Michael Connelly  作品別 内容・感想2

罪責の神々   6.5点

2013年 出版
2017年10月 講談社 講談社文庫(上下)

<内容>
 弁護士ミッキー・ハラーに新たな弁護依頼がもたらされる。依頼者はアンドレ・ラコースというポン引きで、彼が囲っていた売春婦が何者かに殺害され、その容疑者になってしまったとのこと。ラコースが何故、ハラーを指名してきたかというと、殺害された売春婦が以前ハラーの世話になったことがあったと。亡くなった売春婦は以前グロリア・デイトンと名乗っており、ハラーが目をかけ、何度か助けたことがある人物であった。ハラーはグロリアが心機一転、別の地で幸福に暮らしていると思っていたのだが、まさかまた売春婦になり殺害されてしまうとは。弁護を引き受けることとなったハラーは、最初は簡単に勝利をもぎ取れると思っていたのだが、事態は困難極まりないこととなり・・・・・・

<感想>
 前作では、地区検事長選に立候補するとのことであったが、どうやらそれに落選し、今まで通りの“リンカーン弁護士”に戻ることとなったミッキー・ハラー。犯罪者を弁護することによって、家族との亀裂が生じ、その仕事に悩みつつあるハラーのもとに新しい依頼がもたらされる。

 今回の弁護も従来通りのものであるのだが、事件の背後に潜む真相に大きな闇が隠れていて、事件の調査中に身の危険を感じることとなるミッキー・ハラー。そうしたなか、無実の者を助けようとする思いと、知人である被害者女性の無念を晴らしたいという思いからハラーは被害者を弁護するための情報を仕入れようと奔走する。

 いつもながらの通常の法廷小説が読める作品となっている。ただ、主人公側からこの事件を見ると、明らかに弁護側が有利というか真相をついていたような気がするのだが、行われる裁判は綱渡りの状況。何気にあからさまな事件であっても、検事や弁護士の腕、さらには審判員の印象次第で、裁判というものが大きく揺らぐものだという印象を受ける。さらには、判事の心持ちによるものも、裁判に大きな影響を与えているように思え、無実を勝ち取る難しさというものを痛感させられる。

 本書では主人公のミッキー・ハラーの先行きについて、特に分岐点などを示すようなものはない。これは、今後もそのまま弁護士を続けていくという事なのであろうか。物語の始めの方では、タイトルにあるように弁護士という職業に“罪責”というようなものを感じていたようであるが、今回の事件で異なる思いは芽生えたのであろうか?


燃える部屋   6.5点

2014年 出版
2018年06月 講談社 講談社文庫(上下)

<内容>
 ロス市警未解決事件班での定年延長制度の最後の年を向かえるハリー・ボッシュ。彼に与えられた事件は、10年前に広場で演奏中に銃撃され、体に残った銃弾による後遺症で亡くなった男に関する事件。それを新人の女性警官であるルシア・ソトとコンビを組んで担当することとなった。やがてボッシュらは、その事件が何者かによる狙撃によって起きた事件であることを突き止める。ボッシュが事件捜査にあたっている最中、ルシアが不審な行動をとっていたので、問い詰めてみると、彼女が子供の頃当事者となった未解決事件を追っていることを知らされ・・・・・・

<感想>
 刑事ものとして読み応えのある作品。今回ハリー・ボッシュは、新人警官を育てつつ、2つの未解決事件を追っていくこととなる。それは10年前に広場でビウエラ(メキシコの民族楽器)奏者が銃撃された事件の謎と、火災により子供たちが死亡した事件。楽器奏者銃撃事件は政治色が強いものであり、火災による事件は新人警官ルシア・ソト自身が関わった事件となっている。

 今回の作品では、始まりこそ政治色が強く、上司による鬱陶しい干渉が見られたものの、中盤以降の捜査の途上ではさほど妨害もなく順当に事件捜査が進められる。それゆえか、ある種地味な作品とも言えるのだが、ちょっとした手がかりを細かくたどりつつ、ボッシュが自身の知り合いによるネットワークを駆使して、真相を導いていくところは圧巻。今作は特に刑事による捜査小説として濃い内容であると感じられた。

