ラ行−ロ  作家作品別 内容・感想

見えない凶器   Invisible Weapons (John Rhode)   6点

1938年 出版
1996年06月 国書刊行会 世界探偵小説全集7

<内容>
 帰宅早々、予期せぬ伯父の来訪をきかされたソーンバラ医師は、洗面室に入った伯父に声をかけたが返事はなかった。ただならぬ気配に胸騒ぎを感じた医師が、居合わせていた警官とともにドアを破ると、伯父は頭部を打ち割られ倒れていた! 室内に凶器らしきものはなく、ひとつしかない窓は環視のもとにあった。密室状況下、犯人は如何にして出入りしたのか? また如何なる凶器が用いられたのか? 犯行手段が解明できないまま事件は迷宮入りと見えたが・・・・・・。科学者探偵プリーストリー博士が冷徹に計算された完全犯罪に挑む。

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<感想>
 解説で「ロードはつまらない、退屈だの代名詞的存在であった・・・・・・」云々という文章が載っていたが、今作を読むとなるほど退屈だと思ってしまう。

 事件自体の不可能性という部分では興味がひかれるのだが、その後の展開を読み通すのが実に苦しい。確かに最後まで読み通し、全体像を見渡すことによって凝った内容であることはわかる(ただし殺害方法については納得できなかったが)。

 これ一冊しか読んでいないのに、ロードを評するのもなんだが、この一冊に限れば「退屈ではあるが、愚作ではなく良作である」。まさに古典的本格といえようか。


ハーレー街の死   Death in Harley Street (John Rhode)   6点

1946年 出版
2007年03月 論創社 論創海外ミステリ63

<内容>
 ロンドンのハーレー街にある診療所にて、リチャード・モーズリーという医師が変死体で発見された。死因はストリキニーネの打ちすぎによるもの。一見、自殺と見られるのだが、モーズリー医師は自殺するような人物ではないと関係者は皆証言する。では、事故死なのかと言うと、大変慎重な人物であったために、薬の分量を取り違えるとは考えられないという。検死審問では事故死という事になったのだが、プリーストリー博士はこの事件について事故でも自殺でも他殺でもない“第四の可能性”というものを示唆する。

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<感想>
 いやー、ものすごい退屈な内容であった。と、だけ書くと誤解を生じるであろうが、物語自体は別に悪いというようなものではなかったと思う。ストリキニーネの打ちすぎで死亡した医師の事件を巡るという、なかなか興味深い内容である。しかし、事件の捜査や解決に至るまでの展開がとにかく退屈なのである。登場人物たちもごく平凡な人ばかりであり、また、途中の捜査内容も的が外れているように思われた。そんなこんなで、中盤を読んでいる間は先へ進むのが、かなり苦痛であった。

 ただし、そこを乗り越えて終盤へと進む事ができれば、ラストは一気に読みふける事ができる。

 プリーストリー博士が示唆する、第四の可能性というものがいったいどういうものなのか。本書では“如何にして”ということよりも、“誰が”“何故”ということに焦点を当てて物語が進められていたように思える。その操作方法については、いささか疑問の余地があるのだが、最終的に明らかにされる秘められた物語というものは、なかなか凝ったものとなっている。さらに、殺人方法に関しては一風変わった心理的なトリックが用いられている。これは必見の価値があろう。

 ということで、読みにくい作品ではあるが、最後まで読むことができれば何かが必ず残る作品となっている。時間があるときに挑戦してみてはいかがか。


ラリーレースの惨劇   The Motor Rally Mystery (John Rhode)   5.5点

1933年 出版
2015年10月 論創社 論創海外ミステリ157

<内容>
 ラリーレースに参加していたプリーストリー博士の秘書のハロルドとその友人。彼らはそのレース中に事故にあった車を見つける。調べてみると、それはラリーレースに参加していた者であり、乗車していた二人は死亡していた。事故として処理されかけるところであったが、ハロルドは事件をプリーストリー博士に相談する。すると、博士は事件を殺人と断定し、調べ始め・・・・・・

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<感想>
 退屈な作品を描く作家と揶揄されることもあるジョン・ロードであるが、御多分に漏れず、この作品も少々微妙。ラリーレースという派手な背景が用いられる割には、どうして地道な展開となってしまうかが不思議なところ。せっかくこのような背景を用いているのだから、もっとラリーレースというものについて詳細に描いてもよかったのではないかと思えてならない。

 ここに登場する探偵はプリーストリー博士で、フリーマン描くソーンダイク博士を思わせるような人物。この博士が事故のように思える事件を細かく掘り下げ、殺人事件であることを証明してゆく。この博士の行動についてはわからなくもないのだが、なんとなくわかりきったことをいちいち深く掘り下げていると感じられなくもない。

 また、最終的には派手な展開で事件解決がなされるのであるが、そうするとそれまでの事細かい調査はなんだったのかと思われてならない。設定といい、事件の検証といい、もっとうまい描きようがあったのではないだろうかと感じてしまうものの、これはこれで著者の“味”なんだろうなということは理解できなくもない。まぁ、古き良き時代のB級の本格ミステリということで。


プレード街の殺人   The Murders in Praed Street (John Rhode)   5点

1928年 出版
1956年03月 早川書房 ハヤカワミステリ244

<内容>
 ロンドン市内のプレード街にて、事件が起こる。青果店の店主が何者かに呼び出されたうえ、路上で殺害されたのだ。次に、パン屋を営む老人が死に、さらにプレード街近辺にて次々と殺人事件が起こることに! 被害者の元にはカードが置かれており、それが一人目の被害者からT、Uと順番に数字が付けられていた。いったい何者が事件を起こしているのか? そしてその目的は?

