メグレ警視シリーズ 作品別 内容・感想

サン=フォリアン教会の首吊り男   6点

1931年 出版
2023年05月 早川書房 ハヤカワ文庫〔新訳版〕

<内容>
 ベルギーへ出張していたメグレはおかしな男を目にとめ、彼を尾行することに。尾行途中、男が購入したスーツケースと同じものをメグレも買い、メグレは隙を見てそのスーツケースをすり替える。スーツケースがすり替わったことを知った男は絶望し、突如拳銃自殺を図り死亡してしまう。メグレが取り替えたスーツケースの中には古びた衣類しか入っていなかったにもかかわらず。メグレはその男を自分が殺してしまったと悔恨し、事件の裏を探り始め・・・・・・

<感想>
 メグレ警部ものの未読作品が新訳版として出版されたので、これはうれしいかぎり。メグレ警部シリーズは今の時代にあっているミステリとは思えないので、復刊されなさそうだなと勝手に思っていたのだが、まだまだいけるということであろうか。個人的には、未読作品がたくさあるので、どんどん復刊してもらいたいところ。

 今作は、ショッキングな出だしから始まる。一人の男が突然自殺するのだが、その原因をつくったのはメグレ警部自身ではないかというもの。それを悔いたメグレ自身も、その自殺の真相を明らかにするため、外国での単独捜査を進めていくこととなる。

 前半は霧の中をさまようような感じの捜査となっているものの、徐々に怪しげな人物が登場し始め、様相が一変してゆく。ただ、なかなか核心には触れられないので、過去に何かがあったのだろうということを想像しながら、メグレの捜査の状況に注目していくこととなる。

 今作はなかなかメグレ警部らしい作品という感じであった。初めてのこのシリーズを読んだ人は、“えっ”という感触に終わるかもしれないが、意外とメグレシリーズは相手にプレッシャーを与え続け、そして犯人を自滅させるというようなものが結構みられる。快刀乱麻の推理というよりは、粘り強い捜査による“圧”をかけるというものがメグレらしいと感じ取れるようになっているので、本書はそのいかにもシリーズらしい作品となっているのである。さらには、作品前編にわたって哀愁を感じさせるような雰囲気になっているところもシリーズらしさが存分に発揮されている。


男の首 黄色い犬   7点

1931年 出版(「男の首」「黄色い犬」)
1959年05月 東京創元社 単行本(「男の首」「黄色い犬」)
1969年05月 東京創元社 創元推理文庫(合本)

<内容>
「男の首」
 殺人事件が起き、メグレ警部は容疑者を捕まえたものの、実はその男は真犯人ではないのではと考え始める。そして死刑が実行される直前に、メグレは男を逃がし、泳がせるという計画を実行に移す。メグレは脱走した男が、真犯人と接触することを期待するのであったが・・・・・・

「黄色い犬」
 メグレは慣れないコンカルノーの町で事件捜査を手掛けることとなる。それは、男がひとり銃殺されというもの。しかし、事件はそれだけにとどまらず、毒殺未遂、行方不明、毒殺、銃殺未遂と・・・・・・。事件が次々と起きる中、メグレ警部が考える事件の真相とはいったい!?

<感想>
 シムノンの代表作を久々に再読。この作品、メグレ警部ものの代表作である「男の首」と「黄色い犬」の2作が収録されているのだが、単に代表作だから収録されたというだけでなく、発表年代が同じで、ほぼ同時に刊行されたからという理由もありそうである。

「男の首」は、いかにもメグレ警部らしい作品。死刑囚をあえて脱獄させ、泳がせることによって真犯人をあぶりだそうという危険なかけに出るメグレの捜査が描かれている。この作品の特徴は、は犯人とメグレの心理戦が描かれているところ。ここが、いかにもシムノンのみが描くことのできるミステリと感じさせられる。

「黄色い犬」のほうは、打って変わって、通常のメグレ警部シリーズらしくない内容となっている。なんとなく本格ミステリっぽいような展開の作品。本格ミステリとすると、論理的でないところはもったいないのだが、それでも全体的な謎めいた構図を最終的にメグレが一同が介した中で見事に解き明かしている。

 2作、それぞれ特徴は異なるが、うまい具合にこの2作がメグレ警部ものの代表作と言っても過言ではないような出来となっている。そういった意味で、この1冊を読むだけで、メグレ警部ものを存分に堪能できるようになっている。


紺碧海岸のメグレ   6点

1932年 出版
2015年01月 論創社 論創海外ミステリ140

<内容>
 ウィリアム・ブラウンというオーストラリア人が殺害された事件により、メグレ警視はリゾート地であるアンティーブを訪れることに。ブラウンは戦時中、軍の諜報部に勤めており、慎重を要するためメグレが出馬することとなったのである。ブラウンと暮らしていた二人の女性と、別の場所に囲っていた二人の女性。二重生活を送っていたらしいブラウンであったが、実は結婚しており、実業家である息子の存在までもが明らかとなる。いったい何故、ブラウンは殺害されなければならなかったのか?