 そして本書のポイントはシリーズを通してのボッシュの先行きについて。現在未解決事件班に籍をおいているボッシュも残り一年を迎える。ただし、強引な捜査を続けるボッシュがその一年を全うできるのかということ。それが本書の最初からボッシュに影を刺す部分であり、何気に小説の帯にも“刑事ボッシュ最後の日”などと書かれていたりする。ゆえに、なんとなくこの作品の結末でのボッシュの処遇が予想出来てしまうのだが、読み手としては今後まだ続いているボッシュ・シリーズがどのように続いていくのかが気になるところ。この作品自体も2014年に書かれたもので、以下続刊が出続けているので安心して以降の作品を待ちたいと思う。


贖罪の街   6点

2015年 出版
2018年12月 講談社 講談社文庫(上下)

<内容>
 警察を退職せざるを得なくなったボッシュは、異母弟の弁護士ミッキー・ハラーから仕事の依頼を受ける。しかし、警官が弁護士の下請け調査を引き受けることはタブー視されており、それをすると警察仲間からは裏切り者扱いを受けることとなってしまう。ただ、ハラーの元で調査をしていた調査員が不慮の事故にあったため、ボッシュに頼らざるを得ないのだと。ハラーが持ち掛けてきた事件とは、とある女性が殺害された事件で、現場から容疑者のDNAが発見されたというもの。ハラーはその容疑者が事件を起こしたのではないと信じているようなのであるが・・・・・・

<感想>
 前作の事件により警察を退職せざるを得なくなったボッシュ。そんあボッシュに弁護士ミッキー・ハラーからの依頼が来る。しかし、弁護士の調査を手伝うということは警察仲間から裏切り者扱いされることとなり、いままで警官として生きてきたボッシュはハラーの手伝いに乗るかどうかを葛藤する。しかし、もし容疑者が無実であるならば、犯罪者を野放ししているということになり、そこに警官として使命が芽生えたボッシュは結局依頼を手伝うこととなる。

 なんとなく最近のハリー・ボッシュ・シリーズは社会派警察小説となりつつあるような気がする。事件の内容云々よりは、その事件捜査をするにあたっての障害や、裁判を迎えるにあたって気を付けなければならない捜査方法など、そういったものを現代的な視点で表しているといった趣が強い。

 もちろんのこと、今作でもボッシュらしい警察捜査や、アクションシーンなどもあふれていてシリーズらしい作品であるのだが、どこか社会派的なところばかりが強調されているように思わずにはいられない。特に、これも最近のシリーズで見られることなのだが、結末が意外とあっさり目のように受け取れる。そこにあえて、どんでん返しなどを入れ込まずに、“警察小説”“法廷小説”として表しているところこそが現在のマイクル・コナリーの目指すべき作調なのであろうか。


訣 別   6.5点

2016年 出版
2019年07月 講談社 講談社文庫(上下)

<内容>
 ロス市警に務めることができなくなったボッシュは、かつての上司に誘われ、ロス北部郊外のサンフェルナンド市警にて無給の嘱託刑事として働いていた。そこでボッシュは未決事件とされていたレイプ事件について調べていた。そうしたなか、ボッシュは個人的な調査依頼を受けることに。それはアメリカ屈指の大富豪、ホイットニー・ヴァンスからのものであった。彼の依頼とは、彼が10代のころに別れることとなった、子供の行方を調べてもらいたいというものであり・・・・・・

<感想>
“流転”ということばそのもののハリー・ボッシュ。新刊が出るたびに、異なる場所、異なる部署、異なる立場で事件を迎え撃つこととなる。ただ本人は、その事件を解決するための警官という立場が得られればそれでいいという考え方なので、基本的には事件捜査さえできれば、どこにいても平気なのであろう。

 今回ボッシュは、ロサンジェルス郊外の小さな市警で勤務することとなり、未解決事件となっているレイプ事件を捜査している。また、警察では非常勤として働いているため、私立探偵のライセンスを生かした個人的な仕事も請け負っている。その私立探偵としての仕事は、アメリカの大富豪のひとりから、彼の血を引くものを捜してもらいたいというもの。