<感想>
 ちょっと古めの作品を読んでみたのだが、あまりにも気になる点が多すぎて・・・・・・

 内容は、ロンドンのプレード街で起こる連続殺人事件について描いた話。ただ、これがロンドンの話というよりは、何故かアジアの片田舎で起きている事件のように感じられてしったのは私だけだろうか? 読んでいてちょっと不思議な感じがした。また、この事件が切り裂きジャックを超えるくらいの連続殺人事件であるわりには、何故か市内がパニックに陥ったりしないという、のほほんとした状況。

 この作品のメインたるところは、被害者たちの関係性についてである。何の関係もなさそうな人々が無差別に殺害されているように思える事件。そのミッシングリンクは? というものであるのだが、これって、どう考えても当事者だったら気づくはず。むしろ、何でそこまで気づかないかが不思議なところ。

 そうして後半では探偵役のプリーストレイ博士(後の作品ではプリーストリー博士と表記)の御出馬となるのであるが、この探偵、シリーズ探偵らしい割には、この作品ではあまりそれが感じられなかったような。そして、だいたい結末もはっきりしているなかで、最後のほうはだらだらと物語が続けられているという感じ。なんか、全体的にあまりスッキリしなかったという印象。

 また、何故ジョン・ロードの作品でこれが一番最初に訳されたのだろうと思われるのだが、意外とこの作品こそが著者らしさを表している作品なのかもしれない(ロードは「つまらない、退屈だ」の代名詞だなどといわれていた)。


代診医の死   Dr. Goodweed's Locum (john Rhode)   6.5点

1951年 出版
2017年07月 論創社 論創海外ミステリ191

<内容>
 田舎町で医者を営むアラン・グッドウッドは毎年長期休暇をとることとしており、その際には代診医を雇い、業務を行ってもらうこととしていた。代診医の条件は能力水準が高く、独身男性としており、今回はスティーヴン・ソーンヒルという医師が代診医として雇われることとなった。ソーンヒルはグッドウッド医師が休暇に旅立つとすぐに、診療・往診の勤務を営むことに。そうしたなか、患者のひとりで資産家の男性トム・ウィルスデンの状態が悪いと判断し、警告を与える。しかし、その警告もむなしくウィルスデンは次の日、急に体調を崩し死亡してしまう。そんな事件があった後、往診にでかけたソーンヒル医師が翌日になっても帰ってこないという事が明らかとなる。そんなとき、身元不明の焼死体が発見されたという知らせが・・・・・・

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 今回のジョン・ロードの作品は、なかなか難易度の高い内容。田舎町に来た代診医が死亡したと思われるのだが、その代診医は町に来たばかりで殺害されるどころか、恨みをかわれる理由さえない。そんな彼が何故、殺害されなければならなかったのか。それとも・・・・・・?

 物語は、裕福な田舎町の医者が代診医を雇い、旅行に出かける。その代診医がひとりの資産家の死を看取ることとなり、その後代診医が失踪する。そうして遠くはなれば場所で燃え尽きた死体が発見されることとなる。この事件をジミー・ワグホーン警視から聞いたプリーストリー博士が謎に挑むことに。

 とにかく事件の関連性が見えてこない。怪しげな人物の存在が浮き彫りになるものの、その正体は不明。そして、何故死体を遠くへと運ばなければならなかったのか? 何故代診医が殺害されなければならないのか? 一連の事件において得をするものがいるのか? といったことが焦点となる。

 ジョン・ロードの作品というと退屈なものが多いのであるが、本書も中盤はやや・・・・・・という感じ。取り付く島もない事件をプリーストリー博士らがあれやこれやと検討するのはよいのだが、もうちょっと工夫してもらえれば、もっと面白い作品になったのではないかと。それでも従来のロードの作品と比べれば面白いほうか。

 そうして、最後の浮かび上がる真相はというと・・・・・・これがなかなかのもの。思いもよらない計画殺人が浮かび上がることになり驚かされること間違いなし。できればもうちょっと・・・・・・と、思う部分も無きにしも非ずではあるが、おおむねよく出来たミステリ作品であるかと思われる。何気に今年出版された本格ミステリのなかでは今のところ随一といってもよいくらいのできかも(あくまでも今年の水準で)。


クラヴァートンの謎   The Claverton Mystery (John Rhode)   6点

1933年 出版
2019年02月 論創社 論創海外ミステリ228

<内容>
 近年疎遠になっていた友人、ジョン・クラヴァートンと会うこととなったプリーストリー博士。久しぶりに会ってみると、その友人はひとりぐらしであったはずなのだが、看護のために霊媒師をしている妹と看護師であるその娘(クラヴァートンの姪)と共に暮らしていた。さらには、度々家に出入りするようになったという甥のダーンフォードの姿も見られた。すっかり体調を崩した様子のクラヴァートンであったが、その日は詳しい話もできず、再び別の日に会うことを約束して別れた。そして後日訪ねてみると、なんとクラヴァートンが亡くなったと! これは何か毒を盛られたのではと疑うプリーストリー博士であったが、検死の結果毒物らしきものは見当たらず、病死と判断された。その後、クラヴァートンの遺言が公開され、さらなる混迷をまねく事態が・・・・・・

