Rex Stout 作品別 内容・感想

腰ぬけ連盟   6.5点

1935年 出版
1978年06月 早川書房 ハヤカワ文庫

<内容>
 ネロ・ウルフに新たな調査依頼が。それは、とある男たちが、ひとりの男により命を狙われているというもの。そのひとりの男とは、作家のポール・チャピン。なんでも男たちは、学生時代ポールにいたずらをし、それによりポールは一生足をひきずって歩かなければならなくなったという。反省した男たちは、“贖罪連盟”なる団体を作っていたのだが、最近その連盟の男二人が不慮の死を遂げたという。彼らはポールの手によって殺害されたのではないかと慌てふためく。そこでネロ・ウルフに頼ってきたのである。ウルフが調査を始めようとした矢先、連盟のひとりが行方不明となり・・・・・・

<感想>
 改めて読んでみると、スタウト描くネロ・ウルフものというのは面白いなと。とにかく他では描かれない独特な作風があると、読んでいて感心させられてしまう。しかも請け負う仕事が単なる事件ではなく、どこか一癖あり、他の私立探偵や警察では手に負えないようなものを扱っているというところも見どころといえよう。

 今作では、“贖罪連盟”なる者達から、作家ポール・チャピン(殺人鬼?)から身を守ってもらいたいという依頼がなされる。その作家自体が本当に事件を起こしたかどうかもわからないのだが、何気にその作家自身は自分の影に犯罪を匂わせたりしている。そうした状況のなかで、ウルフがどのようにして事件を解決に導くのか? さらには依頼者たちからどのようにして金を巻き上げるのかが焦点となっている。

 この作品でも基本的に体を動かすのはアーチー・グッドウィンであるのだが、今回はウルフのほうが存在感があったような気がする。ほとんど家から動かずに、その存在感を示すのだから探偵としてなかなかのもの。本格推理ものの名探偵とは若干色合いが異なりつつも、“安楽椅子探偵”という名がこれほどしっくりくる人物もそうはいないであろう。

 最後にひとつ気になったのが、タクシー運転手が息絶えていたように描かれていたのだが、結局彼は死んでいなかったのだろうか?


赤い箱   6点

1937年 出版
1981年05月 早川書房 ハヤカワ文庫

<内容>
 洋装店にて、モデルの女が菓子箱の中の菓子を食べたところ、毒によって死亡するという事件が起きた。事件後、リュー・フロストは、いとこのヘレンが容疑者にされては困ると、ネロ・ウルフに事件を依頼することに。渋々ながら重い腰を上げ、事件の調査をし始めたウルフであったが、彼の目の前で事件の関係者が毒により死亡するという事態が起きることに。その人物が言い残した“赤い箱”という言葉。その箱に事件の真相が隠されているようであるのだが・・・・・・

<感想>
 ずいぶんと前に読んだ作品なので、もはや内容については全く覚えておらず、初読のような心持ちで読むことができた。安楽椅子探偵ネロ・ウルフが活躍する初期作品。

 なんと冒頭から、ネロ・ウルフが重い腰を上げて、家から出て捜査に向かわざるを得ない状況になるという、意外な展開。その後は、いつもながらのシリーズらしい面白さ。菓子に入っていた毒により死亡するという事件から、さらなる毒殺事件へと発展し(しかもそれがウルフの目の前で)、そして謎の“赤い箱”の存在が示唆されることに。

 この作品のみならず、このシリーズは、依頼を受けるか受けないかとか、依頼者や保護すべき対象になる人とのやりくりとか、そういった交渉の場面が多いような気がする。それらが、ややミステリ的な部分と同じくらいのパートを占めているような。これは安楽椅子探偵ゆえに、こういった描写が多くなるのは仕方のないことなのか。

 まぁ、そういったやりくりはいつものことと置いといて、その後は赤い箱を巡っての探偵活動がなされてゆく。そして、終盤においては、そもそも何故このような事件が起きたのか、過去にさかのぼり、隠された真相が明るみに出ることとなる。話自体もうまくまとめられており、いかにもこのシリーズらしいよく出来た作品と思わされる内容。


手袋の中の手   6点

1937年 出版
2006年04月 早川書房 ハヤカワミステリ1786

<内容>
 女私立探偵のシオドリンダ(ドル)・ボナーは窮地に立たされていた。共同経営者で資産を持つシルヴィア・ラフレーの後見人である伯父のP・L・ストーズがドルのことを気に入らなく、シルヴィアに共同経営から手を引けと言ってきたのである。そんなストーズであったが、探偵の腕は信頼するということで、なんとドルに依頼を持ち掛けてきた。それはストーズの妻が宗教家ランスにのめり込み、多大な散財を繰り返しているというのである。ストーズは妻をランスの手から切り離すため、ランスの弱みを握ってもらいたいというのである。依頼を引き受けることとなったドルは、ストーズの家に来ることになっていたランスに会おうと訪ねていくのであったが、そこで発見したのはストーズの絞殺死体であり・・・・・・

<感想>
 レックス・スタウトによる女探偵を主人公とした作品。読む前は中味はハードボイルド調になっているのかと思っていたが、実際にはネロ・ウルフもののような普通のミステリ作品という感じであった。

 私立探偵のドル・ボナーが仕事を依頼されるものの、その依頼人が死亡しているのを発見することとなる。ワイヤーを使用して自殺に見せかけたものとなっているが、ドル・ボナーは現場の状況から他殺を感じ取る。そして、この状況を作るには手袋がなければできないだろうということで、手袋の発見が序盤のキーポイントとされる。

