Jeffery Deaver  作品別 内容・感想2

限界点   5点

2010年 出版
2015年03月 文藝春秋 単行本

<内容>
 連邦機関の警護官、コルティが今回請け負う仕事は、ワシントンDCの刑事ケスラーとその家族。彼らがプロの“調べ屋”ヘンリー・ラヴィングから狙われているという情報が入ったのだ。ヘンリー・ラヴィングは、拷問によりターゲットから情報を引き出すのが得意で、コルティの師匠である警護官が彼の手にかかり殺害されていた。ケスラー刑事とその家族を護ろうとするコルティのもとに、何度もラヴィングによる罠が仕掛けられる。コルティはラヴィングの目的を突き止め、彼を捕らえることができるのか!?

<感想>
 ジェフリー・ディーヴァーは、かなりのお気に入りの作家であるのだが、この作品に対しては乗ることができなかった。5月中旬ぐらいから読み始めたのだが、なかなか読み進められず、読み終わるのに時間がだいぶかかってしまった。

 一応、凄腕のボディーガードと、“調べ屋”と言われる凄腕の殺し屋との対決を描いたものであるのだが、ノン・シリーズであるということもあってか、どちらも“凄腕”と評されるところがピンと来なかった。両者とも万能でなんでもできそうな割には、何故に名前が割れている殺し屋の正体を追えないのかとか、読んでいるうちに色々な矛盾が生じてくる。双方、どこからどこまでは可能で、何が可能でないのかがわからなく、ルールがよくわからないなかでの戦いと感じられてしまい、それが理由で序盤から話にのることができなかった。

 最終的にはディーヴァーの小説らしく、うまいと感じられる着地点に到達しているものの、その過程がいまいちであったかなと。できれば両方凄腕というよりも、どちらか一方にパワーバランスを傾けてもらえたほうが話としては分かりやすかったのではなかろうか。どちらか、キャラクターが栄えたうえでの頭脳戦を見せてくれれば、もっと内容に納得できたのではなかろうか。


007 白紙委任状   7点

2011年 出版
2011年10月 文藝春秋 単行本

<内容>
 イギリス政府本部は大規模な攻撃計画が進行されているというメールを傍受した。その攻撃が行われるのは今から六日後の金曜日。それまでに、どこで、誰が実際に何を行おうとしているのかを探り、計画を阻止しなければならない。この任務を命令されたのは暗号名007、ジェームス・ボンド。彼にミッション達成のためにはいかなる手段も容認する“白紙委任状”が渡された。果たしてボンドはこの難易度の高いミッションを無事に成功させることができるのか!?

<感想>
 デーヴァーによる007シリーズ。いくらディーヴァーとはいえ、ジェームス・ボンドを書くと言ってもピンとこないなぁ、と思いながら気乗りせず読み始めたものの、読み進めていくと思いのほかディーヴァー流007にはまってしまった。いや、これは素直に面白かったとしか言いようのない出来である。

 序盤はなんとなく読み進めにくい気がしたものの、徐々に気にならなくなってくる。時代設定は現代となっており、オリジナルの007が活躍した時代ではなく、現代にて007が活躍するというスタンスで描かれている。ゆえに、007の新兵器も全て今風のもの。大活躍するのはスマートフォンにインストールされている最新アプリの数々。スパイのアイテムもこんな風に変わってしまったかとため息をついてしまう。

 今回は007シリーズということで物語が組み立てられているのだが、これがまた007という立場だからこそ挑戦できるミッションとなっており、設定と物語が見事にマッチしている。ジェームス・ボンドが犯人の行方を追って世界を股にかけるわけであるが、これは決して地域警察にはできない仕事。ありとあらゆるコネと政府お抱えの諜報部という立場を利用して、007が縦横無尽に駆け回る様を見ることができる。

 さらには、後半はディーヴァー作品らしくドンデン返しの数々も健在である。いつものように最後の最後まで予断を許さない内容となっている。最初は気乗りしなかった007シリーズであったが、この作品を読みおえると続編は書かれないのかなぁと期待してしまう始末。読めば誰もがきっと現代に甦る007に魅入られること必至!


