ラ行−レ  作家作品別 内容・感想

馬鹿★テキサス   Buck Fever (Ben Rehder)

2002年 出版
2004年05月 早川書房 ハヤカワ文庫

<内容>
 鹿狩り解禁日の直前、狩猟監視官のマーリンの元に密猟が出たとの報告が届く。現場へ直行したマーリンが見たものは・・・なんとも“おバカ”な光景であった。しかし、それは町を揺るがす大事件の始まりに過ぎなかった。巨大鹿をめぐって起こる騒動の数々。テキサスを舞台にしたコミック・ミステリ登場!

<感想>
 読んでみての感想はというと、邦題ほど“ばか”というほどのものではないという事。というよりは、結構良質のサスペンス・ミステリーと言ってもいい内容である。本当は、もっと奇想天外な大リーガー級の“ばか”ミステリーを期待していたのだが・・・・・・

 では、それが何故“馬鹿★テキサス”などという名前が付いているかというと、登場人物の何人かに“おばか”な人たちがいるからという程度である。ようするに、本書はコメディ・ミステリーなのである。部分部分で、笑える描写が含まれており、確かに噴出しそうになったシーンがいくつかある。というわけで、本書を頭から“バカミス”とくくってしまうのもどうかと感じられた。まぁ、商業的な戦術ではあるのだろうけれど。

 そんなわけで、“バカミス”を期待していた人には、思っていたよりも・・・と感じるかもしれないが、ミステリーとしては十分満足できる内容であると思う。鹿牧場の牧場主、その謎をつきとめようとする狩猟監視官と保安官助手、用心棒に雇われた“おばか”な密猟者コンビ、謎のコロンビア人たちと、ひとくせもふたくせもある者たちが、鹿牧場の秘密をめぐって対決する。

 多視点の小説というのは私的には失敗するものが多いように思えるのだが、本書はそれにもかかわらず、非常にうまくまとまっていると思う。導入から結末まで、一気に楽しませてくれる爆笑サスペンス・ミステリー。ぜひ気楽に手にとってもらいたい本である。


マザーレス・ブルックリン   Motherless Brooklyn (Jonathan Lethem)

1999年 出版
2000年09月 早川書房 ハヤカワ文庫ミステリアス・プレス

<内容>
 ライオネル・エスログはミナ・エージェンシーの一員で日々探偵の真似事のような事をやっていた。ミナ・エージェンシーのメンバーは皆孤児であり、フランク・ミナに誘われて、チームの一員として働いている。そんなある日、仕事の最中にボスのフランク・ミナが殺された。トゥーレット症候群に悩み、チームの中でも軽く見られているライオネルは自分の力でミナを殺した人物を探り出そうとするのだが・・・・・・

<感想>
 ジョナサン・レセムというと「銃、ときどき音楽」という少し奇妙なハードボイルド作品を読んで以来である。その以前に読んだレセムの小説の雰囲気を結構気に入っていたので、今回はこの作品を入手し、読んでみたしだいである。

 これは一介のミステリーという範疇のみに収まる作品ではなく、文学的な要素も兼ねそろえた作品といえるだろう。ミステリーとしての観点のみで見るならば冗長と捉えられるようにも思えるのだが、本書はミステリーというものを兼ね備えた本であると考えればさほど気にするべき事ではないのかもしれない。面白いのか、面白くないのかという事をはっきりと述べられる内容ではないのだが、何か変った印象を残す作品であることは確かであると思う。

 本書はライオネルという青年の成長をブルックリンという街を背景に描いた作品。ライオネルはちょっとした欠陥を持った青年であり、周囲の人々からはどうしても奇妙な目で見られてしまうのだが、そんな彼が単身世間の中に入っていきながら、事件を探っていくという物語。その容は決して劇的というものではなく、むしろ淡々とした雰囲気とライオネルの心情にスポットが当てられた書き方となっている。そしてまた、最初に成長物語とは書いたものの、ひょっとしたらこの本を一冊通したところでもライオネル自身は何も変ってないのかもしれないとも感じさせられる。

 本書を読んだ感想を聞いたとしても誰も同じような感想ではなく、それぞれが異なる思いを抱くことになるのではないだろうかと思わされるような作品。といって持ち上げすぎてしまうのはちょっとほめすぎかもしれないが。


氷 姫  エリカ&パトリック事件簿   Isprinesessan (Camilla Lackberg)