 また、もうひとつの事件のポイントとしては、とある人物が生前の被害者と会って話をしたらしいのだが、何故かその人物が話した内容について固く口を閉ざすこととなる。その話の内容が実は事件の重要な鍵(というか、ほぼ真相を表すもの)となっているのである。

 このような事件をドル・ボナーが解き明かすこととなるのだが、やや存在感が乏しかったかなと。後半の警察による捜査の場面では、警察側の登場人物が主観となって繰り広げれられたりしており、これならば警察が主人公でもよかったかなと思えたりもした。この辺に関しては、ネロ・ウルフの助手のアーチーのような万能性は持ち合わせていないようであった。それゆえか、この作品がスタウトの初期の作品にもかかわらず、その後ドナ・ボナーは他の作品で脇役としてしか登場しなかったようである。結局のところ使い勝手が良くなかったといったところか。


料理長が多すぎる   6点

1938年 出版
1976年10月 早川書房 ハヤカワ文庫

<内容>
 世界各地から15名のシェフたちが集められた晩餐会に出席するため、ネロ・ウルフは助手のアーチー・グッドウィンを連れ、普段は決して出ることのない家から離れることに。なんとか列車の旅を乗り越え、晩餐会に出席したウルフであったが、催しのひとつであったソースの味ききが行われた最中、シェフの一人が刺殺されてしまう。いやいやながらも、ネロ・ウルフは事件の捜査に乗り出さざるを得ない羽目となり・・・・・・

<感想>
 ネロ・ウルフがなんと自宅から離れて、はるばる電車にのって晩餐会で出かけてゆくという異色作。その晩餐会で起きた料理長殺人事件の謎を解く。

 このシリーズ、あまり読み慣れていないせいか、どうも助手のアーチー・グッドウィンのほうが主役のような印象を抱いてしまう。ただ、この作品をしっかりと読んでいくと、行動にかんしてはアーチーが担い、推理に関してはウルフが担うという分担がしっかりとなされ、ネロ・ウルフありきで物語が動いていくということが確認できた。今作では特にウルフが事件についてや自分のスタンスについて演説する場面が多く、ウルフの特徴をつかみやすい作品ともいえよう。

 事件はソースの味ききを料理長たちが行っている最中に起こる。そのなかでひとり、解答の多くを間違えた料理長が容疑者としてとらわれることとなる。ウルフは今後の予定がいろいろと詰まっており、ホテルにずっといられるわけではないので、探偵役を拒むのであるが、結局は事件を引き受けざるを得なくなる。

 殺人事件はひとつだけしか起きないものの、ネロ・ウルフやその周辺を巡って、いろいろと事が起こるために、さほどだれることなく読み進めてゆくことができる。そうして、晩餐会でのウルフによる演説の場面で真犯人が指摘される。まぁ、論理的な指摘というよりも、ウルフの直観を踏まえた緻密な捜査の末の犯人逮捕という感じではある。ただ、それをしっかりと見せ場を作っての犯人逮捕にいたるところはエンターテイメント作品として成功しているのではなかろうか。


シーザーの埋葬   6点

1939年 出版
2004年03月 光文社 光文社文庫

<内容>
 ウルフとアーチーが蘭の品評会に出かけたところ、途中で車が事故にあってしまう。ウルフらは成り行きからその現場の近くに住む、レストラン経営者のプラット家にやっかいになることに。しかし、その家では騒動が持ち上がっており、全米のチャンピオンに輝いたシーザーという名の牛を食べるか食べないかでもめているのだという。その騒動のなか一人の青年の死体が発見されることになり・・・・・・

<感想>
 ネロ・ウルフの作品はこれで5冊くらい読んだのではないだろうか。それらの作品によるとウルフは通常自分の家から出ることはほとんどなく、どこかへ出かけるということは余程の例外ということになっている。しかし、訳されている本の中では結構ウルフが外に出かける率が高いような気がする。もっと多くの本を訳してもらって、どっしりと構えたウルフの様子を見たいものだが、外へ出て慌てふためくウルフの様子もなかなかコミカルでよいのかもしれない(もっとも、動きがある内容だからこそ率先して訳されるのだろうけれども)。

 タイトルは“シーザーの埋葬”と仰々しいものが付けられ、読む前は重い内容なのかと思ったのだが、当の“シーザー”は牛のこと。さすがにウルフが牛に追っかけられたりという場面まではないにしろ、そこそこユーモアにあふれ、楽しめる内容となっていた。

 また、本書は色物としてみるだけではなく、推理小説としてもなかなかの水準であると感じられた。特にウルフが物語中盤にて依頼主に推理を披露する場面では、事件が起きたときに何気に伏線がはられていて、なおかつそれをウルフが事細かに観察していたという事が見て取れるようになっている。そしてラストにおいてのウルフが真相を述べる部分においての出来栄えについてはもはや語るまでも無い事であろうと思う。

 コミカルでありながらも、しっかりと推理小説している内容となっており、全体的にバランスのとれたミステリーとなっている。なかなかの佳作ではないだろうか。


我が屍を乗り越えよ   5.5点

1940年 出版
1958年10月 早川書房 ハヤカワミステリ439

<内容>
 ネロ・ウルフのもとに現れた依頼人は、とある人物が宝石泥棒の罪をきせられて困っていると。しかもその罪をきせられた女はウルフの娘だというのである。実際、ウルフは過去にとある事情により少女を養子に迎えたことがあるという。さっそくアーチーは現場に向かい、事件を調べようとするのであるが・・・・・・事件はいつの間にか殺人事件へと発展し、さらには国家間の陰謀にまで・・・・・・

