F. W. Crofts 作品別 内容・感想

樽   8点

1920年 出版
1965年12月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 ロンドンの波止場では汽船の積荷おろしが始まった。ところが、四個の樽がつり索からはずれ、樽の一つからは、ぶどう酒のかわりに、金貨と死人の手があらわれた! 色めきたった船会社は警察へ連絡したが、捜査陣の到着前に問題の樽は紛失し、謎はいよいよ深まっていく。発送元はパリの美術商だった。捜査の手はドーヴァー海峡をはさんで英仏両国にまたがり、消えうせた樽の行方を追ってロンドン警視庁の精力的な活動が始まる。
 緻密で冷酷な犯人の完璧なアリバイをいかにしてくつがえすか! アリバイ捜査の醍醐味を描くクロフツの代表作。

<感想>
 おそろしく地味という印象をもたれる本書であるが、その内容はなかなかの精密なできである。ストーリーだけとると、現われては消えを繰り返す樽の行方を追い、そして樽の中から死体を確認する。死体の身元を調べ、被害者にまつわる人物を探り、犯行可能と思われる人物を探り出す。といった行動が早い展開で繰り広げられる。にもかかわらず、地味であるというところが否めないのがこの作家にまつわる作風であろうか。すべての展開が華々しい論理や推理ではなく、あくまでも警察による実地捜査。その捜査の連続。これでは地味であるとしか言いようがないのは確かである。

 しかしながらもその中の、樽の移動におけるすり替えのトリックとそのすり替え時におけるアリバイトリックは逸品であることは間違いない。よくよく読んでみれば、古典推理小説のベスト10常連であるということにもうなずける重厚な内容になっている。ただし、ラストの崩壊ぶりはいかがなものかなとも思えるのだが・・・・・・

 この地味ということで有名な作品。しかしながら、これは地味であるからここまで評価されるものなのか? 他の作家が華々しい推理を駆使する探偵によった作品であるならばまた変わったものになったのだろうか? さていかに・・・・・・


ポンスン事件   7点

1921年 出版
1969年12月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 ポンスン卿は夕食の後、誰にも何も告げることなく突然姿を消してしまった。心配した使用人たちが行方を捜したところ、次の日の朝、屋敷の外の川から死体となって発見された。警察は連絡を受け、その状況から殺人事件として捜査を始めることに。
 動機の面から容疑者として挙がったのは二人の人物。ポンスン卿の息子と甥。その二人ともアリバイはあるのだが、それぞれが何らかの工作をしたような不自然な点が見つけられる。そして犯人が絞り込まれようとしたとき、さらなる第三の容疑者の姿が・・・・・・

<感想>
 確かに地味ではあるのだが、かなりの完成度に仕上がっている作品だと感心してしまった。この作品はクロフツの代表作といわれている「樽」と比べても遜色ないできなのではないかと感じられた。

 ただ、だからと言って本書が誰にでも受け入れられる作品であるかといえばそういうわけでもない。やはりなんといってもこの作品は地味である。解説でも言及していたのだが、本書は序盤に全ての謎が出揃って、さぁ推理をしてくださいというようなミステリではない。あくまでもこれは警察小説であり、刑事がひとつひとつ証拠をたどって検証し、そこから新たな事実を発見し、というように地道な捜査の流れによって最終的に真相へと到達するというものなのである。ゆえに、論理的な本格推理小説を望むという人にとっては合わないものなのかもしれない。

 しかし、本書にて圧巻なのはその地道な捜査の様相なのである。タナーという名の警部が主人公なのだが、何か手がかりがあると必ずそこで事細かく検証するのである。それは決して、ちょっとした証拠から犯人を安易に結論付けたりせずに、その裏側までを必ず検証しつくしてから始めて結論を出すという念のいれようなのである。その真犯人の元へと徐々に肉薄していく様こそが本書の醍醐味なのである。

 さらに本書はそれだけではなく、後半はストーリー的にもひねりを入れたものとなっている。物語の序盤では動機を持つ容疑者たる者が2人登場するのだが、それが後半になってもう1人の容疑者が現れ、それによって話が二転三転するというなかなかトリッキーな展開が繰り広げられている。

 最終的な結末に関しては、またその真相が明らかにされる方法等については賛否両論あると思うのだが、全体的に見て本書はこだわりぬかれた最高の警察小説であるといえよう。落ち着いた環境の中でじっくりと味わいながら読んでもらいたい一冊である。


製材所の秘密   6点

1922年 出版
1979年02月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 ロンドンのワイン商であるシーモア・メリマンは旅行中、オートバイの故障に見舞われる。ガソリンを分けてもらうと、通りかかったトラックを追いかけ、製材所へとたどり着く。その製材所でメリマンはマデリーン・コバーンという女性と出会い、ガソリンを分けてもらう。マデリーンに心惹かれたメリマンであったが、そのマデリーンや製材所の人々の様子がどこかおかしいことに気付く。また、彼が見かけたトラックのナンバープレートが付け替えられていることにも気がついた。後ろ髪をひかれる思いで製材所を後にしたメリマンであったが、後日、そこでの出来事を友人で関税局職員のヒラードに打ち明ける。すると、ヒラードはその製材所で、何か違法なことが行われているのではないかとメリマンに告げる。二人は、無理やり休暇をとって製材所の様子を探ろうとするのであったが・・・・・・

<感想>
 クロフツ初期のノン・シリーズ作品。この作品は、警察ものというよりは、冒険もののように感じられた。ただ、手に汗握る冒険ものというわけではなく、そこはクロフツらしい、地道で精密な冒険ものが展開されてゆく。

 主人公のメリマンが、トラックのナンバープレートの付け替えを目撃したことから、密輸が行われているのではないかとの疑念を抱く。そこから関税局で働く友人と共に、密輸が行われている証拠を入手しようと計画を練り、偵察を試みる。

 偵察を考えるところまではいいのだが、そこからは非常に地味。まず、密輸が行われている可能性を考え、見張りをする。怪しげな振る舞いはあるものの、具体的な証拠はつかめない。次に別の方法で探ってみる。また、証拠はつかめない。さらに別な方法で・・・・・・というように、具体的な証拠がつかめない様子を綿密に語り続けてゆく。警察捜査ならまだしも、このような作風なら、もっと派手にしてもいいのではないかと思うのだが、そこに緻密な検証を入れてしまうのがクロフツらしさ。

 後半では警察が介入し、いつもながらの警察小説のような様相で展開してゆくこととなる。それでも、最後の最後まで地味すぎる。クロフツ作品ゆえに、このような展開で物語が進んでいくというのはわかってはいるものの、もうちょっと波乱万丈なところがほしかった。ただ、実際の密輸組織はこのくらい慎重に事を進めていたのだろうと感じさせられるところはある。


フローテ公園の殺人   6.5点

1923年 出版
1975年09月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 南アフリカ連邦、フローテ公園そばの列車のトンネルのなかで、列車にひかれた死体が発見された。当初は事故死かと思われたが、調べてみると別の場所で殺害された後に、線路に置かれたことが明らかとなる。ミッデルドルプ市警ファンダム警部は被害者の身元を調べ、容疑者の洗い出しにかかる。被害者はあまり評判のよくない人物で、生前トラブルを起こしていた。そのなかで、被害者と同じ会社で働いているスチュアート・クローリイが容疑者としてあげられる。ファンダム警部は、事件当日クローリイが被害者を呼び出した証拠を入手し、クローリイの逮捕に踏み切る。そして、裁判が行われることとなるのだが・・・・・・

