Craig Rice  作品別 内容・感想

時計は三時に止まる   6点

1939年 出版
1987年05月 光文社 光文社文庫(「マローン売り出す」)
1992年01月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 バンドのマネージャーを務めるジェイク・ジャスタスはバンド・リーダーのディックが駆け落ちをするということで、等の相手ホリー・イングルハートが来るのを待っていた。しかし、いくら待ってみても来ないので彼等がホリーの家に出向いてみると、イングルハート家の当主アレグザンドリアが殺され、容疑者としてホリーが逮捕されたというニュースを聞きことになる。ホリーは犯行時刻の状況をよく覚えておらず、言っていることが支離滅裂で警察の心象も非常に悪い。そしてその犯行時に屋敷中の時計が全て三時になっているという不可解な状況まで起きていた。
 ジェイクはその場に乱入してきたホリーの友人のヘレン・ブランドと共に酔いどれ弁護士のマローンにホリーの弁護を頼みに行くのであったが・・・・・・

<感想>
 まぁ、何とも印象的なドタバタ・コメディである。といっても、もちろん本書はミステリーとしても成立している。しかし、なぜ本書がコメディ色が強いと感じられるかというと、とにかく登場人物らが事件について考えない。ちょっと考えたかと思えば、すぐに場所を移動して酒を飲み、さらなるドタバタに巻き込まれてしまうという展開がずっと続けられる。全ての時計が三時を指して止まっているとか、考えるべき謎はたくさんあるのに本当にあきれるほど事件について言及しない登場人物たちである。

 そういった中で、ただ単に酔っ払っているようにしか見えなかった弁護士のマローンは事件についてちゃんと考えていたようであり、最終的な解答は彼によってもたらされる事となる。本書が“マローン&ジェイク&ヘレン”シリーズの最初の作品となるのだが、本書を読んだ限りではジェイクとヘレンがさんざん事件をかき回しながらあちこち首を突っ込み(もちろんその中にマローンが含まれることもあるのだが)、最終的にはマローンが事件の謎を解くという具合になっているのではないだろうか。

 それはともかく、本書は一見複雑な事件であるように見えて、事件が解かれれば不可解な謎が一気に晴れて一筋の真相が見出せるものとなっている。読んでいるときは、容疑者となるべき人物がやたらと少ないので最終的な展開が全く読めなかったのだが、終わってみるとなるほどという他はない具合に仕上がっている。

 あくまでもミステリーとして期待したいシリーズなのであるが以後の作品はどんな具合に仕上がっているのか? 読んで行くのが恐いようでもあり、楽しみでもある。


死体は散歩する   6点

1940年 出版
1989年12月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 ラジオのスター歌手ネル・ブラウンのマネージャーをやっているジェイクはネルの姿を捜していた。「脅迫されている」と訴えてたネルのことが気になり、ネルの元恋人ポール・マーチの家へと足を運ぶジェイク。そこで見たものは銃殺されたポールの死体であった。騒ぎを起こしたくないジェイクはそのまま立ち去る事に。翌日、大騒ぎになるのかと思ってたジェイクは、例の部屋からポールの死体が消えてしまった事を知るはめに! 予想だにしない珍事に会い、ジェイクは酔いどれ弁護士マローンに相談する事に。

<感想>
 シリーズ2作目となる本書であるが、このシリーズには本格推理のスタイルよりも、今回の作品のようなサスペンス・ミステリーの形態のほうが合っていると感じられた。1作目となる前作では、最初に一つの大きな謎が提示されたものの、それだけで引っ張っていくというのは雰囲気的にもきつかったように感じられた。しかし、本書では次から次へと死体が発見され、その途中をドタバタ劇によりつなぐという、極めて自然なスタイルのままラストの事件解決まで持ち込むことができたように思えた。

 と、そんな感じでなかなか楽しむことができた一冊であった。ライスの本はこれから出版された順に読んでいこうと思っているのだが、2冊目にして本書はなかなかの佳作であると感じられた。しかし、ライスの著書のなかで特に本書が持ち上げられるということはなかったように思えるので、これはまだまだ面白い本が眠っていることだろうと続きを期待しながら読んで行きたい。


大はずれ殺人事件   6.5点

1940年 出版
1977年04月 早川書房 ハヤカワ文庫

<内容>
 ジェークとヘレンはようやく結婚したのだが、そのパーティーの席上で、奇妙な賭けを持ちかけられる事となった。シカゴ社交界のナンバー・ワン、モーナ・マクレーンが「絶対つかまらない方法で人を殺してみせる」と断言したのである。しかも、もしその謎を解けば彼女が所有するナイト・クラブを進呈するというのだ。
 そして翌日、街中で突然一人の男が何者かによって撃ち殺されると言う事件が・・・・・・

<感想>
 マローン弁護士シリーズも三作目になって登場人物らともお馴染みになり、よりいっそう内容を楽しむ事ができた。今作では、衆人環視の中での殺人事件を扱っている。

 と、出だしでいきなり衆人の中での殺人事件が起こるので、それをどのように行ったのか? という事が一番の焦点かと思っていたのだが、残念ながらそこは大きなポイントではなかった。

 本書で大きく取り上げているのは、“動機”である。その殺害された男を誰が何故、殺さなければいけなかったのか、という事を巡るミステリーとなっている。不可能犯罪を解く内容と思っていたので、そういう意味では不満であったが、ストーリーとしては良くできていて面白かったと思う。

