Ellice Peters

 修道士カドフェル・シリーズ 作品別 内容・感想2

秘 跡   6点

1985年 出版
2004年09月 光文社 光文社文庫

<内容>
 女帝モードとスティーブン王との長く続く戦いが急展開を迎えていた。スティーブン王が女帝モード側の捕虜となり、圧倒的に不利な状況に追い込まれていたものの、モードの失態により、女帝モード側の軍はロンドンから追われるはめに。追い詰められた女帝モードの軍は、さらなる追い討ちがかけられることに・・・・・・
 軍隊同士の戦いが加熱するなか、修道院を焼け出されたことにより、ふたりの修道士がシュールズベリへと落ち延びてきた。以前は十字軍に従軍していた事のあるヒュミリスと、彼に献身的に尽くす、話すことのできない修道士フィデリス。ヒュミリスは大怪我を負っており、もはや長くは生き延びる事のできない様子であった。彼が気にしていたのは、従軍前に婚約をしていた女性について。しかし、その女性について調べてみると、行方不明であることがわかり・・・・・・

<感想>
 今回は、ミステリ作品のネタとしては平凡なものであった。逃げ延びてきた二人の修道士にまつわる謎と、消えたかつての婚約者の謎。このふたつが絡み合う謎となっているのだが、かなりわかりやすい部類の内容であったと思える。

 ただ、こういったわかりやすく、よくありそうなネタをうまく複雑にからみあった物語として、ひとつの作品に仕上げてしまうところがエリス・ピーターズの非凡なところであるといえよう。

 今作で注目したいのは、シリーズを通しての重要な背景となっている戦争の行方。こちらについては、かなり大きな動きが出てきた。シリーズ前半では攻勢を極めた女帝モードの勢力がここへきて失速。スティーブン側は肝心の王が捕らえられているにもかかわらず、王妃の力によって勢力を盛り返し始めてきた。

 カドフェルらが住む修道院には、今のところ戦乱による直接的な影響がないとはいえ、今後この戦争がどこまでシュールズベリに関わってくるのかも見ものである。

 今作の物語自体の内容はちょっと薄めであったが、その分、背景である戦争の動向が濃い内容となっている。結局のところ、シリーズものとしてはバランスがとれた作品になっているのかもしれない。


門前通りのカラス   5.5点

1986年 出版
2004年11月 光文社 光文社文庫

<内容>
 門前通り教区のアダム神父が亡くなり、新しい神父がやってきた。この新しい神父は前のアダム神父と違い、学や教養には優れているものの、謙虚さと寛容さを欠いた男であった。神父は住民とたびたび衝突し、瞬く間に人々から嫌われるようになった。その神父がある日、死体で発見されることに! 神父を快く思わなかった住民に殺されたのか? しかし疑惑は神父と一緒にやってきた家政婦の甥にかけられることとなり・・・・・・

<感想>
 シリーズの背景となる戦争の様子については、どうやらスティーヴン王有利の方向へと進んでゆきそうな気配。まだ女帝モードも権力をあきらめたわけではなく、予断は許さない状況にあるものの、雰囲気としてはスティーブン王の方に力が傾きかけているように感じられる。

 そういった周囲の様子はよそに、シュールズベリ修道院界隈では、近所の教区の神父の素行が問題となる。タイトルの「門前通りのカラス」とは、この嫌われものの神父のことを表している。この神父があっという間に殺害されてしまい、その事件の犯人を探すというのが今作の主題となっている。

 ただ、個人的に言えば、この嫌われものの神父にはもう1作か2作くらいその様子をうかがったほうが、嫌われっぷりが栄えたのではないかと思われる。ちょっと亡くなるまでの期間があっという間すぎたのではないだろうか。

 今作は嫌われものの神父が殺害されたという事件のためか、なんとなくミステリ小説というよりは、宗教的な内容の作品のように思われた。カドフェル・シリーズ自体が修道院が中心に描かれている作品なのだから、宗教色が強いとしても当たり前なのだが、今作は道徳的、もしくは聖書にあるような話だったような気がする。いつも通りの勧善懲悪であるといえばそのままなのだが、ちょっと異色のような作品とも感じられた。


代価はバラ一輪   6点

1986年 出版
2005年01月 光文社 光文社文庫

<内容>
 資産家のジュディス・パールは夫を亡くし、自らが流産したことから、今まで住んでいた屋敷を修道院に寄贈した。屋敷の裏庭に咲くバラを一輪、聖ウィニフレッド祭の時期に届けてもらうことのみを条件として。しかしある日、それまでバラを彼女に届けていた修道士が傷つけられたバラの木の下で殺害されているのを発見された。未亡人となったジュディスはさまざまな人たちから求婚されていて、トラブルの元を抱え込んでいた。ジュディスは修道院に入ろうかと考えていた矢先、さらなる事件が彼女を襲うことに!