<感想>
 クロフツのノン・シリーズ作品。フレンチ警部は出ないのだが、これがまた見どころの多い作品となっており、クロフツ作品の中でも隠れざる名作と言ってよいほどの内容。

 本書は2部構成となっており、なかなかの壮大な犯罪劇が描かれたものとなっている。最初は、フローテ公園で起きた殺人事件の調査が行われ、容疑者の洗い出しがなされる。警察の執拗な調査によって、徐々に事件当日の出来事が明らかとなり、容疑者らしきものがあぶりだされてくる。そして、場面は裁判へと移り変わる。この事件の公判の様子が描かれているというのも、本書の特徴の一つと言えよう。

 クロフツ作品と言えば、警察官が主人公となって地道な捜査が行われるというのが基本的な流れ。ただ、この作品ではヒロインといってもよい女性が登場し、物語に大きな影響を与えるようになっている。基本的には警察捜査が主体であり、ヒロインの活躍自体は少ないのだが、それでもいつもの流れとは異なる、ちょっと変わったクロフツ作品に触れることができる。

 そして後半、物語は一変し、異なる場所で新たな事件を垣間見ることとなる。といいつつも、主となる人物はそのままで、以前のフローテ公園の事件を引きずりつつ、新たな展開へと流れてゆくのである。そして、徐々に事件全体をあやつっていた真の黒幕の正体が明るみに出てくるのである。

 クロフツの作調により地味に見えるものの、実はかなり劇的な作品と言えるのではなかろうか。緻密な犯罪の影に最後の最後まで隠された、大味なトリックが炸裂するというなかなかの味わい。これはクロフツの印象を変える作品といってもよいほどのものではなかろうか。


フレンチ警部最大の事件   6点

1925年 出版
1975年06月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 宝石商の事務所で老齢で実直な支配人が殺害されているのが発見される。しかも事務所の金庫からは高価な宝石が盗まれるという始末。ロンドン警視庁から派遣されたフレンチ警部は、事件の背景を調べ始める。しかし手がかりはなく、捜査は行き詰まりを見せることに。そうしたなか、宝石を売りつけに来た謎の女の存在が浮き彫りとなり・・・・・・

<感想>
 タイトルを見て、何がフレンチ警部“最大の事件”なのだろうと疑問に思っていたのだが、なんとこれがクロフツ作品5作目でフレンチ警部初登場となる作品であった。たぶん著者の考えでは特にフレンチ警部をシリーズキャラクターとして扱う気はなく、あくまでもノン・シリーズ作品の1冊という扱いでしかなかったゆえに、このようなタイトルになったのではないかと思われる。しかし、結局その後はレギュラーキャラクターと相成ったフレンチ警部が初めて世に出た作品。2018年復刊フェアで購入。

 シリーズ化を考えてなかったからかもしれないが、この作品では何気にフレンチ夫人の存在感が強い。2回ほどしか出て来てはいないのだが、そこでクロフツ警部に事件のヒントとなる助言を行っている。その後もフレンチ夫人はシリーズに登場してはいるものの、本書が一番夫人が活躍しているのではないかと感じられた。

 この作品ではフレンチ警部が殺人及び宝石盗難を働いた犯人を捜査し、追う内容となっている。従来のアリバイものと異なり、犯人の正体は最後の最後までわからず、ひたすらフレンチ警部が手がかりを捜し、犯人の存在をあぶり出そうと奔走する。物語の途中で謎の女の存在が浮き彫りにされ、そこからはその女の行方をひたすら追ってゆくこととなる。

 推理小説を読み慣れている方であれば、中盤くらいで犯人の正体がわかってしまうのではなかろうか。ある意味真相がわかりやすい作品になっていると言えよう。それゆえか、ミステリとか警察ものという感じがやや希薄で、しかもアリバイものでもないということから、なんとなく“冒険もの”めいた感覚で読んでいた。“フレンチ警部最大の事件”という大捕物を楽しむ内容の作品という感じ。


フレンチ警部とチェインの謎   5点

1926年 出版
1971年03月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 マクスウェル・チェインは奇妙な出来事に遭遇する。編集者と名乗って近づいてきた男に睡眠薬を飲まされ、眠らされた隙に身辺を探られ、屋敷までもが探られることとなる。しかし、彼自身や屋敷からは何も盗み出されていなかったのである! 次にチェインは、発明家を名乗って近づいてきた男により監禁され、そこで彼らが何を狙っていたのかが明らかになる。とある書簡を手放すこととなったチェインは、警察には通報せず、自分の手で彼を罠にはめた者たちの正体を暴きだそうとする。そしてチェインは追跡を続けていくのだが、のっぴきならない破目に陥り、ロンドン警視庁を訪れ、フレンチ警部に相談することとなり・・・・・・

<感想>
 今作は推理小説とか、警察小説というよりは冒険譚という内容。タイトルにある“チェイン”とは、人の名前で、このチェイン氏が遭遇する冒険譚が描かれた作品。

 前半は、チェイン氏が遭遇する不可解な事件と、そこから派生する冒険が描かれる。そこでチェイン氏は、ちょっとした犯罪組織(というほどのものでもないのだが)と関わることとなり、とある書簡の争奪戦が行われることとなる。

 後半はフレンチ警部が登場し、その犯罪組織の行方を追うこととなる。今作ではフレンチ警部が登場するものの、すでに犯罪者たちの顔もわれており、行為についてもほぼ明らかとなっているので、“追跡”のみがフレンチ警部の仕事となる。

 今回は本当にただの冒険譚というものであった。フレンチ警部の仕事も追跡のみとなるので、あまり見どころがない内容となっている。まぁ、ある種の壮大な宝探しが行われているので、それがメインと言えばメインなのだろう。従来のクロフツ作品と比べると、やや見劣りしてしまうような作品。


スターヴェルの悲劇   7点

1927年 出版
1987年09月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 スターヴェル屋敷の当主サイモン・エイヴァリルは資産家であるにもかかわらず、けちで有名な男であった。一緒に暮らす姪のルースはその暮らしにうんざりしながらも、耐えて生活を送っていた。そんなある日、ルースはサイモンから気晴らしに旅行へ行くようにと勧められることに。これはけちな叔父にしてはありえないような行動だったが、気晴らしをしたかったルースは喜んで知人の夫人の元へと訪ねていく事に。
 そしてルースがいない間に事件は起こる。スターヴェル屋敷が焼失し、サイモンと使用人のふたりが焼け跡から焼死体となって発見される事に! さらにはサイモンが生前、金庫に溜め込んでいたはずの金のほとんどが亡くなっていたのだ。不審に思った銀行支配人の発言から、ロンドン警視庁のフレンチ警部が捜査に乗り出すことに。

<感想>
 いや、この作品もなかなか面白かった。クロフツの作品というとどうしても“アリバイ”というものが頭に浮かぶのだが、決してそういう作品だけを書いていたわけではないということが本書を読んで理解できた。クロフツはストーリー・テーラーとしての能力も優れていたといえよう。