シャドウ・ストーカー   6点

2012年 出版
2013年10月 文藝春秋 単行本

<内容>
 キャサリン・ダンスは休暇をとり、友人のケイリー・タウンに会いに行くことに。ケイリーは有名な人気歌手であるのだが、現在執拗ともいえるやっかいなストーカーの存在に悩まされていた。そのストーカー騒動は、やがてケイリーの音楽スタッフのひとりが殺害されるという事件へと発展していく。ケイリーの窮地を救いたいとキャサリン・ダンスは現地の警察に手助けを申し出るのであったが・・・・・・

<感想>
 キャサリン・ダンスが活躍する3作品目。今回は休暇で訪れたカリフォルニア州フレズノで、友人の人気歌手をストーカー被害から守るというもの。

 いつもながらのディーヴァーらしい作品ではあるのだが、嫌気のさすストーカーを終始相手にするということで、内容に関しては楽しむことができず、やや読むスピードも遅めとなった。また、ディーヴァーらしい作品といいつつも、物語の展開が定型どおりという感じがし、そこは人気作家ならではの悩ましいところであろう。毎年、作品を書き続けてくれているというのは望むところであるのだが、それ故にマンネリ化を感じずにはいられない。

 今回の作品であるが、一番納得がいかなかったのが、なんで優秀な警察官と、それよりも優秀なキャサリン・ダンスらが、単なるストーカーに悩まされ続けなければならないのかということ。最後の最後まで、このストーカーが何故有能な人物かということに関して、なんの説明もなかったような・・・・・・

 本書でのちょっとした目玉はリンカーン・ライムとアメリア・サックスが登場してくれているところ。この二人の登場のおかげで、少しは物語が締まったかなという印象。著者は気に入っているのかもしれないが、いまいちキャサリン・ダンスという人物は主人公としては物足りないような。


オクトーバー・リスト   7点

2013年 出版
2021年04月 文藝春秋 文春文庫

<内容>
 息子を誘拐され、恋人と共に犯人の要求に従うため奔走する女ガブリエラ。誘拐犯は金銭のみならず、失踪したガブリエラの上司が持っていたとされる“オクトーバー・リスト”をも要求してくる。ガブリエラの恋人の協力により、お金を集めることができ、交渉の用意も進む中、何故か女を突け狙う誘拐犯が目の前に現れ・・・・・・

<感想>
 内容だけ見ると、普通のサスペンス・ミステリに見えるのだが、実はこの作品第36章から始まり、最終的に第1章で終わるという、時系列を逆にした作品となっている。こういった作品は、過去にもあったような気はするのだが、この作品に関してはよくできていると思われた。

 最初は、子供を誘拐された女性と誘拐犯、そして女性を助ける恋人という構図。そしてそこに女性を助ける側の人物や、何やら怪しげな見え隠れする者たち、さらには警察官らという人々が登場する。それが最初の登場から話が進む(時系列が逆ゆえに、過去が明らかになるという表現か?)につれ、それぞれの登場人物の見方が変わることとなって行くのである。そして、ラストには全編をひっくり返すような驚愕の事実が明らかとなる。

 この作品のうまいと思えたところは、最終章で余計な描写がなく、すっぱりと第1章で終わっているところ。通常であれば、終わったのちに、第37章などを付け加えて、その後の展開を描いたり、答え合わせのようなものを書きたくなるところであろうが、そういったことをせずに、第1章で終わりとし、しかもそれでしっかりと物語が成立しているところが凄いのである。これぞ内容云々ではなく、書き方の妙と言える作品であろう。


ゴースト・スナイパー   6.5点

2013年 出版
2014年10月 文藝春秋 単行本

<内容>
 アメリカ政府を批判していた活動家がバハマで何者かに暗殺された。その事件に対して地方検事補ナンス・ローレルが、暗殺を主導したと思われるアメリカ諜報機関を訴えたいというのである。暗殺された活動家は、口では過激な事をいっていたものの、実際にはさほど危険な人物ではなく、諜報機関の行き過ぎた行動を指摘するというもの。ローレルはリンカーン・ライムとアメリア・サックスの力を借りて、諜報機関の罪を暴こうとする。しかし、何者かが残された証拠を隠滅しようと次々と証人を暗殺してゆく。ライムは事件の証拠を分析しようとするが、政治的な問題により証拠を入手することができず焦ることとなり・・・・・・

<感想>
 強力になり過ぎて、ちょっとやそっとの犯罪者では太刀打ちできないリンカーン・ライム・チームであるが、今回は予想だにしない困難が待ち受けることとなる。他国で起きた事件により、政治的なからみから証拠が入手できないという状況。肝心の証拠がなければさすがのライムも手も足もでない。

 また、今作はものすごく近代的な事件を扱っていたと感じ入ってしまった。SFでしかお目にかけることができないよなものが登場し、実際の事件に関与してくることに。これに関しては、今作の目玉となるので是非とも読んで確認してもらいたい。原題の“The Kill Room”というのは、このことに関連する言葉。

