その他、アンソロジー等 内容・感想

ミステリ・リーグ傑作選 上   Mystery League (Ellery Queen)

2007年05月 論創社 論創海外ミステリ64

<内容>
[1号]
 「姿見を通して 第1回」 エラリー・クイーン
 「偉大なるバーリンゲーム」 ジョン・マーヴェル
 「パズル・デパートメント」
 「フーディニーの秘密」 J・C・キャネル
 「クイーン好み 第1回」 エラリー・クイーン
 「作家よ! 作家よ!」
 「批評への招待」
 「次号予告」

[2号]
 「姿見を通して 第2回」 エラリー・クイーン
 「完全なる償い」 ヘンリー・ウェイド
 「クイーン好み 第2回」 エラリー・クイーン
 「作家よ! 作家よ!」
 「次号予告」

[3号]
 「姿見を通して 第3回」 エラリー・クイーン
 「ガネットの銃」 トマス・ウォルシュ
 「読者コーナー」
 「蝿」 ジェラルド・アズウェル
 「クイーン好み」 第3回」 エラリー・クイーン

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<感想>
 1933年に創刊されるも、わずか4号で廃刊となってしまったエラリー・クイーン編集の伝説の雑誌「ミステリ・リーグ」。本書はその傑作選・・・・・・であるはずが、実際には今まで訳された事のない未刊行の作品ばかり集められたものとなっているので“傑作選”には程遠い。どうせなら、4号しかないのだから全部掲載して刊行してもらいたかったところだが、実際検討した結果ページ数の都合で折り合いがつかなかったという。

 ということで、(内容)に書かれた目次どおりのものが掲載されているのだが、このような内容なのでクイーンの評論ばかり読まされたという気がしてならない。ただし、それはそれで色々と参考にはなるので資料としては最適ともいえよう。

 とはいえ、肝心のミステリ作品が短編3つとショート・ショート1つというのは、あまりにもさびしすぎる。さらに言えば、ここに掲載されている作品のどれもが本格推理小説というよりはサスペンス作品のような内容ばかりというのも残念なこと。

 結局のところは、やはりマニア向けの資料という印象が強い本であった。

 興味深いというほどではないのだが、[1号]のパズル・デパートメントで出題されたクイズの解答が「まさか、こんな単純な解答ではないだろう」と思っていたものが本当に解答になっていたのは驚きを通り越して、爆笑してしまった。

 また、1点不思議に思ったのは、本書のなかで数々の探偵小説が取り上げられている中でディクスン・カーの作品が全く取り上げられていなかったということ。ただ、ミステリー・リーグが創刊された年を見ると、カーが本格的に活躍し始めたのはその後からであったということのようである。

 こういったことを考え、この雑誌が早々と廃刊されたことを考えると本格ミステリ雑誌を作るにはまだまだ時期的に早かったということが言えるのだろう。ただし、その経験を経てクイーンは「エラリー・クイーン・ミステリ・マガジン」を後に刊行することとなるのだから、この失敗は必然であったのだとも言える。


ミステリ・リーグ傑作選 下   Mystery League (Ellery Queen)

2007年06月 論創社 論創海外ミステリ65

<内容>
[3号]
 「クイーン好み」 第3回」 エラリー・クイーン
 「角のあるライオン」 ブライアン・フリン

[4号]
 「姿見を通して 第4回」 エラリー・クイーン
 「蘭の女」 チャールズ・G・ブース
 「クイーン好み 第4回」 エラリー・クイーン

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<感想>
 上巻に続いての「ミステリ・リーグ」の紹介となる作品であるが、本書では「角のあるライオン」という長編作品が掲載されているので、そのままそれをタイトルとしてもいいくらいである。本書のページ総数約400ページのうち、300ページがこの「角のあるライオン」で締められている。

 それでこの「角のあるライオン」という作品であるが、この作家の作品自体が奔放初公開となる。読んでみてその感想はというと、ちょっと小難しい作品だったなというところ。個人的にはせっかく“角のあるライオン”というものを作中に用いているわけなのだから、もっと風呂敷を広げて、いかにも“角のあるライオン”らしきものが犯行を行ったのではないかということを強調してもよかったのではないかと思われる。

 作品の内容は失踪した人物が死体で見つかり、その甥も似たような方法で殺害され、さらには全く関係のないと思われる人物までが同じような死に方をしていたという連続殺人事件を扱っている。そこに一家の相続などをからめた少々複雑な作品構成。

 本書のよさは、一見、読んだだけではなかなかわかりづらい。私も、あとがきを読んで気づかされたのだが、かなり心理的な描写などに気を使った内容となっており、二度読み返すことによって初めて細かいところまでが理解できるというような作品。ということで、逆に言ってしまえば細かいところまで着目しないとおもしろさが読み取りにくい作品とも言えよう。

 今回の「ミステリ・リーグ」にてもうひとつ「蘭の女」という短編が掲載されている。こちらは本格ミステリ風のハードボイルド小説。誘拐された女優の行方を捜査するというもの。ミステリとしての内容云々よりも、物語としてよくできているなと思われた作品。最後の探偵のセリフにスパイスが効いていて心地よい。

 という内容であったが、“ミステリ・リーグ”というもの自体を楽しむには、上巻のほうが色々と掲載されていたので雰囲気を味わうことができたのではないかと思われる。この下巻に関しては、上巻で掲載できなかったものや、未訳のものを紹介するという、補完的な資料のようになってしまっている。

 まぁ、とりあえずミステリ・ファンであれば上下巻あわせて持っておいて損のない本といえよう。ただ、やっぱり「ミステリ・リーグ」完全版といえる翻訳本を出してもらえたらなぁ、と今だに思っているのも事実である。


エラリー・クイーンの災難   Misadventures of Ellery Queen

2012年05月 論創社 論創海外ミステリ97

<内容>
【第一部 贋作篇】
 「生存者への公開状」 F・M・ネヴィンズ・ジュニア
 「インクの輪」 エドワード・D・ホック
 「ライツヴィルのカーニバル」 エドワード・D・ホック
 「日本鎧の謎」 馬天
 「本の事件」 デイル・C・アンドリュース&カート・セルク

【第二部 パロディ篇】
 「十ヶ月間の不首尾」 J・N・ウィリアムスン
 「イギリス寒村の謎」 アーサー・ポージス
 「ダイイング・メッセージ」 リーイン・ラクーエ
 「画期なき男」 ジョン・L・ブリーン
 「壁に書かれた目録」 デヴィッド・ピール
 「フーダニット」 J・P・サタイヤ

【第三部 オマージュ篇】
 「どもりの六分儀の事件」 ベイナード・ケンドリック&クレイトン・ロースン
 「アフリカ川魚の謎」 ジェイムズ・ホールディング
 「拝啓、クイーン編集長さま」 マージ・ジャクソン
 「E・Q・グリフェン第二の事件」 ジョシュ・パークター
 「ドルリー」 スティーブン・クイーン

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<感想>
 シャーロック・ホームズのアンソロジーは数多くあるのだが、エラリー・クイーンのアンソロジーというものは数少ないように思える(それだけホームズが偉大だということか)。それだけに、ここに集められた作品群は貴重と言えよう。

 個人的には「第一部 贋作篇」に集められているような正統派ミステリのみのアンソロジーを読んでみたかった。そう思うほど、ここに集められた作品はどれもすばらしい。最初の「生存者への公開状」はやや文章が硬いと思われたが、読み進めていくうちに気にならなくなり、内容に惹かれていった。これは三つ子が関わる事件を描き、その幕の引き方がなんとも印象的なものとなっている。

 ホックの手による作品が2つ続くのだが、そのうちの「インクの輪」はベスト作品といっても過言ではない。冗談混じりに編者がホックの最高作では、と言っているのだが、意外と本当にこれこそがホックの最高短編なのかもしれない。奇妙な印を残す連続殺人鬼の顛末が描かれている。

「日本鎧の謎」は木で作った鎧を着て死んでいる男と、姿なき殺人者の謎にせまる事件。
「本の事件」では年老いたエラリー・クイーンが活躍するという変わったアプローチ。マニアックでありつつも、力作でもある。

“パロディ篇”と“オマージュ篇”に関しては、マニアック過ぎて伝わらない作品が多すぎたという印象。それでも楽しめることは間違いないし、それぞれが貴重な資料にもなりえる内容。
「イギリス寒村の謎」は悪趣味な連続殺人事件により、15人しか住んでいない村を滅ぼしかけている。
「フーダニット」では、なんとスタートレックのエンタープライズ号のなかで起きた事件をエラリーが捜査をしている。
「ドルリー」はスティーブン・キングの「ミザリー」風の内容のものを作家クイーンにより試すという異色作。

 その他気になったのは、「拝啓、クイーン編集長さま」。これはEQMM宛てに届いた変わった手紙を紹介するというものなのだが、読んだままの内容なのか、それとも裏にもう一味何かが隠されているのかが伝わらなかった。きちんとした真相があれば知りたかったのだが、ネットで調べてもよく分からず・・・・・・うーむ。

「E・Q・グリフェン第二の事件」はミステリ好きの巡査が自分の子供たちに名探偵の名前を付けてしまうという設定。そのうちのひとりエラリーが事件に挑む。これは雰囲気が面白く、シリーズものとして是非とも読んでみたいものである。他の子供たちの活躍も見ることができれば、なおのこと面白そうなのだが。


