<内容>
オックスフォード近郊の小村に建つダーンリー家の屋敷には、奇妙な噂があった。数年前に密室状態の屋根裏部屋で、全身を切り刻まれて死んだダーンリー夫人の幽霊が出るというのだ。その屋敷に霊能力を持つと称するラティマー夫妻が越してくると、さらに不思議な事件が続発する。隣人の作家アーサーが襲われると同時に、その息子ヘンリーが失踪。しかもヘンリーは数日後、同時刻に別々の場所で目撃される。そして、呪われた屋根裏部屋での交霊実験のさなか、またもや密室殺人が・・・・・・
<感想>
現代の作家が書いたとは思えないほど、本格推理小説している。このこだわりようは嬉しい限りである。作風がカーを思い起こさせるようでもあり、また交霊術に奇術師といえばロースンをも思い起こさせる。
事件自体は不可能殺人を取り扱ったもの。それに人物の消失劇をとりいれたり、時の経過をもたせたりと物語としてもなかなか面白い話となっている。また解決もきれいにまとまっており、一冊の推理小説としても良い出来であると感じる。
そしてさらに構成に凝っているところも面白い。読んでいる側はツイスト博士というのはいつ出てくるのか? 本当に登場するのか?? と思いながら物語を読んでいくことになる。そして本書がただの推理小説としての解決に留まらず、そこから一歩はみ出していくところにも別の面白さがある。ツイスト博士ものがシリーズとして書かれているようであるが他のものはどのような構成をとっているのかを考えると非常に楽しみである。ぜひとも2作目3作目を読んでみたいと思う。
<内容>
ブラックフィールドという村に新聞記者を名乗る男がやってきた。その男は10年前にここで起こった事件を調べることが目的だという。この村では10年前に資産家の男が娘の誕生日に大勢を集めて手品を披露しようとしたのだが、部屋を仕切ったカーテンが閉ざされている間に何者かに殺されてしまうという事件が起きていたのだ。衆人環視の元での不可能犯罪。いったいそれを行ったのは誰なのか? そして村を訪れた新聞記者の目的とは?
<感想>
またもポール・アルテの作品らしく、これまた変った構成のミステリーであった。不可解な状況の元での殺人事件の謎を解くのがメインかと思いきや、謎の新聞記者やら、その事件の背景についてと、さまざまな要素がてんこ盛りの作品となっていた。しかも、その不可能犯罪については物語の半分くらいだけでしかなく、事件が解決された後に舞台は打って変わって“切り裂きジャック”が跳梁跋扈するロンドンへと移り変わっていく。そしてそこでも十年前の事件の後を引くように、不可解な事件が続発していく。
本書はストレートなミステリーとは言いがたい作品であると思う。“不可能犯罪”という主になるべき事件も起こるのだが、それも本書においてはメインとなるべき焦点ではなかったような気がする。
では、本書において著者が一番仕掛けたかったトリックとは、
(*ネタバレ注意↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓)
「第一部では犯人かと思われる者が犯人ではなく、そのことを踏まえて、第二部では犯人ではないと思える者が実は犯人であった」
(ここまで↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑)
という事ではないかと思えた。
結局のところ、決して一筋縄でいかないのがポール・アルテであるということがさらに証明された作品といってよいだろう。いやはや、これからもアルテの作品を読むのがますます楽しみになってきた一冊であった。
<内容>
ロンドン警視庁刑事のサイモン・カニンガムは婚約者の父親でミステリ作家のハロルド・ヴィカーズから夕食会の招待を受けた。しかし、その招待のことは誰にも言わないことと念をおされていた。不安な面持ちで屋敷を訪ねるが当のハロルドは部屋から出てこない。不審に思った家族と共に扉を破り、部屋に入るとそこには並べられた料理を前にしてハロルドは顔と両手が焼けただれた死体となっていた。その状況からみて他殺と思われるのだが、一体犯人はどうやって・・・・・・
<感想>
ツイスト博士の2作目になる本書。前作はメタミステリー的な趣向もこらされた変化球のような作風であったが、本書はど真ん中ストレート勝負のミステリーとなっている。
密室に対するアプローチはなかなかのもの。閉ざされた出入りのできない部屋、用意された豪華な食卓、顔の焼けただれた死体、窓の下の水の入ったコップ等々、ミステリーコードがてんこ盛りされ、いやがうえにも興味を引きつけられずにはいられなくなる。そしてどのような解答が展開されるのかというと・・・・・・
うーん、こういう解決方法かなるほど。一言でいえばオーソドックスに落ち着いてしまったな、というところ。きれいに解決しているのは確かなのだが、かわされたという印象が強い。ど真ん中ストレート勝負のはずだったのに、高めの棒球を振らされた感触が残ってしまう。1作目からの期待と本書の事件が起きたときの謎への期待が大きすぎたことによるのかもしれないが、もう少し謎に対して正面から解決していってもらいたかった。
あともうひとつ付け加えるならば、犯人のあの行動は怪しすぎるのではとおもうのだが。
<内容>
マージョリーは偶然にも広場で殺人事件の現場に遭遇(犯人の顔は暗くてわからなかった)してしまう。あわてて下宿屋のアパートに帰ったところ、犯人らしき人物が彼女のそばを通った気が・・・・・まさか、殺人犯は同じ下宿に住む人物なのか? 犯人はピアニストか、新聞記者か、引退した医者か、盲目の元美容師か、はたまた一番怪しいとされる作家を名乗り夜な夜な外を徘徊する男なのか!? そして、さらなる事件は下宿屋の中で起こる事に! しかも不可能殺人と言う形で・・・・・・・。この謎をツイスト博士は解明できるのか?
