<内容>
船に乗り遅れた船乗りのジョンが不可解な事象に巻き込まれる。ゆく先々で見かける<十七>という数字。そしてその十七番と付けられた家のなかで死体を発見し、自分が容疑者とされるのではないかと慌てふためき・・・・・・
<感想>
なんかよくわからない作品であった。話そのものは単純であるのだが、登場人物らの考え方や、行動原理に理解しづらいものがあり、何が行われているのか心情的についていけないという感じであった。
時代性があるのかとも思われるが、やたらと暗くて、見えなくて、何もわからないというような場面が続き、ストレスのみがたまるばかり。無理くりに恐怖を体感させているような感じにも見え、特に物語の前半は興味がのらなかった。
そして主人公が、事件を受動的に受け、その事件らしきものに対して、特にどのように行動するといった信念がないために、これまた読んでいてストレスがたまってしまう。本来であれば、そういったところにユーモアを感じるべき作品なのかもしれないが、個人的には一切楽しい内容とは思えなかった。
一応、物語の根底には、しっかりと事件とその背景が描かれてはいるので、全くミステリ作品から乖離しているというわけではない。物語の主眼を別の立場のものにすれば、普通のミステリとして読めたと思われる。どうやら、この作品、ジョンという主人公が活躍するシリーズとして描かれた最初の作品らしい。個人的には、この論創海外ミステリで、その他のシリーズ作品を紹介してもらいたいとは思わないのだが・・・・・・
<内容>
屋敷の一室で女主人の遺体が発見された。拳銃により心臓を撃ち抜かれた状態であるものの、凶器の拳銃は死体のかたわらにあり、死体には争った形跡もない。現場の状況から自殺と判断されるものの、ロンドン警視庁のポインター警部は不穏なものを感じ取り、ただひとり“殺人”を主張する。女主人の過去や周辺の者の聞き込み、緻密な捜査をしていった結果、ポインターが到達した真相とは? そして謎の足音の正体とは!?
<感想>
日本ではタイトルこそ何度も取り上げられたものの、なかなか訳されることがなく、幻の作品とまで呼ばれていたのがこの「停まった足音」。ということで2006年に出版され、私は2010年の今になってようやく手にとって読んでみたのだが、出版された当時を振り返っても、それほどこの作品に対する盛り上がりは見られなかったような気がする。
本書は悪い作品ではないものの、あまりにも退屈過ぎる内容が一番の欠陥といえよう。しかもページ数もそこそこある。のっけから事件は起こるものの、基本的にはその一つの事件のみを追う内容といってもよい。しかも起きた事件が派手なものとは決して言えず、自殺か他殺かわからないという非常にあいまいなもの。この作品で一番じれてしまうところが、その事件のあいまいさ。どう見ても自殺のように思える事件をまるで上司の権限のようにポインター警部が捜査を強行する。
実は事件が解明されると、起きた事件のあいまいさとか不審な点が全てクリアされるようになっている。確かに最後までくると腑に落ちるという感はあるものの、そこに至るまでが地味で長過ぎる。もう少し展開に工夫をしてくれれば、もっと取っ付きやすいものになったと思えるのだが。
<内容>
私立探偵のルドウィック・トラヴァースはかつての使用人であったヤードマン夫妻から、彼らが今働いている屋敷で奇妙なことが起きていると告げられる。その屋敷では老人と孫娘の二人が暮らしており、夜な夜な娘の悲鳴が聞こえるというのである。ルドウィックが現地へと向かい、そこで屋敷について調べてゆくと、その屋敷の当主である老人の死体を発見することに! いったい誰が何のために? そしてこの屋敷で何が起こっていたというのか? ルドウィックがたどり着いた真相とはいったい!?
<感想>
一つの作品としては平凡のようにも思われた。読んでいる最中、映像化したほうがしっくりとくるように思え、各場面場面でモノクロームで実写化した様相が浮かび上がるような、そんな感触を抱いた。
本書の特徴のひとつとしては、アリバイものであるという点。意外とこういった作品は外国のものでは珍しいように思われた。また、アリバイ崩しであるにもかかわらず、犯人の正体が最後の最後までなかなか絞り込まれないものとなっている。
さらにもう一つの特徴としては、少女と探偵の邂逅の物語でもあるということ。屋敷で何が起きていたのかということは、中盤くらいに明らかになる。よって、その謎については引きずるようなものではないのだが、それが殺人事件と少女の存在がどのように結び付けられるのかがポイントとなっている。
ミステリ作品として、それぞれのポイントはきちんと押さえている作品であると思われた。ただ、展開が平凡な分、退屈と感じられてしまった。どこかに突出した印象を持てる部分があればもう少し読みやすかったかもしれない。
<内容>
戦後の不景気により金に困る四人の男と、彼らの資産家の叔父。その叔父は四人の甥を屋敷に集めるも、彼らに手を差し伸べる気はなく、その惨状を見て喜んでいるふしすらあった。そうしたなか、四人の甥たちは、それぞれでとある計画を考え始める。そして、時刻を知らせる中国銅鑼の音が鳴った時、殺人事件が起こり・・・・・・
<感想>
クイーンを思い起こさせるようなタイトルであり、期待をして読んだのであったが・・・・・・まぁ、普通のミステリといったところ。
意地悪な叔父と四人の虐げられた甥、どう考えても叔父が殺害されるであろう展開。その予想通り、時を告げる中国銅鑼が鳴るとともに叔父は銃殺されてしまう。さて、周辺にいた容疑者のうち、殺害したのは誰? そしてどんな方法で? というミステリ。
内容は普通のミステリであるのだが、展開がつまらなく、あまりスイスイと読み進めることができなかった。これは元々の作調が重いのか? 訳が微妙なのか? 探偵役であるトラヴァースという私立探偵がいるものの、あまりきちんと捜査が進められていなかったような。また、容疑が晴れた者についてや、真犯人自身についても、どこかそれぞれぼかしたところがあり、はっきりと白黒付けていないようなところも微妙に思えた。
内容だけ見ると普通のミステリ作品のはずなのだが、どこか重く、内容が入ってきづらかったという印象の作品。
<内容>
ハーバード大学のOB会が開かれている中、ゴルフ場で参加者のうちのひとりが死体となって発見される。被害者と同室であったエド・ライスは朝目を覚ますと、昨晩誰かと喧嘩をしたのか、拳や体に血がついているのを発見する。その後、同室のシャーマン・ノースが死体となって発見されたことを知らされる。ライスは自分に容疑がかかると考え、電話で友人で私立探偵のジュピター・ジョーンズに相談する。ジュピターは翌日、結婚を控えていたのだが、友人の窮地を救うべく婚約者を引き連れ現場へと向かうことに・・・・・・
<感想>
ドタバタコメディ風のミステリという感じ。探偵のジュピターが婚約者を引き連れ、翌日の結婚式に間に合わせるために1日で事件を解決しようと試みる。このジュピターと婚約者のベティの様子が、クレイグ・ライス描くジェイクとヘレンを思い起こさせ(あそこまでぶっ飛んではいないが)、微笑ましい限り。
ただ難点は、私立探偵と言いつつも捜査らしい捜査が行われないという事。一応は捜査らしいことはしているものの、単に歩き回るだけで、なんら捜査活動らしきことがなされていないのである。事件おける推理についても同様。しまいには、犯人が残した折れたマッチの形状から、その癖を持つ者を捜すという荒々しさ。
事件の真相については、意外性があるというか、なかなか突飛なもの。とはいえ、感覚的にはこれが学生による事件であれば受け入れられるが、卒業してから10年も経つOBの犯罪としては受け入れづらいかなと。どうやら、著者が若い作家であるがゆえに、このような作風、このような作品になったのではないかと考えられる。ちょっと全体的に粗が多いという印象が強かった。
