Frank Gruber <ジョニー&サム>シリーズ 作品別 内容・感想

フランス鍵の秘密   

1940年 出版
2005年09月 早川書房 ハヤカワ・ミステリ1775

<内容>
 本のセールスマン、ジョニー・フレッチャーとその相棒のサム・クラッグ。二人は宿泊費を滞納したため、泊まっていたホテルの部屋をフランス鍵でロックされてしまい、追い出される羽目に。それでもなんとか、隣の部屋からベランダをつたって元の部屋に侵入した二人はそこで死体を発見する羽目に! 閉ざされた部屋の中にいったいどのようにして死体が入ってきたというのか?? こうして二人は古金貨を巡る殺人事件に巻き込まれる事になり・・・・・・

<感想>
 いや、これはユーモア・ミステリーとしてのできはなかなかのもの。本書を読んだ後に、ぜひとも他の作品も読んでみたいと心から思った。といっても、実は家にまだ読んでいない「海軍拳銃」という作品があるので、まずはそれからか。

 本書で活躍するのは働かないセールスマン、ジョニー・フレッチャーと腕っ節の強い相棒サム・クラッグ。なんといってもこの主人公のフレッチャーの生活のスタンスが笑える。とにかく行き当たりばったりに生きていて、金に困ったときしか働かず、金がなくともとにかく贅沢をしたがるという困ったお人。そんなわけで、本書の帯には“アメリカ版フーテンの寅さん”などと書かれていたりする。

 事件自体にもみるべきものはあるのだが、やはりそれよりも二人が巻き起こす騒動を楽しむべき本であろう。事件を解決しようとしながらも、行く先々で揉め事ばかりを起こす二人の迷探偵ぶりをとくとごらんいただきたい。


はらぺこ犬の秘密   5.5点

1941年 出版
2018年07月 論創社 論創海外ミステリ214

<内容>
 書籍のセールスマンを生業とするジョニーとサムのコンビ。今回はサクラを使って本を売り、いつもよりも売り上げが伸びたと思ったら、さらなる良い知らせが! それはサムの伯父が亡くなり、サムが遺産を相続することになったという知らせであった。喜び勇んでサムの伯父が生前住んでいた土地へ向かうと、そこで彼らを待っていたのは200匹のセントバーナードであった・・・・・・

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<感想>
 2015年に同じく論創海外ミステリから出た「噂のレコード原盤の秘密」以来の“ジョニー&サム”シリーズ作品。私は他にハヤカワミステリから出ている2作も読んでいるので、このシリーズを読むのは4作目。

 いつもながら、じり貧のセールスマンコンビ、ジョニーとサムがうまい話はないかとあちこちに顔出す。ただし、今回はそのうまい話のほうが彼らに飛び込んでくることとなる。サムの伯父が死んだことにより、サムがその遺産を相続することとなったのだ。喜び勇んで現地に出向く二人であったが、待っていたのはさまざまなトラブル、伯父があちこちで抱えた借金、さらには2百匹のセントバーナード。そんな状況からなんとか現状を打開しようと、ジョニーが知恵を振り絞る。ついでに、サムの伯父が何故死んだのかについても捜査を進めてゆくこととなる。

 内容だけ聞くと、何やら面白げな感じがするかもしれないが、中身はごちゃごちゃし過ぎてあまり楽しめなかったかなと。一つの事が整理されない間に、とにかく、あれよあれよと、トラブルが矢継ぎ早に持ち上がってくる。それらを治めるというか、とりあえず口先三寸で事態を一時棚上げし、そしてさらなるトラブルを抱えてゆくという流れ。

 そして最後に明るみに出た真相も、とうていスッキリしたとは言えない展開。登場人物らは満足げであるようだが、読んでいる方としてはなんとなくわだかまりばかりが残るような。


海軍拳銃   

1941年 出版
1957年09月 早川書房 ハヤカワ・ミステリ365

<内容>
 ジョニイ・フレッチャーとサム・クラッグの二人は町で突然女性から、ある男をなぐりつけてくれたら10ドルあげると持ちかけられる。その10ドル欲しさに依頼を引き受け、指定されたアパートへ行き、そこに住む男をなぐりつける。しかし、逃げるときにいきおいで長い連発拳銃を持ってきてしまう。あくる日、なんと彼等がなぐった男が拳銃により殺害されていて、ジョニイとサムが指名手配されることに・・・・・・伝説の拳銃を巡る大騒動。

