ア行−エ  作家作品別 内容・感想

薔薇の名前   Il Nome della Rosa (Umberto Eco)

1980年 出版
1990年01月 東京創元社 単行本(上下)

<内容>
 ウィリアム修道士とその弟子のアドソは、ベネディクト会修道院へとやってきた。ウィリアムは以前、異端審問官であった腕をかわれ、修道院長のアッポーネから僧院で起こった事件について調べてもらいたいと依頼される。若い修道僧が建物から飛び降りで死亡するという事件があり、いったい何故そのようなことが起きたのかを調査してもらいたいというのだ。事件は自殺なのか? 他殺なのか? ウィリアムとアドソはこの修道院のシンボルともいうべき文書庫を秘密裏に調べようとする。しかし、彼らが調査している間に、次々と黙示録になぞらえたような殺人事件が起きることとなり・・・・・・

<感想>
 ようやくこの「薔薇の名前」を読みとおすことができた。長らくの積読作品のうちの一つでもあり、ミステリ史上でも名作と名高い作品にやっと触れることができた。しかし、読んだ感想はというと、ミステリというよりは、当時の娯楽大衆小説とでもいうべき図書のように感じられた。

 冒頭では、主人公となるウィリアム修道士によるシャーロック・ホームズばりの推理が披露され、修道院長から事件を依頼され、秘密の書庫へと忍び込むことに。さらには、連続殺人事件までが起き、これはとんでもないミステリ小説だと感じさせられた。しかし、中盤からはその勢いも途絶え、激しく宗教論が交わされたり、事件とは直接関係なさそうなことがくり広げられたりと、徐々に事件から遠のき始める。殺人事件は次から次へと起こるのだが、まるで金田一耕助のように起こる事件を嘆くだけの主人公ら。そうして、そのまま物語は最終幕へと導かれることに。

 元々、著者自体も本格ミステリ小説を意識して描いた作品というものではないのだろう。というか、そのころ本格ミステリという定義さえ、ない時代。修道院の中で起こる謎めいた事件をミステリ小説調に書き、本題とも言える宗教論を濃く描き、さらにはウンベルト・エーコの研究課題のひとつである記号論を用いて書いた作品という気がする。ようするに、エーコの研究課題をうまく娯楽小説の中に盛り込んで描いた小説こそが「薔薇の名前」ということなのであろう。

 そんなわけで、ミステリとしてのみとらえてしまうと、あまり満足にいくものではない。内容も難しく、宗教史に詳しくなければ、なかなかついていくのは難しい。それでもこの作品が名作のひとつとして語り継がれているのは、唯一無二の作品だからこそということなのだろう。ミステリ史上に残る名作というよりも、小説史上に残る名作という冠のほうがふさわしいであろう作品。


悪魔の栄光   Halo for Satan (John Evans)

1948年 出版
2006年05月 論創社 論創海外ミステリ46

<内容>
 私立探偵ポール・パインはカトリック教会の司教から人捜しを依頼される。その男とは、なんとイエス・キリスト直筆の文書を持っていて、司教に2500万ドルの値で売りつけに来たのである。しかし、男は後に連絡をとると言ったきり、音沙汰がない。司教はパインにその男を捜し出してもらいたいというのである。事件に乗り出したパインであったが・・・・・・

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<感想>
 普通というか、通俗のハードボイルド小説である。“キリスト直筆の文書”というものが出てくるものの、そういったものの背景などが語られるわけではなく、小難しいことなどいっさい出てこないスピーディーなアクション小説となっている。

 本書ではハードボイルドに欠かせないコードが数多く出てくることとなる。行方不明の男、謎のお宝、謎の未亡人、暗黒街のボス、殺し屋、後ろから頭を殴られて昏倒する探偵、などなど。ただし、こうしたものがあれこれ出てくる割には、物語の内容を損ねるでもなく、きちんとまとまった話になっているので、そこはよくできた小説であると評価すべきところなのであろう。

 といったところで、決して目新しい作品ではないのだが、展開といい結末といい、見るべきところの多いハードボイルド小説であるということは間違いない。今までなかなか訳されなかった幻の作品という背景もあるので、ハードボイルドファンであれば、見逃せない作品といったところである。


ウナギの罠   Ålkistan (JanEkström)   6.5点

1967年 出版
2024年04月 扶桑社 扶桑社文庫

<内容>
 田舎町の大地主ブルーノ・フレドナーがウナギ罠の中で死亡しているのが発見された。撲殺された後に罠の中に入れられたようなのだが、入り口の鍵はブルーノが所持しており、そこから死体を入れると鍵を閉めることができない。取水口から入れることもできるが、死体は乾いたままで、取水口から入れられた形跡はなかった。すると犯人はどのようにして、死体を罠の中へ入れたのか? 大地主は嫌われ者であったため、動機を持つ者は多数。ドゥレル警部が解き明かした真相とは!?

