Donald E. Westlake  作品別 内容・感想

361   6点

1962年 出版
1967年03月 早川書房 ハヤカワミステリ977

<内容>
 レイ・ウィラードは三年の軍隊生活の後、除隊し、ニューヨークに戻ってきた。父と再会し、父の車で故郷へと帰る途中、何者かに襲撃される。父親は射殺され、レイは重傷を負うことに。いったい父は何故殺されなければならなかったのか? レイは復讐を誓い、兄ビルの力を借りて、殺人者を捜し始める。

<感想>
 ウェストレイクの初期作品。いまや古本屋でしか入手できないであろう。

 本書のあとがきを読むと、ハードボイルド業界でチャンドラーやマクドナルドに告ぐ作家がいないことが懸念されていた時代があり、その時に新人として出てきた一人がこのウェストレイクであるという。今でいうとウェストレイクといえば、多彩な作家という風に捉えられるが、本書はウェストレイク名義の3作品目であり、同時にスターク名義で悪党パーカー・シリーズを書いていたという事を考えるとハードボイルドの新たな旗手だと考えられてもおかしくなかったのかもしれない。

 この作品を読むと、ハードボイルドでありつつも、クライムノベルの走りというようにもとれる内容。軍隊を除隊した男が、目の前で父親を殺され、その復讐を誓うというもの。主人公が知らなかった父親の過去を掘り下げることにより、新たな世界へと関わり合うこととなり、主人公を取り巻く世界が一変する。そこから主人公が復讐を遂げてゆく過程と行動は圧巻なもの。さらには、事件を単純に終わらせずに一捻り付け加えてあるところも見事と言えよう。

 スピーディーでなかなか読み応えのある作品であった。まだ、初期の作品ゆえにあまりウェストレイクの色というか特徴が出ているという感じではなく、主人公の人間性自体も薄い。今の時代に読むと普通のクラムノベルというぐらいにしか感じられないかもしれないが、その時代に読めば新生が表れたと感じ取れたのではないかと思えてならない。ちなみにタイトルと“361”というのは、作品の内容とは関係なく、百科事典の361ページが生命の破壊・変死・横死の項、つまり殺しのページだということから付けられたそうである。


忙しい死体   6点

1966年 出版
2009年08月 論創社 論創海外ミステリ87

<内容>
 ギャングの一味であるエンジェルは、ボスに命令されて墓に埋葬された死体を掘り出すこととなる。その死体はなんと、25万ドル相当のヘロインが入ったスーツを身につけたまま埋葬されたらしいのである。エンジェルは墓から棺を掘り出してみたのだが、なんとその中に死体は入っておらず・・・・・・

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<感想>
 ウェストレイク初期の作品。この作品はウェストレイクらしい、ドタバタ劇が描かれたミステリ作品となっている。ただし、初期の作品であるためか、ドタバタぶりも少々控えめであったように思える。

 とはいえ、主人公エンジェルが、警察に追われたり、美女にだまされたり、命を狙われる破目になりながらも死体の行方を捜そうと奔走する様はなかなか見ものである。簡潔に読むことができるサスペンス・ミステリとしてはもってこいであろう。

 ただ、ボリュームは少ないので、万人向けのミステリというよりはウェストレイクのファンのための一冊という感じはする。これが文庫であれば、広くお薦めしたいところではあるが。


平和を愛したスパイ   6点

1966年 出版
2022年09月 論創社 論創海外ミステリ289

<内容>
 小規模な“市民独立連合”の代表を務める J・ユージン・ラクスフォードは今日も印刷機と格闘しながら連合のパンフレットを刷ろうとしていた。そんなときユースタリーという男が訪ねてきて、何を思ったのかラクスフォードを過激派の団体の一員として集会に参加するように呼び掛けてきた。その集会に参加しなければ、のっぴきならない羽目になると想像したラクスフォードは、恋人アンジェラの勧めもあり、二人で集会に参加することとなる。その集会に参加したことにより、ラクスフォードは事件に巻き込まれ、過激派組織にスパイとして潜り込む羽目となり・・・・・・

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<感想>
 今年になって「ギャンブラーが多すぎる」に続いて、立て続けにウェストレイクの未訳作品が訳されている。近年、訳されていなかったので、これを機にドートマンダー・シリーズを含めて、どんどんと未訳作品を紹介してもらいたいところ。

 本書は、思いもよらずスパイとなってしまった男の物語。最初は、生産的な内容ではないというか、特に目的もなく、妙な出来事に主人公が巻き込まれただけ、という感じであった。しかし、その妙なできごとであるテロリスト(らしき者達)の集会から派生していって、そこから逃亡劇の末、主人公がテロリストの内部を探るためのスパイになるという展開は面白かった。そして、思いもよらずスパイとなった男の大活躍(というほどでもないけれど)が始まることに。

 序盤こそ、目的のないような話という感が強かったが、途中から物語におけるしっかりとした目標が据えられ、俄然話は面白くなっていった。ドタバタ劇ながら、数少ない主要登場人物を有効に使いまわし、うまく物語を仕立て上げていると感じられた。何気に良くできた作品であると思われる。これは広くお薦めしたい・・・・・・といいつつも、単行本では少々高いかなと。「ギャンブラーが多すぎる」みたいに、せめて文庫作品であれば・・・・・・