 事件は屋敷が焼かれて3人が死傷するというところから始まり、ある人物が事故ではなく事件性を感じた事からフレンチが捜査をする事になるというもの。最初はそれを事件と呼ぶのにも、あまりにもとりとめのないところから始めてゆかなければならないのだが、フレンチが地道な捜査を重ねる事によって、少しずつ新たな証拠が明らかになってゆく。

 この辺の捜査の流れは見物ではあるのだが、確かに地味でもあるということも否めない。この辺がクロフツ作品にたいして好き嫌いがでるところなのであろう。本書は、全体的な流れから言えばアクロバティック的とも言えなくはないのだが、そのひとつひとつの捜査過程がどうしても地味に感じられ、総体的に見てみると地味な作風ということになってしまう。この辺は、主人公たるフレンチの人柄がもたらすものだと言えるのであるが、その地味な捜査の中にも見るべきところは多々あるので、クロフツ作品を敬遠している人も、一度じっくりとかみしめながら読んでもらいたいところである。

 この作品で面白いと思われたのはラストにおけるフレンチの推理。地道な捜査をずっと続けてきたフレンチが決断を下した推理というのは、かなりアクロバティックなものとなっている。そしてそのアクロバティックな見解を出したが故にフレンチ自身に思わぬ結末が待ち構えているのである。

 と、地味な捜査を逆手に取ったかのような結末も見逃せない作品。手に入るうちに是非とも読んでおいてもらいたい名作である。


フレンチ警部と紫色の鎌   5.5点

1929年 出版
1972年07月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 映画館で切符売りをしているという女性、カーザ・ダークがフレンチ警部のもとを訪れる。ダーク譲が言うには、賭け事で借金を作ったあげく、その怪しげな相手からつけ狙われることになったという。しかも最近、事故死という扱いで亡くなったアイリーン・タッカーという女性のことをダーク譲は知っており、アイリーンはダーク譲と同じ境遇のなかで、殺害されたというのである。語られた事件の陰に怪しき者の存在を感じ、フレンチは捜査を行おうとした矢先、彼を訪ねてきたダーク譲が死体で発見されることとなる。数少ない事実から、フレンチは犯罪グループの正体を暴くべく、執念の捜査を開始する。

<感想>
 読み始めた時には、フレンチ警部シリーズとしては異色と感じたので、後期の作品なのかと思ったが、意外にも前期に書かれた作品。通常の本格推理小説風の話とは違い、犯人グループの正体を追っていくというサスペンス風の内容。

 フレンチが追うこととなるのは、何故か映画館で切符売りをしている女性ばかりを狙った犯罪。その女性たちを賭博に誘い、借金を負わせ、借金の肩代わりに犯罪の片棒をかつがせるというもの。ただし、その核となる犯罪自体が表に見えてこず、犯人らはどのような目論見があって、このような危険な行為を行っているのか、ということが物語の焦点となっている。

 また、今作ではフレンチ夫人が活躍していることも特徴のひとつ。犯罪捜査が思うようにいかない夫の泣き言を聞き、次の捜査の一手をフレンチに指示するところなど、なんとも微笑ましい。というよりも、夫人の方が名探偵の素質があるのかもしれない。

 シリーズとしては異色というところもあってか、従来のものと比べるとやや不満が残る作品であった。犯行グループの行った犯罪というのも、どのくらい儲けが出ているものなのか、ややわかりづらいというところもマイナス点。最後に被害者たる一人の女性が活躍する様が目立ったが、いっそうのことフレンチよりもそちらを主人公とした方が面白くなったかもしれない。


マギル卿最後の旅   7点

1930年 出版
1974年05月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 ロンドンに住むマギル卿は北アイルランドのベスファルトに住む息子の元へ行くと出かけたまま行方がわからなくなっていた。なんでもマギル卿は彼がかねてから発明を続けていたという新しい繊維の設計図の売り手と合うために北アイルランドへ出向いたようなのである。警察がマギル卿の足取りを追ってみたものの、途中からその行方はつかめなくなり捜査は難航する。ベスファルトの警察は事件に隠された重要な点はイギリス本土にあると考え、ロンドン警視庁の力を借りることに。その捜査に乗り出したフレンチ警部はベスファルトの警察官と共にマギル卿の行方を捜すのであったが・・・・・・

<感想>
 マギル卿という人物が行方不明になり、警察がその足取りを追うという捜査が行われる。最初は事件なのかどうかもわからないところから始まってゆくので漠然としたところもあるのだが、事件性がはっきりと確かめられてからは俄然捜査に弾みがついて行く。

 この物語では舞台がロンドンと北アイルランドと海をはさんだ地域全体に広がっており、列車や舟などを利用してフレンチ警部がところせましとあちらこちらへと駆け巡ることとなる。

 事件性が見えてからは、意外と容疑者たりうる人物の数が多い事が明らかになる。しかし、それらの人物のだれもが怪しいにも関わらず、皆が皆中途半端なアリバイを持っていて犯人と特定する事ができない。そこでフレンチは視点を変えて捜査に乗り出してゆく。

 犯人の正体は途中でだいたい明らかになり、あとはどのように犯行が行われたのかを暴いてゆくという展開となってゆく。ただし、その犯行の状況がかなり複雑な道筋、複雑な手順のものとなっており、容易にその全貌は明らかにならない。故に、それが全てあらわになったときには、犯罪が行われた手順の細かさに驚かされることとなる。

 本書はクロフツ作品ゆえに、登場人物それぞれにあまり特徴はなく、捜査が地味だと感じてしまう欠点はあるのだが、作品全体を見渡してみればなかなかアクロバティックなことが行われているのがわかる。本書ではそれぞれ別の地点で行われた細かい手順を組み合わせて全体像を見つけていくという捜査の楽しさが見出せる作品となっている。単なるアリバイ崩しというだけでなく、ある種のパズラー的要素も組み合わされたミステリといえるのではないだろうか。


英仏海峡の謎   6点

1931年 出版
1960年12月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 英仏海峡を航行中の汽船が不審なヨットを発見する。汽船の乗組員がヨットに乗船して調べてみると、二人の死体と、惨劇を物語るかのような多量の血を発見することとなる。すぐに警察による捜査が行われ、死んでいた二人はモクスン証券の社長と副社長であることが判明する。モクスン証券は、巷で先行きが怪しいのではという噂が飛び交っていたのだが、実際に破産の瀬戸際に立たされている状態であった。しかも会社の金庫にあるはずの150万ポンドが消え失せていた! このことから会社の重役たちが金を持って逃げようとしたところ、仲間割れが起きたのではないかと考えられた。現に二人の重役が現在行方不明となっていた。フレンチ警部はイギリスとフランスを行き来しながら事件を調査していくのであったが・・・・・・

<感想>
 事件の始まりはなかなか派手であるのだが、それから捜査へと続いてゆく展開はまことに地味である。これぞクロフツの真骨頂ともいうべき作品。

 とにかく捜査が細かい。船のスピードがどれくらいで、A地点からB地点まではどのくらいの時間で到着するかといった事柄は普通の小説ならば1、2ページくらいで終わらせそうなものを、この作品ではフレンチ自らが船に乗船し、実証して見せる様子が事細かに描かれている。容疑者が無罪であるということの実証までも、とにかく事細かに検証してみせたりと、こういったところがクロフツ作品の好みが分かれるところではないだろうか。