<内容>
おつむは弱いがプロポーション抜群の女探偵メイヴィス・セドリッツは人気番組の撮影現場に来ていた。メイヴィスは番組プロデューサーから、男癖の悪い女優アンバーが俳優に手を出さないように見張っていてほしいというお目付け役を依頼されていた。それでもアンバーが看板俳優に手を出したり、その俳優の妻がどなりこんできたり、アンバーの元の夫が脇役を務めていたりと混迷極まる中、殺人事件が起きることとなる。現場へ駆けつけた敏腕刑事のアル・ウィーラー警部が捜査を始めるものの、殺人事件は連続して起きることとなり・・・・・・
<感想>
家にあった積読本。著者はカーター・ブラウンということなのだが、この人の本を読むのは初めてだと思う。当時のアメリカではかなり有名な作家であったようだ。その有名作家のシリーズキャラクター、女探偵メイヴィス・セドリッツとアル・ウィーラー警部が共演するという位置づけの作品。
内容はドラマの撮影現場で起きる連続殺人事件を描いたもの。俳優、女優、俳優の妻、プロデューサー、スポンサー、占い師とさまざまな人々が集まる中、殺人事件を起こす動機を持つ者は!? というところが焦点となり物語が展開されてゆく。
この作品、全体的にユーモア調のものとなっている。その調子に輪をかけるようにメイヴィス・セドリッツが場をかき回す。このメイヴィス、シリーズ探偵とのことであるが、この人単独で果して事件を解決できるのかと不思議に思えるほど、頭空っぽという人物。ただ、今回は真面目に事件を解決しようとするアル・ウィーラーがいるゆえに、なんとかミステリとして成立しているような感じがした。
とにもかくにも、ドタバタミステリの典型というような作品。ただ、メイヴィス・セドリッツが単独でどのように事件を解決しているのか、他の作品を試しに読んでみたいと思わずにはいられなくなった。
<内容>
新聞記者のサム・エヴァンズは急ぎの記事を書いていた。それは、ジェットコースターの線路に入り込んで死亡した高校生の記事である。しかし、それを書いている最中、差し止めの命令が入る。どうやら死亡したのは、死んだと思われた高校生の財布を盗んだ別の者であったようなのだ。次の日から休暇をとっていたサムは、さっそく気持ちを切り替えることにした。ただ、とある疑惑が芽生え、突如事件のことが頭から離れなくなった。サムは休暇をつぶして、事件の真相を調べ始めることに・・・・・・
<感想>
ひとりの新聞記者が、ジェットコースターで起きた事故から一つの疑惑に思い至り、その調査を行ってゆくというもの。また、新聞記者は自身の生活や恋愛なども乗り越えながら、事件に深く関わってゆくこととなる。
ある種、ハードボイル的な内容の作品と言えよう。ただ事件をただ追うだけではなく、主人公が想像のなかの闇にかられつつ、調査を行ってゆく。その事件自体が、実ははっきりとしたものではなく、あくまで主人公が頭のなかで思いついたものを少しずつ想像を膨らませて行ったというようなもの。ゆえに、それが事実なのか、虚構なのか、最後の最後まではっきりとしないというところが物語を不安定にしつつも、大きなポイントとなっている。
全体的にやや地味な内容という気はする(とはいえ、60年以上前の作品ならばこのくらいのものか)。ただ単に普通に事件を追いかけていくだけではなく、不確定な事件を妄想と重ね合わせながら捜査していくというところが本書の特徴と言えようか。最後の最後で緊迫したシーンが待ち受けており、読了後の印象はなかなかのもの。ただ、全編を通してみると、やや面白かったというくらいの作品。
<内容>
探偵エド・ハンターの伯父で、良き理解者であるアンブローズが突如消息を絶った。アンブローズも探偵であり、何かトラブルに見舞われたのかと思いきや、彼の身辺からは何も浮かび上がってこず、何があったのか全くわからない始末。その伯父はアンブローズ・コレクターというものから呼び出しを受けたらしいのだが・・・・・・
<感想>
私立探偵エド・ハンター・シリーズ全7作のうちの唯一未訳の作品がこの「アンブローズ蒐集家」とのこと。ちなみに私は創元推理文庫で「シカゴ・ブルース」と「三人のこびと」の2作を読んでいる。他の作品については現在入手困難なのではなかろうか。
この作品ではシリーズのなかでも最重要キャラクターといってよいエドの叔父であるアンブローズが突如失踪するという事件が描かれている。アンブローズは突然いなくなり、アンブローズが働いている探偵社のものたちもその行方をつかめない。そうしたなか、手探り状態のエドの捜査が始められてゆく。
短めの作品ながら、非常にうまくまとめられてるなと感心させられる。きちんとシリーズの見どころを挿入しつつ、今回の事件もきっちりと描かれている。特に事件の前半は捜査に収穫がなく、無意味な探索が続けられているようでありながら、それらがきっちりと後半に伏線として回収されているところが見事であった。
地味な私立探偵小説のようでありながらも、一方で非常にうまくできているとも思われた作品。特にシリーズを通して読んでいった方が味わい深く感じられそうなので、これは他の作品も復刊してもらえたらと願いたいところである。ブラウンの作品は結構復刊されているので、期待して待っていてもよいかもしれない。
<内容>
19歳の青年ジョセフ・ベイリーは、子供の頃の父親の死にまつわる嫌な思い出に苛まれ続けていた。そんな彼は現在、ならず者のボスであるミッチの元で働いていた。ある日ジョセフは同じアパートに引っ越してきたエリーと出会う。二人は恋仲となり、ジョセフは現在の仕事から抜け、まっとうな人生を歩みたいと考え始め・・・・・・
<感想>
2015年の復刊フェアで購入した作品。タイトルからするとサスペンスチックな感触を受けるのであるが、読んでみるとそれとはまた違った内容。
ジョセフ・ベイリーという平凡な青年が主人公であるが、たまたまならず者のボス・ミッチに気に入られたせいで、彼の仕事を手伝い、ミッチから金をもらうという生活を続けている。ジョセフはミッチを尊敬しているものの、そうした生活とは縁を切りたいとも思っていて、その葛藤により悩むこととなる。
またジョセフが抱える問題はそれだけではなく、過去における父親の死についてトラウマを抱えている。そのトラウマと悔恨のせいで、ジョセフは通常の生活をすることが許されないと思い込んでいるようにも感じられる。
本書で面白いのは、途中の章の区切りでジョセフの頭の中での思いや、実際に起きた出来事でも自身が目を背けたいと思っているような事象について、ラジオ放送や映画の一場面、またはスポーツ放送といった変わった形での表現がなされているのである。このへんは書かれた年代から考えると実に実験的な小説であるということもうかがえる。
一見、ノワール風の物語でありつつも、ジョセフ自身は悪の道や破滅への道へ突き進もうとも考えていないので、既存の小説のジャンルに当てはまらないような作品となっている。そしてラストでは、驚愕というよりもショックを受けるというような幕引き。とにもかくにも色々な意味で驚かされる小説であった。
<内容>
印刷会社で見習いとして働くエド・ハンター、18歳。とある朝、昨夜から父が帰ってこないことを不安に思っていると、父親が何者かに殺害されたという知らせがもたらされる。エドは、伯父で移動遊園地の一員として働いているアンブローズに助けを求める。エドはアンブローズの助けを得て、父親殺しの犯人を追うことを決意する。父親について調べていくうちに、エドは今まで知らなった父親の過去とその想いを知ることとなり・・・・・・