シャーロック・ホームズの栄冠   The Glories of Sherlock Holmes

2007年01月 論創社 論創海外ミステリ61

<内容>
  序 緋色の前説
 <第T部 王道篇>
  「一等車の秘密」 ロナルド・A・ノックス
  「ワトスン博士の友人」 E・C・ベントリー
  「おばけオオカミ事件」 アントニー・バウチャー
  「ボー・ピープのヒツジ失踪事件」 アントニー・バークリー
  「シャーロックの強奪」 A・A・ミルン
  「真説シャーロック・ホームズの生還」 ロード・ワトスン
  「第二の収穫」 ロバート・バー
 <第U部 もどき篇>
  「南洋スープ会社事件」 ロス・マクドナルド
  「ステイトリー・ホームズの冒険」 アーサー・ポージス
  「ステイトリー・ホームズの新冒険」 アーサー・ポージス
  「ステイトリー・ホームズの金属箱事件」 アーサー・ポージス
  「まだらの手」 ピーター・トッド
  「四十四のサイン」 ピーター・トッド
 <第V部 語られざる事件簿>
  「疲労した船長の事件」 アラン・ウィルスン
  「調教された鵜の事件」 オーガスト・ダーレス
  「コンク-シングルトン偽造事件」 ギャヴィン・ブレンド
  「トスカ枢機卿事件」 S・C・ロバーツ
 <第W部 対決篇>
  「シャーロック・ホームズ対デュパン」 アーサー・チャップマン
  「シャーロック・ホームズ対勇将ジェラール」 作者不詳
  「シャーロック・ホームズ対007」 ドナルド・スタンリー
 <第X部 異色篇>
  「犯罪者捕獲法奇譚」 キャロリン・ウェルズ
  「小惑星の力学」 ロバート・ブロック
  「サセックスの白日夢」 ベイジル・ラスボーン
  「シャーロック・ホームズなんか恐くない」 ビル・プロンジーニ

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<感想>
 シャーロック・ホームズのパスティーシュ作品というものは多数あるのだが、そういったものを読むうえで一番最初に読んでもらいたいのがこの本。分野別に章ごとに作品が分けられており、どのようなパスティーシュ作品があるのかが理解できる内容となっている。また、ここに掲載されている作品は短めのものが多いので、全体的にかなり読みやすく仕上げられている。よって、さまざまな意味でお薦めできる作品集である。

 最初の<王道篇>はまじめなホームズ・パスティーシュが取り上げられている。特に「一等車の秘密」などは秀逸。ただ、書き方によってはもっと良い作品になったような気がするので、少々残念。

<もどき篇>で度肝をぬかれたのはロス・マクドナルの作品。なんとこれはマクドナルドが作家デビューする前に書いた作品とのこと。作家になってからの作風とは全く異なる内容の作品を読むことができるので非常に貴重。

 他にもステイトリー・ホームズやハーロック・ショームズなどさまざまなホームズもどきを楽しむことができる。まかり間違ってハーロック・ショームズ全集とかが出たら、買ってしまいそうで怖い。

 その他色々とあるのだが、印象に残った作品は<異色篇>のなかの「小惑星の力学」。これはモリアーティ教授のその後について書かれたもの。非常に味のある作品に仕上げられている。

 作品が多すぎて、それぞれ細かく語れないのだが、ホームズに対して愛を感じられるものから、ちゃかしているもの、ドイルの姿勢について非難しているものなど色々なものがそろっている。4年以上前に出ているので、今更ながらなのだが、これは十分読むに値する作品集である。ホームズファンも、そうでない人でも楽しめること間違いなし。


シャーロック・ホームズの古典事件帖   4点
        The Classical Collections of Sherlock Holmes (Edited by Naohiko Kitahara)

2017年12月 論創社 論創海外ミステリ200

<内容>
 「乞食道楽」 (訳者不詳)
   <1894年(明治27年)1月〜2月『日本人』掲載 ●「唇のねじれた男」>
 「暗殺党の船長」 (南陽外史訳)
   <1899年(明治32年)『中央新聞』8月30日〜9月2日号掲載 ●「五つのオレンジの種」>
 「新陰陽博士」 (原抱一庵訳)
   <1900年(明治33年)9月『文藝倶楽部』掲載 ●「緋色の研究」>
 「快漢ホルムス 黄色の顔」 (夜香郎=本間久四郎訳)
   <1906年(明治39年)私家版 『快漢ホルムス 黄色の顔』 ●「黄色い顔」>
 「禿頭組合」 (三津木春影訳)
   <1913年(大正2年)磯部甲陽堂 『密封の鉄函』所収 ●「赤毛連盟」>
 「ホシナ大探偵」 (押川春浪訳)
   <1913年(大正2年)本郷書院 『険奇探偵小説 ホシナ大探偵』所収 ●「レディ・フランシス・カーファクスの失踪」>
 「肖像の秘密」 (高等探偵協会編)
   <1915年(大正4年)中興館 大正探偵叢書『肖像の秘密』 ●「六つのナポレオン」>
 「ボヘミヤ国王の艶禍」 (矢野虹城訳)
   <1915年(大正4年)山本文友堂 『探偵王 蛇石博士』所収 ●「ボヘミアの醜聞」>
 「毒 蛇」 (加藤朝鳥訳)
   <1916年(大正5年)天弦堂書房 『シヤロック・ホルムス 第2編』所収 ●「まだらの紐」>
 「書簡のゆくえ」 (田中貢太郎訳)
   <1917年(大正6年)『新小説』10月号掲載 ●「第二のしみ」>
 「十二時」 (一花訳)
   <1918年(大正7年)昭文館 『美人の変死』所収 ●「ライゲイトの大地主」>
 「サン・ペドロの猛虎」 (森下雨村訳)
   <1923年(大正12年)博文館 『第一短編名作集』所収 ●「ウィステリア荘」>
 「這う人」 (妹尾アキ夫訳)
   <1923年(大正12年)『新青年』9月号掲載 ●「這う男」>

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<感想>
 記念すべき論創海外ミステリ200冊目!

 そんなわけで期待して読んでみたのだが、シャーロック・ホームズの古典作品? 訳が古臭く読みにくいな・・・・・・いや、なんか知っている話だな。と、思ったら、なんと日本で最初にシャーロック・ホームズが紹介されたときの訳をそのまま掲載したという企画であった。

 いや、こんなもの論創海外ミステリのなかでやられてもな、というのが正直な感想。つまり、普通に訳されているシャーロック・ホームズの作品を違う形で紹介しましたというだけ。確かにその時代性を味わえたり、日本人に分かりやすくするために“赤毛連盟”をあえて“禿頭組合”にしたとか面白い逸話はあるものの、そんなの紹介されてもなぁという感じ。わざわざ読みにくい形でシャーロック・ホームズの作品を読まなくても、いくらでも新訳が出ているので、そちらで読めばよいだけのこと。

 それなりに資料としては貴重だと思えるのだが、それならそれでシャーロック・ホームズの資料作品として別のところで出版すればよいと思える。よほどのマニアでもない限りは、購入すると損した気分になるであろう。これから買おうとしている人は注意!!


死の濃霧   延原謙翻訳セレクション   6点
        The Adventure of the Bruce-Partington Plans and Other Stories (Edited by Yutaka Nakanishi)

2020年04月 論創社 論創海外ミステリ250

<内容>
 「死の濃霧」 コナン・ドイル
 「妙 計」 イ・マックスウェル
 「サムの改心」 ジョンストン・マッカレエ
 「ロジェ街の殺人」 マルセル・ベルヂェ
 「めくら蜘蛛」 L・J・ビーストン
 「深山に咲く花」 オウギュスト・フィロン
 「グリヨズの少女」 F・W・クロフツ
 「三つの鍵」 ヘンリ・ウェイド
 「地蜂が螫す」 リチャード・コネル
 「五十六番恋物語」 スティヴン・リイコック
 「古代金貨」 A・K・グリーン
 「仮 面」 A・W・E・メースン
 「十一対一」 ヴィンセント・スターレット
 「赤髪組合」 コナン・ドイル

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<感想>
 過去に訳されたということを除けば、普通に海外探偵小説の翻訳集として読むことができる。

 最初と最後にホームズの作品が掲載されているのだが、「死の濃霧」については、ホームズ譚でこんな作品があったっけ? と悩まされる。どうやらこれは「ブルースパティントン設計書」として知られる作品であるのだが、内容が著しく変えられているようである。昔は、こういった翻訳作品がよくあったとのこと。「赤髪組合」に関しては、内容はほぼ一緒だが、やや短めにまとめられている。ちなみに、この訳者である延原謙氏は日本で最初にシャーロック・ホームズ全集を全訳した最初の日本人とのこと。

 その他の既読作品は最近読んだ「クロフツ短編集2」に別のタイトルで掲載されていた「グリヨズの少女」くらい。ちなみのこのクロフツ作品。絵画の詐欺事件を扱ったもので、なかなか面白く、こういった作品集に掲載されるのも納得のもの。