<感想>
 他のHP上で見かけて、面白そうだと思い購入した作品。1960年代のスウェーデンで書かれた本格ミステリ。

 一言で言ってしまえば、密室の謎が面白い。これにつきる。“ウナギの罠”と書かれているのだが、想像以上に大きな罠。罠というよりも、小屋みたいな感じ。その中で死体が発見され、しかも密室であることがわかり、その不可の犯罪の謎を解くというもの。その謎のなかで、作中に出てくる思いもよらないものがトリックに使われていたという部分に驚かされた。

 この密室の謎だけでも十分に読む価値のある作品だと思われる。物語自体は普通であり、地主がいかに嫌われていたのかが表されるものとなっている。最初、久々に村に帰ってきたラッセという人物が中心になって話を回していくのかと思いきや、途中から存在が空気になってしまっていたのはちょっと微妙。事件が起きてからは警察主体の物語として展開されていくこととなる。

 この著者、他にもミステリ作品を書いていたようなので、今後紹介されてゆくことになるかもしれない。本書よりも面白い作品があるならば、是非とも読んでみたいところである。


死を呼ぶスカーフ   The Chiffon Scarf (Mignon G. Eberhart)

1939年 出版
2005年01月 論創社 論創海外ミステリ9

<内容>
 ファッション・モデルのイーデンは旧知の仲であるエイヴェリルが結婚するというので故郷のセントルイスへと向かうことに。エイヴェリルは工場の経営者をしており、結婚するのは同じ工場にて働く技術者のジム・ケイディ。イーデンがセントルイスへ着いたときには、そのジムが最新の飛行機エンジンを作り、それを売りこもうとしている最中であった。その飛行機のエンジンを巡ってか、はたまたイーデンとエイヴェリルの昔からの確執を巡ってのことか、殺人事件が起き・・・・・・

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<感想>
 ヒロインが事件に巻き込まれ、さまざまな試練の後に事件が解決するという、ジャンルとしてはロマンティック・ミステリーというような部類に入る作品であるらしい。この論創海外ミステリでは物語の冒頭に“読書の栞”という2ページの解説をつけているのだが、本書ではそれを読めば大体の作品背景を把握できてしまうというすぐれもの。ロマンティック・ミステリーなどといわれてもピンと来ない人は是非とも読んで参考にしていただきたい。

 というわけで、ヒロインが登場してのサスペンス・ミステリーが展開されるのだが、そのヒロインにどうも感情移入できなかったので内容に関してはなんとも言い難いところである。とはいえ、飛行機の事故とか、不時着する無人の山岳地帯などなど、全編にまといつく不気味な雰囲気はサスペンス系のミステリーとしての効果を十分に盛り上げていると感じられた。そういった独特の雰囲気は味わえるものの、内容としては普通のミステリーといったところか。

 このヒロインに感情移入することができれば、もっと話を面白く感じ取れるのかもしれない。ひっとしたら女性向のミステリーなのだろうか?


見ざる聞かざる   Speak No Evil (Mignon G. Eberhart)

1941年 出版
1961年08月 早川書房 ハヤカワミステリ654

<内容>
 富豪の実業家ロバート・デイキンと結婚したエリザベス。しかし、その結婚は間違いだと知り、エリザベスは日々離婚を考えていた。夫の仕事のため、デイキン夫妻は英国を離れ、ジャマイカで暮らしていた。そこに、英国から夫妻に関係の深い人々が訪れたとき、悲劇は起こる。ロバート・デイキンが何者かに銃殺されるという事件が! 部屋は内部から閉ざされており、エリザベス以外の人が犯行を起こせたとは思えない状況。主任警部ポール・フライカーから執拗な尋問を繰り返されるエリザベス。エリザベスが犯していないとしれば、誰がロバートを殺害したというのか? また、現場から亡くなった3匹の猿の置物の行方はいったい何を示唆しているのか??