我輩はカモである   6点

1967年 出版
1995年04月 早川書房 ミステリアス・プレス文庫86

<内容>
 フレッド・フィッチは気弱でお人よしであるため、様々なサギに引っかかり続け、今では詐欺捜査課の刑事とさえ顔なじみとなる始末。そんなフィッチが会ったこともない叔父の遺産を相続することとなり、大金を手にすることに。ただ、その叔父の遺産はいわくつきであり、いつの間にかフィッチは命を狙われるはめとなり・・・・・・

<感想>
 ユーモア調のドタバタミステリ。細かい整合性がどうだとか、主人公の人物造詣がどうだとか、そういったことは気にせずに、ただただ展開を楽しむべき小説という感じ。

 いくらなんでも主人公が騙されやすすぎだろうと思えなくもないのだが、ただこういった性格だからこそ、大金を手にできる可能性があるのだとも考えられる。


ギャンブラーが多すぎる   6点

1969年 出版
2022年08月 新潮社 新潮文庫

<内容>
 タクシー運転手のチェットは、ノミ屋のトミーに頼み、馬券を購入する。すると、それが大当たりし、喜んで配当金を受け取りに行くと、ノミ屋のトミーが銃殺されているのを発見する。その後、チェットは当たったはずの金をどうやって手に入れるべきか考えこんでいたのだが、いつの間にか二つのギャング組織に心当たりもないまま命を狙われる羽目となり・・・・・・

<感想>
 久々に訳されたウェストレイク作品。まだ、未訳のものが結構あるので、少しずつでも訳されて行ってもらいたいものである。今作は、ギャンブル好きなタクシー運転手が巻き込まれた騒動を描いたものとなっている。

 馬券が大当たりし、配当金を受け取りに行くも、肝心のノミ屋の男が殺されているのを発見する主人公。そこから、何故か主人公は二つの組織のギャングから狙われ、それぞれから相手側の手先だとみなされ、拉致されたり、命を狙われたりする。その事件を追う警察からも逃げ、さらにはノミ屋の男の妹が兄を殺した犯人を突き止めるということで登場し、主人公は騒動のなかから脱しきれないまま、延々と窮地に立たされ続けてゆく。

 そういった騒動の様子を面白おかしく描いた作品。結末はやや小ぶりなところに収束したという感じであったので、結末云々よりは騒動の過程と次に何が起きるのかというサスペンスフルな場面をを楽しむべき作品といったところであろう。


ホット・ロック   7点

1970年 出版
1972年06月 角川書店 角川文庫
1998年09月 角川書店 角川文庫(改訂版)

<内容>
 刑期を終えて、出所したばかりのドートマンダーの前に、相棒のケルプが現れた。とんでもないもうけ話があるという。それは、アフリカの某国の大使からの依頼で、展示されているエメラルドを盗み出せば、一人頭3万ドルの報酬が出るというもの。ドートマンダーとケルプは、他に3人の仲間に声をかけ、宝石強奪に乗り出すことに。そして宝石強奪に成功したかと思いきや・・・・・・

<感想>
 ウェストレイクのシリーズ作品、泥棒ドートマンダー・シリーズの第一作品。久しぶりに再読。

 基本的にユーモア・クライム小説という感じの作品という印象が強いのだが、読んでみると意外と真面目に事が進められている。本人たち、特にドートマンダーは、いたって真面目に宝石強奪案を計画し、仲間と共に取り組むのだが、ちょっとしたトラブルにより、成功には至らない。そんなこんなで、何度も宝石の強奪を図ろうとするのだが、ドートマンダーの計画がいつもうまくいくにも関わらず、肝心の宝石のみを手に入れることができないという始末。

 なんとなく連作短編のような感じになっているのだが、ひとつひとつの計画を取り上げると、それだけで一冊の本となりそうな感じのもので、何気に読み応え感満載の作品となっている。ドートマンダーの強奪計画案が5つと、最後に繰り広げられる騒動が加え、最終的にはどこへやらと。。

 最初はウェストレイクは、シリーズ化するつもりはなかったとのことであるが、その割にはしっかりとキャラが立っている。犯行を計画するドートマンダー、その相棒で交渉役のケルプ、運転に自身のあるスタン・マーチ、列車マニアの錠前師チェフウィック、色男のいかさま賭博師グリーンウッド。後の作品に出てくる者もいるので覚えておいて損はなし。

 読んでいて楽しくなってきたので、感想を書いていない他のシリーズ作品も順番に読んでいきたいと思っている。過去の作品を読んでいるうちに、そろそろドートマンダーの未訳作品が出版されてもいいのではないかと思っているのだが・・・・・・


さらば、シェヘラザード   5点

1970年 出版
2018年06月 国書刊行会 <ドーキー・アーカイヴ>第5回配本

<内容>
 ポルノ小説のゴーストライター、エド・トップリスは突然スランプに陥り、作品を書けなくなっていた。締め切りが迫る中、自分のことや家族のことをあれこれ書きながら、なんとか作品を書き上げようとするのであったが・・・・・・

