ラ行−リ  作家作品別 内容・感想

Gストリング殺人事件   The G-String Murders (Gypsy Rose Lee)   5.5点

1941年 出版
2022年10月 国書刊行会 <奇想天外の本棚>

<内容>
 ストリッパーのジプシー・ローズ・リーは、ニューヨークのオールド・オペラ劇場へ移籍し、そこで踊り子として公演をすることに。華やかな舞台の裏では、喧嘩や口論、恋愛沙汰や警察による手入れなど、騒がしい毎日が続く。そうしたなか、新しいトイレを取り付けることとなり、そのお披露目を行なおうとしたとき、踊り子の一人がGストリングを首に巻き付けた状態の遺体で発見されることとなる。その興奮も冷めやらないうちに、第二の殺人事件が発生し・・・・・・

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<感想>
 この作品に関してはクレイグ・ライスの作品一覧に掲載されていたこともあり、完全にクレイグ・ライスがジプシー・ローズ・リー名義で書いた作品だと思っていた。しかし、そこには所論があり、実在の人物で伝説的なストリッパーのジプシー・ローズ・リー本人が書いたという説も根強く残っているよう。本書の前書きに、その辺の状況が詳しく書かれている。

 実際に読んでみてどちらによって書かれたのかを考えてみると、これは絶妙な書かれ方だとしか・・・・・・。実際、ライスの作品でこのように舞台裏(もしくはそのようなもの)から事件を見渡しながら作品を描くというような雰囲気のものがあったような気がする。ただ、ライスが書いた割には、ごちゃごちゃして読みにくく、新人作家が描いたような作品とも思われる。そんなこともあり、作品を読んだだけではどちらが書いたのかと言うことは判断しにくくなっている。

 そしてその内容はというと、これはあまり面白みはなかったかなと。当時ベストセラーになったとのことであるが、そこは著者とされるジプシー・ローズ・リーが着目されたことによるものであろう。本書の内容に関しては正直言ってあまり良くできたミステリとは思えなかった。

 なんといっても登場人物が多すぎて、その相関関係もごちゃごちゃし過ぎている。しかもそのどうでもよさそうな人物を合わせて、全員が全員怪しげな言動をとっているのだから、もはや判断のしようもない。まさに舞台裏といった雰囲気は良く出ているものの、それゆえにごちゃごちゃし過ぎるという印象ばかりが強すぎた。

 あと、舞台裏ばかりに着目されていて、肝心な舞台の華々しい場面がほとんど描かれていなかったところがもったいないと感じられた。せっかくこのような舞台を題材に描いているのだから、もう少し光と影のコントラストというように、表舞台と舞台裏を使い分けてもらいたかったところである。


無音の弾丸   The Silent Bullet (Arthur B. Reeve)   5.5点

1912年 出版
2017年12月 論創社 論創海外ミステリ201

<内容>
 「クレイグ・ケネディの理論」
 「無音の弾丸」
 「金庫破りの技法」
 「探偵、細菌の謎に挑む」
 「死を招く試験管」
 「地震計をめぐる冒険」
 「ダイヤモンドの合成術」
 「瑠璃の指輪」
 「自然発火」
 「殺意の空」
 「黒手組」
 「架空の楽園」
 「難攻不落のドア」

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<感想>
 アーサー・B・リーヴ氏による短編集。最初の「クレイグ・ケネディの理論」によりクレイグ・ケネディという大学教授が紹介され、そして彼がその後の12の短編にて探偵役を務め、活躍する様子が描かれている。

 この作品集の特徴は、当時の最新技術や最新科学、さらには新しい薬学的なものまでもが紹介され、それらがトリックの核を担っているというところ。そうした科学的なミステリとなっているせいか、1912年に書かれた作品というものを感じさせず、近代的なミステリと受け止められるような雰囲気となっている。

 ただ、今の世でいうと、ここに挙げられている当時の最新技術については全く目新しく感じないので、少々拍子抜けしてしまうというのが実情。実際、最初の「無音の弾丸」を読んだときには、こんなのトリックといえるの? と普通に感じてしまった。

 実際、あとがきを読むとこの作品は、出版された当時は目新しくとらえられたようであるが、その後時が経つにつれて、段々と評価されなくなっていったそうである。古典作品の歴史の流れのひとつとして貴重な作品ではあると思えるが、結局ミステリとしては微妙であったのかと。あまりにも科学技術的なものに頼り過ぎた作品といえるのかもしれない。