 今回も、犯罪者に騙されまいとするよりも、著者のディーヴァーに騙されまいとあれやこれやと考えさせられてしまう。諜報機関を訴えようとする真意は? 暗殺事件には何か裏があるのか? 証拠を隠滅を繰り返す者の正体は? 徐々に提示されつつある証拠が語る真相とは何なのか? そうした思いに応えるかのように、ディーヴァーもしっかりと、最後の最後まで予想だにできない真相をしっかりと盛り込んできている。

 また、シリーズ作品としてもリンカーン・ライムに対して、新たな感情が芽生えるものとなっている。この辺の話の流れはなかなかうまいなと感心させられてしまった。まだまだ、ライムとアメリアのコンビは健在のようである。そして、チームとしても活躍してくれそう。ちなみに、今作がライム・シリーズの10作目!


スキン・コレクター   7点

2014年 出版
2015年10月 文藝春秋 単行本

<内容>
 かつてリンカーン・ライムのライヴァルともいえた“ウォッチ・メイカー”が刑務所で死んだとの報がもたらされる。感慨にふけっていたライムの元に新たな事件が。それは、毒によって刺青を施された犠牲者の死体。しかもかつての“ボーン・コレクター”を思い起こさせるものがあり、犯人はそれを意識しているのではないかと。ライムはいつしか、犯人を“スキン・コレクター”と呼び始め、アメリア・サックス、ロン・セリットー、ロナルド・プラスキーら仲間と犯人を追い詰めようと試みるのだが・・・・・・

<感想>
 面白かった。分厚いページ数であったが、すらすらと読むことができた。いつもながらさすがリンカーン・ライム・シリーズは面白い。

 今作は、死体に刺青を施すことにより“スキン・コレクター”と呼ばれる犯人とリンカーン・ライム・チームが激突する。このシリーズにおける懸念は、ライムのチームがすごすぎて、太刀打ちできる犯罪者がいなくなっているということ。しかし、今回の犯罪者はたいしたバックボーンがなさそうな者にもかかわらず、ライムらの上手を行く犯罪者ぶりを見せつけ、彼らを煙に巻き続ける。

 また、今回の犯人の犯行についても、不明というか不穏なものを感じてしまった。殺人を犯すのかと思いきや、殺さずに済ますときがあったり、さらには全体的に犯行の動機がいまいち不透明。通常、このような猟奇殺人を犯す者は、本人の趣向という意味合いが強いのだが、それを今回の犯罪者からは感じられないのである。

 そうこうしているうちに後半へと入ると、ディーヴァーお得意のどんでん返しに彩られることとなる。前述に書いたさまざまな疑問の数々がそれぞれクリアされることとなり、さらには読み手の想像を上回る着地点へと到達することとなる。しかも、単にどんでん返しをしているというわけではなく、きっちりと張り巡らされた伏線を回収しているところが素晴らしい。

 色々と語りたい部分はあるのだが、そうするとほとんどネタバレになってしまうので、その辺は収めておくこととする。個人的にはボーン・コレクターで登場していたパム・ウィロビーというものが、今まで登場していなかったにも関わらずアメリアと深い絆で結ばれているとか、“あの人”をまだひっぱり続けるのかとか、微妙と思えたこともあるのだが、全体的には存分に楽しめた作品である。今後どのようなネタでシリーズを引っ張っていくのか気になるところだが、まだまだ読者の要望にディーヴァーは応えてくれそうである。


フルスロットル   トラブル・イン・マインドT   6.5点

2014年 出版
2022年04月 文藝春秋 文春文庫

<内容>
 「フルスロットル」
 「ゲーム」
 「バンプ」
 「教科書どおりの犯罪」
 「パラダイス」
 「三十秒」

<感想>
 ディーヴァーのなかなか出なかった短編集がようやく出版。2014年に既に出ているものであるのだが、翻訳されるまでずいぶんと時間がかかったなと。日本では2分冊で刊行。2冊目は来月発売。

 面白い作品集であるのは間違いないのだが、ディーヴァーの作品を読み続けていると、どんでん返しに慣れ始め、過剰な期待をしてしまう。ゆえに、どんでん返しありきで読んでいるからか、どうしても結末で“そんなものか”と思ってしまう。作品の内容自体は悪くないので、読む側のスタンスに問題があるのかもしれない。

 リンカーン・ライムが登場する「教科書通りの犯罪」は、読者の読みを裏切ろうとして、やや失敗している作品と言う感じであった。いつもとは異なることをして、本来の特徴を打ち消してしまったように思えてならない。

「パラダイス」では、かつてのシリーズキャラクター(といっても3作くらいかな)映画のロケーションスカウトのジョン・ベラムが久々に登場。サスペンス小説として十分に面白いのだが、主人公の立場としては、やはり警官とかの身分でなければ、わなを仕掛けるという立ち位置は難しいと思えてしまう。