<感想>
 ウェストレイクの伝説的な・・・・・・変な本。ポルノ小説家が作品を書けなくなって、ひたすら悩むという内容。ただし、ただ単に悩むというだけでなく、自分の悩みながらの実生活と、書いている文章が交錯してゆくこととなる。現実から、虚実へ至り、するとそこから最初に戻り、また書き直し。そこから別の現実へと、という感じのメタ・フィクションのような構造。

 といった感じの変わった作品でありつつも、そこに何らかの仕掛けが施されているというわけではなく、あくまでも変わった小説という感じのもの。そんなわけで、とにかく変わった小説が読みたいとか、ウェストレイクをコンプリートしたいとか、そういった人以外にはあまりお薦めできない作品。


強盗プロフェッショナル   6.5点

1972年 出版
1975年01月 角川書店 角川文庫
1998年09月 角川書店 角川文庫(改訂版)

<内容>
 セールスで細々と金を稼いでいたドートマンダー。そんなとき、またもやケルプが仕事の話を持ち込んでくる。狙うは、改装中により、トレーラーを使って仮営業をしている銀行。ドートマンダーらは、その銀行をそっくりそのまま盗み去ろうとするのだが・・・・・・

<感想>
 ドートマンダー・シリーズ第2弾を再読。そもそもシリーズ化するつもりがなかったウェストレイクであるが、トレーラーハウスで仮営業している銀行を見て、インスピレーションを得て、この作品を書いたとのこと。

 前作に続き、ドートマンダー、ケルプ、運転手役のスタン・マーチとタクシー運転手であるマーチの母親が登場。さらに、今作から登場することとなったドートマンダーの恋人のメイ、ケルプの甥で元FBIのビクター。さらに、シリーズ上では度々配役が変わる錠前師であるが今作ではハーマン・Xが登場。

 そんな彼らがトレーラーに乗った仮営業の銀行を奪取する。その手際はなかなかのものであるが、もちろんのこと、サラッと成功とはいかないのがこのシリーズ。銀行奪取後の困難をどう乗り切るのかが見もの。個性的なドートマンダーの仲間たちと、間抜けな警察との応酬が何とも言えない楽しさをかもしだしている。


ジミー・ザ・キッド   5.5点

1974年 出版
1977年01月 角川書店 角川文庫
1999年05月 角川書店 角川文庫(新装版)

<内容>
 ドートマンダーのもとに相棒のケルプが、またも新たな仕事を持ってくる。その内容は、リチャード・スタークという作家が書いた小説をもとに、その内容の通りに誘拐を行い身代金を奪い取るというもの。全く乗り気のしないドートマンダーであったが、結局はいつものようにケルプの仕事に乗ることに。小説の内容にそって資産家の子供を誘拐したまではよかったのだが・・・・・・

<感想>
 ドートマンダー・シリーズの3作品目。今作は、サブキャラクターなしのいつものメンバーのみ(ドートマンダー、ケルプ、マーチ、マーチのお袋、メイ)の5人での仕事となる。

 今回の一番の見所は、悪漢パーカーを主人公としたリチャード・スタークの小説をもとに犯行を行うというところ。スタークはご存じ、はウエストレイクの別名義。多彩な作家であるからこそ、こういったネタを使えるといったところか。

 ドートマンダーらが行う誘拐事件については、当然のことながら、うまくいくはずもなく。誘拐した少年がやたらと頭がよすぎることを筆頭に、取引相手が小説の内容通りにやってくれるわけでもなく、ひっちゃかめっちゃかの展開が待ち受けている。

 今作に関しては、ドートマンダーが乗り気ではなかったためか、自分の頭ですべてを計画したわけではないからか、やたらと間抜けっぷりが強調されたものとなっていた。その間抜けっぷりも今作ではやり過ぎではなかったかと思われるくらい。他のメンバーはいざ知らず、ドートマンダーくらいは、もう少し切れる男でいてもらいたいところ。


二役は大変!   6点

1975年 出版
1995年08月 早川書房 ミステリアス・プレス文庫90

<内容>
 グリーティングカードを製作する会社を経営しているアート・ドッジ。ある日、資産家のリズ・カーナーと知り合い、彼女が自分は双子であることを打ち明けられたとき、何故かアートは自分も双子だと嘘をついてしまう。そして、リズの双子の妹であるベティ・カーナー対し、アートはアートの双子のバート・ドッジだと名乗り始める。そして、それぞれがリズとベティに気に入られたと感じ始めると、アートは莫大な資産を手に入れるために、結婚詐欺を企み始め・・・・・・

<感想>
 ウェストレイクの昔の作品を再読。何度か映画化されているようであり、映画化されるのも納得の派手な内容の作品となっている。

 ひとりの男が双子と嘘をつき、双子の姉妹と付き合い始めるという大胆な行為がなされる。単に双子と付き合うだけであれば、そういた内容の作品はありそうであるが、資産家の双子の姉妹から金を巻き上げようという試みがなされるというものは、あまりなさそう。というのも、普通であったらどう考えても成立しなさそうな行為。それを強引にやってしまっているのがこの作品。

