Cornell Woolrich、William Irish  作品別 内容・感想

黒いカーテン   5.5点

1941年 出版
1960年02月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 フランク・タウンゼンドは朦朧とした中、意識をとりもどす。自分が何故、ここにいるのかわからないまま、なんとか自宅へ帰りつこうとするものの、そこには誰も住んでいなく、別の家に住む妻の元へとたどり着く。そこでようやくフランクは自分が数年分の記憶を喪失してることに気が付く。その数年間、自分は何をしていたのか? 元の生活を取り戻そうと昔の職場に復帰するものの、何やらフランクを付け狙うものが現れ・・・・・・

<感想>
 アイリッシュと、別名義のウールリッチの作品がたまってきたので、今後どんどんとまとめて消化していこうかなと。積読のなかで比較的短めの本書を選び、今回読んでみた。初読である。

 中身は記憶喪失系の作品。ある日、意識を取り戻した男が、それまでの数年間の記憶を失い、自分が今まで何をしていたのかわからないというもの。自分でもよくわからない過去を捨て、昔の生活を取り戻そうとするものの、何者かにつけ狙われていることに気づき始める。そこで、失われた数年間に起きた出来事を思い出そうと主人公は孤軍奮闘していくこととなる。

 まぁ、普通のサスペンスチックな話という感じ。ただ、失われた過去に起きた出来事として、そこにひとつの殺人事件があり、それがやや本格ミステリ風のような形で謎がとかれているところは見どころであったかなと。

 ご都合主義的な話という感じではあるものの、この分量の作品であればうまくまとめられているかなという気もする。基本的にはサスペンス小説ということなのであろうが、冒険小説という風にも捉えられなくはない。


黒いアリバイ   5.5点

1942年 出版
1977年12月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 女優キキのマネージャーであるジェリー・マニングは、女優を派手に宣伝しようと、黒豹を連れてくる。マニングはキキに黒豹を連れて、街へ出るように指示するが、結局黒豹が逃げ出すという事件を引き起こすことに。その後、巷では謎の連続殺人事件が起こる。事件は一見、逃げ出した黒豹が起こしているように思われ、マニングは窮地に追い込まれる。ただ、マニングは事件に不可解なものを感じ始め・・・・・・

<感想>
 2018年の復刊フェアにて購入。近年、アイリッシュ(コーネル・ウールリッチ)の作品に手を付け始めたところなので、この復刊はうれしいところ。

 この「黒いアリバイ」であるが、設定がかなり特殊。なんと逃げ出した黒豹が女性ばかりを狙った連続殺人事件を起こすというもの。その黒豹を連れてきた芸能マネージャーのマニングが探偵役となって黒豹の後を追う。ただ、マニングは、本当にこれらの事件を起こしたのが黒豹なのかと懐疑的、とそんな内容。

 次々と黒豹(?)に狙われる女性の様子が描かれ、連作短編のような感じで読み進めることができる。ただ、設定は面白いものの、あまり意外というような展開の内容でもなく、中身は普通のサスペンスのような。もっと細かく言うのなら、ホラー風心理サスペンスとでも言えばいいのかな。心理的な面ではアイリッシュらしい作品といえるのかもしれない。同じような展開が延々と続くゆえに、若干面白みに欠けていたかなと。最後に明らかになる真相も、あまりにも唐突なものであったし。


幻の女   7.5点

1964年 出版
2015年12月 早川書房 ハヤカワ文庫(新訳版)

<内容>
 スコット・ヘンダースンは妻と喧嘩をしたことにより、予約していたショーを変わった帽子をかぶった行きずりの女と見に行くことに。そしてショーの後、家に帰ると彼を待ち構えていたのは刑事たち。喧嘩別れした妻が家でネクタイにより絞殺されたのだ。容疑がスコットにかかり、行きずりの女にアリバイを証明してもらおうとしたのだが、彼が立ち寄った先では誰もその女を見ていないと・・・・・・。殺人容疑をかけられたスコットは死刑判決を受け、死刑執行まで3か月足らず。幻の女を見つけるため、スコットの友人であるジョン・ロンバードが奔走するのだが!?

