Michael Slade  作品別 内容・感想

ヘッドハンター   7点

1984年 出版
1994年04月 東京創元社 創元推理文庫(上下)
2005年09月 東京創元社 創元推理文庫(新装版・上下)

<内容>
 女性を殺害した後、その首を切り取る殺人鬼、通称“ヘッド・ハンター”。カナダ連邦警察は犯人の行方を追うものの、何の手がかりも得られず町はパニック状態へと陥ってゆく。そんな中、かつての名捜査官ロバート・ディクラークが特別捜査本部長として指名されるのだが・・・・・・

<感想>
 スレイドの作品を読むのはこれで四作目なのだが、本書こそがスレイド最初の作品。そしてその感想はというと、今まで読んだスレイド作品の中では最高峰と言えるかもしれない。

 基本的には、この作品もスレイドらしい作品と言えよう。連続殺人犯が登場し、多くの登場人物(特に警官が多い)が現われ、事件にさらなる混乱をもたらしながら話が進められていくというもの。

 そういった中、本書に対して強烈さを感じられたのは、後半の急展開となる章。突如、それまで登場していなかった人物が現われ、いつの間にか事件に関与し始める。さらには、その人物らがさらなるカタストロフィを引き起こす事になる。そして・・・・・・最後の最後の場面はやられたという他に言う事はない。

 ともかくひとつ言えるのは最新作の「斬首人の復讐」を読む前に、こちらを読んでおいてよかったということ。本書を読み終わった後、直ぐにでも「斬首人の復讐」を読みたいと思ってしまった。

 いやはや、本書こそ処女作にして、スレイドらしさがうまく表された作品といって良いであろう。


グール   

1989年 出版
1993年04月 東京創元社 創元推理文庫(上下)
2004年03月 東京創元社 創元推理文庫(新装版・上下)

<内容>
 ロンドンではうら若き女性を狙う“吸血殺人鬼”が暗躍する中、さらに“下水道殺人鬼”、“爆殺魔ジャック”と次々に現われる殺人鬼の出没に人々はパニック状態に陥っていた。それらの事件を解決しようと陣頭で指揮するスコットランド・ヤードの女性警視正ヒラリー・ランド。しかし、その捜査を嘲笑うかのように殺人鬼たちの跳梁ぶりはますます苛烈きわまるばかりであった。
 一方、麻薬密売事件の捜査をしていたカナダ騎馬警察の警部補ジンク・チャンドラーは“グール”という名のヘヴィ・メタル・バンドへとたどり着く。実はその“グール”のメンバーの出生にこそロンドンでの殺人鬼の正体の謎が隠されているのだったが・・・・・・

<感想>
 不思議なアンバランス感を持つ印象的な作品である。全編彩っているのはスプラッター・ホラーの雰囲気なのだが、その中にミステリー色、本格推理色が見え隠れしている。それらが正しくかみ合っているとはとても言いがたいものの、全体的にはそれなりの出来に仕上がっているという事も否めないのである。この出来栄えの不思議な感覚は、ミステリー色を出しながらも、基本路線としてはスプラッター・ホラーで行くという理念を通しているからのようにも感じられる。ゆえにアンバランスな不安定さを感じさせながらも、引き締まった印象を読む側に植え付けるのであろう。

 とはいえ、やはりミステリー・ファンよりはホラー・ファン向きの本かなとも思われる。


カットスロート   

1992年 出版
1994年07月 東京創元社 創元推理文庫(上下)
2005年11月 東京創元社 創元推理文庫(新装版・上下)

<内容>
 1876年、アメリカ軍とインディアンとの戦いの後、アメリカ軍の遺品から巨大な頭蓋骨が持ち去られた。その巨大な頭蓋骨は人類学史上貴重なものであり、それが100年後に起こる事件の発端に・・・・・・
 1987年サンフランシスコにて、演説中の判事が何者かに狙撃されるという事件が起きた。その後、別の判事も殺害されるという事件が立て続けに起きる。犯人は香港から送り込まれた“刺客人”(カットスロート)。彼らの目的とはいったい!?
 ロバート・ディクラーク、ジンク・チャンドラーらカナダ連邦騎馬警察に新たな敵が襲い掛かる!!