<感想>
以前読んだことのある作品であるが新訳が出たと言うことで再購入。エド・ハンターという少年が伯父の手を借りて成長していくという物語だということは覚えていたが、詳細についてはすっかり忘れていた。
本書の内容は、父親と共に同じ会社で働いていた普通の少年エド・ハンターが突如父親が殺害されるという事件に遭遇し、その事件を自らの手で調べてゆくというもの。ちょっとしたハードボイルドっぽい作品でもあり、少年の成長を描いた物語でもある。
エドは普通に町で暮らし、そのまま父親と同じような人生を辿っていくのだろうと漠然と考えていたのであろう。ただし、家族についてはやや複雑なところがあり、義母とその連れ後である娘と共に4人で暮らしている。また、変わり者の伯父がいるのだが、義母には嫌われており、家族とは疎遠になっている。その伯父がたまたま近くまで来ており、エドは父親が殺されたという知らせを受けるとすぐに伯父を訪ね、彼に頼りながら捜査を進めてゆくこととなる。
普通の探偵小説のみならず、町のギャングとかかわったりと結構きわどいところを辿りながらの捜査が描かれている。世渡り上手の伯父がうまく警察とやり取りして情報を集めつつ、エドも単独で色々なところへ顔を出したりと積極的に事件に関わってゆくこととなる。それは単に捜査というだけではなく、エドが大人として世間へのかかわりを求めていく様を描いているかのようにも捉えられる。
そうして、最終的には意外な形で事件解決となるのだが、決して良い話だけで終わらないところが本書特徴ともいえよう。なんとなく、いくつかのわだかまりを抱えたまま終わってしまっているというような感じになっている。エドが起こす、とある事件についても軽く流してしまっているが、実際にはトラウマを抱えるような事件に思えてならないのだが、そういった流れは時代性を示すものなのであろうか。ただし、そういったわだかまりがあるからそこ、単純な物語にならずに大人の道へと踏み出し始めた少年の在りようを描く成長小説として印象に残る作品になっていると言えるのかもしれない。
<内容>
「笑う肉屋」 「四人の盲人」 「世界が終わった夜」 「メリーゴーラウンド」 「叫べ、沈黙よ」
「アリスティードの鼻」 「背後から声が」 「闇の女」 「キャスリーン、おまえの喉をもう一度」 「町を求む」
「歴史上最も偉大な詩」 「むきにくい小さな林檎」 「出口はこちら」 「真っ白な嘘」 「危ないやつら」
「カイン」 「ライリーの死」 「後ろを見るな」
<感想>
以前、読んだことがあったのだが感想を書いていなく、内容も覚えていなかったので、新訳版を購入。10ページから30ページくらいの短い作品ばかりが掲載された作品集であるのだが、これは意外と読み応えがある作品集となっている。終わり方がわけのわからないものもいくつかあったものの、印象に残る作品も多かった。
「笑う肉屋」は、普通にミステリとして楽しめる。タイトルの通り不気味な“肉屋”が存在し、サイコサスペンス的なものも感じ取れるのだが、何気に本格ミステリっぽい内容にも惹きつけられる。雪の上の足跡にまつわる事件の様相が描かれている。憎みあう男二人の関係を描いた物語も興味深い。
「四人の盲人」は、盲目の者が象を触ったときにどのような感想を持つかというエピソードが描かれている。その内容は有名なものなのか、どこかで読んだことがあるような。それとも、昔読んだこの作品で知ったことなのか。その“四人の盲人”の逸話を背景に、サーカスで起きた殺人事件が描かれている。
「闇の女」は、部屋のなかで電気を付けずに暮らす謎の女について描かれた作品。その女が近ごろ起きた銀行強盗に関連しているのではないかという噂が流れ始める。ラストで明かされる事の真相がなかなかのもの。
「真っ白な嘘」は新居を安値で買った夫婦の話。その家でかつて殺人事件があったことから安値で買えた家なのだが、住み始めてから妻の不安がどんどんと膨れ上がってゆくこととなる。サスペンス風に描かれた物語。
「危ないやつら」は、最近どこかで読んだことがあると思ったら「世界短編傑作集5」に掲載されていた。駅の待合室での一幕を描いた作品であるが、近くで犯罪者が脱走したという話を聞いたことにより、疑心暗鬼に陥るという内容。これまたオチが素晴らしい。
「ライリーの死」は、ひとりの刑事の死を描いた作品。その刑事の死に熱いものが込みあがってくると思いきや・・・・・・最後の脱力感がなんとも。
<内容>
LAの私立探偵エド・クライブは旧友でありながら互いに憎み合っている仲のミック・ハモンドから仕事を依頼される。ミックは何者かに脅迫されているというのだ。エドがその事件を調べ始めたとき、クライブの愛する歌手のローレルが殺害される。しかもその犯人として警察から疑われているのはミックであった。エドは単身、事件の調査に取り組むことに。
<感想>
オーソドックスなハードボイルドミステリー。まさにそれは王道を行く内容であるといえよう。ただ、それは古くさいというわけではないのだが、やはり現代を基準としたまま読んでしまうと時代のずれというものを感じてしまう。昔は、こういった作品が数多く出ていたのだろうなぁ、と感慨にふけってしまう。ハードボイルドファンにはお薦め。
内容に関してはよく練られており、二転三転する事件の展開、そして驚愕の結末へと決して読者を飽きさせることはない。そのへんはさすがに今さらながら訳されるだけの本であるといってもいい。
ただ、一番この本ですばらしいと思った部分は序文のブラッドベリが著者へ送る賛辞。ひょっとしたらこの小説で一番感動させるのはその部分かもしれない。
<内容>
ハリウッドの人気雑誌“インサイド”の社長から依頼を受け、出向くこととなった探偵のシェル・スコット。しかし、当の社長はスコットを呼んだにもかかわらず、あわてて会社を飛び出して行ったという。スコットが彼の跡を追ってみると、“インサイド”の副社長の宅でその副社長に対する殺人容疑で警察に捕まっていた依頼人を発見する!! ギャングまでもを巻き込んだ、ハリウッドの映画撮影にまつわる事件の渦中にスコットは巻き込まれていくことに。
<感想>
いや、きちんとした私立探偵モノの作品であるのだが、全編にまとわりつく俗な雰囲気がなんともいえない味となっている。意外といっては失礼かもしれないがなかなか楽しませてくれる作品であった。
この著者の作品を読むのは初めてなので、主人公の私立探偵シェル・スコットについても初めて知ることになった。残念ながら本作品を読んだだけでは、ちょっと女好きの探偵というくらいの印象でしかなかった。
ただ本書はシリーズものとしては初めてでその雰囲気になじめなくても、十分に物語の内容で楽しめるものとなっている。ハリウッドの映画撮影の描写や、そこに出演するスター達の様相、殺人事件を起こす殺し屋とシェル・スコットとの対決。さらにスコットが犯罪を暴くために仕掛けた大掛かりな罠は本書の一番の見所となっている。
いや、これはなかなか面白く読ませてもらった。論創海外ミステリを読むのもこれで4冊目であるが、私立探偵もののチョイスが多めであるようにも感じられる。とすると、この作品こそが論創海外ミステリの象徴的な作品ということになるのかもしれない。
<内容>
失踪人探しの依頼を受けた私立探偵シェルドン・スコット。調査を行うと、依頼を受けた者の他にも同様の時期に失踪した者がおり、彼らは麻薬の密売にかかわる犯罪に巻き込まれたのではとスコットは推測する。そうしたなか、ランド・ブラザーズ葬儀場に何かあると感じたスコットは、その葬儀場へ向かうのだが、拉致される羽目となり・・・・・・
<感想>
論創海外ミステリ5巻「ハリウッドで二度吊るせ!」以来の私立探偵シェル・スコットの登場。なんと10年ぶりで、論創海外ミステリも2014年12月の時点で136巻目。
