ア行−ア  作家作品別 内容・感想

リヴァイアサン号殺人事件  Leviathan (Boris Akunin)

1998年 出版
2007年02月 岩波書店 単行本

<内容>
 パリの大富豪が謎の死を遂げる。大富豪は数多くの美術品をかかえており、それら目当ての犯行であったのか? しかも犯人は富豪の使用人たちをも皆殺しにしていた。数多くの謎を残す事件であったが、現場に落ちていた“金のクジラのバッジ”より、犯人は豪華客船リヴァイアサン号の乗客であることがわかる。ゴーシュ警部は犯人を捕まえようと単身船に乗り込むことに。そこで彼が出会ったのは、日本へ行く途中だというロシアの外交官ファンドーリンであった。

<感想>
 ちょっとした怪作と言えるかもしれない。なかなか癖のある一冊であった。本書はロシア人の作家が書く外交官ファンドーリンという人物が探偵を務めるシリーズの1作である。

 物語の発端は富豪の家で働く10名近くの従業員毒殺されるという事件が新聞記事によってあらわにされる。そうして、大富豪自身も殺害されており、美術品を盗んだ犯人の行方は知れず、現場に落ちていたバッジから警察はリヴァイアサン号に関連があると事件を読み取る。

 そして場面は変わり、リヴァイアサン号へと話は移ってゆくのだが、この後は描写が退屈という印象が強かった。さまざまな人種の色々な人々が出てくるものの、あまり面白く描かれていない。また、肝心要のミステリ部分もだんだんと尻つぼみになっていってしまったように思えた。

 本書で一番の見せ場といえば、犯人の疑いを掛けられた日本人に対して、探偵役のファンドーリンが見せる推理の数々。このへんは、日本に対して深い理解を示している著者ならではの描きよう。

 ちなみにこの作家のペンネームである“アクーニン”とは日本語の“悪人”からとったとのこと。

 終盤ではそれなりの展開と推理を見せ、それなりに見せ場があるものの、どうも中盤の微妙な展開が物語全体を縮小してしまったように思えてならず、残念にも感じられた。もう一味付け加えるというか、容疑者となる登場人物たちをもう少し魅力的にしてくれれば、また違った印象を持つことができたのではないだろうか。

 それでもロシア人作家のミステリ作品を堪能できたのは確かである。ミステリ界におけるマニアックな一冊と言えよう。


切り裂き魔ゴーレム  The Limehouse Golem (Peter Ackroyd)

1994年 出版
2001年09月 白水社 単行本

<内容>
 切り裂きジャックに先立つこと八年、血も凍る連続殺人が霧深いロンドンの街を恐怖におとしいれた!
 史実と虚構を巧に組み合わせ、批評家の絶賛を浴びた英国きっての知性派作家による第一級の犯罪小説。

<感想>
 一方で淡々と歴史が語られ、一方で裁判が進められ、また一方では運命に翻弄される舞台に取り憑かれた女性が描かれる。物語の進め方の面白さもさることながら、ミステリとしての出来もなかなかのもの。また当時をうかがわせる記述により、その社会のなかでどのように人の心が歪んでいったのかがうまく語られている。この300ページほどの一冊にここまで書ききるというのはたいしたものである。


ロジャー・マーガトロイドのしわざ  The Act of Roger Murgatroyd (Gilbert Adair)

2006年 出版
2008年01月 早川書房 ハヤカワミステリ1808

<内容>
 雪深いクリスマスのさかな、フォークス大佐の家に集められた客のうちのひとりが密室の中で殺害されていた。被害者は著名なゴシップ記者で、家に集まっていた全ての人々から嫌われていた男。彼らは近隣に住む元警部の力をかりて事態の収拾をはかろうとする。現場に呼び出されたトラブショウ元警部は、彼ら一人一人から話を聞き、犯人の正体を突き止めようとするのだが・・・・・・

<感想>
 ポール・アルテ以外に近代の作家のなかでこのような作品を書いてくれる人がいることがわかりうれしくなってしまった。ただ、この著者は技巧派の作家ということらしいので、ミステリだけにかかわらず色々な分野の作品を書いていそうである。今後もこういったミステリ作品もどんどんと書いてもらいたいものである。

 本書は雪に閉ざされた館で起こる密室殺人を描いた作品。これを聞いただけでも読みたくなる人が多くいると思われる。実際私も、この作家のことは何も知らないまま、帯に書かれているあおり文句のみで購入してしまった。

 そして読んでみると・・・・・・このトリックは!? ちょっとバカミスっぽい?? というかやってくれましたと言いたくなる様な内容ではあった。トリックそのものは似たようなものを知ってはいるので、驚愕とまではいかなかったものの、意外と効果的に使われているかもしれないと思わされた。

 また、密室トリックのほうは、これこそバカミス炸裂で笑えるようなものとなっている。

 この作品で少々不満であったのが、一同を集めてアリバイなどが語られてゆくものの、事件の構成について語られることなく、動機についてのみが延々と語られていくというところ。よって最終的にこの作品は“動機”という面に力を入れて書かれた作品という気がした。特に最終的に明らかになるタイトルが意味するものを考えると、そう思わざる得ないのである。

 何にしても、満足いく一編であったことは確か。ミステリ界における今年の話題の一作となることは確かであろう。


閉じた本  A Closed Book (Gilbert Adair)

1999年 出版
2003年 東京創元社 単行本
2009年12月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 かつて名をはせた作家ポールは事故により両目を失ってしまった。ポールは盲目になりながらも再び作品を世に出したいと考え、口述筆記をしてくれる助手を募集した。そして現れたのはジョン・ライダーという青年。二人は協力しながら生活し、ポールの新たな物語を作り上げていった。しかし、ある日ポールがジョンという青年に対し不審を抱くこととなる出来事が・・・・・・

<感想>
 今ではそれほど珍しい構成というわけではないかもしれないが、会話文のみで繰り広げられるミステリ作品。主要人物ふたりの会話で、作品のほとんどが成り立っており、そうしたなかで先の読めないサスペンス・ミステリが展開されている。

 非常にシンプルであるのだが、読ませる作品であった。徐々に主人公である作家の不安をあおる内容となっており、心理ホラーといってもよいような側面も持っている。

 と言いつつも、ラストの展開はやや期待外れ。物語が文学調で進められてきたがゆえに、ミステリとしての展開も格調高く進めてもらいたかったのだが、思いもよらぬほど俗過ぎた展開。そこだけが残念なところ。

 ただし、最後の最後で読者を驚かせる趣向も加えられており、十分に満足させられる内容であった。それほど意表をついた作品というわけでもないはずなのに、うまくできていると感じさせる内容。これは今年話題に上る作品か! と思ったら、2003年に単行本で出ていてそれが文庫化された作品だとのこと。ようするに私自身が見過ごしていた作品だということ。




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