 本書は一級本格推理小説とは呼び難いにしても、一級サスペンス・ミステリーと呼べる作品である。


大あたり殺人事件   6点

1941年 出版
1977年11月 早川書房 ハヤカワ文庫

<内容>
 ジェイクとヘレンは新婚旅行でバミューダへ行き、ひとり寂しく酒場を転々とするマローン。しかし、そのマローンが酒場で酒を飲んでいたとき、彼を訪ねてきた者がいた! その男はマローンの名を呼びながら、彼に114と書かれた鍵を渡し、そのまま息絶えた。遺されたのは身元不明の刺殺死体。その謎を追おうとしていた矢先、ジェイクとヘレンが旅行先で喧嘩をし、別々に帰ってきており、マローンの元へと訪ねてきた。二人は前回の事件であやふやになっていた、モーナ・マクレーンとの賭けに勝って、カジノをいただくのだと息巻くのであるが・・・・・・

<感想>
 そういえば、前作の「大はずれ殺人事件」の話って、きちんと片が付いていなかったんだなと、いまさらになって思い出す。今回起こった身元不明の刺殺事件とモーナ・マクレーンとの賭けがどのように結びついていくのかが今作のポイントといえよう。

 本書は話としてはなかなか面白い。事件が次々と起こるものの、死体は身元不明のままで、しかも同じ名前を持つ死体があらわれたりと、その全貌はなかなかつかめない。しかも、モーナ・マクレーンを取り巻く人々たちの不可解な行動がさらに付け加えられ、事件はまさに闇をつかむかのような感触としかいいようがないものとなっている。

 今回は物語の始めがマローンひとりの状況から始まり、今までの作品とは少々趣が違うようにも感じられたのだが、結局は途中からジェイクとヘレンが加わり、いつもどおりのドタバタ・ミステリが展開されてゆく。このシリーズならではのユーモアさ加減もいつもに勝るとも劣らない作品となっていた。

 そして肝心のミステリとしての内容といえば、話としてはうまくまとめているとは思えるものの、根拠とか、伏線とかそういったものはどがい無視したような作品となっている。ゆえに、犯人を当ててやろうとか、そういった面持ちで読むのではなく、心行くまでこの作品を楽しもうという感じで読んでもらいたい、そんな本である。


暴徒裁判   6点

1941年 出版
2005年05月 早川書房 ハヤカワ文庫

<内容>
 ジェークとヘレンの夫婦は旅行で訪れたジャクソン郡の役場で釣りの許可証をもらおうとする。その役場の中を案内してもらっている最中に、突然殺人事件に遭遇することに。被害者は元上院議員であり、何者かに銃殺されたようなのだが、兇器となるピストルは残されていなかった。さらには、よそ者だという理由だけでジェークとヘレンは容疑者扱いされることに!! そんな二人から助けを求められた弁護士のマローンははるばるジャクソン郡まで出向いてゆく。マローンはなんとか二人の容疑を晴らすものの、事件はさらに連続殺人事件へと発展してゆくことに・・・・・・

<感想>
 今回は元上院議員が射殺されるところから始まり、銀行が爆破され、さらなる殺人事件が続きと、速いスピードで物語が展開されていく。相変わらずの主人公達のほのぼのとした雰囲気の中でノンストップ・サスペンスが展開されてゆくのだが、それが見事にマッチしていて、なかなか良い作品に仕上がっている。本書はライスの代表作とまではいかないまでも作家活動の油の乗った時期に書かれた佳作といえるであろう。

 あえて本書の欠点を挙げるとすれば、登場人物のキャラクタ造形というものを挙げておきたい。今回はジャクソン郡が舞台と言う事で、そこに出てくる人々が中心となるはずなのだが、特にこれという印象の強かった人物を思い起こす事はできない(一番最初に登場する<ボタン穴>くらいか)。

 というのも人物造形に関しては、すでにシリーズ主人公であるマローン、ジェーク、ヘレンという三人がいて、彼らの個性にジャクソン郡の人々の個性が負けてしまっているのである。さらに中盤から後半にかけてはマローン独りにスポットが当てられており、なおさら他の人々の印象が薄いものとなっている。もう少し、このへんのバランスをうまく書いてくれれば、もっと良い作品になったのではないかと感じられる。

 とはいえ、シリーズものならではの安定した作品となっているので、充分お薦めできる作品である。また、今回はマローンに新たな相棒もできたようなので、その点にも注目していただきたい。


こびと殺人事件   6点

1942年 出版
1994年05月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 晴れてナイトクラブ<カジノ>のオーナーとなったジェイクとその妻ヘレン。<カジノ>の改装も終わり、偉大なこびと・オットーのショーにより店内は盛況に包まれる。順調ともいえた経営であったが、その<カジノ>の目玉であったオットーが死体で発見されることに! ジェイクらは<カジノ>の営業が停止されないようにと、近くにあったコントラバスのケースの中に死体を隠しておく。すると目を放した隙にコントラバスのケースがなくなってしまう。そして時間を置いて、別々の場所で発見される、オットーの死体とコントラバスのケース。いったいこの事件の背景には何が・・・・・・

<感想>
 こびとのオットーの死体を巡る殺人事件がドタバタ劇で展開されるという内容。ミステリとしての内容もそれなりに色濃く書かれながらも、コメディとしても実に興味深く描かれた楽しい作品となっている。ただし、話が展開されるにつれて、ドタバタ劇が主になって、序盤に提示された本格ミステリとしての謎が少々なし崩しになってしまうというのはいつものことか。

