Ellice Peters

 フェルス一家・シリーズ  その他 作品別 内容・感想

カマフォード村の哀惜   6点

1951年 出版
2010年06月 長崎出版 <Gem Collection>

<内容>
 終戦直後のイギリス。人々が懸命に生きようとするなか、カマフォード村も戦争による影響から逃れることはできず、人々の心に確かな傷跡を残していた。そんな中、村で度々問題を起こしていたドイツ人が何者かに殺害された。村の巡査部長フェルスは同じ村に住む人々に疑いをかけるのを厭いながらも、怪しいと思われる者たちを尋問していった。捜査がこう着するなか、フェルスの息子ドミニクによって事態は進展を見せることとなり・・・・・・

<Gem Collection> 一覧へ

<感想>
 修道士カドフェル・シリーズでおなじみのエリス・ピータースが描く“フェルス一家・シリーズ”。ただし、この作品はそのシリーズの1巻目となるので、これを読んだ限りではあまりシリーズという感じはしなかった。今後他の作品も読むことができれば、もっと楽しめそうなのだが。

 カドフェル・シリーズとは異なり、現代(といっても戦後であるが)を描いたミステリ作品。読んだ限りでは、社会派ミステリという印象が強かった。戦争が終わり、戦場から帰ってきた兵士の癒されない胸の内や戦争中に敵国として戦った者達同士の対立など、その時代で起こるさまざまな問題を中心として物語が描かれている。

 そんな中、村の中の嫌われ者のドイツ人が殺害されることとなる。村人の心中としてはよそ者が殺害されたということで、むしろ加害者をかばうような気配が見られる。それは事件を捜査する警察にとっても同じなのだが、フェルス巡査部長は何者が殺害されようとも事件は事件という非情な心持ちで村人のなかから真犯人を見出そうとする。

 上記のような状況のみであれば、普通のミステリなのだが、ここから物語上活躍をしていくのがフェルスの息子で13歳のドミニク少年。彼がまるで少年探偵団のように、相棒とも言える女の子プシーをひきつれて(むしろ連れられて?)事件を追っていくこととなる。ドミニク少年の活躍こそがこの作品を“フェルス一家・シリーズ”としている由縁なのであろう。

 本書は社会派ミステリという部分が色濃いために、かなり硬めの内容となってしまっているのだが、それを和らげるために少年を探偵役とし、さらには少年とその家族との物語を構築し、アットホームな作品へと仕立て上げている。

 ただし、最初にも言ったとおり、これはシリーズ1作目であるので、本当の意味でのシリーズらしさというのはまだ見えてきていない。できれば、この後の作品もどこかで紹介してもらえば、今回登場した者達のその後を追うことができるので面白そうだと思うのだが。一応、他に2冊ばかりハヤカワミステリと原書房で出ているので、まずはそちらを探してみるか。


死と陽気な女   6点

1961年 出版
1987年02月 早川書房 ハヤカワミステリ856(再版)

<内容>
 町の資産家であるアルフレッド・アーマイジャーが殺害されるという事件が起こる。ジョージ・フェルス部長刑事がこの事件を受け持つことに。容疑者はアルフレッドの息子で勘当されたレスリー。アリバイもはっきりとせず、被害者が殺害される直前に会っていたと思われるため逮捕されるのは間近と思われたとき、キティ・ノリスが自分が殺害したと出頭してくる。そのキティ・ノリスに一目ぼれしていたドミニック・フェルス16歳は、彼女の無実を証明しようと、とある行動に出ることに!

<感想>
 フェルス一家シリーズの第2弾ということなのだが、前作とずいぶんと雰囲気が違う。第1作はもっと戦後をむき出しにしたような小さな村で起こる社会派事件を取り扱っていた。それがこの作品は都会的な刑事小説となっているのである。なんでこんなに方向転換しているのかと思いきや、なんと前作からこの作品が書かれるまでに10年という月日が経過している。前作の“カマフォード村”のほうは注目度も大したことはなかったようで、そこで思い切って方向転換したのであろう。その甲斐もあってか、この作品はアメリカ探偵クラブ最優秀長編賞を受賞している。

 この作品、最初に読み始めた時は単なる警察小説と感じられた。ジョージ・フェルス刑事による捜査が始められ、徐々に事件の背景が明らかになっていくというもの。ただ、これでは“フェルス一家”シリーズとは言えないのでは? と思っていたら後半に入り、ジョージの息子ドミニックが存在感を増してくる。