「ハリウッドで二度吊るせ!」を読んだのは10年も前ということもあり、あまり覚えていないのだが、そんなことは関係なく古き良きアメリカらしい私立探偵小説を読むことができた。金髪の美人女性が出てきて、ギャングが出てきて、その用心棒と格闘しと、私立探偵コード満載の作品。
本書で面白いと思ったのは、私立探偵は、殴られたりのされたりして、敵にとっては万全のチャンスがありながらも何故殺害されないのか? という設問を逆手に取ったような内容になっていること。そんなの主人公だから当たり前じゃないかと言えばそれまでなのだが、本書では、そうした思いを受けて(か、どうかはわからないが)、そこに理由を付けたサスペンス・ミステリとして作られている。
ページ数も薄く、手軽るで読みやすい小説であるが、よっぽどの古典私立探偵小説マニアでなければ、無理に読まなくてもよさそうな小説(せめて文庫だったら)。
<内容>
盲目の探偵マックス・カラドスが活躍する作品、8編を収めた傑作集。
「ディオニュシオスの銀貨」
「ストレイスウェイト卿の奸知」
「マッシンガム荘の幽霊」
「毒キノコ」
「ヘドラム高地の秘密」
「フラットの惨劇」
「靴と銀器」
「カルヴァー・ストリートの犯罪」
<感想>
盲目探偵マックス・カラドスが活躍する作品集。以前から、その存在は知っていて、一度読んでみたいと思っていたのだが、昔買い損ねた後に絶版となってしまい、入手することができずにいた。それが2014年の復刊フェアとして刊行されたのを機に手に入れることができ、ようやく読むことができた。
実際に読んでみると、これが絶版されたのがわかるというか、あまりミステリ界で流行っていないという事が納得できる内容。盲目の探偵と、記憶力抜群の助手が活躍するという設定が全くと言ってよいほど生かしきれていないのである。結局のところ、探偵を盲目という設定にした意味すらあまりなかったような。
本書の何が問題かといえば、探偵が扱う事件があまりにもしょぼすぎるというもの。盗難事件やら、夜な夜な幽霊が出るというもの、毒キノコを食べて死亡したとか、泥棒にものを盗まれたとか。それでも最初はまだ、何らかの事件性が感じられて興味はひきつけられるのだが、それらが解決されることにより、どうしようもないレベルへと引き下げられてしまうところに大きな問題がある。さらにいえば、事件の解決時に、そんな終り方をしていいのか? と思えた作品もしばしば。
そうしたなかで唯一といってもよいような殺人事件を取り扱った「フラットの惨劇」が一番探偵らしさを見せた作品。自分が事件に巻き込まれるのでは、と恐れて探偵に相談しに来た男が実際に殺害されるという事件。謎を解き明かす根拠とかはうまくできているのだが、この計画がうまくいくのかは、やや疑問がもたれるところもある。それでも本書のなかでは、一番のできと言えよう。
実際に読んだことにより、残念と感じてしまった作品ではあったのだが、読みたいと熱望していた作品ではあったので、とりあえず満足。まぁ、ミステリ史の隅の方に残るひとりの探偵について味わえたという事で。
<内容>
18世紀の詩人、マーティン・レイルストーン。彼の棺の中には、彼自身が残した多くの作品が収められているという。棺を掘り出して美術品を世に出そうという者たちと、封印したままにすべきだという者たちとの対立。さらには、レイルストーンの墓地がある地域で進められているダム建設計画。そうしたなか、ひとりの男が墓を掘り起こそうと納骨堂の内部に潜入したのだが・・・・・・
<感想>
伝奇作品というべき作品であり、もしくはもう一歩進んでバイオハザードものと位置づけてもいいかもしれない。40年前に書かれたにしてはやけに先鋭的な作品であると感じられた。ただ、こう表現するとおりミステリ作品とは程遠いので、論創海外ミステリに入れるべき作品かどうかは疑問。とはいえ、こういう機会でもなければ一生手に取る事のないような作品であったと思える。
内容はひとりの詩人の墓の中の秘密を巡って、多くの人たちが右往左往するという話。そして墓を開けてみてびっくり、思わぬものが飛び出したという展開。
序盤はゴシック・ミステリといってもいいようにも思えるが、後半は完全に伝奇、もしくはパニック・ホラー的な内容。ただ、こういうジャンルのものと思って読めば、意外と楽しめる作品ではあった。ただ短いページ数の中で、これといってキャラがたつ人物もいなく、あまり感情移入ができる作品ではなかった。
まぁ、こういう作風の作家がいたということを知ることができただけでも充分収穫といえるだろう。
<内容>
ソ連にて、村が軍隊によって焼き払われ、住人は収容所へ入れられるという事態が起きていた。それを知った英国情報部は調査に乗り出す。そして、一隻の貨物船が事故に会うことにより、事態は急展開を見せることとなり、実態が明るみになり・・・・・・
<感想>
本を読む前は、なるべく中身について知らない方が楽しめるなと思い、本書についても内容を見ずに読んでいったのだが、まさかタイトルからしてこのような展開が待ち受けているとは知らずに驚かされた。タイトルを見ても、まさかこれがバイオハザードを描いたパニック・ホラー小説だとは誰も思わないであろう。
本書を読んで思ったのは、バイオハザード系の作品のわりには、やけに閉じた内容になっているなということ。起きた事象からすれば、世界的に波及してもおかしくない事件であるにも関わらず、動きがあるのはその世界のなかのほんの一部分だけとなっている。
これに関しては書かれた年代のこともあるだろうし、また本書が著者であるブラックバーンの処女作ということもあり、あえて簡潔に描いた作品だとか、色々な事情もあってのことであろう。ただ、それにしてもこうした内容の作品をよく描いたなと感心仕切りである。また、この作品がSF系ではなく、あえてミステリ系となっているということも驚くべきポイントであるのだろう。
まさにB級怪奇映画という響きにふさわしい作品。日本にこの“論創海外ミステリ”というレーベルがなければ、決して紹介されなかったのではないかと思われるようなマニアックな作品。
<内容>
町はずれの川で女性の変死体が発見される。執拗に痛めつけられたその死体の身元は、やがてロシアの女スパイのものであることが発覚する。いったいどのような理由でこのような無残な殺され方をされることになったのか? 英国外務省情報局の局長であるカーク将軍が捜査にあたることとなったのだが、やがて恐ろしい事実が明るみに出ることとなり・・・・・・
<感想>
どちらかといえば消化的な意味合いで期待をせずに読んでいたせいか、思っていたよりは楽しめた内容。ジャンルでいえば、スパイ・スリラーというようなもの。
売春婦のような格好をさせられ、惨殺された女スパイの死をめぐる事件。情報局の面々が聞き取り捜査をしていくものの、怪しげで奇妙な人物ばかりが登場し、やがてそれらをつなぐ一本の線が見えてくる。邦訳のタイトルにある“偶像”という言葉の不気味さが実に効果的であったと感じられた。
論創海外ミステリで紹介されたブラックバーンの作品はこれで3冊。それらの中では本書が一番取っ付きやすい内容であったと思われる。とはいえ、ミステリを期待して読んでいる人にとっては当てが外れるかもしれない。どちらにせよ、一般的な作風という感じはしないのだが。
<内容>
「アデスタを吹く冷たい風」
テナント少佐が暴く、銃密入の方法とは。
「獅子のたてがみ」
モレル大佐によりロジャーズ博士を殺害せよと命じられたテナント少佐がとった行動とは。
「良心の問題」
戦犯と見られるドイツ軍人を逮捕せずに国外追放を命じるテナント少佐の真意とは。
「国のしきたり」