 最初は12本のサイズの違うストッキングとか、消える死体とか、本格ミステリらしい要素が次々と提示されてゆく。しかし、中盤にかけてはそういった謎はどこへやら、死体となって発見されたオットーを巡る詐欺事件が徐々に明らかになって行くという展開になる。そこで次から次へと死体は発見されて行き、スピーディーに物語が進んでゆく。

 そういった展開の中で、シリーズものとして登場するいつもの人物達が幅をきかせ、このシリーズものらしいドタバタコメディがさらに楽しさを盛り上げてゆく。事件の背景となるものは、かなり暗くなりそうな内容であるにもかかわらず、登場人物らの性格的な明るさが作品に暗さをもたらさず、まるで<カジノ>でのショーを描いているかのように、明るい雰囲気のまま盛り立てられてゆく。

 そして、そのドタバタ劇により本格ミステリとしてはかなり薄まってしまうものの、犯人の提示に関してはきちんと結末が付けられている。全体的な雰囲気をそこなわずに、ミステリとしてもそれなりに帰結させているところは、さすがといってもいいのではないだろうか。

 ただし、はやりこのシリーズは本格ミステリというよりは、ユーモア・ミステリという位置付けで読むべき小説であろうと思われる。


セントラル・パーク事件   6点

1942年 出版
2006年04月 早川書房 ハヤカワ文庫

<内容>
 公園で人々の写真をとり、それを観光の思い出として売りつけながら、その日暮らしの生活を送るビンゴ・リグズと相棒のハンサム。彼らはある日、公園でひとりの老人の姿を見かける。なんとその老人はハンサムの優れた記憶力によると、7年前に高額の保険をかけたまま忽然と行方不明になった人物であった。しかも、その老人があらわれなければ、あと一週間で高額の保険が支払われることとなるのだ。ビンゴはこれを利用して大金をせしめようとするのだが・・・・・・

<感想>
 この作品はマローン弁護士シリーズではなく、ビンゴとハンサムという凸凹コンビが活躍するシリーズ。この作品も含めて三作品に登場しているようだ。主人公のビンゴという人物が一見、マローンにだぶるような気もするが、どちらかといえばフランク・グルーバーが書いた「海軍拳銃」という作品に出てくるジョニイとサムを連想させるようなコンビである。また、お人よしのハンサムは、一度見たものは忘れないという優れた記憶能力を持ち合わせている。

 本書はユーモア・サスペンスというような内容。話の序盤で殺人事件は起こるものの、それを論理的に検証するというようなことはなく、次から次へと新たな厄介ごとが置き続けているうちに、最終的になんとなくまとまってしまうというようなもの。ただし、最終的な解決にはミステリ的な要素も付け加えられているので、充分に楽しめる。とはいえ、真犯人についてはヒントがあからさまなので、感の良い人はすぐに気づくことであろう。

 何はともあれ、ライスが描くユーモア・ミステリ作品であるのだから、楽しめないはずがない。しかも新装版として最近ハヤカワ文庫で出たばかりなので、読みやすさも抜群である。気軽に読める海外ミステリということで、どうぞご覧あれ。


眠りをむさぼりすぎた男   6点

1942年 出版
1995年06月 国書刊行会 世界探偵小説全集10

<内容>
 快活な大金持ちのフランクと嫌われ者のジョージ、フォークナー兄弟の館レイヴンズムーアの週末パーティーに招かれたマリリーは、翌朝、ジョージが寝室で喉を掻き切られているのを発見した。そもそも、パーティーの顔ぶれからして妙だった。辣腕の刑事弁護士、元コーラスガール、万事控えめな英国人夫婦、正体不明の謎の小男、居合わせた人々はみな、ジョージに弱みを握られ、脅迫まがいの扱いを受けていたらしい。その証拠品を取り戻そうとして寝室に忍び込んだ面々は、それぞれジョージを発見しては秘密の露見を恐れて、パーティーが終わるまで口をつぐんでいようと決心する。交錯するそれぞれの思惑と、高まるサスペンス。そして一日の終り、皆が帰路につこうとしたときにフォークナーが殺される。驚く皆を待っていたのは・・・・・・。そしてさらに、一同を待っていた驚くべき結末とは?

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<感想>
 少々ミステリー仕立てにしたメロドラマといったところか。全編のほとんどがジョージによって脅迫されていたことを他の人物に打ち明け、そして肩の荷が下り、夫婦仲や恋人との仲がさらに深まったという内容が語られている。そしてそこには常にジョージの死体が存在している。ただ、最後の最後であっと驚かせる結末が待っているのだが、それも消化不良気味である。できればそこからもう一ひねり欲しかった。そのもう一つがあればかなり高く評価されたのではないだろうかと考えてしまう。せっかくどんでん返しを仕掛けたのに完全に決まる前に幕が下りてしまったのが実に残念だった。それによっては前半の退屈さも許されたのに・・・・・・


ママ、死体を発見す   6点

1942年 出版
2006年04月 論創社 論創海外ミステリ48

<内容>
 元ストリッパーで、現在はブロードウェイ女優であるジプシー・ローズ・リーは結婚したばかりの夫・俳優のビフと共に新婚旅行へと出かけていた。ただし、夫婦水入らずではなく、ローズ・リーの母親や元の同僚らを引き連れての大所帯での旅であった。しかも、母親が自分達の宿泊場所であるトレーラーで死体を発見したことから大騒ぎへと発展することに!! ひとつの死体が発見された後に、新たに発覚する殺人事件。いったいこれらの事件は何を目的としたものなのか!?