 全体的に地味なだけの作品かと思いきや、見せ場は最後の最後できちんと盛り込まれている。フレンチが一つの証拠から犯人とその犯行方法を暴き、大格闘の末犯人を捕らえることとなる。地道な捜査が続けられていたわりには、犯人を逮捕する際はギャンブルのような一か八かの方法が使われているのはどうかと思えなくもない。とはいえ、それが物語を損ねるということは決してなく、最後にフレンチ警部の捜査の苦労が報われたということで良しとしたい。


二つの密室   6点

1932年 出版
1961年08月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 アン・デイは職を失い、日々の生活に困っていた。そうしたなか職を探していると、幸運にも住み込みの家政婦の仕事にありつき、フレイル荘にてグリンズミード家に仕えることとなった。そこでの仕事と生活は満足のいくものであったが、ただ、体調を崩しているグリンズミード家の夫人・シビルが始終何かに脅えている様子に、アンは不穏なものを感じていた。アンがその夫人と打ち解けつつある中、夫人が閉ざされた部屋のなかでガス中毒により死亡しているのが発見される。自殺と思われた事件であったが、スコットランドヤードからフレンチ警部が乗り出してくることとなり・・・・・・

<感想>
 クロフツ作品にて“密室”が取り上げられるというのも珍しいのではないだろうか。しかも後期の作品ではなく、著者の脂の乗り切った前期に書かれた作品だというから驚きである。

 中身を読んで驚かされるのが、意外としっかりとした密室が描かれていること。ただ単に密室になってしまいました、というようなものではなく、しっかりと関係者に自殺と思わせるような密室が構築されている。

 探偵役としてはシリーズキャラクターであるフレンチ警部が登場し、いつも通りのしっかりとした検証が行われることとなる。地道な捜査を行い、その密室の現場から、自殺に対する矛盾点を見つけ出し、密室構築におけるメカニズムを追及してゆく。この作品の焦点は、密室をどのようにして作ったのかということよりも、その密室の中で犯人が残した証拠・ミス・矛盾点といったものをいかに見つけるかというところだと思われる。

 ここで起きる事件、動機の面で行くと、容疑のある者がいなくなるような・・・・・・と思っていたら、意外なところから容疑者が浮かび上がることに。ただ、主要人物が少ない故に、なんとなく後半になれば想像できなくもないのであるが。

“密室”が取り上げられているわりには、派手な事件にならずに、いかにもクロフツらしい地道な作品となっているところは、むしろさすがと言った方がよいくらい。警察小説というよりも、鑑識小説というような内容。しかもその鑑識をフレンチ警部が単独でやってしまっているところが何とも言えないものがある。


死の鉄路   6点

1932年 出版
1983年11月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 鉄道工事が行われている現場で、機関車が人を轢いてしまう。轢かれたのは工事関係者の鉄道技師であった。事故ともとれる状況であったのだが、不可解な目撃証言により、殺人事件との疑いがもたれることに。フレンチ警部が捜査に乗り出すものの、事件の手掛かりを全くつかむ事の出来ない状況の中で、第二の事件が起きてしまう。フレンチ警部はやがて鉄道工事に関わる大掛かりな詐欺事件を目の当たりにする事に・・・・・・

<感想>
「死の鉄路」というタイトルからして、元々鉄道技師であった著者らしい作品だと思われた。内容を読むと、さらにこれは鉄道技師が描いた作品という描写が多々あり、クロフツのこだわりがうかがわれる作品ということがよくわかる。ただし、あまりにも工事者らしいマニアックな描写が多すぎるというようにも思われた。

 本書はずばり、フェアかアンフェアかの分岐点に立つ作品と言ってよいのではないかと思われる。通常、クロフツが描く作品はアリバイ崩しものが多いので、途中である程度犯人が絞られる事が多いのだが、今回は怪しいと思われる人物が次々と死んで行き、あまり怪しそうもない人物達ばかりが残されることとなる。そういった中で、最終的に思いもよらない人物がフレンチ警部による告発を受ける事となる。

 犯人が指摘されたときには、なるほどと思いつつも、ちょっとアンフェア気味ではないかなとも感じられてしまった。だからといって、全くの反則であるとも言えないので、その点はやや考えさせられるところである。ただ、クロフツがこういった問題作的な作品を書いているとは思いもよらなかったので、そういった部分に驚かされた。

 背景や情景描写はクロフツらしい作品でありながら、ミステリとしてはクロフツらしからぬ作品という異色作。これはクロフツ・ファンもミステリ・ファンも見逃せない一冊であると言えよう。


ホッグズ・バックの怪事件   7点

1933年 出版
1983年05月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 イングランド南部の町で引退した医師が突如、自宅から失踪した。妻がちょっと目を話した隙にいなくなったのだという。元々、この夫婦の仲は冷えきっており、夫が逃げ出したのではないかとも考えられたのだが、それにしては自宅から金も衣類もいっさい無くなっていなかった。しかし、この医師が失踪前に看護婦と密会していたということが調査によりわかり、駆け落ちしたのではないかという見かたも強まる事に・・・・・・。フレンチ警部は必死の捜査により、失踪した医師の足取りを追う。

<感想>
 この作品も、なかなかレベルの高い内容に仕上げられていた。最初、医師が失踪したというところから始まり、その行方をフレンチ警部が探っていくという内容。通常であれば、自発的な失踪なのか、他人の手による拉致なのかということはすぐにはっきりしそうなのだが、両方の可能性を残し、簡単にはどちらかに絞らせない構成が心憎い。フレンチ警部は両方の可能性を考慮しながら、非常に地道な捜査でわずかな証拠を検証していく。

 この相変わらずのフレンチ警部の地道な捜査については、人によっては飽きがくるところかもしれないが、これこそがクロフツ作品の醍醐味といえるところであろう。そしてこうした地道な捜査と検証があるからこそ、犯人逮捕へとつながる道筋に大きな説得力が生まれることになるのである。

 また、本書で感心したのは、この全体の事件が医師が失踪したという点に着目するのではなく、実は異なる場所で起きた別の事件に着目することによって、初めて一連の事件として成り立つということ。その複雑な様相が徐々にフレンチの捜査によって、紐解かれてゆくところが圧巻である。

 いや、こうしてじっくり読んでみると、何ゆえクロフツ作品の多くが翻訳されて親しまれたかがよくわかる。まさにこれこそ、大人がじっくりと堪能するためのミステリ小説と言うべきであろう。


クロイドン発12時30分   7点

1934年 出版
1959年06月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 チャールズ・スウィンバーンは工場を経営しているものの、その経営がうまくいかず、倒産の危機に追い込まれていた。頼みの資産家の叔父のもとに資金の調達に行くも、満足できるほどの金を得ることはできなかった。また、チャールズが恋焦がれるユーナ嬢は貧乏人とは結婚する気がないと公言していた。
 徐々にさまざまな面から追い込まれつつあるチャールズは、叔父を殺害して大量の遺産をいただくことを考える。そこで殺人計画を練り、実行に移す。その計画はうまくいったかに思われたのだが・・・・・・