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<感想>
 戦前に「自由酒場」の邦題で抄訳として世に出たことがあるそうだが、完訳は初とのこと。メグレがいつものパリとは異なるリゾート地で、殺人事件の単独捜査を行う。

 今作でもメグレ警視らしい捜査が見られる。メグレ警視らしいといっても、きちんとした捜査体系や、やり方があるのかはよくわからない。なんとなく、毎回行き当たりばったりのような気がしないでもない。厳密な捜査を無視しているような感じで、事件関係者のもとをそれぞれ歩き回り、悩みぬきながらもなんだかんだいって解決に持ち込んでゆく。

 今回の事件の被害者は元軍の諜報部という設定であったものの、話の途上ではほとんど活かされていなかったような。ただ、この被害者、二重生活を送っていたことにより、彼を取り巻く相関図が複雑となる。被害者を取り巻く2組の女たち、一緒に暮らしていながらも、別に結婚しているわけではないというあやふやな状況。そのあやふやさが、物語全体を気だるさとして取り巻き、季節的な暑さと共に、妙な味を醸し出している。

 一見、単純な事件のようにも捉えられるのだが、あとがきを読むと時代背景に奥深いものがあることを知らされる。今の世に、別の国の者である私が読んでも、その奥深さをしかと味わえないのが、なんとなく残念。


13の秘密 第1号水門   

1932年 出版
1963年08月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 『13の秘密』
   1 「ルフランソワ事件」
   2 「S・S・Sの金庫」
   3 「書類第十六号」
   4 「奇怪な死体」
   5 「B・・・・・・中学の盗難事件」
   6 「偽名のポポール」
   7 「クロワ=ルウスの一軒家」
   8 「『ロレーヌ号』の煙突」
   9 「三枚のレンブラント」
   10 「14号水門」
   11 「二人の技師」
   12 「アストリヤホテルの爆弾」
   13 「金の煙草入れ」

 『第1号水門』

<感想>
「13の秘密」は、ジョゼフ・ルボニュという安楽椅子探偵が活躍する13の事件を描いた作品。ホームズ風の物語。シムノンが描いたにしては、非常に軽いミステリであり、ちょっとした謎解き小説でもある。ただ、よくできているというほどでもなく、全編粗目の推理が展開されている。なんとなく、シムノンのちょっとした仕事の一つという感じ。

「第1号水門」は、河川輸送業者の親方が、何者かによって川に突き落とされるという事件。ただし、親方は生きており、怪我をしただけ。いったい、何が起きたのかを引退を目前に控えたメグレが捜査するというもの。その捜査の過程で、さらなる死亡事件が起きていくこととなる。

 この作品はメグレものならでわの、シムノンの“味”が存分に感じられる作品。普通の警察小説ではみられないメグレ流の捜査。ただただ、暴行を受けた親方とともに行動し、事件の背景や周辺状況を見極めつつ、親方の人となりを探り出そうとする。そうして、執拗に親方をマークしていく中で、自然な形で真相が浮き彫りになってくるという展開。決してもろ手を挙げて、面白いと言える作品ではないものの、渋みのある独特な小説を堪能することができるものとなっている。


メグレ警視   

1997年07月 集英社 集英社文庫(世界の名探偵コレクション10)

<内容>
 「月曜日の男」
 「街中の男」
 「首吊り船」
 「蝋のしずく」
 「メグレと溺死人の宿」
 「ホテル<北極星>」
 「メグレとグラン・カフェの常連」

<感想>
 メグレ警視が活躍する作品を集めた短編集。これがシリーズ・ベスト短編集ではないかと思わせるぐらい、よくできた作品ばかりが集められている。メグレ警視のシリーズ初心者にはもってこい・・・・・・といいたいところだが、たぶん容易には手に入りにくくなった作品だと思われる。

「月曜日の男」
 医者のもとで働く召使の娘が殺害された。不倫の関係にあった医者に容疑がかけられるなか、メグレは毎週月曜日に表れるというお菓子を持った老人の存在に着目する。
 簡潔な事件のように見えて、実は用意周到に計画された犯罪であることが明らかになる。冷静さと狂気のはざまを垣間見えることができる事件。

「街中の男」
 とある事件の容疑者と思われる男を尾行するメグレ。その男の正体はわかっておらず、決して目を離すわけにはいかない。尾行される男もそれを知っており、決して自分の家へと戻ろうとはしない。そして、四日間にわたる尾行の後・・・・・・
 これは、メグレ・シリーズの代表作といってよいであろう。メグレ執念の尾行。容疑者とメグレとの心理的な対決が見事。