<感想>
 積読であったハヤカワミステリの作品を読了。著者のミニヨン・エバーハートは、他に論創社から「死を呼ぶスカーフ」が出版されている。

 女流作家らしい作品であったなと。序盤に事件が起こるのだが、それが密室殺人事件といってよいようなもの。さらには、見ざる聞かざる言わざるをモチーフとした猿の置物が消え失せるという本格ミステリファンの心をくすぐるような事件の幕開け。ただ、本格ミステリらしいのは、そこまで。

 物語はエリザベスを中心に繰り広げられるのだが、特にこの女性、犯人を見つけようとか、容疑を晴らそうとか、そのような行動は起こさない典型的な巻き込まれ型のヒロイン。また、サスペンス風というほどに、いろいろな事が起こるというほどのものでもない。ラストには、怒涛のように物語が展開してゆき、一気に犯人の正体が明かされるというように進んでいくのだが、事件が起きてからそこまでの間が中ダレ気味。

 ラストは捻りも加えてうまく締めていると感心させられたが、密室殺人に関してはあっさり目。端正に描かれているなと思いつつも、読み手側の思い通りには展開してくれなかったとそこが残念。まぁ、こういった作風の作家だということなのであろう。


嵐の館   House of Strom (Mignon G. Eberhart)

1949年 出版
2016年05月 論創社 論創海外ミステリ171

<内容>
 ノーニは大農場の経営者ロイヤルと婚約しており、彼との結婚式の日が迫っていた。そんなある日、近隣の農場で働くジム・ショーがこの地を離れることをロイヤルに告げる。ジムが言うには、農場主のハーマイニーは彼を好き勝手に働かせるだけで、十分な見返りがないからだという。ジムは立ち去る直前、ノーニに自分の気持ちを告白し、一緒に来てもらいたいと突然言い出す。混乱するノーニをよそに、ジムは後日、迎えに来ると言って立ち去ってゆく。その日の晩、ノーニがハーマイニーの家を訪れると、そこにはハーマイニーの死体があり、ここにはいないはずのジムの姿が・・・・・・

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<感想>
 サスペンス・ミステリ作品。どろどろとした人間関係のなかで事件が巻き起こる昼ドラ系のサスペンス。

 ただ、どろどろとした人間関係と表現したものの、それらが明らかになってくるのは後半の事。序盤は、詳しい説明がないまま話が進んでゆくので、いまいち感情的な部分で物語の波に乗ることができなかった。特に、婚約しているノーニと、この地から離れようとしているジムの二人が惹かれあうというところが、あまりにも唐突でわかりにくかった。

 話が進んでゆくと、実は順風満帆に見えたノーニとロイヤルの婚約についても、周囲の人々のさまざまな思惑や理由があるということがわかり、段々と全体像が見えてくることとなる。序盤はあまり話にのれなかったのだが、人間相関図が明らかになってくると、物語に興味がわいてきたという感じ。

 サスペンス小説としてまぁまぁの内容だったかなと。人によって好き嫌いがわかれそうな作品。


夜間病棟   The Patient in Room 18 (Mignon G. Eberhart)   5.5点

1929年 出版
2017年07月 論創社 論創海外ミステリ185

<内容>
 病院の18号室の患者が不可解な死を遂げる。しかもその患者の治療に用いられていたラジウムが消え失せていた。犯人は高価なラジウムを盗み出すために患者を殺したというのか? 事件後、行方不明となっていた医師が疑われたものの、その医師が死体となって発見され・・・・・・

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<感想>
 論創海外ミステリにてエバハートの作品が紹介されるのは3作目。本書も他のエバハートの作品とだいたい同じような流れのものとなっている。

 そのエバハートの作品がどのような流れかというと、女性が主人公となって、その目線により話が進められてゆくというサスペンス・ミステリ的な展開がなされるもの。そして、その女性が主人公であるがゆえに、事件を解決しようという考え方とは別の観点からの視点によるというところがポイント。まさに巻き込まれ形のサスペンスというところか。

 最終的に誰が犯人でもおかしくはないという流れで終わってしまうのも、この作家の作品の特徴。それでも最初に事件が起きた時は、それなりの盛り上がり方を見せたのだが。


断 崖   Dreadful Summit (Stanley Ellin)   5.5点

1948年 出版
1968年03月 早川書房 ハヤカワミステリ395

<内容>
 16歳の誕生日を迎えることとなったジョージ・ラマン。酒場の経営者である彼の父親が、アル・ジャッジという新聞記者の手によって叩きのめされるのをジョージは目の当たりにすることに。父親を崇拝していたジョージは、怒り狂い、拳銃を持ち出してアル・ジャッジを殺害しようとする。夜の街に飛び出して、アル・ジャッジの行方を捜すジョージ少年であったが・・・・・・