 普通に面白かったのが「フルスロットル」。こちらはキャサリン・ダンスが登場。ダンスと犯人との尋問による応酬が見もの。結末はやや見当がついてしまうものではあったが、犯人に仕掛ける罠としては、これしかないというような事が行われている。

 その他、ノン・シリーズ作品も面白かったが、シンプルな流れの作品である「ゲーム」が一番面白かったかなという感じであった。


「フルスロットル」 キャサリン・ダンスは2時間以内にテロリストが仕掛けた爆弾の場所を特定しなければならない羽目となり・・・・・・
「ゲーム」 資産家の老嬢サラは、彼女に近づいてきた親子にたかられ始め・・・・・・
「バンプ」 売れなくなった俳優は、一か八か、一獲千金をかけてのポーカー勝負を行う番組に出演することを決め・・・・・・
「教科書どおりの犯罪」 ライムらが追う犯人は、執拗に自分の痕跡を消し、それはまるでライムが書いた本を読んだかのように・・・・・・
「パラダイス」 ジョン・ベラムは車のブレーキが壊れたことにより、危険ないざこざに巻き込まれることとなり・・・・・・
「三十秒」 オリンピック・スタジアムに仕掛けられた罠とは!?


死亡告示   トラブル・イン・マインドU   6点

2014年 出版
2022年05月 文藝春秋 文春文庫

<内容>
 「プロット」
 「カウンセラー」
 「兵 器」
 「死亡告示」
 「永 遠」

<感想>
“トラブル・イン・マインド”の残りの作品。こちらはこちらで味があるのだが、リンカーン・ライムの作品がこっちにも掲載されていると期待したものの、短めの作品で、しかもあまりにもわかりやすいネタの作品であったために、ややガッカリな気分を感じてしまっている。

 面白い作品としては「カウンセラー」。こちらはディーヴァーが描く作品にしては、一風変わった作品で興味深いものとなっている。未知の生物により、人間が襲われているという妄想が描かれている。ただ、この妄想が“ない”と証明されなければ“事実”として浸透してもおかしくない危険性を秘めているように思われて、うすら寒くなる内容になっている。何気に考えさせられる社会派的な作品。

「和解」も意外と面白い。意外というのは、サラリーマンのような主人公が自分の父親のルーツをたどるという話のような感じで進められてゆくので、最初は決して面白い作品とは思えなかった。それが後半へと行くに従い、思わぬ方向へと発展してゆく物語となっていて、驚かされることとなる。ディーヴァーの面目躍如とでもいった作品か。

「永遠」という作品は、普通の刑事小説として面白かった。この作品は長く、本書全体の半分を占める分量の作品となっておる、中編どころか長編に近いくらいのものとなっている。主人公は、普通の刑事ではなく、統計学が好きな統計業務課でひたすら数字を操る業務をしている人物。その統計により、普通では起こらない矛盾を見つけ、事件捜査を行っていくこととなる。相棒となる普通の刑事との邂逅も見ていて楽しいものがあった。


「プロット」 人気作家の死に疑いを抱いた刑事は・・・・・・
「カウンセラー」 精神科医はとある女を救おうと強硬手段に打って出て・・・・・・
「兵 器」 新型兵器の正体を突き止めるために大佐たちは強引な尋問を繰り返すものの・・・・・・
「和 解」 成長した男は、亡くなった父親がどのような仕事をしていたのか突き止めようと・・・・・・
「死亡告示」 リンカーン・ライムが死亡したとの告示がなされ・・・・・・
「永 遠」 2組の自殺事件に疑いを持った警察署の統計業務課に勤務するラル・シムズは単独捜査を開始し・・・・・・


煽動者   7点

2015年 出版
2016年10月 文藝春秋 単行本

<内容>
 尋問の名人と言われるキャサリン・ダンスは、とある容疑者を尋問したのち、事件には無関係の人物だと判断をくだしたのだが、実は麻薬組織の殺し屋であることが判明した。殺し屋に逃げられたことにより、ダンスは捜査から外されることとなってしまう。代わりに民間のトラブルを解決する部署で働くこととなったのだが、そこで抱えていた事件は、コンサート会場にて観客がパニックを起こし、死傷者が出たという事件。ダンスが事件を調べてみると、何者かが意図的にパニックを引き起こしたのではないかという疑いが持ち上がり・・・・・・