<感想>
 背景となる戦争については現在停滞気味であり、その分今作ではミステリのパートのほうに力が込められている。最近の何作の中では特にミステリ色の濃い作品であったと思われる。

 今回はひとりの未亡人とバラの木を巡っての殺人事件や失踪事件が次々と起こる展開となっている。事件の表面的な部分とは別に、その背後に隠れる殺人者がおり、その存在が不気味な雰囲気をかもしだしている。今作はカドフェル作品のなかでは戦争に関する部分とは異なる意味での犯罪者らしいサスペンスフルな展開を堪能できる作品といえよう。

 これらの事件を引き起こす元となった未亡人の存在はなんとも罪作りといえよう。本人にはいたって何の責任もないのだから、あくまでも被害者の立場でしかないはずなのだが、“資産家の魅惑的な未亡人”というのはここまでさまざまなものを惹きつける存在なのかと、変に感心してしまう。

 また、その未亡人に対して地位などに関係なく、多くのもの達が結婚を迫ろうとするのには驚かされた。こういった時代だからこそ、もうすこし身分の違いとかが存在するのかと思ったのだが、下働きの男たちまでもが資産家との結婚によって地位を確立しようと望んでいるところには興味を惹かれた。身分の違いというものよりも、やはり当時は男女の格差というものがあったのだろうかとも考えさせられた一冊。


アイトン・フォレストの隠者   6点

1987年 出版
2005年03月 光文社 光文社文庫

<内容>
 荘園主である領主が死に、修道院長が後見人となっている10歳のリチャードが跡を継ぐこととなった。修道院長は、リチャードはしばらくは修道院で暮らし、責任を負うことができる年になったら跡を継げばよいと考えていた。しかし、強欲なリチャードの祖母は近隣に荘園を持つ領主の娘と無理やりに結婚させようと画策をしていた。そんなとき、シュールズベリ界隈にひとりの隠者が住みついたことにより、シュールズベリでさまざまな事件がおき始める。隠者の従者にとある事件の嫌疑がかかったり、隠者のもとを訪れた男が死体となって発見されたり、リチャードが行方不明になったりと・・・・・・。
 シュールズベリで起こるさまざまな事件、カドフェルはそれらの真相を読み解こうとするのだが。

<感想>
 今作は、練りに練られた複雑な内容となっている。ひとつの荘園をめぐる10歳の跡取りと、祖母の考え方の対立。別の荘園での農奴が起こした事件と、その農奴を追ってやってきた領主。シュールズベリに住み始めた謎の隠者。さらには、戦争のさなか、女帝モードの陣営から手紙を届けるために送られた密使の失踪事件。

 本書は、こういったさまざまな事件が互いに絡み合い、やがてひとつの物語を形作るようにそれぞれの事件が収束していく。

 このシリーズ作品らしく、最後はうまく綺麗な形でまとめているといえよう。関連性のなさそうな事件同士の細かい結びつきなども実にうまく創られている。

 ただ、ひとつ気になったのは最後に事件が紐解かれる場面があっさりすぎたということ。これで本当に農奴の身分の問題がきちんと解決されたのかとか、若き荘園主の祖母がきちんと納得できたのかとか、いくつかふに落ちない点が残された。

 ここは、いつものシリーズらしく、もっと派手な解決を打ち上げて大団円として終わってもらいたかったところである。確かに秘密裏に運ばなければならない事件もあったとはいえ、もうちょっとうまい具合に締めてくれれば、さらに作品に対する評価が上がったのだが。


ハルイン修道士の告白   6点

1988年 出版
2005年05月 光文社 光文社文庫

<内容>
 修道院の屋根の改修工事中、ハルイン修道士は屋根から落ち重症を負う。なんとか一命をとりとめたハルインは、死にかけたことをきっかけに過去に自分が犯した罪をつぐないたいと修道院長とカドフェルに語りかける。ハルインの贖罪の旅に同行することになったカドフェル。しかし、その道中彼らはとある失踪事件と殺人事件に巻き込まれることに・・・・・・

<感想>
 スティーブン王と女帝モードの戦いもクライマックス・・・・・・と思いきや、また振り出しに戻ってしまった。女帝モードを追い詰めたはずのスティーブン王陣営はあっけなくモードに逃げられてしまい、戦争の行方は見通しが立たない状態に。この戦い、カドフェル・シリーズの最後までに本当に決着がつくのかどうか・・・・・・

