Ronald A. Knox  作品別 内容・感想

陸橋殺人事件   5点

1925年 出版
1982年10月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 ロンドンから汽車で一時間というイングランドの一寒村。そこのゴルフ場でプレイ中の四人組は、推理談義に花を咲かせていた。みな推理小説にはうるさい一言居士ぞろい。ところが、たまたまスライスした打球を追ううちに、鉄道の走る陸橋から落ちたと思しき顔の潰れた男の死体を発見する。被害者は破産状態にあり、自殺、他殺、事故死の三面から警察の捜査が始まった。だが、件の四人は素人探偵よろしく独自の推理を競い合い、この平凡に見える事件に、四人四様の結論を下していくのだが!?

<感想>2001年09月21日
 ノックスといえば、推理小説ファンであれば誰もが一度は耳にしている名ではなかろうか。ただし、耳にするのは必ず「ノックスの十戒」というものによってである。ではノックスの名を聞いたことのある人に、彼の代表作は?と聞いてもなかなか答えられないのではないだろうか。そんなノックスの一番手に入りやすい本が本書の「陸橋殺人事件」。最近国書刊行会から「サイロの死体」が発売されるまではこれだけが日本で読めるノックスの本といってもよかったのではなかろうか。

 さて、本書の内容であるが、これはノックスの処女作にあたる。「ノックスの十戒」を発表するような人でもあるのだからたいそうなミステリマニアだったのではないかと予想される。本書を読むことによっても十分にそれを感じることができる。なぜなら、いろいろなミステリーの要素がぜいたくなくらいにてんこ盛りなのである。ただし、必ずしもそれが成功しているとは限らないのだが・・・・・・。「毒入りチョコレート事件」のような要素があるのに、そこにサスペンスやスパイ小説のような要素を入れてしまってはやはりちぐはぐであろう。決して駄作というべきではないのだろうが、欲張りすぎがあだになってしまった一冊ということなのだろう。

 一読者としては、他のノックスの翻訳を手にとることができるよう望み、その中から代表作を選出することを望みたい。


三つの栓   6点

1927年 出版
2017年11月 論創社 論創海外ミステリ199

<内容>
 資産家のモットラムは医者から自分の命が数年であることを告げられる。彼は保険に入っているのだが、その内容は65歳を越えれば高額の年金をもらうことができ、その前に死ぬと相続人に保険金が支払われるというもの。ただし、自殺の場合は全くお金が支払われることがない。モットラムは甥に保険金が払われることを良しとせず、保険会社に解約の申し入れをするものの受け付けられず。そんなモットラムが宿屋の一室で死体となって発見されることとなる。果たしてモットラムの死は自殺か? 他殺か? 保険調査員とマイルズ・ブリードンとロンドン警視庁のリーランド警部は真相を探るべく、捜査を開始する。

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<感想>
 妙な感想であるが、おもしろ、つまらないという感じの作品。そんな風に感じてしまったミステリの十戒で有名なノックスの古典ミステリ作品。

 面白いと感じられたのは、主人公である保険調査員マイルズ・ブリードンが妻を連れて、事件現場を訪れ、その妻の協力を得て調査をしていくところ。この二人の掛け合いがなかなか面白い。また、ブリードんの知人であるリーランド警部も捜査に参戦し、互いに異なる意見を持ちながら捜査を行ってゆく。二人がそれぞれの推理や意見をかわすところはミステリのしての見どころといえよう。

 つまらないと思ったところは、事件がひとつしかないので基本的に地味。また、事件捜査に関しても、あまりにも微妙なものと感じられてならなかった。現場の状況の検証が一番だと思えるのだが、警察らが行うのは容疑者と思われる者達が、事件後に妙な行動をしないか徹底的に見張るというもの。それは捜査方法としてあまりにもおかしいのではないかと思わずにはいられなかった。

 さらには、肝心の“三つの栓”というお題に関しても真相解明時に図入りで説明されるのだが、それは捜査開始時にも図を入れておいてもらいたいと。それも論理的なものを誘うというよりも、どこかパズルっぽい真相であったし・・・・・・

 ただ、最終的に結論が出てみると、登場人物らの奇妙な行動にもすべて意味があることがわかり、何気に伏線のようになっていたことに気づかされる。最初に読んでいた時に感じていたものと、結論が分かってから再び読んでみたものでは大きく異なる印象を抱くこととなるだろう。そう考えてみると、実はなかなかの良作であった??


