のところ本書はバークリーの「毒入りチョコレート事件」(1929)を超えることのできなかった作品という位置付けになるのではないだろうか。

 最後に付け加えさせてもらうと、まだ読んでいない「鉄路のオベリスト」も気になるのでこちらの復刊を希望したい。


鉄路のオベリスト   5.5点

1934年 出版
2017年08月 論創社 論創海外ミステリ192

<内容>
「鉄路のオベリスト」
 大陸横断鉄道に乗って共に旅行をすることとなったマイケル・ロード警部補と心理学者のポンズ博士。その列車には、インタナショナル都市銀行頭取のサボット・ホッジスが乗り合わせていた。するとその旅行中、サボットが列車のなかにあるプールで死亡しているのが発見される。どうやら事故死であるようなのだが、ロードのみはその結果に納得がいかず、密かに検視官を呼び寄せ、秘密裏に事件の捜査にあたる。ロードは事件を殺人とみなし、単独で真犯人を探り出そうとするのであったが・・・・・・

「オーム教奇譚」 ミルトン・オザーキ
「夢果てぬ」 レオナード・ロスボロー
「茶色の男」 C・G・ホッヂス
「二重殺人事件」 R・カールトン

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<感想>
 タイトルはC・デイリー・キングの「鉄路のオベリスト」であるが、“鮎川哲也翻訳セレクション”という位置づけになっているので、他に鮎川氏が訳した4つの短編も含まれた構成になっている。ただ、それらの短編はあくまでもおまけ的な感じに思えたので、とりあえずデイリー・キングの作品一覧のところにこの感想を置いておくこととした。

 読んでみて思ったのは、これはなかなか翻訳が大変であったのではないかという事。ただ単にミステリ的な展開が行われているだけではなく、そこここで、心理学に関する話や、経済情勢に関する話など、色々な話が挿入されている。読んでいる方にとってはそうでなくても訳する方にとっては難解な作品であったのではないかと。

 そして本書の内容についてであるが、上記に書いたような様々な事柄がミステリとうまく組み合わさっていれば問題はないのだが、それらが決してうまく組み合わさっているとはいえないので、冗長な作品という印象が強い。基本的には、しっかりとミステリ的な展開がなされているものの、どこか薄っぺらいような作品とも感じずにはいられなかった。

 一応、ミステリとしての見どころはあり、仮の推理がなされて、それが証言により否定され、ということを繰り返しながら徐々に真相へと肉薄していく。最終的には、探偵役の者が真相へとたどり着くのだが、あまり腑に落ちた感もないまま終わってしまうという感じ(例によって著者は“手がかり索引”によって補完はしているが)。まぁ、大陸横断列車という変わった現場で起きた事件ということ自体が十分見所であるかなと。


 その他、色々な著者によって書かれた4編の作品が掲載されているがどれも同じような感じの作品。それぞれ内容は全く異なるのだが、冒険小説とハードボイルドとサスペンスとスパイ小説のそれぞれの要素を合わせたごった煮のような作風というところはどれも共通している。ただ、それぞれが荒い構成であり、あまり印象には残らない。いわゆるB級作品というような評価が似合うようなものばかりであった。


空のオベリスト   6点

1935年 出版
1997年12月 国書刊行会 世界探偵小説全集21

<内容>
「4月13日正午、おまえは死ぬ」 国務長官の緊急手術に向かう著名な外科医カッター博士に送りつけられた不気味な犯行予告。ニューヨーク市警の敏腕刑事ロード警部は、あらゆる事態を想定して護衛にあたったが、ニューヨークを飛び立って数時間後、その目の前で博士は倒れる。空の密室ともいうべき飛行機の中で果たして何が起きたのか!? 必死に捜査するロード警部であったが・・・・・・

詳 細
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<感想>
 感想を書いていなかったので久々に再読。内容を覚えていると思っていたのだが、カーター・ディクスンの「一角獣殺人事件」とやや混同しており、きちんと内容を把握していなかった。一部、ちゃんと覚えていたところもあったのだが、結末に関しては初読といってよいほど新鮮に読むことができた。

 予告殺人から、飛行機のなかでの護衛、目的地へ着くまでの間に度重なる飛行機の乗り換えと目まぐるしく場面は移り変わる。ただ、ロード警部の必死の護衛にも関わらず、悲劇は起きてしまう。そこから今度はロード警部の必死の捜査が始まる。

 ミステリとしては、アリバイ崩しのような様相。海外ミステリで、ここまでアリバイにこだわる作品というのも少ない気がする。細かくアリバイを検証していく中で、ちょっとしたヒントからロード警部が真相へとたどり着くこととなる。終わりよければすべてよし、という気もするのだが、アリバイ調査に関しては若干くどさも見受けられる。

