Patricia McGerr  作品別 内容・感想

七人のおば   7点

1947年 出版
1986年08月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 結婚して英国に渡ったサリーは、ニューヨークの友人からの手紙で、おばが夫を毒殺し、自殺したことを知った。だが彼女には七人のおばがいるのに、手紙には肝心の名前が記されていなかった。一体どのおばが・・・・・・?
 気がかりで眠れないサリーに夫のピーターはおばたちについて語ってくれれば犯人と被害者の見当をつけてあげようと請合う。サリーはおばたちと暮らした七年間を回想するのだが・・・・・・
 被害者捜し、探偵探しと新機軸のミステリを生み出した異色の閨秀作家マガーが描く、会心の犯人捜し!

<感想>
 最初は多くの登場人物が出てくるのでうんざりし気味に読み始めたものの、実にうまく登場人物のそれぞれが書き分けられており、やがて登場人物をすっかり把握することができた。これは実に見事な書き方である。

 一家をたばね名誉と世間体を重んじるクララ。そしてその目立たない夫。
 地味でまじめな学問好きのテッシー。
 結婚生活がうまくいかず、二人のやかましい子供を抱えるアグネス。
 結婚相手の義母とおりあいがつかず酒にのめりこむイーディス。
 引っ込み思案で、男が苦手なモリー。
 姉の夫を好きになり、奪い取ろうとするドリス。
 浪費家のジュディ。
 そして語り手であり、傍観者であるサリー。

 内容はミステリーというよりは、コメディタッチの家族模様を描いた小説というところ。しかし、それでもミステリーとして高い評価を得ているのが、結末がこれしかないというところに見事に着地しているからだろう。ミステリー調であるのはある意味、問題が提示される最初と、問題が解決される最後のみといってもよいのだが、結末が提示されたとき、その語られた物語のなかにあまりにもぴったり当てはまっていることに感嘆する。いや、それにしてもかなり楽しんで読めた本であった。


探偵を捜せ!   5.5点

1948年 出版
1961年03月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 資産が目当てで結婚したマーゴットは、病気になった夫を持て余し、自然死に見せかけて殺害することを計画する。それに気づいた夫はマーゴットに、証拠品をとある探偵に渡し、彼がもうすぐ訪ねてくると告げる。そしてマーゴットが夫を手に掛けた夜、彼女らの住む山荘に四人の客が訪れることに。そのうちの誰が探偵なのか? マーゴットは探偵の正体を暴こうと・・・・・・

<感想>
 犯人が探偵を捜すという趣向の作品。夫殺しの証拠を握る探偵は、山荘を訪れた客のうちの誰なのかを犯人が突き止めようとする。という内容の作品ではあるのだが、論理的な内容のものではなく、かなり行き当たりばったり。また、登場人物の多くが共感できないというか、嫌な感じのものが多いので、あまり読んでいても楽しくなかった。

 しかし話が進むにつれて、これは“探偵捜し”の小説ではなく、主人公マーゴットの“サイコパス・サスペンス”だ! と気づくと、俄然読むのが楽しくなった。読んでいくうちに、マーゴットの道徳無視のサイコパスっぷりに呆れて口がふさがらなくなり、それを通り越すともはや楽しくなってしまう。そんなわけで、最後の探偵小説っぽい流れはむしろ不要と思われた。もっともっと、マーゴットを暴れさせた方がより強烈な小説になったのではなかろうか。


目撃者を捜せ!   5.5点

1949年 出版
1988年11月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 新聞記者のアンディは仕事により、船でリオへと向かうことになった。アンディと船の中で同室になったのは、ピーターズという医師。この医師は妻殺しの疑いをかけられて一時期話題となっていた人物であった。そして、船がリオへと向かう旅の間にひとりの乗客が行方不明となる。どうやら海へと突き落とされたようで、アンディは動機の面からピーターズがやったのだろうと推測するが確たる証拠はない。ただ、その乗客が海に突き落とされた際、何者かがその様子を見ていたようなのである。アンディは目撃者探しを始めるのであったが・・・・・・

<感想>
「七人のおば」を読んで以来のパット・マガーの小説。タイトルから引かれるところがあったものの、読んでみると普通のミステリという印象しか抱けなかった。

 本書は読む人によって好き嫌いがはっきりと分かれるのではないかと思われる。というのは、主人公で探偵役となる新聞記者のアンディが非常に癖のある人物だからである。ひと言でいってしまえばこれがなんとも“嫌なやつ”なのだ。新聞記者という職業のせいであろうか、探偵という行為をするというよりは、ひたすら人々のゴシップを探り出しているように感じられ、他の登場人物たちも腹を立てながらアンディに受け答えしている始末なのである。