「妙計」は、噂話が事実になるという展開の作品であり、関係ながらそれなりに楽しめるサスペンス作品。
「サムの改心」は、ご存じ“地下鉄サム”シリーズの1編であるが、これはシリーズ作品のなかで読んだほうが面白い。
「ロジェ街の殺人」は、ある種の“罪と罰”的な内容、もしくはお粗末な犯罪者とでもいうべきか。
「めくら蜘蛛」は、サスペンス風にもりあげつつ、最後の肩すかし感が微妙。
「深山に咲く花」は、とある事件を掘り起こす内容であるのだが、題材をうまく利用して、起承転結がしっかりしているミステリに仕立て上げられている。
「三つの鍵」は、海外では珍しいアリバイトリックもの。
「地蜂が螫す」は、凶器消失トリックを描く。こういったパターンもあるのかと。
「五十六番街恋物語」は、洗濯屋が勝手に想像する恋物語が面白い。オチも効いている。
「古代金貨」は、ひとりの青年の苦悩をあぶりだす物語。何気に登場人物らがやさしい。
「仮面」は、サスペンス小説としてうまく仕立て上げられていると思いきや・・・・・・単なるのろけ話?
「十一対一」は、法廷小説であるのだが、陪審員にスポットライトが当てられている。予想外の結末はなかなかのもの。


「死の濃霧」 一人の男が失踪後、死体となって発見された。男は国家にとって重要な設計図を手にしていたのだが、肝心な部分が欠けていて・・・・・・
「妙計」 夫人が友人と話をしているとき、巷で騒がれる強盗について話題に上る。夫人は、自分だったらうまく追い払うといい家に帰ったのだが・・・・・・
「サムの改心」 サムが心を入れ替えてまじめに働こうとしたものの、まじめに務めれれば務めるほど出費がかさむばかりで・・・・・・
「ロジェ街の殺人」 役所で働く男はやたらと新聞を気にし、そこに書かれているロジェ街で起きた殺人事件の記事を食い入るように読み・・・・・・
「めくら蜘蛛」 戦時中の事故により目が見えなくなった男と、その男に何故かおびえるもうひとりの男。
「深山に咲く花」 老婆による昔語り。あるとき山で花を摘む夫婦を見かけたのだが・・・・・・
「グリヨズの少女」 仲介業者は、依頼者が損をし、相手側が得をするという奇妙な交渉を持ち掛けられ、その支持の通りに絵画を手に入れるのだが・・・・・・
「三つの鍵」 金庫のなかの宝石が盗まれ、共同経営者の男に容疑がかかるが、ふたつの鍵がなければ金庫があけられないことから・・・・・・
「地蜂が螫す」 銃殺死体が見つかったが、凶器は見つからず。被害者と諍いを起こしていた男が疑われ・・・・・・
「五十六番恋物語」 洗濯屋が夢想する恋物語。
「古代金貨」 パーティーの席上で披露していた高価な金貨がなくなった。皆が身体検査を申し出る中、ひとりの青年だけがかたくなに拒み・・・・・・
「仮面」 探偵アノウのもとにひとりの青年がやってくる。青年が言うには知り合ったばかりの女が殺人と窃盗に巻き込まれたと・・・・・・
「十一対一」 裁判において、陪審員のうち11人は有罪を唱えているのだが、残るひとりだけは頑なに無罪を主張する理由とは!? 「赤髪組合」 質屋の男は店員の勧めにより、“赤髪組合”なるものに応募してみたら、見事合格し・・・・・・


シャーロック・ホームズの大冒険 上   The Mammoth Book of New Sherlock Holmes Adventures

1997年 出版
2009年07月 原書房 単行本

<内容>
[序] リチャード・ランスリン・グリーン
[はじめに] マイク・アシュレイ

[第一部 初期(ホームズの学生時代)]
 「消えたキリスト降誕画」 デリク・ウィルソン
 「キルデア街クラブ騒動」 ピーター・トレメイン

[第二部 1880年代]
 「アバネッティ一家の恐るべき事件」 クレア・グリフェン
 「サーカス美女ヴィットーリアの事件」 エドワード・D・ホック
 「ダーリントンの替え玉事件」 デイヴィッド・スチュワート・デイヴィーズ
 「怪しい使用人」 バーバラ・ローデン
 「アマチュア物乞い団事件」 ジョン・グレゴリー・ベタンコート
 「銀のバックル事件」 デニス・O・スミス
 「スポーツ好きの郷士の事件」 ガイ・N・スミス
 「アトキンスン兄弟の失踪」 エリック・ブラウン
 「流れ星事件」 サイモン・クラーク

[第三部 1890年代]
 「ドーセット街の下宿人」 マイケル・ムアコック
 「アドルトンの呪い」 バリー・ロバーツ

<感想>
 これはまた見事な完成度を誇るアンソロジー。選りすぐりの作品が集められているというだけではなく、シャーロック・ホームズの正典の中から漏れて語られなかった事件を掘り起こすというスタンスによって、年代順に並べられているところがまたすごいのである。これは編者の業績を褒め称えたくなる一冊である。

 ただ、一言だけ注文を付けるとするならば、あまりにも完璧すぎるということ。ここに掲載されている作品は、どれもが正典そのものだといわれたら本当に信じそうになってしまうほどの完成度を誇っている。その分、著者たちが制約を設けているのかどうかわからないが、とびぬけた作品というのがないのである。それはまるで、正典以上の作品を創造してはならないという掟があるかのようにさえ感じてしまうのだ。

 ホームズ作品と言えば「赤毛連盟」「まだらの紐」をはじめ、数々の有名作品がある。そして数多くのアンソロジー、パスティーシュ作品があるにもかかわらず、それらを超えるような作品というものを今まで読んだ覚えがない。これは、各作者たちが遠慮しているからなのであろうか。もしくは、それほどすごいネタやトリックであれば、自分のオリジナルの作品に使いたいということなのであろうか。

 この作品の意義は大いに感じるのだが、一度ミステリとしてとびぬけて選りすぐりの内容が収められたホームズ作品集というものを読んでみたいものである。


シャーロック・ホームズの大冒険 下   The Mammoth Book of New Sherlock Holmes Adventures

1997年 出版
2009年12月 原書房 単行本

<内容>
[第三部 1890年代]
 「パリのジェントルマン」 ロバート・ワインバーグ&ロイス・H・グレッシュ
 「慣性調整装置をめぐる事件」 スティーヴン・バクスター
 「神の手」 ピーター・クラウザー
 「悩める画家の事件」 ベイジル・コッパー
 「病める統治者の事件」 H・R・F・キーティング
 「忌まわしい赤ヒル事件」 デイヴィッド・ラングフォード
 「聖杯をめぐる冒険」 ロジャー・ジョンソン
 「忠臣への手紙」 エイミー・マイヤーズ

[第四部 最後の日々(1890年以降)]
 「自殺願望の弁護士」 マーティン・エドワーズ
 「レイチェル・ハウエルズの遺産」 マイケル・ドイル
 「ブルガリア外交官の事件」 ザカリア・エルジンチリオール
 「ウォリックシャーの竜巻」 F・グウィンブレイン・マッキンタイア
 「最後の闘い」 L・B・グリーンウッド

<感想>
 著名なシャーロキアン達により描かれたシャーロック・ホームズの冒険が集められたアンソロジー。下巻では1890年代以降の物語が語られている。

 上巻に比べると下巻のほうがバラエティ色豊かになっているという気もする。シャーロック・ホームズの生還以前と以後では制約の重さも異なっているということなのであろうか。といっても、別に破天荒な作品が多いというわけではなく、少なくともホームズの世界観を覆すような内容のものはなく、正典といってもそん色のないものがほとんどである。

 一番印象深かったのはSF作家であるバクスターによる「慣性調整装置をめぐる事件」。これは正典ではまず語られそうもないような事件を扱っており、また解決の仕方に関してもホームズものではあまり見られないような解き方が行われている。

「悩める画家の事件」に関しては、正典に比類するようなシャーロック・ホームズの活躍が描かれている。本書のなかでは個人的には、この作品が一番良いと思えた。ホームズの世界を覆すことなく、ホームズらしい事件を堪能することができる逸品。

 反対にホームズらしからぬ作品と言えば「神の手」。これはバラバラ連続殺人事件を描いたものであり、直接的で陰惨な描写が多い。設定は凝っているものの、終盤の展開がたんぱく過ぎるのが欠点。短編では描ききれなかった事件という気がする。

 また、今作では謀略ものが多かったように思える。ホームズの作品では海外のスパイや密使が出てくるような謀略ものが多く描かれているというのも特徴のひとつである。ただ、本格ミステリという観点から言うと、それらの作品はやや薄めに感じられてしまうので、個人的には好みではない。よって、ホームズらしい雰囲気の作品は数多く味わえたものの、本格ミステリという点からすると、あまり楽しめないものも多かった気がする。

 これで上下巻全て読み終えたわけであるが、これは書いた人々を称賛するとともに、これらの作品を集めた編者をより称賛したくなる。正典に掲載されてはいるものの、正典では語られなかった事件というテーマを元にさまざまな短編を集め、これだけのアンソロジーを作り上げたのは見事である。シャーロック・ホームズのアンソロジー作品というものは数多くあると思われるが、そういったなかでも上位に位置する作品のひとつであるということは決して間違いではあるまい。