<感想>
 名作を新訳版で再読。久々の再読の割には、やはりインパクトが強い作品ゆえか、記憶している部分も多かった。

 この作品に関しては、サスペンス小説の傑作であるということ間違いなし。再読故に、今回の読書で与えられるインパクトは強いものではなかったが、これが初読であれば必ずや驚かされることであろう。

 ちょっとした行き違いから妻を殺害したとされる男。彼と一緒にいたはずの見ず知らずの女性が見つからなく、窮地にたたされることに。そんな彼のために親友が立ち上がり、幻の女を捜そうとするも、あと一歩のところで捜査の手からすり抜ける。そして最後にようやく、女性の行方がわかったかと思いきや・・・・・・

 というような感じで息つく暇もなく展開が進行してゆく。章に振られている“死刑執行の**日前”という記述の日にちが徐々に少なくなってゆくところもスピード感と恐怖感をうまく煽っている。まさしくオールタイムベスト級のサスペンスミステリ。


黒い天使   5.5点

1943年 出版
1986年12月 早川書房 ハヤカワミステリ373
2005年02月 早川書房 ハヤカワ文庫

<内容>
 アルバータ・マレーの夫、カークが不倫相手を殺害した容疑で逮捕された。夫の不倫相手の存在を知らなかったアルバータはショックを受けたが、夫の無実を信じて自らの手で真犯人を探すことを決意する。夫の愛人宅からアルバータが勝手に持ち出した、四人の連絡先をもとに捜査を始めてゆくのだが・・・・・・

<感想>
 最近、未読のウールリッチ(もしくはアイリッシュ)の作品を読んだり、既読の作品を読み返したりしているのだが、この作品を読んで感じたのは「幻の女」と「暁の死線」を合わせたような作品だなぁということ。

 捕らえられた夫のために、妻が単独で真犯人を探し出すという素人探偵っぷりが描かれた内容となっている。物語ほぼ全編、捜査をする人妻アルバータ視点で展開されている。

 ただこの作品、面白いかといわれれば微妙。というのは、少々幼稚というか子供向けみたいなサスペンス・ミステリとしか感じられないのである。世間知らずの育ちのよさそうな人妻が、手掛かりとなる電話番号に連絡し、体当たりでそれらの人物から捜査のヒントを得ようとする。そうしたなかで、アルバータが今まで接したことのないような裏の世界に足を踏み入れていくこととなる。と、そんな展開で、うまくサラッサラッと悪人どもの手から逃れつつも、ヒロインが単独捜査を繰り広げる様子が描かれているのである。

 このへんの捜査の様子が行き当たりばったりの割には、なんとご都合主義というか、物語上しょうがないとは思いつつも、やや冷めた目で見つめざるを得ないのである。と、そんな感じで考えずに、純朴なヒロインが夫の無実を勝ち取るために体当たりしていくサスペンスと割り切って読めば面白く読めるのであろう。穿った目でみなければ、あくまでも良い話ということで。


暁の死線   6.5点

1944年 出版
1969年04月 東京創元社 創元推理文庫
2016年03月 東京創元社 創元推理文庫(新版)

<内容>
 夢をもって都会へ出てきたものの、場末のダンサーにとどまるブリッキー。そんな彼女が仕事帰りにひとりの男クィンと出会う。打ち解けて話をしてみると、なんと二人は同郷であることがわかった。互いに都会での生活に疲れていたこともあり、ブリッキーはクィンに、明け方の6時のバスで故郷へ帰ろうと提案する。しかし、クィンのほうは現金の窃盗を行ったことにより、それが明らかになると警察に追われる恐れがあるという。そこで二人は、窃盗がばれないように現金を戻しに行くことにする。そして、クィンが現金を窃盗した邸にはいると・・・・・・そこで死体を発見することとなり・・・・・・

