Cornell Woolrich、William Irish  短編集 作品別 内容・感想

妄執の影   6.5点

1955年02月 早川書房 ハヤカワミステリ186

<内容>
 「妄執の影」
 「さらばニュー・ヨーク」
 「ガラスの目玉」
 「影 絵」
 「義足をつけた犬」
 「爪」

<感想>
 いつ買ったのかも覚えていない積読作品。それでも読んでみたら意外と面白かった。

「妄執の影」は、ちょっとディープな内容。アイリッシュのサスペンスというよりは、シムノンの小説を思わせるようなもの。なんとも言えない余韻を残す作品。

「さらばニュー・ヨーク」は、一見「暁の死線」を思い起こさせられるものの、情報量が少なすぎてよくわからないまま終わってしまう。ちょっと短すぎる作品。

「ガラスの目玉」は、ジュブナイルのような作品。子供が勝手に想像して犯罪を掘り起こそうとするのだが、それが現実になってしまうというもの。子供の冒険譚のような感じで読めて、なかなか面白かった。

「影 絵」は、本当に起きた事件なのか? それともただの幻想か? と迷わせる内容。そして、最後にきっちりとひとオチ付けている。

「義足をつけた犬」 盲人探偵とでもいうべき作品か。盲目の老人がパートナーの義足を付けた犬と共に自らの無実を晴らすために麻薬密売組織に乗り込むという話。何気にハードボイルドっぽい。

「爪」は、犯行現場に爪を残していった犯人を警察が探すという内容。あっさりと犯人が見つかるかと思いきや、なかなか凝ったラストが待ち受けている。


「妄執の影」 夫が殺人犯ではないかと疑い始めた妻は・・・・・・
「さらばニュー・ヨーク」 都会から逃げようとする二人の男女は・・・・・・
「ガラスの目玉」 警官を父親に持つ12歳の息子は、父親に手柄をたててもらうために“ガラスの目玉”を手掛かりに死体を探そうと考え・・・・・・
「影 絵」 夫が妻を殺害する場面を影によって見た夫婦。事件は裁判となり・・・・・・
「義足をつけた犬」 盲目の老人と義足を付けた犬。そのコンビは突如、麻薬密売の疑いをかけられ・・・・・・
「爪」 犯行後、現場に爪を残していった犯人。その手掛かりから、すぐに犯人は逮捕されるかと思いきや・・・・・・


睡眠口座   6点

1956年12月 早川書房 ハヤカワミステリ296

<内容>
 「ハミング・バード帰る」
 「睡眠口座」
 「マネキンさん今晩は」
 「小切手と花と弾丸と」
 「耳飾り」

<感想>
 日本で独自編纂されたウールリッチの作品集。これといった強い印象を残す作品はないものの、どれもがサスペンス・ミステリとしてうまく描かれているなと思わされる出来栄え。

「ハミング・バード帰る」は、盲目の母親と犯罪を犯した後に仲間と共に帰ってきた息子とのやりとりを描いたもの。真相はどのようなもので、いったいどのような結末を迎えるのか、気になりながら読まされてしまった。

「睡眠口座」と「マネキンさん今晩は」は、一見ありがちな内容の作品に思えつつも、予想を裏切るような展開が待ち受けている。読み始めはどう見ても、悪い結末しか想像できない物語であるのだが、それが意外と良い感じの結末として描かれているところもポイント。

「小切手と花と弾丸と」は、キャラクター造形がよかったかなと。詐欺師と刑事との関係性が面白い中で、特に刑事の方に味が出ていたと思われた。

「耳飾り」は、内容云々よりも、語り口のせいか主人公が女性と思えなかったところが気になった。訳に問題がある??


「ハミング・バード帰る」 盲目の女は家を出ていった息子を待ちわびるが、その息子が犯罪者となって帰ってきて・・・・・・
「睡眠口座」 食うに困った男は、新聞に出ていた死者の息子を名乗り大金を手に入れようとし・・・・・・
「マネキンさん今晩は」 家出をした女は、都会に出た姉を頼ろうとしたものの、犯罪に巻き込まれ・・・・・・
「小切手と花と弾丸と」 刑事は逃げ延びてきた詐欺師から、殺人の陰謀に巻き込まれたという話を聞き・・・・・・
「耳飾り」 恐喝された女は金を払うものの、現場に耳飾りを落としてしまい、それを取りに行き・・・・・・