天外消失 <世界短篇傑作集>   Off the Face of the Earth and Other Stories

2008年12月 早川書房 ハヤカワミステリ1819

<内容>
 「ジャングル探偵ターザン」 エドガー・ライス・バロウズ
 「死刑前夜」 ブレット・ハリデイ
 「殺し屋」 ジョルジュ・シムノン
 「エメラルド色の空」 エリック・アンブラー
 「後ろを見るな」 フレドリック・ブラウン
 「天外消失」 クレイトン・ロースン
 「この手で人を殺してから」 アーサー・ウイリアムズ
 「懐郷病のビュイック」 ジョン・D・マクドナルド
 「ラヴデイ氏の短い休暇」 イーヴリン・ウォー
 「探偵作家は天国へ行ける」 C・B・ギルフォード
 「女か虎か」 フランク・R・ストックトン
 「白いカーペットの上のごほうび」 アル・ジェイムズ
 「火星のダイヤモンド」 ポール・アンダースン
 「最後で最高の密室」 スティーブン・バー

<感想>
 ロースンの「天外消失」が表題になっているためか、勝手に本格ミステリの短編集と思い込んでいたのだが、そういったわけではなかった。広い意味でのミステリ傑作選がそろったアンソロジー集。読んでみると、これがまさに粒ぞろいの作品集であり、1年半も寝かしておいたのがもったいないくらいであった。

 本書は当初出版された37編のうちから14編を選んで復刊されたもの。では残り23編は? と聞きたいところだが、うまい具合に2010年の5月に残り23編の中から12編がセレクトされ「51番目の密室」というタイトルでハヤカワミステリから刊行された。こちらも本書を読んだ勢いで、早めに読んでおきたいところ。そうすると残り11編がまだ残っているのだが、この分だとそれらが訳されてまとめられることも期待してよいのであろう。楽しみに待ち望むこととしよう。

 このアンソロジー作品は、有名なものも含まれているので既読のものもあったのだが、そうした中ひときわ目を引いたのが「探偵作家は天国へ行ける」。あの世に行ってしまった被害者が事件の謎を解くというシチュエイションは既存のものだが、この作品はちょっと変わった趣向となっている。まれに見る怪作といえよう。

 この「探偵作家は天国へ行ける」の著者は詳しい経歴については不明。こうした経歴不明の作家の作品が掲載されているのも本書の特徴。他にはアル・ジェイムズやスティーブン・バーなどがそれにあたる。どの作品もそれぞれ味があるのでぜひともご一読いただきたい。

 他にはターザンのハードボイルド作品「ジャングル探偵ターザン」、火星のシャーロック・ホームズを描いた「火星のダイヤモンド」、有名なリドル・ストーリー「女か虎か」等々、面白く興味深い作品ばかりがそろえられている。

 これは間違いなく買いの一冊。持っていない方は入手できるうちに早めにそろえて置くべき本であると、今更ながら言っておきたい。


51番目の密室 <世界短篇傑作集>   The 51st Sealed Room and Other Stories

2010年05月 早川書房 ハヤカワミステリ1835

<内容>
 「うぶな心が張り裂ける」 クレイグ・ライス
 「燕京綺譚」 ヘレン・マクロイ
 「魔の森の家」 カーター・ディクスン
 「百万に一つの偶然」 ロイ・ヴィカーズ
 「少年の意思」 Q・パトリック
 「51番目の密室」 ロバート・アーサー
 「燈 台」 E・A・ポー&R・ブロック
 「一滴の血」 コーネル・ウールリッチ
 「アスコット・タイ事件」 ロバート・L・フィッシュ
 「選ばれた者」 リース・デイヴィス
 「長方形の部屋」 エドワード・D・ホック
 「ジェミニイ・クリケット事件」 クリスチアナ・ブランド

<感想>
 世界ミステリ全集の第十八巻「37の短篇」から12編がセレクトされたアンソロジー。先に2008年に出版された「天外消失」にて既に14編が紹介されている。

「うぶな心が張り裂ける」 クレイグ・ライス
 マローンを弁護人に依頼した死刑囚が刑務所内で自殺した。彼はもう少しで死刑から逃れられるはずであったのに! ライスの作品で、このような本格ミステリ色が強い作品は珍しいような気が。トリックもうまくできていて、なかなかの秀作。

「燕京綺譚」 ヘレン・マクロイ
 かつて満州と呼ばれていた時代の中国を舞台にした作品・・・・・・なのだが、内容が実にわかりづらい。何を描きたかったかよくわからなかった。こちらは悪い意味でマクロイらしからぬ作品のような。

「魔の森の家」 カーター・ディクスン
 海外の短編ミステリ作品といえば、一番に思いつくのがこの作品。構成、展開、トリックが非常に良くできており、さらにそれらを上回る不気味さが何とも言えない後味を残している。とにかく印象に残る作品。

「百万に一つの偶然」 ロイ・ヴィカーズ
 かつての友人により人生を台無しにされた男は、見事復讐を遂げる。その犯罪は誰にもばれることがないと思われたのだが・・・・・・。何というか、落語みたいな話。結局、悪いことをすれば刑罰からは逃れられないという教訓めいた話なのか。

「少年の意思」 Q・パトリック
 パトリック・クエンティンの名の方が有名か。ミステリよりもちょっとしたホラー風の内容。ヒュー・ウォルポールの「銀の仮面」を思い起こさせる。気の弱いお人好しの資産家を孤児の少年が食い物にしていくという内容。

「51番目の密室」 ロバート・アーサー
 もはや言わずと知れた有名密室トリック。でも、実はトリックよりも、推理作家に対する皮肉の方がメインなのかもしれない。実名で色々な作家が出ているところも見どころの作品。

「燈 台」 E・A・ポー&R・ブロック
 ポーの死後に発見された未完成の原稿をロバート・ブロックが仕上げた作品(一説には完成された作品とも)。燈台守となった男がだんだんとおかしくなっていく様が描かれているのだが、その期間が早過ぎるような気がしてならない。数日後とするよりも、数ヶ月後のほうが説得力があるような。

「一滴の血」 コーネル・ウールリッチ
 二股をかけていた男がひとりの女を殺害してしまうという事件。男は犯行の痕跡を消し、無罪を訴える。警察はなんとか犯罪の痕跡を探そうというもの。完全犯罪というには程遠い、荒の多そうな事件。しかし、警察はこれといった決め手を見つけられることができない。最後の最後でタイトル通り、とあるところに“一滴の血”を見つけるというもの。とはいえ、犯人逮捕の根拠としては微妙すぎやしないか?

「アスコット・タイ事件」 ロバート・L・フィッシュ
 知る人ぞ知る、シャーロック・ホームズのパロディとして有名なシュロック・ホームズが活躍する作品。とある暗号の謎をホームズが暴くというもの。一読したときには、物語全体の意味がわからなかった。せめて暗号原文の訳が欲しかった。原文の意味と、最後の宝石に関するちょっとしたエピソードをつなげると、ようやく物語全体の真意が見えてくる。

「選ばれた者」 リース・デイヴィス
 先祖代々ブライカン・コテージに住み続けている青年のもとに、地主である老女から出ていくようにとの手紙がくる。青年と老女との人生が語られつつ、二人の話し合いが始まる。なんとなく文学的な作品という気がした。「罪と罰」みたいなもの? でもミステリ短編集に掲載されるような作品ではないような。

「長方形の部屋」 エドワード・D・ホック
 犯人の自供により既に事件の大筋はわかっているものの、にもかかわらずレオポルド警部が執拗な捜査を続けてゆく。儀式の殺人とでも言えばよいのだろうか。ラストで衝撃的な一言が語られるものの、現代においては珍しいタイプの作品ではないかもしれない。

「ジェミニイ・クリケット事件」 クリスチアナ・ブランド
 密室の状況で火事と共に発見された老人の死体。しかも、遠く離れたところで同じ凶器で殺害された警官の死体が発見される。老人の被後見人である3人に容疑がかけられるのであるが・・・・・・。もう数回読んでいるはずなのだが、内容がなかなか覚えられない。しかし、読んでみるとミステリ短編作品としては最高傑作といってもいいほどの出来なのだが。トリックといい、物語の展開といい、最後に明らかになる隠された真実といい、見事という一言に尽きる作品。


魔術ミステリ傑作選   Whodunit? Houdini?