<感想>
 クロフツによる、倒叙推理小説の代表作。この他にもいくつか倒叙推理小説というものを読んだことがあるのだが、そういった中で、かなり出来はよいほうであると思われた。

 いままで読んだ倒叙小説では、犯人に対して心情的に同情できないものが多かったのだが、この作品ではある程度、主人公に感情移入できなくもない。また、クロフツ作品の中では、捜査側ではなく、犯人である一青年にスポットを当てているせいか、格段に読みやすいというのも特徴のひとつである。

 本書でひとつ残念と感じ取れたのは、犯行を裏付ける決定的と思われるものがなかったところ。確かに状況証拠やチャールズの行動により、彼が犯行を起こしたのであろうという事は推測できる。しかし、検察側の証拠では、それを完全には確定できなかったように感じられたのである。ひょっとすると、陪審員制であるこの裁判であれば、検察側と弁護側の最終弁論が逆の並びであれば、意外と無罪評決がでたのではないかとも思われた。

 といったことを除けば、概ねミステリ小説としてよくできた内容であるといえる作品である。普段は主人公であるフレンチ警部が少ししか出てこないのだが、それがふと顔を出すことによって、徐々に犯人が心理的に追い込まれてゆく様が効果的に表されている。いや、これは本当に心理的な面でよくできた倒叙推理小説といえる作品であろう。


サウサンプトンの殺人   7点

1934年 出版
1984年12月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 セメント会社ジョイマウント社は窮地に追い込まれていた。ライバル会社チェイルが優れたセメントを開発し、業績をどんどんと伸ばしているのである。不況をなんとか脱することができたジョイマウント社であったが、このままでは会社が倒産する羽目に。打開策が見つからないなか、取締役のひとり、ブランドと化学技師のキングは、チェイル社に忍び込み、新製法の秘密を盗み出そうとする。しかし、夜警に見つかってしまい、その夜警を殴り倒し、殺してしまうことに! 二人はなんとか隠ぺい工作をはかるのであったが・・・・・・
 ジョイマウント社とチェイル社の企業間で起きた殺人事件にロンドン警視庁のフレンチ主席警部が乗り出す。

<感想>
 倒叙小説という形式で描かれた作品。犯行側のパートから語られ、そしてフレンチ警部の捜査が行われる。ただ、それで終わらずに、さらにまた犯行側のパートが語られ、そうして、警察側の最終捜査へという形でエンディングまでなだれ込む。

 本書はミステリでありつつも企業小説という側面も持っている。今でこそ、このような作品は珍しくないが、古典本格推理小説のなかではこういう描き方をした作品は珍しいと思われる。ゆえに、クロフツ作品が独自の色を持つ、独特な作品として読み続けられてきたことにも納得がいく。ここではセメント会社を取り上げて、2社の競合から、産業スパイ、やがては利益を得るための談合といったところまで話が進められてゆく。

 最初に倒叙小説と書いたのだが、それならば犯人は最初からわかっているので、面白くなさそうと思ってしまう人もいるかもしれないが、本書はしっかりと一捻り入れている。一見、単純な事件と思いつつも、捜査する側からすれば雲をつかむような事件。その事件に対し、フレンチ警部が取っ掛かりとなるものを見つけようと必死に地道な捜査を行ってゆく。そうして、犯行側のちょっとしたひび割れを利用しつつ、事件の真相を導き出す。

 思いのほか一筋縄でいかない作品であり、考えに考え抜かれた内容であると感じ入る。企業倫理のみならず、きちんと人間心理までもを描き、本格推理小説としては珍しい仕上がりとなっている作品。


ギルフォードの犯罪   6点

1935年 出版
1979年06月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 ロンドン有数の宝石商ノーンズ商会。この会社は経済的な危機にたたされていた。会社を閉めるか、新たに投資を受けるのか、役員の間でそうした話がなされていたある日、休み明けに社員が会社に来てみると金庫の中から宝石のほとんどが盗まれていた。金庫には厳重に2種類の鍵がかけられているので、誰も盗むことができないはずなのにどうやって? その盗難が明らかになる前日の夜、金庫の鍵を持つひとりで経理部長が謎の死を遂げていた。果たしてその死は今回の盗難事件に関連があるのか!? フレンチ警部は宝石商会と経理部長が死亡した現場を往復しつつ、事件の調査をしてゆく。

<感想>
 今作では難攻不落(とは言い過ぎか)の金庫破りの謎にフレンチ警部が挑戦する。どのようにして金庫が破られたのか、経理部長の死について、そしてその二つの事件における犯人のアリバイ崩しという3点が謎となる。

 アリバイ崩しはいつもながらであるが、今回は金庫破りの手法がなかなか凝っていたなと思われた。現代では想像できない方法なのだが、その当時では最先端ともいえそうな方法が用いられている。

 また、ラストでは国を越えての犯人追跡劇もヨーロッパを舞台としたフレンチ警部シリーズならではの醍醐味と言えよう。いつもながらのフレンチ警部の活躍が堪能できる安定した作品。


船から消えた男   6点

1936年 出版
1982年07月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 恋人同士のジャックとパミラは、マクモリスとフェリスの二人に誘われ、ガソリンの引火性をなくし、危険性のない物質に変えるという実験計画に参加することとなる。もし、それが成功すれば巨万の富を得ることになるであろう。そうして数か月後、実験は成功し、化学会社との契約を行うこととなる。そしてジャックらのもとに訪れた化学会社の社員プラットとちょとした諍いが起きたものの、無事に契約が交わされる。しかし、そのプラットは帰路、乗っていたはずの船から姿を消し、行方不明となってしまう。そして警察が捜査することとなるのだが、事件の容疑者としてジャックが逮捕されることに! ジャックの無実を信じるパミラはロンドン警視庁のフレンチ警部に相談するのだが・・・・・・

<感想>
 ガソリンに関する画期的な研究への誘いと投資に、ジャックとパミラのカップルが誘われる。最初は、これは典型的な詐欺事件の話かと思ったのだが、そのような流れではなく、研究は成功し、大手化学会社との交渉が始まることに。しかし、その交渉に来た男が嫌な男であり、ジャックとパミラは嫌な思いをさせられてしまう。ただし、最終的には契約がなされ、無事に終了と思いきや、その交渉に来た男が船から消え失せ、失踪してしまうという事件。

 当初、船から消え失せたことにより自殺とみなされるが、地元アルスター警察のマクラングとロンドン警視庁のフレンチによる緻密な捜査により、殺人の疑いが取りざたされる。そうしていつの間にか、その“殺人事件”の容疑者としてジャックが逮捕されてしまうこととなる。

 前半は意外な展開により、読者を飽きさせないような構成となっている。個人的には、最初から最後まで画期的な実験についての真相を疑っていたのだが、結局のところそちらは物語上の焦点ではなかった模様。中盤から後半にかけての裁判の様子は、すでにわかっていることの繰り返し故に少々退屈さを感じてしまうのだが、そこから終幕に向けて、もう一度物語は盛り上がりを見せることとなる。