 そんな形式で話が進んでゆくので、どうにも好感をいだくことの出来ない主人公との船旅を共にしながら読み続けていかなければならない読者にとっても、これは苦痛に感じる人も多いのではないだろうか。

 と、そんなわけでコミカルなミステリのようで、決してコミカルなだけとは言えない癖のあるミステリ。まぁ、こんな嫌な主人公が出てくるミステリというのもたまには刺激(?)になってよいのかもしれない。


四人の女   5.5点

1950年 出版
1985年01月 東京創元社 創元推理文庫
2016年07月 東京創元社 創元推理文庫<新版>

<内容>
 売れっ子のコラムニスト、ラリー・ロックはディナー・パーティーを計画した。そのパーティーに呼ぶのは、前妻、現夫人、愛人、そして婚約者。ラリーはその4人のうちの一人を殺害しようと考えており・・・・・・

<感想>
 ミステリというよりも、ひとりの男をテーマに、その成り上がりぶりと、彼の周りを取り囲む女たちの様子を描いたドラマという感じ。

 成り上がりのコラムニストが主人公であるのだが、その微妙な性格にもかかわらず、何故か女性たちは彼を奪い合うことに。なんとなく出世というか成り上がることを意識する者であれば、こういった性格でも決して不思議ではないのかもしれない。ただ、その男に群がる女性たちが、決してこの主人公を愛しているわけではないのにもかかわらず、彼にこだわろうとする姿勢は不思議なものであった。

 登場する五人の人物のうち、前妻だけが良識人で、あとは好感が持てない人たちばかり(ただ、この前妻も女性目線では嫌われそう)。そうしたなかで起こるべくして起こる結末が描かれている。ミステリとしての意外性はさほどでもないのだが、サスペンスドラマとしては、それらしい幕の引き方。


死の実況放送をお茶の間へ   5点

1951年 出版
2018年09月 論創社 論創海外ミステリ215

<内容>
 雑誌見習い記者のメリッサは、大学時代の知り合いであるデイヴの誘いにより、高名なコメディアンであるポッジ・オニールとサラ・スコットが番組収録する現場を見学することに。そこで彼女を待ち受けていたのは、殺伐とした状況。サラ・スコットがやたらと自分の案を主張し、周囲の人々を困らせていた。そんな殺伐とした状況のなかで番組が収録されるのだが、本番中に殺人事件が起きることとなり・・・・・・

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<感想>
 パット・マガーによるサスペンス・ミステリ作品。タイトルの通り、テレビ放送の実況中に殺人事件が起こるという事件。

 ただこの作品、あまり取っ付き具合がよくない。序盤は妙な言い回しから始まり、その後はテレビ業界の関係者たちの嫌な場面ばかりが続く。テレビ業界は、こんな妙な人たちばかりで、さらにはこんな悪い雰囲気のなかでテレビ制作をしているのかと、つい思い込んでしまうくらい。そして肝心の殺人事件もなかなか始まらないまま、それに耐えてページをめくっていかなければならない始末。

 テレビ業界の人々の性格や、その混乱した制作状況を気にならない人は、普通のミステリとして読めるであろう。それが微妙という人は読み進めるには、少々きつい作品。最終的な真相は、まぁ、普通かなというくらい。個人的には、作品の後半でメリッサにデイヴが迫るシーンがサイコホラーのようにしか思えなかったのだが。


不条理な殺人   5.5点

1967年 出版
2018年11月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 人気俳優であるマークは、義理の息子ケニーが脚本を書き上演されることになった作品のことを知り動揺する。それは、17年前に死亡したマークの親友であり、ケニーの実の父親の死の真相を示唆しているものではないかと・・・・・・。マークは反対を押し切り、ケニーの作品に出演しようと強行する。事態はそれだけにとどまらず、マークの妻でケニーの母親である女優のサヴァンナまでもがしゃしゃり出て・・・・・・

<感想>
 人気女優サヴァンナと劇作家レックスとの間に生まれたケニー。レックスは事故により体が不自由となり、それを嘆いて自殺してしまう。その後サヴァンナはレックスの親友である俳優のマークと結婚。マークはケニーの義父となる。という背景のもとで、レックスの死の謎と真相に迫る内容となっている。

 ただこの作品、ミステリ云々よりも、舞台の内幕とそこで起こるいざこざとか、あまり見たくないような内容のものばかりが描かれている。まぁ、この辺の人間関係のいざこざを描いているところがいかにもパット・マガーの作品らしいとも言えるのだが。それゆえに、人間模様を描く作品としては見るべきところがあるのだろうが、ミステリとしては薄めかなと。ただただ、マーク、サヴァンナ夫妻とその息子ケニーとの三人の言動とその顛末を見守るべき作品。




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