<感想>
 実はキャサリン・ダンス・シリーズには偏見を持っていて、今作も大して面白くないのではないかと・・・・・・。いや、これが実際に読んでみたら面白かった。まさに、やられたという気分。これは騙されたと思って、しっかりと最後まで読んでもらいたい作品。

 キャサリン・ダンスって、尋問の達人といわれている割には、あまりそういう場面がシリーズ通して出ていないのでは? と思っていたら、物語ののっけから尋問に失敗してしまっている。それにより、捜査から外され、コンサート会場にて死傷者が出たという事件の調査を行うこととなるキャサリン・ダンス。

 この“パニックを引き起こす”という件に関しては、素直に怖いなと感じてしまう。群衆が引き起こすパニックと、建物のちょっとした不備により、いかに被害が大きくなるかということがよくわかる。実際、現実に各地でテロが起きたり、日本でも災害が起きたりしているのを見ると、このようなパニックによって引き起こされる事件が決して架空の話ではないと感じられてしまう。ただ、この作品のように人為的にそれを起こすような輩がいないことを望んでいる。

 基本的なパートとしては、キャサリン・ダンス対パニック犯となるのだが、他にもダンスが調査から外された案件や、ダンスの子供たちが引き起こす事件などと、注目点はいたるところにある。特にシリーズとしては、キャサリン・ダンスの家庭問題が今後どのようになるかが気になるところ。

 この作品、読んでいるうちはキャサリン・ダンスって本当に有能なの? という疑問符ばかりが浮かんできていたのだが、最後の最後に読み手の足元がすくわれることとなる。「なるほど、やられた!」と。これはダンス捜査官を見直さずにはいられなくなる一作である。


スティール・キス   6.5点

2016年 出版
2017年10月 文藝春秋 単行本

<内容>
 リンカーン・ライムは犯罪捜査から手をひくと言い出し、現在は大学で講義をしていた。そうしたなかアメリア・サックスは単独で殺人犯を追跡することとなる。そしてアメリアが犯人を捕まえようとしていたところで、エスカレーター事故が起こり、そちらの被害者を救出している間に犯人に逃げられてしまう。また、エスカレーターの被害者は必死の救出もむなしく死亡してしまう。その死亡した被害者の民事訴訟を受け持つこととなったリンカーン・ライム。ライムは講座の受講者であった車椅子の元疫学研究者ジュリエット・アーチャーと共に調査に乗り出す。

<感想>
 既に無双という感があるリンカーン・ライム率いるチームであったが、今回はなんとライムが犯罪捜査から一線を退くと言い出し、アメリア・サックスがほぼ単独で犯人捜査に乗り出している。それがゆえか、さほど大したことのない犯人でありそうにも関わらず、捜査線上からすり抜け、アメリアはなかなか容疑者を逮捕することができないという状況。

 また、今回はさまざまな人々が主観として登場し、群像小説のような感触となっている。ライムは車いすに乗るジュリエット・アーチャーと共に民事訴訟に乗り出し、アメリアは謎の“未詳40号”を追う。さらにアメリアをサポートしなければならないはずのロナルド・プラスキーは単独で怪しげな行動をとり、単独捜査で右往左往するアメリアの前に出所してきた元彼までが現れる。そこに“未詳40号”の視点も加わりながら、さまざまな道筋がくっついたり、離れたりしつつ、後半へとなだれ込んでゆく。

 今回の作品では、IT技術が備わった家電や各種機械に対して、さまざまな問題点を提起している。この辺は常に新しい犯罪分野に取り組むシリーズらしさが現れている。その家電等の脆弱性を利用しての“未詳40号”による犯罪は、決してフィクションにとどまらず、これからの社会的な問題を予言しているようでもある。

 各登場人物が右往左往するものの、最終的にはうまいところに収まったかなという感じ。シリーズの分岐的な位置づけのような作品とも言えるのだが、なんとなく外伝的な作品と言った方がしっくりくるかもしれない。


ブラック・スクリーム   5.5点

2017年 出版
2018年10月 文藝春秋 単行本

<内容>
 日中、男が何者かに誘拐されるという事件が起きた。犯人はその監禁の様子をネットでアップして公開する。犯人を追い詰めようとするリンカーン・ライムとアメリア・サックス。しかし、コンポーザーを名乗る男は捜査班の手を逃れ国外へと脱出する。リンカーンたちは、コンポーザーを追って、イタリアへと向かうことに!