<感想>
 先に「フランス鍵の秘密」を読んでから本書を読了。日本ではこの「海軍拳銃」のほうがずっと早く出ているのだが。

 今回、本書を読んで衝撃的だったのが、のっけからいきなり浮浪者と間違えられて声をかけられるジョニイとサムの低落・・・・・・あいかわらず、追い詰められた状況にならないと仕事をしないようである。そして前作と同様に場違いなところに出かけて、突然本のセールスを始めたりと、こういったところはこのシリーズではお馴染みなのであろう。これは是非とも他のシリーズも読んで確かめたいところである。

 で、肝心の“海軍拳銃”とかミステリーのほうはというと・・・・・・それはどうでもいいかなと。とりあえず本書はジョニイとサムのどたばたコメディを楽しむ本となっている。行き当たりばったりの行動で周囲を煙に巻いていきながら、その場をしのぐジョニイと能天気な力自慢の相棒のサムとのコンビが絶妙な雰囲気をかもし出している。これは本当に楽しませてくれる一冊であり、シリーズである。


おしゃべり時計の秘密   6点

1941年 出版
2019年05月 論創社 論創海外ミステリ233

<内容>
 金も持たずにブルックランズをうろついていたジョニーとサムは、警官にとがめられ刑務所に入れられてしまうことに。そこで二人はトム・クインズベリーという青年と無口な浮浪者と同じ監獄に収監される。翌日、一緒にいた浮浪者がトム青年と警官を刺し殺し逃亡。このままだと自分たちのせいされると、ジョニーとサムは騒動に乗じて逃亡を図る。ジョニーは昨晩、トムから質受けの札を預かっていた。二人は、資産家であるトムの祖父が遺した“おしゃべり時計”にまつわる事件に巻き込まれることとなり・・・・・・

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<感想>
 最近、徐々に訳されるようになってきた“ジョニー&サム”シリーズの5作品目。このシリーズ、何気に当たり外れがあるように思えるのだが、この作品は結構面白かったかなと。

 時計の収集を趣味とする資産家の遺言状が問題となり、その遺言に関係する資産家の孫が、ジョニーとサムと共に同じ監獄に収監される。その後すぐに、その孫(といっても青年)が殺害されてしまうのだが、ジョニーとサムは自分たちに嫌疑がかかりそうになったので、慌てて逃亡。そこから“おしゃべり時計”を巡っての冒険が繰り広げられる。

 ジョニーとサムは、別に事件の解決とか、“おしゃべり時計”自体に関心があるわけではない。それどころか日々を過ごす金に困っている状況で、少しの金でもよいから手に入るのならば何でもするというスタンス。ただ、殺人事件を解決しないと、彼ら二人に嫌疑がかかったままになり続けるので、なんとなく事件も解決してみようかというくらいの心持ち。

 ドタバタ劇を繰り返し、事件の本筋と関係ないことを行いつつも、結局はその本筋のほうに関わることになってしまう。そうしているうちに、徐々に事件の構図がはっきりし、真相へとたどり着くというような形へと展開してゆく。ただ、そうしたなかでジョニーとサムは、手に入るかどうかもわからないような大金ではなく、とにかく目先の金を手に入れて、日々の食事と住みかにありつくことのほうが重要なようであり、最後の最後までそのスタンスの揺るぎないところに笑いを誘われる。


ポンコツ競走馬の秘密   6点

1942年 出版
2020年02月 論創社 論創海外ミステリ247

<内容>
 いつもどおり金欠のジョニー&サム。そんなジョニー・フレッチャーが莫大な遺産を譲られることとなる。偶然命を助けた男から遺産を受け取ることとなったのだが、その条件がなんと競走馬の後見人として、というもの。その競走馬が買った際の賞金はもらえることとなるのだが、肝心の馬は一度も勝ったことがなく・・・・・・

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<感想>
 今回のジョニー&サムは、競走馬を巡るとある陰謀に巻き込まれる。突如、ジョニーは馬主から遺産をゆずられることになるのだが、実際には懐に一円も入ってこないという状況。ジョニーは、金の欲しさに賭博や競馬に手を出すものの、一向に金を手にすることができない。それどころか、ギャングの一味から金をせびられ追われる羽目となってしまう。それをかわしながらも、なんとか金を手に入れようとするが、今度は殺人事件が起き、ジョニーとサムは事件の容疑者として警察からも追われる羽目となる。