2003年 出版
2009年08月 集英社 集英社文庫

<内容>
 海辺の古い屋敷で女性の全裸死体が発見された。最初は自殺かと思われたのだが、検視の結果殺人事件であることが明らかにされる。発見者のひとりである伝記作家のエリカは死体となって発見されたアレクスとは少女時代友人であった。しかし、その後音信不通となり、これまでの人生において彼女に何があったのかはわからない。エリカは自分の作品として、この事件を描くことができないかと考え始める。一方、刑事であるパトリックは横暴な警察署長メルバリに命令されつつ、事件を捜査してゆくこととなる。そうしていくうちにエリカと出会い、古い友人でもあった二人には恋愛感情が芽生え始める。そうしたなか、事件は容疑者と思われた人物が・・・・・・

<感想>
 昨年、ちょっと話題になった本であり、さらには今はやりのスウェーデン警察小説のひとつでもある。近年、クルト・ヴァランダー・シリーズ、「ミレニアム」といったスウェーデンの小説が話題となり、そこで紹介されたのが本国でも人気があるというこの“エリカ&パトリック”のシリーズ作品。

 内容はよくできていると思われる。最近、スウェーデンの小説が訳されているということもあり、登場人物の名前や社会問題についてもさほど違和感なく読むことができた。また、まじめな内容でありつつ、ユーモアも込められた小説となっているので、取っ付きやすい作品と言えるだろう。クルト・ファランダー・シリーズが固いと思われる方には、こちらをお薦め。

 ただし、取っ付きやすい分、やや重厚さにかけると思われるところもある。著者は、アガサ・クリスティーを意識している部分があるようで、いわゆる典型的な女流作家によるミステリ作品というイメージが強い。そうした作品が好きか嫌いかで好みは分かれるところであろう。

 私個人としては、女流作家が描く、女性の探偵が活躍する小説というのはあまり好みの作品ではない。本書では女性のみが主人公ではなく、事件の謎を解く探偵役は男性なので一概に好き嫌いとかは言い難い。ただ、二人の主人公の恋愛がらみだとか、エリカの義理の弟とのトラブルだとか、あまり好ましくない要素も含んでいたりするので、今後も追い続けていくかは微妙なところ。

 ただし、次の作品はすでに出ており、もう買ってしまっているので少なくとも2冊目は読む予定。今後どうしていくかは、一冊一冊読みながら考えていきたいと思っている。


説教師  エリカ&パトリック事件簿   Predikanten (Camilla Lackberg)

2004年 出版
2010年07月 集英社 集英社文庫

<内容>
 刑事パトリックと妻で作家のエリカが暮らフィエルバッカの洞窟で若い女の死体が発見される。しかも、その死体と共に白骨化した2体の遺体も発見される。それら2体の遺体は20年以上前に行方不明になった二人の女性だということが明らかになる。妊婦となったエリカと共に休暇をとっていたパトリックであったが、休暇を打ち切り捜査の指揮をとることとなる。この過去の事件と現在の事件は関連があるのか!? 過去の事件では説教師を務めていたフルト一族のひとりが容疑者となったものの、自殺をすることにより事件の片がついたと思われていたのだが・・・・・・

<感想>
 エリカ&パトリック事件簿の第2弾。最近はやりのスウェーデン・ミステリ。

 本書の特徴としては、警察捜査と、エリカ&パトリック夫婦の生活ぶりという2面から物語が作られていること。よって、警察捜査だけを読みたいという人には余計なパートが多いように思えるだろうし、警察捜査だけでは話が硬く感じられてしまうという人にはちょうど良いと思われる。

 今作はシリーズとしてキャラクターの設定が固まってきている巻ともとれる。警察署には、現場の陣頭指揮をとるパトリック、余計なことばかりする上司メルバリ、若手でバリバリ働くマーティン、パトリックよりも年上にもかかわらず捜査の指揮をとらせてもらえない役立たずのアーンスト、やる気があるのかないのか微妙なユスタ、やり手の事務官アンニカと個性的な面々がそろっている。従来の警察ものと比べれば事件捜査を任せて大丈夫なのかと感じられる面々なのだが、本来であれば大きな事件などほとんど起こらないような田舎町が舞台になっているので、事件捜査に慣れていないというのもいたしかたないのである。

 また、今回は妊婦という状況ゆえに、事件においては活躍することができなかったエリカであるが、彼女の妹が前作に引き続きやっかいごとを抱えており、予断を許さぬ状況。このへんは、次回作までもつれるようである。

 今回扱う事件は、現在と過去にわたる二つの事件の謎を解くというもの。とある一族に秘められた多くの謎が次々と明らかになり、やがて真相へと到達する。途中、事件の謎についてもちょっとした工夫がなされており、ミステリとしても濃厚な内容と言えよう。警察小説としてもなかなかのものであると感じられた。