「首吊り船」
 船の上で発見される男と女の首つり死体。その二人は夫婦であった。いったい誰がどのような理由で犯行に及んだのか!?
 痴情のもつれが原因の事件であるが、いったいどのように話が展開すれば、このようなことが起こるのか? それをメグレが見事に解き明かす。小さな街での男女の関係と憎悪がうまく表されている。

「蝋のしずく」
 二人の老女が襲われた事件。ひとりは死亡し、ひとりは怪我を負う。ただ、メグレは事件の情報を聞いただけで、既に真相を見抜いていた!
 短い作品ながら、二人で長い間住んでいた老姉妹の感情を見事に描き表している。メグレが論理的に導く推理もなかなかのもの。

「メグレと溺死人の宿」
“溺死人の宿”と揶揄される宿の近くで起こる奇妙な事件。車から発見された死体と、現場から消え去ったその車の持ち主である二人の若いカップル。メグレが事件に抱いた疑問点とは?
 複雑というほどではないが、事件の構図がなかなかのもの。いったいどのような経過で実際の事象が行われたのか? それをメグレが実証しながら解き明かす。若い男女の物語としても読みごたえがある。

「ホテル<北極星>」
 定年まで間近のメグレがやっかいな事件を引き当てる。それはホテルで起きた殺人事件。メグレはホテルから容疑者と思われる若い女を連れてくるのであったが・・・・・・
 事件の内容よりも、容疑者となる若い女のキャラクターが面白い。そして、駆け引きというほどのものでもないのだが、メグレが終始その若い女の挙動に悩まされるのが印象的。そしてさらに心に残るのが、メグレの事件の幕の引き方。これはまさに渋いとしか言いようがない。

「メグレとグラン・カフェの常連」  引退後、グラン・ファフェで常連たちと毎日カード・ゲームにふけることとなるメグレ。その常連のひとりが殺害された。周囲の期待とは裏腹に、いっさい事件に関わらないようにしようとするメグレであったが・・・・・・
 メグレも引退すれば、ただの人か、と思わせるような内容。しかもそれは、読者だけではなく、メグレ夫人も同様に感じ、歯がみをする。実は、メグレにはとある考えがあり、最終的には夫婦円満めでたしめでたし。


メグレとマジェスティック・ホテルの地階   7点

1942年 出版
2023年10月 早川書房 ハヤカワ文庫(新訳版)

<内容>
 マジェスティック・ホテルで働くドンジュは、いつものように朝ホテルの勤務に就き、仕事を行い始めたとき、地階のロッカーの中から女の死体を発見する。その女はホテルに宿泊しているアメリカ人の実業家、クラークの妻であった。さっそくメグレ警視による事件捜査が開始されることとなるのだが、アメリカ人の実業家には尋問しないようにというお達しと、さらには判事の独断により、発見者のドンジュが拘留されてしまう。確かにドンジュは被害者の事を昔から知っていたようなのだが、メグレは事件の裏にまだ何かが潜んでいると考え・・・・・・

<感想>
 本作品は雑誌「EQ」に1988年3月号に掲載されて以来のお披露目となる。どうやら文庫化されたのは初めてであるよう。新訳で文庫化と相成った。

 事件の発端が目を惹くものとなっている。ホテルで働く男が朝出勤して、ホテルの地階のロッカーの中から女の死体を発見するというもの。その女は宿泊客のアメリカ人実業家の妻であり、何故その宿泊客が殺されなければならないのかがわからない。メグレが捜査を進めていく中で、一見事件と全く関係ないと思われた第一発見者のホテルで働く男が被害者の女と知り合いであったことが判明する。

 メグレが過去に起きた事象を掘り起こしつつ、現在の事件とのつながりを模索していく。最重要容疑者の第一発見者が判事の手により逮捕されたものの、メグレはその男が犯人であるとは確信できず、事件捜査を進めていく。

 本書の特徴であり、メグレ・シリーズとして珍しい展開であるのが、最後に一同を集めて、そこで真犯人の指摘が行われるというところ。まるで本格ミステリ的な展開がなされていく。その趣向といい、真犯人の正体といい、なるほどと唸らされる内容となっている。


メグレ、ニューヨークへ行く   

2001年03月 河出書房新社 河出文庫(新装版)

<内容>
 定年退職して悠々自適の生活をしているメグレのところに、ジーン・モーラという青年が訪ねてくる。彼は富豪の息子であるのだが、アメリカに住む父の様子がおかしいので、一緒にニューヨークへ行ってくれないかとメグレに依頼する。いやいやながらも、ニューヨークへと行くことになったメグレ。長い船旅の末、ニューヨークに着いた途端、ジーン青年はメグレのもとから姿を消す。メグレは単独で、ジーンの父親のもとへと訪ねると、そこには頑固な若い青年秘書とともに、メグレに会うことに対し何故か乗り気ではない富豪のジョアシャン・モーラがいた。よそよそしい大富豪、いわくありげな秘書、消えた青年、事態を整理すべく慣れない地でのメグレの捜査が始まる。