 細かいところに穴がある・・・・・・どころか、どう考えてもうまく行きっこないというような行為がなされている。しかし、それをコメディ・サスペンスとして受け入れてしまえば、楽しく読める作品。詐欺行為は行き当たりばったりなのだが、資産や相続に関する事細かい内容は何故かしっかりと書きこまれている。そういった厳密な資金の話とは裏腹なガサツな詐欺行為であるのだが、何故かとんとん拍子にうまい具合に話が進んでいってしまう。

 後半になると、こんなにうまい具合に話が進むわけがないと思いつつも、実は意外とずさんな管理体制により、すんなりと事が進んでしまうことがあるかもしれないと思えてくるところが恐ろしい。世の中、事細かく考えてうまくいかないとあきらめるよりも、度胸と行動で突き進んでいったほうがうまくいく場合もある・・・・・・と、そんなことはないだろうけど。


踊る黄金像   5点

1976年 出版
1994年05月 早川書房 ミステリアス・プレス文庫75

<内容>
 南米の国から盗まれた黄金のアステカ像。その像がアメリカに運び込まれたものの、15体のレプリカと混ざってしまい、気が付けばそれらが全て注文者に配られてしまっていた。アステカ像の存在を知った者たちは、一攫千金を勝ち取ろうと、16体の像の行方を追い、ひとつひとつ虱潰しに探していくのであったが・・・・・・

<感想>
 ずいぶんと久しぶりに手に取った作品。ウェストレイク初期の作品なのかと思いきや、そんなこともなく、中期ぐらいに書かれた作品。その割には、結構荒々しい作調というか、ごちゃごちゃした内容となっている。

 ちょっと16体の像というのは、数が多すぎたのではないかと。その像を追う者たちから、16体の像のそれぞれの持ち主、さらには盗まれた国から像を求めてはるばるハイジャックして来る者たちまでと、登場人物が多すぎる(登場人物一覧が3ページにわたっている)。ここまでくると、もはや細かい内容云々は一切関係なしに、とにかくドタバタ騒ぎを楽しむだけという感じになってしまっている。

 整合性とか、きちんとした結末とか、そういったものは期待せずに雰囲気を楽しむべき作品。登場人物たちの勢いに乗って、ただ読み進めてゆけばいいのであろうと、そんな感じがした。


悪党たちのジャムセッション   6点

1977年 出版
1983年05月 角川書店 角川文庫
1999年05月 角川書店 角川文庫(新装版)

<内容>
 窃盗を企てたドートマンダーは現行犯で捕まり、刑が確定するのを待つのみとなったとき、突如敏腕弁護士が現れ彼を救い出す。ドートマンダーを救い出したのは、アーノルド・チョーンシーという男で、彼はドートマンダーに自分が所有している絵画を奪ってもらいたいというのである。要するに絵画に対して保険金詐欺を企て、金を設けるという算段である。しかもチョーンシーは、殺し屋も雇っており、ドートマンダーに断らせる気は一切ない模様。そんなわけでドートマンダーは仲間を集め、絵画強奪を企てるのであるが・・・・・・

<感想>
 なんと今回はドートマンダーが窃盗に失敗し、裁判をかけられるところから始まる。ところが、とある男の手により助け出され、その代わりとして保険金詐欺を図るために依頼者が所有する絵画をドートマンダーは盗むこととなる。

 今作で手を組む仲間は運転手スタン・マーチ、1作目に登場した錠前師チェフウィック、シリーズ初登場の凶暴な巨漢タイニー・ブルチャー。ドートマンダーを含めた4人で行動を起こすはずが、案の定アンディ・ケルプが噂を聞きつけ、強引に仲間に入ってくる。

 そして絵画強盗を企て、うまくいくかと思いきや・・・・・・と、そこから物語は二転三転してゆくことに。失われた絵画を巡って、新たな計画を練ったり、ドートマンダーが殺し屋に狙われたり、別の国へとはるばる出かけたりと、泥棒の旅は尽きることがない。

 今作では途中でクリスマスパーティーが開かれ、前作までに登場したものたちが顔を見せる。この場面を見たときには、なんとなくウェストレイクはこのシリーズをこの作品で終わらせようとしていたのではないかと、ふと考えてしまった。実際にところ特にシリーズ化を考えていた作品ではないようなので、いつかはどこかで終わらせることを考えてはいたのであろう。ただ、結局のところまだまだシリーズは続いてゆくこととなるのだが。

 そして本書に関しては、馬鹿馬鹿しいラストシーンが印象的。これは笑わずにはいられない。結局のところドートマンダーは、どんなに離れたくてもアンディ・ケルプとは腐れ縁という関係が続くのであろうなと。


逃げだした秘宝   6点

1983年 出版
1998年03月 早川書房 ミステリアス・プレス文庫122

<内容>
 ドートマンダーは宝石店に忍び込み、見事金庫から宝石を盗み出す。そのとき、やけに大きな宝石があると思ったものの、単なる模造品と思いつつ、一応持ち出すこととした。やがて、その持ち出された宝石が由緒ある秘宝“ビザンチンの炎”であることがあきらかになる。その秘宝を警察のみならず、各国のテロリストたちが探し始める。やがて、警察は泥棒が偶然に盗んだのではないかと考え、前科のある者たちを片っ端からとらえて尋問しはじめる。その行為にわずらわしく思った犯罪者たちは、自らの手で宝石を盗んだ奴を捕えると息まき始め・・・・・・ドートマンダーは窮地に立たされることとなり・・・・・・