 今作でも上司による介入とか、捜査中にさまざまな邪魔が入ることとなるが、今までの作品と比べれば、比較的薄めの介入。そんなわけで、基本的には二つの仕事をしっかりと進めてゆくことができる。ただし、遺産相続の件に関しては、莫大な財産が絡む故に、徐々に捜査に対する妨害の質が荒くなりつつある。

 そしてレイプ事件に関する捜査も徐々に大詰めを迎えるのだが、ボッシュのちょっとした油断により、緊迫した場面が待ち受けることに。その事件捜査の大詰めが、サスペンスフルな展開で描かれており、今作の見どころとなっている。また、大富豪の世継ぎに関しても二転三転しながらも、徐々に終幕へと・・・・・・

 という感じで、非常によくできており、かなり楽しめた内容であった。弁護士のミッキー・ハラーもしっかりと登場して存在感を示しており、シリーズ作品としても十分に楽しめる。なんだかんだ言いながらも、ボッシュが警官としての仕事を満喫していることこそが読者にとっては喜ばしいところであろう。


レイトショー   6.5点

2017年 出版
2020年02月 講談社 講談社文庫(上下)

<内容>
 ロス市警女性刑事レネイ・バラード。彼女はレイトショーと呼ばれる深夜勤務を担当していた。本来であれば、普通に刑事として捜査に取り組みたいところであるが、とある事情により深夜勤務を強いられている状況。そんなとき、ナイトクラブで銃撃事件が起き、捜査に駆り出されることに。といってもレネイは、事件捜査にあたらせてもらえず不満のみが積もってゆく。ただその事件とは別に、レネイは女装男性が暴行を受けるという事件を追っており、その事件のみに集中しようとする。そんなある日、事態を一変するような大きな事件が立て続けに起こり・・・・・・

<感想>
 ハリー・ボッシュの代わりに女性刑事を主人公として、いつもどおりのマイクル・コナリーらしい警察小説が展開されている・・・・・・と、批判的に言いたかったところだが、読んでみるとやっぱり面白い。特に中盤以降はページをめくる手がとまらなくなるほど面白い。

 最初は、第一線から外されて深夜勤務を強いられることとなった女性刑事レネイ・バラードの紹介から始まる。なんらかの制約を設けつつも事件捜査に邁進していくというのは、ハリー・ボッシュ・シリーズであればお馴染み。ゆえに、キャラクターが変わっただけで、いつもながらのコナリー作品とさほど変わらないじゃないかと感じずにはいられなかった。

 ただ、話が進むにつれ、そうしたマンネリ感は徐々に薄れていくことに。ナイトクラブ銃撃事件と女装男性暴行事件の捜査が進む中で、レネイ自身に直結するような新たな事件が起こり、否が応でも主人公は事件に巻き込まれてゆくこととなる。そうした事件展開が中盤からは矢継ぎ早に起こり、それら事件によりレネイが色々な意味でピンチを迎えることとなる。

 そして、うまく出来すぎた話だと勘繰りつつもラストでは・・・・・・予想外の展開にやられてしまうこととなった。結局、読み終えてみれば面白いの一言であった。なんか、最後の最後まで著者の術中にはめられたままの状態で読み込まされてしまったような面持ち。とにかく、よくできたスピード・サスペンス型の警察小説であった。


汚 名   6点

2017年 出版
2020年08月 講談社 講談社文庫(上下)

<内容>
 サンフェルナンド市警の刑事として働いているハリー・ボッシュ。そんなボッシュは、30年前に逮捕した服役中の囚人の件で、新たな証拠が出たと告げられることに。再審の行方次第では窮地に陥る羽目になるボッシュ。なんとか事態を打開しようと動き始めたところ・・・・・・管内の薬局店で経営者親子が銃殺されるという事件が起きる。ハリーは自身の身の潔白を証明しつつも、刑事としての仕事もこなさねばならず・・・・・・