叫びの穴   The Shrieking Pit (Arthur J. Rees)   6点

1919年 出版
2023年10月 論創社 論創海外ミステリ305

<内容>
 探偵コルウィンは滞在中のホテルの食堂で挙動不審な青年を見かける。その青年は意識を失って倒れ、そばにいた神経科の医師が言うには、癲癇性激怒の症状が見られると。青年を介抱したものの、彼は身を隠すかのようにホテルから出ていってしまう。その後、コルウィンは青年が殺人容疑で指名手配されたことを知る。田舎の宿屋にて、そこに宿泊していた考古学者を殺害し、大金を奪って逃げたというのだ。事件と、その青年の事が気になったコルウィンは事件捜査に加わることにし・・・・・・

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<感想>
 このアーサー・J・リースという作家は、初めて日本で紹介される作家のようである。本書が出版されたのが1919年であるゆえに、古くに活躍したミステリ作家であるようだ。

 肝心の中身なのだが、これはなかなか良い作品だと思われた。あまり華々しさはないものの、精緻なミステリを展開させている作品である。大きな事件は殺人事件ひとつだけであるが、それについての細かい検証がなされている。容疑者が失踪しており、状況証拠もその容疑者を指し示す者が多く、犯人はすでに決定づけられたような事件。それを探偵コルウィンが現場状況を見て、疑問点がいくつか浮かびあがったことから、容疑者は犯人ではないのではと推理する。犯人とみなされる者の容疑を晴らし、真犯人を捕まえようとコルウィンの単独捜査が行われてゆく。

 事件発端後、地道な現場検証、事件の検討、容疑者の確保、事件の裁判、そしてコルウィンによる単独捜査と展開されてゆくことになる。そのどれもが地道で丁寧すぎるような感じではあるが、そうした捜査状況などをしっかりと描いているところには好感が持てる。古典ミステリとしては、これほどまでに警察捜査的な部分をきちんと描いている作品と言うのは珍しいような気がした。さらには、真犯人を見出すまでにいたった探偵コルウィンの推理についても非常に丁寧に描かれている。

 最終的に真犯人の正体が明らかになるのだが、その犯人の心理状況というか、人間性について、あまり説明がなかったところが物足りなかったが、それ以外はしっかりと書かれていたという印象。華々しさはないものの、地道にしっかりと描かれたミステリ作品と感じられた。


クライム・マシン   The Crime Machine and Other Stories (Jack Ritchie)   7点

2005年09月 晶文社 晶文社ミステリ

<内容>
 「クライム・マシン」
 「ルーレット必勝法」
 「歳はいくつだ」
 「日当22セント」
 「殺人哲学者」
 「旅は道づれ」
 「エミリーがいない」
 「切り裂きジャックの末裔」
 「罪のない町」
 「記憶テスト」
 「こんな日もあるさ」
 「縛り首の木」
 「カーデュラ探偵社」
 「カーデュラ救助に行く」
 「カーデュラの逆襲」
 「カーデュラと鍵のかかった部屋」
 「デヴローの怪物」

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<感想>
 あぁ、これも「本ミス」に投票する前に読んでおけばよかったと後悔している。どちらかといえばSFに近いような内容なのかなと思っていたので、後で読めばいいやと敬遠していたのは間違いであった。これはなかなかすごいミステリー短編集となっている。

 驚くのは本格推理小説と呼びたくなるような作品が含まれていること。「クライム・マシン」「ルーレット必勝法」「デヴローの怪物」の3作品は、一見非現実的な世界でなければ成しえないような事が行われつつも、実は全て現実の中で行われているという意表をついた作品。特に最初の「クライム・マシン」からもうジャック・リッチーにやられてしまったという気分になった。

 変わった殺人鬼を描いた「歳はいくつだ」、冤罪と復讐を描いたかのような「日当22セント」、残忍なるショートショート「殺人哲学者」、奇妙な計画殺人「旅は道づれ」、今年話題になったレオ・ブルース「骨と髪」を思い起こさせる「エミリーがいない」、精神科医の奇策を描いた「切り裂きジャックの末裔」と「記憶テスト」、のどかな町にて見え隠れする犯罪を描いた「罪のない町」。

 と、これらは特に統一されて書かれた作品ではないにもかかわらず、タイトルの“クライム・マシン”という言葉に実に相応しい短編群となっている。この短編のタイトルを表題として付けた人はお見事。