<感想>
 メグレ警視が引退後に、依頼を受けてニューヨークへ行くという話。慣れない土地での単身の捜査が行われる。元々はパリをホームグラウンドとして描かれるシリーズであるが、日本人の私にとっては、パリでもニューヨークでも異邦の地であることは変わりない。よって、意外といつもながらの雰囲気で読むことができた。違うところと言えば、メグレの忠実な部下たちがいないことくらいか。

 ただ、そこで行う捜査自体が不可解なものであり、それが読者をとまどわせる。パリから一緒に来た青年は姿を消し、はるばる訪ねてきた青年の父親である富豪はけんもほろろにメグレの話を聞かずに追い出そうとする。結局、メグレは何をすればよいのか? どうするのか? そういったことがメグレ自身にもはっきりとしないまま、未知の土地での捜査というか、漂い始めるという形。

 また、そうした捜査が現在だけのものにとどまらず、アメリカで富豪として過ごす父親の過去にまで迫る捜査が行われる。これも、はっきりとした目的がわからないまま(というよりかは、全体的な不可解さを打開させるための捜査か?)行われているために、雲をつかむような捜査としか感じられない。

 しかし、そうした不可解な話を最後まで読み通せば、実は物語の裏側で何が起きてきたのかが明らかとなる。その裏側により、過去から現在までに何が起き、メグレに対してよそよそしい態度を装う者たちの真の意図に気づかされるのである。

 ある種、いろいろな意味でメグレ・シリーズらしい作品とも言えるであろう。読者のみならず、登場人物らや本人自身さえ煙に巻くような捜査方針はいつもながら。たとえ異邦の地に来ても、メグレはメグレであるという事なのであろう。


メグレと無愛想な刑事   6点

1957年09月 早川書房 ハヤカワミステリ370

<内容>
 「メグレと不愛想な刑事」
 「児童聖歌隊員の証言」
 「世界一ねばつた客」
 「誰も哀れな男を殺しはしない」

<感想>
「メグレと不愛想な刑事」
 以前、「メグレと若い女の死」を読んだとき、ロニョンという妙に印象的な刑事が出て来ていたのだが、なんとそのロニョンが「メグレと若い女の死」に先立って、この「メグレと不愛想な刑事」に登場していた。ひょっとしたら、この中編のみで終わらすにはもったいないキャラクターということで、長編で再登場させたのかもしれない。
 ロニョンの影に隠れたが、この作品の事件自体も実はそれなりに面白い。通りで起きた拳銃による死亡事故が自殺か? 他殺か? というもの。死亡した男の妻とその妹の姉妹がカギを握る事件。

「児童聖歌隊員の証言」
 この中編集のなかで一番面白かった作品。聖歌隊の少年が死体を見つけたと警察に届け出たが、警官が現場に行ってみると、死体が消え失せていたという事件。その死体が発見された現場付近に引退した判事が住んでいるものの、彼は何も見ていないし、聞いていないという。少年が嘘をついているのか? それとも判事が嘘をついているのか? 高熱に犯されたメグレが病床で必死に事件の謎を解く。

「世界一ねばつた客」
 タイトルが面白い。古い作品のせいか、“ねばった”ではなく“ねばつた”となっている。そのタイトルの通り、カフェで朝から晩まで粘った不思議な男がいるのだが、カフェが閉店になり男が店から出た途端事件が起こる。これは事件解決後のエピソードこそが印象に残るものとなっている。

「誰も哀れな男を殺しはしない」
 ひとりの男が殺害された事件を描いているのだが、何故殺害されたのかということよりも、被害者の生前の生活ぶりのほうがミステリアスであった。家族は毎日、仕事に出かけていると思っていたのだが、実はこの男、とっくに仕事を辞めており、毎日ぶらつく生活をしていたよう。では、仕事を辞めた後生活費をどうしていたのか? ということであるのだが、事件が解決し、ある事実が明らかになると、なるほどと唸らされる。なんとなく現代的ともいえる事件。


メグレと殺人者たち   

2000年04月 河出書房新社 河出文庫(新装版)

<内容>
 メグレのもとに、何者かに追いかけられていて助けてもらいたいという電話がかけられてきた。メグレは部下を現場へ向かわすが、その男はすでに立ち去った後。そうしたやりとりが何度か続き、やがて男の電話は途切れてしまう。そして次の日、その電話をかけてきた男らしきものが死体で発見される。
 男の足取りを追っていくメグレ。そして男がバーを経営していたことを知り、そのバーでメグレの部下夫婦の力をかりて店を開いて男を殺したものを誘い出す。そして怪しい男がつられてやってきて、追跡をするが途中でその男は殺されてしまう。その男が逃げ込もうとしていた一体に住む外国人達をメグレは一斉捜索する。そして殺人者らが住んでいたと思われる部屋へと行ってみたものの、産気づいた女が一人残されていただけだった。そしてメグレはその女の身元より、この一連の殺人犯らは、最近フランス一体を荒らす盗賊達であると看破する。

<感想>
 ひとつの不可解な助けを求める電話があったが、その人物は殺されてしまった。そのときからこの事件はメグレの事件になる。メグレが犯人らの正体を暴いていく過程はなかなかのもの。そして凶暴な殺人犯たちが登場してバイオレンスさをかもしだしてきたか!? と思いきやあっけなく捕まり、倒れていく犯人達。おいおい・・・・・・。シムノン流ともいうべき風情を作品に感じることができるたが、もっとがんばれ犯人たち! 結局めだつのはメグレとパリの町並みのみ??


