ア行−エ  作家作品別 内容・感想

処刑台広場の女   Gallows Court (Martin Edwards)   6.5点

2018年 出版
2023年08月 早川書房 ハヤカワ文庫

<内容>
 1930年、ロンド、ン。クラリオン紙の事件記者ジェイコブ・フリントは、最近難事件を解決した素人探偵レイチェル・サヴァナクに興味を持ち、取材を試みる。そうしたなか、警察が捜査中の殺人事件の犯人が自殺を遂げる。その自殺の影にレイチェルの存在が見え隠れすることにより、ジェイコブは事の真相を突き止めようとする。そうしているうちに、ジェイコブ自身が事件の渦中へと放り込まれることとなり・・・・・・

<感想>
 年末のランキングを参考に購入した作品。ちょっと分厚い作品であったが、意外と読みやすく、1週間かけずに読み通すことができた。異色のサスペンス作品といったところか。

 主人公らしきレイチェル・サヴァナクという人物は登場人物表では“名探偵”と表記されているものの、作品を読んでいるうえではあまり“探偵”という感触はつかめなかった。普通に資産家の令嬢とか、悪女とかの位置づけで十分な感じに思えたのだが。

 本書の内容は、なかなか全貌が明らかにされず、途中では何が起きているのかがわかりにくい。そこはあえてこのような書き方をしているのだろうが、その全貌がわからないゆえに、やや取っつきにくさを感じられる。色々と事件が起きるのだが、その裏にレイチェル・サヴァナクの存在が見え隠れする。さらには、見え隠れするどころか、探偵を語る彼女自身が事件に手を下しているようにさせ思えてしまう。

 そうしたなか、話が進むにつれて、事態の全体が見えてくるようになり、ロンドン全土における資産家たちや、さらには警察機構をも巻き込んだ事件の収束が図られることとなる。それが何で、どのように展開していくのかが物語のキモになると思われるので、詳しく書いていくのはやめておきたい。ただ、読んでいる途上で、大まかな展開は予想できるようにも描かれているので、意外性を求めるよりも、スピーディーな(特に中盤以降)サスペンスを堪能すべき作品という印象であった。

 読み終えてみれば、レイチェル・サヴァナク自身よりも彼女を取り巻く使用人たちの方が魅力的であったように思われる。この作品、この後にシリーズとして描かれているようで、続編が今後紹介されることになるかもしれない。


静かなる天使の叫び   A Quiet Belief in Angels (R. J. Ellory)

2007年 出版
2009年06月 集英社 集英社文庫(上下)

<内容>
 時代は第2次世界大戦前、アメリカ南部の田舎町にてジェゼフ・カルヴィン・ヴォーン少年は母親と二人で暮らしていた。そんな田舎町にて少女が次々と惨殺体で発見されるという事件が起きる。その事件の被害者にはヴォーンの知り合いの少女も含まれていた。犯人が捕まらない状況の中、ヴォーンは友人たちと共に町を守ろうとガーディアンズを結成するものの、全くうまくいかず被害は増える一方。そうしたなか、ヴォーンの母親が精神のバランスを崩して病院に入院することとなり・・・・・・

<感想>
 2年前くらいに少々話題になった作品。積読にしていて、ようやく読むことができたのだが、これがまた凄まじいとしか言いようのない作品。少年の成長を描いた作品というにはあまりにも残酷で無残な内容である。

 基本的な内容はヴォーンという少年が住む街に連続幼女殺人犯が現れ、その影におびえて暮らすという内容。こうした内容のものであれば、大人になるにつれてそういった苦悩は消えつつあるはずなのであるが、年を追うにしたがい、ヴォーンの抱える苦悩は増してゆくばかりとなる。

 スティーブン・キングの作品であれば、超自然的なものが介在するのであるが、この小説では常に現実のものとして主人公に災いがふりかかってくる。さらに付け加えれば、彼には味方がいなく、孤立無援でその影と闘わなくてはならないのである。

 本当に最後の最後まで真相がわからないように描かれているのだが、その真相もなかなか驚かされるものであり、主人公を追いかけ続けてきた理不尽さがいかに大きなものであったかに気づかされることとなる。

 本書の欠点はといえば、やや読みづらいというところ。ただ、そのへんは著者の作風というか、意図的に文学的な作調で仕上げようとしていることが感じられ、読みづらさはいたしかたないことなのかもしれない。あとは、内容がどうにも暗すぎるというのもまた欠点といえるかもしれない。

 久々に印象的な本を読んだという気がする。読んでいる最中はそうでもなかったのだが、読み終えた後に物語を思い返してみると主人公の生きてきた歳月が非常に重くのしかかってくる。読了後に真の暗さを感じさせられる強烈な作品であった。個人的には物語ながらも主人公がよくぞこの重さを抱えながらここまで生き延びたということに賞賛したい。




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