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 何気に度々紹介されるジョン・ロードの作品。たまに思いもよらぬ良い作品が紹介されたりするので意外と見逃せない。今作ではシリーズ探偵とはいえ、今まで紹介された作品のなかでは若干脇役っぽかったプリーストリー博士が出ずっぱりとなっている。

 プリーストリー博士の旧友が死亡するのであるが、その死の状態が一見怪しげに見えたものの、検死の結果病死と判断される。その検死にはプリーストリー博士も立ち会ったものの、不審なものは見当たらなかった。果たしてこれは本当に病死なのか? さらには、その死亡した男が遺した遺書によりさらなる波乱が幕を開ける。誰だかわからない者に多額の遺産が遺されることとなったのだが、その理由は? そしてその後の事件の行方は!? というような感じで話が進められてゆく。

 一見、単なる遺産相続を巡る物語という気もするのだが、その遺産に関しても基本的には行き先がしっかりと決められており、それ以上の波乱は起きないように思える。ではいったい、その後どこが焦点となるのかということなのだが、そこから霊媒師のパフォーマンスによるとある指摘やら、殺人未遂事件などが起き、プリーストリー博士を益々悩ませていく。

 ジョン・ロードの作品と言えば、退屈の代名詞などと言われているようだが、この作品は全体を通しても退屈を感じさせない内容となっている(ページ数も短めであるし)。メインの死亡案件が病死っぽいとみなされるものなので、そこがどこか煮え切らないものはあるものの、先の展開に興味を湧きたてさせながら読むことができる作品である。最後の一幕もプリーストリー博士による力技による見せ場が設けられ、楽しめる内容となっている。それなりにうまく出来た佳作というような感じのミステリ。


デイヴィッドスン事件   The Davidson Case (John Rhode)   6.5点

1929年 出版
2022年05月 論創社 論創海外ミステリ282

<内容>
 デイヴィッドスン社の嫌われ者の社長、ヘクター・デイヴィッドスンが殺害された。彼は、二人がかりでなければ運べないケースを持って、電車に乗り、酒を飲みながら自分の屋敷へ向かっていた。駅から降りたのち、迎えが来ないと怒り、有蓋トラックを雇い、その荷台に重い荷物と共に乗り込んだ。目的地に到着した後、運転手が荷台を見ると、大きな荷物は消え失せ、ヘクターの死体のみが残されていた。この不可解な事件をプリーストリー博士は、どのように解き明かすのか?

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 度々、論創海外ミステリで翻訳されているジョン・ロードの作品であるが、意外と良作が残っていることに驚かされる。今作もまた、なかなか興味深い内容のミステリとなっている。

 本書では、トラックの荷台に荷物と共に乗った男が、トラックの到着時に死体となって発見され、大きな荷物が消え失せているという変わった事件が描かれている。限られた登場人物、少ない容疑者のなかで、どのようにして話が進められてゆくのかと思いきや、作品なかごろで、容疑者が特定されることに。ただ、残りのページ数を考えて、このまま事件が終わるはずがないと思っていると、やはり後半に事件をひっくり返す転換がなされていた。

 なんというか、あれこれ話してしまうとネタバレになってしまうので、感想が書きにくいのだが、ある種の巧妙な罠が図られた作品となっている。事件の構図自体はわかりやすいともいえるのだが、それをうまく回避するような形で描いて、二重構造のような形で描いているところがポイントと言えよう。これは書き方の妙であると言える内容。

“退屈な作品を書く作家”の代名詞とも言われるジョン・ロードであるが、実はそんなことはなく、紹介されてみれば意外と良い作品を書いていることがわかる。多作の作家であったようで、まだまだ未訳の作品があると思われるので、今後も思わぬ良作が発掘される可能性もありそうで、楽しみである。


骨董屋探偵の事件簿   The Dream Detective (Sax Rohmer)

1913-14年 出版
2013年05月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 「ギリシャの間の悲劇」
 「アヌビスの陶片」
 「十字軍の斧」
 「象牙の彫像」
 「ブルー・ラージャ」
 「囁くポプラ」
 「ト短調の和音」
 「頭のないミイラ」
 「グレンジ館の呪い」
 「イシスのヴェール」

<感想>
 サックス・ローマーによる、骨董屋の主人モリス・クロウが探偵として活躍するシリーズ。著者のローマーが描く作品では、フーマンチュー博士というシリーズキャラクターが有名のよう。

 主人公となるモリス・クロウなる人物であるが、どうにもうさんくさい人物。イメージとしては、エルキュール・ポワロに近いような感じがする。ただし、外見は全く似ていなく、こちらはやや貧相で古風な老人と言ったところ。クロウに心酔する語り手と、反対にクロウのことを胡散臭く思っている刑事グリムズビーがレギュラーキャラクターとして登場している。また、クロウの娘で謎めいた美女のイシスも忘れてはならない。

 クロウが用いる探偵術は、やや胡散臭く、犯罪の痕跡を霊的に読み取り写真に写すというもの。探偵としての行為は微妙なものの、解決する事件そのものは現実のものとしてきっちりと解決されている。最初の「ギリシャの間の悲劇」が、一番探偵小説風であろうか。いわゆる不可能犯罪と、幽霊の存在を感じさせる事件を解き明かしている。

