R. D. Wingfield  作品別 内容・感想

クリスマスのフロスト   7点

1984年 出版
1994年09月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 刑事に昇進したクライヴの派遣先はロンドンから遠く離れた田舎町のデントン市にある警察署。そこでクライヴは到着するや否や起きた、8歳の少女の行方不明事件に関わることに。優秀な警部のもとでクライヴは捜査に関わるはずであったが、トラブルによりフロスト警部のもとで事件捜査を行う羽目に。このフロスト警部は、上司からは嫌われ、服装はだらしなく、書類仕事は苦手、人間性もいい加減ながら、何故か捜査に関しては手を抜かず朝から晩まで奔走するという人物。フロスト警部が指揮するもとで行方不明事件の捜査が行われるものの、その事件とは関係のない白骨死体が発見され、さらなる事件を抱えることとなり・・・・・・

<感想>
 この作品は確か、ミステリランキングの1位になり、注目を挙げた作品であったはず。ランキングにより注目されることとなったシリーズの最初の作品。そして、これ以降もシリーズはランキングの常連となっていった。

 私自身もランキングにより本書を知り、当時読むこととなった作品。そのとき読んだ以降再読はしていないはずなので、初の再読。とはいえ、シリーズを通して読んでいれば、どれもがたいして変わらない内容なので、そんなに懐かしいという気分にはならなかった。十分に面白い作品であることは確かだが。

 本書については、事件捜査を行うフロスト警部の捜査ぶりをただ単に楽しむという作品である。確かに事件の行く末についても気になるところであるが、そのへんに関しては出たとこ勝負という感覚でしかないので、とにかくフロスト警部の混迷ぶりを見守る作品としか言いようがない。

 少女の失踪事件、いきなり飛び出てきた白骨死体の謎、過去に起きていた銀行の職員が金と共に失踪した事件、怪しげな趣味を持つ神父、たくさんの猫と住む霊媒と名乗る老婆、そして細々とした事件の数々。それに対し、捜査班の面々は、警察庁閣下の甥であるクライヴ刑事の登場、上昇志向の強いためにフロストのことを快く思わないマレット署長、同じく上昇志向の強いアレン警部は病気により早々に離脱、そして癖のあるデントン署で働く面々と、最近フロストの机から小金が盗まれる事件などなど。

 そうした諸々の背景のなかで物語が進行していく。そのなかでちょっと気になったのは、最初はクライヴ刑事の視点から始まった物語であったものの、途中からフロスト警部の視点に代わり、そこからはほぼフロスト中心に話が語られることに。その後、クライヴ刑事も作品に出続けるものの、フロスト中心になってからはクライヴの存在がやけに薄くなってしまったなという感じであった。この辺は、多視点だったら多視点、ひとりを中心にするのであれば、それのみと決めておいたほうがよさそうに思えたところ。

 まぁ、なんだかんだ言いつつも、とにかく楽しめる作品。フロスト警部の下品ながらも、デントン署の人々に愛される様子(一部の人を除く)が微笑ましい。また、田舎町で長年勤めてきた刑事として、地域のことを隅から隅まで把握しているという古参の刑事という設定も味を出していると思われる。一見、ありきたりの警察小説のようでありつつも、それなりにこのシリーズのみといった痕跡を残しているところがすごい作品であると思われる。


フロスト日和   7点

1987年 出版
1997年10月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 デントン署で退職者のためのパーティーが行われているさなか、フロスト警部と部下のウェルズは公衆トイレで発見された浮浪者の死体の検分に駆り出されていた。一見、事故死と見られたが後の検視によって、殺人であることが判明する。殺人事件の捜査にあたるフロスト警部であったが、管内では連続婦女暴行事件が起き続けており、そちらの捜査にも駆り出されることに。さらには、強盗事件、ひき逃げ事件、そして警官の失踪事件などが起こり、フロスト警部は家に帰る暇もなく、事件捜査にあたることとなり・・・・・・

<感想>
 感想を書いていなかったので、フロスト警部シリーズの2作目を再読。今考えると、このあたりがシリーズ通して、一番面白いと思える時期だったと思われる。これ以降の作品は、ほぼ同じような内容の繰り返しであり、しかも登場人物たちに成長がなく、ひとつ話が終わったら、また全てリセットした状態で繰り返されるという感じであった。

 そんなわけで、この作品単体として読めば、十分に楽しめる作品であると言えよう。ちょっとフロスト警部の活躍っぷりがカオスというか、行き当たりばったり過ぎて、感覚的に合わないという人もいるかもしれないが、その人となりを楽しむことができれば、存分に楽しめるユーモア警察小説であると言えよう。

