カ行−ケ  作家作品別 内容・感想

救いの死   Death to the Rescue (Milward Kennedy)   4点

1931年 出版
2000年10月 国書刊行会 世界探偵小説全集30

<内容>
 グレイハースト村の名士エイマー氏はある日、他人を寄せつけない謎の隣人のモートンが、かつて華麗なアクロバットで名を馳せた映画俳優ボウ・ビーヴァーによく似ていることに気がついた。十数年前、人気絶頂のビーヴァーが突然引退した謎に興味をかきたてられたエイマー氏は、金と暇にあかせて探偵のまねごとを思いつき、独自に調査を始める。過去の記録を探るうちに、やがて女性秘書の襲撃事件や、役者修行時代に関わった殺人事件裁判が浮上し、俳優の秘められた過去が次第に明らかにされてゆくが・・・・・・

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<感想>
 著者は本書を書くにおいて、このうえないこだわりを示したようであるが、その事項の中に「読者を飽きさせないように面白く書く」という項目を付け加えるべきだったと思う。読者はラストに至る事によって、ある驚きが生じることになるのだが、そこまで到達できるかがおおいなる問題なのではないだろうか。

 特に、主題としては隣人の過去を追う、というものであるが、劇的さが足りない。過去を追う。相手は俳優である。さらには秘められた事件まで!という展開であるにもかかわらず淡々とこなしすぎている。いまいちそのへんのリーダビリティが欠けているというのが本書の欠点であろう。

 また、ある意味この小説はメタ的でもあり、推理小説に対するパロディ的な要素をもっている。それを狙って書いたのかもしれないが本書だけではある意味、推理小説として成り立たないのでは!? と考えてしまうのだが。


スリープ村の殺人者   The Murderer of Sleep (Milward Kennedy)

1932年 出版
2006年10月 新樹社 単行本

<内容>
 村のそばを川が流れる牧歌的な村、スリープ村。ニコルソンは骨休みのために家を借り、ボートでスリープ村を訪れた。そこで彼が発見したのは司祭の死体であった。そのとき、資産家の邸宅ではパーティが行われており、こちらでは盗難事件が起きていた。それを発端として、次々と起こる殺人事件と盗難事件。いったい誰が・・・・・・
 休暇のために村へ訪れていた、ボートでやってきた男ニコルソン。車椅子にのった体の不自由なキャノン老人とその付き添いのチャート青年。ジェスロ大佐とその娘アンティス。彼らはこの犯罪にどう関わっているのか!?

<感想>
 平凡なミステリともいえるのだが、なかなか丁寧に作られた本格推理小説として見栄えのする作品であった。

 舞台は川沿いにある、地理的に閉鎖されたような村の中。そこで連続殺人事件と連続盗難事件が起こるという話。本書の中ではミスリーディングを誘うかのような存在として二人の人物が登場している。ひとりは最初に起きた殺人事件の第一発見者で、村へボートでやってきた謎の男。そしてもうひとりは、車椅子に乗り、満足にしゃべることのできない体の不自由な老人。この二人が事件にどう関わっているのか? という疑問を絡めながら事件捜査が行われてゆく。ただし、その事件捜査も警察だけが行うものではなく、周囲に住む人たちがしゃしゃり出てくるように事件を引っ掻き回していくので、そこでさらに話がややこしくなっていくという展開。

 そして当然の事ながら最終的には事件が解決されるのだが、その真相もなかなかよくできていると思われた。数少ない登場人物を有効活用して、うまく犯人の行動の筋道をたてていると感心させられた。

 ただ、惜しいのは事件の真相に到るのに、これといった確たるポイントがなかったところ。なんとなく整合性を見極めているうちに、真相にたどり着いたというようなそんな感じであった。

 それにしても本書はなかなか楽しむことのできた作品であった。ミルワード・ケネディというと国書刊行会の世界探偵小説全集の中で「救いの死」という作品が訳されているだけである。これはもっと面白い作品を書いていそうなので、ぜひともこれからもっと色々な作品を紹介してもらいたいところである。さらに付け加えると、久々に出版された新樹社ミステリにも益々がんばってもらいたい。


霧に包まれた骸   Corpse Guards Parade (Milward Kennedy)

1929年 出版
2014年10月 論創社 論創海外ミステリ132

<内容>
 ジョン・メリマンは霧の中でパジャマ姿の男の死体を発見する。警察に通報するとメリマンの知り合いであるスコットランドヤードのコンフォード警部がやってきて、捜査の指揮をとる。捜査により死体の正体は南米から帰国した男、ヘンリー・ディルではないかと見当がつく。さらに捜査を進めていくと、実は死体の正体はヘンリー・ディルに恨みを持つデリック・ファンショーという男ではないかという疑いまでもが持ち上がる。結局死体の主は誰なのか? ディルが帰国した際に、甥であるリチャード・ディルと会い、遺産の話をしたというのだが、それは事件に関わりがあるのか? コーンフォード警部が事件を調べてゆくものの、なかなか決定的な証拠がでないまま・・・・・・