 登場人物が少ないゆえに、誰が犯人かと考えた際に、もうこの人物しかいないのだろうなと容易に予想はついてしまう。また、細かい手順についてはわからないものの、おおよその犯行方法についても想像できなくはない。本書は、ある種の倒叙小説のように、警察がどのような手がかりから犯人とその犯行方法、そしてアリバイ崩しを成し遂げることができるかがポイントとなる小説といえよう。最後は残りページ数が少ない中で、矢継ぎ早に収束していったというような感はあるが、おおむねうまく出来た作品であった。


フレンチ警部と漂う死体   5点

1937年 出版
2004年12月 論創社 論創海外ミステリ4

<内容>
 イギリスで家電会社の社長と努めるウィリアム・キャリントンは年齢による衰えから、会社を後任に譲って隠居しようと考えていた。本来ならば、同じ家電会社に努める甥のジムに譲るべきなのであるが、ジムの経営の才能に疑問を抱き、オーストラリアからこれまた別の甥であるマントを呼び寄せて、会社の社長の座に据えることとした。そのマントが来てから、会社の経営はうまくいってはいるものの、家族の間がどこかぎくしゃくしたものとなってしまう。そんなある日、一族全員を狙った、毒物混入事件が起こり・・・・・・

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<感想>
 本書はクロフツの作品の中における、数少ない未訳作品(といっても今そのほとんどは絶版になっているが)のうちの1冊という位置付けの本である。

 私はまだクロフツの作品は少ししか読んでいないのだが、それらと比べると本書は大きく異なると思われる点が見受けられた。それは本書が極端に事件に対する描写が少ないということである。

 最初は“キャリントン一族”の遍歴が語られ、そして毒物混入事件が起こる。しかしこの事件に対する捜査、調査というものはあまりなされないまま、あっさりと終わってしまう。そしてすぐに一族そろっての船旅が始まって、この後はその旅行の描写に多くをしめられてしまう。

 その旅行中に事件が起こり、そこでようやくフレンチ警部の出番となる。そんなわけでフレンチ警部が活躍するシーンは後半のちょこっとだけ。また、事件の解決もかなりあっさり目という印象であった。

 事件自体における背景や犯人の動機などといった物語性はなかなか濃かったかなと思ったものの、ミステリー性という点ではかなり弱かったかなと感じられた。また、船で起こした犯人の行動が他の人たちにばれずに行うことができたという点については理解し難かったという点もマイナス面として感じられた。

 まぁ、とりあえずは冒頭に述べたとおり、クロフツ氏の未訳作品が出版されたという点が一番大きな点なのであろう。


シグニット号の死   7点

1938年 出版
1985年02月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 富豪の証券会社社長アンドリュー・ハリソンが自分の持ち舟であるシグニット号の船室で死んでいるのが発見された。部屋に鍵がかけられた状態で死んでおり、自殺かと思われたのだが、自殺にしては不可解な点がいくつか見つかる。自殺ではなく、もし殺人であるならばどのような方法で犯行が行われたのか? また、ハリソンの死はこの事件の前に起きた失踪事件となんらかの関わりがあるのか?? ロンドン警視庁のフレンチ警部が事件の謎に挑む。

<感想>
 これもまたフレンチ警部シリーズとして読み応えのある作品となっている。しかも今作ではクロフツにしては珍しい密室殺人が事件の中心となっているところも注目すべき点であろう。

 ただし、従来の探偵小説とは異なり、密室に関しては警察小説らしい解き方となっている。こうした事件は科学捜査がなされれば、こう解かれるべきという指針とすらいえるようなものとなっており、クロフツの手により密室の謎は簡単に暴かれてしまう。

 その後はお決まりの警察捜査によるものとなっている。ここは探偵小説であれば、もう少し違った書き方ができると思うのだが、そこはクロフツ作品らしい展開と結末の付け方。ただし、事件自体がそこそこ凝ったものとなっているので、その段階的な捜査をうかがっていくだけでもそれなりに楽しむことができる。

 本書もクロフツらしい、しっかりとした内容の警察ミステリとなっている。意外とそれほど知られていないと思われるこの作品が中期のクロフツ作品の代表作なのではないだろうか。


フレンチ警部と毒蛇の謎   6点

1938年 出版
2010年03月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 バーミントン市立動物園園長のジョージ・サリッジは夫婦生活に不満を持っていたのだが、そんなとき、運命の女性ともいうべきナンシーと出会う。そしてナンシーを愛人として生活を始めてみたものの、自身の賭博による借金などもあり、徐々に首がまわらなくなり始めた。しかし、彼には今にも死にそうな金持ちの叔母がおり、その死によって問題は全て解決されると思っていたのだが・・・・・・

<感想>
 普通にこの作品を購入したのだが、復刊と思いきや、何と訳されるのは初とのこと。さらには、これがクロフツ作品で訳されていなかった最後の長編作品とのこと。そんな意義ある作品だということにしばらくの間気がつかなかった。

 本書は倒叙小説となっている。タイトルにもあるとおり、毒蛇が犯罪に使用される重要なキーワードとなっている。ただし、その毒が誰に使われるのかというのが見どころとなっている。動物園園長のジョージ・サリッジという人物の視点で物語が始まり、たぶんあの人を殺害することになるのだろうなと読んでいくのだが、物語は思いもよらぬ展開を見せることとなる。まさか、そんな風に話が進んで行くことになるとは!? やや、犯罪が起こるまでが長過ぎるような気もするのだが、意外な展開を楽しむことができたのは事実である。

 そうして話の後半からようやく我らがフレンチ警部の登場となる。事件の様相からフレンチがおかしいと思える点を一つ一つ検証し、そうしてやがて真実へと到達する。今作はこの検証の部分が短めである。よって、他の作品と比べると捜査の場面はスピーディーと捉えることができるかもしれない。また、図面付きによる犯罪方法の説明も凝っていてなかなかのものと言えよう。

 従来のフレンチ・シリーズとは異なる見どころが満載の楽しめる作品になっている。


フレンチ警部の多忙な休暇   6点

1939年 出版
1977年10月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 旅行会社社員のハリー・モリソンは事務弁護士のブリストウから、イギリス列島を巡航するという事業計画を聞かされ、旅行会社を辞め、その事業に乗り出すこととなった。彼らは、富豪であるジョン・ストットに目をつけ、彼から資金を出してもらい、船を購入することに成功する。当初の予定では、一般向けの事業を予定していたが、ストットの薦めにより、富裕層に対する賭博を目的とした観光船へと変貌した。そうして事業を開始し、順風満々に進められていたのだが、そこで殺人事件が起きることに! 意外な形で事件に関わることとなったフレンチ警部が捜査を開始することとなるのだが、容疑はハリー・モリソンに向けられることとなり・・・・・・

<感想>
 第1部として船舶事業を起こすという展開がページの半分以上を占めており、第2部にてフレンチ警部による捜査が行われるという構成。

 最初は一旅行社員にすぎないモリソン青年が、自分の理想とする旅行巡業事業を起こしていくということが描かれている。最初はモリソン青年が詐欺に引っ掛かるのかと思われたのだが、そんなこともなく順調に事業が展開していく。ただ、ひとつ思惑と異なるのは、船が賭博を目的としたものになってしまったということ。しかし、事業自体は順調に行われ、モリソン青年は理想の女性と出会えたりと、いいことずくめで話が進んでいく。しかし、ひとつの殺人事件がモリソン青年に暗い影を投げかけることとなる。彼は死体を発見するものの、自分が容疑者となることを恐れ、警察に通報せず事態を見過ごしてしまうのである。

