カ行−コ  作家作品別 内容・感想

マクシミリアン・エレールの冒険   Maximilien Heller (Henry Cauvain)   6点

1871年 出版
2021年05月 論創社 論創海外ミステリ265

<内容>
 1845年、医者の私はマクシミリアン・エレールと知り合うこととなった。エレールの友人から、弁護士である彼の体調が思わしくないため、見てくれないかと言われ、エレールを訪ねていくことになったのだ。そこで私はエレールと出会い、彼の病状を聞くことに。そんなとき、彼の部屋の隣に住む男が逮捕されるという事件が起きる。男は富豪の家で働いており、砒素を盛って主人を殺害したという容疑で捕らえられたのだ。男が逮捕される様子を見たエレールは彼の無実を信じ、事件の真相を調べ始め・・・・・・

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<感想>
 いわゆるシャーロック・ホームズに触発されて書いた作品かと思って読んでいたのだが、なんと書かれたのはホームズ作品よりも前の年代。そのころにホームズを想起させるような作品が書かれていたことに驚かされた。

 何でもかんでも似ているというわけではないが、語り手となる医者が癖のありつつ聡明な男・エレールと知り合いにあり、やがてそのエレールが無実の者を助けるべく犯罪捜査に乗り出すといったところはホームズを連想せずにはいられない。さほど“推理”というものがなされていないため、必ずしもホームズと結びつける必要はないかもしれないが、エレールが変装して情報を集めたりなど、その他にも無視できない部分があることも確か。

 また、「緋色の研究」を思わせるように、作品が2部構成となっているところもポイント。ただし、2部の内容はホームズものとは異なり、エレール自身が敵陣へと潜り込み、そこで決定的な証拠を入手しようとする様が描かれている。そして、犯人については、犯人というよりも仇敵とでも表現したほうがよさそうな感じであり、これは無理やりかもしれないが、どこかモリアーティーを感じてしまうものがある。

 と、そんな感じで、この作品単体であれば、単なる昔書かれた冒険小説という感じなのであるが、ミステリの歴史的な観点からすると、深い意味合いがあるのではないかと思えてしまう。本書は、フランスの作家であるアンリ・コーヴァンの処女作。その他にもミステリや冒険ものの作品を書いているようであるが、マクシミリアン・エレールが再登場しているかは不明。


謀殺の火   Murder's Burning (S. H. Courtier)

1967年 出版
2005年04月 論創社 論創海外ミステリ17

<内容>
 6年前ペラディン渓谷で起きた大火事にて、36名の住人のうち9人が死亡した。その中にはスチュアート・ハミルトンの親友で教師をしていたパット・カラザスが含まれていた。その火事の背景に何か隠されたものがあると考えたハミルトンは渓谷へと訪れ、事件が起きたときの状況を探ろうとする。するとだれも住んでいないはずの渓谷で何者かがハミルトンに警告を・・・・・・

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<感想>
 このS・H・コーティアという作家はオーストラリアのミステリー作家で本邦初紹介。

 過去に起きた大火事の原因を親友の手紙や新聞記事などから探ろうという試みは面白かった。ただ、その原因を探るのに、ほとんど親友からの生前の手紙のみに頼らなければならないというのは無理があったように思える。よって、結末もそれまで積み立てたものからは少々離れ気味のように感じられ、あまりしっくりとはこなかった。

 とはいえ、緊迫感があり、見るべきところも多いミステリーとなっているので読んで損はない本である。さらにはオーストラリアを舞台にしたミステリーというのは貴重であり一読の価値は十分にあるだろう。


ウィルソン警視の休暇   Superintendent Wilson's Holiday (G.D.H.&M. Cole)

1928年 出版
2016年01月 論創社 論創海外ミステリ163

<内容>
 「電話室にて」
 「ウィルソンの休日」
 「国際的社会主義者」
 「フィリップ・マンスフィールドの失踪」
 「ポーデンの強盗」
 「オックスフォードのミステリー」
 「キャムデン・タウンの火事」
 「消えた准男爵」

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<感想>
 著者名の“G.D.H.&M・コール”というのが非常にわかりにくいのだが、こちらは、ジョージ・ダグラス・ハワードとマーガレット・イザベル・コールを表しており、二人は夫婦ゆえにまとめてコール夫妻と呼ばれているよう。