密輸入をいっさい見逃さないバドラン大尉を欺く計略をテナント少佐が見抜く。
「もし君が陪審員なら」
三人の妻を三度の不慮の事故でなくしている男に隠された謎とは。
「うまくいつたようだわね」
夫を殺したと告げられた弁護士はその犯罪をなんとか隠蔽しようと工夫をこらし・・・・・・
「玉を懐いて罪あり」
フランスから送られた秘宝を盗まれた城主は聾唖の警護兵を呼び真相を調べようとするのだが・・・・・・
<感想>
2003年09月に“ポケミス50周年記念復刊フェア”として重版された1作。しかも、“復刊希望読者アンケート第1位”というなかなか手に入りづらかったうえに読者に熱望された名作である。
あとがきを読むと10年の間の本書に収められた7作の短編を「EQMM」に寄稿したのみという謎の作家。その1冊にまとめられた本がここまで有名になるのだからこれは確かに貴重な一冊といってよいのであろう。
7作のうちの4作はテナント少佐が主人公となり謎を解くものとなっている。このシリーズを読むと「ブラウン神父シリーズ」を思い出す。“逆説”とまで銘打っているわけではないけれど、それに近い雰囲気がある。またなによりもテナント少佐のキャラクターがいい。善なのか悪なのか、はっきりとしない微妙な性格が作品に奇妙な味わいをかもし出している。
そして5作目と6作目の2作は他とは全く異なった雰囲気の短編となっている。この2作は普通のサスペンスミステリーに仕上がっている。これらにはユーモアさえも感じられテナント少佐シリーズとは180度転換しているかの内容である。言われなければ、同じ人が書いたものであるとはわからないような気がする。
そして最後の作品は有名な作品のようで、私も他の短編集にて読んだことがある。ラストの書簡による告発と陰謀が印象的な一編である。
<内容>
雑誌「ユー」のコラムニストとして有名なイーニッド・マーリーは旦那への当てつけに自殺を試みる。自宅での自殺に失敗したマーリーは雑誌社へ出勤し、そこの窓から飛び降りようとするものの、躊躇している間に誰かに押されて・・・・・・
<感想>
このパメラ・ブランチという著者の作品が訳されるのは、初だとのこと。この作品を読んでみた感想としては、なんでわざわざ訳したかなと。久しぶりに酷い作品を読んだなという感じ。
女性コラムニストの自殺未遂から、大きな騒動になっていくという話なのだが、それが何で騒動につながるのかが全く理解できなかった。事故だか、事件だか、はたから見ればよくわからないような出来事(実際には、さらにしょうもない理由であるのだが)。そこから起きる編集者のドタバタ騒動も理解できない。そして、コラムニストに恨みを抱いているものがいるからといって、何故大きな暴動に発展していくのかがわからない。とにかく、展開の意味がわからなくて困惑する作品。
どこかに一本、筋が入っていれば、そこを基調として読めると思えるのだが、どこにも筋が入っていないなかで、各々が騒ぎまくるだけという感じで、ちっとも内容が頭に入ってこなかった。意味のない騒動が描かれた作品だとしか言いようがない。
<内容>
事件の容疑者となったものの裁判により無罪となったベンジャミン・カンは、クリフォード・フラッシュという男からアスタリスク・クラブへの勧誘を誘われる。それはカンと同じような境遇の者が集められたクラブだと言うのだ。行く当てのなかったカンは、フラッシュに誘われるまま、彼の棲む家に行き、その後、芸術家たちが住む隣家に下宿することが決まる。しかしその下宿先の家では、突如死体が現れることとなり、住人たちは死体の処理に右往左往する羽目となり・・・・・・
<感想>
今年、同じ作家(そちらではパメラ・ブランチ名義)の「ようこそウェストエンドの悲喜劇へ」(論創社)を読んでいるのだが、こちらは面白くなかったので、本書を読む際にはやや警戒しながら読むことに。読んでみた感想としては、こちらの「死体狂操曲」は、面白い作品であったなと一安心。
ただし、面白いと言っても、あくまでもドタバタ喜劇として面白いというものであり、ミステリとしての面白さは控え目。出だしこそ、ややシリアス風なミステリかと匂わせてきたものの、死体を行き当たりばったりに、あっちにやり、こっちにやりという行為が続けられるという作業が繰り返される流れは、もはや単なるコメディでしかないなという感じ。
シリアスなのか、コメディなのか、なんとなく中途半端な感じがするものの、時代性を考えると、当時ではこれが精一杯のコメディ喜劇だったということかもしれない。まぁ、あまり真面目に捉えずに、肩の力を抜いて、気楽に読むべき作品なのであろう。
<内容>
娘の婚約を祝う4人の家族と婚約者の青年。彼ら5人が晩餐会を行っているときに、前触れもなくひとりの警官が訪れる。警官はひとりの女性が自殺した事を彼らに告げる。警官が話を進めていくうちに、その自殺した女性が5人の人物のそれぞれに関わり合いがある事がわかり・・・・・・
<感想>
昨年、話題になった作品。なおかつ、薄くて手軽に読めそうなので買ってみた。しかし、150ページちょっとの小説が560円もするとは・・・・・・
値段はさておき、内容はなかなか面白かった。小説というよりは、戯曲形式になっていて、登場人物のセリフとナレーションにより話が進められる。平和なはずの家庭の様子がひとりの夜の来訪者によって崩れ行く様が描かれている。
この夜の来訪者たる警官の存在が本書の中では際立って不気味な存在である。法の審判であるかのように家族達に現実を突きつけ、しかもその事実を小出しにしながら徐々に彼らを追い詰めていく。
読み終えてから冷静に考えれば、この家族達がそこまで追い詰められる必要はないのではと思えるのだが、話が進んでいくうちは肝を冷やされることとなる。このスリラー性を感じさせる展開こそが本書の一番の魅力といえよう。
そして、ラストにどんでん返しがあるのだが・・・・・・これはありきたりのように思えた。特にラストがどうのこうのと強調するほどではないと思える。
本書は、謎めいた人物によって登場人物ら自身の隠された秘密があらわにされてゆくという不安感と緊迫感を描いた作品。この作品は舞台や映画で何度も上映されているとのことであるが、意外と舞台などで見たほうが著者の意図するところは強く伝わるのかもしれない。
<内容>
アムステルダムの警部ファン・デル・ファルクは偶然出くわした車の事故により、ルシエンヌ・エンゲルベールという娘と出会う。事故によって親を亡くしたルシエンヌにファン・デル・ファルクは目をかけて世話を焼くも、その後疎遠となる。
数年後、ファン・デル・ファルクは見知らぬベンツが置きっぱなしになっているという通報を受け、そのベンツのおいてある家に入ってみると、そこで男の死体を発見することに。男の身元を調べてみるも、何者なのかが良くわからない状況。その後、被害者がどうやら密輸に関係していたということを突き止め、ファン・デル・ファルクはベルギーへと向かうことに。そこで彼は、ルシエンヌと再会することとなり・・・・・・
<感想>
オランダの作家による作品。出だしの雰囲気は良かった。ハードボイルド調で一人の警官が、どことなく魅力を感じる娘との出会いを描いている。その出会いから数年後、身元不明の死体が発見され、というところまでは良かったのだが、その後はあまり話が盛り上がらなかった。
「バターより銃」というタイトルは、あとがきによると“バターより大砲”という戦時中のスローガンから来たとのこと。オランダではバターが安いのだが、ベルギーでは高いことから、密輸が盛んにおこなわれていたらしい。当時アムステルダムでは、そういった密輸事件が多発していたらしく、それが作品の時代背景となっている。