 そして事件後、意外な形でフレンチ警部が読者の前に現れる。フレンチは捜査に取り組むこととなるのだが、皆にアリバイがあり、モリソン青年以外に事件を起こしたものが見当たらないという状況。そうしたなかで、粘り強くさらなるフレンチ警部の捜査が続けられてゆく。

 捜査自体のパートが短いので、注目すべき点がアリバイトリックひとつに絞られてしまう。よって、ミステリとしてはやや単調。本書は、単なるミステリというよりも、起業小説という面が強く、起業小説とミステリを組み合わせたというところが大きな特徴であろう。事件がなかなか起きないので、じれる部分はあるのだが、さまざまな展開があり、飽きずに読み進めることができる内容。クロフツらしさが出ている野心的な作品とも言えるかもしれない。


チョールフォント荘の恐怖   6点

1942年 出版
1977年02月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 ジュリアは結婚し、子供を設け、幸せに暮らしていたが、突如夫が亡くなり、財政難の危機に立たされる。そんなとき、チョールフォント荘の主で法律事務所を営んでいるリチャード・エルトンにより現実的な取引がなされ、ジュリアはリチャードと結婚をする。愛のない結婚であり、リチャードの陰気な性格には悩まされたジュリアであったが、少なくとも生活の面で困ることはなかった。そうした日々を送る中、ジュリアは隣人のフランクに恋をすることとなる。二人は密かに逢瀬を重ねるが、ジュリアが離婚しようとしてもリチャードは決してそれに応じないことは明らかであった。そしてある日、リチャードが何者かに殺害され、死体となって発見されることとなり・・・・・・

<感想>
 公平ではあるが、人から好かれることのなかった法律事務所の主の死亡事件。不貞を重ねる妻とその浮気相手、遺産相続者である息子、被害者の化学実験を手伝うためにやとわれた助手、被害者から解雇を申し立てられた法律事務所の職員。こうした者たちが容疑者としてあげられるなか、フレンチ警部の捜査が始まってゆく。

 基本的に地味な内容の作品なのであるが、それでも決して駄作と感じられないのは、設定描写の細やかなところ。最初にどのような状況のなかで事件が起きたのかということを物語としてきちんと表している。ゆえに、それぞれの登場人物が抱く内面が手に取るように理解することができ、しっかりと事件後の状況も把握できるようになっている。

 事件捜査を突き詰めていくと、アリバイや感情的な面からも、誰も容疑者となりえない状況にフレンチは陥ることに。しかし、そこからさらなる執拗な捜査を進めることにより、やがて突破口を見出し、真犯人の特定に至ることとなる。

 事件自体の解決の中ではこれといった印象に残る点はあまりなかったのだが、そこに至るまでの家族間の物語をきっちりと書き表しているところに感心させられる作品。ただ、タイトルにある恐怖”という表現はちょっと盛り過ぎのように思えなくもない。


少年探偵ロビンの冒険   5点

1947年 出版
2007年02月 論創社 論創海外ミステリ62

<内容>
 ロビン少年は友人ジャックの誘いにより、夏休みに南西海岸のライマスで過ごすこととなった。そこは行楽地ではないのだが、ジャックの父が鉄橋の建設責任者であり、鉄道や工事現場を目の当たりにすることができた。ふたりはそこで数々の冒険をすることに。そんな中、二人は工事現場で作業員のひとりが不穏な計画を立てているのを聞きつける。彼らは事件の証拠をつかもうとするのだが、やがてそれらは誘拐事件に発展することとなり・・・・・・

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<感想>
 なんとクロフツ氏によるジュブナイル小説ということなのであるが・・・・・・硬い、硬いよクロフツさん! 予想通りに硬すぎる!!

 タイトルの通り少年二人が日本風に言えば少年探偵団ばりの活躍を見せるのだが、どうにも子供らしくないと思えてしまう。主人公の子供がとにかく理性的すぎるのである。怪しい男たちを見て、怪しげな話を聞いた後、なんと彼らは石膏で足跡をとろうと言い始める。そんな子供がいるのだろうか??

 他の行動のどれをとっても理性的すぎるように見え、どうみても大人から見た理想的な(というか、理想を押し付けたような)子供像により描いた作品というように思えてしまった。なんとなく“反トムソーヤ”という風に感じてしまったのは私だけだろうか。

 一応、鉄道の様子とか、陸橋の工事の様子が描かれていたりと、そういったものが好きな子供であれば喜べるのかもしれない。ただ、どう見ても子供向きという気がしないのは気のせいではないだろう。一応、最後は子供らしい冒険という形で大団円となり物語は締められていたのだが、そこにいたるまでがどうにも・・・・・・

 まぁ、このあとクロフツはジュブナイル小説を書いてないので、本書が成功したのかどうかは微妙なところではないだろうか。絶対に、大人が読んだ方が楽しめるという気がしてならない。クロフツ・ファン以外であれば、ネタとして読んでみてはいかがかとしか薦めることができない。


殺人者はへまをする   5.5点

1947年 出版
1960年12月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
【T 二重の物語】
 「古い銃」 「絶壁の道」 「かかった電話」 「下のアパート」 「軍用トラック」
 「病弱な大佐」 「隠された軽機関銃」 「狩猟舞踏会」 「貪欲な金貸し」 「夜の訪問者」
 「熱心な兎飼い」 「酒屋の隠居」

【U 単独の物語】
 「国防市民軍の塹壕」 「劇作家の原稿」 「石灰岩採石場」 「Lの形の部屋」 「盗まれた手榴弾」
 「交替信号手」 「燃える納屋」 「弁護士の休日」 「旋回した帆桁」 「炉辺の登山家」
 「待っていた自動車」

<感想>
 クロフツの短編集、であるのだが、元々がラジオドラマのために書かれたものということで、作品のどれもが短め。ゆえに、ここに掲載されているのは全23作品とかなり多め。

“T 二重の物語”は、叙述作品となっており、最初に犯人のパートが語られ、後半にフレンチ警視による捜査と犯人逮捕が語られるという二段階で描かれている。“U 単独の物語”は、“T”のほうでいうフレンチによる捜査のパートのみが語られるという構成になっている。

 どれも短めの作品ではあるのだが、そこはクロフツ作品ゆえに、読みやすいものではない。いつもの長編さながらに、たとえ短めの物語でもきっちり書くというクロフツらしさがこのラジオドラマ作品集にも表れている。

 本書のキモは、犯人がどのようなボロを出したことにより、フレンチによって捕らえられることになるのかという点。ただ、これらについては短い作品ゆえに、それもちょっとした1点もののミスで御用となっている。作品によっては、微妙と感じられるものもあるのだが、このへんはラジオドラマという性質上仕方のないことなのかもしれない。個人的には、それぞれの真相よりも、各作品で犯人が被害者を殺害することとなった動機をよくこれだけの作品分思い描けたなというところに関心が集中した。