<感想>
 泥棒ドートマンダー・シリーズの再読。この作品では、たまたま高価な宝石を盗むこととなったドートマンダーが、それがもとで各国の組織や警察、果ては泥棒仲間たちからも追われ、身の危険に迫られることとなる。

 いつもながらのドタバタ作品。それなりにテンポがよく、あっさりと読み切ることができる内容。軽めのミステリとして楽しめる。今作ではいつもは単なるトラブルメーカーに過ぎなかったアンディ・ケルプが活躍を見せている。ケルプが興味本位で始めた電話機に関する妙な知識は物語上では邪魔でしかないように思えたものの、それが後半で意外な活躍を示すこととなる。

 全体的に面白いのだが、ただドートマンダー・シリーズとしてはちょっといまいちなところもある。というのは、ドートマンダーは、犯罪計画を立てることによりその存在を主張できる人物なのである。よって、今作のような巻き込まれ型の事件の中では存在感を発揮することができず、愚痴ばかりを言う中年男という印象のみとなってしまう。そんなわけで、ドートマンダーには、きちんと犯罪計画を練る仕事を与えてもらいたいところである。


天から降ってきた泥棒   7.5点

1985年 出版
1997年06月 早川書房 ミステリアス・プレス113

<内容>
 依頼されたキャビアを盗むために泥棒に入ったものの、警報をならしてしまい、慌てて逃げだすドートマンダー。天井伝いに逃げて、行き着いた先は、なんと修道院であった。修道女たちに助けられたドートマンダーは、彼女たちからの依頼を受ける羽目に。それは、修道院に新しく来たばかりの修道女が無理やり親に連れ戻されてしまったので、助け出してほしいというもの。しかもその修道女の父親は資産家であり、彼女をビルの屋上に閉じ込めているという。ドートマンダーは仲間たちの手を借りて、この難題を解決しようとするのだが・・・・・・

<感想>
 泥棒ドートマンダーが活躍する第6作品。今回は厳重な警戒態勢が布かれたビルの屋上から修道女である資産家の娘を奪回するという内容。今、ドートマンダーのシリーズ作品を第1作からずっと追い続けているのだが、この作品が一番できが良いと思われた。話の流れと言い、途中の展開と言い、ユーモア冒険サスペンス小説としては完ぺきな内容なのではなかろうか。

 今回登場するドートマンダーの仲間たちは、毎回登場のアンディ・ケルプ、運転手(今回は運転の機会がない仕事)のスタン・マーチ、怪力の巨人タイニー・バルチャー、そして作品によって次々と変わる鍵師はウィルパー・ハウイーという48年間刑務所に入っていた陽気でスケベな老人。彼らが修道女を救出しつつ、そのついでにお宝も頂戴しようという仕事に挑戦する。

 始まりは、仕事を失敗したドートマンダーが修道女たちに助けられ、仕事を依頼されるところから始まる。そして仲間を集め、仲間たちと修道女救出計画を練り準備を始めてゆく。準備ができたら計画の実行を行い始めるものの、当然のことながら思いもよらぬ出来事により、事は順調に運ばず、そうして行き着く先は・・・・・・という感じである。ドートマンダー作品としては王道の流れ。

 今まで出た6作品のなかではこうした流れではなく、ちょっと変化球気味のものもあったのだが、この基本的な物語の展開のほうが普通に楽しめてよいと思われる。今回は、運転技術が要求されないため、ややスタン・マーチが手持無沙汰であったような気もするが、それ以外の登場人物はそれぞれ見せ場があって、シリーズとしても十分に楽しめた。ひょっとすると、この作品こそがシリーズ最高傑作なのではと思えてしまうほど楽しめた作品。


アルカード城の殺人   6点

1987年 出版
2012年07月 扶桑社 扶桑社文庫

<内容>
 ドナルド・E・ウェストレイクが主催したミステリーイベントを小説化した作品。妻のアビー・ウェストレイクと共著。

 トランシルヴァニアの森に建つアルカード伯爵が住む古城。そこに蔵書整理を行うために雇われたジョセフ・ゴーカーが到着する。その城に住むのは奇妙な人々ばかり。吸血鬼を連想させるようなアルカード伯爵とその娘。アルカード伯爵が保護している体の弱い娘。彼らの病気の管理をしている博士とその婚約者。さらには城の雑役婦や謎の毛深い男などなど。こうした人々を紹介された矢先、ジョセフ・ゴーカーは次の日死体として発見される。彼を殺害したのは誰なのか? そしてこの城の謎とはいったい!?