<感想>
 相変わらず、他の作品では読めないような独特の雰囲気が漂っているなと痛感させられる。安楽椅子探偵として名高いネロ・ウルフであるが、今作では特にそれを感じさせられる。一応、助手のアーチーが外へ出て活躍する場面もそれなりにあるのだが、今回はウルフの事務所で場面がほとんどというような感覚であった。

 今回はなんとウルフの娘が現れるというもの。ただし、あくまでも過去にひとりの少女を養子にしたということであり、ウルフ自身もその子と長い間会っておらず顔すらわからないという状況。そうしたなか、その娘と名乗るものがいざこざに巻き込まれ、事態を打開すべくウルフが知恵を絞ることとなる。

 今回の作品は決して面白い内容とは言えない。何しろ殺人は起こるものの、通常のミステリ的なものではなく、陰謀が張り巡らされたスパイ小説のような背景のもとで起こっている。といっても、そのスパイ的な背景がたいして語られるわけではなく、なんとなく読者はクレイマー警部と同様、おいてけぼりにされているようにも感じられてしまう。

 そんな内容でも最後にはびっくりするような大団円が待ち受けており、この作品らしい締め方がなされている。ネロ・ウルフを堪能できるシリーズ小説としてはよいのかもしれない。あと、古い作品であったので、読みにくくて苦労した。


苦いオードブル   6点

1940年 出版
2007年03月 早川書房 ハヤカワミステリ1797

<内容>
 食品会社のティングリー・ティットビット社は、創業以来の危機を迎えていた。看板商品の瓶詰オードブルにキニーネが混入していることが明らかになったのである。犯人を突き止めようと、会社社長アーサー・ティングリーは女探偵ドル・ボナーが代表を務める探偵社に依頼をし、その仕事をエイミー・ダンカンが務めることに。しかし、そのエイミーはアーサーの姪であり、姪がその仕事をすることに強く反対をする。失意にかられたエイミーは偶然にも名探偵として知られるテカムス・フォックスに出会い、彼の力を借りようとする。そうした矢先、エイミーがアーサーに呼ばれ、食品会社へと出向くと、そこで待っていたのは、アーサーの死体であり・・・・・・

<感想>
 レックス・スタウトによる、ネロ・ウルフ以外の探偵が主人公となる作品。以前、「手袋の中の手」で主人公を務めた女探偵ドル・ボナーが登場しているが、今回はちょい役。これがなんともちょい役過ぎて、登場させるのがもったいないくらい。今作では、テカムス・フォックスという私立探偵が活躍することとなる。

 この作品で起こる事件は、食品会社で起きた異物混入事件、そして会社社長が殺害されるという事件。殺人事件に関しては、事件前後に被害者に様々な人が接触しており、その合間をぬった殺人を誰が成したのかが焦点となる。

 最初は物語の主人公のように思えた女探偵エイミー・ダンカンであったが、途中からは視点のバトンタッチが起こり、ほぼテスッカム・フォックスの独壇場となる。その捜査方法や事件の中身に関してだが・・・・・・いつもならがのスタウトの作品らしい内容になっている。ゆえに、ネロ・ウルフが主人公の物語でも良かったのではないかと。ネロ・ウルフというよりは、ウルフの助手であるアーチー・グッドウィンが単独で探偵活動をしているという感じ。そんな探偵の活躍を書いてみたかったのかなと。


アルファベット・ヒックス   5点

1941年 出版
2005年10月 論創社 論創海外ミステリ30

<内容>
 元は弁護士でありながら、資格を剥奪され、現在ではタクシーの運転手を生業とするアルファベット・ヒックス。しかし、その当時の事件により有名人となったせいか、人々に名前を覚えられ、今回の事件のように突然仕事を依頼されることがある。その依頼とは、夫から産業スパイの疑いをかけられた夫人が潔白を証明してもらいたいというもの。事件に乗り出したヒックスであったのだが、やがて殺人事件へと発展していくことに・・・・・・

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<感想>
 意味深なタイトルだなと思っていたのだが、何のことはない、ただ単に主人公の名前であった。本書はネロ・ウルフのシリーズで有名なレックス・スタウトのノン・シリーズ作品である。

 読みながら感じたのは、この主人公のアルファベット・ヒックスは頭脳明晰な人物という設定になっているのだが、ちっともそうは思えないということ。むしろ事件の最中にヘマをしているというか、何もしていないというか、あまり賢くないという印象しか残らなかった。

 そういう主人公の人物造形を除けば、あとは普通の産業スパイ・サスペンスというものが残るだけ。こちらの物語はただ単に平凡な内容のもの。本書では録音に関する証拠と言うのがやたらと重視されているようであるが、現代においてこの作品を読んでもあまりピンとこない。しかし、よく考えれば今から60年以上前に書かれている本ゆえに、その当時では最新テクノロジーを駆使して描いた作品という事になるのだろう。

 こうした録音という機能を用いたミステリ作品はいくつかあるが、こういったものは現代においては理解されにくい小説である気がする。


編集者を殺せ   6点

1951年 出版
2005年02月 早川書房 ハヤカワミステリ1767

<内容>
 クレイマー警部が法律事務所の事務員の溺死体から発見された謎の人名リスト。ウルフが依頼された、依頼人の娘がひき逃げされた事件。その二つの事件が謎の小説家の小説により、ひとつの事件につなげられることに。その事件は、さらに他の殺人事件までをも巻き起こす。途方もない事件を前に、ネロ・ウルフとアーチー・ボールドウィンは如何にして事件を解決に持ち込もうというのか!?