 少々、残酷な描写もあるものの、ユーモアあり、人情味あり、現実味在り、事件ありと様々な人間模様を楽しむことができる。そして、とにかく起きる事件の数が目白押しという感じで、次から次へと新しい事件が発生する。しかも、前の事件が解決される前にどんどんと新たな事件が積み重なってゆくこととなる。

 人手の足りない状況でありつつも、しかも整理整頓がきちんとできないフロスト警部がなんだかんだ言いつつも、いつのまにやら一つ一つの事件をそれぞれ解決していっているのだから面白い。偶然解決できる事件もあるのだが、時と場合によってはフロスト警部の推理が冴えわたることもある。

 また、本書はこのシリーズ作品を通した中では、さほどひどくない終わり方であり、ある程度は後味が良いものとなっている。それゆえに、シリーズのなかでも最高峰に位置づけられるよくできた作品であろうと思っている。


夜のフロスト

1992年 出版
2001年06月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 流感警報発令中。続出する病気欠勤に、ここデントン警察署も壊滅状態。それを見透かしたように、町には中傷の手紙がばらまかれ、連続老女切り裂き犯が闇に踊る。記録破りの死体の山が築かれるなか、流感ウィルスにも見放された名物警部のフロストに、打つ手はあるのか? 日勤夜勤なんでもござれ、下品なジョークを心の糧に、フロスト警部はわが道をゆく。

<感想>
 本書を読みながらフロスト警部のことが、“ドーヴァー警部”に似ているとふと思った。ただし完全にドーヴァーに似ているわけではない。霞流一氏の解説を読むと漠然とした思いに対しての解答がずばりと答えられていた。「ドーヴァー+メグレ」なるほど、これで決まりだ!

 いや、ほんとに笑える。読み進めながら何度吹き出したことか。本書も傍若無人ないいかげんさと冴え渡る冗談に彩られている。そんななか微妙ながらも周りの人たちへのフロスとなりの不器用な気遣いが表れているのも本シリーズの特徴だろう。そのフロスト警部に長年付き合っている者たちの彼へのあきらめ加減やそれとなくたよりにしている部分が微笑ましくもある。

 しかしながら今回起こる事件はこれまたすごい。次から次へと死体の山が・・・・・・。次々とわいてくる事件。後から後からわいてくる怪しい人々。一つを解決しても、また次がとほんとに忙しい。ただ、なかなか面白い展開ではあったが最終的に事件の解決として納得がいったかというとそうでもない。かなり割り切れない部分も多々残ってしまう。

 ただし、フロストのシリーズというのは、そのような整合性を求める類のものではないのだろう。このシリーズの楽しみ方はやはりフロスト警部の七転八倒ぶりや彼の周りの迷惑をこうむる人々との掛け合いを素直に楽しむべきものなのであろう。


フロスト気質

1995年 出版
2008年07月 東京創元社 創元推理文庫(上下)

<内容>
 ハロウィーンの夜、デントン市内でゴミの山の中から少年の遺体が発見された。市内では連続幼児刺傷事件が起きていたさなかのことであった。フロスト警部は、さらに、別の行方不明の少年の事件までもを抱えることに。少女誘拐事件、腐乱死体事件、さらにはそれぞれの事件からさらなる事件が派生され・・・・・・
 フロスト警部は、文句ばかりの上司、上昇志向のみ強い同僚、同じく上昇志向のキャリアウーマンなどに取り囲まれながら、多くの事件に奔走することに!!

<感想>
 7年ぶりの新刊か。この7年の間、何があったんだろうと疑問に思うのだが、特にあとがきでも説明はなかった。この“フロスト”シリーズと“ストリート・キッズ”シリーズのウィンズロウの作品って、なんでこんなに訳が遅れたのだろう。理由があれば教えてもらいたいところである。

 ということで、フロスト・シリーズの最新作であるが、これはもう期待にたがわず面白い。基本的には前作までとやっていることは変わらないのだが、そこに不変の面白さというものが存在しているのである。

 話の流れとしては、多くの事件が次々に起き、手当たりしだい、行き当たりばったりにフロストがひとつひとつ事件を解決していくというもの。

 ただ、ここで起こる事件というものが、かなり陰惨なもので暗い雰囲気がただよってもおかしくないのだが、フロスト警部の性格上、そういった暗さをいっさい感じさせずに物語を進行させてゆく。この持ち前の明るさにより、ストーリー全体の雰囲気を明るくさせるというところこそ、このシリーズの持ち味といえよう。

 また、このフロスト警部というのが、事件解決には親身をけずって奔走するものの、かなりいい加減な捜査ぷりなのである。基本的には主人公のフロストに感情移入しやすくなっているので、出世欲ばかりが前面に出てくる彼の上司や同僚には好感がわかないのだが、冷静に考えてみればその上司や同僚にも共感がわかないことはない。要するに、見ている分には楽しいが、実際に仕事するうえではフロスト警部のような人物にそばにいてもらいたくないというのが本当のところであろう。とはいえ、フロスト警部が憎めないキャラクタであるのもまた事実なのではあるのだが。