もう探偵はごめん   6点

1971年08月 早川書房 ハヤカワミステリ1153

<内容>
 「札束恐怖症」
 「もう探偵はごめん」
 「バスで帰ろう」
 「歌う帽子」
 「おまえの葬式だ」
 「モンテズマの月」
 「黒いリズム」

<感想>
 色々な作品が掲載されている作品集。序盤は軽快な感じのものが多かったのだが、後半はいきなり重い空気になっていったような。

 ちょっとした詐欺のような感じのものを描いた「札束恐怖症」。ある種、落語ネタのような。
「もう探偵はごめん」は、軽快な感じで素人探偵を名乗り出た男が、最後の最後で葛藤と後悔にかられるというもの。
「バスで帰ろう」は、時計のイラストを見て、これはもしや「暁の死線」の短編版では!? と思ったら、やはりそうであった。
「歌う帽子」は、帽子を間違えて持ち帰ったがゆえに、災難に遭った男の話。帽子を間違えただけで、まさかそんな・・・・・・と思わずにはいられない。
「おまえの葬式だ」は、逃亡する犯罪者がとあるトリックに打って出るというもの。笑えるような、笑えないような。
「モンテズマの月」と「黒いリズム」は、いきなり宗教色のようなものが濃くなっていく。ウールリッチの後期の長編作品にこういった作調のものをしばし見かけられるようになっていったような。


「札束恐怖症」 盗みを働いた泥棒を弁護するための言い分は!?
「もう探偵はごめん」 ある男の婚約者の妹が送られてきた薔薇のとげにより死亡した。その男の友人が探偵役を買って出て、事件を調べ始めたのだが・・・・・・
「バスで帰ろう」 偶然出会った二人は、同じ田舎町の出身であることを知る。二人は男が犯した罪を片付けて、早朝6時のバスに乗り込んで、故郷へ帰ろうと・・・・・・
「歌う帽子」 食堂で帽子を間違えて持ってきてしまった男は、その帽子のなかに20ドル札の偽札が挟まれているのを見つけ・・・・・・
「おまえの葬式だ」 FBIから追われている男女が、アパートに追い詰められたが、追ってから逃れるために起死回生の一手を打つ!?
「モンテズマの月」 夫が失踪し、乳飲み子を抱えた女は、その手掛かりとなるはずの家を訪ね・・・・・・しかし、そこで待っていたのは、女と老婆であり・・・・・・
「黒いリズム」 バンド指揮者の有名人が、警察を訪れ、黒人の老人を殺害したと話し出す。彼が語るには、背景にはヴードゥー教の呪いがあり・・・・・・


晩餐後の物語   6.5点

1972年03月 東京創元社 創元推理文庫(アイリッシュ短編集1)

<内容>
 「晩餐後の物語」
 「遺 贈」
 「階下で待ってて」
 「金髪ごろし」
 「射的の名手」
 「三文作家」
 「盛装した死体」
 「ヨシワラ殺人事件」

<感想>
 積読となっていた創元推理文庫版のアイリッシュ短編集、しかもその1作目を読了。これがまた期待以上に面白かった。

 なんといっても最初の「晩餐後の物語」。エレベータに閉じ込められ人々が脱出する際に、ひとりが銃により死亡していたという事件。そしてその後にタイトルにある晩餐会が開催され、そこで犯人探しが行われるという話。良く見渡せば、粗めの作品ではあるのだが、それを気にさせないくらいの設定が魅力的。

「階下で待ってて」も、サスペンス小説として面白い。マンションに入ったはずの婚約者が消え失せるという事件。しかも、本当にその婚約者が存在したのかということさえもあやふやになってしまうのである。これまた、設定の妙。

「遺贈」は、クライムサスペンス風の作品であり、皮肉の利いた結末が待っている。「三文作家」は、単に作家の悪戦苦闘ぶりを描いた作品であるのだが、最後のオチが見ものという作品。「盛装した死体」もある意味、最後のオチ・・・・・・これは、犯人があまりにも考えなしというか・・・・・・


「晩餐後の物語」 エレベータ事故に乗り合わせた8人のうち2人が死亡した。死亡したうちの一人の父親が、生き残った者たちを晩餐会に招待し・・・・・・
「遺 贈」 罪を犯した男が車で逃走を図る最中、別の犯罪者たちに襲われ・・・・・・
「階下で待ってて」 婚約者が届け物を持っていくというので、マンションの階下で待っていたが、婚約者は消え失せてしまい・・・・・・
「金髪ごろし」 毎日発売される新聞と、金髪ごろしの記事と、人間模様。
「射的の名手」 女優のサインを使って詐欺を働こうとした男は、当の女優から銃を使った仕事を頼まれるのこととなるのだが・・・・・・
「三文作家」 作家はホテルで缶詰めとなり、締め切り間近の作品を仕上げようと必死に・・・・・・
「盛装した死体」 車に轢かれた女の死体。元夫は、なにやらアリバイ工作を色々と企んでいたようであるが・・・・・・
「ヨシワラ殺人事件」 骨休めに船から上陸したアメリカの海兵は、ヨシワラで同国の女から助けを求められ・・・・・・