<感想>
 昔読んだことのある作品であり、新版が出たので購入して再読。ウィリアム・アイリッシュといえば、「幻の女」が有名であるが、個人的に読んだ作品のなかで一番記憶に残ったのはこの「暁の死線」である。

 今の世でいえば、ボーイ・ミーツ・ガールもの。古典ミステリのなかでこの言葉が当てはまるような作品はこれ以外にないのでは? 偶然出会った男女が、うちとけて話をしていくうちに、同郷の出身者であるということがわかる。二人は都会から逃れて故郷へ帰ろうとするのだが、男の方がとある問題を抱えていて・・・・・・というような内容。

 そこから時間制限をもうけた二人の奮闘ぶりが始まる。書き方がシリアスゆえ、そうは感じないのだが、何気にこの作品、読んでいくと実はコメディではないかと感じ取れてしまう。むちゃくちゃな事を真面目にやっていて、しかもあまりにもご都合主義的な展開ばかり。それでも邪気のない(たぶん)男女二人であるがゆえに、何をやっても許してしまうことができる。

 推理小説というのは、事件を基調とした作品ゆえに暗い終わり方をするものがあたりまえ。そうしたなかで、この作品のようにさわやかな終わり方をするというものは、珍しいようにも思える。この作品を読んだことのない人は、そのタイトルからして暗い雰囲気の作品と思えるかもしれないが、その内容や雰囲気は決してそれだけにとどまるものではないので、是非とも一読してもらいたい。


夜は千の目を持つ   6点

1945年 出版
1979年07月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 トム・ショーン刑事が仕事帰り、川べりを歩いていると、ひとりの女性が自殺しようとしているのを発見し、思いとどまらせる。彼女の名はジーン・リードといい、さる資産家の娘。彼女がいうには、彼ら親娘はひとりの預言者により、人生を脅かされていると・・・・・・。その予言者が告げる言葉は、ことごとく当たり、とうとうジーンの父親の死を予言してしまったのだと。話を聞いたショーンは、事件に胡散臭いものを感じ、上司の協力を得て、警察総出で預言者の正体を探り始める。

<感想>
 一人の刑事が20歳くらいの娘が自殺するのを止めるところから話が始まる。その娘から、ひとりの預言者に人生を台無しにされそうになった父親と娘の話が語られる。その後、やけにフットワークの軽い警察官チームにより、預言者に対しての大規模な捜査が行われることとなる。

 物語の中盤で、その捜査が始まることとなるのだが、そこから物語は一気に加速することとなる。最後の最後まで読まなければ、この物語が仕組まれたものなのか? それとも本当に超自然的な話なのか? がわからないようになっている。その超自然的なものかどうかという駆け引き(という言い方はおかしいかもしれないが)が、この物語のバランスをとっているように思えた。

 ただ、唯一読んでいて苦痛に思えたのは、資産家の父親があまりにも予言を気にしすぎて、必要以上にメソメソと落ち込んでいるところ。しかもこの場面が結構多く、長かったりする。読み手としては、そこのところさえクリアできれば、楽しめるサスペンス小説ではないかと。あくまでも結末は読んでのお楽しみということで。


暗闇へのワルツ   6.5点

1947年 出版
1976年10月 早川書房 ハヤカワ文庫

<内容>
 ニューオリンズでコーヒー会社を経営するルイス・デュラントは船の到着を心待ちにしていた。文通でやりとりをしていたジュリアという女性が船で到着し、ルイスはそのジュリアと結婚することを心待ちにしていたのである。そしてジュリアがやってきたのだが、そこに現れたのは文通していた相手とは違う若い美貌の女性であった。ジュリアが言うには、嫌われないようにわざと年齢を偽っていたのだと。そんなことはよそにルイスは姿を現したジュリアに有頂天となり、二人は結婚式を挙げることに。新しい家での結婚生活が始まったのだが、やがて不穏な事態が起こることとなり・・・・・・

<感想>
 アイリッシュの積読になっていた作品を読了。これはなかなか印象深い作品であった。分厚いページ数で読むのに時間がかかるかと思っていたのだが、意外とすんなり読むことができた。