<感想>
 プロットがやや複雑で取っつきにくい内容の作品。基本的には殺人事件の真相を暴くという内容であるのだが、その殺人事件の背景がわかりにくいものとなっている。謎の作家による原稿が事件の引き金になっているようなのであるが、そこからの関連というか人物相関図がなんともわかりにくい。さらに言えば、登場人物もやや多すぎるように思われた。

 ネロ・ウルフの作品といえば、謎解きも用意されてはいるものの、基本的にはハードボイルド調の調査を主体とする作品。最終的にネロ・ウルフによる推理が披露され、解決へと導かれるものの、その解決には強引な手腕が用いられることもしばしば。よくあるのが、一同を集めて、全体的に罠を仕掛けて犯人をあぶりだすというようなもの。今作でもそれに近い結末が用意されている。

 ミステリとしてはやや癖のある作調といえるかもしれないが、その癖こそがネロ・ウルフ・シリーズの独特な特徴と言えよう。本書においても、全体的にわかりづらい内容となっているところは難が感じられるものの、シリーズらしさがあふれている作品と言えよう。


黒い山   5点

1954年 出版
2009年09月 早川書房 ハヤカワミステリ1828

<内容>
 ネロ・ウルフと旧知の仲であったレストランのオーナー、マルコ・ヴクチッチが何者かに射殺され、死亡した。ウルフは犯人を捜そうとするものの、手掛かりがつかめないなか、ウルフの養女のカルラが情報をもたらす。カルラはマルコと共にモンテネグロの民族運動に深くかかわっており、その運動のなかのいざこざにより殺害されたというのだ。ウルフはアーチーを連れて、自らの故郷でもあるモンテネグロへと旅立つこととなり・・・・・・

<感想>
 ネロ・ウルフ・シリーズの異色作品。なんと外に出るだけでも珍しいネロ・ウルフが国境を越え、山にまで登るという、ありえないような様相が描かれた作品。ただ、言ってしまえば、見所はそれだけという気もしたのだが・・・・・・

 今作は、一応は殺人犯を探すというお題目であるのだが、ミステリ的な展開がなされるわけではなく、どこか謀略小説のような内容のものとなっている。ネロ・ウルフの親友とも言えるような人物が殺害され、その犯人を捜すこととなるネロ・ウルフ。民族運動に関わっていた親友は、そのいざこざにより殺害されたようで、その犯人を捜すためにウルフはアーチーを連れて、国境を越えていくこととなる。あとは、その道程において、ウルフが四苦八苦する様子が描かれているということのみ。

 そんな感じで、あまり見所のなかった作品。ただひとつ気になったことがあって、この作品に「我が屍を乗り越えよ」で明らかになったウルフの養女カルラが再登場している。そのカルラもとある出来事に巻き込まれることとなるのだが、それについての描写がやけに淡泊過ぎるように思われる。ウルフが自分の養女よりも、亡くなった親友のマルコのほうに重きを置いているようにさえ思えてしまった。この辺の心情はいかなるものであったのか。

 といったところで、ネロ・ウルフのシリーズ作品としては見るべきところはあるものの、作品単体としては微妙なものであった。そんなわけで、シリーズファンのみお薦めの作品。


殺人犯はわが子なり   6点

1956年 出版
2003年10月 早川書房 ハヤカワミステリ1741

<内容>
 ネロ・ウルフは、資産家のジェームズ・ヘロルドから11年前に勘当した息子を探してもらいたいという依頼を受けることに。途方もない依頼であり、あまり乗り気ではなかったものの、新聞に掲載された事件から資産家の息子らしき人物を偶然発見する。ただ、その男は殺人犯として警察に逮捕されている状況。ウルフとアーチー・グッドウィン、さらにはその他調査員たちは資産家の息子の無罪を証明しようと調査を始めるのであったが・・・・・・

<感想>
 ネロ・ウルフとその助手のアーチー・グッドウィンが活躍するシリーズ作品。今作では音信不通の息子を探してもらいたいという依頼を受けたところ、その探していた相手が殺人犯として勾留されていたという事件を描いている。今回は主に、その探していた相手の無実を証明するために、ウルフとその調査員たちが奔走するというもの(ウルフはもちろん自宅から一歩も動かないが)。

 全体的にいつものシリーズらしい、面白い作品として仕立て上げられている。基本的には、その捜査途中の経過を追っていくという内容の作品であり、最終的な結果はあまり・・・・・・というような感じ。というのも犯人像があまりにも希薄というか、登場人物が多い割には作品自体はそんなに長いものではないので、それぞれの人物についての描写が少なすぎる。ゆえに、真相についてはなるほどと思えるものではあるのだが、犯人の名が挙げられても「ふーん」というくらいの感情。

 とはいえ、シリーズならではのウルフとアーチーとの掛け合いや、ウルフとクレイマー警視との駆け引きなどといった見所は満載。シリーズとしては十分に楽しめる内容。


殺人は自策で   6点

1959年 出版
2022年02月 論創社 論創海外ミステリ279

<内容>
 ネロ・ウルフのもとに、米国作家脚本家連盟の面々が乗り込んできた。彼らが言うには、作家や脚本家を狙う盗作事件が立て続けに起きているのだと。事件は今でも進行中で、また新たな盗作訴訟が持ち上がりつつあるという。途方もない事件を受けることとなったウルフであるが、依頼者から受け取った資料や作品に目を通し、ひとつの仮説を見出すことに。ウルフは犯人に対し罠を仕掛けようとするのだが、すると今まで訴訟を起こしていた者達が次々と殺害されるという事件が起き・・・・・・