<感想>
 今回のハリー・ボッシュは二つの事件に着手する。ひとつは、自身がかかわった30年前の事件。ボッシュは殺人犯を特定し、逮捕。その男は未だ死刑囚として収監されているのだが、DNAによる新たな証拠が見つかり、無実の可能性が出てきたという。もし、無実が証明されればボッシュは莫大な損害賠償を要求されかねない羽目となってしまう。この新たな証拠がどのように出てきたものなのか、ボッシュは調査をし始め、また裁判に備えてミッキー・ハラーと相談することに。

 もうひとつの事件は、薬局にて経営者親子が銃殺されるという事件。彼らがどのような経緯を経て殺害されるに至ったかを捜査しているうちに、組織的な犯罪の様相が浮き彫りとなる。そしてボッシュは潜入捜査を行い、事件の解決を図ることとなる。

 という感じで二つの事件にボッシュが乗り出すこととなる。相変わらず、現代社会派刑事小説という感じで、興味深く読むことができる。特に裁判に備えて、いかにうまく立ち回り、犯人を有罪確定するかという捜査方法については目を見張るものがある。それを怠れば、優秀な弁護士の手によって、簡単に無罪判決が出てしまうということとなるようである。

 今回の作品も面白かったのだが、全体的にうまく話が進みすぎという感じがした。どちらの事件もボッシュよりというか、お約束的にボッシュのほうにうまい具合に流れていくというものであった。それならば、二つの事件に分けずに、どちらかひとつをじっくりとやっても良かったようにも思える。ドラマチックというよりかは、ドラマ的なご都合主義的な内容。


素晴らしき世界   7点

2018年 出版
2020年11月 講談社 講談社文庫(上下)

<内容>
 深夜勤務を専従とする女性刑事、レネイ・バラードが署に戻ってくると、見知らぬ男が事件ファイルをあさっているのに出くわす。男を問いただすと、彼は以前ハリウッド署に勤めていたハリー・ボッシュといい、現在はサンフェルナンド市警に勤めているという。ボッシュはかつてデイジー・クレイトンという少女が殺害され、未解決となった事件について調べているという。深夜勤務の業務に物足りなさを感じていたレネイ・バラードはボッシュが調査している事件に興味を覚え、ボッシュと取引をし、共に事件捜査に乗り出すこととなり・・・・・・

<感想>
 なんと今年3冊目の刊行なるコナリーの作品。もうベテラン作家の域に達しているのに、精力的に書き続けているなと感嘆。ちなみにこの作品、今年出たコナリー作品のなかでは個人的には一番面白かった。

 今作は、「レイトショー」で初登場を果たした女刑事レネイ・バラードとハリー・ボッシュが共演した作品となっている。ボッシュが前の作品「汚名」で関わった女性エリザベス・クレイトンの娘が過去に殺されており、それが未解決事件になっているということで事件の真相を調べてゆくというもの。そこにレネイ・バラードも加わり、過去の事件を地道に掘り下げてゆくこととなる。

 最近のコナリー作品では、二つくらいの事件を平行に走らせてゆくというパターンがよく見られるが、今作では起こる事件がとにかく盛りだくさん。レネイ・バラードのほうは、女性の不審死から派生した盗難事件、さらには男性の行方不明事件までもを手掛けることとなる。ボッシュは、過去に起きたギャングの殺人事件の真相を暴くために奔走し、その結果、今回ものっぴきならない羽目に陥ることとなる。

 そんな感じで、多くの事件に関わり合いながら、本題の捜査をバラードとボッシュで進めていくことになってゆく。忙しい二人ゆえに過去に起きた、調べるにも途方もなさそうな事件を解決できるのかと不審に思ってしまいつつも、最後にはしっかりとした結末へと向かうことに。

 シリーズ作品としては、またもやボッシュの立場が微妙なものになりつつあり、今後の行方がどうなるかが見もの。結局のところボッシュはひとところにはいられない性質であるのかなと。また、そうしたシリーズ展開により、今後レネイ・バラードの存在が重要になるということなのかもしれない。レネイは優秀な刑事でありながらも、現状の地位に満足してなく、やりがいのある事件を求めているというところが大きなポイントとなっているのであろう。そんな感じで、マンネリ化せず、今後も目が離せないシリーズになっていきそうで楽しみである。