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<感想>
 クレイグ・ライスがジプシー・ローズ・リー名義で出版したとされる作品。ただし、ジプシー・ローズ・リーという人実在の人であり、本人が実際に書いたという説もあるらしい。本当のところはどうなのかよくわからないが、本書を読めば、これがマローン弁護士シリーズと作風が一緒であるということがすぐにわかる。ゆえに、実際にライスが描いていないにしても、なんらかの形で関わっているということは事実なのであろう。

 主人公のローズ・リーと夫のビフが新婚旅行先で次々とやっかいな事件に巻き込まれていく騒動を描いた作品。ただ単に、事件を描くというわけではなく、主人公が関わっているショービジネスの世界を取り入れているところが特徴とも言えよう。とはいえ、これはこれで従来のライスの作風でもあると言えないこともないのだが。

 基本的にはドタバタ劇が続いていくうちに、やがて事件が解決されてゆくという内容。結末を見てみれば起きていたのはごく普通の事件と言えなくもないのだが、主人公の周囲にいるトラブルメーカー達のせいで、どんどんとややこしいほうに事件が進んでいくことになっていったという感じ。この作品ではローズ・リーの夫のビフが探偵役となり、最後には事件の謎の全てを明かすという構成がとられている。

 本書はローズ・リー名義の第2作目であり、1作目に登場した人物も多々出ているようなので、できれば順番に読んでいきたかったところ。今のところ、第一作目の「Gストリング殺人事件」は入手困難なようである。

 クレイグ・ライスの作風が好きだという人は、こちらも同様にお薦めしておきたい。ドタバタコメディ風のミステリがお好きな方はどうぞ。


素晴らしき犯罪   6点

1943年 出版
1982年02月 早川書房 ハヤカワ文庫

<内容>
 ニューヨークに来ていたジャスタス夫妻と弁護士のマローン。彼らが二日酔いを抱えながら目を覚ますと、同じ部屋にデニス・モリスンという青年がいた。昨晩、酔っ払っていた彼を、マローンらが部屋へ引き連れてきたのであった。デニスが言うには、実は彼は昨日結婚したばかりで、部屋に妻を置き去りにしたまま酔っ払ってしまったのだと。デニスは慌てて、妻のもとへと向かったのだが、そこで彼が見たのはどこの誰とも知れない女性の死体であった。しかもその死体は首と胴体が切り離されており・・・・・・

<感想>
 いつもながらのマローン弁護士シリーズ。今作も安心して楽しめる内容になっている。

 今回は、首を切り離された死体と、行方不明になった花嫁の謎を追うという内容。マローンは早くシカゴに帰りたいと思いつつも、大金につられて事件の謎を解こうとする。ジェークは妻のヘレンを驚かそうと、作家デビューを試みるがうまくいかず、今回の事件の謎を解いて、作品のネタに使ってみようと考える。ヘレンは夫が何も言わずに度々留守にする様子を不審に思いつつ、誰もかまってくれないので単独で行動を始める事に。

 事件自体は魅力的ながらも、物語の途中では、ほとんど事件の捜査がなされていない(登場人物たちは、それなりに行動しているつもりなのだが、余計な行動が多すぎる)。そうして最後の最後に来て、一気に事件が解決へと向かっていくという、いつもながらの展開。

 事件についても、その真相についても、ミステリとして良い内容であるだけに、中盤でのミステリ的な展開が希薄なのが惜しいとも思える。とはいえ、こういう作風であるからこそ、陰鬱な事件を吹き飛ばすような明るさの中で、物語が進んで行ってくれている。また、あくまでもこれこそがライス流の作風なので、このシリーズでは、文句をつけるよりも素直にドタバタ劇を楽しむことこそが正しい読み方であろう。実際にこのドタバタ劇が楽しいということもまた事実である。


七面鳥殺人事件   5.5点

1943年 出版
1959年04月 早川書房 ハヤカワミステリ480

<内容>
 小金を儲けた写真師のビンゴとハンサムの二人は、買ったばかりのロードスターを飛ばして、一路ハリウッドを目指していた。一獲千金を狙っていた二人は、道中で七面鳥を車で轢いたことにより、厄介ごとに巻き込まれることに。七面鳥にまつわる詐欺にあい、殺人事件に巻き込まれ、隠された大量の金貨の存在を聞きつけ、なぜか小金が奪われ、挙句の果てに脱走犯たちに脅される羽目に・・・・・・。ビンゴとハンサムの行く末は!?

<感想>
 クレイグ・ライス描く、写真家のビンゴ&ハンサムのシリーズ作品。このシリーズは全部で3作あり、他に「セントラ・ルパーク事件」と「エイプリル・ロビン事件」とがある。本書は、この2つの事件の間の話である2作目となる作品。

 基本的には巻き込まれ型のミステリといったところか。隠された大量の金貨にまつわる事件に主人公の二人が巻き込まれてゆくこととなる。ただ、事件の展開は、結構複雑。次から次へと事件が起き、それが大きいものであったり、小さいものであったり、話の主題に関係するものもあれば、あまり関係のないようなものまで色々。そんな感じで、次から次へと色々な形で話が展開してゆくので、ややこしい。