 最初に遺産の送り主の死に方が気になり、ジョニーは探偵活動を始めそうな雰囲気であったが、いつの間にかそんなことはお構いなしという感じになり、ただ単に終始ドタバタ劇が続けられるという状況。そのまま、何が何だかわからないうちに結末へとなだれ込むのであるが、実は最後に意外な展開が待ち受けている。今回の話では、主人公のジョニー・フレッチャーの金が手につかないしょうもなさが目立つのだが、最後にとった行動はちょっとかっこ良かったような。と言いつつも、今回は最初から最後まで主人公も含めてろくでなししか出てこなかったような。


怪力男デクノボーの秘密   6点

1942年 出版
2020年08月 論創社 論創海外ミステリ256

<内容>
 ジョニーとサムがホテルの部屋へと入ると、そこにはトランクに詰められた死体が置かれていた。慌てた二人であったが、入る部屋を間違えていたことに気づき、彼らの部屋はひとつ上のフロアの部屋であった。安心したのもつかの間、二人が部屋を留守にしていた隙に、何者かが彼らの部屋のトランクに死体を詰め込んで放置していたのである。ジョニーとサムのコンビは、巷で有名となっている漫画“デクノボー”の著作権を巡る事件に巻き込まれる羽目となる。そして、その“デクノボー”に扮したサムが大活躍(?)を見せることとなり・・・・・・

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<感想>
 いつもながらのドタバタ劇。どうしてそうなる? とか、なんでそんな展開に? などといったことはもはや関係なく、ジョニーとサムに極めて都合が悪い方向に起こる事件。さらに今回は、しぶしぶながらサムがアメコミのキャラクターに扮しつつ、事件の始末(解決ではなく)に挑む。

 基本的には漫画の著作権を巡っての背景と脅迫から発展した殺人事件の顛末を描いたもの。ジョニーとサムはその騒動に巻き込まれ、巻き込まれたからには解決しなければならないとジョニーが発奮し、いつもどおりにさらなる騒動を起こす。途中、なんやかんやと派手ないざこざが起きるものの、事件とは関係ないものもしばしば。そんな感じで、大団円っぽい終幕へとなだれ込む。さらに付け加えておけば、最後にはそれなりに意外な真相が明らかにされることとなっている。

 結局のところ、一般的にはさほどお薦めできるものではないが、シリーズを通して好きだという人にとっては、いつながらのジョニーとサムの活躍が楽しめるものとなっている。


正直者ディーラーの秘密   5.5点

1947年 出版
2021年04月 論創社 論創海外ミステリ264

<内容>
 ジョニーとサムはラスベガスへ行く途中、デスバレーにて瀕死に男に出くわす。男は死ぬ間際に、ラスベガスのニックに届けてくれ、と言い残した。残されたのはトランプとポーカーチップであった。二人はラスベガスへと行き、謎のニック探しを行なおうとし・・・・・・

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<感想>
 未訳作品が次々と刊行されているフランク・グルーバーのジョニー&サム・シリーズ。訳されるのはありがたいと思いつつも・・・・・・最近このシリーズを読みすぎていて、しかもどの作品もだいたい内容が一緒といったところが難点。もう少し、訳するスパンをあけてもよさそうな気もするのだが。

 今作ではラスベガスでのトラブルを描いた作品となっている。ラスベガスゆえに、賭け事はさけられないのは当然のこと。そしていつになくツキまくるジョニーの様相を見せつけられることに。

 いつもながらのトラブルに巻き込まれつつも、瀕死の男から託された謎を解こうとしつつ、なんやかんやで大団円へと。毎度毎度の粗目の話の展開で送られる物語ゆえに、特筆すべきところはないのだが、ジョニーの潔い生きざまには惹かれるものがある。