 ただ、自分がうろ覚えであったのは、エピローグで明らかとなる事件の裏側について。これに関しては、フェア、アンフェアというよりも著者なりの凝りようが垣間見えるといったほうがよいかもしれない。最後に“手がかり索引”というものを挿入しているところにも、著者の力の入れようがうかがえる。一粒で二度おいしい、というのも表現がおかしい気がするが、見どころ満載のミステリ作品と言っておきたい。


タラント氏の事件簿

1935年 出版
2000年04月 新樹社 単行本

<内容>
 「古写本の呪い」
 「現われる幽霊」
 「釘と鎮魂曲」
 「第四の拷問」
 「首無しの恐怖」
 「消えた竪琴」
 「三つ眼が通る」
 「最後の取引」

詳 細

<感想>
 怪奇に彩られた本格推理短編集。不可能事件をテーマにして集められた短編集であるが、事件自体の不可能性と怪奇が見事に融合して傑作となっている。なかでも「現れる幽霊」は不気味な人里離れた一軒屋で起こる怪事件という、怪奇的なあじわいを出しながら見事なトリックを用いて本格物としても成功している。また怪奇色が強いものとしては「第四の拷問」をあげたい。。謎解きとしても<メアリ・セレスト号>の事件がとりあげられ、興味深い謎が提示される。そしてラストにおける怪奇シーンは読むものを肌寒くさせる。(かなり生理的嫌悪感をもよおす)まさに、昔のホラー映画の一場面としての想像が容易なシーンといえよう。


タラント氏の事件簿【完全版】   6.5点

2018年01月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 「古写本の呪い」
 「現れる幽霊」
 「釘と鎮魂曲」
 「〈第四の拷問〉」
 「首無しの恐怖」
 「消えた竪琴」
 「三つ眼が通る」
 「最後の取引」

 「消えたスター」
 「邪悪な発明家」
 「危険なタリスマン」
 「フィッシュストーリー」

<感想>
 2000年に新樹社より刊行された「タラント氏の事件簿」の完全版。未訳作品4作が付け加えられている。

 改めて読んでみると、意外と本格ミステリしているなと感嘆させられる。ただ、そこに用いられるトリックと、物語の背景があまりマッチしていないせいか、どの作品も希薄に感じられてしまう。唯一物語の背景がしっかりと語られている一番長い短編作品「消えた竪琴」は、こちらはトリックがやや薄い。そんな理由で、印象に残る作品が少ないのがもったいないところ。ゆえに、タイトルといい内容といい、一番のインパクトを持つ「<第四の拷問>」のみが記憶に残り続けることとなる。

 あと、後半の作品がやや超自然的なミステリとなってしまったところも、微妙な感触。「最後の取引」あたりは、ホームズを意識した幕の閉じ方というような気がするが、こちらはあまりうまくいっていないという印象ばかりが残るような。

 新しく掲載された作品では「消えたスター」が面白かったかなと。ラジオで事件を聴き、電話のみで情報を得て、事件を解決してゆくスタイルが見所。さらには、事件の真相もなかなかのもの。

 あと、この4作品のうち、「最後の取引」以後に起きた事件が語られているものもあるのだが、あまり空白の7年間の意味がなかったかのような・・・・・・


いい加減な遺骸   5点

1937年 出版
2015年02月 論創社 論創海外ミステリ141

<内容>
「空のオベリスト」の事件での功績が認められ、昇進することとなったマイケル・ロード警視。しかし、実際にはロードは大した活躍はしておらず、失敗と言っても過言ではないほど。そのことに悩みロードはポンズ博士に相談を持ち掛ける。すると、ポンズ博士から億万長者のノーマン・トリートのハウスパーティーに呼ばれているので、気晴らしに一緒に出掛けないかと誘われる。ロードは、ハドソン川に浮かぶトリートの大邸宅へと行くこととなったのだが、そこで連続毒殺事件に遭遇することに! 一癖ある芸術家たちが集まる中で、現地の検察局の検事や刑事らと共に、ロードの必至の捜査が行われる。

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<感想>
“オベリスト”三部作で有名なC・デイリー・キングの初邦訳の作品という事で期待して読んだのだが、これはかなりの期待外れ。

 毒殺事件が起き、その捜査がなされ、さらなる毒殺事件が起きと、それなりにスピーディーな展開で繰り広げられる。ただ、その毒殺パターンが一様であって、多様なものではなく、ひとつの謎を解くことができれば、他のものも解けてしまうというようなもの。さらに付け加えれば、なんとなく想像がついてしまう程度のトリック。