鬼 火   7点

2019年 出版
2021年07月 講談社 講談社文庫(上下)

<内容>
 ボッシュが新人時代にパートナーとして組んでいた恩師の元刑事が亡くなった。葬儀に参加したボッシュが、恩師の妻から過去の殺人事件のファイルを託される。どうやら恩師は、そのファイルを隠し持っていたらしい。それは、若い男が銃で射殺されたものの、未決となった事件。その事件に対して、ボッシュはレネイ・バラードの力を借りて、捜査を始めることに。また、ボッシュはミッキー・ハラーの手助けをして、判事が殺害された事件の容疑者の無罪判決を勝ち取ることに。ただし、その結果、ボッシュは警察組織から目の敵とされることとなる。ボッシュは、事件の容疑者の無罪は間違いないことは信じており、野放しになっている真犯人を自分の手で逮捕することを考え・・・・・・

<感想>
 今作はハリー・ボッシュとレネイ・バラードの二人がそれぞれ活躍しつつ、協力し合いながら事件を解くというものとなっている。大きな事件は2つ。ひとつはボッシュの恩師である元刑事が隠し持っていた未解決事件。若い男が銃で射殺されたというもの。この事件については現役のバラードのほうが捜査しやすいということでボッシュはバラードに事件を託し、バラードが積極的に事件の捜査を行う。

 もうひとつは、ボッシュが弁護士ミッキー・ハラーの手助けをしたことにより派生した事件。判事射殺事件の容疑者の無実を証明したものの、肝心の真犯人は野放しになっているという状況。ボッシュはその事件について単独で捜査を始めてゆく。

 後半に入ると、その判事射殺事件のほうが話がどんどんと大きくなって行き、謎の殺し屋との対決へと展開していったりと読みどころ満載。バラードとボッシュ、互いがうまく協力し合いながら事件を解決していく様相が実にうまく描かれている。

 それと本書を読んで気になったのが、著者はそろそろボッシュの退場についてを考えているのではないかと言うこと。実際ボッシュも70近くになり、体が効かなくなりつつあり、さらには新たな病気の発症ということも取り上げられている。コナリーの作品では「わが心臓の痛み」という作品で主人公を務めたテリー・マッケイレブという元刑事の退場がその後の作品で描かれていたので、ボッシュについても、今後どのような描かれ方をするのかが気になるところ。それに伴いレネイ・バラードの立ち位置も今後どのようになるのやら。


警 告   6点

2020年 出版
2021年12月 講談社 講談社文庫(上下)

<内容>
 現在、ニュースサイトの記者を務めるジャック・マカヴォイの元に警察が訪ねてきて、殺人事件の容疑をかけられることに! ジャックが一度だけ話をしたことのある女性が殺されたのだが、生前ストーカー被害にあっていたということで、ジャックがそのやり玉に挙げられたのであった。どのような事件が起きたのかジャック自らが調べていくと、とあるDNAの調査機関に突き当たり、さらには闇に潜む連続殺人犯の気配を感じ取ることに。特ダネをスクープするべく事件調査を進めてゆくジャックであったが・・・・・・

<感想>
 事件記者ジャック・マカヴォイ・シリーズ、「ザ・ポエット」「スケアクロウ」に続く3作目。事件記者が主人公だからというわけではなかろうが、読み始めは正直なところあまり面白くなかった。そんな感じで話が続いていくのかと思いきや、読んでいるうちにだんだんと面白くなってくる内容。後半はもう一気読みという感じであった。

 序盤は、あまりにも漠然としているような気がして、何を追っているのかがよくわからなかった。死者が出たものの、それを良く調べてみれば、連続殺人事件の存在が背後に見えてくることに。さらには、その被害者たちが同じDNA調査機関でDNAの調査を行っていることがわかり、そのDNAの流失が事件に関わっているのではないかと予測される。