 この作品集はタイトルにあるように“ウィルソン警視”が活躍するシリーズ短編となっている。ただし、ウィルソンが警視であるのは最初の2作品のみで、残りの作品は警察を退職後、私立探偵としての活躍が描かれている(何故か「キャムデン・タウンの火事」は警視時代の話)。

 何故か、警視時代の話を描いた最初の2作品はミステリ小説らしくて、私立探偵としての活躍を描いた残りの作品のほうが警察小説らしい。見どころは最初の2作にあり、残りはやや退屈かなと。ただ、「ウィルソンの休日」にしても、捜査の途上は本格ミステリらしいのだが、肝心の解決の場面についてはやけに淡白であり、これは残りの作品に関しても同様の作風が読み取れる。ゆえに、そのどれもがあまり華々しくないミステリ小説という風に捉えられる。

「電話室にて」は、推理クイズで出題されたのを見たことがある。これが元の作品なのかと。また、単に物理トリックを描いただけでなく、犯人の咄嗟の行動について鋭く言及しているところこそが本編の見どころと言えよう。犯人が分かりやすすぎるのがネックであるが。

「ウィルソンの休日」 キャンプ場に付けられた足跡を元に、犯行状況をウィルソン警視が推理する。
「国際的社会主義者」 会議中に起きた銃殺事件の謎をウィルソンが解き明かす。
「フィリップ・マンスフィールドの失踪」 失踪した男の行方をウィルソンが調査する。遺産相続のもつれから起きた事件?
「ポーデンの強盗」 ウィルソンの姪の夫が強盗容疑で逮捕された。汚名をはらすべくウィルソンが調査に乗り出す。
「オックスフォードのミステリー」 オックスフォードの学生が学友を殺害したとして逮捕された。二人の間に何が起きたのか?
「キャムデン・タウンの火事」 火事によって使用人が死亡した事故。果たしてその真相は?
「消えた准男爵」 爵位がもたらした事件? ユースタス・ベダー卿の行方は?

 どの短編も発端や捜査の場面はよいのだが、解決の部分がやけに淡白でもったいないと感じられた。全体的にもう少し派手にしたほうが見栄えが良かったと思えるのだが、その辺に関しては時代性ということか。


クロームハウスの殺人   The Murder at Crome House (George Dougias Howard Cole & Margaret Cole)   5点

1927年 出版
2022年05月 論創社 論創海外ミステリ283

<内容>
 大学講師のジェームズ・フリントは、本の中から見つけた一枚の写真を機に、とある事件の捜査に関わることとなる。その事件とは、資産家の男が殺害された事件。容疑は義理の息子オリヴィエにかけられたものの、容疑不十分で釈放された。警察は捜査に決め手を欠き、これ以上この事件について捜査をする気はないらしい。しかし、世間ではオリヴィエがやったのであろうと噂され、彼は肩身の狭いまま生きることを強いられ、しかも遺産も手に入らずという状況。フリントは友人の弁護士を介して、オリヴィエと知り合い、いつしかこの事件の捜査にのめり込むようになってゆき・・・・・・

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<感想>
 論創社にて「ウィルソン警視の休日」に続いての翻訳となるコールの作品。この著者名は夫婦合作時のペンネームとのこと。そんな作家の長編ミステリ作品なのであるが、これがまた面白くなかった。

 悪く言えば、面白くない作品の見本のような感じ。起きた事件自体は面白そうな感じがするのだが、その後の捜査の様子がお粗末。素人探偵による捜査と言うことで、うまくいかないのは仕方のないことかもしれないが、それにしても面白くない。なんとなくでアリバイ調査をしているのみで、何を目的としているのかもよくわからない。しかも、関係者による証言も、曖昧過ぎるものばかり。そんなあやふやな捜査が延々と続けられることとなる。

 さらに言えば、登場人物も魅力に乏しいし、作品自体どういう風に盛り上げようとしているのかが、よくわからなかった。ゆえに、淡々と面白くないといった描写が続くのみ。事件も基本的には最初に起きた殺人事件のみということもあり、作品に対する吸引力も乏しい。

 最後になって、ようやく少し盛り上がりはするのだが、最後に真相があきらかになる場面に関しては、これもどうかと・・・・・・。はっきり言って、そこまでの捜査が何だったのかというような終わり方。まぁ、この事件に関しては、最初から警察がしっかりと捜査していれば、自動的に胡散臭い人物がハッキリと浮き彫りになっていたような感じがする。