 クロウを胡散臭く感じさせるのは2作品目の「アヌビスの陶片」のせいかもしれない。内容を語ると、面白さがそこねてしまうので、実際に読んでもらいたい。

 個人的にはマンネリ化してきた最近のサイモン・アークよりも面白いと感じられた。コミカルに感じられるシリーズ・キャラクターが色を添えてくれているから飽きがこなかったのかもしれない。ただ、残念ながらモリス・クロウが活躍するシリーズはここに掲載されている作品のみのようで続きは読めないようである。


赤い右手   The Red Right Hand (Joel Townsley Rogers)   7点

1945年 出版
1997年04月 国書刊行会 世界探偵小説全集24
2014年11月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 実業家イニス・セントエーメとエリナ・ダリーは婚約し、車でハネムーン旅行に出発した。しかし、途中でヒッチハイカーの“ドク”と名乗る印象的な容貌の男を乗せたことから悲劇が始まる。その後、“ドク”と思われる者が、ぐったりした様子のセントエーメを助手席に乗せ、無謀な運転をしている様子がいたるところで目撃される。ついには、村人の一人を車で引き殺し、さらにはセントエーメが死体で発見されることに! 事件が起こった後のエリナを車に乗せることとなったリドル医師は、偶然この事件に遭遇する。リドルは、自らの手で連続殺人事件の真相に迫ろうとするのであったが・・・・・・

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<感想>
 世界探偵小説全集で読んだものの、感想を書いていなかったので、創元推理文庫で出たのを機に再読。当時、結構話題になった怪作。

 おぼろげにしか覚えていなかったのだが、改めて読んでみるとなかなかすごい作品であると再認識させられた。ただ、これ、初読の場合、途中までは何が何だかわかりづらい話だろうなぁという感じ。基本的には、正体不明の殺人鬼に襲われたハネムーン夫婦の様子を描いているのだが、フラッシュバックの連発で、順序バラバラに語られてゆく。ラスト近くなって、ようやく全貌がわかるという始末。

 さらに言えば、語り手だか何だかよくわからない医師が最初から出てきており、謎を解こうとするものの、これがまたやたらと胡散臭い。そうして話が語られている場面を読んでいっても、ミステリというよりは、ホラーを思わせるような感触で不安をあおるような内容。まさか、“ジキル博士とハイド氏”のような展開が待ち受けるのか!?

 そんな感じで話が進んでいくのだが、最後になって突如謎の全貌が明かされてゆく。それを読み進めていくと、なんと怪人物によるホラー的な話かと思えたものが、実は計画された殺人事件であったということが明らかにされるのである。しかも、意外や意外、きっちりと伏線をはったミステリ小説として完成されていたことを知ることになる。

 いや、改めてこの怪作の良さを思い知らされた。本格ミステリを読み慣れた人であっても、感心させられるのではなかろうか。行き当たりばったりな連続殺人劇が、計画的なものとして明らかになっていく様は圧巻。


恐ろしく奇妙な夜   Night of Horror and other stories (Joel Townsley Rogers)   6.5点

2023年01月 国書刊行会 <奇想天外の本棚>

<内容>
 「人形は死を告げる」
 「つなわたりの密室」
 「殺人者」
 「殺しの時間」
 「わたしはふたつの死に憑かれ」
 「恐ろしく奇妙な夜」

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<感想>
「赤い右手」で一躍評判になった(といってもだいぶ前のことであるが)ジョエル・タウンズリー・ロジャーズの短編作品集。「つなわたりの密室」は、二階堂黎人氏編集の「密室殺人コレクション」にも掲載されていて、読んだことのあるはずなのだが、全く覚えていなかった。

 全体的にミステリとして面白い。ただ、読みにくい。その読みにくさは、ミステリ上の効果を狙ってということもあるかもしれないが、それでも読みにくいと言わざるを得ない。その読みにくさを我慢して読んでいけば、それぞれの物語のラストには驚愕の真相が待ち受けている。

 どの作品もしっかりと、それまで感じてきた感覚をひっくり返すような結末が待ち受けていて読み応えがあった。一見怪しそうな者以外に真犯人など存在しそうもないように見えて、最後の最後でしっかりと真犯人の存在があらわになるところには感心させられた。

 最後の「恐ろしく奇妙な夜」のみ、SFホラーのような感じの内容になっている。わざわざここに掲載しなくてもよさそうな作品であると思えるのだが、表題作になっているということは、これこそ編者のこだわりの作品と言うことであるのかもしれない。


「人形は死を告げる」 戦争から戻ってきた男であったが、家に妻の姿はなく、妻は旅行に出ていたようで・・・・・・
「つなわたりの密室」 衆人環視のなか、犯人はどこから入り、どこから出ていったのか!?
「殺人者」 妻を殺害された男。このままの状況だと自分が犯人とされそうななか、そこに保安官補が通りかかり・・・・・・
「殺しの時間」 身の回りの出来事を設定として使い、犯罪小説を書いた男の作品が編集者に評価され・・・・・・
「わたしはふたつの死に憑かれ」 未亡人が事実をもとに書いた小説を読んだ脚本家は、それが彼が過去に体験した話であることを知り・・・・・・
「恐ろしく奇妙な夜」 未知の怪物が世界を、そしてとある一家の家を侵食しつつあり・・・・・・


止まった時計   The Red Right Hand (Joel Townsley Rogers)   5.5点

1958年 出版
2024年09月 国書刊行会 ジョエル・タウンズリー・ロジャーズ・コレクション(第1回配本)