 背景はさておき、今回の本題となる事件はハルイン修道士の贖罪の旅にカドフェルが同行するというもの。基本的には昔犯した罪を悔い改めるための墓参りなので、単調な話になりそうだと思っていたら、実際にはそうでもなかった。

 墓参りに行く途中、ハルインが犯した事件の当事者に会うものの、どこかよそよそしい態度をとられ、何かを隠しているのではという疑惑がわいてくる。さらに追い討ちをかけるかのように起こる失踪事件と殺人事件。それらの事件の状況をすべて把握しているカドフェルの手によって、事件は解決へと向かってゆくことに。

 今作は、久々に劇的な結末を迎えた作品という感じであった。ここのところ、内容はおもしろくても結末の付け方がいまいちという作品が多かったように思えたので、今回の作品にはかなり満足できた。ただ、解決において、あまり取りざたされなかった殺人事件については必然性が薄かったようにも感じられた。それさえ除けば言うことナシのできばえの作品である。


異端の徒弟   6点

1989年 出版
2005年07月 光文社 光文社文庫

<内容>
 聖ウィニフレッド移送祭を間近に控えた修道院に、巡礼先で亡くなった羊毛商の柩を徒弟であるイレーヴ青年が運んできた。イレーヴは主人を故郷であるシュールズベリへ連れ帰り、修道院の墓地に埋葬してもらおうとしていたのだ。しかし、たまたまシュールズベリを訪れていた大司教の使者が、故人を異端扱いすることにより、話がややこしくなってしまう。なんとか、故人の嫌疑は晴れるものの、今度はイレーヴ青年のほうが異端扱いされ、さらには殺人事件の汚名までもをきせられそうになり・・・・・・

<感想>
 これはまた、修道院という舞台にふさわしい内容の作品になっている。今作での大きなテーマは異端審問。本来ならば、このような出来事は起こるはずのない修道院であるのだが、そこに運悪く悪い方向に厳格な大司教の使者という人物がいたことから話がやっかいな方向へと進む。

 本書を読んでいて強く感じられたのは、たぶんこの“異端審問”というものは当時頻繁に行われていたのだろうということ。また、この審問にかけられたがゆえに、大して罪のない人々が重罪を課せられるということもあったであろうと、容易に想像できてしまう。この作品で審問にかけられる人物は、どうどうとその場へと赴き、自分自身でそこに立つという意志も感じられるため、さほど悲劇的ではないのだが、気の弱い人物であれば、反論すらまともに述べることもなる審判がくだされてしまうということもありえたであろう。

 と、そのような審問というものと、その審問がきっかけで起こったかのように見える殺人事件が起き、事件の解決にカドフェルが奔走することとなる。そして、このシリーズらしく、落ち着くべきところに落ち着くのだが、審判が下される場面での当事者とも言える大司教の使者の終盤の行動はあまりにもという感じがするのだが・・・・・・まぁ、それゆえに綺麗なところにうまく物語が着地したと言えなくもないのだが。


陶工の畑   6点

1989年 出版
2005年09月 光文社 光文社文庫

<内容>
 シュールズベリ修道院が土地交換により手に入れた土地から、女の白骨死体が発見された。その土地には以前、陶工をしていた夫と外国人の妻が住んでおり、現在夫はシュールズベリ修道院で修道士となり、妻のほうは行方不明となっていた。当然のことながら死体は陶工の妻と思われたのだが、それを覆す目撃情報が持ち寄られることにより、事態は急展開を迎えるのだが・・・・・・

<感想>
 文字道理、昔、陶器を作っていた場所“陶工の畑”から死体が見つけられるという話。ただ、この“陶工の畑”という言葉には、聖書上で“異邦人、罪人の墓地に使われた場所”というような意味があるとのこと。

 身元不明の死体が見つかり、その死体の正体は誰? 誰がそこに埋めたのか? これは殺人事件なのか? 何故このようなことになったのか? ということが物語の焦点となり、カドフェルや執行長官のヒューらが真相を追究していく。

 事件の展開としては、以前そこに住んでいたルアルドという現修道士よりも、戦況を伝えに来た修道士サリエンという人物のほうが常に物語の中心となって動いてゆくこととなる。

 事件自体は単純といってもよいものながら、展開といい、結末といい、それなりに工夫が凝らされたものとなっており、最後の最後まで真相は明らかにされないものとなっている。そして、真相については人間の感情の根深いところに立ち入るものとなっており、この事件もいかにもカドフェル・シリーズらしい作品であると知らしめられることとなる。