ある醜聞   Scandal at Scotland Yard (Belton Cobb)   5.5点

1969年 出版
2019年12月 論創社 論創海外ミステリ245

<内容>
 アーミテイジ警部補は上司であるバグショー警視に強制捜査の許可をもらうためバグショーが休暇をとっていると思われるホテルへと向かう。その際にアーミテイジは、偶然にもバグショーの秘書であるペギーと出くわす。それを見てアーミテイジはバグショーとペギーの関係を疑うことに。後日、ペギーが行方不明となり、その後崖から転落死していたのを発見される。ペギーの件について口を閉ざすバグショーに対して、アーミテイジは事件の関与を疑うのであったが・・・・・・

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<感想>
 著者のベルトン・コッブは、論創海外ミステリで紹介されるのは初。日本では以前に東京創元社から「消えた犠牲(いけにえ)」という作品が出版されたことがあるよう。その他、数多くのミステリ作品を書いている作家とのこと。

 本書は、警察官が上司の不倫や事件の隠ぺいを疑いながら捜査を進めていくという内容。読み終えてみると、事件の被害者から容疑者、その他諸々、ほぼ警察関係者のみで語られた作品であったなと思い返す。

 短いページ数で、あったのでさらっと読めてしまう。また、スキャンダルというどろどろとしたものが主題となってはいるものの、意外と普通に読み進めることができる作品であった。それゆえに、一気に読み終えてしまうことができる作品。

 ただ、内容について、警察関係者ばかりで済まされる容疑者についてとか、勝手に想像で決めつけたうえでの捜査方法などについて微妙と思われる点もしばしば。一番気になったのは、この事件が解決した後、警察署内での人間関係はいったいどうなったんだということなのだが。


悲しい毒   The Poisoner's Mistake (Belton Cobb)   6点

1936年 出版
2020年07月 論創社 論創海外ミステリ253

<内容>
 株の取引により資産家となったルパート・ポールは妻からの頼みにより、妻の両親、さらには失業した妻の弟の家族を自分の屋敷に住まわせることとなった。それにより不満ながらも大家族となったルパートの家でパーティーが行われたおり、客として来ていたロバートがヒ素を飲んだことにより死亡するという事件が起きる。警察の調べによると、どうやら犯人はロバート以外のものを狙ったものの、誤ってロバートが殺害されたとの結論に至る。真犯人を探るべくロンドン警視庁のバーマン警部補の執拗な捜査が行われることとなり・・・・・・

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<感想>
「ある醜聞」に続いて論創社から出版されることとなったベルトン・コッブの作品。内容としては、こちらのほうがやや地味のような。

 というのも、家のなかで起きた毒殺事件の真犯人を追うのみという内容。捜査する警部補は、関係者から当時の状況、立ち位置、行動などを執拗なくらい細かく聞き取り調査をしていく。一応、その捜査の仕方には警部補なりの意図もあったようであるが、物語が進行している途中は、やはり地味であるということは否めない。

 とはいえ、地味とはいえ薄めのページ数の作品ということもあり、それなりに読める作品ではあったかなと。事件の動機についても確かにと納得させられるようなものとなっている。


善意の代償   Murder. Men Only (Belton Cobb)   6点

1962年 出版
2023年01月 論創社 論創海外ミステリ294

<内容>
 ロンドン警視庁のバーマン警部のもとに犯罪者のジョー・ウィッキーがやってきて、とある下宿宿である男の命が狙われていると告げる。いったい何のためにそんなタレコミをしに警視庁にやってきたのか? その件を恋人であるアーミテージ巡査から聞いたキティー・パルグレーヴ巡査は、その下宿宿へ身分を偽って、女中として単身乗り込むことを決め・・・・・・

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<感想>
 著者のベルトン・コッブ氏の作品が論創海外ミステリで紹介されるのは3作品目。どれもバーマン警部が探偵役を務めるシリーズとなっている。また、今作では女性捜査部巡査のキティーの視点が主となって物語が語られている。