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<感想>
 珍しくネロ・ウルフの未訳長編作品が翻訳された。論創海外ミステリから今までにネロ・ウルフ・シリーズの作品が出ていたのだが、それらは短編ばかりであったので、これは驚き。実は、ネロ・ウルフ・シリーズの長編作品には、未訳のものが結構あるので、今後は是非とも積極的に訳していってもらいたい。

 今作では、作家や脚本家を狙う盗作事件を調査するというもの。そんなわけで、ちょっと取っつきにくい内容であったかなと。さらに言えば、長編にしては短めの作品であるのだが、その割には登場人物が多すぎる。前半では、誰が重要人物なのかがわからないので、やや混乱してしまうような状況が待ち受けている。

 それが皮肉にも中盤になると、数名の人物が立て続けに殺害されてしまい、それにより登場人物の整理がしやすくなることに。そうして、その後本格ミステリらしい展開が待ち受け、ネロ・ウルフが犯人特定に至る根拠を述べるのであるが・・・・・・これもややわかりにくい。

 そんなこんなで、全体的に明快さというものが欠けた作品であったかなと。個人的にはネロ・ウルフの作品が好きなので、今後もどんどんと訳してもらいたいところであるが、この作品に関しては取っつきにくさが気になる作品であった。


母親探し   5.5点

1963年 出版
2024年02月 論創社 論創海外ミステリ313

<内容>
 ネロ・ウルフの元に亡くなった有名作家の妻であるルーシー・ヴァルドンがやってきた。何者かが彼女の家の前に赤ん坊を置き去りにし、その赤ん坊には亡くなった夫の子供だと記すメモがそえられていた。誰が子供を置き去りにしたのかを突き止めるべく依頼されたウルフ。彼は部下のアーチーらに捜査をさせ、赤ん坊が来ていた服のボタンが独特の珍しいものであることを突き止める。そのボタンから、とある女性の元までたどり着いたものの、せっかく突き止めたはずの女性が何者かに殺されてしまい・・・・・・

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<感想>
 全体的に見通して見ると、従来のネロ・ウルフ・シリーズらしい内容の作品と思えるものの、どこか読み足りなさを感じてしまった。特に序盤の展開が赤ん坊を置き去りにした者を探すという内容のみで、その捜査部分がやや退屈に感じられたからかもしれない。その後、殺人事件が起きて、ミステリらしくなって気はするものの、どこか漠然とした感じで、あまり作品にのめり込めなかった。

 事件は起きるものの、果たして、殺人を犯さなければならないようなものであったのかというと、やや疑問が残ってしまう。そういった、取って付けたような点も、作品に物足りなさを感じる一端になっていたかもしれない。

 最後には容疑者たちを集めて、いつものシリーズらしく、真犯人の指摘がなされるのであるが、ある証言によって犯人が指摘されるものの、証明としては何故か弱いという微妙なもの。終わり方もまた、すっきりとはいかなかったような。


ネロ・ウルフ対FBI   6点

1965年 出版
2004年02月 光文社 光文社文庫

<内容>
 探偵ネロ・ウルフと助手アーチー・グッドウィンの元に大富豪の未亡人が訪れた。その未亡人の依頼内容とは、彼女がFBIの内幕を暴いた「だれも知らないFBI」という本を買い込み、多くの人に送ったことが発端だという。その出来事により、彼女は当のFBIから日々嫌がらせを受けているというのだ。その嫌がらせというのは、執拗に続くあからさまな尾行や盗聴などである。難解な依頼ながらも、結局ウルフは提示された莫大な額の報酬のこともあり、引き受けてしまうことに。しかし、その依頼を達成するためにFBIを夫人から遠ざける方法などがあるのだろうか!?

<感想>
 ネロ・ウルフシリーズというと、“本格ミステリー”というふうにとらえていたのだが、このようなドタバタコメディ調の作品もあるのかと本書を読んで感心してしまった。一般にネロ・ウルフシリーズを広めるためには、こういう作品を前面に出したほうがいいのかもしれない。本書はユーモア・ミステリーの書として、なかなかの傑作であろうと思われる。

 FBIとの対決というよりも、FBIが何を狙っているのか、またはFBIの弱みを握れないか、ということの調査を前提として物語が進んでゆく。話としてはうまくできすぎの感もあるのだが、全体的によくできていると感心してしまう。

 なんといっても本書で圧巻なのが、FBIや依頼人に対してのネロ・ウルフによる駆け引きであろう。FBIに関わる事件を調べ、FBIにとっても他のものにとっても決して損にはならないような解決の仕方を提示することにより、万事丸く治めてしまう(それとなくFBIに恥をかかせたりもするのだが)。その手腕は出来すぎといって良いくらいである。これはネロ・ウルフに対する興味がさらにわく一冊であった。さらなる新訳、未訳作品の刊行を希望したい。