 と、長らく新作をまっているうちに、なんと著者のウィングフィールド氏が亡くなってしまったとのこと。これはとても残念なことである。フロスト警部の長編作品で未訳のものはあと2冊。そういうことならば、急がずに新刊が訳されるのを待ち、その新刊が出たならば、ゆっくり噛みしめて読むこととしよう。


冬のフロスト

1999年 出版
2013年06月 東京創元社 創元推理文庫(上下)

<内容>
 署長のマレットが見得をはって、署員を他の警察署へ派遣したことにより、人員が手薄になったデントン警察署。そんなときにかぎって、事件が次から次へと起きることに。少女の連続失踪事件、連続強盗犯・怪盗枕カヴァー、娼婦を狙う連続殺人事件、掘り起こされた古い骨。そうした事件に休みなしで立ち向かうフロスト警部であったが・・・・・・

<感想>
 久々にお目見えすることとなるフロスト警部のシリーズ。これが5作品目。でもこのシリーズ、読むのであれば、期間を置いてたまにくらいでよいのかもしれない。基本的な内容は全作そう変わっていないし、またやたらと分厚くて読むのが大変。とはいえ、作品自体はかなり楽しめるので、期間が長く開くと待ち遠しくなるのも確か。ちょっとじらされるくらいがちょうどよいのか。

 今作でもフロスト警部がいい加減な捜査をしつつも、一つ一つの事件にきちんと取り組んでいく。いい加減な捜査といいつつも、手薄な人員とさらには、捜査の足を引っ張る部下がいたりと、フロスト警部の立場は同情的なもの。そんな状況下にやっかいな事件が次から次へと降りかかる。

 文庫上下巻で合わせて1000ページ近くある。これだけのページ数に必然性があるのかといえば、決してそんなことはないと思える。むしろ3分の1くらいにして、3巻別々に出せばいいのにと感じられるくらい。それでも内容は十分に楽しめるので、1000ページ近くの作品にもついつい付き合いたくなってしまう。

 本書の一番の特徴はフロスト警部の人情味であろうか。一見、どうしようもない警部であるのだが、事件を捜査している姿には人情味があふれている。失敗ばかりする部下をかばったり、無償で働く捜査官たちに気をつかったり、被害者たちの惨状に胸を痛めたりと。本書で起こる事件の数々は陰惨なものも多いのだが、そこをフロスト流のユーモアと人情味で乗り切っているために、読みやすいユーモア小説として感じ入ることができる。どうにもこのシリーズはこの人間臭さがつい癖になって読むのがやめられなくなってしまう。シリーズ作品、残り1冊となってしまったのが、なんとも惜しいことである。


フロスト始末   6点

2008年 出版
2017年06月 東京創元社 創元推理文庫(上下)

<内容>
 署長マレットの人員配置のせいで、人手不足で大わらわのデントン署。そうしたなかフロスト警部は、ひとりでさまざまな事件を請け負うことに。足のみが発見された死体遺棄、スーパーの脅迫事件、10代の子供たちの連続失踪事件。さらには新たにデントン署にやってきたスキナー主任警部がやってきて、マレットと共にフロストをデントン署から追い出そうと画策する。そして実際にマレットから強制異動を持ちかけられることとなったフロスト警部は・・・・・・

<感想>
 前作「冬のフロスト」を読んだ時も同じようなことを書いたようなのだが、どこか既視感を抱く作品。忙しいデントン署。肝心な時に署員は出払っており、フロストのみに仕事が集中する。殺人事件やら行方不明事件が起き、さらには新しく来た同僚によって仕事を邪魔されると。細かいところは憶えていないのだが、他のシリーズ作品全般が、だいたいこのような内容だったのではないかと。

 著者の死によって、本書がシリーズ最後の作品となっているのだが、今回は今までのものと比べると後味が悪いという印象が残る。起こる事件が陰惨であったり、思いがけぬ死があったり、最後の最後で一気になだれ込むような事件の解決になったりと、何かスッキリしない終わり方であったような。いつものフロスト・シリーズであれば、最後にはスカッとして終わるというような感じであったような気がするのだが、今作はちょっと・・・・・・

 一応、フロスト警部は異動を免れそうという終わり方をしているものの、果たしでどうなることやら・・・・・・と言いたいところだが、その後の顛末がもう書かれることはないのが残念な事。そのかわり、他の作家によるスピンオフ作品として若き日のフロストの様子が書かれるとのこと。そちらも日本で紹介されることになったら読んでみようかなと。




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