 事件の真相というか、最後のまとめについても、きっちりとまとめられているのかは、とにかく微妙。それなりに伏線は回収されてはいるものの、どこかなし崩し的な解決というような感触がやや強い。というよりも、事件に対して精密性を求める作品ではなく、ドタバタ劇を楽しむという趣の作品なのであろう。片意地張らずに細かい伏線のことなど忘れて、主人公らと共に楽しんで右往左往するべき作品・・・・・・だと思われる。


もうひとりのぼくの殺人   6点

1943年 出版
2000年03月 原書房 ヴィンテージ・ミステリ

<内容>
 走る列車の中で目を覚ましたジェフリー・ブルーノ。彼は今自分がどこにいるのか、今まで何をしていたのかを思い出すことができなかった。自分のポケットを探ると、そこには保険外交員ジョン・ブレイクと書かれた名刺が入っていた。ブルーノは、ふと置いてあった新聞を拾い上げ見てみると、資産家の老人を殺害した容疑でジョン・ブレイクが指名手配されていることを知る。しかも、ジョン・ブレイクの顔写真は、何故かブルーノのものであったのだ!

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<感想>
 都合良く記憶を亡くすというミステリ作品はよくあるものの、知らない間に自分が殺人犯として容疑がかけられているという、不安を誘うようなスリラーめいた導入部は成功していたと思える。そこから主人公は自身の二重生活の真相を確かめるべく奔走することとなる。

 この作品は、思いのほか結末がうまくできていると感じられた。うまく伏線を回収し、あいまいな点を残すことなく、きっちりとした幕引きで終わっている。ただ、その分、導入と結末の間の途中の部分が微妙に思えたのが残念なところ。途中の展開が微妙であったので、まさか結末がこれほどきちんとハマるとは思いもよらなかった。

 後半へきて、何故か複数の登場人物が新たに出てきて、各それぞれの過去や思いが中途半端な形で語られることとなる。できれば、主人公であるブルーノの視点のみで全てを描いてもらいたかったところ。うまく出来てはいるものの、やや惜しいと感じられた作品。


スイート・ホーム殺人事件   7点

1944年 出版
1976年 早川書房 ハヤカワ文庫

<内容>
 カーステアズ家の隣、サンフォード家にて夫人が銃殺されるという事件が起きた。カーステアズ家の三人姉弟、しっかりもののダイナ、頭の良いエープリル、ちゃっかりしてていたずらっ子のアーチーらは事件の謎を作家である母親に解かせて、母の小説がたくさん売れるようにと計画する。彼らは警察の捜査をかきまわし、容疑者と黙される者たちに近づき、事件の真相を探ろうとするのだが・・・・・・

<感想>
 クレイグ・ライスの代表作といえばマローン弁護士シリーズのはずなのだが、日本ではあまり知られていない。それよりも日本で一番なじみなライスの作品といえばノン・シリーズであるこの「スイート・ホーム殺人事件」であろう。この作品は長きに渡って廃版にならず、入手しやすいオールタイム・ベスト級の作品に位置づけられている。

 一応、既読ではあるのだが、昔読んだときの記憶は全くない。というわけで新鮮な面持ちで読む事ができたのだが、実際に読んでみて、これは確かに長年にわたって残っていることが決して不思議ではない作品と痛感させられた。

 ただ本書が万人向けかというとそういうわけでもないように思える。一見、子供向けの作品であるようだが、これは中学生以下の子供が読むのはちょっとつらいかもしれない。全編ユーモアに満ち溢れた内容にはなっているものの、サスペンス・ミステリとして決して手の抜かれる事のないできになっているので、大人向けの作品であると感じられた。

 ただそうした中、子供がいる大人がこの作品を読めば、共感とまでは言わぬまでも、一種の子供との生活における理想というものを垣間見えることができるのではないだろうか。イタズラ好きでやんちゃながらも、登場する三人の姉弟たちは常に母親のことを大切に思い、その母親のためにと事件解決に奮闘してゆく。こういったある種の家族の理想体型のようなものが描かれているところこそが、本書が長きにわたって読まれ続けられていることの秘密ではないかと考えられる。

 また、それだけではなくミステリ小説としてもきっちりと出来ているということも大切な一面であろう。多くの怪しい容疑者を用意し、それぞれにドラマを持たせ、姉弟たちが彼らの問題を解決していくという構成は読んでいて実に爽快であった。

 まだ未読の人はぜひとも一度は読んでおいてもらいたい作品である。特に子供を持つ親には強くお薦めできる作品である。


ジョージ・サンダース殺人事件   5点

1944年 出版
2015年07月 原書房 ヴィンテージ・ミステリ

<内容>
 有名俳優ジョージ・サンダース。彼が新たな映画を撮影している最中、事件が起こった。幌馬車隊の襲撃シーンが終わった後、エキストラの一人が銃弾を受けて死んでいたのである。発砲された拳銃はどうやらサンダースが所持していたはずのもの。しかし、その銃がどこへいったのか不明。自分が容疑者となる可能性を考え、サンダースは映画の役のように自らが探偵となって事件を解決しようとするのであるが・・・・・・

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<感想>
 クレイグ・ライスがジョージ・サンダース名義で書いた作品。ジョージ・サンダースは実在の人物で、当時の有名俳優。ライスが映画脚本を書く仕事をしたこともあるというからみからか、このような作品が生まれたよう。

 この作品、導入を読むと、まるでエラリー・クイーンの「アメリカ銃の秘密」のよう(ちょうど読んだばかりなので、特にそう感じた)。撮影中に事件が起き、亡くなった凶器(銃)の行方、そして事件の謎が撮影されたフィルムに隠されているという共通点が満載。