ネロ・ウルフ最後の事件   5.5点

1975年 出版
1984年09月 早川書房 ハヤカワ文庫

<内容>
 深夜、ネロ・ウルフのもとに馴染みの給仕が訪ねてくる。命を狙われているのでネロ・ウルフに会わせてもらいたいと。対応したアーチー・グッドウィンは、とりあえず、ウルフの屋敷に泊まり、明日の朝、詳細をウルフに話してもらいたいと話をつける。そして、給仕が部屋に入り、アーチーが休もうとしたとき、大音響が! なんと給仕は、何者かにより忍ばされた爆弾により、爆死させられてしまったのだ!! 自分の屋敷で殺人が行われたことに憤りを覚えたウルフは、さっそく事件の調査に乗り出すのであったが・・・・・・

<感想>
“最後の事件”という題名ではあるものの、これでネロ・ウルフの探偵活動が終幕という内容ではない。あくまでも、この作品が出版された年に著者が病気により亡くなったという事で、図らずも遺作となってしまったということ。ちなみに原題は「A Family Affair」。

 今作での事件は、ウルフに助けを求めに来た顔見知りの給仕が、ウルフの屋敷内で爆死してしまうというショッキングなもの。ウルフとアーチー・グッドウィンは、自分たちの面前で行われた事件に対し、積極的に取り組むこととなる。

 なんとなく、ミステリ小説というよりは、スパイ小説のような様相。誰がいったい、どのような理由で犯行を行ったのかをアーチーらが明らかにしようとする。ただ、この作品で読んでいて大変だったのは、登場人物の多さ。それも重要な人物ではなく、ちょこっと登場するだけの者が多いこと。しかも、そのちょこっとだけしか出ない者であっても、読んでいる最中は重要な容疑者なのか、そうでないのかわからないので、内容を把握していくのがなかなか困難であった。

 また、今作のもうひとつの特徴たるものは、事件に対するウルフのスタンス。最初、いつになく事件に対して乗り気であったウルフが徐々にトーンダウンしていき、存在感が薄くなってゆくこととなる。その理由が、実は原題のタイトルに表れていたりする。最初にこの作品はあくまでもウルフのとっての“最後の事件”となるものではない、と言ったが、ウルフやアーチーのとって大きな分岐点となる事件ではあるのだ。できれば、この事件の次に彼らがどのような形で挑んでいくのかが気になっていたのだが、これが遺作となってしまったのでそれがかなわないのが残念である。シリーズを通して読んできた人にとっては、大きな印象を残す作品ではないだろうか。


黒い蘭   ネロ・ウルフの事件簿   6点

2014年09月 論創社 論創海外ミステリ130

<内容>
 「黒い蘭」
 「献花無用」
 「ニセモノは殺人のはじまり」

 「ネロ・ウルフはなぜ蘭が好きか(アーチー・グッドウィン)」

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<感想>
 ネロ・ウルフとその助手であるアーチー・グッドウィンの活躍を描いた中編集。

「黒い蘭」では、蘭が展示されたフラワーショーの最中に殺人事件が起こるというもの。事件の解決云々よりも、その前段階でウルフが珍しい蘭を手に入れるための交渉のほうが目を惹かれてしまう。

「献花無用」は、ウルフ行きつけのレストランのオーナーから頼まれて、殺人事件の容疑者となった男の無実を明かすというもの。企業家の一族を巡る事件に挑むという内容。

「ニセモノは殺人のはじまり」は、偽札を巡る殺人事件にウルフとアーチーが巻き込まれてゆく事件。4人の容疑者のなかからウルフが犯人を特定する。ハッティー・アニスとう老嬢が強烈な印象を残す。

「ネロ・ウルフはなぜ蘭が好きか」は、アーチー・グッドウィンを語り手としたエッセイのような内容。

 安楽椅子探偵のネロ・ウルフが活躍する3つの事件が描かれている。ただ、安楽椅子探偵といいつつも、容疑者たちがそれぞれウルフの前に姿を現し、その様子を見てウルフが犯行を確信したりするので、あまり安楽椅子探偵というような感触ではなかった。それぞれの事件が、それなりにうまく出来ていると思えるのだが、何故か全編読みにくいと感じられた。このへんは訳のせいなのか、元々の本文のせいなのかはよくわからない。また、それぞれ中編の割にはどれも登場人物が多くて、内容を把握しにくいところも微妙なところ。せめて、作品ごとに登場人物表を付けてもらいたかった。

 ネロ・ウルフの活躍を描いた作品集としてはよいのだが、中編と言っても気楽に読めるという内容ではなく、じっくりと腰を据えて取り組んだほうがよさそうな作品集。読み応えは十分にあると思えるので、登場人物をしっかりと把握しながら、時間をかけて読んでもらいたい作品。


ようこそ、死のパーティーへ   ネロ・ウルフの事件簿   6点

2015年10月 論創社 論創海外ミステリ158

<内容>
 「ようこそ、死のパーティーへ」
 「翼の生えた銃」
 「『ダズル・ダン』殺害事件」

 「ウルフの食通レシピ」

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<感想>
 ネロ・ウルフの中編作品集第2弾。ネロ・ウルフに関してであるが、安楽椅子探偵ということで有名ではあるのだが、今まで作品を読んでいても、ただ単に身動きがとれないというくらいで、いまいち安楽椅子探偵らしさが欠けていたように感じていた。しかし、この作品ではネロ・ウルフの安楽椅子探偵らしさが存分に表れており、さらには一番推理小説らしい作品集として仕立て上げられている。