<内容>
 元有名女優で資産家のニーナ・ワンドレイは脚本家志望のクロード・スロークと結婚する。そのニーナが家で襲われ、死の恐怖を迎えることとなる。彼女は何故、命を襲われることとなったのか? 彼女の過去が明らかになり、その過去が現在に追いつき、彼女の元夫たちが一同に介したときに、とある計画が密かに遂行されてゆき・・・・・・

<感想>
 日本では「赤い右手」で有名なジョエル・タウンズリー・ロジャーズの作品が国書刊行会から“コレクション”として配本されることとなった。1年に1冊くらいのペースで、3冊刊行予定となるらしい。長編作品は全部で4作品あるようなので、「赤い右手」を含めて、この“コレクション”で全てが翻訳される予定とのこと。

 それで本書の内容なのだが・・・・・・読みづらい、の一言。とにかく構成がいまいちであったなと。これはひょっとして処女作? かと思ったのだが、あとがきによれば、長編のなかでは一番最後に書かれた作品とのこと。それを、なんでこんな構成にしてしまったのかと不思議でならない。

 読んでいて、余計に思える挿話が多すぎると感じられた。ニーナ・ワンドレイの過去が一通り語られたかと思いきや、その後彼女に関わった者達の話が、さらに延々と語られることに。全体的に場面転換がはっきりとなされていなくて、それで過去の色々な話が語られてゆくのでややこしい。そして、それら挿話で出てくる人々が重要でなさそうな人ばかりというのも難点。

 最後のほうに来て、ややスピィーディーで興味を惹かれる展開になったと思いきや、そこでもまた過去の挿話が入ってきてと、自ら面白さを消してしまうような構成が最後まで続いている。一応、ストーリーを整理してみれば、面白そうな要素は詰め込まれているのだが、とにかく書き方が邪魔をしていると思えてならなかった。著者が意図的に行っているというのであれば、やや奇をてらい過ぎたとしか言いようがない。


死の相続   Murder on the Way! (Theodore Roscoe)

1935年 出版
2006年10月 原書房 ヴィンテージ・ミステリ

<内容>
 パトリシア・デイルのもとに突然ひとりの弁護士がやってくる。なんとハイチに住む疎遠にしていたパトリシアの親戚が亡くなり、彼女は遺産相続人のひとりになっているというのだ。乗り気のしないパトリシアであったが、恋人の画家であるカーターズホールの強い勧めもあり、ふたりで弁護士と共にハイチへと出向く事に。一癖も二癖もありそうなさまざまな人種の相続人七名が集められ、異様な内容の遺言状が読み上げられる。そして、その時点からひとりまたひとりと相続人たちが次々と殺害されてゆき・・・・・・

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<感想>
 これまたとんでもない作品が埋もれていたものだ。タイトルと雰囲気からして正統派の本格ミステリかと思い込んでいたのだが、とんでもない大間違い。なにせ7人の相続人全員が集まったときには、山田風太郎忍法帖のような闘いでも始まるのかという雰囲気。そして一同が集められたのを待ち構えていたように一人、また一人と殺害されてゆく。

 本書の舞台はゾンビやヴードゥーで有名なハイチ。そんな背景の国で事件が起きるのだが、そこに死者の復活が一部で信じられていたり、国の内乱もからめられたりと、かなり奇妙な設定の中で話が展開してゆく。独特の暗い雰囲気の中で事件が起きながらも不可能殺人事件と呼んでいいのか、超越的なものが関わっているのか、その背景の生で読んでいるものは惑わされる事になる。

 しかし、最終的には驚愕の(ちょっと大げさかも)事実と共に起こった事件の数々がきちんと解明されてゆく。速い展開で事件がどんどん起こるせいか、あまり精密的なものを問うようなミステリではなかったかと思える。しかし、変わった雰囲気と転がるように事件が展開されながらも、最後にきちんと着地点を設け、きっちりと締めているところは見事といえよう。ミステリとして評価すると高得点とはいえないのだが、ひとつの作品としては稀有で面白い作品であった。


ジョン・ブラウンの死体   John Brown's Body (E.C.R. Lorac)   5点

1938年 出版
1997年02月 国書刊行会 世界探偵小説全集18

<内容>
 ある冬の夜、人気のない崖地で野宿していた浮浪者ジョン・ブラウンは、大きな袋を運ぶ怪しい男に出会った。そして翌朝、120マイル離れた街道で、重傷を負い、意識を失ったブラウンが発見された。瀕死の浮浪者の遺した奇妙な話に興味を持ったマクドナルド主任警部が、休暇を利用して調査に乗り出すや、事件はたちまち複雑な様相を見せ始めた。作家の失踪、事故に見せかけた殺人未遂、袋詰めの死体・・・・・・イングランド西部の荒涼たる自然を背景に展開される奇怪な事件。

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<感想>
 人里離れたところに一人住む孤独な作家への盗作の疑い。奇妙な場所で死んでいた、明らかに事件に巻き込まれたかと思う浮浪者。彼らを追う編集者と警部。廃屋にひとり隠れていた謎の女。そして暴かれる袋詰の死体。

 冒険劇と共に巻き起こる事件と提示される謎。それが物語りの半ばまでの場面となる。ここまではいいのだが、これらの要素が決して生かされているとは言いがたいかたちでラストの解決へと導かれてしまう。これではせっかくのキャラクターたちも生かされぬままに終わってしまう。それならばかえって登場しなければよかったと思われる者たちでさえも・・・・・・

 それにしても、70作以上書いていてこれが代表作だといわれてもなぁ。


死のチェックメイト   Checkmate to Murder (E.C.R. Lorac)   5点

1944年 出版
2007年01月 長崎出版 <Gem Collection>

<内容>
 大戦下中のロンドン。画家のマナトンのアトリエに集まっていた面々はチェスをやったり、絵を描いたして過ごしていた。するとすぐ近くに住むアトリエの大家が殺害されるという事件が起きる。偶然、近くを通った特別警察官の手により容疑者は捕まえられるが、その人物は自分はやっていないという。マクドナルド警部が捜査によって到達した真相とは!?

