サ行−セ  作家作品別 内容・感想

判事とペテン師   The Painswick Line (Henry Cecil)

1951年 出版
2005年12月 論創社 論創海外ミステリ36

<内容>
 競馬の賭け屋の事務所で働いていた女性が訴えられた。その女性はどうやら不法に金をもうけていたらしいのだが、その方法がよくわからない。しかし、それを調べていくうちに、実は不正を行っているわけではなく、百発百中で競馬の予想をしていたらしいことがわかり・・・・・・

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<感想>
 一応“法廷もの”といえるような作品であるのだが、従来のものとは少々趣が違う。ユーモア法廷ものと言い切ってもいいような少々ゆるめの感じで描かれている作品であった。

 序盤は法廷内で競馬による詐欺事件の訴訟の様子が描かれている。そして、そこに出てくる百発百中で競馬のレース予想をするという牧師。この序盤の展開はかなり面白い。そして、その牧師を巡って、さまざまな人がとりいろうとするのだが、そこに本書の主人公である“判事”までもが乗り出してくるという展開になっている。

 この序盤の様子は面白い。しかし、中盤になると判事の息子であり、詐欺師である男の話になるとややトーンダウンする。何しろ、しばらくの間は法廷の様子が描かれるものの、肝心の主人公自身は出てこないので、代理人戦争とでもいうような形で話が進められている。このへんは法廷ものに興味があるという人でなければ楽しめないかもしれない。

 ただ、後半に入り、この作品がただの“法廷もの”を描いた作品ではなく親子二代の人生を書き記した作品であるということがわかってくると見方は変わってくる。

 というわけで、本書は“法廷”でのやりとりが主となっている作品であるのだが、決してそれだけではなく、男達の人生を描いた二代記であるということを強調しておきたい。こういう決まったジャンルの中に放り込むことのできない変わった作品というのもなかなか面白いものである。


サーズビイ君奮闘す   Brothers in Law (Henry Cecil)

1955年 出版
2008年05月 論創社 論創海外ミステリ76

<内容>
 ロジャー・サーズビイは晴れて法廷弁護士となり、法廷弁護士グライムズのもとで見習いとして働くこととなった。すると働いてすぐに、見学するつもりで言ったはずの法廷にて弁護を担当しなければならなくなり、あわてふためき・・・・・・

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<感想>
 新米弁護士の成長を描いた法廷小説。あくまでも一弁護士の成長を描いたという内容であり、ミステリ作品というほどのものではない。

 それなりに面白く読めはしたものの、これだけで終わってしまうのは中途半端という気がした。成長物語ではあるのだが、その成長の途上で話が終わってしまっている。ラストにもうひと盛り上がり欲しかったところ。いっそ、シリーズものにでもしたほうが楽しめそうな内容であるのだが。


メルトン先生の犯罪学演習   Full Circle (Henry Cecil)   5.5点

1948年 出版
1961年04月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 法理論とローマ法の世界的権威であるメルトン教授は母校ケンブリッジ大学に迎えられ、講義することとなった。ただし、メルトン教授は世界的権威ではあるものの、その講義については、つまらないことで有名でもあった。しかし、最初の講義の朝、滑って転んで頭を打ったことによってか、教授は変調をきたし、変わった講義をすることとなる。それは、法の網をかいくぐった裁判の様子など、突拍子もない話ばかり。その評判が伝わり、メルトン教授の講義は学生たちで超満員となるのであったが・・・・・・

<感想>
 つまらない講義で有名な教授が、頭をうったことにより面白い講義を繰り広げるという逸話集。それぞれにおいて、法廷における一風変わった判例が披露されるというもの。

 すべての話が、講義のみで語られるのかと思いきや、そういうわけではなかった。途中、メルトン先生が学校側の手により病院に入れられたり、さらにそこから逃げ出したりと、それなりの動きもある作品。ただ、そんな動きを見せるよりは、すべて講義を繰り広げるという形にしておいたほうが良かったように思えてならない。何しろメルトン先生以外の話や、単なる物語じみたものも語られることになり、内容がぶれてしまったという印象。また、最初の方のエピソードは面白かったが、だんだんとそのネタもトーンダウンしてしまったようにも感じられた。

 特に最初の弁護士が依頼人の無実を“自らを犠牲にする強引な方法で”勝ち取る話は衝撃的。また“名誉棄損”に関する不毛な戦いを描いたものも面白く読むことができた。このくらいのレベルのエピソードで全編持ちこたえてもらいたかったところ。法廷におけるさまざまな変わった事例が語られる(あくまでもフィクションであろうが)という趣向は面白かった。ただ、もう少し作品全体に一貫性があれば、もっと見栄えが良かったのでは? と思えるところが残念なところ。




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