「ようこそ、死のパーティーへ」は、脅迫の手紙が届けられ、そこから破傷風を用いた殺人事件へと発展していくもの。最終的に暴かれる犯人も意外であり、動機も意外。読んでいる最中は、その真相について全く読み取れないものの、明かされてみるとなるほどとうなずける。ある種、ミスリーディングをうまく張り巡らせた作品といえるのかもしれない。

「翼の生えた銃」は、エドワード・D・ホックが書きそうな不可能犯罪を描いたもの。凶器である銃が消えたり現れたりする。真相が解明されると、実はトリックというほどではないものの、これまたうまく描かれた作品だと思われる。犯人がどのようにして犯行を成しえたのか? ウルフが現場の状況を再現しながら鮮やかに解き明かす。

「『ダズル・ダン』殺害事件」は、アーチー・グッドウィンの銃が利用されて犯行が行われるというもの。絶妙なタイミングでアーチーの銃が利用され、アーチー自身が容疑者とされてしまう。危うく、ウルフの探偵免許が取り上げられそうになり、ウルフも気合を入れて真相解明に臨む。犯人や周辺の人物の心理的な面から真相を解き明かす手法が絶妙。状況証拠が整わない中で、ウルフが抜群の冴えを見せる推理と言えよう。


アーチー・グッドウィン少佐編   ネロ・ウルフの事件簿   6.5点

2016年10月 論創社 論創海外ミステリ182

<内容>
 「死にそこねた死体」
 「ブービートラップ」
 「急募、身代わり」
 「この世を去る前に」

 「ウルフとアーチーの肖像」

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<感想>
 アーチーが軍属していた時代の話。といっても、軍属から離れて、結局ウルフの世話をしなければならなくなるので、基本的な話の流れは変わらない。今作は100ページ前後の中編4本となかなかのボリューム。どの作品も読み応えがあって、よくぞ今までこうしたウルフの短編(もしくは中編)作品が世に出なかったなと不思議に思ってしまうほど。さらには、こうした作品がまだまだあるようなので、引き続き“ネロ・ウルフの事件簿”は続いてゆくこととなるであろう。

「死にそこねた死体」では、軍からの要請を断るウルフに対し、アーチーが説得に行くというもの。アーチーが久々にウルフと会うことになるが、なんと当のウルフは美食を辞めダイエット中というシリーズ屈指の大事件が起きている。何しろ、あのウルフが外でランニングまでしているのだから・・・・・・。
 ウルフを復活させるためにアーチーが無理やり関係者から事件らしきものを引っ張ってくることになる。最初はちょっとした事件のように思えたものが、予想だにしなかった殺人事件を引き起こすこととなる。これは、事件の真相もなかなか驚かされるものであるのだが、それよりも事件を無為に引き起こした者たちの責任云々のほうが重いような気がしてならない。

「ブービートラップ」は、ようやく軍のためにウルフが重い腰をあげるものの、事件の依頼者がトラップに引っかかって爆死してしまう。それに対して、ウルフは犯人に対して罠を仕掛け、その反応によって真犯人を指摘する。心理的なサスペンス小説としてウルフの犯人の追い込み方が秀逸。

「急募、身代わり」は、脅迫状を受け取ったウルフが自分の身代わりを募集し、実際に影武者を配置するというもの。しかし、その状況でも犯人の魔の手は伸びてくることとなる。意外な真相というほどではないものの、真犯人の計略がなかなかのもの。読み直してみると、真犯人に対してのそれなりの伏線がきちんと張られていたりする。

「この世を去る前に」は、遺産相続に関するギャングの抗争に巻き込まれる事件。アーチーとウルフの近辺で実際に血生臭い殺人事件が起こることとなる。ただ、消去法でいくと犯人らしき人物がひとりしか残っていないように感じられてしまうのが残念なところか。銃撃戦が繰り広げられるところから、シリーズ異色の作品という感じ。


ネロ・ウルフの災難 女難編   6点

2019年01月 論創社 論創海外ミステリ226

<内容>
 「悪魔の死」
 「殺人規則その三」
 「トウモロコシとコロシ」

 「女性を巡る名言集」 (作品中の名言を集めたもの)

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<感想>
 ネロ・ウルフとアーチー・グッドウィンの活躍を垣間見ることのできる作品集。この短編集(というか中編くらいの分量)もとうとう第4弾となり、今後も続いていく予定のよう。今作からしばらくはネロ・ウルフに降りかかる災難をモチーフとした作品が続くよう。特に今回は女性により無理難題をこうむることとなるものが3作集められている。

「悪魔の死」では、夫を撃ち殺してしまうのではないかと恐れる女が銃を持参し、ウルフに預けようとする。すると、ラジオからその女性の夫が殺害されたというニュースが報じられ、事態はややこしい局面を迎えることに。
「殺人規則その三」は、ウルフ探偵事務所を訪ねてきた女が乗ってきたタクシー(訪ねてきた女本人が運転してきた)から死体が発見され、ややこしい事態に巻き込まれる。
「トウモロコシとコロシ」は、定期的に届けられるトウモロコシのできに不満を抱くウルフ。それだけが災難ではなく、なんとひとりのモデルの証言によりアーチーが殺人容疑をかけられることに!