 やはりこの作品についてはシリーズとして楽しめるかどうかが一番ではないかと思われる。それができないと、やや厚めの冗長なミステリ小説と感じられてしまうのみであろう。現在日本では3作まで出版されているので、キャラクターを忘れないうちに立て続けに読んだ方がより楽しめるのではないだろうか。というわけで、早めに3作目にとりかかりたいと考えている。


悪 童  エリカ&パトリック事件簿   The Stonecutter (Camilla Lackberg)

2005年 出版
2011年03月 集英社 集英社文庫

<内容>
 刑事のパトリックと結婚し、子供をもうけたエリカ。しかし、夜泣きする子供に悪戦苦闘し、すでに子育てに疲れ果てていた。そんなとき、子育ての良き相談相手であった隣人であるシャロットの娘が溺死体としてロブスター漁の網にひっかかっているのが発見された。最初は事故かと思われたのだが、パトリックらターヌムスヘーデ警察署の面々は殺人事件として捜査することに。しかし、捜査に乗り出すパトリックの相棒として付けられたのは、できの悪いアーンストであった。
 医者を営むクリンガ家の娘が殺害された事件。クリンガ家のシャロットの母親、リリアンと隣の家との騒動。さらには幼児が狙われる連続事件。こうしたなか、パトリックは真犯人に迫ることができるのか!?

<感想>
 エリカ&パトリック事件簿の第3弾。1作目、2作目と読んできたのだが、あとがきでこのシリーズがブレイクしたのはこの3冊目からだという記述を見て、とりあえず3冊目までは読もうと決めていた。ただ、この作品ページ数が分厚く、読むのも大変そう。さらには“クルト・ヴァランダー”シリーズとは異なり、さほど濃い警察小説というわけではない。そんなことから、このシリーズはこれを読んで終わりにすればいいなと思っていたのだが・・・・・・いや、思いもよらず面白かった。これは4冊目以降も読まないわけにはいかなくなったかも。

 このシリーズはミステリというよりは、いわゆる大衆小説という趣が強い。ゆえに、刑事事件をとりあつかうのみではなく、一般家庭にて暮らしている人々の不安や悩み、ちょっとしたいざこざとか、生活感があふれでる小説となっている。

 実は序盤はそういった生活感が嫌で読む気がやや薄れていたのだが、さすがに3作品目ということもあり、それぞれのキャラクタが立って来ており、事件のみに限らずそれぞれのキャラクターの先行きが気になってしまい、ページをめくる手がとまらなくなった。特に嫌な上官として名声をはせるメルバリ署長が今作では(前作でも失笑ものの事件を引き起こしていた)何を気にしていて落ち着かないのかが、気になって気になってしょうがなかった。

 さらには物語のなかで章の始めに挿入されている1923年から始まる物語が現代に起こる事件にどのような影響を与えているかということも注目のポイントである。

 今作の最後ではシリーズ上とても気になる問題が次の巻へと持ち越されており、これは4作目も読まずに済ますわけにはいかなくなった。読む前はページの厚さに躊躇したものの、読み始めるとスイスイと読むことができた。意外と今後もこのシリーズから離れられなくなりそうで怖い。


死を哭く鳥  エリカ&パトリック事件簿   Olycksfageln (Camilla Lackberg)

2006年 出版
2012年04月 集英社 集英社文庫

<内容>
 パトリックとの間に子供をもうけたエリカだが、結婚式を控えているものの、家では妹アンナとその子供たちの面倒までも見なくてはいけないという始末。そんなとき、パトリックは一つの事件に遭遇する。車の事故が起きたということなのだが、被害者の状況が妙なのである。当初は飲酒運転による事故と見られたが運転者は酒は一切飲まないというのであった。気になったパトリックが事件を調べていくと、過去にも似たような事件があったことが判明する。詳しい調査にのりだそうとした矢先、ターヌムスヘーデにテレビのロケに来ていた連中が騒動を起こし、しかも殺人事件まで起こってしまい、パトリックたちはその事件に時間をとられることとなってしまう。前の事件の失敗で首となったアーンストの代わりに来た女性警官ハンナらの手を借りて、事件の解決に挑もうとするのであったが・・・・・・

<感想>
 エリカ&パトリック事件簿の4冊目。シリーズとしてずいぶんと安定してきたと感じられた。1、2作目を読んだ時は、読み続けるかどうか迷っていたのだが、3、4作目を読んでしまうと今後も読み続けるのは当然だという気になってしまう。