身元不明の死体の主がバターの密輸に関わっていたらしいということが捜査により明らかとなり、あとは何故彼が殺されたのかと言うことを捜査していくことに。途中のその密輸に関しての捜査をする場面については淡々とし過ぎで、あまり面白くなかった。
さらには、後半はとある人物の独白というような感じとなっている。結局事件の謎については、捜査ではなく、全てが独白により明らかとなっているので、その点がミステリっぽくなく、単なる物語調で終わるという感じになってしまっていた。結局のところ、最後まで読み終われば、ミステリ作品と言うよりは、オランダを舞台にした綺譚を読んだという感じになった。
<内容>
雑誌記者ウィリアム・ディーコンは友人から頼まれ、有名な映画女優メリリー・ムーアを警護するために豪華客船へと乗り込んだ。ディーコンは彼女に危害が及ばぬように気をつけようとするものの、周囲の人物は怪しく見えるものばかり。そして、船上で殺人事件が起きることとなり・・・・・・
<感想>
有名女優のモデルはマリリン・モンローだったのか。後書きを読んで始めて気がついた。
何者かから狙われている映画女優を雑誌記者が警護するという内容。とはいえ、攻める側についても目的がいまいち見えづらく、全体的な状況がよくわかりづらかった。スパイもののようにも思えるし、ミステリというようにもとれないことはないしと、結局はどっちつかずの内容になってしまっていた。
あまり楽しい雰囲気の内容というわけではないのだが、なんとなく陽気な登場人物らとともに雰囲気を楽しむサスペンス小説という感じがした。一応、これがハーバート・ブリーンの日本での最後の未訳作であるとのこと。
<内容>
カナダの森林地帯で鹿狩りのガイドをつとめる青年ノヴェンバー・ジョー。彼はするどい洞察力を持つことから地元の警察にも頼られ、度々難事件を解決してきた。都会に住むジェームズ・クォリッチは鹿狩りのガイドを頼むさい、必ずジョーを雇って狩猟に出かけた。そして二人は次々と事件に遭遇することに。
<感想>
探偵というよりはハンターと言った方がふさわしいであろう。事件も難題というよりも、地方で起こるいざこざやハンター同志の争いといったもの。そういった事件を現場の足跡や物証からノヴェンバー・ジョーが何が起こったかを推理し、犯人を追いつめてゆく。
シャーロック・ホームズのライバルとして名前を聞いたことがある探偵のひとりである。いつか読んでみたいと思っていたが、ようやく彼の活躍が描かれた完全版ともいえる作品を読むことができた。結局のところミステリというよりも冒険譚としての印象のほうが強かったのだが、それなりに味のある小説であることは間違いない。読めば誰もが、朴訥ながらも鋭い冴えを見せるハンター、ノヴェンバー・ジョーに惹かれること間違いなかろう。
<内容>
「ジョン・ディクスン・カーを読んだ男」
「エラリー・クイーンを読んだ男」
「レックス・スタウト」を読んだ女」
「アガサ・クリスティを読んだ少年」
「コナン・ドイルを読んだ男」
「G・K・チェスタトンを読んだ男」
「ダシール・ハメットを読んだ男」
「ジョルジュ・シムノンを読んだ男」
「ジョン・クリーシーを読んだ少女」
「アイザック・アシモフを読んだ男たち」
「読まなかった男」
「ザレツキーの鎖」
「うそつき」
「プラット街イレギュラーズ」
<感想>
論創海外ミステリで今年唯一注目された本(のような気がする)。これは年を越す前に読まなければと、手にとってみたのだが、これが本当に面白い。本格ミステリをわくわくするような楽しみかたで読むことができたというのも珍しい気がする。これは本格ファンであれば、ぜったい読んでもらいたい本。
最初の短編は、いきなりバカミスから始まる。ディクスン・カーばりに密室を作って犯行を成そうという男の物語。その結末がいかなるようになったかは、是非とも読んで確かめてもらいたい。
と、のっけから変な始まり方をする作品集であるが、後の作品は結構普通に本格しているので、その辺は安心して読んでもらいたい(むしろバカミスばかりで短編集を作っても面白いとも思われるが)。
この作品集の中で気に入ったのは、「エラリー・クイーンを読んだ男」と「アガサ・クリスティを読んだ少年」の2編。どちらもなかなかレベルの高いミステリ作品となっている。
老人ホームでエラリー・クイーンばりの活躍を見せ、人生の夢をかなえる男。エルキュール・ポワロにあこがれる少年が、推理ばかりだけでなく、外見までを駆使して街中で起きたへんてこな事件の謎を解く。
これらの他にも、有名な探偵が乗りうつったかのように謎を解くミステリ短編が満載となっている。個人的には暗号っぽいのが多かったのがやや難点とも思われるが、全編楽しみながら読むことのできる作品集であるということは間違いない。
年末の忙しい時期に、ちょっとずつ読むことができる短編集ということで手にとってみてはいかがか。
<内容>
「ストラング先生の初講義」
「ストラング先生の博物館見学」
「ストラング先生、グラスを盗む」
「ストラング先生と消えた兇器」
「ストラング先生の熊退治」
「ストラング先生、盗聴器を発見す」
「ストラング先生の逮捕」
「ストラング先生、証拠のかけらを拾う」
「安楽椅子探偵ストラング先生」
「ストラング先生と爆弾魔」
「ストラング先生、ハンバーガーを買う」
「ストラング先生、密室を開ける」
「ストラング先生と消えた船」
「ストラング先生と盗まれたメモ」
<感想>
この作品集の著者、ウィリアム・ブリテンというと「ジョン・ディクスン・カーを読んだ男」がまだ記憶に新しい。今作では“ストラング先生”という人物を中心とした統一された短編集となっている。
それぞれの作品でどれが優れているというほどのものはないのだが、全体的に良くできている作品集と思われた。よく子供向けとか小学生向けのミステリ作品集というのがあるが、本書はそこから一歩進んで、中学生や高校生向けのやや大人びた作品集と言えるであろう。ただ、舞台が海外ゆえに、そのへんは合う合わないというのがあるかもしれない。日本を舞台にしたこういった、やや大人びた作品集でもあれば取っ付きやすいのではと思ったが、探せば先生モノのミステリって結構ありそうな気がする。
ライト系のような感じがするが、ひとつひとつの短編は意外と内容が濃いので一気に読むというよりは、1日1作くらいで少しずつ少しずつ読んでいくことをお薦めしたい。ストラング先生の謎解き講義に浸っていただきたい作品集。
<内容>
弁護士の事務員をしているヒュー・マネーローズの家では、母親が下宿を営んでいた。その下宿に謎の人物が住むことに。男は一見粗野に見えるものの礼儀正しく、お金もかなり持っているようで、しばらくの間逗留するだけだという。ある日その下宿人は体調を崩し、ヒューは彼の代わりに指示に従い使いに出ることとなる。ヒューが男の代わりに現場へと行くと、そこで待ち受けていたのは見ず知らずの男の死体であり・・・・・・
<感想>
ミステリというよりも冒険小説として楽しめる作品。弁護士の事務員ヒュー青年が経験する事件を描いた小説。
このヒュー青年の人物造形がなかなかのもの。本書は“ヒュー青年の失敗”といっても過言ではない。このヒュー青年が人一倍、欲深いとか、頭が悪いとか、決してそんなことはなくごく普通の好青年。ただ、それでも若干の欲にかられたり、猪突猛進になってしまったりして、好機を逃し、事件は混迷を深めていくこととなるのである。
イングランドの北の町にひとりの謎の男が訪ねてきたことから始まる話。そして、見知らぬ者の死体が発見されたと思いきや、今度は町のものが殺害されたりと謎の事件が連続して起こることとなる。そうして浮上してきた町の名士であるひとりの男爵の存在。徐々に相続に関する背景が浮かび上がってくることとなる。