<感想>
 家に置いてあった積読本を消化。スタンリイ・エリンの名前は聞けども、あまり代表作とか知らないなと、ふと思ったのだが、元々そんなに作品を(特に長編)書いているわけではないようである。

 一風変わった異色作。ノワール作品のようでありつつも、少年にスポットが当てられて故に、ちょっとテイストが異なる。少年の成長物語のようでありつつ、ハードボイルドとかノワールといった感触もぬぐえない。基本的には明るい作調ではなく、人間の闇を描いた作品のようにも捉えられる。

 尊敬する父親が一方的に打ちのめされる様子を見たジョージ少年が、その相手を殺害しようと拳銃を持って追いかけるという話。読み始めた時、その父親を打ちのめした相手がギャングの大物かと思ったのだが、実は単なる新聞記者。では、何故新聞記者にされるままに打ちのめされなければならなかったのか? という疑問が湧き上がる。ただし、当のジョージ少年は、相手を撃ち殺すことのみしか考えず、目的を成すことだけを考え驀進してゆく。

 途中、新聞記者を追いかけるも、障害があったり、目を離したすきにいなくなったりと、なかなか捕まえることができない。しかし、最終的にはようやく相手と対峙し・・・・・・終幕で待ち構えるものは? というような形で進行していく。当たり前ながらも、なんとも子供っぽさの抜けない話でありつつも、何気に大人の夜の世界が描かれていたりと、バランスのとり切れないちぐはぐさが、不気味な雰囲気を醸し出している。そして、最後にさまざまな背景が明らかになることにより、読んでいる側は何ともいえない気持ちのまま、取り残されてしまう。色々と考えてみても、さまざまな要素が込められているように思いつつも、実はそんなにたいした教訓が込められているようなものではないとも思え、ただただ悶々と・・・・・・


九時から五時までの男   The Blessington Method and other strange tales (Stanley Ellin)   6点

1964年 出版
1967年06月 早川書房 ハヤカワミステリ988
2003年12月 早川書房 ハヤカワ文庫

<内容>
 「ブレッシントン計画」
 「神さまの思し召し」
 「いつまでもねんねじゃいられない」
 「ロバート」
 「不当な疑惑」
 「運命の日」
 「蚤をたずねて」
 「七つの大徳」
 「九時から五時までの男」
 「伜の質問」

<感想>
 ハヤカワミステリ版の積読を読了。初読のはずが・・・・・・ひょっとしたら文庫版を持っていて、昔読んでいたかもしれない。ただ単に感想を書いていなかっただけかも・・・・・・ただし、内容は全く覚えていなかったので、まぁいいか(良くないか?)。

 色々な作品があって面白い。しっかりとしたオチがついているものもあるし、ブラック・ユーモア風の作品などもある。ただ、いくつかの作品でオチがわかりづらいものがあったので、微妙と思える作品もあった。そのへんは読み手にゆだねるところか。

「ブレッシントン計画」は、現代的な“姥捨て山”のような気も。そして、自分が年を取るときには震えて眠れと・・・・・・
「いつまでもねんねじゃいられない」は、なんかかわいそうというか、性的被害者の悲哀を描いているかのような。ただ、ラストではタイトルに込められた重さを主人公が痛感することとなる。
「不当な疑惑」は、この作品集における微妙さを表し、かつ特徴付けているような内容。判断は読者にゆだねるというよりは、自分で考えろと・・・・・・
「九時から五時までの男」は、計画的犯行を描いた作品で、読みがいのある内容。そしてオチもすばらしい。

 と、いったところが印象に残った作品。全体的にジャンル不定であり、それぞれの作品が、まずどのような内容なのかというところから楽しむことができる。


「ブレッシントン計画」 いきなり訪ねてきた男から、邪魔な年寄りをこっそりと始末するという組織があり、そして計画を持ち掛けられ・・・・・・
「神さまの思し召し」 車の修理工は宗教家の手により癌を直してもらい、彼らと共に旅をすることとなり・・・・・・
「いつまでもねんねじゃいられない」 深夜何者かに暴行された妻は、夫が自らの手で復讐を果たそうとすることを怖れ・・・・・・
「ロバート」 女教師を悩ます小学生ロバートの存在。
「不当な疑惑」 とある兄弟が伯父殺し事件において完全犯罪をたくらみ、法廷でとある手段を用いるが・・・・・・
「運命の日」 昔馴染みの男がやがてギャングとなり殺されたことを知った。その幼き日に運命を分けた日とは・・・・・・
「蚤をたずねて」 とある男が語る、彼が経営していた蚤のサーカスのなかでの生活模様。
「七つの大徳」 男が務めようとした会社では、“七つの大罪”を推奨し・・・・・・
「九時から五時までの男」 9時に会社へ行き、5時に帰ってくる平凡な男の真の職業とは!?
「伜の質問」 電気椅子により処刑執行人を務める男が息子からのとある質問に対し・・・・・・