メグレと老婦人   6点

1951年 出版
1976年11月 早川書房 ハヤカワ文庫

<内容>
 メグレ警視の元にひとりの老婦人が訪れる。老婦人が言うには、自分の家で働いているメイドが誤って、普段老婦人が飲んでいる睡眠薬を飲んで死亡したと。誤ってメイドが死んでしまったが、実際には老婦人自身が狙われているのではないかという。メグレは事件を調査するために、老婦人が住むフランス郊外の海辺の町エトルタへと出向くこととなり・・・・・・

<感想>
“毒”を用いたミステリ、そのメグレ警視編。自分が飲むはずであった毒を間違ってメイドが飲み死亡したという事故。その当事者の老婦人は自分がまた狙われるのではないかとメグレに直接訴えてきた。

 登場人物の相関図がなかなか複雑で、当事者である老婦人、彼女が再婚した時の相手の連れ子である二人の義理の息子、再婚相手との間にできた娘、さらには死んだメイドの家族なども出てくる。その登場人物らのそれぞれの関係性が良好とは言い難く、誰もが怪しく見える中、メグレは何故犯人はこのような行為に及んだのかを考える。

 メグレのシリーズものらしく、心理的な面を強調した作品と言えるであろう。互いの関係性、各々の性格を元に、行動の矛盾などを導き出し、そして真犯人にたどり着く。普段の現場とは遠く離れたところで孤軍奮闘とも言える活躍を見せるところはさすが。メグレが何を考えて行動し、町をさまよい歩いているのか話の途中では想像がつかないなか、最終的にきっちりと犯人逮捕に持ち込むところは、いつもながらうまく出来ていると感じられた。


モンマルトルのメグレ   

2000年05月 河出書房新社 河出文庫(新装版)

<内容>
 酔っぱらって警察に現れた踊子アルレットがしゃべったことはでたらめではなかった。彼女は後に自宅で絞殺死体となって発見され、彼女が殺されると予告した伯爵夫人も、同じ手口で殺害される。彼女が口にしたオスカルとは何者なのか? アルレット−オスカル−伯爵夫人を結ぶ線は?
 モンマルトルを舞台に、司法警察の捜査網は謎の男オスカルをしだいに追い詰めていく・・・・・・

<感想>
 シムノンの小説には妙な気だるさがただよう。メグレ警部自身が発する陰気さや、パリの気候などの状景描写などからも陰鬱とした気だるさが匂ってくる。しかしその気だるさが心地よいとはいえないまでも、妙にシムノンの作品をひきつける。

 そして事件自体もメグレが思いふけるのはストリッパーのアルレットの人物像。事件自体にも当然関係しているのだが、その殺されたアルレットがメグレによってスポットが当てられ、なぜこのような矛盾する行動に出たか、またはしていたのか? 事件の謎はそれにつきる。殺害犯うんぬんはどうでもよく、あくまでもパリの気だるさのなかで踊子アルレットの人生を思い描かせる一冊。


メグレと消えた死体   

2000年07月 河出書房新社 河出文庫(新装版)

<内容>
 元売春婦がメグレのもとを訪れ、夫が金庫破りに入った屋敷で死体を発見したから調べてほしい、と奇妙な頼みごとをする。メグレはその屋敷を調べてみるが死体などない。しかも、住人である歯医者とその年老いた母は泥棒が入ったことも否定する。誰が、何のために嘘をついているのか? 何が起こっているのか? 死体の実在が疑わしい曖昧な状況にメグレは介入し、事件は徐々に動き始める。

<感想>
 この物語の見所はなんといっても、歯医者にたいするメグレの尋問。というよりは気にくわない歯医者に対するメグレのネチネチとしたいじめ。とはいっても、この歯医者が見るからに不評を抱くような人物であり、彼に同情する読者はいないであろう。どちらかといえば、メグレもっとやれーとか、最後にはどのようなネタで決定的に落とすのか? といったところを読者は期待して読んでいくことになるであろう。そしてさらには読者を裏切らないラストが待っている。


メグレ間違う   

2000年09月 河出書房新社 河出文庫(新装版)

<内容>
 顔を撃たれた女性の死体が見つかったとメグレは報告を受ける。その死体の周囲には拳銃が落ちてなく、事件は他殺とみなされる。被害者の女性は、高名な医師の愛人であり、またそれとは別の恋人も持っていた。しかし、事件直後その若い楽士の恋人は逃亡しており・・・・・・