 とはいえ、それ以外に注目すべき点があるかというと、うーん、と言わざるを得ない。何しろ、主人公がやり慣れない探偵活動を始めたせいか、その捜査がまったくうまくいかない。罠を仕掛け、建物に潜んで犯人を待てば、そこへ来る怪しい人物が10人近く。おまけに、隠していた決定的な証拠を幾度も盗まれたりと、何もかもがうまくいなかい。そうこうしているうちに、なんとなく真犯人が明らかになったという感じ。

 当時としては、ジョージ・サンダースという役者が自分で書いた作品という事で話題になったということなのであろうか。さすがに、現在の日本ではジョージ・サンダースに思い入れはないので、クレイグ・ライスが書いたというミステリマニアのみのための作品でしかない模様。もう少し、映画の世界とか、撮影の場面を魅力的に描いてくれたら、今の世でも楽しめたのではないかと感じられる。あと、蛇足ではあるがこの邦題のタイトルの付け方は明らかにおかしいのではないか。ジョージ・サンダースが殺害されるわけではないので。


幸運な死体   5点

1945年 出版
1982年01月 早川書房 ハヤカワ文庫

<内容>
 暗黒街のボス、ビッグ・ジョーの愛人であったアンナ・マリーはビッグ・ジョーを射殺した罪の濡れ衣をきせられ処刑されることとなる。しかし、すんでのところで真犯人が見つかり、マリーは命を取り留める。彼女は、自分を罪に陥れた者を脅そうと、自らを死んだことにして、幽霊として世間へ出ることを決意する。マリーは弁護士のマローンに相談し、手助けをしてもらうことに。
 一方、ナイト・クラブの経営者となったジェイクは悩んでいた。彼のナイトクラブが“保護ゆすり”にあっているのである。このままだと経営が破たんしてしまう恐れがあるので、ジェイクはマローンに相談するのであるが・・・・・・

<感想>
 今作は事件の話というよりは、マローンの恋の物語とでもいうべきか。物語における謎というものがはっきりしないのでミステリとしては微妙に感じられ、やや読みづらかったような気がする。また、今作はジェイクとヘレンの活躍が少なく、マローンが中心の物語になっていたというのもまた特徴のひとつか。

 アンナ・マリーが幽霊となって人々を驚かすことがメインと思いきや、そうでもなかったような気がする。実際、このマリーが何をしたいのかがいま一つはっきりせず、もやもや感がただようばかり。むしろ、作中のちょっとした出来事に思えた“保護ゆすり”に関する事件のほうが徐々に大きく取り扱われていくこととなる。

 最後はそれなりにうまく締めているものの、全体的にはいま一つという印象。今作でメインをはるべき、アンナ・マリーの存在がうまく生かし切れていなかったことが原因ではなかろうか。シリーズらしさは存分にでているものの、単品の扱いとしてはやや残念な部類。


第四の郵便配達夫   6点

1948年 出版
1988年11月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 シカゴの大金持ちロドニー・フェアファックスが住む家のそばの露地で郵便配達夫が3人立て続けに撲殺されるという事件が起きた。容疑者として30年前に亡くなった恋人からの便りを待ち続けるロドニー・フェアファックスが逮捕される。マローンはフラナガン警部から事件を知らされ、ロドニー老の弁護人となる。マローンは真相を探るべく調査を始めるのだが、彼自身も事件の被害者となり・・・・・・

<感想>
 タイトルからすると意味深なものを感じるのだが内容はそれほどでもない。3人の郵便配達夫が同じ場所で殺害されるという事件が起きる。通常であれば、動機が謎となるべきところなのだが、そこは序盤で明らかにされてしまう。とある郵便物を届けてもらいたくない故と。読んでいる方としては、それだけの理由で人を殺す動機になるのか・・・・・・と。

 その後は、いつものようなマローン、ヘレン、ジェイクによるドタバタ劇が繰り広げられ、最終的には犯人が明らかになるという展開。まぁ、このシリーズに関しては厳密なミステリを期待するよりも、こうした愉快な物語を楽しむというスタンスであるべきなのだろう。

 よって、マローンは無事に誰かから金を借りることができるのか? もしくはマローンが拾った野良犬は、最終的にどこに落ち着くのか? ジェイクの水疱瘡の病状は? ということを気楽に見守りながら、シリーズキャラクターが奔走する様子を堪能してもらいたい。


居合わせた女   5点

1949年 出版
1961年02月 早川書房 ハヤカワミステリ618

<内容>
 ロサンゼルスの遊園地にて、観覧車のなかでひとりの男が死んでいるのが発見された。後に、被害者は賭博場を経営していたボスであることが判明。彼は何故殺害されたのか? ちょうど男が殺された時間、近くの似顔絵描きをやっていたところに、ひとりの女が客で来ていたことが判明する。位置的にその女が何かを目撃していたのではないかと考えられ、殺人課の主任アート・スミスは女の行方を追う。一方、監獄から出たばかりの男、トニイ・ウェップも女の行方を捜し始めるのであったが・・・・・・

<感想>
 クレイグ・ライスによるノン・シリーズ作品。サスペンス小説というよりも、ノワール風に近いようにも感じられる。

 ノワール風ということで、もう少し登場人物が非情であればよいのだろうが、いつものシリーズの影響か、どこか人情風味が感じられてしまい、非情になりきれない人物ばかり。それが、この作品の中では物語を邪魔してしまっているようにも思える。

