ラ行−レ  作家作品別 内容・感想

死の会計   Accounting for Murder (Emma Lathen)

1964年 出版
2005年02月 論創社 論創海外ミステリ11

<内容>
 コンピュータ販売会社ナショナル・キャルキュレイティング社は重大な危機に瀕していた。株主から依頼されたという立場を盾にして、ベテラン会計士のフォーティンブラスが乗り込んできたのである。彼が乗り込んできてからは会社は右往左往するばかり。そしてフォーティンブラスが社に対してなんらかの証拠を握ったと思われたとき、彼は何者かに殺害されてしまう。この件にいつの間にか巻き込まれる事になったスローン銀行の副頭取ジョン・パトナム・サッチャーが事件に挑む、本格企業ミステリー。

論創海外ミステリ 一覧へ

<感想>
 前書きによると、このエマ・レイサンという著者は二人の女性によるペンネームであるとのこと。そして本書の探偵役であるサッチャーが活躍する小説を20編以上も書き上げていると言うのだから、かなり期待して読む事となった。で、その結果はどうかと言えば・・・・・・・

 本書の内容は少々とっつきにくいものと感じられた。なぜかといえば、ミステリーはミステリーでも企業の会計などといった内幕を絡めた企業系ミステリーというものだからである。話は会社の経営の話から始められる。そして、そこの企業の会計に関する話が始まり、その末にようやく殺人事件が起こる。しかし、殺人事件が起こるものの、その事件自体の捜査ではなく、あくまでも企業の裏側というものをあぶりだしていくスタイルをとっており、その上で犯人の姿が浮き彫りにされると言うものであった。

 ようするにミステリーというよりは、スパイものの方が近いかと思えるのだが、そのスパイものであると言ってもアクションシーンのないスパイものというように感じられた。

 本書の位置付けとしては、女性二人による共同執筆によってエマ・レイサン名義で物語が描かれ、しかも内容は企業ミステリーという他にはないようなミステリーが描かれていた、というようなところであろう。なにはともあれ、ミステリー史の中における貴重な一冊と言う事で。


死の信託   Banking on Death (Emma Lathen)

1961年 出版
2005年11月 論創社 論創海外ミステリ31

<内容>
 スローン・ギャランティー信託銀行の副頭取ジョン・サッチャーの元に突如、シュナイダーという男が乗り込んでくる。その男はシュナイダー信託基金というもののことで相談に来たというのだ。シュナイダー家の当主が死に掛けていて、その死後にシュナイダー家の相続人にそれぞれ遺産が分配されるのだが、何年も音沙汰が不明のものがいるのだという。その人物をサッチャーの銀行に見つけてもらいたいというのである。顧客からの依頼をサッチャーは引き受けることとなるのだが、行方不明の相続人を調べてみると、最近事件によって死亡したということがわかり・・・・・・

論創海外ミステリ 一覧へ

<感想>
 面白さと、つまらなさ、半々を兼ねそろえた作品という気がした。

 事件が起こってから、普通のミステリ作品であれば、誰が容疑者であるかとか、その容疑者のアリバイはとかを捜査していくことになるのであるが、この作品ではその捜査の部分において金融関係の話があれこれと語られることとなる。まぁ、それこそが作風であるので仕方がないといえば仕方がないと思われるのであるが、その部分が事件にさほど直結しているとは思えないので退屈にしか感じられないのである。確かに、動機という面においては密接に関係してくるのかもしれないが、犯人の特定に関してはあまり関係がないように思えた。

 この金融関係の部分を面白く読むことができるか、できないかで本書に対する感想というのはだいぶ変わってくるのではないだろうか。

 ただ、最後の犯人を確定する部分と、犯人が確定された後の物語の展開についてはよくできていたと思われた。犯人確定後に物語り全体について考えてみると、なるほどと思えることもあり、また、最後のシーンに関してはなかなかうまく話を締めたなと感心させられる。

 というわけで、ラストでは本書に対してそれなりに感心させられたので、最後まで読むことによってこの作品に対する印象はがらりと変わることとなった。良い部分、悪い部分があると思えるのだが、金融関係の話をもっとわかりやすく書いてくれればもっと一般受けすると思えるのだが。