<感想>
 この作品で一番不可解なのはタイトルであろう。「メグレ間違う」とされているにも関わらず、特にメグレ警視が何かを間違うといった場面は見受けられない。なのに、その“間違う”という言葉がこの作品に微妙な影を落としているような気がして、何か気になってしまう作品となっているのである。

 本書で一番興味深い登場人物は多くの女性と関係を持っている高名な医師。医者として多くの人々に尊敬されながらも、女癖が悪いというのは周囲の誰もが知っているところ。ただし、女癖が悪いと言っても、女性から不評を受けるわけでもなく、多くの女性の間をうまく取り持ちながら日々を生活している。

 こういった医師の生き方を快く思わない態度を隠すことなく尋問をするメグレと、それを淡々と受け答えする医師との対決が見ものといえるかもしれない。事件自体は結末が付いてしまえば、いたって単純な事件ともいえるのだが、何か不愉快なしこりを残すような作品である。


メグレと若い女の死   

1954年 出版
1972年11月 早川書房 ハヤカワミステリ1188

<内容>
 夜中、広場で若い女の死体が発見された。女は身元不明で、持ち物はなく、片方の靴は紛失していた。メグレは状況から、女はどこかで殺害され、車によってここまで運ばれてきたのだろうと考える。現場にはメグレの前に到着していたロニョン刑事がおり、自分も捜査に参加すると主張してくる。メグレはロニョンや配下の部下を使い、女の身元を突き止めようとするのであったが・・・・・・

<感想>
 メグレ警視が、身元不明の若い女の死体が発見された事件にのぞんでゆく話。聞き込みや事件解決へのルーティーンについては、いつものメグレらしさが出ていると言えよう。今作にて、今までと異なるところと言えば、ロニョンという刑事の存在。

 このロニョンという刑事、粘り強く捜査をするやり手ではあるものの、どこか扱いづらい人間として物語に登場している。メグレは自分の直属の部下ではないロニョンを気遣いつつ、また厄介さを感じつつ捜査を進めてゆかねばならなくなる。そうしてやり手と感じさせるロニョン刑事であったものの、最後の最後にはメグレの観察力のほうに軍配があがるという形で幕がひかれている。ただ、その事実をロニョンが突き付けられないまま終わってしまったのには、少々もったいないように感じられたのだが。


メグレ罠を張る   7点

1965年 出版
1976年04月 早川書房 ハヤカワ文庫

<内容>
 モンマルトルで連続して5人の女が惨殺されるという大事件が起きていた。これといった物証もなく、動機も不明で犯人の正体が見出せない中、メグレ警視は犯人を誘い出す罠を仕掛ける。大量の人員を動員し、マスコミをも巻き込んだ大がかりな罠を仕掛けたメグレであったが・・・・・・

<感想>
 地味な作品が多いシムノンの作品の中で、この「メグレ罠を張る」は、見せ場満載と言っても過言ではない内容。なにしろ、切り裂きジャックを彷彿させるような殺人鬼がメグレ警視管轄のモンマルトルに現れるというもの。5人の女性を殺害した犯人を捕らえようと、メグレが必死に頭を働かせる。

 前半の見せ場は、犯人を誘い込もうと、警察総動員といってもいいほどの人員を動かしつつも、犯人に悟られないように隠密に配置するところ。そして、姿を現した犯人相手に追跡劇から、その人物の特定へと話が進んでゆく。

 後半は、容疑者と思われる人物に対して、メグレの尋問が始められてゆく。どのようにしてメグレは容疑者の口を割らせるのかが焦点となりつつも、本当のその人物が犯人なのかというジレンマを抱え、読んでいる方としてはやきもきしながらその様子を眺めていくこととなる。そしてその後、さらなる山場が待ち受けることに!

 現代風の警察小説と照らし合わせると、その捜査方法や尋問方法はあまりにも独特であり、現実性を欠いているようさえ見えるのだが(当時のフランスの警察の様子はよくわからないが)、これぞメグレ風というものを印象付けられる。また、他の作品ではあまり見られない、容疑者に対してメグレが流暢に語りかけ、その人間性を暴き出す尋問については圧巻の一言。


メグレと首無し死体   

2000年07月 河出書房新社 河出文庫(新装版)

<内容>
 サン・マルタン運河から男のバラバラ死体があがった。首だけが見つからないので身許は確認できないが、鑑識の結果、年齢は五十過ぎ、長時間立ったまま過ごす職業で、湿った地下室に出入りし、ぶどう酒を扱う者と推定された。メグレは、その日たまたま立ち寄った居酒屋のことを思い出していた。そしてその店の、痩せた褐色の髪の女主人の姿を・・・・・・