<感想>
 リンカーン・ライム・シリーズ、13作目。個人的にこのシリーズが好きで、ディーヴァー贔屓であるが、今回の作品はいまいちであったと・・・・・・

 だんだんとネタが尽きてきたのかなぁ。何しろ、リンカーン・ライムの敵にふさわしいものを見つけるということ自体が大変な事。今回は、マンネリ化を打開するためか、場所をイタリアへ移しての捜査となっている。ただ、今回の犯罪者が、なんとも小粒というような感触。

 当然のことながら、最終的には目に見えているものに対して裏があり、どんでん返しの連続(というほどでもないか)となるのはいつものこと。そういったなかで、今作は政治的な色合いが強いというか、まるでスパイ作品というような印象を受けた。スパイ色が強く印象付けられたためか、読了後には社会派ミステリというような感じに落ち着いたような。

 というような感じで、最後の最後にきても盛り上がりに欠け、ノンストップサスペンスというような感触の作品ではなかったかなと。今後はこういった方針転換を繰り返しながらシリーズを続けていくことになるのだろうか。


カッティング・エッジ   6.5点

2018年 出版
2019年10月 文藝春秋 単行本

<内容>
 ダイヤモンド店で3人の男女が無残に殺害されるという事件が起きた。犯人はダイヤモンドにこだわる偏執狂か? 現場から逃げた生存者の行方は? その生存者は何故、警察から逃げようとするのか?? リンカーン・ライムのチームが事件捜査を行う中、次々と同じ犯人の手とみられる事件が起きる。さらには、謎の地震騒動、そしてライムが積極的にかかわりたがる麻薬王に関わる裁判。全ての事件の行方は!?

<感想>
 ダイヤモンド研磨職人を襲った事件。その後、犯人はダイヤモンドにこだわるかのような犯行を続けてゆく。リンカーン・ライム、アメリカ・サックスらのチームは、得体の知れない犯人を追いかけてゆく! というような内容。

 今回、非常にシンプルな内容の作品となっており、面白くかつ、読みやすかった。特にシリーズ・キャラクターにまつわるいざこざや問題などが取り上げられていないためか、シンプルでスピーディーなサスペンス・ミステリとして読むことができた。

 今作では、犯人の目的がよくわからず、ライムらのチームが翻弄されることに。犯人は単なる変人なのか? それともその背後になんらかの目的があるのか? もしくは巨大な組織が?? というように最後まで煙に巻かれた状態のまま物語が進行していく。実は、実行犯自身も闇に潜む本当の目的を知らないまま行動しているがゆえに、ライムらが真の目的というものを最後の最後まで見いだしにくいという状況。

 と、そんな具合で物語は進められてゆき、最後にはしっかりと伏線を回収しつつ物語は幕が引かれる。余分な部分がないゆえに、淡麗なサスペンス・ミステリを堪能できたという感じ。初期のライム・シリーズを読んでいるような感覚で読むことができた。


ネヴァー・ゲーム   6点

2019年 出版
2020年09月 文藝春秋 単行本

<内容>
 コルター・ショウは、各地で懸賞金がかけられた犯罪者を捕えたりしつつ、アメリカ中を旅している。彼は、今までの人生のなかで培ってきたサバイバル技術によりいくつもの事件を解決してきていた。今回、ショウは行方不明になった19歳の女学生を探すこととなった。捜索により女学生がさらわれた痕跡を見つけ出し、その跡を追いかけ・・・・・・やがてショウはゲーム業界を巻き込む連続誘拐事件の渦中に飛び込んでゆくこととなり・・・・・・

<感想>
 ジェフリー・ディーヴァーの新シリーズということなのだが、リンカーン・ライム・シリーズと比べるとどうしてもスケールダウンと感じられてしまう。今作は、なんとなくではあるが、少年向けのミステリというように感じられたレベルの内容。

 上記に“内容”を書いたのだが、それを書くのに困ったのが、コルター・ショウの位置づけ。結局のところ、この人何なの? という感触が最後まで付きまという。私立探偵というわけではなく、賞金ハンターでもない。ならば、単なる善意の素人なのか、そのわりにはバックに何らかの組織が控えていそう。そんなこんなで、結局最後の最後まで、この主人公の位置づけがよくわからなかった。シリーズとして描き上げていくうちに明らかになることが色々とありそうなのだが、それほど興味深い人物造形ではないような。

 今回の話は、ゲーム感覚で誘拐を企てる真犯人に対して、その誘拐された人物を救い出しつつ、容疑者をあぶりだしていくという内容。その過程において、コルター・ショウが洞察力とサバイバル技能を駆使し、ゲーム業界の闇をあぶりだしつつ、真犯人の正体へと肉薄してゆく。

 というような感じで、いつもながらのディーヴァーらしい内容の作品となっている。ゲーム業界の現在を描き出しているところは、最新の技術を描き出すという点で、これまたディーヴァーらしいと言えよう。シリーズの第1作ゆえに、物足りなさを感じてしまうのかもしれないが、今後巻を重ねてゆけば、だんだんと面白くなるのかな?