<感想>
 1980年代に行われたミステリーイベントでの題材を小説化したもの。ゲストとして容疑者の役をやっている人たちは現役の作家が多く、この作品ではスティーブン・キングやピーター・ストラウブが出演している。事件が提示された後、イベントの参加者たちはそれぞれの容疑者を尋問し、最終的により詳細な解答を提示するという趣向である。

 このミステリーイベントでの重要なところは、容疑者にどのように質問し、どれだけの真相を引き出せるかというところにある。ただ、小説としては自由に尋問できるはずもないので、その詳細があらかじめ提示してあるがゆえに、残念ながらイベントの醍醐味を味わうことはできない。また、容疑者の証言がきちんと提示されていることから、だいたい真相がわかるようになっているので、犯人当てを楽しむことができる作品というわけでもない。

 とはいえ、その証言を読むだけでも、十分物語として楽しむことができ、怪奇風のミステリを味わえた気がする。写真が多数掲載されているせいか、ページ数のわりには若干本の値段が高めのような気はするが、ひとつの推理イベントの資料として残しておくのにはよいかもしれない。それなりにイベントの雰囲気と一風変わったミステリを堪能することができる作品。


嘘じゃないんだ!   6.5点

1988年 出版
1991年02月 早川書房 ミステリアス・プレス文庫35

<内容>
 ゴシップ新聞社に入社したサラ・ジョリスンであったが、出社当日に会社の近くで、放置された車の中に死体を発見する。その死体のことを社で話すものの、誰も取り合ってくれず、次第に忘れてゆくことに。最初は、ゴシップ記事を無理やり引き出すイカレタ業界の仕事に困惑するばかりのサラであったが、次第に慣れてきて、スクープをものにすることとなる。新聞社の一員として存在感を示しつつあるサラであったが、やはり入社初日に見かけた、死体に関わる事件の事が頭の片隅に引っかかっており・・・・・・

<感想>
 だいぶ昔の作品を引っ張り出して再読。ミステリアス・プレス文庫というだけで、古さを感じてしまう。そんな昔に邦訳されたウェストレイクの作品。

 簡単に言ってしまえば、ゴシップ記者の七転八倒ぶりを描いた作品。記者のみならず、ゴシップ業界全体を描いたと言ってもいいような内容になっている。そんな世界に入り込むこととなった新人記者のサラと、彼の上司となるジャックを中心に物語が展開してゆく。

 読み始めは、さほど面白いと思えなかったのだが、中盤くらいから段々と面白くなってゆく。その内容がまるでウェストレイクの描く“ドートマンダー・シリーズ”に通じるもののように思えてくる。というのは、厳重に警戒された相手方から、なんとかゴシップ写真を入手しようとするのだが、それをどのような手によって入手するのかという、まるでミッションをクリアするような内容となっているのである。そんな感じで、撮る側と撮られる側の戦いが繰り広げられれるという、面白い形で描かれているのである。

 ただ、泥棒であるドートマンダーについては、好意的に読むことができるのに、何故かゴシップ記者については、やや嫌悪感を抱きながら読んでいるところが不思議なところ。主人公側ではなく、撮られる側のほうに同情を抱いてしまうのだから、もはやなんとも・・・・・・

 といっても、話自体は面白く読むことができた。途中で希薄となってしまった、車の中の死体に関する話も、最後の最後ではきっちりとまとめられ、しっかりと大団円の物語となっている。読んでいるうちに、どんどんと内容に引き込まれることになっていく作品であった。


聖なる怪物   6点

1989年 出版
2005年01月 文藝春秋 文春文庫

<内容>
 インタヴュワーを名乗る男が老俳優ジャック・パインの元をおとずれる。そして語られるジャック・パインのその生涯。そのインタヴューが終わるとき、到達する真相とはいったい!?

<感想>
 ひとりのハリウッドのベテラン俳優の人生がインタヴュワーの前で語られてゆくという話。ただ、そのインタビューの中で不可解に思えることがいくつも感じられる。この俳優の語ることは現実なのか虚構なのか、彼の人生に終始つきまとうバディーという男の謎、そしてインタヴュワーの目的とは何なのか? そういう事を考えさせられながら最後まで物語に引き込まれてゆくという作品に仕上がっている。

 そして最終的な真相はというと・・・・・・結構普通な終わり方のような・・・・・・。とはいえ、こういう終わり方をするとは、多くの人は予想しえないのではないだろうか。といっても、それがあまりにもトリッキーとかそういった形ではなく、常識的な範囲の中に留ってしまったという印象。ゆえに、この辺はミステリーを読みなれている人であれば、さほど意外だとは感じないであろう。こういったところは10年以上も前の作品であるのだから仕方がないと考えるべきか。

 手軽にサイコ・ミステリーを楽しみたいという方にお薦め。文庫で300ページを少し超えるという程度の厚さであるのだが、ページの中で空白の部分が多いので200ページくらいの本を読んだという感覚であった。お手軽に本を読みたいという方はどうぞ。


骨まで盗んで   6点

1993年 出版
2002年06月 早川書房 ハヤカワ文庫

<内容>
 ドートマンダーらは、聖なる遺骨を狙い、盗みの計画をたてることに。タイニーのいとこであるツェルゴビア国のグリクから、敵対国であるヴォツコイェクが所有する聖なる遺骨を盗んでもらいたいと頼まれたのである。それを手に入れることによりツェルゴビアは国連に加盟することができるようになるのだとか。聖骨はヴォツコイェク大使館となっている船のなかに安置されている。ドートマンダーの計略によって骨を奪取しようとしたものの計画は失敗し、ドートマンダーが囚われの身となってしまい・・・・・・