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<感想>
 がちがちの本格とか、謎解きミステリというよりは、警察小説という感じが強かったように思える。警察官らによる地道な捜査により、登場人物たちの背景が徐々にあらわにされ、少しずつ犯行の真相に近づいていくという内容。ただし、その捜査の内容が事件解決に密接に関連しているように感じられないところが欠点のように思えた。故に、犯人がわかったときも、確かにこういうやり方ならば犯行ができるなと納得はするものの、あまり“腑に落ちた”という感は少なかった。

 癖のある登場人物が多かったにもかかわらず、それらを生かすことができず、地道な警察小説という印象ののみが残ってしまった作品であった。


悪魔と警視庁   The Devil and The C.I.D (E.C.R. Lorac)   6点

1938年 出版
2013年03月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 霧に包まれたロンドン。休戦記念日により、仮装パーティーなどが行われている中、車に乗って帰宅途中のマクドナルド警部はひったくり犯を目撃する。車から降りて、犯人を追ったが、ひったくり犯は追われていることに気づき、バッグを捨てて逃走。警部はバッグを持ち主に返し、車に乗って警視庁へと戻った。次の日、その車の後部座席から悪魔の装束をまとった死体が発見される。マクドナルド警部は死体の身元と、事件の背景を探ろうとするのであったが・・・・・・

<感想>
 E・C・ロラックの本って、すでに2冊も読んでいたのか、忘れていた。「ジョン・ブラウンの死体」と「死のチェックメイト」という作品を既読。どちらもマクドナルド警部が主人公となり、事件の謎を解いている。そして、この作品も同様にマクドナルド警部が捜査に乗り出している。

 他の作品もそうなのだが、この作品も合わせて、極めて地味。基本的にミステリ小説というよりも警察小説といったほうが良いようである。悪魔の装束を身につけた謎の死体が発見されるという出だしはよいのだが、その後は地道な聞き込み捜査により被害者の正体が判明し、被害者が何をしていたのかを突き止め、その周辺の人々の様子を探り、解決を導きだすというもの。

 濃い本格推理小説であると過剰に期待しなければ、十分に読みどころのある小説であると思われる。霧のロンドンという雰囲気と、戦時中という混乱した時代性を味わうことができ、登場人物らにまつわる複雑な相関関係と複雑なプロットには唸らされるところもある。

 また、ロラックという作家が女性であるということを、本書の解説にて初めて知った気がする(生前は詳細を明かしていなかったらしい)。この著者の作風を理解した上で作品を読んでみると、それなりに楽しめるのではなかろうか。今後も未訳の作品が刊行されるようなのでそちらにも期待したい。


鐘楼の蝙蝠   Bats in the Belfry (E.C.R. Lorac)   6点

1937年 出版
2014年03月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 元ベストセラー作家のブルース・アトルトンは、現在は鳴かず飛ばずの状況であり、女優の妻のかせぎで暮らしている。そんなブルースがドブレットという不審な人物に付きまとわれているのを周囲の者は目撃する。心配したブルースの友人であるロッキンガムは、ブルースの後見人であるエリザベスの恋人である新聞記者グレンヴィルを頼り、ドブレットの正体を暴こうとする。グレンヴィルがドブレットの住まいを探り出し、そこへ乗り込んだのだが、そこでブルースのスーツケースが発見される。当のブルースとその妻は、行方知れずの状態。その状況を危ぶんだロッキンガムはついに警察の手を借りることとする。さっそくマクドナルド首席警部が捜査に乗り出すのであったが・・・・・・

<感想>
 昨年、「悪魔と警視庁」が出版され、続いて刊行されたこの「鐘楼の蝙蝠」。まだまだ翻訳されていない作品は多数あるようなので、これは年に1冊ずつくらい、出版し続けてくれるのだろうか。

 この著者、E・C・R・ロラックの作品で発表されているのは、マクドナルド主席警部が活躍するシリーズもの。本格ミステリというよりは、警察小説という感触が強い。なかなか面白いシリーズであるが、個人的には、もう少しマクドナルド主席警部以外のキャラクターにもスポットをあててもらえたらシリーズとして幅が出たのではないかと感じてならない。

 今回の作品では、謎の脅迫者の正体について迫るというもの。しかし、その正体をつかもうとするものの、身元不明の死体が発見されたり、行方不明者が出たり、その行方不明者が表れたりと、次から次へとマクドナルド主席警部を惑わす出来事が起こってゆく。誰が? 何のために? さらには事件の全貌はいったい? と、読者にも全容をつかめさせない事件となっている。

 最後の最後でようやく犯人の正体が暴かれるのだが、意外といえば意外なのだが、やや不満も残る状況。どうも理由が後付で、結局誰が犯人でもよかったのではと思えてならない。導入から、展開までは面白かったと感じられたので、結末のつけ方が惜しかったかなという印象。それでも事件捜査を楽しむことはできるので、なかなか読みどころのある作品であった。