魔の山   6.5点

2020年 出版
2021年09月 文藝春秋 単行本

<内容>
 コルター・ショウは、犯罪を犯した二人の若者を連れ戻すべく、彼らを追跡する。ひとりは助けられたものの、もう一人はショウの目の前で自ら命を絶ってしまう。その青年の行動が気になり、彼がどこへ逃げようとしていたのかを調査すると、“オシリス財団”というカルトグループへ行こうとしていたことがわかる。彼はそのグループで研修を受けていたようだ。ショウは、そのグループがどのような事をしているのかを突き止めるために、身分を詐称して潜入調査を行うこととし・・・・・・

<感想>
 前作「ネヴァー・ゲーム」では、漠然とした印象しか感じられなかった主人公のコルター・ショウ。シリーズ2作目となって、徐々にシリーズとしての印象が強められつつあるように思われてきた。

 今作は、面白くありつつも、話の流れとしては普通でもあった、といった印象。カルトグループの闇を暴くというものが目的ゆえに、まぁ、こんな内容だろうなというような予想の範疇に収まるもの。ある程度、期間を経てきたカルトグループの割には、崩壊が速すぎるようにも感じられた。と言いつつも、教祖の目論見としては、ちょっとした詐欺を働き、そこでうまく大金をせしめることができれば目的達成というような感覚のようなので、こんなものかとも思えなくはない。結局は“カルトグループ”を扱ったというよりも、現代風の詐欺事件にスポットを当てたという作品という見方が正しいのかもしれない。

 主人公コルター・ショウの動向については、徐々に興味がわいてくることとなった。前作では、全く興味を持つことができなかったものの、背景が少しずつ明らかになるにつれ、今後の展開が気になってきた。ひょっとするとこのシリーズ、単体で見るよりも、シリーズを通して見ることによって、面白さが増す作品なのではと感じつつある。というわけで、次巻以降に期待したい。


ファイナル・ツイスト   5.5点

2021年 出版
2022年06月 文藝春秋 単行本

<内容>
 賞金稼ぎを生業とするコルター・ショウは、父親の抱えていた秘密を探り出そうとしていた。父は生前、悪徳企業であるブラックブリッジの正体を暴くために、その証拠を手に入れようとしていた。しかし、志半ばで殺害されることに。ただ、なんらかの証拠をどこかに隠していたようで、コルターはその証拠のありかを探り出そうとしていた。しかし、そのコルターの行動に目を付けていたブラックブリッジが、行く先々で邪魔をし、コルターの命を狙おうとする。そして、コルターが窮地に陥ったとき、目の前に現れたのは・・・・・・

<感想>
 コルター・ショウが活躍するシリーズ3作目。ジェフリー・ディーヴァーの小説は好きなのだが、個人的にこのコルター・ショウの作品については正直楽しめない。本書についても微妙という感想。

 なんというか、“断絶されるスピード感”とでっも言ったらよいだろうか。緊迫した場面に入るとあぁでもないこうでもないと考えこみ、敵を訴える証拠を見つけることがメインの事件のはずが突如失踪人を探す依頼を受けてしまったり、事件を追っている途中で過去のパートが入ってきたりと、なんとも作品に集中することができない展開ばかり。一応は、達成すべき大きな目標があるのだから、そこに向かって突き進めばよいと思えるのだが、そういう風にいかないところがなんとももどかしい。

 敵組織が血眼になって探しているものについては漠然としたものではなく、しっかりしたもので興味深くはあるものとなっている。ただ、それの最終的な取り扱いと、最後の結末の締め方はちょっと煮え切らなかったように思えてしまう。そんなこんなで、最初から最後まで、微妙な印象のまま終わってしまったという感じである。

 どうも、このコルター・ショウという存在自体が、3作目に入ったにもかかわらず、未だにあやふやに感じてしまうところが一番の煮え切らない原因なのだろうと思われる。このシリーズまだ続くことになったそうなのだが、今後読み続けるかどうか迷うところである。


真夜中の密室   6.5点

2021年 出版
2022年09月 文藝春秋 単行本

<内容>
“ロックスミス”と名乗る謎の男。彼は、SNS等で有名な人物の厳重に鍵がかけてある住居に侵入し、侵入した痕跡のみを残して去っていくという謎の行為を繰り返す。ニューヨーク市警捜査部長のお馴染みロン・セリットーから依頼され、リンカーン・ライムは“ロックスミス”の捜査に乗り出す。しかし、捜査に乗り出した直後、ライムは市警からの契約を解除され、市警の仕事ができない状態となる。別件の裁判で失態を犯したライムは、選挙を控えた市長により、業務契約を取り払われてしまったのだ。捜査を進めれば逮捕される可能性もあるなか、ライムたちは密かに事件捜査を続行し・・・・・・