最後の一壜   The Crime of Ezechiele Coen and other stories (Stanley Ellin)   7点

2005年01月 早川書房 ハヤカワミステリ1765

<内容>
 「エゼキエレ・コーエンの犯罪」
 「拳銃よりも強い武器」
 「127番地の雪どけ」
 「古風な女の死」
 「12番目の彫像」
 「最後の一壜」
 「贋金づくり」
 「画商の女」
 「清 算」
 「壁のむこう側」
 「警官アヴァカディアンの不正」
 「天国の片隅で」
 「世代の断絶」
 「内 輪」
 「不可解な理由」

<感想>
 スタンリイ・エリンの短編集。本棚で眠っていた積読の1冊。読んでみたら、これがなかなか面白い。サスペンス系の短編集のお手本のような作品。ただ、後半にいくにつれて、やや尻つぼみであったのは(「清算」以降あたりから)、やや惜しいところ。

 最初の「エゼキエレ・コーエンの犯罪」が本作品集のなかでは異色であった。旅先の外国で刑事が政治に関連するスパイ事件の謎に迫るという内容。ダークな雰囲気と家族の間での葛藤の物語には目を惹くものがあった。

 その他にも色々と良い作品があったが、“何故、被害者は殺されなければならなかったのか?”という謎を物語的に追っていく作品が結構あったという感じ。特に「古風な女の死」と「12番目の彫像」あたりがその代表的な作品。「12番目の彫像」は、最後のオチもうまくできている。

 表題作となる「最後の一壜」もなかなかのでき。途中までは、他の作品とそんなに変わり映えしないような出来なのだが、ラストのとある登場人物の言葉にやられてしまう。最後の一壜ならぬ、最後の一撃という感じであった。

 サラリーマンの悲哀を描くような「贋金づくり」は、途中から物語が急展開して、その意外性が面白かった。「不可解な理由」は、サラリーマンのカタストロフィを描いているかのようで、これまたなかなかの作品。そんなこんなで、他の作品もそれぞれなかなかの出来栄え。


「エゼキエレ・コーエンの犯罪」 旅行先で刑事が女に同情し、彼女の父親の汚名を返上すべく過去のスパイ事件を調べてゆき・・・・・・
「拳銃よりも強い武器」 老嬢は家の権利と現金と家族の平穏をかけて、文字通りの賭けに出ることに!!
「127番地の雪どけ」 アパートの住人たちはケチな管理人から暖房を勝ち取るために、とある計画を・・・・・・
「古風な女の死」 一人の画家が成功していった過程から死に至るまでを描く。
「12番目の彫像」 映画プロデューサーが突如姿を消した。揉めていた彫刻家の男に容疑がかかるが・・・・・・
「最後の一壜」 貴重なワインの一壜を高い値段で買った男の思惑とは!?
「贋金づくり」 妻と旅行に来た男は、妻に愚痴られながらも旅行先で会社からの依頼をこなし・・・・・・
「画商の女」 有望な若い画家らの絵を安く買いたたいていた画商の女が最後につけた絵の値段とは!?
「清 算」 ボートに乗った男たちが行なった、ちょっとした賭けの内容とは!?
「壁のむこう側」 博士と心理療法を行ったその結果は・・・・・・
「警官アヴァカディアンの不正」 まじめな警官は、やがて警察署に蔓延する不正に染められていくのか??
「天国の片隅で」 深夜、騒音に悩まされた男がとった行動とは!?
「世代の断絶」 姉の意見に反して、ヒッチハイクを行った妹の顛末は・・・・・・
「内 輪」 父親の死後、母親に虐げられ続けた息子。二人の姉に煽られたことにより、とある行動に??
「不可解な理由」 サラリーマンの中年男は、会社を解雇された男と話をしているうちに不安にかられ・・・・・・




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