<感想>
いや、相変わらず良い雰囲気を出している。最近では日本のミステリーであっても、こういった王道の展開がなされるものはあまり見られない。そういう意味でも読む価値のある本と言えよう。
なんといっても怪しい下宿人達が良い。容疑者満載の下宿人と、さらには過去の犯罪がまつわる下宿屋。集まるべきところに集まった人々による犯罪模様はなんとも言えず豪華絢爛。さらには、その下宿屋で過去をなぞるような不可能犯罪が起きる。これはどのように行われたのかと真剣に考えてしまった(結局、考えていたものとは違ったけれど)。そのような様相の中で最後に明かされる解答と、さらなるツイスト博士によるちょっとしたおまけ。
いや、これは本当に良い雰囲気のミステリーを味わえたと言う感じである。不可能犯罪の真相については、ちょっとと思えなくもないのだが、その辺はご愛嬌ということで。今年はまだ海外ミステリーで“これ”という作品に出会って無いせいか、かなり甘めな評価となってしまったような気がする。でも、面白いものは面白いのだと言う事で。
<内容>
ハットン荘に秘められる忌まわしい過去。その屋敷に住むものは代々予言の力を授かり、未来に起こることを当ててしまうのだという。その屋敷に住む当主ハリス・ソーンの弟ブライアンもまた、予言の力を持っていると思われる節が・・・・・・
当主のハリスが開かずの間を無理やり開けてしまったときから、ハットン荘に暗雲が立ち込め始める。ブライアンは不吉なことが起こると予期し、そしてハリスは開かずの間から落ちて死亡してしまう。さらに、その部屋は過去に事件があったときと同様に絨毯が水で湿った状況で発見される。
ブライアンが予期するように次々と起こる事件。その真相をツイスト博士は暴くことができるのか!?
<感想>
自分でランキング作るとき、アルテの作品があれば、どうしても上位に置かざるを得ない。それもマンネリ過ぎやしないかと思いつつも本書を読んでみたのだが・・・・・・これは上位の置かなければ始まらない作品である。今のところ、海外ミステリでは上半期の一位に挙げざるを得ない作品であった。
本書で感心したのが、ツイスト博士による犯行の暴き方。これは三津田氏の「首無し」を読んだことによる影響かもしれないが、この作品でもある一場面をおかしいと考えれば、その後の犯行が次々と暴かれるように描かれているのである。
しかもその犯人像は、言われてみればなるほどと思えるのだが、読んでいるときは考え付かない人物であったので(動機も言われてみればなるほどと)、さらに驚かされることに。特にアクロバットめいたものがあるというわけでもなく、淡々と犯行が積み上げられていったものであるのだが、非常にうまく描かれていると感嘆させられる。地味ながらも、丁寧に描かれたミステリ作品というところか。
さらに、物語は犯行を暴くだけで終わりではなく、最終場面からプロローグへとつづく仕掛けもなされているので、最後の最後まで驚かせてくれる作品であった。ここまでやられるともう、毎年のアルテ作品だからといってマンネリ化などといわずに、面白いものは面白いと認めざるを得ないであろう。
<内容>
巡回中の巡査が奇怪な事件に出くわした。ペストの医師の仮面をつけた男と出会い、何も入っていなかったはずのゴミ箱の中から突然死体が出現し、下宿の部屋から人間が消失するという一連の事態に立ち会うはめになったのである。
その奇怪な事件から2ヵ月後、ツイスト博士のもとに一人の青年が訪問してきた。彼は著名な劇作家ミラー卿の秘書だと名乗り、彼の主人であるミラー卿と俳優のドナルド・ランサムの間で奇怪なやりとりが行われたと説明するのである。その話は2ヶ月前の事件に結びついているようであり・・・・・・
<感想>
うーん、今回も良く出来ていると認めざるを得ない。やっぱり、アルテの作品はレベルが高い。
ただし、今作はトリックとしてのレベルは、いつもに比べれば、やや平凡といえるだろう。人間の消失や死体が突然出現されるというトリックが扱われてはいるものの、それらが話のメインではないせいか、やや淡白な形で謎が明かされることとなる。