<感想>
 面白かったのだが、なんとなく、こじんまりとした印象。今回の敵役“ロックスミス”のスケールが小さく思えてしまうところが一番の難点か。

 リンカーン・ライムと彼のチームが謎の侵入者“ロックスミス”の正体を暴くために捜査する・・・・・・ということで始まると思いきや、なんとライムが市長選挙の争いに巻き込まれるような形で、市警の捜査から外されるという事態となる。違法捜査をしていないかという監視の目をかいくぐりながら、ライムらは事件捜査を続けていくことを決意する。と、そんな感じで枷をはめられながらも、“ロックスミス”の犯罪を阻止しようとライムらが奮闘する。しかし、その捜査の裏をかいて、“ロックスミス”とその裏に隠れた者たちが暗躍し・・・・・・という感じで話が進んでゆく。

 事の真相が一気に明かされるというわけではなく、徐々に色々な隠された秘密が明らかになってゆく。最終的には、裏の裏をかくようなどんでん返しまでが行われ、隠された真相の全てが明るみに出ることに。

 まぁ、そこそこ驚かされるものの、さすがにディーヴァーも何冊も本を書いているので、イメージ的に似たような作品があるので、インパクトはそれほどのものではなかったかなと。ただ、最終的に事の全てが明かされると、話の序盤からさまざまな伏線が張り巡らされ、緻密に作品が創り上げられていることに気づかされる。何気に、また最初から読み直したほうがいいのではないかと思わされるほど。ただし逆に言ってしまえば、印象に残らないような事細かな事象ばかりが多かった内容とも感じられる。


ハンティング・タイム   6点

2022年 出版
2023年09月 文藝春秋 単行本

<内容>
 コルター・ショウは原子力の開発事業を行っているハーモン・エナジー社の依頼により、技術を横流ししている者の存在をあぶりだすことに。その依頼が成功した後に、今度は会社の技術者の一人が厄介ごとにより逃亡しなければならない羽目となり、その事態解決を依頼される。失踪したのはアリソン・パーカーという技術者で、夫である元刑事がDVにより拘留されていたのだが、出所してきて妻のアリソンを付け狙っているという。アリソンは娘を連れて、夫の手から逃れようとしているのだと。コルターがアリソンの行方を探り始めると、元夫の他に、彼に依頼されたのか二人組の殺し屋までもがアリソンを付け狙っていることがわかり・・・・・・

<感想>
 懸賞金ハンターのコルター・ショウが登場するシリーズ4作品目。前回は3部作という位置づけで作品が書かれていたが、著者が主人公を気に入ったのか、今後もシリーズ作品として書いていくようである。個人的には、これが第1作であったらちょうど良く、その後に3部作が続いて行けば、もっとわかり易かったのではと思えてならない。そんなわけで、このシリーズ未読の人であっても、本作品から読んでいっても問題ないどころか、ちょうど良いと思われる。

 懸賞金ハンターといってもわかりづらいが、本作品では基本的に何でも屋の私立探偵的な仕事を行っているという感じ。ただし、普通の私立探偵に比べると、銃弾が飛び交うというような物騒な目にもあうので、危険度が大きな探偵仕事というようなものがここでは行われている。また、主人公のコルター・ショウを見ていると、私立探偵というよりも、サバイバリストというような感覚も強いものとなっている。

 本作品では、逃げる妻と娘、それを追う元刑事の夫という逃亡・追跡劇が繰り広げられる内容となっている。そこに謎の二人組の殺し屋と、逃亡者を探すコルター・ショウとの四すくみのような関係で物語が展開されてゆく。物語中は、普通に逃げる者とそれを追う者との様子が描かれているのだが、どこか微妙に感じられてしまうところがある。果たして、これは単純な逃亡劇なのか? とはいえ、ディーヴァーの小説ゆえに、そんな単純なものではなかろうと推測しながら読み進めていくこととなる。

 最終的に、読んでいる最中の違和感に対する答えが全て明かされ、納得のいくどんでん返しが繰り広げられる。ただし、どんでん返しというほど、何度も話がひっくり返されるわけではないので、極めてシンプルでわかり易い内容。今回は、そのシンプルさゆえに変にややこしいようなところはなく、素直に面白かったと思えるような作品であった。普通に追う者と追われる者による追跡劇を楽しめた作品。




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