<感想>
 これで今まで出版されているスレイドの本、6冊全てを読み終えることができた。それらを読んだうえでの感想を述べると、スレイドの作品は全部が全部受け入れられるというものではなく、好きな作品嫌いな作品とはっきりと分かれてしまうということ。これは、あえて作風を変えているだろうこととか、分業によって作品を書いているなど、元々そのような書き方をしているのだから、好き嫌いが分かれてしまうというのはしょうがないことなのであろう。

 そして、本書に対する感想はというと、今回はあまり好きなタイプの作品ではなかった。

 本書は他のスレイドの作品と比べるとがらりと趣が変わって、国際謀略小説というような様相になっている。タイトルとされている殺人鬼“カットスロート”も他の作品に出てくるようなサイコパスではなく、殺し屋という職業的なものと感じられた。そういう意味もあって、全体的にミステリーという内容からは外れていて、私が期待していた内容とは異なるものであった。

 とはいえ、シリーズとしてストーリーを追っていく上では重要な一冊であることは間違いないし、従来のスレイドの作風が合わないという人はむしろこちらのほうが取っ付き易いと感じられるかもしれない。

 またこの作品の中にも多々見どころがあり、特に私が感じ入ったのは、下巻の第4部「心」という章題がついたパート。ここは色々な意味で“もの凄く”、シリーズ屈指の場面といってもよいのではないだろうか。この部分を読めただけでもこの作品には大いなる価値があるといえよう。


髑髏島の惨劇   

1994年 出版
2002年10月 文藝春秋 文春文庫

<内容>
 呪われた伝説の島、髑髏島。残虐な連続殺人鬼が町を恐怖で覆う中、推理ゲームの探偵役として島に集められた15人の男女は、邪教を崇拝する殺人鬼が仕掛けた死の罠の餌食と化す・・・・・・。嵐の孤島、幽霊射手、切り裂きジャック、密室殺人、無数の殺人機械。ホラーと本格ミステリを融合させた異形の大作。

<感想>
 前評判からてっきり、“嵐のなかの孤島”状態になって連続殺人事件が起こるものだと思っていた。読んでみると、確かにそういう内容が含まれているのだが、孤島に人が集まるのがなんと中盤以降。物語の基本ベースはあくまでもサイコ・サスペンスといってよいであろう。

 読んでみると、序盤は“物語”というより“研究書”という雰囲気が強く感じられる。切り裂きジャックや黒魔術などのオカルト全般。そういったものにたいしての説明が多岐にわたって散りばめられている。そしてその分、物語の進行は遅々としている。

 後半になってようやく物語りの展開がはやまり、“嵐のなかの孤島”での惨劇が始まる。そしてその犯人たるものが明かされて、前のページをぱらぱらとめくり確認してみるとなるほどと思える。確かに考えられているとは思う。しかし、それを読んでいる最中に当てることができるとかそういったものではないと思う。あくまでもサプライズエンディングといったところか。

 この著者(マイケル・スレイドは複数人の合作)が本格推理小説に興味を持ち、それらについて詳しいということはよくわかる。しかし、作品としては本格推理小説ではなく、ホラーサスペンス小説のなかに本格推理小説の知識が取り込まれているといった感じである。本格推理を読みたいという人よりも、サイコサスペンスが好きだとか、魔術とかサイコキラーに興味のある人が読むと満足行くと思う。


暗黒大陸の悪霊   

1996年 出版
2003年10月 文藝春秋 文春文庫

<内容>
 護送中の殺人犯が警官を殺し脱走した。そのすぐ後にカナダ騎馬警察巡査長クレイヴンの母親が殺される。次々と殺害されるカナダ騎馬警察の警官たち。殺人犯はいったい何処に? さらには、クレイヴンの母親殺害の件で警察に逮捕されたのはクなんとレイヴン自身であった! 事件の真相とは一体!?

<感想>
 いや、前作に引き続き相変わらず凝りに凝った内容である。純粋な“犯人当て”として成立しているとはいいがたいものの、トリッキーな内容にて相変わらず読者を驚愕させてくれる。しかも事件捜査だけでなく、法廷あり、銃撃戦ありとさまざまな要素てんこ盛りなエンターテイメント小説として楽しませてくれる。

 ただしちょっと難点をいえば、長いかなと。その長さが充分に意味を持ったものであるのならかまわないが、登場人物が出てくるごとにちょっとしたエピソードを挟まれては全体的なスピード感が欠けてしまう。せめて重要でないキャラクターについては、そういった余分な描写を省いてもらいたかったというところ。