裏 窓   7点

1973年03月 東京創元社 創元推理文庫(アイリッシュ短編集3)

<内容>
 「裏 窓」
 「死体をかつぐ若者」
 「踊り子探偵」
 「殺しの翌朝」
 「いつかきた道」
 「じっと見ている目」
 「帽 子」
 「だれかが電話をかけている」
 「ただならぬ部屋」

<感想>
 表題の「裏窓」といえば、映画に詳しくない私でも知っている、ヒッチコック作品としてよく取り上げられる有名作。その他、さまざまな短編が集められた作品集。

 どれもが面白い作品で驚かされる。これはまさにサスペンスミステリのお手本ともいうべき作品集。どの作品も殺人事件という重い内容のものを扱いながらも、それぞれがどこかコミカルに描かれているように感じ、読みやすい仕上がりとなっている。これは「裏窓」以外にも映画作品として取り上げられていてもおかしくはなかろう。

 怪我により寝たきりとなった男が向かいの家の不可解な様子を目撃する「裏窓」
 父親を助けようと継母の死体を捨ててこようと奮闘する「死体をかつぐ若者」
 デジャヴのような感覚で殺人現場を眺める刑事の奇譚を描いた「殺しの翌朝」
 寝たきりでまぶたしか動かせない老婆が殺人事件を暴く「じっと見ている目」

 そして最後の作品であり、この作品集のなかで一番長い「ただならぬ部屋」も面白かった。こちらは、ホテルの913号室で毎年のように客が謎の飛び降り自殺をはかるという事件を描いたもの。真相を究明しようとホテルの保安係が奔走する。これがサスペンスチック、かつホラーチックな作品でなかなか読み応えがある。ミステリファンも納得させるような内容になっている。


ニューヨーク・ブルース   6点

1977年04月 東京創元社 創元推理文庫(アイリッシュ短編集6)

<内容>
 「三 時」
 「自由の女神事件」
 「命あるかぎり」
 「死の接吻」
 「ニューヨーク・ブルース」
 「特別配達」
 「となりの死人」
 「ガムは知っていた」
 「借り」
 「目覚めずして死なば」
 「さらばニューヨーク」
 「ハミング・バード帰る」
 「送っていくよ、ヤスリーン」

<感想>
 2011年の復刊フェアの際に購入した作品。創元推理文庫によるアイリッシュ短編集の6作品目にあたる。

 作品を読んでいて面白いと思ったのは、単一視点で語られるものがほとんどという構成になっていること。短編作品ゆえなのか、元々アイリッシュ作品の特色なのかはわからないが、今回読んでいてそれを強く感じられた。

 大きい事件から小さな事件、思い過ごしから本当に起きた事件などと、色とりどりな作品集となっている。表題作の「ニューヨーク・ブルース」が一番内容がわかりづらかったような。幻想的というか、空想的な部分も含まれていたのかな?

 事件爆弾を仕掛けた男の顛末を描く「三時」、内縁の妻が夫に罠を仕掛けようと悪戦苦闘する「死の接吻」、掃除人のガムが思わぬ結果を生むこととなる「ガムは知っていた」、元犯罪者の無実を晴らそうとする刑事の奮闘を描く「送っていくよ、ヤスリーン」などが面白かった。


「三 時」 男は妻を殺害するために、時限装置と火薬を仕掛け・・・・・・
「自由の女神事件」 自由の女神を観光しに来た刑事が遭遇した殺人事件!!
「命あるかぎり」 女は男と運命で結ばれたと思ったものの、男の残虐性に気づき始め・・・・・・
「死の接吻」 ギャングの内縁の妻は、夫が事件を起こした際に、逮捕されるように誘導できないかを考え・・・・・・
「ニューヨーク・ブルース」 ひとりの男が過去を思い起こす幻想と現実。
「特別配達」 牛乳配達の男は誘拐事件に遭遇した!?
「となりの死人」 勝手に牛乳を飲んだものを捕まえようとした男は誤ってその男を殺してしまい・・・・・・
「ガムは知っていた」 思わず相手を殺してしまった二人の男は事件を他の者になすりつけようとドアノブを交換し・・・・・・
「借り」 刑事の娘が寸前のところで見知らぬ男に命を助けられたのたが・・・・・・
「目覚めずして死なば」 小学生のトミーは女児誘拐事件に気づいたものの、周囲の者は信じてくれず自らの手で・・・・・・
「さらばニューヨーク」 金のない男女のニューヨークからの逃避行。
「ハミング・バード帰る」 目の見えない母親と犯罪者の息子との行く末。
「送っていくよ、ヤスリーン」 無実の罪に問われた元犯罪者を助けるために刑事は・・・・・・




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