 はっきりいって、サスペンス風の物語を追っていくというよりも、雰囲気を楽しむ作品と思われる。よって、もっと非情な雰囲気の男と女、それを追う刑事という人物像がもっとしっかりしていれば、読むべきところがあったかもしれない。ミステリとしては見るべきところが少ないため、どっちつかずで終わった小説という感じ。


わが王国は霊柩車   6点

1957年 出版
1965年03月 早川書房 ハヤカワミステリ880

<内容>
 マローン弁護士は、全女性のあこがれである化粧品モデルのデロラ・ディーンから相談を受けることに! デロラに会えるということで期待して化粧品会社へと行ったのだが、マローンがそこで見たものは・・・・・・実はデロラは一人の女性ではなく、5人の女性の各パーツを合わせて合成したものであったと! マローンに依頼してきた化粧品会社の女社長、ヘイゼル・スマックハワーから見せられたのは、ひとつの小包。その中には、手袋と共に防腐処理された中身までもが入っていたのだ!! さらに送られてくることになるパーツと行方不明になるデロラ・ディーンのモデル達、マローンは事件の謎を解決することができるのか!?

<感想>
 ライスの作品というと、ドタバタ劇を描いたユーモア作品でありながらも、どこか孤独や暗い雰囲気がつきまとうという作風。たいていは、ユーモアのほうが打ち勝ち、楽しげな作品になっていることが多いのであるが、この作品に関しては、暗い雰囲気のほうがやや強められているという感じがしてならない。

 事件はデロラ・ディーンという女優を巡る事件から始まっていくのだが、途中から方向転換し、化粧品会社を巡る争いにようになっていく。事件を解決しようとするマローンについても、相変わらず事件をかき回してくれるジェイクとヘレンにしても、どこか空回りが過ぎるような気がしてならなかった。最終的な事件の解決にしてもぎりぎりのところですべりこみセーフという感触。

 全体的な雰囲気としては、いつもながらのものであるのだが、なんとなくぎくしゃくした雰囲気も感じられる内容。いつものドタバタ劇があまりうまくはまらなかったという感じ。ライスの履歴を見ると、前作「居合わせた女」が出版された1949年にアルコール中毒により病院に入れられ、その後1957年に亡くなっている。この作品が出たのが1957年ということは、死後にためられていた作品が出版されたものということになるのだろうか。内容に関しても、ライスがたどってきた人生になんらかの影響が出ているのかもしれない。


マローン御難   6点

1957年 出版
2003年09月 早川書房 ハヤカワ文庫

<内容>
 いつものように天使のジョーの酒場で酒を飲み、待ち合わせまで時間をつぶしていたマローン。待ち合わせ場所である自分の事務所へ行くと、そこで依頼人の男の死体を発見することに。その男はマローンに敵意を抱くものであり、自分が容疑者とされないよう、マローンは死体を隠し、事件の隠ぺい工作を図る。すると、そこから誘拐事件がからむ殺人事件に巻き込まれる羽目となり・・・・・・

<感想>
 いつものマローン弁護士シリーズらしい事件。殺人事件の容疑をかぶせようという罠からぬけだそうとするマローン。それをジェークとヘレン夫妻がかきまわし、フラナガン警部がぶりまわされ、七転八倒しながらマローンがなんとか事件を解決へともちこもうとする。

 今作も、なんかややこしい内容。死体が現れたり、消えたり、現れて、さらには、どこからともなく色々な登場人物が現れる。この作品では特に、ちょっとしたキャラクターの登場が多すぎるというのが欠点のように思えた。しかも、ちょっとしたキャラクターばかりが多いと思える中で、実はそれらのなかに重要なキャラクターとなる人物が含まれていたりと、人物相関図を構築するのが難しい。反対に、需要なキャラクターと思われた誘拐された小生意気な少女に関しては、やけにあっさり目な扱い。

 基本的にはシリーズを通して読んできた読者のための作品という感じ。この作品から読む人は少ないと思うが、ライスの本を初めて読む人にはお勧めできる作品とは言い難い。今までライスの作品に触れてきた人にとっては、安定した内容と言えるのだが。


エイプリル・ロビン殺人事件   5.5点

1958年 出版
1959年11月 早川書房 ハヤカワミステリ524

<内容>
 ニューヨークに住んでいたビンゴ・リグスとハンサム・クザックは一獲千金を狙って、ハリウッドへとやってきた。そこで彼らは格安不動産を薦められることに。その家は、いわくつきの物件で、かつての大スター、エイプリル・ロビンが住んでいたもので、さらにその後、別の人が住んだときに失踪事件を起こしているというのだ。とりあえず、格安ゆえに二人は全財産のほとんどをはたいて、その物件を購入したのだが・・・・・・なんと彼らが相手にした不動産屋は詐欺師であったらしく・・・・・・

<感想>
 クレイグ・ライスの遺稿をエド・マクベインが完成させた作品。何故、エド・マクベインが書き上げることになったのかというと、あとがきによると「代理人から頼まれたから」という淡白なもの。

 この作品は「セントラル・パーク事件」に登場したビンゴとハンサムが登場するシリーズ作品。ちなみにこの二人は「七面鳥殺人事件」(私は未読)にも登場しており、三作品目の登場となる。