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<感想>
 昨年、論創海外ミステリから数多くの作品が出たものの、ほとんど話題になった作品はなかった。そうしたなかで、昨年の10月に出た本書を読んだのだが、なかなか楽しんで読めたかなと。数少ない本格ミステリ小説の作品として、秀作とはいえないまでも、それなりの佳作と評価できる内容。

 話の半分くらいは、発見された死体の主が誰であるのか? ということの検討がなされてゆく。そうして後半に入り、誰が事件を起こしたのか? さらに言付け加えれば、この事件により誰が得をするのか? ということに重点を置き捜査が進められてゆく。

 若干地味な内容ながらも、コンフォード警部が捜査を進めてゆく警察小説として楽しむことができる。スローペースではあるが、徐々に新しい証拠が持ち上がり、次から次へと捜査の視点が変わってゆくこととなる。最重要容疑者ともいえる人物がのっけから表れているのだが、その人物が本当に犯人なのか? 警察は疑いの目で見つつ執拗な捜査を進めていくこととなる。

 本書で面白いのは、最初にチョイ役で出てきたかのようなジョン・メリマンが後半に入ると探偵役として活躍していくことにある。ただ、彼が最後に真相を明かすかと言えばそうではなく、意外な人物が探偵役を務めることとなることも本書の特徴か。

 この作品、なかなか楽しむことができるのだが、一番の目玉は巻末のあとがきにあると言ってもよいかもしれない。というのも、本書に対して冷静かつ辛辣に批評しており、意外なくらいにきっちりとこきおろしているのである。あとがきとしては珍しいタイプと言えよう。ただし、このあとがきは完全ネタバレになっているので、くれぐれもこちらから先には読まないでもらいたい。個人的には、なかなかの掘出し物の作品であったと感じられた。


金曜日ラビは寝坊した   Friday the Rabbi Slept Late (Harry Kemelman)

1964年 出版
1976年04月 早川書房 ハヤカワ文庫

<内容>
 ラビ(ユダヤ教の律法学士)のデイヴィッド・スモールが赴任してきて1年が経とうとしていた。しかし、その若きラビの評判はよくなく、一部のものたちはこのラビを退任させて、新しいラビを呼ぶべきだと考えていた。そんな折、町で殺人事件が起きる。とある家でメイドをしていた女が殺害されたのであった。その女のハンドバッグがラビの車の中に残されており、ラビは町の人々から容疑者扱いをされることに。苦境にたったラビは事件を調べ、事件の犯人を捜そうとするのだが・・・・・・

<感想>
 ケメルマンの作品というと、「九マイルは遠すぎる」のイメージしかないので、本書もそのような理論的というか理屈っぽいというか、そのようなミステリーだと考えていたのだが、少々違ったようである。

 ミステリーの部分だけを抜き取って考えれば、本書は普通のサスペンス小説と変わりはない。しかし、そこにユダヤ教というものを持ち込んだ事によって、ちょっと変わったミステリーという印象が強められている。

 本書では最初にラビが二人の男の調停をするところから始まる。この場面はミステリー的ではなく、道徳的に二人の問題を解決し、仲介する様子が描かれている。また、他にも事件を通してラビと仲がよくなるラニガン署長との宗教を通した邂逅が描かれたり、さらには物語に密接に関わってくる、デイヴィッド・スモールが町のラビから解任されそうになると言う様相などが興味深く描かれている。

 こうした背景をうまくミステリーとからめて、ひとつの作品とした事が本書の魅力となっているのであろう。「九マイルは遠すぎる」のイメージで読もうとすると、失望するかもしれないが、ひとつの変わったミステリーとして読んでもらえれば、なかなか楽しい作品であると感じてもらえる事であろう。


暗闇の鬼ごっこ   Blind Man's Bluff (Baynard Kendrick)

1943年 出版
2015年03月 論創社 論創海外ミステリ143

<内容>
 マンハッタンのビルにて、資産家で盲目の父親とその息子のふたりが、かつて起きた事件について話し合おうとしていた際、父親のほうがビルから転落死してしまった。当然、容疑は息子にかかるのだが、決定的な証拠はなかった。もし、息子がやっていないのであれば、誰がどのような方法で事件を起こしたというのか? 金と会社を巡ってのものなのか、次々と起こる類似した殺人事件。その謎に挑むのは盲目の探偵ダンカン・マクレーン。

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<感想>
 微妙な味わいの作品であった。探偵役は盲目で、しかも不可解な殺人事件ということであれば、いかにも本格ミステリ風。しかし、次々と同じような事件が起きてゆくところはサスペンス風で、さらには会社経営を巡る物語まで加えられる。

 短い作品であるので、どこに主眼を置くかをきっちりと決めてもらいたかったところ。もっと、本格ミステリ風とか、サスペンス・ミステリとか、きっちりとした作風で書き上げてくれたほうが読みやすかったかなと。最終的に、不可能殺人事件についても、物凄いトリックというほどでもなかったので、全体的にインパクトに欠けてしまっていた。結局一番印象に残ったのは、盲目の探偵の存在くらいか。




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