<感想>
 作中強烈に思ったのは、バラバラ死体が見つかったとき、河から死体があがるのはめずらしくないという記述。さらには、よくあがるのは女の死体であり男の死体は珍しいとのこと。そして男の死体があがったことで皆が驚いている。なんとも時代背景が見せるわざであり、ある種ホラー的な雰囲気さえ感じられる。

 物語ではバラバラ死体の主かと思われる者が早いうちに特定され、まさに容疑者たるものもすぐに出揃う。あまりにも怪しくありながら、きめ手が見つからないメグレは事件の背景に潜むものを読み取ろうとする。あくまでも本書は事件の不可能性や犯罪性を問うものではなく、このドラマ的要素が本題であり、それがメグレものの醍醐味の一つでもあろう。他のミステリとは異なる一線を引くシムノンの流儀がここでも描かれている。


メグレと火曜の朝の訪問者   

2000年04月 河出書房新社 河出文庫(新装版)

<内容>
 ルーブル百貨店の玩具売り場主任と称するその男は、わざわざメグレを訪ねてきながら、話なかばで立ち去ってしまった。妻が自分を殺そうとたくらんでいる、毒薬を多量に所持していると男は告げていったが、その態度にいささか常軌を逸した点がなくもない。メグレは密かに男の身辺調査を開始する。夫婦に義理の妹が加わった三人の家庭生活・・・・・・男の隠された意図。

 メグレの元にグザヴィエ・マルトンという男がやって来た。彼は妻に命を狙われているとメグレに訴えかけてきた。彼は自分は狂っているわけではないと、精神科医の名前までを出してメグレに訴えかける。しかし、彼はメグレにどうしてくれというわけでも・・・・・・。メグレが別の用件で席をたったときにグザヴィエは帰ってしまう。年に頭のおかしい者が何人も警察を尋ねてくるなかの一人だと思いこもうとするにもメグレの心になんらかの不自然さが残ることに・・・・・・
 そしてその日にグザビィエの妻のジゼール・マルトンもメグレを訪ねてやって来た。彼女の話しでは夫が被害妄想気味であると。夫が、お前は俺を殺すつもりだろう、というような行動を示唆するようになっていると。彼女にはその気など全くないのに、という。
 メグレの調べによるとマルトン夫妻の夫婦生活は破綻しており、グザビィエは一緒に暮らしているジゼールの妹と密かに会いつづけている。またジゼールは彼女が勤める店の主人と愛人の関係にある。
 マルトン夫妻に不穏なものを感じ取りメグレは部下をマルトンの家に張り込みをさせる。するとその翌日、グザビィエが毒殺死体で発見される。しかもその夜ジゼールも吐き気を訴えていたという。この愛憎劇に隠された真実とは?

 グザビィエは妻のジゼールを殺す計画を練っていた。彼はメグレに自分は妻に殺されると吹聴した。そして自分で少量の毒物を含み、苦しみながら妻を糾弾したうえで撃ち殺す、という筋書きをねった。
 しかし当日、ジゼールのコップにジゼールの妹が致死量の毒薬を盛ってしまった。しかもジゼールはグザビィエのコップと自分のコップを取り替えて飲んでいた。そのことによりグザビィエは・・・・・・

<感想>
 メグレが登場し続けるものの、あまりメグレの活躍は見られない。警察機構の犯罪が起きてからでないと捜査を始めることができない、ということに対するメグレのジレンマは感じられた。

 今回の話しの中心はマルトン夫妻の互いの殺意、という点があげられる。結果としては一方が・・・・・・という結果になったが、どちらが殺されてもおかしくない状況にあった。その二人の互いでの家での牽制のし合いを考えると、薄ら寒くなるほどである。それもただの夫婦喧嘩ではなく命のやりとりであるからなおさらだ。二人の生い立ちから、ここまで成り上がった過程があり、そして結婚後の葛藤が生まれた。これはもうどちらかが死ぬしかなかったのだろうか?そして最後に生き残ったほうが、何の禍根もなくしゃぁしゃぁと生きて行くかと思わせるかのような終わり方が、よりいっそう寒気をもよおす。


メグレと口の固い証人たち   

2000年06月 河出書房新社 河出文庫(新装版)

<内容>
 古いのれんを細々と守るビスケット屋ラショーム家の当主が、深夜、自室で胸を撃たれて死んだ。庭に梯子、窓に梯子を立てかけた跡、割れた窓ガラス。状況は外部からの侵入者の犯行を物語っていたが、家族は誰も朝まで気づかなかったと主張し、それ以上訊きだそうとすると、奇妙に口をつぐんでしまう。メグレはそこにただならぬものを感じた・・・・・・

<感想>
 事件がビスケット屋の家で起こる。そしてその家の住人たちの証言を聞こうとするが彼らはてんで、口をにごして答えない。どうみても怪しい。

 ここでメグレはどのように捜査をしたかというと、証言をろくにしない家族を捜査の対象から切り離し、外側から攻めていくという方法に出る。ただ、題名からすれば、ここは家の中で捜査をしていき、そうしてその家の中で解決していくという捜査が通常に思えて、メグレが異なる方向から捜査を進めだしたのが不自然に感じてしまった。