 ただ、読んでみるとあまり面白くなかったというのが率直な感想。このへんは、別の作家によって書き継がれたからなのか、それとも著者晩年の作品ゆえか、理由はわからないのだが、全体的にちょっといまいちであったかと。

 ミステリ的な要素は何気に魅力的。かつて有名女優がなんらかの事件を犯したという曰くつきの家(ただし、その事件が何なのかということはラスト直前まで明かされない)、さらにはその後住んだものが失踪しており、その行方が現在も捜索されているという状態。そんな曰くだらけの家をビンゴとハンサムが買うこととなる。

 そういったミステリとしてのネタは面白いものの、物語の途中途中をつなぐパーツがあまりうまく描かれていなかったように思われる。それ故に、全体的につまらなくなってしまったような。さらには、ラストの結末の付け方で、これはアクロバット的な大掛かりな人間入れ替わりのトリックが用いられるのかと期待していたら、普通の展開で片づけられ、なんとも残念な結果に。これは、エド・マクベインが本格ミステリのような作品とは無縁の作家であったからこのようになったのではと想像してしまうのだが、真相はいかなることなのか!?


マローン殺し   6点

1958年 出版
1997年01月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 「マローン殺し」
 「邪悪の涙」
 「胸が張り裂ける」
 「永遠にさよなら」
 「そして鳥は歌いつづける」
 「彼は家へ帰れない」
 「恐ろし哉、人生」
 「さよなら、グッドバイ!」
 「不運なブラッドリー」
 「恐怖の果て」

<感想>
 弁護士マローンが活躍する短編集。副題に“マローン弁護士の事件簿T”と書いてあるのだが、書かれた短編集はこれのみで、特に2巻が出るという事はないようである。よって、これぞマローン弁護士の集大成。

 この作品にはいつものジャスタス夫妻がでない(ヘレンのみ、最後の「恐怖の果て」に登場)。ただし、フラナガン警部と天使のジョーは、ほぼレギュラー出演。短編集故に、狂言回し的なジャスタス夫妻は必要ないという事だろうか。ただし、それ以外は長編と変わりのないシリーズらしい作品ばかり。

 一番の作品というと、アンソロジー集などにも掲載されている「胸が張り裂ける」あたりか。これは、刑務所内でマローンが弁護すべき容疑者が首つり自殺をするというもの。無実となる公算が高いはずであったのに、何故自殺を遂げたのかが問題となる作品。ある種の密室っぽい作品であるが、トリックというよりは、物語がうまく構成された作品。

 他に印象的だったのが、「邪悪の涙」。これはマローンと仲の良い夫妻がいて、その夫が妻が殺害されているのを発見するという内容。今作ではジャスタス夫妻が出ていない故に、まるでこれがジャスタス夫妻に降りかかった災難のように読めてしまうのが、シリーズ読者としてはなんとも言えないところ。同じような連想をした読者は結構いることであろう。

 まぁ、全体的に厳密なミステリというよりも、いつものようにお金に困ったマローンが厄介ごとに巻き込まれたり、自ら招いたりを繰り返すような内容ばかり。もう少し、全体的にメリハリが欲しいような気もするのだが、これはこれでと思えなくもない。まぁ、それでもライスの作品、とくにマローン弁護士が登場する作品を未読であるなら、長編から読んだほうがよさそうな気がする。どちらかと言えば、シリーズのファン向けの作品集というイメージが強い。


被告人、ウィザーズ&マローン   6点

1963年 出版
2014年06月 論創社 論創海外ミステリ124

<内容>
 「EQの非凡な備忘録より」(エラリー・クイーン)
 「序 文」(スチュアート・パーマー)

 「今宵、夢の特急で」
 「罠を探せ」
 「エヴァと三人のならず者」
 「薔薇の下に眠る」
 「被告人、ウィザーズ&マローン」
 「ウィザーズとマローン、知恵を絞る」

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<感想>
 スチュアート・パーマとクレイグ・ライスの合作。両作者のシリーズキャラクター、元女教師で素人探偵の老嬢ヒルデガード・ウィザーズと、酔いどれ弁護士J・J・マローンが登場する。ウィザーズについては、良く知らなかったのだが、ちょうどいいことに今年「五枚目のエース」が訳され、本書を読む前に作品に触れることができた。

 ウィザーズとマローンが活躍する短編作品が6作品収められているのだが、内容についてはライスの作品を読んでいる人はお馴染みの、いざこざに巻き込まれてドタバタと行動しつつ、なんとか解決にこぎつけるというもの。さらには、この作品集では毎回のようにウィザーズとマローンが容疑者扱いされ、警察に追われる立場となり、なんとかその状況を打開しようとする。

 ライスの作品に触れていて、それを楽しむことができる人にとっては、とっつきやすい作品と言えるのではないだろうか。ただ、これら作品が書かれる際には、パーマーが中心となって書かれたようであり、ややウィザーズよりの作品になっている。マローンのファンにとっては、マローンの描写に違和感を抱く部分もあり、やや微妙と思われるところもある。

 これは、ライスよりである私の個人的な見解なのだが、マローンはもっと孤独なイメージが強い。ゆえに、何か困った時に事件を投げ出して、ウィザーズに助けられるという描写には納得がいかなかった。また、ウィザーズというキャラクターについては不満はなく、まぁ、こういうコンビがあってもよいかなと思えなくもない。ただ、マローンが困っていて、そこに颯爽と駆けつける役割は、ウィザーズではなく、ヘレン・ジャスタスじゃなければいけないはず。つい、そんなことを考えてしまった。




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