もしも誰かを殺すなら   If I Should Murder (Patrick Laing)   5.5点

1945年 出版
2023年12月 論創社 論創海外ミステリ307

<内容>
 世間を騒がせた殺人事件において、死刑を求刑した陪審員たち。裁判後、刑を受けた男の妻が陪審員たちに呪いの言葉を放った。その後、陪審員たちは、度々集まって、再会の集いを開いていた。裁判から5年後の今回は、人里離れた山荘にて集まり、そこで集まった者同士語り合うこととなった。その集いに招かれた盲目の犯罪心理学者パトリック・レイン。彼らが山荘に集まり、不穏な殺人に関する話をしだし、そうしたなか本当に殺人事件が起きることに。さらに、雪で閉ざされた山荘のなかで、かつての陪審員たちが一人、また一人と。パトリック・レインはなんとか犯人を突き止めようとするのであったが・・・・・・

論創海外ミステリ 一覧へ

<感想>
 著者のパトリック・レインという名前であるが、どこかで聞いたような感じがするのだが、実は初めて邦訳される作家。パトリック・レイン名義で6作のシリーズ小説を書いているそうだが、この著者の別名義は論創海外ミステリではお馴染みとなりつつあるアメリア・レイノルズ・ロング。ロングは“貸本系B級ミステリの女王”と褒められているのか、揶揄されているのかわからないような形で呼ばれているのだが、実際に“B級”という呼び名がふさわしい感じがする。

 そして本書についてだが、雪山の山荘で連続殺人が起きる事件を描いたものであるのだが、まぁ、言ってしまえば雰囲気だけはそれっぽいと。緻密な本格ミステリというよりは、サスペンス小説風に捉えられるような出来という感じ。ただし、あくまでも本格ミステリ風には描かれているのだが、ここで起きる連続殺人が怒濤のような展開であり、緻密というには程遠く、粗が目立つようなできとなっている。

 もうひとつ付け加えると、シリーズ探偵であり、しかも語り手でもあるパトリック・レインが、盲目という設定。そんな難易度が高そうな設定の上で、そんな繊細な内容の作品が描けるのかなと感じてしまうのだが、前述したとおり、結局のところ荒々しいミステリ作品という感じになってしまっている。ちょっと設定がてんこ盛りすぎたか。

 サスペンス小説としては十分楽しめる出来・・・・・・といいたいところだが、登場人物らの倫理観にかけるところや、設定上嫌な雰囲気が満載ということもあり、あまり楽しめる作風ではなかったかなと。そんな雰囲気ゆえに、これまで邦訳されなかったという面もあるのかもしれない。そういった嫌悪感のようなものを除けば、それなりに楽しめるミステリには仕立て上げられている。


ローズマリーの赤ちゃん   Rosemary's Baby (Ira Levin)

1967年 出版
1972年01月 早川書房 ハヤカワ文庫NV

<内容>
 俳優のガイ・ウッドハウスと新妻のローズマリーはかねてから住みたいと願っていたアパートへと引っ越すこととなった。二人の友人であるハッチからは、その建物は曰く付きなので止めた方がいいと言われたのだったが、二人は新居を気に入っていた。しかし、その建物に住んでから奇妙な出来事が起きたり、妙に親しげな隣人たちが出入りするようになったりと不穏な雰囲気が漂い始める。やがて二人は子供を授かることとなり、ローズマリーは身ごもるのであったが・・・・・・

<感想>
 不気味なものがひたひたと、徐々にローズマリーに忍び寄ってくる雰囲気がたまらない。さらには、いつのまにか不穏な者達がローズマリーを取り囲み、身動きがとれない状況に陥ってしまうという絶望感がものすごい。

 直接的な陰惨さはさほどではないのだが、迫りくる絶望感が見事に表されている。ストーリーとしては単純とさえいえるのだが、日常から絶望へと変わりゆく世界への吸引力が強く読み手を捕えて離さない小説。さすがはホラー小説の金字塔。


ミスター・ディアボロ   Mr. Diabolo (Anthony Lejeune)

1960年 出版
2009年08月 扶桑社 扶桑社文庫

<内容>
 ロンドンの西洋学研究学部の建物には、とある言い伝えがあった。ミスター・ディアボロという謎の怪人があらわれたとき、何らかの事件が起こると。
 そして、そこで学会が開催されたとき、参加者達はミスター・ディアボロらしき怪しい人物を目撃する。彼らは怪人物の正体を暴こうと、その後を追うのであるが、どこへも逃げることのできない場所からミスター・ディアボロは忽然と姿を消してしまう。その後、ひとりの研究員の死体が見つかり、具体的な事件へと発展することに!