閘門の足跡   6.5点

1928年 出版
2004年09月 新樹社 単行本

<内容>
 デレックとナイジェルという親戚同士ではあるが仲の悪い二人の青年がいた。そのデレックが遺産相続を目前に控えていたとき、突然ナイジェルを誘ってふたりきりでボートの旅に出かける。その旅の途中、川の閘門を過ぎたところでナイジェルはボートを降り、デレックと別れ陸路をとることに。その後ボートに乗ったままのはずのデレックが行方不明になってしまう。ボートは見つかったものの、デレックの姿は影も形もない。当然のごとくナイジェルに疑いがかかるものの、ナイジェルには確たるアリバイがあり、犯罪にかかわっているとは思えない状況であった。しかし、ある日突然ナイジェルが姿を消してしまい・・・・・・。この事件を保険会社の探偵であるブリードンはどう解くのか。

<感想>
 いや、地味でありながらもなかなか楽しませてくれる一冊であった。単純な事件ながらも、単純であるがゆえにいろいろと読者に考えさせるような事件となっている。

 ボートに乗っていたデレックが行方不明となるのだが、デレック自身には行方不明になって得をすることはまったくない。しかもデレックは体調が悪く、激しい運動などができない状態。であれば、ナイジェルの手によって殺されたのかというとそれも断言できない状況。不可解な状況がいろいろと提示されている中で、いったいどの解釈が真相になるのかという事をいろいろと考えさせられてしまう。

 また、途中なかだれしそうになったのだが、そこにちょっとした驚くべき展開が挿入されていたりとなかなかうまく書かれた作品だと感じさせられた。

 何度も言うようであるが地味であることに間違いはないのだが、これぞ過去の探偵小説といわんばかりの本格の香りただよう小説としてできあがっている。いやいや、ノックスもなかなかあなどれない作家である。


サイロの死体   5点

1933年 出版
2000年07月 国書刊行会 世界探偵小説全集27

<内容>
 イングランドとウェールズの境界地方、ラーストベリで開かれたハウスパーティで、車を使った追いかけっこ<駈け落ち>ゲームが行われた翌朝、邸内に建つサイロで、窒息死した死体が発見された。死んでいたのはゲストの一人で政財界の重要人物。事故死、自殺、政治的暗殺と、様々な可能性が取りざたされる中、現場に居合わせた保険会社の探偵ブリードンは、当局の要請で捜査に協力するが、一見単純に見えた事件の裏には、ある人物の驚くべき精緻な計算が働いていた。

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<感想>
 その時代や国における文化とか時事的なものだとか、そのようなものが書かれているとあまり内容自体にのめりこめない事がある。特に海外の作品などにはそういったものが多い。本書の内容にもいまいちのめりこめなかったのだが、ただ単に退屈だとかそういうことなのではなく、そういった事情もあるのではないかと思う(たぶん)。

 本書におけるミステリの部分においては、かなり細かい伏線を張り、犯行にいたる経緯の状況を指し示すものを配置したりと色濃いものとなっている。ただし、惜しく感じられるのはそういったものがわかるのが結果が示されたときに始めて前段の配置に気づかされるということである。本書では、張り巡らされた伏線があまりにも細かいということと、謎や何が主体となっているのかという部分が明確にされていないところが欠点になっていると感じられる。何をたどっていけばいいのかがわからないために、かなり読み進めること自体が難しく感じられた。何が焦点なのかを“謎”とされては読み手の興味をひきつけることが難しいであろう。

 それでも“パイプ”が指し示す事件の背景とかなどうまい手がかりだとうならせる部分も多くあるのだが・・・・・・




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