カ行−キ  作家作品別 内容・感想

ムーンズエンド荘の殺人  Nine Nan's Murder (Eric Keith)

2011年 出版
2013年06月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 15年前、探偵学校で学んだ卒業生たちのもとに、校長のダミアン・アンダースンから同窓会の案内状が届いた。不審なものを感じながらも集まって来る8人の元生徒たち。現在は、探偵をしている者たちもいれば、別の道に進んだものもいる。そんな彼らは集められた山荘で、校長の死体を発見し、別荘の敷地内に閉じ込められたことに気づかされる。何者かからの殺人予告状。いったい誰が? 何のために? 彼らが過去にかかわった事件に関連があるのか? それとも現在関与している事件が関わっているのか? 疑心暗鬼にかられるなか、次々と殺人が行われてゆき・・・・・・

<感想>
 帯に“雪の山荘版「そして誰もいなくなった」”と書かれているのだが、まさにそのような内容。新進の作家によって描かれた本格ミステリ。

 いや、これはなかなか楽しませてくれた。このような作品が現代において書かれているというのは、まことに喜ばしいかぎりである。まだまだ、本格ミステリも捨てたものではない。

 内容は山荘に集められた探偵学校の卒業生たちが、ひとりまたひとりと殺害されていくというもの。本書の特徴は、登場人物ひとりひとりのバックボーンが詳細に書かれているということ。やや断片的な書かれ方ではあるものの、その各個人の背景だけではなく、他の人物ともかかわっていて、複雑な相関図を描いていく。

 そうした背景で事件が起こってゆくのだが、本書の一番の見るべき点は、真相を暴く推理にある。最後の最後で気づかされるのだが、実は物語の隅々において、犯人を指摘するための伏線がきちんと配置されているのである。ゆえに、極めてフェアな犯人当て小説になっていると言っても過言ではないのである。読んでいる最中は、もっとおおざっぱな内容だと思っていたために、かなり驚かされてしまった。

 ただ、ページ数の関係からか、物語上張り巡らされた伏線のいくつかが、回収されないまま終わってしまったことが気になった。さらに細部隅々までに心配りができれば、もっと良い作品となったのではないだろうか。しかし、著者にとっては、これが処女作となるそうで、これからが非常に期待できそうな作家である。この作品こそが今年の目玉であり、つくづく読み逃さずに済んで良かったと思っている。




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