 それらの事件をウルフとアーチーが扱うことに。今作もウルフ探偵事務所を中心として、ほとんどの事件がその探偵事務所を舞台に繰り広げられている。それら事件を安楽椅子探偵ウルフが見事に解決してゆく。安楽椅子探偵ゆえに物証などと行った証拠などはなく決め手にかけるところはある。特に「悪魔の死」の結末に関しては行き当たりばったりのような感じがしなくもない。ただ、その駆け引きこそがこのシリーズの特徴と言えるのであろう。

 あと「トウモロコシとコロシ」において、登場するトウモロコシが何気に事件に密接にかかわっているところに驚かされた。本作ではベストの出来であったように思える。


ネロ・ウルフの災難 外出編   6点

2021年06月 論創社 論創海外ミステリ268

<内容>
「死への扉」
 ネロ・ウルフの蘭の栽培係が家庭の用事によりウルフ邸を離れることに。その間、別の蘭の栽培係が必要で、ウルフが直々にスカウトしにいくと、そこで殺人事件に遭遇することに。雇うはずの蘭の栽培係は、なんと容疑者として拘束されてしまうこととなる。

「次の証人」
 ウルフの依頼人であった演出家のレナード・アッシュが電話応答会社を巡る事件に関連していたことにより、その会社の社長が殺害された事件の犯人とされ裁判が行われていた。早急に事件を解決しようと、ウルフとアーチーは奔走することとなる。

「ロデオ殺人事件」
 ロデオが行われ、後にパーティーが行われている中で、殺人事件が発覚する。被害者はキャルというカーボーイの縄により首を絞められ殺害されていた。警察はキャルを容疑者として拘束していったのだが、アーチーとウルフは真犯人は別の者ではないかと考え・・・・・・

 「外出を巡る名言葉」 (作品中の名言を集めたもの)

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<感想>
 安楽椅子探偵ネロ・ウルフは、自分の家から出るのが嫌で、基本的にはアーチーをはじめとする探偵たちが外へ出て情報を集め、それを元にウルフが推理をするというスタンス。そんなウルフが嫌々ながら、家から出て、移動しなければならないという事件を取り上げたものがこの作品集に収められている。

 まぁ、ウルフが車に乗って家から出なければならないとか、外出先では気に入るような椅子が見当たらないとか、そういったドタバタはあるものの、基本的には従来のシリーズ作品と同様の内容である。

「死への扉」では、従来通り最後に一同を集めて推理を披露し、犯人を罠にかける様子が見られる。ただしいつものウルフの家ではなく外でというところがポイントか。「次の証人」は、事件を早急に解決するために、夜中を通して1日の間外を巡り、そして次の日の裁判の席上で真相を明らかにするというアクロバティックな内容。「ロデオ殺人事件」は、他の2編と比べればウルフが外へ出て活動する様子は少ないものの、これまたいつも通りに真犯人を指摘している(やや根拠が弱かったような気がするが)。

 そんな感じで、いつもながらのシリーズの様相が堪能できる作品集となっている。


ネロ・ウルフの災難 激怒編   6点

2023年03月 論創社 論創海外ミステリ295

<内容>
 「悪い連“左”」
 「犯人、だれにしようかな」
 「苦い話」

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<感想>
 論創海外ミステリから出版され続けた、ネロ・ウルフ・シリーズの中編作品集はこれで最後とのこと。特に追尾をかざる作品集という感ではないのだが、いつもながらにネロ・ウルフとアーチーの活躍を楽しめる作品集となっている。

「悪い連“左”」
 ウルフはラッセル夫妻から、彼らの甥が毒殺された事件について調べてもらいたいと依頼される。その甥は共産主義の組織に入っていたようで、組織のいざこざに巻き込まれて死亡したと思われるものの、警察は捜査に対して乗り気ではなく、そこで夫妻はウルフに事件を依頼してきたのだ。甥が死亡したときに居合わせた5人の者達が容疑者とされるが、それらの者達から容疑者を絞り込むことはできず、ウルフはとある罠を仕掛け・・・・・・

 どのようにして容疑者たちのなかから犯人を絞り込むのかと思いきや、アーチーがウルフに従って、奇妙な取引に打って出る。それがウルフの描く罠となっており、見事に真犯人をあぶりだすさまは見ものであった。


「犯人、だれにしようかな」
 ウルフの事務所に法律事務所で働く女が、事務所の弁護士のひとりが重要案件に対し、背信をしていると訴え出てきた。話を聞いたアーチーは、事をウルフに告げようと女を部屋に残してウルフの元へ。アーチーが部屋へ戻ってくると、なんと依頼者の女が殺害されていた! 自分の事務所で殺人が行われたことに怒り心頭のウルフは犯人を自らの手で見つけることを誓い・・・・・・

 なんとウルフの事務所で殺人事件が起きてしまうというもの。しかも、ちょっとした隙をついての大胆な犯行。怒り心頭のウルフが三人の容疑者のなかから犯人を指摘する。ネロ・ウルフの手によってアリバイ崩しが行われている。何気に精密なアリバイ崩しで、見所のある作品。


「苦い話」
 ウルフの専属シェフのフリッツがインフルエンザになったため、ウルフが渋々缶詰を食すると・・・・・・なんとその中にキニーネが混入されていた。それはウルフが食べたものだけではなく、製造された缶詰めの多くに混入されていたと、その被害を訴えに来た缶詰の製造業者から聞かされることに。事件を調査しようと、製造元の社長のもとへアーチーが訪ねると、その社長の死体を発見することとなり・・・・・・

 本書を読んで気が付いたのは、「苦いオードブル」という長編作品の短編ヴァージョンであるということ。ただし、長編作品ではネロ・ウルフではなく、別のオリジナルの探偵が活躍するものとなっている。長編と短編とどちらが先であったのかはわからないが、リライトするときに何らかの版元の関係があって、探偵を変えなければいけなくなったのだろうか?




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