 そして、その後犯人らの活動が大っぴらになっていき、物語はノン・ストップ・サスペンスのような様相を見せていくこととなる。ただ、それでも結局のところ事件を起こした者がどのような理由で、具体的にどのような手順でということが、完全には明らかにならなかったので、やや消化不良気味。最終的には力業のスピード・サスペンスの流れで一気に持って行ってお終いというような流れであった。

 主人公のジャック・マカヴォイと、これまたハリー・ボッシュ・シリーズでも登場したことのある元FBI捜査官のレイチェル・ウォリングが登場するシリーズであるが、二人は順調に年をとり、今では初老というような年齢。そんなコンビ(といってよいかどうか微妙な感じもするが)の活躍はまだまだ続きそうであり、いつかまた、さらなる活躍が見られそうである。


潔白の法則   7点

2020年 出版
2022年07月 講談社 講談社文庫(上下)

<内容>
 刑事弁護士のミッキー・ハラーは運転中、警官による車を止められる。その警官がミッキーの車を調べると、トランクから死体が発見されることに。ハラーは殺人容疑で逮捕され、収監されることとなる。ハラーは収監されながらも、自分のチームの面々やハリー・ボッシュらと連絡を取り合い、自分自身の訴訟に弁護人として挑むことを決意する。事件自体を調べてゆく中、ハラーは何者が自身をはめたのか突き止めようとし・・・・・・

<感想>
 久々の弁護士ミッキー・ハラー・シリーズ。今作はガチガチの法廷小説となっている。ただ、その被告がなんとミッキー・ハラー自身であり、ハラーは自身の弁護を務めることとなる。

 主人公自身が被告になるということで、今までとは違った味わいで読むことができる。ひとつは過酷な収監生活を垣間見ることができること。これを読むと、何故人は高い保釈金を払ってまで収監状況から逃れたがるのかと言うことを痛感させられる。しかも、元々犯罪に縁のない人ほど、収監というものに免疫などないのだろうから。

 また、今回より痛感されるものがタイトルにもなっている“潔白の法則”というもの。法廷においては、実際に罪を犯そうが、良い弁護士を雇うことができれば、時として無罪を勝ち取ることができることもある。特にアメリカであれば、そういった例は多いのではないかということが伺える。ただ、人によっては無罪を勝ち取ったとしても、その後世間に出たところで、犯罪者としての疑いをかけられたままであり、後ろ指をさされ続けることとなることもあるだろう。

 ミッキー・ハラーの場合、無罪を勝ち取った後にも弁護士として働く必要があるので、それを考えると完全なる無罪を勝ち取る必要がある。それを得るには、真犯人の存在を明らかにし、事件自体を解決に持ち込まなければならないのである。今まで、通常の弁護士の仕事と言えば、真犯人を探すことではなく、被告の無罪を勝ち取ることのみと思っていたのだが、こういった例もあるのかと今回考えさせられた。

 こういった背景の元、弁護側の裁判に対する準備が行われ、そして法廷での対決場面が繰り広げられることとなる。今作は、かなり真っ当な法廷ものといった感じで、久々にこういった内容の作品を堪能することができた。最後の幕引きについては、どうなのかなと思えなくもないのだが、今回のテーマゆえに、あえてこういう終わり方をしたのだろうと考えられる。シリーズの今後としても後を引きそうな感じではある。

 今作ではミッキー・ハラー・シリーズに登場した人物総動員に近いようなキャストとなっている。特に元妻である二人が存在感を示していた。ハリー・ボッシュも登場していたのだが、後半になって突然、その存在が希薄になってしまったのは微妙なところ。途中までは結構、重要な役割を担う感じであったのだが。そんなこんなで、シリーズとしても読みごたえのある作品であった。


ダーク・アワーズ   6点

2021年 出版
2022年12月 講談社 講談社文庫(上下)

<内容>
 深夜勤務担当刑事のレネイ・バラードは、二人組のレイプ犯を追っていた。“ミッドナイト・メン”と密かに名付けられた犯人たちは、これまで3人の女の自宅を計画的に襲撃している。バラードは、犯人になんらかの法則性や目的があるのではないかと、被害者に対して繰り返し聞き込みを行う。また、別の事件に遭遇することとなり、それは新年に起きた銃撃事件。一見、偶然起きた事故のように思えたが、鑑識の調査によって、被害者は何者かに狙われたものと判断が下される。バラードはこれらの事件が、自分の手からすり抜ける前に解決を図ろうと画策する。そして、銃撃事件を調べているうちに、過去に同じ拳銃が別の事件で使われていることを知り、その事件担当者にハリー・ボッシュの名前を見つけ・・・・・・