 物語の背景である、戦争の行方については小競り合いはあるものの、本書では大きな展開には至っていない。とはいえ、物語としてもミステリとしても、本書もなかなか見ごたえのあるものであった事は確かである。


デーン人の夏   6点

1991年 出版
2005年11月 光文社 光文社文庫

<内容>
 以前、シュールズベリ修道院に在籍していたマーク助祭が使者として、セント・アサフの司教区が復活するという報を携え、カドフェルらのもとへとやってきた。さらにマークはウェールズにも、その報を伝えるために、カドフェルの同行を依頼する。そして、二人はウェールズへの旅へと赴くことに。使者としての仕事はあっさりと終えることができたものの、その領地内で勃発した兄弟の抗争に巻き込まれる。自らの境遇に不満を抱いた弟がデーン人の船団を率いて、兄が治める領地へやってきたのであった。果たして、カドフェルらの運命は!?

<感想>
 なんとカドフェルのシリーズでは珍しく、カドフェルが以前弟子であったマークとともに、使者として旅に出て、そこで事件に遭遇するという内容。今回もカドフェルらは騒動に巻き込まれるのだが、いつものスティーブンとモードの抗争とはまったく別の戦いが今作の背景となっている。

 特にミステリ作品として、あれこれ頭を働かせるようなところはないのだが、当時の外国との抗争時にどのようなやりとりがなされるのかということを興味深く読める内容になっている。カドフェルはデーン人の陣営に囚われることとなるものの、そこで派生する人質に対する身代金のやりとりについては、その時代の交渉方法というものをうかがうことができる。

 今作は特にシリーズ作品として動きはないように思われたのだが、唯一気になったのはカドフェルの心持。シュールズベリの修道院を抜け、久々に旅をし、しかもデーン人らの船乗りと会うことによって、徐々にカドフェルの血が騒ぎ出すのではないかという風に感じられたのである。あくまでもカドフェルはシュールズベリ修道院が帰る場所であると本書の中でも語っているのだが、最後の作品のタイトルが「背教者カドフェル」と付けられているのを見ると、なんら一波乱あるのではと、つい、想像してしまう。


聖なる泥棒   6点

1992年 出版
2006年01月 光文社 光文社文庫

<内容>
 ラムゼー修道院は戦乱のさなかに現れた略奪者によって廃墟と化してしまった。その略奪者の首領が亡くなり、ある程度治安が落ち着いたということもあり、ラムゼーは再建・復興へと動き始めた。そうしたなかでラムゼーから派遣された修道僧がシュールズベリにやってきた。彼はシュールズベリや、その他の地域からも布施を集め、いざラムゼーに帰還しようとしたのだが、途中で盗賊に盗まれてしまうことに。しかも、その盗まれたもののなかに、河川の氾濫の際に、どさくさにまぎれてシュールズベリの修道院から盗まれた聖女の聖骨箱が含まれていたのである。そして、この事件をきっかけに起きたひとつの殺人事件。これらの事件の嫌疑は、ラムゼーから来た見習い修道士にかけられることとなったのだが・・・・・・

<感想>
 今作では今やシュールズベリ修道院の象徴であり、カドフェル・シリーズにおいても重要な位置を占めている“聖ウィニフレッドの聖骨箱”が盗まれるという事件が起きる。とはいえ、意外と早くその行方は明らかになり、すぐにシュールズベリに戻されることとなるものの、その聖骨箱の今後の行き先を巡って静かな争いが繰り広げられることになる。その争いを治める方法として“聖書占い”という、まさに神頼み的な手法がなされる場面が本書の一番の特徴とも言えよう。

 こうしたなか、カドフェルは相変わらず聖骨箱の中身が開けられないかやきもきしたり、若い男女の先行きを心配をしたり、事件の謎を捜査したりと、忙しく立ち回ることとなる。

 今回も、このシリーズらしく勧善懲悪のもとでの大団円となる。肝心の最後に明らかとなる犯人像について、あまり書ききれてなかったような気がするが、その点を除けば、相変わらずよくできたシリーズ作品と感心させられる内容であった。

 もう、あと一冊で終わりとなってしまうのだが、最終巻近くなってきてから戦乱の行方についての話があまり進められなくなってきたように思える。そういったなかで、今作の登場したレスター伯爵という人物が、長い戦乱に人々が飽き飽きしているなかで、次の世代に向けてちゃくちゃくと準備していく必要があるというようなことを説いており、今後の希望の兆しを感じさせるような内容が込められている。