噂のレコード原盤の秘密   5.5点

1947年 出版
2015年12月 論創社 論創海外ミステリ161

<内容>
 街頭で本の実演販売することにより生計を立てるジョニーとサム。持ち金も底を突き、ジョニーはサムの服を勝手に売って、急場をしのぐ始末。とうとうホテルから追い出されようとする矢先、殺人事件に巻き込まれる。窓から見える向かいの部屋の女が何者かに殺害されたのだが、その時女がジョニーとサムの部屋の窓めがけてレコードを投げ入れていたのである。ジョニーは裸のサムを部屋に残し、なんとか金を手に入れようと行動しながら、殺人事件の捜査もしつつ・・・・・・

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<感想>
 本書は、以前ハヤカワミステリから刊行された「フランス鍵の秘密」「海軍拳銃」に登場するジョニー&サムが活躍するシリーズ作品。今回もまた素寒貧な二人が小金をせしめようとたくらみつつ(たくらむのはジョニーだけだが)、殺人事件に巻き込まれてゆくという内容。

 ただ、今回はミステリとしてもシリーズ作品としてもいまいちというような感じ。肝心の主人公のジョニーについてだが、事件を捜査することよりも、詐欺まがいの金策に勤しむほうに気を取られているようで、事件への関与具合がいまひとつ。そもそも彼らが部屋にレコード原盤を投げ込まれたとはいえ、何ゆえわざわざ事件解決にこだわらなければならないかというところが微妙なのである。結局のところ事件を解決しても、肝心の報酬へとたどり着くことはできなかったようであるし。

 このシリーズ、久々に読んだもので、あまり前の作品の内容や作風を覚えていなかった。ゆえに、シリーズらしい作品というよりも、クレイグ・ライスのマローン弁護士シリーズのような雰囲気だという印象が残った。どちらも常に素寒貧で、ドタバタ劇を繰り返しながら、やがて真相にたどり着くという様相。ただ、このシリーズの主人公ジョニーはマローン弁護士ほど実直ではないようであったが。


ケンカ鶏の秘密   5.5点

1948年 出版
2022年06月 論創社 論創海外ミステリ284

<内容>
 ジョニーとサムのコンビは、自殺しようとした娘を助けるも、感謝もされず袖にされる始末。金欠はいつものことで、なんとか金を手にしようと養鶏業展示会に潜り込み、お決まりの本のセールスでわずかばかりの金を手にする二人であったが、その会場で起きた殺人事件に巻き込まれる。ジョニーは自ら、闘鶏に関わる厄介ごとに関わって行き・・・・・・

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<感想>
 ジョニーとサムのコンビの暴れっぷりを描いたいつもながらのシリーズ作品。細かいことは考えず、衝動で動くいつもながらの流れであり、内容の荒々しさも健在。手放しに面白いと思えるような作品ではないのだが、まぁ、いつもながらの水準通りであり、良くも悪くも期待を裏切らないという感じ。

 最後の最後で、起きた事件の解決がギリギリのところでなされる感じも変わらない。ただ、今回はそのギリギリの解決編の部分がやや中途半端で、全部を説明しきれないまま終わってしまったように思われた。最後の最後くらいは、もう少し手堅く解決してもらいたいものであるのだが。


レザー・デュークの秘密   6点

1949年 出版
2024年01月 論創社 論創海外ミステリ312

<内容>
 本のセールスマンをして稼いでいたジョニーとサムであったが、出版社の事務所が差し押さえられたために本が送られてこなくなってしまった。金に困った二人は、なんと革工場に就職することに! さっそく働き始めた二人であったが、なんとその工場内で従業員の死体を発見してしまう。ジョニーは会社の社長に自分が犯人を捕まえて見せると啖呵をきり、捜査費を捻出させ、さっそく事件に取り組むのであったが・・・・・・

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<感想>
 論創海外ミステリではお馴染みとなったジョニー&サムが活躍するシリーズ12作目。いつもながらのドタバタ捜査を楽しむことができる作品。

 これ以前の数作品と比べると、それなりに事件捜査をしているなと思えた作品。よって、ミステリとしても思っていたよりは見ごたえがあったかなと。工場内で起きた殺人事件の犯人をジョニーが捜査していくという内容。金のもつれか、それとも工場内の権力争いか、はたまた痴情のもつれか、というなかで最後に真犯人を指摘するという流れ。

 最後の数ページで、なし崩し的に犯人を当てるというのは、いつもながらのシリーズらしい展開。そんな感じではあるものの、最近のシリーズ作品のなかではうまくまとまっていたような。




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