 また、さらに気になったのは、捜査に直接関係のないような挿話が多かったかなと。なんとなく、本格ミステリっぽいようでありながら、その密度が薄くなってしまっていると。書きようによっては、十分にミステリ色を濃く出来そうな内容ではあったのだが。

 この作品、キングの作品のなかでは、“ABC三部作”と言われるものの第一弾のようである。あとがきを読むと、やはり本書はキングのなかでは失敗作という位置づけのよう。なおかつ、この後の“ABC三部作”の2作目、3作目は優れているとのことなので、そちらを期待して待ちたいと思っている。2015年一番の残念作!? となりそうな作品。


厚かましいアリバイ   6点

1938年 出版
2016年04月 論創社 論創海外ミステリ169

<内容>
 度重なる事件に嫌気がさしつつ、憩いの場を求めて旅するロード警視とポンズ博士。その二人がまた殺人事件に巻き込まれる。資産家の館でコンサートが行われたときに起きた殺人事件。当主が、館の中にある特殊なエジプトの短剣にて刺殺された。事件に関わっている者たちには、それぞれアリバイがあり、犯行を行うことができそうな者を特定することができない。ロード警視が苦心して捜査をする中、彼が館にいるときにさらなる事件が起き・・・・・・

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<感想>
 素晴らしく良い出来、というほどではないのだが、興味を惹くミステリ作品として仕立て上げられている。一応は、アリバイトリック作品ということではあるのだが、一番興味深いのは館の見取り図。いかにもいわくありげな複雑な構造をしており、犯人がどのようにして犯行を行ったのか? 想像しつつ捜査の行方を見守ることとなる。

 舞台となる地域における政治的な内容や、旧当主の趣味で今でも館に置かれているエジプトからもたらされた古美術品の数々、その美術品について議論を交わしながら研究を続ける二人の学者、そして殺された当主にまつわる噂の数々。色々な背景が織りなす中で、どのような動機において、そしてどのような方法で殺人が行われたのかをロード警視らが捜査をしつつ推理を進めてゆく。

 ちょっと微妙とか、ちょこっと足りないとか感じられる点は多々あった。そうしたなかで、最終的に犯人を指摘する決め手がやや薄く感じられたのが一番の欠点か。それでも全体的には古典本格ミステリとしてそれなりに楽しめる内容であった。個人的には図面までが挿入されている館をもっと活用してもらいたかったところであるが。


間に合わせの埋葬   5点

1940年 出版
2018年03月 論創社 論創海外ミステリ207

<内容>
 富豪であるサディアス・スティールの孫・クロエを誘拐するという趣旨の脅迫状が届けられた。クロエはスティールの娘の子であるのだが、その娘は交通事故で亡くなり、クロエと娘婿ダンスカークが残された。そしてその脅迫状の主はダンスカークではないかという疑いも捨てきれないものとなっている。そうしたなか、スティールは孫をニューヨークから離れた安全な場所と思われるバミューダ諸島へと送ることとした。そして、万が一のためにニューヨーク市警の警視であるマイケル・ロードが同行することに。脅迫犯は本当に誘拐事件を起こすのか!?

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<感想>
 デイリー・キングによる“ABC三部作”の最後の作品・・・・・・であるのだが、出来はいまいちというしか。

“ABC三部作”というと、「いい加減な遺骸」はいまいちで、「厚かましいアリバイ」で盛り返したが、この「間に合わせの埋葬」でまた微妙なところへ戻って行ってしまったという感触。

 とっかかりは、誘拐事件が起こるかもしれないというところから始まるのだが、そこから次に事件が起きるまでが長い。全体の半分くらいまできてようやく事件が起きることになる。なにしろ最初は船での移動から始まり、そこで何かが起こるのでは!? と思いながら読んでいたら、何も起こらずに現地に到着してしまうという展開。

 旅の行き先であり、舞台となるのはバミューダ諸島。その土地では、死亡した人物に対し、次の日没までに必ず埋葬しなくてはならなく、しかも一度埋葬されれば、1年経つまで掘り起こしてはならないというしきたりがある。これがタイトルにもかかっているようで、なかなか面白い味を出しているものの、結局のところこの設定も生かしきれずに終わってしまっている。

 いつもながらのロードの相棒であるポンズ博士があまり登場せず、全体的に冒険もののような印象の作品。今までのデイリー・キングのミステリに対するこだわりはどこへいったのやらと思わずにはいられなくなってしまう。




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