<内容>
「不可能犯罪課」
「キロシブ氏の遺骨」
「七口目の水」
「袋小路」
「皇帝のキノコの秘密」
「喜歌劇殺人事件」
「間一髪」
「家族の一人」
<感想>
タイトルだけ見ると、不可能犯罪が描かれたミステリ短編小説集と思われるかもしれないが、本書はそれだけではない別の側面も持っている。それはジェイムズ・ヤッフェという作家がデビュー当時から一人前の作家となっていく軌跡が描かれているというもの。
ジェイムズ・ヤッフェは15歳にしてEQMM(エラリー・クイーン・ミステリ・マガジン)に短編を送り、それが編集者の目にとまり、作家デビューすることとなる。しかし、その作品は決して内容が良いものではない。それを編集者も感じつつも、ジェイムズ少年が今後ミステリ作家として成長することを願い、辛辣なコメントを送りつつも、次の作品の期待をよせているのである。こうした編集者からのコメントが各短編の前後に掲載されており、当時のジェイムズ少年と編集者とのやりとりが垣間見えるものとなっている。
実際に作品を読んでいくと、最初のほうの作品は未熟な面ばかりが目に付いてしまう。トリックとして無理があったりとか、登場人物の行動に無理があったりとか、ミステリとしてフェアに描かれていないなどさまざま。それを編集者もわかっていて、未熟な面を指摘しながらもこれら作品をEQMMに掲載しているのである。また、中には編集者も見逃していたトリックの不備が読者から指摘されたというハプニングまでもがここに記されている。
しかし、そうした苦難を乗り越えた末に書かれた「皇帝のキノコの秘密」という作品を読むと、その成長ぶりをうかがうことができる。この作品はここに掲載されている中ではベストではないかと思っている。まさにジェイムズ少年がミステリというものを自分なりに消化したうえで完成させる事のできた逸品といえよう。
その後の「間一髪」「家族の一人」は本格ミステリとしては濃度が薄まってはいるものの、作家としての力量を感じさせる内容に仕上げられている。もはやここには未熟な少年という面影は残されてはいないのである。
と、えらそうな感想を書いてきたものの、実は私はジェイムズ・ヤッフェという作家の作品を読むのはこれが初めて(短編はひょっとしたら何らかのアンソロジーで読んでいるかもしれない)。本屋では見かけたことは何度もあるものの、今のところ手に取るには至らなかった。しかし、ここにジェイムズ・ヤッフェという作家がどのような経験を積み作家となっていったということを知ったからには俄然興味がわいてきた。今年はこの作家の作品を集め回ることになるのかもしれない。
<内容>
「ママは何でも知っている」
「ママは賭ける」
「ママの春」
「ママが泣いた」
「ママは祈る」
「ママ、マリアを唱う」
「ママと呪いのミンク・コート」
「ママは憶えている」
<感想>
1952年から1968年にかけて、エラリイ・クイーンズ・ミステリ・マガジンに掲載された作品を集めたシリーズ短編集。タイトルは聞いていたものの未読であったのだが、これが初の文庫化というから驚き。ポピュラーな作品と思えたのだが、意外と入手しづらかったのかな?
このシリーズは安楽椅子探偵ものであり、刑事を務める息子が母親に、最近起きた事件の話をするとたちどころに解決してしまうというもの。息子が事件のあらましを述べ、母親が質問し、さらに関連した身近な出来事と比較しつつ、事件の真相を述べるという決まった形式で語られてゆく。
「ママは何でも知っている」 ホテルで起きた殺人事件。三人の容疑者のうち真犯人は?
「ママは賭ける」 レストランで起きた毒殺事件。容疑者となった虐げられていた給仕は本当に犯人なのか?
「ママの春」 老婦人を殺害したと思われる謎の婚約者とは?
「ママが泣いた」 未亡人の5歳になる子供は、はたして本当に叔父を殺害したというのか?
「ママは祈る」 酒浸りになった元教授は、本当にかつての友人で会った学部長を殺害したのか?
「ママ、マリアを唱う」 オペラファンの諍いから起きたとされる事件の真相とは?
「ママと呪いのミンク・コート」 夫人は本当にコートにまつわる呪いにより殺されたのであろうか?
「ママは憶えている」 タクシー強盗殺害事件で逮捕された青年の事件の謎と、ママが語る祖母の事件。
タイトルからして軽めなミステリと思いきや、探偵役となる“ママ”の心理的な洞察力に目を惹くものがある。本書の大きな特徴は、真犯人の心理のみならず、容疑者や他の人物の隠された心理についても“ママ”が見事に推理していくところである。そのそれぞれの登場人物の隠された行動や思いに人情味あふれていて、作品の多くにホロリとさせられてしまうのである。この人情味あふれる推理こそがこの作品が名作とされるゆえんなのであろう。
<内容>
英国諜報部員ジョナス・ワイルド。コードネームは“掃除屋(エリミネーター)”。今回彼が請け負う任務は、グンナル・モエルという男の暗殺。モエルはデザイナーを装っているが、実は諜報部員。彼を殺害するために、ワイルドは水着のバイヤーとなり、現地へ乗り込むこととなる。脱出ルートまできちんと整えられたミッション、ワイルドは簡単に実行できると思っていたのだが・・・・・・
<感想>
典型的な肉弾アクションシーン満載のスパイもの。冷戦下における思想もきちんと語られてはいるものの、やはりアクションシーンのみが印象に残る。
タイトルの“コーディネーター”というのが、主人公のコードネームなのかと思いきや、主人公は“エリミネーター”。“コーディネーター”は、実は敵のコードネーム。では、なんでこれがタイトルかというと、シリーズものの2作品目だから。シリーズ1作目はきっちりと“エリミネーター”というタイトル。
内容は不死身の主人公が、敵の攻撃をかわしつつ、なんとか目的を達成しようと孤軍奮闘する。窮地にも多々陥るが、そこは何となくご都合主義っぽく助かってしまうのは当たり前の事。そんなご都合主義的なものが含まれていたとしても、作品の面白さはそこなわれない。普通にスパイ・アクションものとして楽しむことができる作品。
ミステリとしては堪能するほどのものはないが、アクション小説として捉えておいてもらえれば、十分に満足できるだろう。また、著者は歴史家という側面ももっており、物語のバックグラウンドをしっかりと描いているので、決して薄っぺらい小説ではないところも特徴と言えよう。なかなか面白いというか、シリーズを通して読むことができれば、冷戦時代の各国の様相について詳しくなりそうな内容。