ただ、本書のキモとなるのはトリックではなく、一連の物語の中に秘められた、とある人物による“犯罪計画”にある。この物語では始終、話のどこからどこまでが冗談で語られているのか、それとも真実なのかということがわかりにくくなっている。それもそのはず、本書では劇作家と俳優が共謀して風変わりな冗談を行っているというような部分が多々あるのである。
しかし、そこに何故か殺人事件というものが挿入され、その事件自体はどこから派生されたものなのかということが煙に巻かれて、まったく検討がつかないのである。
それが最終的には、事件の全てがとある計画を元に立てられた綿密な犯罪であるということが明かされるのである。しかも、そこらじゅうにばら撒かれた伏線もきちんと回収され、きっちりと一本でつなぎあげられた犯罪計画というものに、読者は納得させられる他ないのである。
ということで、いつもとはちょっと毛色の変わった意外な形で驚かされる作品。これはこれでまた、ポール・アルテ流のひとつということか。
<内容>
ロンドンでスーツケースから女性の切断された手足が発見されるという事件が複数起きていた。ハースト警部は休暇帰りのツイスト博士にさっそくこの難事件をもちかけようとするのだが、なんとツイスト博士のトランクからも死体が発見されることに!
そしてレドンナム村というところでは時を同じくして、不思議な事件が起こっていた。インド帰りの陸軍の元少佐が魔人が現れるという杖の話をし、その話が本当だということを実証しようと言うのである。閉ざされた室内に閉じ込められた少佐と疑り深い青年。そして数時間後、異変を察して外で見張っていた者たちが室内に入るとそこで彼らは惨劇を目の当たりにする!!
<感想>
今作は作品の構造上からか、読んだときにまるで“87分署シリーズ”を読んでいるかの印象を受けた。今回メインとなるのは、二つの密室事件。この2つの事件はそれぞれ別のものなのだが、物語的にはつながっていると言えなくもないものである。
密室のトリックに関しては、ややあっさり目とも言えよう。というよりも、実に丁寧にヒントを提示しているので、あえて読者に分かり易い作品になっているといったほうがよいのであろう。
ただ、伏線を全て回収する物語の構造については相変わらずの出来栄え。本書を読み終えた後に、物語の冒頭を読み直せば、あぁ、なるほどと感嘆せずにはいられなくなる。
今回もシンプルかつ端正なミステリが描かれた作品に仕上げられている。
<内容>
ラルフ・コンロイは親友であるフィリップから奇妙な手紙を受け取る。その内容は夜に空家へ行って、指定の時刻にランタンを灯してもらいたい。次に道へ出ると車に乗った者が道を訪ねてくるのでそれに答える。その後、とある屋敷へと向かってほしいというもの。ラルフは不審に思いつつも、フィリップの指示に従うことにする。彼が恐る恐る指定の屋敷に向かうと、そこにいた人々が「あなたがロビンソンさんですね」と勝手に解釈され、わけのわからないままパーティーに参加することとなる。しかし、その奇怪なパーティーの最中、ラルフは死体を見つけることとなり・・・・・・
<感想>
ハヤカワミステリでは初の一段組みとなる作品であるが、これはただ単に作品の分量が少ないからという理由のようである。今回のアルテ作品はノン・シリーズのやや短めの作品。
今作の雰囲気はスパイものという感じ。序盤はミステリ色が濃かったものの、徐々にコン・ゲームというような感触が強くなっていった。騙されているのは主人公なのか、それとも読者なのか、最後の最後まで予断を許さぬ内容。
ただ、中盤を過ぎたくらいに大まかな真相が明らかにされてしまい、その後の展開はややわかりやすいものであったかなと。個人的には後半に尻つぼみになってしまったという気がする。展開が早く、ページ数も短めで読みやすい作品であることは確かであるが、アルテの作品としてはやや食い足りなかったという感が残る。
<内容>