 本格ミステリ風で楽しめる作品。犯罪者による謎のタレコミがあり、それを耳にした女性巡査が勝手に下宿宿へ潜入捜査を行い、そしてその下宿宿で殺人事件が起きてしまうという展開。どうやら事件は、その夜に下宿宿内にいた人物による犯行とみなされ、警察は犯人探しを行っていく。そうしたなか、女性巡査キティーは内部に潜り込んでいる利点を生かし、情報を仕入れていく。

 登場人物の全員が怪しそうななかで、犯行が可能な人物を絞り込むという捜査は面白い。また、動機の面や、タレコミの理由などについても謎となっており、事件のポイントは多数ある。そして、最後に真犯人が指摘されるのであるが・・・・・・悪くはないけどやや地味な展開・結末であったかなと。

 短めのページ数でサクサク読むことができ、楽しんで読むことができた。犯人指摘の場面をもう少し派手目にしてもよかったような気はするのだが、むしろ地味目な警察小説ということでこのくらいの展開でちょうど良かったのかもしれない。女性巡査の視点を主としたところは作品に工夫がなされていて良かったと思われる。


ドリームタイム・ランド   Death in Dream Time (S. H. Courtier)

1959年 出版
2005年11月 論創社 論創海外ミステリ32

<内容>
 ジョック・コーレスは従兄から相談事があると呼びだされて待合場所へと向かうと、当の従兄は彼が到着する少し前に、車の前に飛び出し死んでいた・・・・・・。従兄が働いていたという先住民アボジリニの神話を体験できるテーマパーク“ドリムタイム・ランド”。そして、その事故を皮切りに、次々と起こる殺人事件。テーマパークの中でいったい何が起きているのか!?

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<感想>
 オーストラリアを舞台にしたミステリを描く作家、コーティアの作品が“謀殺の火”に続いて紹介された。今作ではアボジリニの儀式について詳しく語られた作品となっている。事件はアボジリニの儀式を紹介していく側で次々と起きていく。また、さらにはシリーズものの探偵として活躍しているらしい、ヘイグ警部という癖のある人物が登場しているところも見所の一つ。

 大雑把にいえば、サスペンス・ミステリというような内容。ほとんど一日くらいのうちに、どんどんと話が展開されてゆき、ドタバタ劇のなかで犯人も明かされてゆくというスピーディーな展開の作品。まぁ、それなりに楽しめる内容であったと思える。ただ、そのスピーディな展開ゆえに、犯人側が起こす犯罪もずさんで行き当たりばったりのものとなってしまったようである。

 残念だったのは、せっかくアボジリニの儀式というものを出したのだから、見立てまでいかなくても、もうちょっと一工夫した作品にしてもらいたかったところ。この魅力的な題材によって、書きようによっては面白い作品ができたのではないかと思える。


盗 聴   The Case of the Talking Bug (The Gordons)   5.5点

1955年 出版
2018年01月 論創社 論創海外ミステリ203

<内容>
 カリフォルニアの警官であるグレッグ・エヴァンズ警部補は、密かに盗聴による組織網を整備し、その盗聴によってマネーロンダリングの首謀者であるマローンの尻尾をつかもうとしていた。そして盗聴により、とある女子大生が狙われていることを知り、グレッグは緊急手配するのであったが・・・・・・

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<感想>
 著者がザ・ゴードンズという不思議なペンネームであるが、これはゴードン夫妻による共著ということで、このようなペンネームとなっている。しかも夫のほうはゴードン・ゴードンという珍名さん。このペンネーム名義の作品は、いくつか映画化されているらしく、本国ではそれなりに有名らしい。

 本書は盗聴を武器に活躍する警官たちの様子を描いた作品・・・・・・なのだが、この作品だけ読んだ限りでは、その様子があまりうまくいっているようには見えなかった。まぁ、リアリティ重視とも言えるのかもしれないが、盗聴によって相手の行動が筒抜けというわけではない形で描かれている。犯罪者側の方も言動に気を付けているようで、なかなか尻尾をあらわさない。ゆえにジリジリした展開が続くようなものとなっている。

 いまいちキャラクターに見栄えがしないせいか、あまりこれといった印象がないまま終わってしまったという感じ。海外作品にありがちなB級ミステリ、もしくはB級警察小説というような雰囲気が強い。


或る豪邸主の死   Death at Swaythling Court (J. J. Connington)