フレンチ警視最初の事件   6点

1949年 出版
2011年06月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 外科医院にて受付兼秘書として働いているダルシーは、恋人のフランクが軍を除隊して戻ってくるのを待ち受けていた。戻ってきたフランクは一文無しとなっており、ダルシーが勤める外科医院にて共に働くこととなる。そして急きょ、まとまった金が必要となったフランクはダルシーを巻き込み、詐欺を働き始める。やがてフランクはよりよい仕事を見つけ、資産家の秘書として働き始めることに。すると、その館の主人が謎の自殺を遂げることとなり・・・・・・

<感想>
 フレンチ警部が昇進してからの初めての事件となるのだが、フレンチ自身は物語の後半からの登場となる。この作品の序盤は、倒叙小説のような感じて進められてゆくこととなる。

 普通に生活していた女が恋人の影響で犯罪に手を染めてゆくこととなる。その恋人の男はその後、資産家の秘書になることに成功し、その館の娘と恋人の関係になってゆく。そして事件が起こり、資産家の男が死体となって発見されるものの、現場の状況から自殺と判断される。しかしその自殺に疑いを抱く者が・・・・・・というような展開から徐々に警察の捜査が始まってゆく。

 出だしは、犯罪者の話というよりも、小悪党のちょっとした犯罪が描かれているという感じ。そこそこ正義感が強そうに見えた女性も、ちょっとした事柄から犯罪に手を染めることとなり、その後ずるずるとその行為から抜け出せなくなってゆく様子が描かれている。

 その後、場面が変わり資産家の家で起きた自殺事件が描かれることとなるのだが、パッと見たところ確かに自殺にしか思えないような事件であり、これが自殺でなければ、ちょっとした完全犯罪となるところといったようなもの。これがフレンチの手によって、どのようにして犯罪として暴かれてゆくのかが見どころとなる。

 事件の捜査に関してはフレンチ・シリーズ、いつもながらの地道で精密な捜査が行われてゆく。段々と犯人に近づいていくことになるものの、本書のもうひとつのポイントは、この作品倒叙小説のように描かれているものの、実際の犯行の様子に関しては描かれているわけではない。それでは、事件の真相は、結局どんなものだったのか? というところ。

 この作品で一番驚いたのは、最終的な物語の結末。こんな感じで終幕を迎えるとは思いもよらなかった。まぁ、これは完全なネタバレになってしまうので、ここに書くわけにもいかないのだが・・・・・・


四つの福音書の物語   

1949年 出版
2018年11月 論創社 論創海外ミステリ222

<内容>
 (省略)

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<感想>
 ミステリではなく、「樽」やフレンチ警部シリーズでお馴染みのF・W・クロフツが書いた聖書物語。もう少し詳しく言うと、聖書ではなく、四つの福音書を元にひとつの流れに沿ってキリストの物語を描き出したというもの。

 私自身は、聖書ですらきちんと読んだことがないので、この作品は何気に参考になった。とはいえ、聖書をきちんと読んだことのない私ですら、ここに書かれている数々のエピソードについては知っているものが多かった。

 すでに聖書などに触れたことのある人はわざわざ読む必要がないのだろうが、私のようにそういった文献に触れたことのない者にとっては格好の入門書になるのでははなろうか。


クロフツ短編集1   5.5点

1955年 出版
1965年12月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 「床板上の殺人」「上げ潮」「自 著」「シャンピニオン・パイ」「スーツケース」「薬 壜」
 「写 真」「ウォータールー、八時十二分発」「冷たい急流」「人道橋」「四時のお茶」
 「新式セメント」「最上階」「フロントガラスこわし」「山上の岩棚」「かくれた目撃者」
 「ブーメラン」「アスピリン」「ピング兄弟」「かもめ岩」「無人塔」

<感想>
 2019年復刊フェアで購入した作品。20ページ未満の作品が21編収録。

 どの作品もクロフツらしさが出ているものの、あまりにも短すぎて読みがいがない。ほとんどの作品が倒叙作品であり、最後にフレンチ警部が登場して、犯人のミスを指摘するというもの。そのミスも良くできているというよりは、色々なパターンがあるというのみ。作品によっては、目撃者がいましたという脱力的なものも。

 ひとつひとつの作品を丁寧に書き上げているところはクロフツらしいのだが、ミステリとしては単発のネタ、もしくは取って付けたようなものが多いため、ほとんどが印象に残らない。ショートショートにも、ミステリクイズにもなりえない構成の微妙さが残念なところ。


クロフツ短編集2   6点

1956年 出版
1965年02月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 「ペンパートン氏の頼まれごと」
 「クルーズの絵」
 「踏切り」
 「東の風」
 「小 包」
 「ソルトバー・プライオリ事件」
 「上陸切符」
 「レーンコート」

<感想>
 2019年の復刊フェアで購入したクロフツ短編集1と2。その2巻目を読了。1巻目のほうは、1編1編が短めであったので少々読み足りない気がしたが、2巻のほうの短編はそれぞれ30ページくらいの分量があり、それなりに読みごたえがあった。各短編は、フレンチ警部が登場するもの、しないもの、何らかの企画によるものなど、色々なものが収められている。

「ペンパートン氏の頼まれごと」は、一人の男が詐欺にあう様子が描かれたものであるが、これはフレンチ警部のシリーズを読み通している人であれば、あることに気づくのではなかろうか。
「クルーズの絵」は、絵画に関連する詐欺? のようなものが描かれる。その裏に隠れた真相を見抜くという、なかなか凝った作品。
「踏切り」は、クロフツの短編であれば倒叙ものとして読みなれていると感じるところであるが・・・・・・それを逆手に取ったかのような結末が待ち受けている。その結末がまた皮肉が効きすぎているような。
「東の風」はフレンチ警部が駅で囚人強奪現場に居合わせるというもの。他のフレンチ作品と比べると、行動的な部分が多い話だと思われる。スピーディーなフレンチの行動と警察組織との連携が見もの。
「小包」は、完全犯罪を企てるのであればどのようなものを? というお題に対して書いた作品とのこと。さらには、その犯罪を看破するには? ということも著者自身が考えなければならなかったよう。企画としては面白いが、読み物としてはつまらない。
 あとの3作は、普通のクロフツ短編作品と言う感じ。このへんまでくるとやや動機のバリエーションがなくなってきて、ほぼ同じものばかりであるような。「上陸切符」は、切符を用いての失踪方法を描くという点は、他のものとはちょっと異なる味わいがあった。


「ペンパートン氏の頼まれごと」 知人の女中に荷物の受け渡しを頼まれる。フレンチが登場して、それは盗品だと告げられる。
「クルーズの絵」 仲介人が奇妙な依頼をされる。絵を高額で買いたいのだというのだが、どこかうさん臭い。
「踏切り」 汚職をネタに脅されていた男は、脅迫者を殺害しようと計画を練り・・・・・・
「東の風」 フレンチ警部は偶然駅で、列車からの囚人強奪の現場に出くわす。強奪犯らを捕えようとフレンチは警察に手配を行い・・・・・・
「小包」 とある完全犯罪計画と、その計画に対するほころびの考察。
「ソルトバー・プライオリ事件」 休暇中、フレンチは自殺事件を捜査することとなり・・・・・・
「上陸切符」 会社の金を横領した男は、偽の自殺計画を考え、船上にて実行し・・・・・・
「レーンコート」 一人の男が同僚を殺害し、別に同僚にその罪をきせようと画策したのだが・・・・・・




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