アキレス・ストックは探偵オーウェン・バーンズから、依頼人の婚約者になりすまし、マンフィールド家に潜入し、様子を探ってもらいたいと頼まれる。マンフィールド家に潜入したアキレスは、過去に起きた事件の話を聞くこととなる。3年前に当主の息子が殺されたそうなのだが、犯人がどこへともなく消え失せたというのである。元々、この地には“混沌の王”と言われる白面の怪人が出没するという噂があり、しかもこの現代においても、その姿が度々目撃されているという。そして、アキレスの前で、新たな犯人の姿なき殺人事件が起きることとなり・・・・・・
<感想>
シリーズ主人公、オーウェン・バーンズが登場する第一作品が初の翻訳。このシリーズの舞台は現代ではなく、1900年前後を舞台に描かれている。
この作品もポール・アルテの作品らしく、過去に起きた不気味な伝説をモチーフとした怪しげな怪人が跳梁し、不可思議な犯罪を成し遂げてゆくものとなっている。そんなわけで、面白い作品に仕上がっているはずなのだが・・・・・・何故か、物語自体があまり面白くなかった。普通のミステリらしい背景を用いて、登場する家族らの不和が描かれている話のはずなのだが、何故かその背景となる人間関係の部分にあまりのめり込めなかったかなと。
ミステリのトリックとしては、十分に面白い作品であったのだが、全体的にはあまりという雰囲気。この著者であればもっと面白く書けそうな気がするのだが、元々ストーリーの書き手としてはこんなものだったっけ? と感じずにはいられなかった。
<内容>
ツイスト博士とハースト警部のもとに奇怪な出来事の報告がもたらされる。男は何やらわからぬ会社の指示を受け、歩いて封筒を受け渡しする作業を行っていたのだという。男は、その封筒の中味が気になり、開けてみると、そこには単なる白紙の紙のみがあったという。また、別の奇妙な件がもたらされ、それはネヴィルという青年が、女が“しわがれた声”の男に脅されており、16日に何かが起こると・・・・・・。そして、その言葉通りに殺人事件が起きることに。さらには、幽霊屋敷と呼ばれる家で、突如墓場から死体が出てきて、屋敷のなかに現れたのであった。しかも、床はほこりまみれのままで、誰かが歩いた痕跡はなく、突如死体がそこに現れたかのように・・・・・・
<感想>
久々にハヤカワ作品によりポール・アルテが訳され、ようやくツイスト博士のお目見えということに相成った。1994年に出版された作品ゆえに、訳されるまでに27年もかかったのかと思うともったいない気がする。しかも、なかなか良い作品であっただけに。
中身は、ミステリ的な要素がてんこ盛りとなっている作品であった。ホームズの赤毛連盟を思わせるような、奇妙な配達をさせられた男。“しわがれた声”による犯罪を予告させる発言と、実際にその言葉通りに発見された死体。幽霊屋敷と噂される閉ざされた屋敷のなかから発見された死体。各地を荒らしまわる宝石強盗団の噂。などなど。そんな途方もない事件をツイスト博士とハースト警部が、その事件に関わる関係者らの手も借りて、解決していこうとする。
怪しげな人物は多々存在するものの、屋敷を密室にして痕跡を残さずに死体を置くといった行為をする理由と、そんなことをしそうな人物はなかなか見当たらない。それをどうやったのかということも不思議なのだが、何故こんなことをしたのかということもさらに不思議に思える事件。そういった全てに、きちんと解決を付けることができるのかと思いきや、事の真相はなかなかしっかりしたものとなっていた。
不可思議な犯罪をどのように行ったのかということのみならず、背景の物語としてもしっかりとしたものになっているゆえに、きちんとできたミステリだと感嘆させられるのみ。真相が明かされるまでは、さっぱりといった内容であったが、最後まで読めば、なるほどと、うなずかざるを得ない中身に仕上がっている。
<内容>
「赤髯王の呪い」
1948年ロンドン。エチエンヌは兄から届いた手紙の内容に驚愕する。そこには、16年前に死んだはずの少女が表れたのだと書いてあったのだ!“赤髯王”を巡る恐怖の謎が甦り、またもや惨劇が繰り広げられることに・・・・・・
<短編>
「死者は真夜中に踊る」