 解決の部分は非常にうまくできておりラショーム家に潜む問題、背景が浮き彫りにされ、その殺人の背後に隠された思惑が明るみに出るという流れは見事だと思う。しかし前述したように、その結末に至る過程での捜査方法についてがどうも納得し難くて・・・・・・


メグレと幽霊   

2001年02月 河出書房新社 河出文庫(新装版)

<内容>
 ロニョン刑事が深夜何者かに撃たれたという知らせがメグレに伝えられた。ロニョン刑事は彼が撃たれた現場近くに住む若い女のもとに、夜な夜な通っていたというのだ。しかしメグレはロニョンは何らかの事件を追っていたのではないかという疑いを抱く。さらに、ロニョンが撃たれた直後に残した“幽霊”という言葉も謎である。そして近くに住む絵画商をしているオランダ人の富豪に目をつけるのであるが・・・・・・

<感想>
 本書の見どころはメグレ警視とオランダ人富豪との駆け引き。何かを隠しているかのようなオランダ人富豪からメグレがどこまで秘密を引き出せるかという心理戦はなかなかの見物。ただ、それが中盤に行われて、あとはずるずると事件が解決してしまったという印象を受ける。“幽霊”という言葉にもどれほど重みがあったのかについても微妙。ただそれよりも、名前だけで物語には実際に登場してこない、ロニョン刑事とその妻との関係とかそちらについてのほうが興味深いところであった。


メグレたてつく   

2001年04月 河出書房新社 河出文庫(新装版)

<内容>
 メグレは突然、警視総監から呼び出される。そして警視総監から前夜に起こった出来事について問われることとなる。
 メグレは前の晩、見知らぬ若い女性から電話で呼び出され、そして呼び出された理由もわからぬまま酔っ払った女性を介抱し、ホテルへ置いてきたのであった。しかし、その女性はさる高官の娘であり、メグレに乱暴されたと訴えているというのである。
 何者かによって罠にはめられたメグレ。警視総監から引退をほのめかされる中、彼はいつものように捜査を続けていくのだが・・・・・・

<感想>
 メグレ警部、後期の事件を描いた作品。“メグレたてつく”というよりは、“メグレはめられる”というような内容である。そしてメグレは自分の潔白を証明するため、さらには真実を追究するために、上司の目をかいくぐって捜査を行っていく。

 本書のみどころといえるのは、メグレとメグレ夫人とのやりとりに尽きるのではないだろうか。夫人はメグレを信じ、何も言わずにメグレがひたすら捜査を続けるのを協力しつつ見守っている。たとえ夫が警察をやめることになろうとも、変わらず暖かく見守り続けるだろうということが読む側にも伝わってくる。

 さらには、メグレを罠にはめた犯人像も、これまたなかなかひねったものとなっている。その背景にある事実よりも、ひたすら心情のみによって犯人を表すという手法が面白く感じられた。

 他の作品に劣らず、本書も味のある一編となっている。


メグレと老婦人の謎   

1978年07月 河出書房新社
2001年06月 河出書房新社 河出文庫

<内容>
 メグレを訪ねて、警察署にひとりの老婦人がやってきた。その老婦人が言うには、彼女の家に何者かが忍び込み、家具などを動かした形跡があるのだという。ただし、何も盗られてはいないのだと。その老婦人はぼけてはいないようだが、話の内容には半信半疑であったメグレ。一応、メグレはいつか彼女の家を訪れることを約束した。しかし、メグレが老婦人宅を訪れる前に、彼女は何者かに殺害されてしまった! 彼女の身内はマッサージ師である姪だけ。この事件の真相とはいったい!?

<感想>
 ハヤカワ文庫から出ている作品で「メグレと老婦人」というものもあるのだが、そちらとは全く別の作品であり、本書はシムノンの後期の作品である。

 驚かされるのは、後期の作品であるにもかかわらず、衰えなど感じさせる事のない油の乗った作品であるということ。メグレに相談を持ちかけた老婦人が殺害されてしまうという印象的な始まり方から、中盤での捜査の様子、メグレが徐々に犯人を追い詰めていく後半と目の離すことのできない内容となっている。

 本書で圧巻と思えたのは、容疑者から自白をとろうと試みるメグレの追い込みかた。犯人と目されるものは予想はつくものの、決定的な証拠はないために自白によって真相を看破しようとする。また、裏社会との取引の様子などの場面も挿入されており、警察小説として内容の濃いものとなっている。

 これで河出文庫によって新装版として復刊されたものを全部読み終えたのだが、これだけで終わってしまうのは惜しいという他はない。今後少しずつでもいいから、未訳作品も含めて出版してくれないかなと心待ちにするのみである。




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