1926年 出版
2008年02月 長崎出版 <Gem Collection>

<内容>
 治安判事であるサンダーステッド大佐はシリル・ノートン大尉とともに、恐喝の罪でハバードを告発するために彼の邸へと出向くことに。しかし、彼らが訪ねてみると、誰もいない邸のなかで殺害されているハバードの死体を発見することになる。さまざまなひとを恐喝していたゆえに、誰もがハバードを殺害しようという動機を持っていた。そんななか、サンダーステッド大佐は若き友人であるジミー・リーに嫌疑がかからないか心配するのだが、当のジミーはどこかへ行方をくらませてしまい・・・・・・

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<感想>
 最初のページに読者への挑戦とともとれるような一文が掲載されている。ただ、そのような試みがなされているわりには、作品中におけるフェアプレイというものが機能しているとは思いがたかった。ただ、書かれた年代からすれば、こういった作品が本格推理小説としての道筋を作り、読者への挑戦のはしりとなっていったのだろうということは理解できた。

 作中にて描かれる、ミステリ作品としてのさまざまな要素については非常に楽しむことができる。主人公や被害者を取り巻くそれぞれが何かを隠していそうな人々。恐喝と姉の離婚協議に悩みながら殺人光線を開発してしまう青年、いかにもうさんくさそうな執事、おしゃべり好きで噂をひろめたがる牧師等々。さらには死体が発見されたときには刺殺と思われていたのが、後に別の方法で殺害されていたということが明らかになったりと、数々の証拠や事実が読者を煙に巻いていくこととなる。

 ただ、結局のところさまざまなミステリ要素として描かれているもののほとんどがミスリーディングを誘うだけのものであり、全体的にうまく機能しているとは思えなかった。さらには真相についてもピッタリと当てはまるというものではなく、やや決め手に欠けているなとも感じられた。

 真相を読み解く探偵役にせよ、犯行へいたる筋道や、その周囲をとりまく事象にせよ、もうちょっとピリリとしたものが欲しかったと感じられた作品。


レイナムパーヴァの災厄   Nemesis at Raynham Parva (J. J. Connington)

1929年 出版
2014年11月 論創社 論創海外ミステリ135

<内容>
 警察を退職した元警察本部長クリントン・ドリフィールド卿が姉の家へと向かう中、ひとりの女を巡っての二人の男の争いを目撃する。次の日、そのうちの一人が死亡したことをクリントンは知ることに。また、姉の家に着いたクリントンは姪のエルジーが外国人の男と結婚し、エルジーの友達を連れてアルゼンチンへと旅することを知らされる。そうしたなか、死亡事件を調べていくことになったクリントンは、エルジーの夫が、人身売買に関わっているのではないかという疑問を抱くことに。そして彼らの周辺でさらなる殺人事件が! クリントン・ドリフィールド卿は、この事態をどのように収拾するのか!?

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<感想>
 意外な展開を見せることにより驚かされる作品。実は、昨年出た論創海外ミステリのなかで一番面白い作品であったかもしれない。

 事件の展開は、諍いを起こした謎の男の死亡事故。村に来ている謎の怪しい男。しかもその男までもが死亡してしまうという事件。そしてクリントンの姪が結婚した外国人の夫による陰謀にはまってしまっているという件。そうした物語がつづられていくこととなる。その間に、死亡事故に対して、地元の警察からの依頼によりクリントン卿による詳細な鑑識が行われてゆく。

 ここまでの流れでは、だいたい事件に対してどのようなことが起きたのか、誰が事件を起こしたのか? という結論が出てしまっている。問題は、姪が陰謀にはまっている件で、これを姪の名誉を傷つけることなく、どのように対処すればよいかということでクリントン卿が大いに悩む。

 そして後半、こうした状況の中でさらなる殺人事件が起き、これこそが本書のキモ。容疑者と見なされる者がいるなかで、クリントン卿がいかにして事件を解決するのか? これこそが最終的な見どころとなるのである。

 本作品は、クリントン卿が活躍するシリーズ作品のなかの一冊。そのなかでも、変わった趣向の内容のようである。次から次へと事件が起こる中で、クリントン卿が最終的にどのように事件に幕を下ろすのか? 理論と科学で裏打ちされたミステリ作品でありながらも、そこに潜む意外性のある物語を堪能してもらいたい。


九つの解決   The Case with Nine Solutions (J. J. Connington)