「ローレライの呼び声」
「コニャック殺人事件」
<感想>
この「赤髯王」はアルテにとっての真の処女作であり、作家デビュー後に私家出版されたという作品。その長編作に現在発表されている3作の短編を加えて一冊にしたものが本書である。
よって、この作品がツイスト博士の本当の意味での初登場作品となる。で、その出来具合はどうかというと、これがまたオーソドックスなミステリであり、なかなか良く出来ていると感じられた。トリックなどについては少々すかされたという感じのところもあるが、メインのトリックに関してはうまく出来ていると感じられた。
この作品を読んで、どことなくカーの「妖魔の森」という短編作品に似た雰囲気があると思えたのだが、カーのファンであるというアルテが書いたのだから意識していた事は間違いないのであろう。また、実際にこの作品が書かれたとき、第一稿ではツイスト博士ではなく、ギデオン・フェル博士を登場させていたというのだからさらに驚きだ。よって、カー・マニアであれば、なおさらのこと読み逃してはならない作品ともいえよう。
また、3作の短編の出来もかなりよかった。
棺を動かすトリックが秀逸な「死者は真夜中に踊る」。
意表をついたトリックでありながらも、それなりに説得力のある「ローレライの呼び声」。
実際に似たような事件が起きた事があるのではないかと思われる「コニャック殺人事件」。
アルテの短編作品はまだこの3作しかないそうなのだが、これだけではもったいないと思えるようなできであった。是非ともいつかは、アルテの短編集をまとめて読む日がくればと期待したくなるところである。
<内容>
探偵オーウェン・バーンズとその友人アキレス・ストックは巷で起こっている不可解な二つの殺人事件について話をしていた。ひとつは誰も入れないはずの灯台で起きた焼死事件。もうひとつは衆人環視のもとで誰もいないはずの所から弓矢で射殺されるという事件。やがてそれらは世界の七不思議を題材にした連続殺人へと発展していくこととなる。その事件の容疑者として恋人を取り合う資産家の息子と青年画家の存在が浮かび上がり・・・・・・
<感想>
なかなか派手なミステリ作品となっている。不可能殺人のオンパレードというだけではなく、それらが世界の七不思議の見立てになっているという、まさにタイトルの通りの“殺人七不思議”。
誰も入れない状況での灯台での焼死、誰もいない場所からの弓矢での殺人、動かせるはずのない植木鉢が落ちてきての死、雷に関する死と謎の過程、目の前に水があるにもかかわらず脱水症状による死、そして最後に二つの足跡無き殺人事件。と、こんな感じの不可能殺人のオンパレード。容疑者らしきものはいるものの、犯人と指摘するための決定的な証拠は見つからない。そうした状況の中、最後にオーウェン・バーンズがなんと霊的な感覚を頼りに真相を辿ってゆくという奇天烈な推理が披露される。
かなり大雑把なミステリという感じはするものの、その魅力は十分と言えよう。ひとつひとつの事件をクローズアップすれば、2、3冊の本が書けそうな気がするのでもったいないくもするが、大量にミステリを書き綴るポール・アルテにしてみればたいしたことではないのかもしれない。また、単にトリックのみならず、被害者が死亡するまでの心理的な状況とか背景とかもうまく描かれていて感嘆させられる。最後の真相が語られる場面も一風変わっており、これも見所となっている。
<内容>
外交官のラルフ・ティアニーは、彼に似ている逃亡犯と間違えられ、警察に追われる羽目に。ラルフは警察の手を逃れ、逃げ込んだ先は不思議な裏通りであった。そして、そこで奇妙な体験をした後、通りから出たものの、その後、その通りはどこかに消え失せたかのように、再び見つけることができなかった。その裏通りは、他にも同様の奇怪な体験をした人々がいると言われ、“クラーケン・ストリート”と呼ばれていた。さらには、ラルフが裏通りで体験した出来事が現実世界にはびこりはじめ・・・・・・。ラルフの旧友であるアマチュア探偵のオーウェン・バーンズが、謎の裏通り事件の真相に挑む!