 そして、これはあとがきに書かれていたことなのだが、本書は内容は別々だが、続刊としての要素を持っているとのこと。私は前作「髑髏島の惨劇」から読み始めたのだが、これはシリーズものとしてすでに6作目。それらは国内でも東京創元社から出ていたらしい。今回の作品で準主役や脇役で登場する人物達が、これらの前作では主人公を張っていた人たちもいるようなので、もし続きとして全て読んでいるならばまた異なる感慨にふけることができるに違いない。これは最初から読んでみたいものである。思い切って文春文庫で復刊してくれないだろうか。


斬首人の復讐   7点

1998年 出版
2005年09月 文藝春秋 文春文庫

<内容>
 先祖伝来の土地を奪還しようと武装蜂起したインディアンたちを鎮静しようとカナダ連邦騎馬警察が出陣する中、首を切断された惨殺死体が発見された。噂によるとこの周辺には白人に恨みを抱く、<白冬雪男>と呼ばれるものが狩りをしているというのだが・・・・・・
 また、ヴァンクヴァーにある騎馬警察の本部ではロバート・ディクラーク、ジンク・チャンドラーの元に生首が届けられる。事件を調べてみると、以前ディクラークが解決した<ヘッドハンター>事件の状況と酷似していることに気づき・・・・・・

<感想>
 本書は「ヘッドハンター」の続編である・・・・・・というよりも、続きであると強調しておいたほうがよいだろう。この本は絶対に「ヘッドハンター」の後に読むのと先に読むのでは全く印象が変わってしまうので、まだ読んでいない人は必ず読んでおいて欲しい。続けて読めば、超弩級の面白さを味わえること間違いなし。

 この作品では二人の“斬首人”が登場する。片や前作にて登場したはずの首斬り人、片や正体がわかっているはずの首斬り人。といっても、当然の事ながらいつものスレイド作品で見られるように、それぞれとんでもない展開が待ち受けている。最後の最後まで余談を許す事のできず、油断をしていれば不意打ちを喰らう事となるだろう。

 また、本書は一連のシリーズとしても目が離せないものとなっている。ディクラークとチャンドラーの周囲の人々の心の動きと、それぞれの関係。さらには、それぞれが生死を懸けた闘いを行い、物語の途中で倒れていく者もいる。

 飛び飛びながらも一連のシリーズを読んできて、最近ようやく登場人物たちに思い入れが出てきたところである。しかし、思い入れのある登場人物らが今後の作品の中で生き延びる事ができるとは限らない。さらには、新たなる殺人鬼へと変貌すると言う事も・・・・・・


メフィストの牢獄   6点

1999年 出版
2007年10月 文藝春秋 文春文庫

<内容>
 カナダとアメリカでキャンベルという姓を持つ男が行方不明になるという事件が起きた。後に死体となって発見されたとき、その男性は拷問を受けた痕があった。
 自らを“メフィスト”と名乗る男はキャンベル家にまつわる“宝”を狙っていた。しかし、拉致したふたりからはその在り処を聞き出すことはできなかった。“メフィスト”はその宝の行方を警察に探し出させようと警官を拉致することに・・・・・・。
 いつのまにか、奇怪な殺人事件の渦中に放り込まれることとなったロバート・ディクラーク。彼は事件を解決するために、そして部下を救出するために奔走するのであるが・・・・・・

<感想>
 古山裕樹氏によるあとがきで、スレイドという作家を表すよい一文があったので引用させてもらうことにする。

 「物語のバランスを崩しかねない勢いで、背景の知識を大量に詰め込む」

 上記にあげたように本書もまさにこの一言である。スレイドの作品については、それが良いか悪いかではなく、既にそれがスレイドの作風となっているので、それを許容するのがスレイドを読む正しいスタンスなのであろう。今回も物語のバランスを崩す(←あえて断言)ほどの背景や知識が詰め込まれているなか、物語は進められてゆく。

 今作に関してはスレイドの作品としては、ずいぶんと単純な仕上がりであったなと思われた。話を要約してしまえば、警察官がストーンサークルなどの神秘的なものに魅了された財力を持つ男に拉致され、それをディクラークが助け出そうとする、というだけの話といっても過言ではあるまい。終盤にて驚かされるようなシーンも挿入されてはいるものの、比較的普通に話が進んで行ったという感触であった。

 ただ、本書があっさり目であったのは、ひょっとするとこの作品がこれから続く物語の序章であるということを秘めているからかもしれない。そういうわけで、今作は少々抑え目であったということなのであろうか。といっても、これはあくまでも予想で、実際にどんな作品がまっているのかなど予想だにさせないのもスレイドの特色である。次回作が訳されるのをまた楽しみに待つことにしよう。




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