曲がり角の死体   Death at Dyke's Corner (E.C.R. Lorac)   6点

1940年 出版
2015年09月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 二人の青年が大雨の中車の運転をしているとき、カーブに駐車していた車のせいで、危うく事故に遭いそうになる。その停車していた車をのぞくと、中には男の死体が。しかもその死体は、一酸化炭素中毒により死亡していた。被害者は資産家でビジネスマンのモートン・コンヤーズ。彼は、強引に土地買収の事業を推し進めることにより、辺りの人間からは嫌われていた。そうしたなか、一番彼を嫌っていたのは、息子のルイス・コンヤーズであった。警察はこのルイスを最有力容疑者とみるなか、ロンドン警視庁からマクドナルド首席警部が派遣されてきた。マクドナルドは偏見のない目で、事件を洗い直し、真相に迫るのであったが・・・・・・

<感想>
 マクドナルド主席警部による執拗な捜査が描かれた警察小説。その捜査の様相はまるでクロフツ描くフレンチ警部の作品のよう。ただ、この作品では警察の捜査にスポットが当てられるだけではなく、事件が起きた村の人々の様子にもスポットが当てられた小説となっている。その辺が、クロフツの小説と異なるところと言えるかもしれない。

 事件が起きたことにより右往左往する村の人々。被害者が村の敷地を買収し、新たな建物を建設しようと動いていた人物であったことにより起こる混乱。その買収により、村を二分すると言っても良いような利権の争いがさらなる騒乱を起こすこととなる。

 序盤は地味な警察小説であったが、後半は派手な騒乱が描かれ、、動きのある小説として展開していくことに。マクドナルド警部自身も体を張った捜査をすることにより、事件解決へとなだれ込むこととなる。ただ、個人的には最後の派手な展開よりも、序盤から続く地道な捜査により、徐々に犯人像をあらわにするという流れのほうが良かったような。


殺しのディナーにご招待   Death Before Dinner (E.C.R. Lorac)   5.5点

1948年 出版
2017年05月 論創社 論創海外ミステリ190

<内容>
 著名な“マルコ・ポーロ・クラブ”からの招待により、レストランに集められた8人。やがて彼らは、彼らに悪意を持っていると思われるエリアス・トローネによる悪戯だと思い至る。その後、集められた8人は意気投合し、その集まりとレストランでの食事を楽しむことに。そして、その集まりが終わったのち、レストランの店主は、配膳台の下に死体がころがっているのを発見する。その死体の主はなんと、皆をだましたと思われていたエリアス・トローネであり・・・・・・

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<感想>
 何者かのいたずらによりレストランに集められた8人。しかもそのいたずらの当事者と思われるものがレストランで死体となって発見されるという事件。

 結末まで読んで思ったのは、単に謎の人物によって大勢の人物がレストランに集められたという導入部分ありきの小説を描きたかったのかなということ。そのレストランに集まったというところが一番の山場で、あとは話のつじつまをうまく合わせていけばよいというような感じに思えてしまった。

 結局、こういうミステリ作品でありがちな、誰が犯人でもよさそうというようなもの。さらには、何故このような状況で殺人を犯さなければならなかったのかというところが微妙に思えてならない。たとえ、アリバイを作ることが目的だったとしても、わざわざこんな手の込んだことをという思いのほうが強くなってしまっている。そんなわけで典型的な微妙なミステリ作品ということで。


誰もがポオを読んでいた   Death Looks Down (Amelia Reynolds Long)   6点

1944年 出版
2016年12月 論創社 論創海外ミステリ186

<内容>
 フィラデルフィア大学にて見つかったエドガー・アラン・ポオの手稿。その手稿が盗まれるという事件が起きる? そしてその手稿を巡ってか、はたまた別の目的でか、連続で殺人事件が起こることに。しかも、それぞれの死の様子が、ポオの作品をモチーフとしたかのような形となって・・・・・・

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<感想>
 読み終わってみて、思い返すと派手な事件が描かれた小説だったのかなぁ、という感じ。連続見立て殺人が起こるという華々しいものであるのだが、どこか人を殺さなければならないほどの事件なのかなと冷めた感覚を持って読んでいた。

 一見、単純な事件のようにも感じられるのだが、連続殺人と、ポオの手稿の消失事件とが絡み合い、少々ややこしい様相を見せている。そうしたなか、心理学者で特別捜査官のトリローニーと大学院生のキャサリンとが事件の真相に踏み入ってゆく。

 ポオの作品に見立てた連続殺人事件が起こるということで、本来であれば重厚なミステリが展開されてもおかしくないような内容。ただどうやらこの著者、“アメリカンB級ミステリ”というようなジャンルで活躍していた作家らしく、全体的に軽いまま話が進み、軽いままで終わってしまうという感じであった。内容自体は決して悪くはないものの、事件の大きさと作調がどこかかみ合っていないように思われた。


死者はふたたび   The Corpse Came Back (Amelia Reynolds Long)   6点

1949年 出版
2017年09月 論創社 論創海外ミステリ194

<内容>
 私立探偵レックス・ダヴェンポートは、リンダ・トレヴォーンから仕事を依頼される。リンダの夫は元有名な映画俳優であったが、別荘にて溺死体で発見されることに。しかし、6週間後に死んだはずの夫だと名乗る者が彼女の前に現れたという。その男が何者か、そして何を目的としているのかダヴェンポートに確かめてもらいたいというのだ。さっそく捜査に乗り出したものの、突如リンダは発言を翻し、彼女の前に現れた男は本物の夫であるので、調査は打ち切ってくれと・・・・・・