こうした事件が基本的にはヒュー青年の視点で描かれてゆき、彼自身がさまざまな出来事に巻き込まれつつ物語が進行してゆく。そうして大筋が明らかになってきたと思いきや、思わぬエンディングが待ち受けることとなる。
意外と楽しんで読むことができた作品。ただ、今描くのであれば、もう少し分かりやすくして少年少女向きの冒険譚とした方が広く読まれたのではないかと思われる。とはいえ、その当時に出た小説としては、十分に冒険譚として熱狂的に迎え入れられたのであろうう。
<内容>
“ウォッチマン”紙の副編集長フランク・スパルゴは偶然事件に遭遇する。ミドル・テンプルにて門番が死体を見つけたというのだ。素性のわからならい身元不明の死体。その身元を調べるべくスパルゴは新聞記事を利用し、情報提供者に呼びかける。そうして事件を調べていくうちに、事件は複雑な様相を見せていくこととなり・・・・・・
<感想>
論創海外ミステリにおいては「亡者の金」が先に紹介されているJ・S・フレッチャー氏であるが、著者にとってはこの「ミドル・テンプルの殺人」が代表作のよう。実はこの作品、日本でもすでに別タイトルなどで過去に何度か出版されている模様。それが55年ぶりの新訳としてここに登場とのこと。
読んでみると、この作品、実に面白かった。通常の謎解きミステリという感じではないのだが、著者にストーリーテーラーとしての腕前を感じてしまうような面白さの小説であった。
探偵役の設定も変わっており、警察関係者ではなく新聞記者が事件の真相を追っていくものとなっている。通常、警察は捜査するにあたって、マスコミの存在をうるさがるものであるが、この作品のなかではむしろ新聞記者であるスパルゴに対し、いかんなく情報を提供し、こちらがわからないところはそっちが調べてくれというようなスタンス。そうしたなかでスパルゴが新聞広告などを利用し、自らが関係者のものを訪れ、事件の真相に迫ってゆく。
話の流れとしては、死体が発見される。身元を調べる。関係者らしき者たちが浮かび上がる。そして最重要容疑者の存在が浮かび上がる。さらなる調査により死体の身元が明らかとなる。そして過去の事件が浮かび上がり、意外な事実が浮き彫りとなる。というような感じ。あくまでも調査を繰り返し、それにより徐々に事実が明らかになっていくというものであるのだが、そこで度々意外な事実が明らかとなり、読んでいる者を飽きさせない内容となっている。
あれよあれよという間に結末へと向かい、実に面白く読めた作品であるのだが、ただ納得がいかなかったのは、最終章の尻つぼみ具合。これはページ数になんらかの制約があったのではないかと勘ぐってしまうくらいぶつ切りに話が終わってしまっている。結末でもっときちんと話をまとめ、そして相応のエピローグを書いてもらいたかったところ。そこまで話が良く出来ていたので、本当に最後の部分が残念に思えてならない。
<内容>
「ダイヤモンド」 (1904年)
「楽園事件」 (1920年)
<感想>
以前、論創海外ミステリから「ミドル・テンプルの殺人」という作品が訳されているJ・S・フレッチャー氏の2作品が掲載されている。「ミドル・テンプルの殺人」を読んだときは、この著者はストリーテラーだと感じたのだが、ここに掲載されている2作品も同様の感触が伺える作品となっている。
本書は森下雨村氏の翻訳作品となっているが、翻訳されたのが1920年代であるにも関わらず、読んでいて全くと言ってよいほど古臭さを感じなかった。普通に、最近訳されたのではと感じてしまうほど。よって、存分にそれぞれのストーリーテーリングぶりを楽しむことができる作品集である。
「ダイヤモンド」は、“呪われたダイヤモンド”というタイトルの方が分かりやすいかもしれない。とあるダイヤモンドを見初めたもの達が次々に欲望に囚われ、さらには次々に不幸な結末を迎えていくというもの。スピィーディーに語られる呪われた連鎖の展開から目が離せなくなる作品。
「楽園事件」は、ひとりの老医師とその養女に関わる謎に秘められた物語。老医師を訪ねて、ひとりの男がやってくるのだが、その訪れた男が死亡し、容疑が老医師にかけられる。果たして老医師がかたくなに隠す過去に起きた事件とは何か? ということに言及していく物語となっている。
この作品、ひとつ問題があって、それは語り手が老医師の養女にちょっかいを出したことにより老医師から放逐されることとなった若き医者であるということ。この若い医者が基本的に嫌な奴として描かれており、その嫌な奴の視点が主軸となっているゆえに何とも物語に感情移入しにくいというところが唯一の欠点。
物語が進んでゆくと、どう転んでも老医師にとって不利な状況へと陥っていくのだが、当の老医師は落ち着いたもの。そうして、最後に過去の出来事と現在における事件に真相が明らかにされてゆく。これはなかなか考え尽されたものであり、うまく出来ている物語だと感嘆させられる。決して謎を解く物語という感じではないものの、濃い内容の物語を堪能できたという気にさせられる作品。
<内容>
「時と競う旅」
「伯爵と看守と女相続人」
「十五世紀の司教杖」
「黄色い犬」
「五三号室の盗難事件」
「物見櫓の秘密」
「影法師」
「荒野の謎」
「セント・モーキル島」
「法定外調査」
「二個目のカプセル」
「おじと二人のおい」
「特許番号三十三」
「セルチェスターの祈祷書」
「市長室の殺人」
<感想>
論創海外ミステリでよく取り上げられている作家、J・S・フレッチャーの短編集。全体的に読みやすい作品ばかりで、楽しむことができた。色々な内容の作品があり、バラエティにもとんでいる。
「時と競う旅」は、上着に大事な封筒を入れておいたのだが、その上着が妻によって古着屋に売られ、その上着を追いかけての大冒険がなされる。結末は予想がつくものではあるが、なんとなくコメディチックな感触もあって面白い。
「十五世紀の司教杖」は、大聖堂を守る堂守のひとりが司教杖のなかに隠された宝石を見つけ、着服する話。流れからいくと悪い話になりそうであるのだが、予想外の展開が待ち受けている。なんとなく“神の意志”というものを感じられた一編。
「五三号室の盗難事件」は、ホテルで起きた盗難事件を、そのホテルで働くメイドが解決しようと奔走する話。ちょっとしたメイドの大冒険的な内容。華々しいというわけではなく、さらっと解決しているところが粋。
一風変わった内容の話は面白いのだが、ミステリ的、サスペンス風の作品については解決部分があまりにもあっさりし過ぎているところにやや不満を感じてしまう。表題作の「物見櫓(バービカン)の秘密」は、紛失したコインを別の博物館で発見し、紛失後の流れをたどるという話。これは、導入から展開と非常に面白く読めるのだが、ラストがまるでぶつ切りのようにあっさりと終わってしまう。殺人事件の真相を暴き出そうと判事が奔走する「法定外調査」についても同様のことが言える。
短編だから面白い作品と、短編だから物足りないという作品に分かれてしまったような気がする。とはいえ、それぞれの作品がどれも面白く読んでいくことができるゆえに、良い作品集だと言えることは間違いなし。
<内容>
クリケット選手のリチャード・マーチモントは事務弁護士をしている叔父から、昔起きた事件について打ち明けられる。かつて投資で詐欺を起こして逃げた男がいたのだが、叔父はその男に偶然出くわし、今日の夜にその男と会って話をするのだという。リチャードはその男の名前を聞いて驚く。それはなんと、リチャードが今付き合っている彼女と同じ名前であり、たぶんそれは彼女の父親なのではないかと予想する。次の日、リチャードは叔父が死体となって発見されたことを知らされる。容疑は当然のごとく、夜に会っていたはずの詐欺師だという男ではないかと・・・・・・
<感想>