1976年 出版(オットー・ペンズラー編)
1979年08月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 「この世の外から」 クレイトン・ロースン
 「スドゥーの邸で」 ラドヤード・キプリング
 「登りつめれば」 ジョン・コリアー
 「新透明人間」 カーター・ディクスン
 「盲人の道楽」 フレデリック・I・アンダスン
 「時の主」 ラファエル・サバチニ
 「パパ・ベンジャミン」 ウィリアム・アイリッシュ
 「ジュリエットと奇術師」 マニュエル・ペイロウ
 「気違い魔術師」 マクスウェル・グラント
 「パリの一夜」 ウォルター・B・ギブスン
 「影」 ベン・ヘクト
 「決断の時」 スタンリー・エリン
 「抜く手も見せず」 E・S・ガードナー

<感想>
 タイトルの「魔術ミステリ傑作選」というものから非常に期待していたのだが、読んでみると期待外れであった。というのも、魔術的なトリックが満載された本格ミステリかと思いきや、奇術師や魔術師っぽい者たちが登場する奇譚という趣の作品がほとんどだったからである。ゆえに、本格ミステリ集というよりは、奇譚集といったほうがしっくりくる。

 本格ミステリといえるのは、クレイトン・ロースンとカーター・ディクスンの作品くらいか。この2作品は、それぞれよくできているので、これだけでも読んでおく価値はあると言えよう。特にロースンのほうは、短編集として集められたものがなさそうなのでこういった作品が読めるのは貴重である。ちなみにロースンの作品は、カーと張り合った作品だそうで、同じようなトリックでカーのほうは「爬虫類館の殺人」を書いたとのこと。個人的には密室の状況としては「ユダの窓」風と感じられた。

 その他では、魔術師ジェラードが活躍する「パリの一夜」が面白かった。最初は密室殺人を扱った作品かと思ったのだが、後半は冒険活劇となってしまった。密室のトリックが活劇場面にうまい具合に使用されている。

 「スドゥーの邸で」、魔術というよりは、詐欺師っぽい話。
 「登りつめれば」、インド奇術名物・ロープ登りの話。
 「盲人の道楽」、怪盗ゴダールによる華麗な盗みっぷり。
 「時の主」、これまた典型的な詐欺師っぽい話。
 「パパ・ベンジャミン」、ブードゥーの魔術と音楽がおりなす奇譚。
 「ジュリエットと奇術師」、奇術の舞台で起こる事件と男女の三角関係。
 「気違い魔術師」、奇術師対詐欺師! 閉じ込められた奇術師の運命やいかに!?
 「影」、手の込み過ぎたストーカーの話という感じ。
 「決断の時」、残酷なリドル・ストーリー、まさにあなたならばどうする?
 「抜く手も見せず」、怪盗レスター・リースが活躍する冒険譚


犯罪は詩人の楽しみ  エラリー・クイーン編  Ellery Queen's Poetic Justice (edited by Ellery Queen)  5点

1967年 出版
1980年12月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 <序> エラリー・クイーン
 「免罪符売りの話」 ジェフリー・チョーサー
 「ウェイクフィールドの牧師 馬を売ること」 オリヴァー・ゴールドスミス
 「ふたりの牛追い」 サー・ウォルター・スコット
 「ダーヴェル」 ジョージ・ゴードン、ロード・パイロン
 「ペリゴーの公証人」 ヘンリー・ワズワース・ロングフェロー
 「一度きりの邪な衝動!」 ウォールト・ホイットマン
 「弁護士初舞台」 W・S・ギルバート
 「三人のよそ者」 トマス・ハーディ
 「宿無しの磔刑」 ウィリアム・バトラー・イエーツ
 「インレイの帰還」 ラドヤード・キプリング
 「レインズ法」 ジョン・メイスフィールド
 「恐喝の倫理」 ジョイス・キルマー
 「スミスとジョーンズ」 コンラッド・エイケン
 「死後の証言」 マーク・ヴァン・ドーレン
 「シュタインピルツ方式」 ロバート・グレイヴズ
 「いかさま師」 スティーヴン・ヴィンセント・ペネ
 「三無倶楽部」 オグデン・ナッシュ
 「仲 間」 ミュリエル・ルーカイサー
 <あとがき> エラリー・クイーン

<感想>
 2012年の復刊フェアにて購入。原書収録は23編であるが、ここではエドガー・アラン・ポーの「群集の人」、ロバート・ルイス・スティーヴンソンの「マークハイム」、G・K・チェスタトンの「古書の呪い」、エドナ・セント・ヴィンセントミレーの「『シャ・キ・ペーシュ』亭の殺人」、ディラン・トマスの「真実の物語」の5編はの別創元推理文庫の作品で読むことができるので省かれている。

 エラリー・クイーンが選んだ、詩人が書いた犯罪物語とのことであるが、どれも“綺譚”とか“物語”といったような感触で、ミステリ性というものをあまり感じられなかった。ただ、そうした批判をあらかじめ回避しようとしているのか、序文にてエラリー・クイーンがアンソロジーを組む難しさを力説しているような・・・・・・

 ミステリとしては物足りないものの、物語としてはそれなりに面白いものはいくつか見られた。最初の「免罪符売りの話」」は、三人の男の中に湧き上がった“欲”から、見るも無残な結末へと落ち込む展開に絶句させられる。「ダーヴェル」は読み終えてみても何の話なのか分からなかったのだが、後に付けられた註釈ようなもので実は“吸血鬼”の前日譚であったことが示される。「ペリゴーの公証人」では、公証人を突如襲った病の正体にあっけにとられる。

 等々、と色々とあるのだが、全体的に見れば、ちょっとした話が普通に終わってしまうというものが多かったような。個人的には“詩人が書いたミステリ”というよりは“著名な作家が書いたゆえに掲載された作品”というイメージのほうが強かった。


世界推理短編傑作集1  江戸川乱歩編  6.5点

1960年07月 東京創元社 創元推理文庫(「世界短編傑作集1」)
2018年07月 東京創元社 創元推理文庫(新版・改題「世界推理短編傑作集1」)

<内容>
 「盗まれた手紙」 エドガー・アラン・ポー
 「人を呪わば」 ウィルキー・コリンズ
 「安全マッチ」 アントン・チェーホフ
 「赤毛組合」 アーサー・コナン・ドイル
 「レントン館盗難事件」 アーサー・モリスン
 「医師とその妻と時計」 アンナ・キャサリン・グリーン
 「ダブリン事件」 パロネス・オルツィ
 「十三号独房の問題」 ジャック・フットレル

<感想>
「世界短編傑作集」のほうを既に読んでいたのだが、新装版となって新しく出版されたのを機に買い直し、再読することに。再読故に、覚えている作品も多いのだが、それ以前に本格ミステリの代表作が集められているので、色々なところで読んでいる作品も多々ある。特に「盗まれた手紙」や「赤毛組合」などは、このジャンルの代表作であろう。

 前半の四作品は読み返してみると、冗談めいたミステリといっても過言ではないような作品。何気にユーモアミステリのような感触が伺える。「盗まれた手紙」はユーモアには程遠い作調であるが、そのトリックはある種バカミス的と言ってもよい。ネタを知っていると後半冗長に感じられるのだが、それを真面目に細かく分析しているところこそこの作品の白眉。

「人を呪わば」は、ミステリというよりは、嫌なキャラクターをいじりまわす作品というような気がする。盗難された現金を捜すため、マシュウ・シャービン氏が潜入捜査を開始する。

「安全マッチ」は、事件らしいものが起きて、人々が奔走する。ただ、個人的には「とりあえず死体はどこ?」と終始問いかけたくて仕方なかった。

「赤毛組合」は、語るのも及ばないほど有名な作品。しかし、よくぞこのようなネタを思いついたなと。似たような感じの作品がこの後に多く世に出ることとなった代表作。

 後半の四作品は前半に比べるとシリアスであったかなと。「レントン館盗難事件」は、宝石の盗難が度々行われた屋敷から探偵マーチン・ヒューイットが依頼を受ける。ここで扱われるトリックもそれなりに有名なものであると思われる。一見、バカバカしいトリックのようであるが、作中の人々はシリアスに事を進めている。

「医師とその妻と時計」は、この作品集のネタのなかでは一番暗めの事件。とある家で殺人事件が起きるのだが、何故か物語の中心となるのはその隣に住む盲目の医師と美貌の妻。盲目の医師は自分が罪を犯したと自供するのだが果たして真実は? という内容。読了後、よくよく考えてみると、何気に完全犯罪に近いところまでいった事件であったのではと思ってしまった。

「ダブリン事件」はご存知“隅の老人”が語る事件。資産家の死亡後、放蕩な長男と堅実な次男が遺され、遺言状の内容が問題になるという事件が取り扱われる。一見、平凡な事件のようで、実はその裏に隠れた真相が控えている。知能犯の存在がひかる・・・・・・というような終わり方をしないところもまたこのシリーズの特徴か。

「十三号独房の問題」は、個人的に好きな探偵、オーガスタ・S・F・X・ヴァン・ドゥーゼン教授が活躍する作品。話は打って変わって、ドゥーゼン教授が死刑囚独房からの脱出に挑戦するという内容。冒険もののような感じで楽しんで読める内容。脱獄ものの代表作の一つといってよいであろう。


世界推理短編傑作集2  江戸川乱歩編  6点

1961年01月 東京創元社 創元推理文庫(「世界短編傑作集2」)
2018年09月 東京創元社 創元推理文庫(新版・改題「世界推理短編傑作集2」)

<内容>
 「放心家組合」 ロバート・バー
 「奇妙な跡」 バルドゥイン・グロラー
 「奇妙な足音」 G・K・チェスタトン
 「赤い絹の肩かけ」 モーリス・ルブラン
 「オスカー・ブロズキー事件」 オースチン・フリーマン
 「ギルバート・マレル卿の絵」 V・L・ホワイトチャーチ
 「ブルックベンド荘の悲劇」 アーネスト・ブラマ
 「ズームドルフ事件」 M・D・ボースト
 「急行列車内の謎」 F・W・クロフツ

<感想>
 世界推理短編傑作集の2作品目。こちらでも有名な探偵や有名な作品がそれぞれ取り上げられている。

 個人的に一番有名である作品にも関わらず、未だにタイトルを度忘れしてしまうものが「ギルバート・マレル卿の絵」。これはあまりにも有名な走っている車両から、途中の一両だけを抜き取るトリックが語られるもの。ただ、タイトルが列車とは全く関係ない故に、いつも作品名と内容が一致しないので困りもの。