<感想>
 泥棒ドートマンダーが活躍するシリーズ作品。今作はずいぶんと分量が長くなったような・・・・・・

 今までの作品の2倍の分量という感じ。前半でドートマンダーらが盗みに挑戦するが失敗して、ドートマンダーは監禁されてしまう。後半では脱出したドートマンダーが監禁されたことへの復讐と再度の盗みを成功させるべく、さらなる挑戦をするというもの。

 前半ではいつものメンバーである、ドートマンダー、アンディ・ケルプ、スタン・マーチ、タイニー・バルチャーといった面々で盗みを計画し、実行してゆく。後半では、今までに登場した泥棒たちが再集結し、派手に現場を荒らしていくこととなる。シリーズ数度にわたってドートマンダーに手玉にとられている警備関係の者達も再登場している。

 いつもながら楽しい雰囲気の作品ではあるが、通常の作品と比べると、やや内容がややこしくなっているかなと。そもそも泥棒の目的が、国家間のいざこざによるという背景であるゆえに内容がややこしいところはしょうがない事か。他にも、後半での盗品の扱いについてもややすっきりしないところが残っていたりしている。もうちょっと話を明快にしてもよさそうなものであるが、結局のところ仕事が成功しすぎてドートマンダー達が金をもうけ過ぎると次の作品につながらないというところが一番のジレンマなのかもしれない。


最高の悪運   6.5点

1996年 出版
2000年04月 早川書房 ミステリアス・プレス文庫147

<内容>
 盗みに入った家でドートマンダーは家人に捕まり、警察に突き出される。そのとき、家主のマックス・フェアバンクスはドートマンダーの指輪に目を付け、それは盗まれた自分の物だと主張する。そのことに対し、怒り狂ったドートマンダーは警察の連行をすり抜け、マックスから指輪を奪還することを誓う。仲間のアンディ・ケルプらの協力を受け、ドートマンダーはマックスのいる場所に忍び入り、指輪を奪い返そうとするのだが・・・・・・

<感想>
 なんとドートマンダーが考案する仕事の全てが当たりに当たり、大儲けをするという話・・・・・・ただし、ドートマンダー自身の目的はなかなか叶わないのだが。

 メイの元に送られてきた指輪をドートマンダーがもらい、はめることとなったのだが、泥棒先の家の主であるマックスにはめられ、その指輪をとられてしまう。別に指輪に愛着を持っていたわけではないのだが、ドートマンダーはそのマックスの行為が許せず、指輪の奪還を果たすことを決意し、マックスを付け狙うことに。

 最初は大した役割を果たすように思えなかったマックスがこの作品のもう一人の主人公という感じになっている。そして奪い取られた指輪の存在についてなのだが、これがどう見ても“不幸を呼ぶ指輪”にしか思えず、それを大事にするマックスがどんどんと落ちぶれていく様子がなんとも言えない。そして、何故かその指輪を追っているドートマンダーの懐がどんどんと潤っていくと。

 ドートマンダーがいつものシリーズらしくなく、仕事で大成功を収めていくという様相が何とも言えない。そして、その行為を煽りつつ、持ち主を不幸にするような指輪が大きな存在感を出している。まるで泥棒版“指輪物語”と言ってもよいような作品。



1997年 出版
2001年03月 文藝春秋 文春文庫

<内容>
 わたしは今、人を殺そうとしている。再就職のライバルとなる元同業者6人を皆殺しにする。この苦境を脱する手は他にないのだ。リストラで失職したビジネスマンが打った乾坤一躍の大博打は、やがて彼の中の“殺人者”を目覚めさせてゆく。

<感想>
 ある種一つの就職活動。リストラになった男は就職口を探そうと奔走する。しかし結果が出ないために男は自らの手で打って出ることに。理由や方法はどうあれ(肯定する気はないが)これは就職活動であり、またこの自らが活動しているという事実により男自身の心の中に平穏が生まれるのであろう。これによって男が就職できるかできないかは問題ではない。就職できなければ男はまた異なる方法を考え出し、自らの平穏を得ようとするのだろう。さらには平穏を手に入れたからといってそれまでに行ったことが消えうせるわけでもなく、さらに何かも求めようとするかもしれないのだが。結局は破滅に至るまで。

 しかし、それにしてもこんな内容であるにしろウェストレイクが書くことにより話が陳腐にならないのは見事である。リストラという同情もあるにしろ、なぜか主人公の行為がある種正当であるかのようにさえ思えてくる。読み手の心情を惹きつけて、一般的な正当性の境界があやふやにされてしまう。見事に引き込まれてしまった。


鉤   6点

2000年 出版
2003年05月 文藝春秋 文春文庫

<内容>
 ベストセラー作家ブライス・プロクターは悩んでいた。家庭の事情からスランプに陥っていて全く本が書けなかったのだ。そんなときに昔知り合いだった作家のウェインと出会う。ウェインはここ数年自分の名義で出しても出版料が少ないので別のペンネームで作家活動を続けていることをブライスに話す。ブライスはそこでウェインに私の名義で本を出さないかと持ちかける。収入は山分けという条件で。そしてさらにプライスはもう一つの条件を持ちかける。自分の妻を殺してくれないかと・・・・・・

