Richard Neely  作品別 内容・感想

愛する者に死を   6点

1969年 出版
2007年 早川書房 ハヤカワミステリ1805

<内容>
 出版社社長のマイクル・コステインは、派手な戦略で名声を得たものの、その後は出版社の経営に苦しんでいた。そんなおり、P・Sと名乗る人物から、“私が犯す殺人のてんまつを出版しないか”という趣旨の手紙が届いた。胡散臭い内容ではあるものの、うまくいけば出版社の名を売ることができると考えたコステインは、指定された現場へと赴く。するとそこで待ち受けていたのは、女の惨殺死体であった。すぐさま逃げ出したコステインであったが、やがて警察は彼の存在をかぎつけ、容疑者として扱われることとなり・・・・・・

<感想>
 サイコ・サスペンスっぽい内容の小説。読んでいる最中は、通常のサスペンス・ミステリという感じであったが、最後に真相が明かされると、心理的な面を強調したミステリ小説という赴きが強くなった気がする。

 内容は、出版社社長が巻き込まれた騒動を描いたもの。事件のネタに目がくらんだ出版社社長が怪しげな手紙に誘われて現場へと行ってみると死体が待ち受けていたというもの。しかもその社長、自分の身の回りに色々なトラブルを抱えており、娘夫婦の不仲、担当弁護士との諍い、うまくいっていない会社経営におけるいざこざ等。今回起こった事件は、自分の身辺の諍いと関係があるのかというところも注目点となる。

 物語が進行するうえで、視点が変わり過ぎるのが気になったところ。中心となる人物がいなく、後半になってからフレンドリー警部の捜査によって安定するかと思いきや、また色々な視点へと移り変わりながら、物語が進行していく。

 最終的に犯人が明かされても、特にサプライズ的なものは感じられなかった。むしろ犯人が明かされた後に、心理的な部分があらわにされたところの方が見どころであったかなと。よって、全体的に男女のもつれを描いたサスペンス小説であったかなと。著者のリチャード・ニーリイにとってはこれが処女作であるので、これが原点なのかということが読み取れる作品。


亡き妻へのレクイエム   6.5点

1969年 出版
2008年10月 早川書房 ハヤカワミステリ1817

<内容>
 広告代理店の副社長、ポール・セヴランスは家に置きっぱなしとなっていた古い大型のトランクを何の気なしに開けてみることとした。そのトランクから20年前に死亡した妻による、発送されなかったままの手紙が見つかった。その内容から、かつて自殺したと思っていた妻が、ひょっとすると誰かに殺されたのではないかという疑いが芽生え始める。ポールは苦心しながら20年以上前に起きたことを突き止めようと調査し始める。すると、今の広告代理店に勤務している者達のなかに怪しげな人物の存在が・・・・・・

<感想>
 初読であるのだが、意外と結構面白かったなと。訳されたのが40年経ってからであるのだが、決して古臭さを感じさせることなく、近代的なサスペンス・ミステリという感覚で読むことができる。

 男が20年前に自殺したとみられた妻の死の真相に迫るという話。その20年前は戦争が終わったばかりの混乱期であり、主人公自身も妻の死の現実に直視することができず、事件は自殺ということでそのまま放っておかれてしまったのである。しかし、その事件を調べてゆくと、怪しげな事実がいくつも浮かび上がってくることとなる。

 主人公は広告代理店に勤めており、事件を追うのみならず、会社での出世争いも交えながら物語が展開していく。さらには、過去の事件が広告代理店に勤務する者達にも関連しており、主人公は疑心暗鬼を交えながら、仕事をしつつ、事件の調査を進めていくことに。

 会社の社長が怪しいのか、それとも出世争いをしている男が何かを隠しているのか、さらには弟の言動にも怪しいものが・・・・・・というなかでやがて核心に触れることとなる。その真相が思っていたよりも単純なものではなく、物語上の伏線を回収し、うまい具合に捻ったものとなっているので、何気に驚かされてしまった。これは、なかなかあなどれない作品だと感嘆させられた。


殺人症候群   7点

1970年 出版
1982年02月 角川書店 単行本
1998年09月 角川書店 角川文庫

<内容>
 ニューヨーク・ジャーナルにて広告勧誘員として働く、ランバート・ポスト。彼は自分の冴えない人生を嘆きながら生きてきたが、チャールズ・ウォルターと出会ったことにより人生は一変した・・・・・・かに思えたが、ウォルターの持つ異常性に悩まされることに。ウォルターは普通に働きながらも、世間を大いに騒がす連続殺人犯となってゆき・・・・・・

<感想>
 久々の再読であるが、ニーリィって面白いなと、「オイディプスの報酬」と同様に改めて感じさせられた。

 物語はニューヨーク・ジャーナルで働く、冴えない男のひとり語りから始められる。仕事のみならず、人生全体がパッとしないランバート・ポスト。次の章では、内容が一変し、そんなランバートと一緒に住むチャールズ・ウォルターの危険でアグレッシブな様相が語られてゆく。しかも、単にアグレッシブというものではなく、世間を騒がす連続殺人犯としての行動を繰り広げてゆくのである。

 まさしく“サイコパス”ものと言っていいような内容の作品。チャールズは、特に大した理由もなく殺人を繰り返し、しかも自己顕示欲によるものなのか、事件記者に連絡を取り、アピールまでする始末。ある種の劇場型犯罪の走りのようなものでありながら、現代版切り裂きジャックというような感触も感じさせる。

 そうしたチャールズ・ウォルターの行動と、彼を追う事件記者と警察との対決から段々と目が離せなくなってゆく。そして、物語の結末はどのように付けられるのかと思っていた矢先、思いもよらぬ衝撃的な結末を突き付けられることとなる。いやこれは、荒業であるけれども、ただただ凄いなとしか・・・・・・