 そして、ヘンリー・ターンバックル部長刑事を主人公とした作品と、夜にしか出歩かない怪力の私立探偵カーデュラが活躍する作品と、シリーズものもそろえてきている。

 とにかく、これは今年一番の短編集であり、ジャック・リッチーという名前が日本に知れ渡る事になる記念すべき一作といってよいであろう。次の短編集も・・・・・・などとわざわざ期待しなくても、必ずや第2弾が出版される事間違いないであろう。


10ドルだって大金だ   The Enormous $10 and Other Stories (Jack Ritchie)

2006年10月 河出書房新社 <KAWADE MYSTERY>

<内容>
 「妻を殺さば」
 「毒薬であそぼう」
 「10ドルだって大金だ」
 「50セントの殺人」
 「とっておきの場所」
 「世界の片隅で」
 「円周率は殺しの番号」
 「誰が貴婦人を手に入れたか」
 「キッド・カーデュラ」
 「誰も教えてくれない」
 「可能性の問題」
 「ウィリンガーの苦境」
 「殺人の環」
 「第五の墓」

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<感想>
 前作「クライム・マシン」により、一躍有名になったジャック・リッチーの第2短編集。とりあえず付け加えておくと、「クライム・マシン」も本書も日本でのオリジナル編纂作品集である。

 これまた読みやすく面白い作品集であった。どの作品もちょっと長めのブラック・ジョークを読んでいるという感じである。

 さらにもう少し詳しく評してみると、どの作品も何らかのパロディ作品のような趣となっている。例えば、「妻を殺さば」という作品はタイトルの通り、妻を殺害して大金を得ようというよく聞く題材ではあるのだが、それをリッチー流にうまく料理している。

 他の作品も同様に、“妻殺し”“交換殺人”“ハードボイルド”“ミッシングリンク”と、さまざまな小説で見ることの出来る題材をリッチー流にパロディ化している。故にこの作品集は色々な本を読みなれているとなおさら楽しむことができると思われる。

 個人的に気に入ったのは、「世界の片隅で」。現金強奪に利用される、ちょっと頭の悪い青年を描いた作品なのであるが、見事に青年独りの世界に収束させてしまう。また、ひねりの効いた怪盗モノ「誰が貴婦人を手に入れたか」もなかなか読み応えがある。

 前作に引き続き“カーデュラ”が主人公となる作品も載っているのだが、これ一作だけでは物足りない。この著者には短編のシリーズものといえるものがいくつかあるので、それのみで編纂してもらいたいところである。既に訳されたものも含めてくれてかまわないから、河出文庫(文庫というところを強調)あたりで出してくれないだろうか。


ダイアルAを回せ   Dial an Alibi and Other Stories (Jack Ritchie)

2007年09月 河出書房新社 <KAWADE MYSTERY>

<内容>
 「正義の味方」
 「政治の道は殺人へ」
 「いまから十分間」
 「動かぬ証拠」
 「フェアプレイ」
 「殺人はいかが?」
 「三階のクローゼット」
 「カーデュラと盗癖者」
 「カーデュラ野球場へ行く」
 「カーデュラと昨日消えた男」
 「未決陪審」
 「二十三個の茶色の紙袋」
 「殺し屋を探せ」
 「ダイアルAを回せ」
 「グリッグスビー文書」

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<感想>
 これでリッチーの日本オリジナル短編集も三作品目となるのだが、いまだに面白さが色あせないのだからたいしたものである。しかも、探偵カーデュラ・シリーズや、ターンバックル部長刑事シリーズといったお馴染みの作品も含まれているので、もはやリッチーの短編集は一種の季刊雑誌のような楽しみ方のできる作品になってしまっている。

 ノン・シリーズ作品では、ゆすりやの用心棒の様相を描いた「正義の味方」、政治家を付け狙うこととなった殺し屋のてん末を描いた「政治の道は殺人へ」、市長の命を狙おうとする爆弾魔の真意が気になる「いまから十分間」、互いの命を狙う夫婦のてん末を描く「フェアプレイ」、クローゼットに閉じ込められていた男の秘密を解き明かす「三階のクローゼット」とどれも読んで面白いと思える作品ばかりであった。

 後半のカーデュラとターンバックルのシリーズ作品もどれも粒ぞろい。本当に気楽に楽しんで読む事のできる作品集となっている。

 リッチーの本については、安定したブラックユーモアたっぷりの犯罪短編小説が楽しめる作品という位置づけにしてしまっても問題ないであろう。これからも“季刊リッチー”という感じで続編を待ち望みたいと思っているしだいである。