「放心家組合」は、傑作集に載せる作品としては微妙なような気が・・・・・・読み終えても、なんかもやもやとした感情が残るのみ。「奇妙な跡」はトリックとしては面白いのだが、そのトリックが語られる前の現場の描写がいまひとつ足りなかったのではと感じられた。

 その他は有名探偵たちのオンパレードといった作品がそろっている。ブラウン神父、リュパン、ソーンダイク博士、盲目の探偵マックス・カラドス、アブナー伯父、といった面々。ブラウン神父の作品に関しては取り上げるのはこの作品? というほど印象のないもの。もっと有名な作品が多々あるはずなのだが・・・・・・

 それとクロフツ作品はノン・シリーズものであるが、事件が起きた時は物凄い不可能犯罪という気がしたのだが、解決されるとそうでもなかった。なんとも列車内の描写が分かりづらいことが原因か。


「放心家組合」 窃盗事件の主犯と思われる男に罠をかけたのであったが・・・・・・
「奇妙な跡」 足跡亡き殺人事件の謎。
「奇妙な足音」 ブラウン神父はホテルの食堂にて奇妙な足音を聞き・・・・・・
「赤い絹の肩かけ」 ガニマール警部はリュパンから、とある殺人事件のヒントをもらうのだが・・・・・・
「オスカー・ブロズキー事件」 列車に轢かれて死んだ男の分析をソーンダイク博士が始め、その痕跡を追ううちに・・・・・・
「ギルバート・マレル卿の絵」 列車から中間の車両一両が盗まれ、高価な絵画が盗まれるという事件が・・・・・・
「ブルックベンド荘の悲劇」 遺産に関わる事件をマックス・カラドスが未然に防ごうとし・・・・・・
「ズームドルフ事件」 密室で銃によって死亡した男は、呪いの力によって死んだというのか? アブナー伯父の見解は??
「急行列車内の謎」 列車の客室内に閉じ込められ銃殺された男女と生きていた一人の女。果たして事件の真相は!?


世界推理短編傑作集3  江戸川乱歩編  6.5点

1960年12月 東京創元社 創元推理文庫(「世界短編傑作集3」)
2018年12月 東京創元社 創元推理文庫(新版・改題「世界推理短編傑作集3」)

<内容>
 「三死人」 イーデン・フィルポッツ
 「堕天使の冒険」 パーシヴァル・ワイルド
 「夜鶯荘」 アガサ・クリスティー
 「茶の葉」 E・ジェプスン&R・ユーステス
 「キプロスの蜂」 アントニー・ウィン
 「イギリス製濾過器」 C・E・ベックホファー・ロバーツ
 「殺人者」 アーネスト・ヘミングウェイ
 「窓のふくろう」 G・D・H&M・I・コール
 「完全犯罪」 ベン・レイ・レドマン
 「偶然の審判」 アントニイ・バークリー

<感想>
 世界推理短編傑作集の第3集。有名どころは半分くらいか。フィルポッツ、ワイルド、クリスティー、バークリー。2016年に論創社から「ウィルソン警視の休暇」が出たことで、G・D・H&M・I・コールの名が近年知られているといったところ。

 言わずと知れた有名作家、アーネスト・ヘミングウェイの作品も掲載されているのだが、別にここに載せなくてもよさそうな内容。クライム小説というか、“無法者”が出てくる小説。

 作品として有名なのは「茶の葉」「窓のふくろう」。どちらも印象的なトリックが使用されているので、記憶に残りやすい。改めて読んでみると、実は単なるトリックのみの作品ではなく、解決にいたる考察がしっかりとしたミステリ作品に仕上げられている。

 有名と言えばバークリーの「偶然の審判」についても言えること。タイトルについては聞き覚えのない人が多いと思われるが、実はこれが「毒入りチョコレート事件」の元となった短編作品。出だしを読んでみれば、すぐにわかることであろう。

 他の作品もそれぞれ読みごたえがあった。「三死人」は、心理的な面にスポットをあてて、うまく犯人を指摘している。フィルポッツらしい作品と言えよう。クリスティーの「夜鶯荘」もなかなかのもの。ありふれた内容の作品と思いきや、印象に残るラストが待ち受けている。「イギリス製濾過器」は、部屋の図面が付けられたミステリ作品。トリックがややバカミスっぽい。「完全犯罪」は、二転三転する展開に興味を惹かれる作品。


「三死人」 西インド諸島バルバドス島で起きた事件。皆に尊敬される地主と彼を尊敬していた黒人の労働者の二人が折り重なるようにして銃殺されているのが発見された。凶器は離れたところにあり、自殺したとは考えづらい。さらには、もうひとりの労働者が離れたところで刃物によって殺害されているのが発見される。動機が全く見当たらない中で起こった三人の死。その死を結ぶものとは・・・・・・
「堕天使の冒険」 トニイはクラブで行われていたトランプゲームの賭けにおいて、不正が行われたのを発見し、告発をした。その話を聞いたビルはその告発は正しくなく、別のいかさまが行われた可能性があるといい始める。新品のトランプに付けられた目印、その裏に潜むいかさま師の物語が・・・・・・
「夜鶯荘」 アリクスは親戚が残してくれた遺産により裕福になり、長年恋人であったディックとの結婚を望んだが果たせなかった。そうしたとき、アリクスはジェラルドと出会い、結婚する。しかし、結婚後アリクスはジェラルドの行動に不審なものを感じ始め・・・・・・
「茶の葉」 仲の良かった二人が仲たがいすることになったが、二人は今までの習慣通り、同じ日にトルコ風呂に通っていた。ある日、風呂場で一方が刺殺死体として発見されることに。その風呂場に入ったのは、もう一方の男のみであったのだが、凶器は所有していなかった。いったい、凶器はどこに消えたというのか?
「キプロスの蜂」 蜂に刺されて死亡していた女が発見される。女の傍らにはキプロス蜂が入った箱が落ちていた。被害者の住居を観察したヘイリー博士は蜂を使用した犯罪とその犯人について推理をし・・・・・・
「イギリス製濾過器」 出入り口がひとつしかない部屋で教授が殺されていた。死因は濾過器に混入された毒によるもの。部屋に入ることのできた事務員に嫌疑がかかるが・・・・・・
「殺人者」 食堂に二人の男が入ってきた。二人は、ある男を殺すためにここで待つといい・・・・・・
「窓のふくろう」 ウィルスン警視は夜の散歩の途中、窓から家に侵入する男を見かける。その後、家に侵入した男は、家から飛び出してきて「ひとごろしだ!」と。家に入ったウィルスン警視が見たのは、電話室で頭を撃ち抜かれていた死体であった。
「完全犯罪」 トレヴァー博士とヘア弁護士が完全犯罪について語っていた。そしてトレヴァー博士が最近手掛けた殺人事件について話をしていくと、ヘア弁護士の口から思いもよらない言葉が・・・・・・
「偶然の審判」 クラブにてサー・ウィリアムの元に心当たりのないチョコレートの箱が届く。ちょうどそこにいたベリズフォードという男が妻にチョコレートを買って帰らなければならないということで、ウィリアムは彼にチョコレートを渡す。家に帰って妻と共にチョコレートを食べたベリズフォードであったが、チョコレートに入っていた毒により死にかけ、妻は毒により死亡し・・・・・・


世界推理短編傑作集4  江戸川乱歩編  7点

1961年04月 東京創元社 創元推理文庫(「世界短編傑作集4」)
2019年02月 東京創元社 創元推理文庫(新版・改題「世界推理短編傑作集4」)

<内容>
 「オッターモール氏の手」 トマス・バーク
 「信・望・愛」 アーヴィン・S・コッブ
 「密室の行者」 ロナルド・A・ノックス
 「スペードという男」 ダシール・ハメット
 「二壜のソース」 ロード・ダンセイニ
 「銀の仮面」 ヒュー・ウォルポール
 「疑 惑」 ドロシー・L・セイヤーズ
 「いかれたお茶会の冒険」 エラリー・クイーン
 「黄色いなめくじ」 H・C・ベイリー

<感想>
 新版で再読。序盤のほうは本格ミステリ要素が薄いなと思われたものの、後半へ行くと結構内容の濃い本格ミステリ作品がそろっていたりする。これはなかなか味わい深い作品集。

「オッターモール氏の手」は、オチ的なものを感じ取れる作品。
「信・望・愛」は3人の男たちがたどる人生を描いた奇譚という感触。
「密室の行者」は言わずと知れた古典ミステリ有名作品。記憶に残る“餓死トリック”。

「スペードという男」はハメット描く私立探偵サム・スペードが活躍する作品であるが、中身は普通のアリバイもの。
「二壜のソース」は、予想通りの展開がなされるが、最後に語られる木を切り倒した理由が何とも言えない余韻を残す。
「銀の仮面」は、胸糞の悪さが印象に残る作品。“銀の仮面”というアイテムが効果的に描かれている。

「疑惑」は、変化球気味の作品に見えて、実はありがちなというか、それが普通だろというような結末。
「いかれたお茶会の冒険」は、“いかれたお茶会”を演出しているのは誰? というところも気になる作品。クイーンものにしては展開がいかれていて楽しめる。
「黄色いなめくじ」は、長い作品のわりには、本書に収められた短編のなかでは普通であったかなと。ミステリ的なもの表している作品ではなく、そこにまつわる居心地の悪さを前面に表した作品という趣向であったのかもしれない。