<感想>
久しぶりに日本で刊行されたポール・アルテ作品。出版社は今まで聞いたことのなかった“行舟文化”、そして紹介される作品はツイスト博士ものではなく、オーウェン・バーンズという探偵が登場するもの。
オーウェン・バーンズに対する最初の印象は、ホームズっぽいかなと。途中からはあまり、そんな風にも思わなくなるのだが、元々ポール・アルテが“フランスのカー”などと言われていたこともあり、別の探偵が登場するシリーズでは、作風も変えたのかなと考えた。
そして、今回挑戦する謎は、なんと“消える裏通り”。これがなんとも、都市伝説っぽいネタのような感じもし、最初はちょっと探偵が扱うような事件なのかどうかと思われた。それが徐々に現実の事件と混ざり合い、ミステリとしての濃度が増してゆくこととなる。ただ、読んでいる最中は、この事件を誰が何のために起こしたのか? ということが全く想像できなかった。何故、手の込んだ“裏通りの消失”といったことを起こさなければならないのか。
そういった雰囲気で、最初は超自然的なものも感じられた内容が、徐々に現実的なところへと戻って来て、さらには計画的犯行へと収束していくこととなる。いくつかのどんでん返しを経て、明かされる真相は、驚かされるというよりは、よくストーリーが練られていると感心させられるもの。
この作品を読んで、最初は今までのポール・アルテ作品とはちょっと異なる雰囲気かなと思ったのだが、読み終えてみると、いつもながらの作調だったと改めて感じられた。しかも作品自体がよく出来ており、まったく衰えを感じさせられない内容。ここまで読み応えのある作品が残っているのならば、もっとポール・アルテの作品を日本で刊行してもらいたいものである。
<内容>
小さな村クレヴァレイで起こる様々な騒動。度々目撃されるマント姿の怪人、幽霊騒動。その元凶となるのは、数年前に村に引っ越してきたドリアン・ラドヴィック伯爵。この村で二人の妻を亡くしているのだが、それぞれ不審死を遂げていた。現在3人目の妻と暮らしているという状況。そんな村で、神父の事故死と老人の変死事件が起き、探偵オーウェン・バーンズが乗り出す。この事件には5年前に起きた密室事件も関与しているのではないかとオーウェンは考え始め・・・・・・
<感想>
盛り込みすぎといってもいいほど、盛り込んだ小説。村に夜な夜な現れる不思議な人物。村人たちから敵視されている、3人目の妻をめとった伯爵。その二人の死んだ妻は納骨堂のなかで何故か胸に杭を打たれ、しかも2番目の妻の死体は、何故か真新しい状態であった。最後の言葉を聞きに出かけた神父の事故死と、その言葉を告げた老人の不審死。5年前に起きた密室殺人事件と、現在に起きた密室殺人事件。と、挙げてみればこれくらいの謎があり、ひょっとすると抜け落ちているものもあるかもしれないほどのてんこ盛り。
本書においては物語自体が面白かったかなと。トリックに関しては、それほどというほどではなかったような気がするが、複雑な相関関係のなかで起こる事件模様とか、そういった全体像がよくできていたという風に思われる。
少々登場人物が多すぎたり、盛り込んだ謎が多すぎてきちんと伏線回収されていなかったりと、粗めなところは数多くあるような気はしたが、総じて面白いミステリ作品に仕立て上げられているといってよいであろう。オーウェン・バーンズ・シリーズらしい作品と言う感じであった。
<内容>
1991年、劇作家のアンドレ・レヴェックは仕事が煮詰まっており、苦悩していた。そうしたとき、幼少期に見た映画のことを思い出し、その鮮烈なイメージを仕事に利用しようとする。しかし、その映画のタイトルがわからないため、精神分析医らの力を借りて、なんとかその映画に辿りつこうとするのだが・・・・・・
1911年、資産家の会社社長が死亡するという事件が起きる。現場に残された足跡の状況から事故とも考えられたのだが・・・・・・その事件の謎に探偵オーウェン・バーンズが関わることとなり・・・・・・
<感想>
1911年と1991年の時代を分けて、並列に物語が進んでゆくという展開。ただ、1911年のパートのほうは事件が起こるのでそれなりに面白いのだが、1991年のほうは映画作品探しという形のみの進行となっているので、ちょっとミステリとしては微妙であった。
1911年のパートは雪上の足跡トリックを用いたミステリとなっており、見どころがある。そのトリックについても、なかなか考えられたものになっており、興味深かった。1991年のパートは、最終的には映画探しのみで終わらずに、後半にもう一山あるのだが、それでもそんなに楽しめるという感じではなかったかな。
1911年と1991年の二つの物語に関しては、直接的と言えるほどの結びつきはない。まぁ、ちょっとした結びつきが無きにしも非ずといった感じではあるのだが、それでもその結びつきから派生するラストでの展開はなかなか衝撃的。それ故か、最終的にはサスペンス作品という感触の方が強くなってしまった。