カーデュラ探偵社   The Cardula Detective Agensy (Jack Ritchie)

2010年09月 河出書房新社 河出文庫

<内容>
 「キッド・カーデュラ」
 「カーデュラ探偵社」
 「カーデュラ救助に行く」
 「カーデュラ盗癖者」
 「カーデュラ逆襲」
 「カーデュラ野球場へ行く」
 「カーデュラと鍵のかかった部屋」
 「カーデュラ昨日消えた男」

 「無痛抜歯法」
 「いい殺し屋を雇うなら」
 「くずかご」
 「さかさまの世界」
 「トニーのために歌おう」

<感想>
 ジャック・リッチーの短編のなかで異色のシリーズ作品と言ってもよい、“カーデュラ”ものが一冊の作品集として河出文庫により登場した。以前、「10ドルだって大金だ」の感想で、ぜひともカーデュラの作品を文庫化してほしいと書いていたら本当になってしまった。まさか、このHPを編集者の人が読んで・・・・・・ということは決してあるまい。

 期待通りの内容であったものの、ひとつ残念なことが。それは思ったよりもカーデュラの作品が少なかったこと。一冊まるまるカーデュラの作品だと思っていたのだが、シリーズ作品は8編しかなかったようだ。よって、残ったページは日本で未訳のリッチーの短編が収録。

 ということで、やや期待したものとは違ったので残念。それでもカーデュラものの全作品が一冊に収められているのは価値あることであろう。ユーモア・ミステリ作品として未読の方はぜひとも読んでもらいたい作品。それにしても、ちょっと読めばすぐにわかるのに、あえてカーデュラの正体がきちんと明かされていないところがほほえましい。


ジャック・リッチーのあの手この手   Jack Ritchie's Wonder Land (Jack Ritchie)

2013年11月 早川書房 ハヤカワミステリ1877

<内容>
謀之巻
 「儲けは山分け」
 「寝た子を起こすな」
 「ABC連続殺人事件」
 「もう一つのメッセージ」
 「学問の道」
 「マッコイ一等兵の南北戦争」
 「リヒテンシュタインの盗塁王」
迷之巻
 「下ですか?」
 「カメラは知っていた」
 「味を隠せ」
 「ジェミニ74号でのチェス・ゲーム」
戯之巻
 「金の卵」
 「子供のお手柄」
 「ビッグ・トニーの三人娘」
 「ポンコツから愛をこめて」
驚之巻
 「殺人境界線」
 「最初の客」
 「仇討ち」
 「保安官が歩いた日」
怪之巻
 「猿男」
 「三つ目の願いごと」
 「フレディー」
 「ダヴェンポート」

<感想>
 さぁ、ジャック・リッチーの新しい短編集も出たことだし、こちらから先に読むかと手に取ったら、なんと出版されたのは既に2013年。すぐに読むつもりが思いのほか積読となっていた。次の作品集はもう少し早めに読もうと猛省。

 読んでみると、ショートショート以上、短編未満というくらいの分量の作品がそろっている。23編掲載されているのだが、特に統一性はなく、よくぞここまで色々なジャンルのものを書き上げているなと感心させられる。しかも、それぞれの作品が良い出来なのである。この作品集では編者によって、5つに分類されているのだが、むしろよくこのように分類しきったなと、そちらに感心させられてしまった。

“謀之巻”では、ミステリっぽい作品が多く収められている。そのなかで、「寝た子を起こすな」から3編はシリーズもののよう。ただ、主人公の名前がはっきりと書かれていないので、あとがきを読むまではシリーズだというのがよくわからなかったのだが。どうやら、未解決事件に挑むシリーズ作のよう。
 それら以外の学資の争奪戦ともいえる「学問の道」や、野球小説となっている「リヒテンシュタインの盗塁王」が目を惹いた。

“迷の巻”では、「カメラが知っていた」が読み応えがある。銀行強盗について描いた作品なのだが、そこにタイトルの通り監視カメラによって真実が暴かれる。さらには、それだけで終わらないのがリッチー流。

“戯之巻”では、ギャングのボスから三人の娘を結婚させるように手配してくれと頼まれる男が奔走する様子を描いた「ビッグ・トニーの三人娘」が面白かった。ミステリというほどではないにしろ、小説として十分楽しめる。