オイディプスの報酬   7点

1972年 出版
1978年 角川書店 角川文庫

<内容>
 ベトナム戦争帰りのヒッピー、ジョニー・セクストンは金をせびろうと、折り合いの悪い父親の元へと向かう。父親は不動産を扱っており、巨額の財をなし、再婚をして二番目の妻を迎えていた。ジョニーはそんな父親に金を無心するも断られる。ジョニーは年の若い継母に惹かれ、彼女に近づき、二人でとある計画を練りはじめ・・・・・・

<感想>
 久々に再読した作品であるのだが、これを読んで・・・・・・こんなに凄い作品であったのかと感嘆してしまった。

 実は読み始めた時は退屈な作品だとしか思えなかった。堕落した息子が、父親の再婚相手と通じ合い、父親を殺害して大金をせしめようとする計画。そして、それが実行に移され、というところまでは予想通り。しかし、そこから先の展開は全く読めないものであった。

 中盤以降は、過去に起きた殺人事件が思いもよらずあらわになり、さらには事件を起こすはずであった息子の方が、いつの間にか追い詰められる立場となりと、後半はもう何が起こるかわからないという展開。そして、迎えた結末もかなり印象深いもの。

 私は1998年に出版された角川文庫の改訂版を持っているのだが、その帯とあとがきで折原一氏がこの作品に対し「唸るサスペンス、ねじれたプロっと、いやらしく意外な結末」と評しているのだが、まさにその言葉通り。この一文で作品の全てを表していると言えよう。本書こそ、リチャード・ニーリィの最高傑作ではなかろうか。


リッジウェイ家の女   6点

1975年 出版
2014年05月 扶桑社 扶桑社文庫

<内容>
 資産家の夫を亡くした未亡人のダイアン・リッジウェイ。彼女は悠悠自適に絵を描いて暮らしていたが、その絵の価値を認めてくれた退役空軍大佐のクリストファー・ウォーレンと恋に落ちる。やがて二人は結婚することとなるのだが、ダイアンにはある心残りがあった。それは、娘であるジェニファーとの仲。とある過去の事件により、二人はよそよそしい関係となり、離れて暮らしていた。そんなジェニファーから連絡があり、ダイアンはジェニファーとその恋人と共に暮らすこととなるのだが・・・・・・

<感想>
 物語はリッジウェイ家の女性、ダイアンとその娘のジェニファーの視点(ただし交互ではなくランダム)で話が進められてゆく。

 序盤は、リッジウェイ家の過去、そして男と女のなれそめが語られ、あまりミステリっぽくないと感じられた。しかし、途中からジェニファーの視点が加わり、さらにはダイアンとジェニファーが共に暮らすこととなり、そこから物語は一気に加速していく。

 誰の手で、どのような陰謀がなされようとしているのか? 登場人物が少ないことから、ある程度話を見通せるかと思いきや、後半はさまざまな転換点が用意されており、それぞれの展開で意外と驚かされてしまう。

 文庫で400ページの作品なのだが、読んでいる途中、300ページくらいのところで、話が一通り終わってしまうのではないかと思わされる場面があった。これ以後、どうやって話を続けていくのかと思いきや、さらなる意外な展開が待ち受けていて、最後まで読者を惹きつけることに成功している。

 中盤くらいから展開がスピーディーになり、楽しめたかなと。満足のいくサスペンス・ミステリに仕上げられている作品。


心引き裂かれて   6点

1976年 出版
1980年11月 角川書店 単行本
1998年09月 角川書店 角川文庫

<内容>
 務めていた新聞社を辞め、現在は作家として小説を書き始めようとしているハリー・ファルコン。そんな彼の妻は精神病院に入院していたが、無事に退院する運びとなった。妻を迎えに行き家に戻ってきたハリーであったが、妻が寝ている間に買い物をしようと外出する。外出した際、酒場へより、そこで騒動に巻き込まれ、レイプ魔と思しき男を撃退することとなる。そんな騒動の後に家に帰ると、なんと妻が暴行されており、殴られて気を失っているのを発見することとなり・・・・・・

<感想>
 意表を突く展開がこれでもかといわんばかりに続き、どこに着地点があるのかを読者に予想させないサスペンス・ミステリ。角川文庫版で購入した作品の再読。

 若干ろくでなし風の主人公が、精神病院から退院することとなった妻を迎えに行くところから始まる物語。この主人公のろくでなし風の部分は、物語が進むにつ入れてどんどんと強調されてゆくこととなる。その妻が精神病院から退院という部分だけでも一波乱ありそうな要素となっているのだが、それ以後に、さらなるミステリ要素がてんこ盛りとなってゆくことに。

 主人公が出会うこととなる強姦魔、妻が家で何者かに襲われる事件、過去の恋人との再会、町中を蹂躙してゆく強姦魔。こういった展開が続き、何故かところどころアリバイが欠ける主人公は警部補のウェインから最重要容疑者とみなされる。色々と後ろめたいところがある主人公は、そういった容疑の目をかわし切ることができないまま。

 そんな状況が続き、最後には予想だにせぬ結末が待ち受けている。その結末に関する部分が、やりすぎではないかと思えぬくらいの大どんでん返し。予想できそうな部分がありつつも、それをはるかに超えて、やり過ぎではないかと思われるような部分までが付け加えられる。もはや整合性云々ではなく、とにかくやれるところまでやってやれというような大盤振る舞いの領域に達している。なんとも、ここまでやるのかというようなサスペンス・ミステリであった。




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