 16歳になったドミニックは物語の最初から登場しているのだが、単に年上の女性に恋をしたティーネイジャーというだけの役割にしか思えなかった。しかし、その片想いをしていた女性が事件にかかわってくるようになってからは、積極的に自らの手で探偵活動を進めていくようになるのである。

 これは、行動派のジョージ刑事と、知性派である素人探偵ドミニックというコンビが結成された最初の作品といってよいのだろうか。なんとなくこのように書くとエラリー・クイーンの親子コンビのようにも感じられるが、このシリーズの二人は今後どのような関係になっていくのであろうか。


納骨堂の多すぎた死体   5点

1965年 出版
2000年02月 原書房 ヴィンテージ・ミステリ

<内容>
 フリー・ジャーナリストのサイモン・タウンの手によって、トレヴェッラ家の納骨堂が200年ぶりに開けられることとなった。夏休みに避暑に来ていたフェルス一家、その父親で警部であるジョージ・フェルスはこの催しに参加することとなった。しかし、暴かれた棺の中からは死後間もない行方知れずになっていた庭師の死体が発見されることとなる。さらにその下にもうひとつ、死後まだ数年しか経過していない白骨死体までもが見つかった。白骨死体の主はいったい誰なのか? また、そこにあるはずの領主の死体はいったいどこに!? 

ヴィンテージ・ミステリ 一覧へ

<感想>
 エリス・ピーターズによるフェルス一家シリーズの作品。タイトルを見ると、カドフェル修道士シリーズの「死体が多すぎる」を思い起こす。こちらもまた、納骨堂の棺の中から思いもよらぬ死体が見つかり、さらには、あるべき死体がないという内容。

 このような内容からすれば、ミステリ色が濃そうな話に思えるのだが、実際には謎解きよりも家族間のごたごたによるドタバタ劇のほうが物語の多くを占めていたような気がする。しかも、その家族間のごたごたについてもフェルス一家の話ではなくて、本書に登場するロサル家のごたごた。この作品のみを読むとフェルス一家シリーズではなく、ロサル一家シリーズなのではないかと勘違いする人も多いのではないかと思えるくらい。

 今作では特にロサル一家の少年、パディ・ロサルにスポットが当てられ、物語が進んでいく。ただ、そのポジションは、フェルス一家のドミニクに与えられるべきものではないかと考えてしまう。それゆえに、今作ではシリーズきっての主人公と言えるはずのドミニクの存在感がほとんどなかったという印象。

 死体の謎ときに関しては、きっちりとフェルス家の父親、ジョージの手によって解決される。その解決に関してはなかなかのものであるのだが、その中味に関してはやはりロサル家に深いつながりがあり、結局最初から最後までロサル家の話となってしまっている。一作品としては、それなりによくできていると思われるが、シリーズ作品としてはやや迷走しているような感じ。


雪と毒杯   6点

1960年 出版
2017年09月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 クリスマスが迫ろうとするウィーンにて、オペラ界の老齢の歌姫アントニア・バーンが付き添いの者たちに看取られながら亡くなった。アントニアの姪や、秘書等を含めた一同はチャーター機でロンドンへと帰ろうとするが、そのチャーター機が雪山に不時着することに。チャーター機に乗っていた8名は、近くの山村の人々に助けられ、その村で夜を過ごすことに。落ち着いた一同は、そこでアントニアの遺言を読み上げることに。その後、アントニアから一番多くの遺産を受け取ることとなった者が死体となって発見される。遺言の内容に不満を持った者が事件を起こしたのか? 雪で閉ざされた村のなかで事件はさらに続き・・・・・・

<感想>
 8人の男女が雪の中で山村に閉じ込められ、殺人事件が起きるという内容。クローズドサークルもののようであるが、登場人物の他の多々の村人たちがいるので、厳密な“閉ざされた”というような状況ではない。とはいえ、雰囲気は十分に本格ミステリっぽい。

 殺人事件が起きた後、探偵役のものがいないわりには、多くの者が冷静に事を治めようとしている。ゆえに、状況が整理され、事態はしっかりとまとめられている。ただ、シリーズものでなく、登場人物にこれといった探偵役がいないゆえに、全体的にはサスペンス色が強い感じの作品となっている。

 とはいえ、エリス・ピーターズの作品ゆえに、物語はしっかりしていると感心させられた。遺言状に関する結末にしても、うまい幕引きになっているなと感嘆。若干、本格ミステリとしては弱いなと思いつつも、物語がうまくできているゆえに、一つのミステリ作品として納得させられる出来となっている。




作品一覧に戻る

著者一覧に戻る

Top へ戻る