「オッターモール氏の手」 神出鬼没の連続殺人鬼による犯行の顛末は・・・・・・
「信・望・愛」 三人の犯罪者は列車から逃げだし、それぞれ異なる道へと歩き出し・・・・・・
「密室の行者」 閉ざされた広い部屋のなかで餓死していた男。部屋には食料が置いてあったはずなのになぜ??
「スペードという男」 私立探偵サム・スペードが電話を受け、依頼主のもとへと向かうと、すでに殺害されており・・・・・・
「二壜のソース」 姿を消した女の行方? 男は何故ソースを買った? さらに男は何故近隣の木を切り倒したのか??
「銀の仮面」 孤独な老嬢は、若くて美しい青年に手を差し伸べたことにより・・・・・・
「疑 惑」 体調の悪さを感じた男は、新聞で取り上げられていた事件を受けて、自宅の家政婦が毒を盛っているのではないかと疑い始め・・・・・・
「いかれたお茶会の冒険」 エラリー・クイーンが招かれたお茶会で失踪した主人。その後、奇妙なものばかりが家に届き始め・・・・・・
「黄色いなめくじ」 少年が妹を殺害しようとした事件。その裏に潜む真相とは・・・・・・


世界推理短編傑作集5  江戸川乱歩編  7点

1961年05月 東京創元社 創元推理文庫(「世界短編傑作集5」)
2019年04月 東京創元社 創元推理文庫(新版・改題「世界推理短編傑作集5」)

<内容>
 「ボーダーライン事件」 マージェリー・アリンガム
 「好 打」 E・C・ベントリー
 「いかさま賭博」 レスリー・チャーテリス
 「クリスマスに帰る」 ジョン・コリアー
 「爪」 ウィリアム・アイリッシュ
 「ある殺人者の肖像」 Q・パトリック
 「十五人の殺人者たち」 ベン・ヘクト
 「危険な連中」 フレドリック・ブラウン
 「証拠のかわりに」 レックス・スタウト
 「妖魔の森の家」 カーター・ディクスン
 「悪 夢」 デイヴィッド・C・クック
 「黄金の二十」 エラリー・クイン

<感想>
“世界推理短編傑作集”の新版での再読もこれが最後の5冊目。5冊目となっても、まだまだ有名作家の有名作品がしっかり残っていた。結構、他の作品集などで読んだ作品もあり、こういったアンソロジーに取り上げられるだけのことはあると思える作品が多かった。この5作目はなかなかの読み応え。

「ボーダーライン事件」は、通りの両側に警察官がいて、犯人が逃げることができないなかでの銃による不可能殺人を描いたもの。口径の小さい銃により一見銃殺されたことがわからないということと、灼熱の暑さという2点がヒントとなり、導き出される解答はなかなかものもの。

「好 打」は、ゴルフの最中に謎の爆破事故が起きたというもの。これは、有名トリックといってよいであろう。一度読めば忘れられないトリックであるが、再読してみて、なかなか手の込んだ仕掛けがなされていることを再認識できた。

「いかさま賭博」は、“聖者”サイモン・テンプラーがカードによるいかさま賭博に挑むというもの。単なる賭博の話かと思いきや、最後にどんでん返しが用意されていて驚かされる。ここに掲載されるのも納得の作品。このサイモン・テンプラーが活躍する作品、今となってはあまり読めないのだが、個人的には色々と読んでみたく、どこかの出版社が訳してくれないかと密かに期待。

「クリスマスに帰る」は、短めの作品。夫が妻を殺害し、なんとかその事態を隠し通そうとするのだが・・・・・・というもの。ブラック・ユーモア風に読める作品。

「爪」は、強盗殺人を犯した犯人が現場に剥がれた爪を残していったことにより、警察はその爪の持ち主を追うのだが・・・・・・最近、アイリッシュの短編集で読んだばかりだったので、よく内容を覚えている作品。何気にインパクトが強い作品であり、事実アイリッシュの代表短編となる作品であるのかもしれない。

「ある殺人者の肖像」は、とある少年が父親の過剰な愛情を疎ましく思い、その末に犯した殺人を描いた作品。ミステリ的な部分より、少年の心理が焦点となっている作品という気がした。少年の激しい気性と父親の過剰な愛情が不幸を呼び、残酷な犯罪が成し遂げられることとなる。

「十五人の殺人者たち」は、“Xクラブ”という、医師たちが集まり、それぞれの失敗談を語るという話。一見、ミステリ風に書かれているものの、医療の発展と、情報交換という意味合いで見れば、ごく普通の会合と思えなくもない。

「危険な連中」は、近くで脱獄囚が逃げたという噂を聞いた町の人々がとる行動を描いた作品。これまたブラック・ユーモア風の内容。色々な意味で、なんか物騒! という感じ。

「証拠のかわりに」は、ネロ・ウルフの元に持ち込まれた事件。それは、自分がもうすぐ共同経営者の手によって殺されるので、自分が殺された際にはその共同経営者を告発してもらいたいというもの。いつものネロ・ウルフらしい事件であり、この短編集のなかでは一番長い100ページ近くの作品。顔が判別できない死体をうまく用いたトリックが使われている。
 あと、この作品に関してだが、探偵の名前が“ニーロ・ウルフ”となっているのだが、新版ゆえにそこはしっかりと“ネロ・ウルフ”に改訂してもらいたかったところ。

「妖魔の森の家」は、いわずと知れたカーター・ディクスンの名作。どこへもいけないはずのバンガローの中から忽然と若い娘が消え失せるという事件。真相が明らかになったときの、なんとも言えない残酷さが印象に残る内容。

「悪 夢」は、田舎の一軒家に住む女の恐怖を描いた作品。最後に、何故女が理不尽に命を狙われたのかが明らかになるのだが、この作品に関しては、何故ここに掲載されたのかがわからない微妙な作品。

「黄金の二十」はエラリー・クインの手によって、短編と長編のベストミステリがそれぞれ10編ずつ選出されている。


世界推理短編傑作集6  戸川安宜編  6.5点

2022年02月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 「バティニョールの老人」 エミール・ガボリオ
 「ディキンスン夫人の謎」 ニコラス・カーター
 「エドマンズベリー僧院の宝石」 M・P・シール
 「仮装芝居」 E・W・ホーナング
 「ジョコンダの微笑」 オルダス・ハックスリー
 「雨の殺人者」 レイモンド・チャンドラー
 「身代金」 パール・S・バック
 「メグレのパイプ」 ジョルジュ・シムノン
 「戦術の演習」 イーヴリン・ウォー
 「九マイルは遠すぎる」 ハリイ・ケメルマン
 「緋の接吻」 E・S・ガードナー
 「五十一番目の密室 またはMWAの殺人」 ロバート・アーサー
 「死者の靴」 マイケル・イネス

<感想>
 元々は1960年から刊行された江戸川乱歩選の短編傑作集。それが2018年にリニューアルされている。ただ、これら短編が選定されている中でも、有名な著者の作品が漏れているということもあり、今回編者の戸川氏が補遺版として刊行したのがこの作品である。

 掲載された作品を眺めてみると、多くが知っている有名な作家ばかり。それでも、前の5冊に入っていなかったことを考えると、こういった形で補遺版として付け加えるのもありだと思われる。戸川氏が6冊目ではなく、あくまでも“補遺”というタイトルを付けたかったようであるが、却下され6となったとのこと。これに関しては、今後も誰かがこれにもっと付け加えたいと思う人が出てくるかもしれないので、7というタイトルが付けられる余地を残しておいたほうが良さそうな気もする。

 個人的に注目する作品はガボリオの「バティニョールの老人」。ミステリとしてはやや中途半端というか、探偵の紹介なのか、名探偵となるための成長を描いているのかどっち付かずと思えた内容。ただ、ガボリオの作品は、近年あまり読むことができないので、こうした形で紹介してもらえるのは嬉しいところ。

 あと、これも近年では本屋で見かけることがなくなった作家であるガードナーの作品が紹介されているところも嬉しい。しかも無実の容疑者の罪を晴らすという内容も興味深く、面白い作品であった。個人的には本書のなかではベスト(未読だったからというのもあるが)の作品。

 チャンドラー、シムノン、イネスの作品やケメルマンの有名すぎる「九マイルは遠すぎる」あたりなどは、掲載しておく価値はあるなと納得させられる。その反面、たとえ有名作家であってもパール・バックあたりは、無理に載せなくても良かったのではないかと思ってしまう(元々ミステリ界の人でもないし)。