論創海外ミステリではお馴染みのフレッチャーの作品。本書はサスペンス風のミステリで、展開を楽しむことができる作品となっている。
クリケット選手リチャードの叔父である弁護士が殺害されるという事件。生前に、かつての詐欺師と会談すると言い残していたことにより、その詐欺師と噂される男が容疑者となる。ただ、その容疑者がリチャードの恋人の父親だと思われるところから、リチャードは事態に思い悩むこととなる。
こんな感じで始まり、そこからは事件発生当時にどんなことがあったのかを捜査し、徐々に掘り下げてゆくこととなる。また、当の容疑者の正体についても警察が調べようとするものの雲隠れしていて、なかなか捜査が進まないという状況。
と、そんなこんなで徐々に色々な事実が判明しつつ、怪しげな人たちが数多く登場し、そして最後の最後に大団円というような終わり方をしている。なんとなく、派手な展開があればそれでよく、結局誰が犯人でもよさそうな事件という感じが強かったものの、別にサスペンス色の強い作品であるのだから、それでいいじゃないかというような感じ。
<内容>
“007”のコードを持つジェームズ・ボンドに指令が下される。ソ連のスパイで共産党系労働組合の会計係であるル・シッフルがギャンブルで活動資金を得ようとしているので、それを阻止しろというもの。ボンドは、ル・シッフルとカードゲームのブラックジャックによる対決を行うこととなるのだが・・・・・・
<感想>
007ことジェームズ・ボンドを知らない人はあまりいないと思われるが、小説を読んだという人は意外と少ないのではなかろうか。かく言う私も、実はイアン・フレミングの小説を読むのはたぶん初めて。
ということで本書を読んだのだが、これはずばり映像化されたものを見たほうが面白そう。といっても、決してこの作品に読み応えがないわけではない。実際、カジノの場面などはなかなか惹きつけられるものがある。
ただ本書は、事態の解決を図るのが主という作品ではなく、この1冊の作品を通して、ジェームズ・ボンドが秘密諜報部員すなわち“007”として生きていくことを決定づけるものとなっているのである。ゆえに、一つの作品でありつつも、この作品こそが壮大なる“007”シリーズのプロローグという感じになっているのだ。
そんなわけで、シリーズを通して読むうえではその最初の作品となっているので必須といえよう。といっても、このシリーズ、もはや小説で入手できるようにはなっていないような気がするので、続きは映像で・・・・・・というような感じか。
<内容>
ソ連国家の殺害実行機関“SMERSH”は、今まで煮え湯を飲まされ続けてきたイギリス諜報機関に報復しようと、計画を練っていた。企てられた計画は、イギリス諜報機関きっての腕利きのスパイである007ことジェームズ・ボンドを殺害するというもの。ボンドに一目ぼれしたという女スパイを仕立て、彼女に秘密情報を携えさせて亡命させて007に近づかせる。そして凄腕の殺し屋であるドノヴァンがボンドのとどめを刺すと・・・・・・。実施された殺害計画に対し、ジェームズ・ボンドがとる行動とは!?
<感想>
「カジノロワイヤル」に続いて、創元推理文庫から新訳で届けられるジェームズ・ボンド・シリーズ作品。映画などで有名な作品ゆえに、タイトルは聞いたことがあるのだが、読むのはこれが初めてとなる。
本書はなんといっても、悪人側の設定が良い。ボンドを狙う処刑執行人のみならず、組織についてもしっかりと書き込まれている。そして、緻密(?)な計画がなされ、ボンドに魔の手が迫ることとなる。ただ、このボンド殺害計画についてなのだが、ロシアの諜報部員の女が写真で見たボンドに一目ぼれしてという・・・・・・そんな計画ってどうなのだろうか? それともあまりに突飛ゆえに、罠だとわかっていても飛び込みざるを得ないのか? 実は意外とこういった話って現実にあった? ということなのであろうか。
何はともあれ、ボンドは敵の渦中へと身を挺していくこととなる。そして、敵の計画も最終段階に至るのであるが・・・・・・最後の最後で肝心の処刑執行がやけに間抜けな感じになってしまったなと。突然、最後にペラペラと喋りだすというのはどうなのかと、思わずにはいられなかった。そんなわけで、ラストの展開はやや脱力気味であったのだが、それでも勧善懲悪っぽい、見事なエンターテイメント小説に仕立て上げられていることは確かであろう。ただ、やっぱりこれは本で読むよりも、映像で見た方が面白そうだなと。
<内容>
クレア・アースキンの娘、サラが突然、マーヴィンという男性と婚約したことを告げる。クレアはマーヴィンと会ってみて、よい男性だと思うものの、彼の母親の様子がおかしいことに気づき始める。彼女はマーヴィンを溺愛しているようで、やたらと彼を束縛したがり・・・・・・
<感想>
マザコンの話・・・・・・で、ほとんどの説明が終わってしまう。もちろんサスペンス小説ゆえ、それだけで終わるわけではないのだが、概ねそんな感じ。
本書は短めの作品ながらサスペンス小説としてうまくまとめられていて、きちんとした見るべきところのある内容に仕上げられている。ただ、主婦が主人公で娘の結婚にかかわる内容ということで、ゴシップじみたというか、メロドラマ的な話というか、好みは別れると思われる。
こういった内容の話が好きだという人には快く受け入れられるミステリ作品であろう。なんとなく主婦層に共感が得られる作品かなと思ってしまうのは偏見であろうか。
<内容>
15歳のミランダは、ちょっとした過ちにより妊娠してしまう。ミランダは周囲の反対を押し切り、子供を産もうとするのだが・・・・・・
<感想>
シーリア・フレムリンの作品はこれで2冊目なのだが、この著者の作品は女性向のようである。本書は特に思春期の女性あたりが共感できそうな内容。
前半は若い女性が妊娠してしまい、そこからくる葛藤が描かれている。それも単なる葛藤には治まらず、主人公自らがややこしい状況をどんどんと作り上げていくこととなる。
後半に入り、話はミステリらしくなってゆく。そこで一つの事件が起き、物語がちょっとした謎へと包み込まれることとなる。しかし、全体的に見ればミステリ作品というよりは、女性の精神的な面が強調された物語という感じであった。
<内容>
ゴア大佐は行方不明の夫を探してくれという依頼を受けたのだったが、その捜査の途中で夫が見つかったという報告を受ける。夫が収容されているという病院に行き、当の夫と会うのだが、何故か彼は明らかに隠し事をしている。
事件がひと段落したかと思いきや、その後すぐに、行方不明事件に関係しているのではと思われる親娘から別々の依頼を受ける事に。ひとつは元政治家で権力者のハビランド卿から屋敷から盗まれた書類を探し出してもらいたいと。そして、その娘からは夫の素行調査を依頼される。大富豪をとりまく裕福な階級の人々が暮らす世界のなかでゴア大佐はさまざまなスキャンダルを目の当たりにすることに!
<感想>
貴族階級の人々の暮らしをスキャンダラスに描くというような作品ではあるのだが、その国、その時代に生きていなければあまりピンと来ないような作品である。また、スキャンダルといっても今の世界観から見ればさほど刺激的とも思えない。
この作品を読んでいると探偵小説とよりは私立探偵が活躍するハードボイルド作品のようにも思えるのだが、主人公のゴア大佐の人柄にもよるのだろうが、終始落ち着いた雰囲気のなかで話が展開されてゆく。よって、めりはりの少ない、退屈なハードボイルドとも言えなくもない。
この作品が本当にゴア大佐ものの代表作だというのであれば、あまり日本ではやることはないであろう。別にこの作品が悪いと言うわけではないのだが、あくまでもその時代に受ける風刺ミステリーという感じの作品という事で。