<感想>
 普通に面白かった。一応、レネイ・バラードとハリー・ボッシュがコンビを組むという位置づけのシリーズ作品であるが、基本的にはレネイ・バラード・シリーズといってもいいほど、彼女が独り立ちをして捜査に取り組む作品である。ボッシュは本書においては、サポート・パートナーという感じであった。

 バラードが2つの事件に取り組むものの、彼女自身の深夜勤務担当という位置づけと、他の警官たちのやる気の無さという壁に阻まれ、捜査が立ち行かなくなるという状況が描かれている。これに関しては、ハリー・ボッシュ・シリーズを含め、よく見られることであるが、もう少し主人公らを自由に捜査させることができないかと著者に対してもどかしく感じてしまう。というのは、これらのシリーズでは、常に警官としての立場が危ぶまれ、毎回のように辞めるか辞めないかの瀬戸際に立たされている様子が描かれている。こういった状況が毎回のように描かれるというのは、どうだろうかと疑問に感じてしまう。

 ただ、本書を読み終えてみると、今回の警察機構に対する不信や、辞める辞めないという状況においては、実は現在のアメリカでの警察機構における問題になっているとのこと。これは、“ジョージ・フロイド事件”(黒人男性が警官の逮捕時の拘束により死亡するという事件)によるものだという。それゆえに、今回はその社会情勢を踏まえて書かれた作品であるとのこと。そう聞けば、主人公の辞める辞めないという話についても納得はいくものの、もう少しシリーズを通して、普通に警察活動をする様子を描いてもらいたいところではある。


正義の弧   6点

2022年 出版
2023年07月 講談社 講談社文庫(上下)

<内容>
 深夜勤務を行っていたレネイ・バラードであったが、この度、未解決事件班の責任者となり、さっそくチームの一員としてハリー・ボッシュを引き入れる。一時期は抹消されていた未解決事件班であったが、とある議員の妹が殺害された未解決事件があり、それを解決することを目的にこの班が立ち上げられたという経緯があった。ゆえに、レネイは議員に関わる事件を優先したいという気持ちがあったのだが、ハリー・ボッシュは、かつて自分が捜査したものの未解決のままとなっていた、一家殺害事件のほうに気持ちが傾き・・・・・・

<感想>
 なんとレネイ・バラードが未解決事件班の主任となり、捜査班のひとりにハリー・ボッシュを抜擢し、事件解決に挑むという内容。今までと打って変わって、妙な外部からのプレッシャーのかからない、安定した捜査ができるのかと、喜びもつかの間、そうは問屋が卸さないと。

 事件班の立ち上げに尽力した議員にまつわる事件を早急に解決しなければならなかったり、捜査班のなかに議員に情報を漏らすものやトラブルメーカーがいたりと、悪戦苦闘を強いられるレネイ・バラード。しかも、想定内とはいえ、独断専行するハリー・ボッシュを抑えなければならなかったりとてんやわんや。今作ではレネイ・バラードがいつのまにやら管理職になってしまったという感触が強かった。

 今作では二つの事件を解き明かすこととなるのだが、最初は今回のメインとなるかと思った一家殺害事件のほうは脇に追いやられ、議員の妹が死亡した事件のほうがメインという感じであった。ただ、二つの未解決事件という割には、結局のところどちらもあっさりと犯人が特定されていた。その辺は、ページ数の都合という感じか。

 最初読み始めたときは、ボッシュの事件捜査に関する立ち位置もようやく安定するのかと思って読んでいたのだが、最後まで読み通せば、そんな思いを嘲笑うかのような展開が待ち受けていた。なかなかそう簡単にはいかないもんだな・・・・・・というよりも、とうとうシリーズ終焉の臭いがしてきたのだが。




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