1928年 出版
2016年07月 論創社 論創海外ミステリ176

<内容>
 リンウッド医師は急患からの依頼があり往診に出かけるが、あまりに霧が濃かったため、一軒隣の家を訪ねてしまう。そこで発見したのは、ひとりの男の死体。その後、隣の家を訪れ、警察に連絡し、患者の様子を見て、警察の到着を待つ。到着したクリントン警察本部長とフランボロー警部と共に現場検証を行うリンウッド医師。その後、再度患者の家を訪れると、なんとその家の女中が何者かに殺害されているではないか! クリントンらは、被害者の背景を調べ、容疑者を絞り込もうとするのであったが・・・・・・

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<感想>
 論創海外ミステリでは先に出ている「レイナムパーヴァの災厄」に登場するクリントンが探偵役として活躍している。「レイナム〜」では、すでに警察を引退しているクリントンであったが、こちらの作品では現役であり、「レイナム〜」以前に出版された作品である。

 展開は思っていたよりも派手で、読者を飽きさせない構成となっている。急患を訪ねた医師が濃い霧のため、間違えて訪れた屋敷で死体を発見し、それ以後もどんどんと別の場所で死体が発見されてゆくこととなる。事件の根底となっているのは、どうやら三角関係のようであり、容疑者は絞り込まれ、あとはどのように犯行をなしたかという事のみのようにも思えるのだが、事細かい点を考えていくと、全てを網羅する真犯人が思い浮かばないという・・・・・・

 そういったなかで最終的にクリントン警察本部長が真犯人を指摘することとなるのだが、最初は根拠薄弱ではないかと思えてしまう。しかし、真犯人が確定したのちもクリントンの捜査ノートが公開されることにより、どのようにして犯人を確定していったのかが、事細かに表されることとなる。もう、蛇足ではないか! と思えるほど事細かであり、これには犯人の指定が根拠薄弱ではないかなどとは決して言えないものとなっている。

 ただ、“腑に落ちた感”があまり味わえなかったりと、全体的にはやや地味目という感じの作品。とはいえ、しっかりと練り上げられている本格ミステリ作品であるということは間違いない。あとがきによると、本書はフリーマンの「オシリスの眼」影響を受けているといわれているようで、ちょうどその作品が今月(2016年11月)ちくま文庫から復刊されたばかりなので、合わせて読んで堪能したいところである。


キャッスルフォード   The Castleford Conundrum (J. J. Connington)   6点

1932年 出版
2019年08月 論創社 論創海外ミステリ238

<内容>
 キャッスルフォード家にて、女主人のウィニフレッドが銃により撃たれ死亡した。遺産は全て再婚した夫に相続する予定であったが、近ごろ気が変わり、遺言書を書き換える予定であった。そうしたさなかで起きた殺人事件。容疑は当然、夫のフィリップに向けられるのであったが・・・・・・。警察署長クリントン・ドリフィールド卿が到達した真相とは!?

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<感想>
 同じく論創海外ミステリから以前出版されていた「レイナムパーヴァの災厄」に登場したクリントン・ドリフィールド卿が探偵役として再登場している。ただし、時系列としてはこちらが先であり、「レイナムパーヴァの災厄」では、クリントン卿はすでに警察を退職した形となっていた。

 内容としては遺産相続をめぐる殺人事件を描いたもの。普通のミステリという感じの出来であり、全体的にはやや退屈という感じではある。ただ、それなりに丹精に作られたミステリであることは確かであり、最後には真犯人を指摘するための見せ場もしっかりともうけられている。

 序盤、不思議に思ったのは捜査役の変転について。最初ガムレイ巡査という人物がでてきて捜査にとりかかる。ただ、この人物はいかにも小物という感じがし、次に現れるウェスターハム警部に捜査の視点は移り変わる。このウェスターハム警部がてっきりこの作品の探偵役なのかと思いきや、そこからクリントン卿にさらに入れ替わるという形になっている。捜査する人物が移り変わるのはかまわないものの、その前に捜査していた人物をあまりにがあまりにもないがしろにされているところは、ちょっと気になった。その後、ちょっとは出てくるものの、当初はそれなりに存在感を示していたウェスターハム警部の存在が希薄になりすぎていたのはどうかと思われた。

 と、そんなことも含め、ちょっと余分な描写が色々とあったようにも思われる。もう少しシンプルにまとめられても良かったのではないかと。それなりにきちんとした出来のミステリとなっているがゆえに、特にそう感じられた作品。