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<感想>
 あまり期待して読まなかったものの、意外と面白かった。スピーディーなサスペンス・ミステリ小説となっている。話の基本的なところは単純で、死んだはずの元俳優は本物か、偽者かを調べるというもの。ただ、その単純な内容をひねくり回し、一筋縄の物語とせず、あえてややこしくしているところが特徴である。

 主要登場人物は探偵を除けば、依頼人のリンダ・トレヴォーン、その夫ブルース、リンダの義理の息子リチャード、トレヴォーン家の主治医・キンケイド、ホテルのウェイトレス・ケイティ、そしてブルースが俳優をしていた時代に代役を務めていたラムジー。といった限られた登場人物らの相関関係をいかんなくこねくり回し、複雑な状況を作り出している。

 途中、ごちゃごちゃな様相を示すものの、最終的には真相を綺麗にまとめている。ただ単に人物関係をひねくり回わすだけでなく、殺人事件も次から次へと起こり、読者を飽きさせぬ内容となっている。何気に今年出版された論創海外ミステリ作品のなかでは、それなりの佳作。前に紹介された「誰もがポオを読んでいた」よりは、こちらのほうが面白かったと思われる。


<羽根ペン>倶楽部の奇妙な事件   The Corpse at the Quill Club (Amelia Reynolds Long)   6点

1940年 出版
2021年04月 論創社 論創海外ミステリ263

<内容>
 文筆が趣味で、作家らも集う<羽根ペン>倶楽部。その会合が開かれる前に、会員を中傷するような文章が出回ることに。そんな不穏な雰囲気の中、かつての倶楽部創立のメンバーで退会していたイングリッシュ夫人が集まりに参加することとなった。そのイングリッシュ夫人はトラブルメーカーで、会合に対して誰もが気が重くなる中、実際に過去のいざこざが取りざたされ、倶楽部は険悪な雰囲気となる。そして、予想通りの人物が殺害されることとなり・・・・・・。ミステリ作家のキャサリン・パイパーと、犯罪心理学者エドワード・トリローニーの二人が協力して、事件解決に挑む!!

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<感想>
 論創海外ミステリで紹介されるのは3作目となるアメリア・レイノルズ・ロングの作品。「誰もがポオを読んでいた」で探偵を務めていたパイパーとトリローニーのコンビがここでも登場し、しかもこの作品がコンビ登場の最初の作品とのこと。といいつつも、「誰もが〜」で、このコンビが登場していたことなど、全く記憶から抜け落ちていた。

 ゴシップメインの、ちょっと嫌な雰囲気の作調ということもあってか、序盤はリーダビリティが薄かったような。しかも、短いページ数のわりには、登場人物がやたらと多く、そのへんはもっと整理してもらいたかったところ。そんな感じで、読み始めはあまり良い印象ではなかったのだが、後半へと進むにつれて、徐々に話が面白くなっていったような気がする。

 落ち着いたミステリというよりは、ややドタバタめいた作品のような感じではあったが、ちゃんとミステリとして話が進められていたので、楽しんで読むことができた。事の顛末や、真犯人についてもうまく描き上げていた作品であると感じられた。シリーズものとして、続きで読んでいったほうが、もっと味が出そうな感じがする。


ウィンストン・フラッグの幽霊   4 Feet in the Grave (Amelia Reynolds Long)   6点

1941年 出版
2022年06月 論創社 論創海外ミステリ285

<内容>
 ミステリ作家のキャサリン・パイパーは“羽根ペン倶楽部”のメンバーに誘われ、“幽霊の館”と呼ばれる屋敷からの誘いを受けることに。その屋敷では、1年前に秘書が資産家の主を銃で殺害した後に逃亡するという事件が起きていた。現在は、その事件に関わる遺言の問題で揉めている最中であった。その屋敷で、幽霊の出没を巡るちょっとした騒動が起きたのち、キャサリンは以前に起きた事件で出会った犯罪心理学者トリローニーと再会する。その後、キャサリンは銃で殺された男の死体を発見したものの、その死体が消え去るという事件に遭遇し・・・・・・

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<感想>
 論創海外ミステリからは、度々紹介されるようになった作家、アメリア・レイノルズ・ロング。前回紹介された「羽根ペン倶楽部の奇妙な事件」に登場したレギュラーメンバーが活躍するシリーズ作品となっており、かつ前作の続編という位置づけになっている。

 この著者の作品と言えば、やや退屈な普通のミステリという印象が強かったのだが、本書についてはよくできていると思われた。というか、驚かされる展開が用いられていて、読んでいる途中びっくりした。ただ、軽めの語り口ゆえか、“幽霊屋敷”というイメージや、重厚な印象がかけているところが作品としてもったいなかったような。

 あと、物語上結構重要と思われた遺産相続についてが、最終的に軽めに扱われてしまっていたが、ここももう少し書き込んでもらいたかったところ。それこそが本書のキモと思われたのだが。

 と、そんなこんなで、良い作品と思われたのだが、著者自身が軽めのミステリを書こうという気持ちであるのか、色々なミステリ要素が詰まっている割には、簡潔で軽めなミステリとして収まってしまっている。ミステリ要素としては、結構面白いネタを取り扱っていたと思えるのだがなぁ。




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