“驚之巻”はそれぞれ味があって、どんでん返しを楽しむことができる作品がそろっている。「保安官が歩いた日」がなんとも脱力系という味わいがあり、楽しめた。

“怪之巻”では「猿男」というボクシング小説を楽しむことができる。しかも、恋愛小説にもなっていたりする。あと「ダヴェンポート」は、寝椅子のよう。人の名前のように思えてしまうのだが・・・・・・


ジャック・リッチーのびっくりパレード   Jack Ritchie's Wonder Land part2 (Jack Ritchie)

2016年01月 早川書房 ハヤカワミステリ1903

<内容>
PartT 1950年代
 「恋の季節」
 「パパにまかせろ」
 「村の独身献身隊」
 「ようこそ我が家へ」
 「夜の庭仕事」
PartU 1960年代
 「正当防衛」
 「無罪放免」
 「おいしいカネにお別れを」
 「戦場のピアニスト」
 「地球破滅押しボタン」
 「殺人光線だぞ」
PartV 1970年代
 「保安官は昼寝どき」
 「独房天国」
 「地球からの殺人者」
 「四人で一つ」
 「お母さんには内緒」
 「容疑者が多すぎる」
 「指の訓練」
 「名画明暗−カーデュラ探偵社調査ファイル」
 「帰ってきたブリジット」
 「夜の監視」
PartW 1980年代
 「見た目に騙されるな」
 「最後の旅」
 「リヒテンシュタインのゴルフ神童」
 「洞窟のインディアン」

<感想>
 ジャック・リッチーの未発表短編を集めた作品集、第2弾! 1983年に亡くなったジャック・リッチーであるが、書いた短編の総数は350を超えるようで、まだまだ未訳、もしくは埋もれた作品があるようだ。現に、“カーデュラ探偵社”シリーズの作品集に掲載されていない短編がまだあったりと、未だ見つけられていないシリーズものの作品があるかもしれない。

 この作品集では25編の作品がのっており、短編というよりもショートショートといってもよいような形式の短いものもある。短いゆえに印象に残る作品というものは、そう多くないのだが、個人的な好みとしては1950年代に書かれたノン・ジャンルといってもよさそうな短編がけっこう面白かったかなと。父親の奮闘を描く「パパにまかせろ」、何気に下世話な「村の独身献身隊」、銀行強盗の顛末を描く「ようこそ我が家へ」など。

 あと気になったのは、どうやらシリーズものであるらしい「リヒテンシュタインのゴルフ神童」。これは、なかなか良い作品というか、誰も傷つかない良い話が描かれており、楽しんで読むことができた。できれば、他のシリーズ作品も読んでみたいところである。


刑事コロンボ13の事件簿  黒衣のリハーサル   The Columbo Collection (William Link)

2010年 出版
2013年08月 論創社 論創海外ミステリ108

<内容>
 「緋色の判決」
 「失われた命」
 「ラモント大尉の撤退」
 「運命の銃弾」
 「父性の刃」
 「最後の一撃」
 「黒衣のリハーサル」
 「禁断の賭け」
 「暗殺者のレクイエム」
 「眠りの中の囁き」
 「歪んだ調性」
 「写真の告発」
 「まちがえたコロンボ」

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<感想>
 刑事コロンボが活躍するミステリ短編集。著者のウィリアム・リンク氏は、実際にテレビ版「刑事コロンボ」の脚本を担当していたという人。ゆえに、本書は直系のコロンボ作品集といえよう。冒頭にて、リンク氏が「刑事コロンボ」を手掛け、さらにこの作品集に着手することになった一連の顛末が描かれているので、こちらも必見。

 刑事コロンボといえば、言わずと知れた“倒叙ミステリ”。ようするに、先に犯人の正体がわかり、その犯人を徐々にコロンボが追い詰めていくというもの。最初の「緋色の判決」にて、いつものコロンボ調の一連のくだりが行われるものの、2作品目の「失われた命」では、少々趣向の異なる流れが用いられている。13もの作品が収められているので、それなりに工夫をこらしたものもちらほら。とはいえ、ほとんどの作品は一連のコロンボ調のものとなっている。

 多くの短編が集められているゆえに、十二分に刑事コロンボを堪能することができる。ただ、その反面作品数が多すぎて、いまいち堪能しきれない部分も出てしまう。個人的には短編13よりも、中編くらいのものを4編くらい集めてくれたほうがよかったかなと。どうも一つ一つの作品があっさりし過ぎている気がしてならなかった。それぞれの作品が、もっと長い作品になりえるような要素を十分に含んでいると感じられたのだが、そこは書いた人物が脚本家ゆえというところなのだろうか。




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