ナツメグの味   The Touch of Nutmeg Makes It and Other Stories (John Collier)

2007年11月 河出書房新社 <KAWADE MYSTERY>

<内容>
 「ナツメグの味」
 「特別配達」
 「異説アメリカの悲劇」
 「魔女の金」
 「猛禽」
 「だから、ビールジーなんていないんだ」
 「宵待草」
 「夜だ! 青春だ! パリだ! 見ろ、月も出てる!」
 「遅すぎた来訪」
 「葦毛の馬の美女」
 「壜詰めのパーティ」
 「頼みの綱」
 「悪魔に憑かれたアンジェラ」
 「地獄行き途中下車」
 「魔王とジョージとロージー」
 「ひめやかに甲虫は歩む」
 「船から落ちた男」

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<感想>
“ナツメグの味”というタイトルが絶妙で、ちょっと奇妙な味わいというような感触が伝わってくる作品集である。ちなみに私自身はナツメグの味がどんなものかを知らないのだが、それでもなんとなく奇妙な味わいを感じてしまうのである。

 読んでいて、昭和の初期から中期くらいに日本で書かれた探偵小説、幻想小説に通じるところがある作品とも感じられた。また、なんとなく書いたものの若さを感じられるような作風でもあった。ただし、あとがきを読んでみると、本書に掲載されている短編はこの著者が30代から50代くらいの間に書いた作品とのこと。

 それなりの味わいのある作品集であるとはいえ、ちょっと全体的に薄味であったかなと。最近、<奇想コレクション>とか、この<KAWADE MYSTERY>などでもさまざまな短編作家が紹介されている中では、それらの中に埋もれてしまいそうな作品集だと思われる。

 一番印象に残ったのは「猛禽」という作品。テーマは怪奇的な“鳥”を扱いながら“すり込み”というものを描いた内容なのかと思いきや、突如サスペンスのような終わりかたが訪れるという意外性のある作品。

 他の作品は総じて、青年が恋やトラブルに遭遇するというものが多かったような気がするが、何かもう一味特徴が欲しかったところである。


ダーク・デイズ   Dark Days (Hugh Conway)   5.5点

1884年 出版
2021年08月 論創社 論創海外ミステリ274

<内容>
 医者のバジル・ノースはフィリッパという女性に恋するも、彼女からは受け入れられず、失恋してしまう。そんなフィリッパは準男爵のサー・マーヴィン・フェランドと付き合い始めたらしく、失意のバジルは住んでいたところから去り、田舎へと移り住む。その田舎でバジルは、フィリッパと再会し、現在彼女が幸せとは言えない生活を送っていることを知る。そんな彼女を助けようとするのだが、ある大雪の日、彷徨っていたフィリッパと、銃殺されたフェランドの死体を発見する。バジルは最悪の事態を考え、フィリッパをなんとか助けようと、彼女をかくまい・・・・・・

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<感想>
 どこか聞いたことがありそうなヒュー・コンウェイという作家だが、どうやら読むのは初めてであり、日本でもさほど紹介されたことがない作家らしい。黒岩涙香が翻案した「法廷の美人」の原作が本書だということが唯一の日本との接点と言ってもいいくらい。かなり古い時代に活躍した作家であり、しかも30代の若さで亡くなったこともあり、作品点数も少ないことから、日本ではほぼ知られていないようである。

 本書は、日記による一人語りの作品というようなもの。主人公である医師のバジルの心情がつらつらと語られてゆく。彼がフィリッパという女性に出会ったことにより、その人生を大きく変えることとなる。ゆくゆくは、ただ単にフィリッパのためだけに、というような人生を送ることとなる。

 途中にひとつの大きな事件が挟まり、それによりバジルとフィリッパの人生が大きく変わって行くこととなる。その後は、不安な毎日と幸福な日々が入り乱れるという人生が続き、やがてはひとつの裁判に出くわし、その運命をゆだねることとなる。

 終わってみると、さほど騒ぎになるようなことでもないものを、不運な出来事の連続で、ややこしくとらえてしまった話と言えなくもない。なんともバタバタし過ぎな話だったなと思えてならないのだが、当事者にとっては、やはり重大な案件であったということなのか。まぁ、それだけ人を愛することができれば、それはそれで幸せなことなのではなかろうかと。




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