<感想>
 ある種の交換殺人ものといってもよいであろう。ちょっと変わった交換条件と事件に関わる二人の職業が作家であるということが話を面白くさせていく。

 特に面白いのはアメリカでの出版事情によるウェインの悩み。出版料が安いので別のペンネームで書くというのには思わず納得してしまう。日本での出版事情というものにはあまり詳しくないのだが、売れない作家の中にはこういうことをやっている人がいてもおかしくはないだろう。当のウェストレイクもいろいろな名義で本を出版しているのだが実際にこのような出来事に遭遇した時期もあったのだろうか?

 その交換殺人が持ち掛けれた後は速いスピードで物語が展開していく。そしてそれから二人の作家がどうなっていくのかは予想をつけることが全くできない。とはいうものの中盤から後半にかけては妙に物語が落ち着いて、作家が普通に悩む小説になっていくというのもまた奇妙なものである。全体的に興味が尽きることのない仕上がりになっているのだが、もうひとやま欲しかったというところか。


バッド・ニュース   6点

2001年 出版
2006年08月 早川書房 ハヤカワ文庫

<内容>
 ドートマンダーは最近行った仕事が失敗したために、ケルプが持ってきた気の乗らない仕事を引き受けてしまうはめに。その仕事とはなんと、墓を掘って死体を入れ替えるというもの。いやいやながらも、ドートマンダーはケルプと共に仕事を行う事となったのだが、実はその墓掘りの依頼には、裏に潜む別の犯罪が隠されていたのだった! 結局、自らそれらの犯罪へと足を踏み入れることとなるドートマンダー。彼らは念願の大金を手中にすることができるのか!?

<感想>
 今回、本書を読んでいて感じたのはやけに小難しい内容になっているなということ。ドートマンダー・シリーズといえば、もう少し気楽な作風であると思えたのだが、今作では訴訟や弁護などと小難しい内容がいたるところにちりばめられている。結論としては、さほど難しいものではないのだが、それらの挿話が障害となり、少々読みづらさを感じられた。

 そしてドートマンダー自身も悩んでいた事なのだが、本書では彼の仕事がないのである。そのことに、なぜ自分がここにいるのだろうと悩み、存在意義を確認しながら黙々とどうでもいい仕事にせいを出すドートマンダーの姿は哀愁さえもただよってくる。

 しかし、後半に入り、ようやく本来のシリーズらしき話の流れとなってくる。そしてドートマンダーも彼自身が活躍すべき仕事ができて、見事に息を吹き返すこととなるのだ。

 最後まで読み通せば面白かったと思えるものの、やや冗長であったかなとも感じられた。もう少し単純な内容でもいいのでは? とも言いたいのだが、シリーズもこれだけ続けば、単純な内容ではマンネリ化してしまうのだろう。こういった内容になってしまうのも、人気シリーズゆえの悩みといったところなのか。


泥棒が1ダース   6点

2004年 出版
2009年08月 早川書房 ハヤカワ文庫(現代短篇の名手たち3)

<内容>
 序文「ドートマンダーとわたし」
 「愚かな質問には」
 「馬鹿笑い」
 「悪党どもが多すぎる」
 「真夏の日の夢」
 「ドートマンダーのワークアウト」
 「パーティー族」
 「泥棒はカモである」
 「雑貨特売市」
 「今度は何だ?」
 「芸術的な窃盗」
 「悪党どものフーガ」

<感想>
 ウェストレイク描く、泥棒ドートマンダーの短編作品集。これは傑作ともいえる、実にドートマンダー・シリーズらしい短編集に仕上がっている。味のある作品が実に多かった。

「愚かな質問には」はやけに重量のある美術品を妙な経緯で盗むこととなるのだが、ラストがグダグダになりそうなところを、予想外のオチが待ち受けている。

「悪党どもが多すぎる」は銀行強盗に出向いたはずのドートマンダーが何故か銀行強盗の人質になってしまう。絶対絶命の状況のなか、ドートマンダーがどのようにして切り抜けるのかが見もの。さらにそのとき、相棒のアンディ・ケルプがとった行動とは!?

「真夏の日の夢」はドートマンダーがやってもいない泥棒の疑いをかけられるというもの。ドートマンダーの泥棒の矜持たるものが垣間見える作品。ドートマンダーが実に男らしい、というか泥棒らしい。

「泥棒はカモである」はタイトルが実に見事。間一髪捉えられそうになるドートマンダーが如何にして危機から脱出することができるのかが、笑える形で描かれている。

「雑貨特売市」「今度は何だ?」内容のみならず、両方の短編に登場する故買屋アーニー・オルブライトという人物がいい味を出している。

「芸術的な窃盗」はかつての知り合いからドートマンダーは美術品の窃盗を頼まれるのだが、何やらよくないものを感じ取る。隠された真相を見抜き、ドートマンダーらがとる行動が秀逸。




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