 それと「五十一番目の密室」は、至る所で読んでいる気がして、先の5冊に掲載されていなかったのかと錯覚してしまうくらいのもの。


「バティニョールの老人」 ゴドゥイユは、謎の隣人メシネ氏と共に犯罪捜査に乗り出すこととなり・・・・・・
「ディキンスン夫人の謎」 探偵のもとに、宝石商がさる裕福な家の夫人が窃盗を働いていると訴えに来て・・・・・・
「エドマンズベリー僧院の宝石」 僧院から高価な宝石が盗まれたことについて、悩める僧侶は・・・・・・
「仮装芝居」 ラッフルズは、宝石を見せびらかす男から、その宝石を奪おうとたくらむのであったが・・・・・・
「ジョコンダの微笑」 浮気をしていた男の妻が病死したのだが、思いもよらぬ証言により男は窮地に追い込まれ・・・・・・
「雨の殺人者」 娘につきまとって恐喝する男を遠ざけてくれと依頼され、男の元を訪ねると、その男の死体と全裸の娘が・・・・・・
「身代金」 幼い娘を誘拐された男は、葛藤の末・・・・・・
「メグレのパイプ」 夫人とその息子が警察に来て、何者かが家の中に侵入していると! 眉唾物の話であったが、メグレのお気に入りのパイプがなくなり、息子が盗ったと疑いを抱き・・・・・・
「戦術の演習」 妻を憎むようになった男は、ふと妻を殺害することを思い描くのであったが・・・・・・
「九マイルは遠すぎる」 友人が、適当に考えた文章から論理的な推論を引き出してお目にかけようと言い出し・・・・・・
「緋の接吻」 同じマンションに住む見ず知らずの男の殺人容疑で逮捕された女性を弁護することとなったペリー・メイスンは・・・・・・
「五十一番目の密室 またはMWAの殺人」 未だ書かれたことのない新しい密室殺人を思いついたという作家が密室で死体となって発見され・・・・・・
「死者の靴」 列車に乗っていた男の元に女性客が飛び込んできて、左右違う靴を履いた男を見かけたと奇妙な話をしだし・・・・・・


漂う提督   The Floating Admiral (Certain Members of The Detection Club)

1932年 出版
1981年03月 早川書房 ハヤカワ文庫
2014年11月 早川書房 ハヤカワ文庫<復刊>

<内容>
 <序> ドロシイ・L・セイヤーズ
 <プロローグ> G・K・チェスタトン
 第一章 C・V・L・ホワイトチャーチ
 第二章 G・D・H&M・コール
 第三章 ヘンリイ・ウェイド
 第四章 アガサ・クリスティー
 第五章 ジョン・ロード
 第六章 ミルワード・ケネディ
 第七章 ドロシイ・L・セイヤーズ
 第八章 ロナルド・A・ノックス
 第九章 F・W・クロフツ
 第十章 エドガー・ジェプスン
 第十一章 クレメンス・デーン
 第十二章 アントニイ・バークリイ
 <予想解決編>
   □ノックス作品一覧   □バークリイ作品一覧

<感想>
“探偵クラブ”の面々によるリレー小説ということなのだが、これがまたそうそうたるメンバー。このリレー小説を書くにあたって、チェスタトンによるプロローグのみ後に書かれたもので、その他は各章で展開された内容を引き継いでの執筆となっている。物語は、川辺に船が流れて来て、そのなかに元海軍提督の死体が発見されたのを発端とし、その事件を解く警察関係者の様子が描かれるという内容のもの。

 まず思ったのは、序文とプロローグの文章が固すぎるということ。人によっては、この出だしで読むのを止めてしまうという人もいたのではないだろうか。できれば、もう少し取っ付きやすくと思わなくもないが、全体的に文章の固い人が多かったという印象。中にはクリスティーを代表するように読みやすい文体の人もいるのだが。

 それぞれ個々の特徴を用いながら話が進められてゆく。クリスティーはゴシップ好きの夫人を登場させたり、ジョン・ロードはボートに綱についてやけに詳しく言及したりと、それぞれの個性が感じられるところが面白い。また、ノックスについては、39の疑問点をあげるなど、さすがに“ノックスの十戒”を書き上げたように、分析が好みのようである。

 これらを読んでいて感じたのは、どの著者も全く話を収集させる気がなさそうだということ。何しろ先にも述べたように、物語の中盤にさしかかり、ノックスが疑問点を39も述べるほど、謎は収束されなさそうな様相を見せてくる。そして、その後の作家たちもさらなる謎を提示してくる。

 これは駄作になってしまうのかと思いきや、ラストをかざるバークリイが100ページというページ数を使って、力技で物語の収集を見事遂げてしまうのである。いや、これはよくぞまとめたなと。全体的にうまくまとまっているとは、言い難いのであるが、これだけ完成させればリレー小説としては十分であろう。

 最後にそれぞれの作家が自分が書いたところまでの時点で予想解決をしているのだが、これを見ると実は皆がそれぞれきちんと解決を考えていた模様。そのそれぞれが自分の解決へと矛先を向けようとするものの、それぞれの作家の考え方が違うためにあてどないところへ行ってしまったのかなという感じ。

 本書を読むとリレー小説の難しさというものがわかる。しかも12人という作家をそろえて、よくぞやる気になったなと感嘆させられてしまう。本書の内容は、これが一人の作家の作品であれば、いまいちという感じがするものの、リレー小説という企画においては十分読み応えのある作品となっている。


ホワイトストーンズ荘の怪事件   Double Death (Sayers, Crofts and others)   6点

1939年 出版
1985年04月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 ホワイトストーンズ荘の女主人エマ・ファーランドは疑心暗鬼に陥っていた。誰かが自分に毒を盛っているのではないかと。日々、彼女の世話をしている姪を怪しみ、次には離れて暮らす甥を怪しみ、さらには主治医までもを疑い始める。そんなある日、エマのために新しく付き添いの看護婦が雇われることとなったのだが・・・・・・

 第一章 ドロシー・L・セイヤーズ
 第二章 フリーマン・ウィルズ・クロフツ
 第三章 ヴァレンタイン・ウィリアムズ
 第四章 F・テニスン・ジェス
 第五章 アントニー・アームストロング
 第六章 デイヴィッド・ヒューム

<感想>
 6人の推理作家よるリレー小説。知っている作家はセイヤーズとクロフツくらいしかいないのだが、それでも興味深く読める作品となっている。

 この作品は、最初にテーマというか、事件のとっかかりのような部分が与えられ、その後作家が順番に作品を書下ろし、最後の作家がまとめるというような形がとられている。この作品の目玉的なものは、各作家から次の作家に原稿が渡されるときに、作家が創作上で考える作家ノートが付けられており、これも作中に掲載されているところである。ゆえに、それぞれの作家がどの登場人物を犯人と目して、それに応じてどのような行動をさせているかというようなことが書かれているのである。

 その内容に応じて、次の作家が作品を書くものの、真犯人をそのまま前の作家から引き継いで自分のパートを書き上げる人もいれば、いや自分の考えは違うとばかりに、別の人物にスポットを当てる作家もおり、そうした各作家の考えを参考にしながら読むことができるので非常に興味深いものとなっている。

 と、そのリレー小説が書かれるディテールについては楽しめるのだが、作品そのものについてはあくまでも凡庸という感じ。毒殺事件が起きるのだが、その結末に関しては・・・・・・犯人は結局誰でもよさそうな感じだという・・・・・・。最初の第1の殺人の展開については驚かされたのだが、第2の殺人以降の展開は、あまり見るべきところがなかったかなと。それでも最後のほうで、突然新たな登場人物が出てきたり、それが活躍し始めたりという点については、いかにもリレー小説らしくて面白いと思われた。


殺意の浜辺   Crime on the Coast/No Flowers by Request   5.5点

1984年 出版
1986年02月 早割書房 ハヤカワ文庫

<内容>
「殺意の浜辺」
(ジョン・ディクスン・カー、ヴァレリー・ホワイト、ローレンス・メイネル、ジョーン・フレミング、マイクル・クローニン、エリザベス・フェラーズ)
 行楽でにぎわう浜辺の保養地でフィルは突如、女性から話しかけられる。ニータと名乗る女性は、自分は伯父といとこから命を狙われていると話し始め・・・・・・

「弔花はご辞退」
(ドロシイ・L・セイヤーズ、E・C・R・ロラック、グラディス・ミッチェル、アントニー・ギルバート、クリスチアナ・ブランド)
 未亡人となったマートン夫人は、カリングフォード家で家政婦として働くこととなった。そこは、主人のマーカスと病気がちで寝込む妻、そしてマーカスの甥と姪、庭師の女性と看護師が住んでいた。何やら不穏な空気がただよう屋敷のなか、その不穏な雰囲気は現実のものとなり、毒殺事件が起きてしまい・・・・・・

<感想>
 リレー小説が2編掲載された作品。分量としては文庫で100ページ程度なので、中編が2編という感じのもの。

 一つ目の作品は「殺意の浜辺」。カーが参加しているので、期待したものの、中味は微妙。何しろ、執筆陣のほとんどが知らない人ばかり。カーとフェラーズくらいしか知らない。どうやら、ミステリ畑ではない作家が集まったようで、それゆえかミステリというよりは、スリラー系サスペンスのような感触の作品となってしまっている。

 また、話のとっかかりに関しても、行動範囲が限定されておらず、やけに広い場所での事件となっているので、どうしても行動範囲が広がり過ぎて、話の中身も散逸してしまったという感じ。これは、リレー小説の難しさがうかがえるものと言えよう。

 それに対して「弔花はご辞退」のほうは、本格ミステリらしい仕上がり。執筆陣もよく知っているミステリ系の作家ばかり。そして、ひとつの屋敷を舞台としているところもミステリとしてまとめやすかったのであろうと感じられた。

 内容は毒殺もの。屋敷に住む一家のそれぞれの動機を掘り下げていくものとなっている。途中、脇役の家政婦の人格が大きく変わり過ぎているというように感じたところもあるのだが、そこはリレー小説ならではというところか。全体的に、単体のミステリとして見ると特筆すべきところはないのだが、やはりリレー小説ということで価値がありそうな作品という気はする。




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