 出だしは結婚詐欺にあう男の話が描かれている。はたから見ると、いかにもというもので、これは騙されてもしょうがないと、あまり同情するようなものではない。そして、騙された男が復讐に乗り出してゆく・・・・・・という話になるはずが、そこから物語は思わぬ方向へと進んでゆくこととなる。

 当初は、なんだかんだ言っても結局騙される男の物語を描いたものという感じがしていたのだが、後半になるとそれとは全く違った様相を見せることに。それはまるでノワール作品かと思うような展開を見せるのだが、最後の最後には、またそれとも異なる様相を見せることとなる。いや、男女の行く末を変わった形で表した作品だと、何気に胸を詰まらせることとなる。

 騙される男が悪いのか、人目を引きすぎる美貌に生まれてきた女が悪いのか、それとも生き方に問題があったのか。悪徳な感情のみで終わらなかったからこそむしろ闇というものを強く感じてしまう作品。


野生の花嫁   5点

1950年 出版
1961年05月 早川書房 ハヤカワミステリ636

<内容>
 ラリー・ジョンズは偶然出会った囚われの身となっているミッティ・フレデリックスに一目ぼれしてしまう。そんな彼女を囚われの身から救い出し、その場から逃げだし、結婚し、二人は船に乗り込む。そのままサンフランシスコへと向かう予定であったが、船が停泊した時にミッティが降りてしまい、そのまま二人は船に置き去りにされてしまう。そして、ミッティの本能が赴くままに、彼女についていくと・・・・・・

<感想>
 読んでびっくり、ミステリというよりは、民俗系ホラー作品のような内容になっている。ウールリッチは、作家活動の後期ではこういった作風のものを書いていたのかな? 最近読んだ「死はわが踊り手」も超自然的な要素が加えられた作品であったので、そんな感じのようなものを書くようになっていったのかもしれない。

 ラリー・ジョンズという青年が、ミッティという女性に一目ぼれして、連れ出すという展開で始まる作品。これが最後まで読んでいくと、実際にはラリーが一目ぼれしたというよりは、ミッティの力のよって魅入られてしまったという考え方の方が納得がいく。それによって、ラリーはとんでもない人生を送る羽目に陥ってしまう。

 作中で思ったのは、重要な役割を担っていると感じられた二人の考古学者の扱いについて。途中までこそ重要そうに思えたのだが、その二人の顛末についてはあまりにも・・・・・・という感じで、何とも言えなくなってしまった。結局、無駄な登場人物になってしまったというような印象しか残らなくなってしまった。

 ある種の、おどろおどろしい民族系ホラー小説としては、読みがいがあるのでは。個人的には、ちょっと・・・・・・という感じの作品であったのだが。


死はわが踊り手   

1959年 出版
1959年09月 早川書房 ハヤカワミステリ509

<内容>
 他の者が誰も踊りたがらない死の踊りを踊る修道院の踊り子マリー。彼女は客として来ていた楽団の指揮者マクシーに一目ぼれをし、マリーはマクシーについて修道院から出ていくことに。その後、マクシーの楽団で踊りを披露し続けることとなるマリー。しかし、死の踊りを踊るたびに、観客から死者を出すという騒動を巻き起こすこととなり・・・・・・

<感想>
 ミステリというわけでもなく、どこか変わった作品であった。一応は恋愛小説と言っても良さそうなジャンルなのであろうか。ただ一つ、普通の小説と異なるところは主人公の踊り子が、死の踊りというものを踊るたびに死者が出るというもの。その特殊能力と言っていいのかどうか、制御のきかない超自然的な力を有することにより、踊り子のマリーとその恋人は波乱万丈な人生を送ることとなる。

 退廃的な雰囲気のなかで、二人の男女の気持ちのすれ違いのようなものを味わう小説。ノワール小説的とも言えなくもないのだが、登場人物らに悪意というような気持がないゆえに、そういった雰囲気の作品でもない。ただ、終わり方はあまりにもノワール的な・・・・・・




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