<感想>
 かなり期待をして読んだのだが、思ったよりも普通のミステリ作品であったなと。

 面白くないことは決してなく、著者のミステリ作品に対する凝りようを十分に垣間見ることができる。ただ、その凝りかたが少々わかりづらいというのが欠点か。真相が明らかになったときに、物語のなかにさまざまな伏線を張っていたことがわかるのだが、その伏線がわかりにくい。後からもう一度読み返したときに、ようやくそれらがわかるというもの。

 また、真犯人が明らかになったときも、それほどのサプライズはなかった。というのも、主人公などの主要人物はきっちりと描かれていたと思えるのだが、その他の登場人物については、さほど印象が残らないような描き方であるので、容疑者とか真犯人とかいった者を頭に浮かべにくい内容であった。

 とはいえ、過去にミステリに愛情を持って作品描いたアントニー・レジューンという作者がいたことを知ることができただけでも収穫と言えよう。文庫で入手しやすい作品であるので、海外本格ミステリファンは読み逃しのないように。


フェンシング・マエストロ   ElMmaestro de Esgrima (Arturo Perez-Reverte)   6点

1988年 出版
2022年11月 論創社 論創海外ミステリ270

<内容>
 1886年、スペインはマドリード。50歳を超えるフェンシングの師範、ハイメ・アスタルローアの元にひとりの美女が現れる。その女、アデーラは、ハイメに剣術を教えてもらいたいという。見事な剣術の腕を持つアデーラに、ハイメはさらなる剣術の技術を授けてゆく。そうしたなか、しがない剣術師範でしかないハイメは少しずつ国家にまつわる陰謀へとからめとられてゆくこととなり・・・・・・

論創海外ミステリ 一覧へ

<感想>
 一応、売りとなっているのはハードボイルド作家の高城高氏が翻訳したということのよう。その訳された作品は古典作品ではなく、比較的新しい1988年に出版されたもの。著者のレベルテ氏は2022年現在、存命(71歳)で、まだ作家として活躍されているようである。

 作品の舞台は1886年のスペインであり、そこでの活劇が描かれている。ただし、活劇と言ってもそこまで華々しいものではなく、タイトルの通り老境に達したフェンシングの達人が主人公の物語。主人公のハイメは、フェンシングの指導を続けながらも、武術としてのフェンシングが時代遅れのものとなっていることを感じつつ、己の矜持のみを貫いて生きてゆくことを考えながら、日々細々と暮らしている。

 そんな彼の元に女性の剣士が現れ、彼女は弟子入りを志願する。ただ、その謎めいた女は何も語らず、日々剣の腕だけを磨いていく。そんな女に惹かれながらも、ハイメは己の想いを押し殺し、剣の技術のみを教えていく。その後、その女弟子が去って行った後に、ハイメは国家の陰謀に関わる事件に巻き込まれることとなる。

 序盤はあまり面白いとも言えないのだが、後半になって事件が起き、ハイメが陰謀に巻き込まれるようになってからは俄然話は面白くなる。そこからは、一気に物語が動き出し、スピーディーに展開してゆき、そして最後には、フェンシングを背景にした物語らしく、対決が行われることとなる。

 それなりに面白かったかなという感じ。活劇あり、事件あり、謎ありと、読みごたえは十分ある。ただ、300ページ強の作品はあるのだが、ヘッダーの幅をあけて行数をつめた形になっているため、普通の構成であれば250ぺーじくらいに縮まったのではないかと思われる。分量と値段が正直言って合わないなという感じ。文庫で出版してもらえれば十分な作品と言う印象。




作品一覧に戻る

著者一覧に戻る

Top へ戻る