 最終的には、こうした混乱のなかにある情勢も落ち着くこととなるのだろうか? もったいないながらも、色々なことが気になる最終巻にそろそろ着手してゆこうと思っている。


背教者カドフェル   7点

1994年 出版
2006年03月 光文社 光文社文庫

<内容>
 スティーブン王と女帝モードの争いが続く中、モード側についていたフィリップ・フィッツロバートが寝返り、スティーブン王側に味方するという事件が起きた。その事件の際に、多くの者が捕虜となったのだが、なかには行方知れずとなったものもいた。そのひとりにオリヴィエ・ド・ブルターニュがいた。実はこのオリヴィエという人物はカドフェルの血をわけた息子であった。カドフェルは息子の行方を捜すために、ヒュー・ベリンガーとともに、和平会議の場へ行く事の許可を修道院の院長にとりつける。ただし、ヒュー・べリンガーと共に戻らなければならなかったのだが、カドフェルは期日までに見つからなくても、教会の名に背き、背教者となることを覚悟で息子を救い出すことを決意する。

<感想>
 さすがにカドフェル・シリーズのラストをかざるだけあって、登場人物は豪華絢爛である。スティーブン王や女帝モードを始めとして、他にも過去のカドフェル作品に登場してきた人物らが再登場を果たしている。そんななかで、特に注目すべきはカドフェルの息子のオリヴィエである。彼が行方知れずとなったために、カドフェルは教会の名に背いてまでも、彼の無事を確認しようと旅立つことを決意するという内容。

 そのような決意のなか、カドフェルとヒュー・ベリンガーが向かった和平会議の場では殺人事件が起き、その事件を発端として、誘拐事件が起き、さらには攻城戦までへと発展してゆくことになる。

 今作ではカドフェルが巻き込まれる事件のみではなく、戦乱が続く現状を打開しようと考える人々の思惑が見え始めているのも特徴。前作と今作の両方にわたって登場しているロバート伯爵や、今回の事件の中心となるフィリップ・フィッツロバートらの行動は戦争さなかにおける大きな分岐点となる行動のようにも思われる。

 そういう大きな事件が起こる中で、カドフェルはいくつものトラブルを解決しながら、息子の行方を探し出し、おおきな事件そのものもなんとか良い方向へと解決しようと、八面六臂の活躍を見せることに。

 今作もそれなりの大団円を向かえ、カドフェル・シリーズのラストを迎える作品としてはふさわしいと言えるだろう。ただ、スティーブン王と女帝モードの戦争については、まだまだ混迷を極める状態であり、このへんの解決までは考えていなかったのかなと思いながら読んでいたのだが・・・・・・

 なんとあとがきを読むと、このシリーズは実は、これでおしまいではなく、著者のエリス・ピーターズは続きを書いていたのだが、その途中で亡くなってしまったとのことらしい。ようするにこのシリーズは決してこれが最終巻ではなかったということのようである。

 正直言って、続きがあれば読みたくてしょうがないところなのであるが、それはかなわぬ夢ということであろう。とはいえ、この巻で終わりだと言われても、決して違和感のないエンディングでもあるので、充分満足させられる出来ではある。

 このカドフェル・シリーズという作品、あまり国内では知られていないと思えるのだが、このシリーズを知らずにいるのは非常にもったいないことと言えよう。是非とも、廃刊になったりする前に、入手しやすいうちに手に入れて読んでもらいたい作品である。


修道士カドフェルの出現   

2006年05月 光文社 光文社文庫

<内容>
 「ウッドストックへの道」
 「光の価値」
 「目撃者」

<感想>
 これで本当に最後の最後。カドフェル・シリーズはこの短編集をもって終わりとなる。そう思いながらこの短編集を読んでいくと、シリーズの過去を振り返る事ができ、なんとなく懐かしい気持ちになる。

 短編の内容としてはシリーズにおける重要な作品が「ウッドストックへの道」。この作品はカドフェルがいかにして修道士になることを決めたかが描かれているものである。これは文章だけでなく、映像で若き日のカドフェルを見てみたいと思わせる作品。

 あとの2編についてはさほどこのシリーズにとって重要とは感じられなかった。というのも、元々このカドフェル・シリーズというのは、短編で使えそうなネタをいくつか組み合わせて、そうしてひとつの大きな物語にしていくという感じがするので、短編にする意味が薄いと思えるのである。

 そんなわけで、残りの2編に関してはカドフェル作品の一場面も抽出したような感じの内容となっている。

 とはいえ、これが唯一のカドフェル作品の短編集なので、ここまでカドフェル・シリーズを追ってくれば、読み逃すことなど絶対に考えられないのだが。




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