 このシリーズは読んでいてストレスとなる部分も多いのだが、今作についてはそれがやけに少なかった。トラブルメーカーのアンナの精神状態は良好となりつつあり、警察署の鼻つまみ者アーンストは前作でクビとなり登場せず(再登場はあるのか?)、アクの強い署長メルバリは今回も自身のトラブルに大わらわ。という感じで、基本的に今回は警察小説という趣向の強い内容となっている。警察署の規模が小さいのでチームとしてのパワーはやや弱いのだが、それでもクルト・ヴァランダー・シリーズを思わせるような活動状況を見ることができる。

 パトリックらが飲酒運転による死亡事故を調べていくうちに、スウェーデン国内で広範囲にわたり似たような事件が起こっていることが判明する。しかもとある証拠からそれらが一つにつながる連続殺人事件であることが明らかとなる。では、いったい誰が何のためにという、手がかり足がかりのない事件の捜査を続けてゆくうちに、とんでもない真相をターヌムスヘーデ署の警官達は目の当たりにすることとなる。

 本書での唯一の不満は、テレビロケによる一連の騒動。番組に登場する人物たちがその町でどのような生活をおくるかというのをカメラで撮り続けるという内容。ここに多くの登場人物が出てくる割には物語上、あまり効果がなかったような。結局テレビロケの人たちも何もなかったように帰ってしまい、なんかまとまりに欠けていたような気がした。

 そんなこんなも色々とありつつも、シリーズとしての内容を楽しむことができ、警察小説としても堪能できる作品であった。次回作ではエリカが自分の母の過去の謎にせまるというところから始まっていくよう。さて、次回も新たな登場人物が出てくるのか? そして気になる署長メルバリのその後は? まさかこのシリーズの新作がこれほど待ち遠しくなるとは・・・・・・


踊る骸  エリカ&パトリック事件簿   The Hidden Child (Camilla Lackberg)

2007年 出版
2013年04月 集英社 集英社文庫

<内容>
 パトリックはエリカが産んだ子供の面倒をみるため、産休を取り警察をしばらく休むこととした。それにより時間をとることができるようになったエリカは、母親の持ち物のなかから見つかったナチスのメダルの秘密を調べようとする。そんな矢先、ひとりの老人の撲殺死体が発見される。捜査陣は、パトリックを欠くことによる不安はあるものの、粘り強く事件捜査に当たってゆく。また、エリカがナチスのメダルを発見したとき、それを調べてもらうために、町の歴史家にメダルを預けていたのだが、その歴史家が撲殺された老人であったのだ。母親の日記から、彼女とその老人は生前交流があったことを知り、エリカは独自に事件の捜査を進めてゆくことに・・・・・・

<感想>
 シリーズ5作目となる作品であるが、今のところシリーズ中、最高傑作ではなかろうか。それほどに良い内容と感じられた。

 シリーズとしての見どころも満載。働く面々もやや様変わりしたターヌムスヘーデ警察署の様子、相変わらず周囲をかき回したり自分自身の人生をかき回し続ける警察署長メルバリ、エリカとパトリックの母親との嫁姑の関係、エリカの妹アンナの人生遍歴等々、見どころ色々。

 そういった内容を差し置いて、今作のメインとなっている一人の老人の死を巡る話がなかなか凄まじい。過去に起こったの出来事と同時進行で話が進んでゆく。戦時に起きた出来事が、現在の事件にどのような影響を及ぼしているのか? 事件の捜査は遅々としてなかなか進まないものの、少しずつ少しずつ全体的な相関関係が明らかになってゆく。

 最近読んだ本でネレ・ノイハウスの「深い疵」に内容が似ているなと感じられた。要するに北欧も第二次世界大戦時、ナチスドイツの影響を非常に濃く受けているという背景がよくわかる。

 今回の作品は非常に分厚く、読むのが大変ではあるのだが、その長さが物語のラストに非常に強い効果をあげている。長く過酷な人生をたどってきた、とある登場人物が話の最後にとある事実に到達する。そのときの気持ちがどのようなものであり、どのような行動に走ったのかということが、この物語の終結点でもあり、始まりにもなっているのだ。何とも言えない余韻を感じさせる一冊であった。


人魚姫  エリカ&パトリック事件簿   Sjojungfrun (Camilla Lackberg)

2008年 出版
2014年01月 集英社 集英社文庫

<内容>
 普通の中年男性が勤務途中、行方がわからなくなり、妻から捜索願いが出ていた。それから3か月が経ち、凍った湖の中から死体が発見される。死因はナイフによる刺し傷のようであり、パトリックら、ターヌムスヘーデ警察署の捜査が開始される。また、ターヌムスヘーデ在住の図書館員クリスチャンが「人魚」という作品で作家デビューし、売れ行きは順調。華やかな出版パーティーや、サイン会が開かれるのであったが、当のクリスチャンは何者からか脅迫状を受け取っていた。エリカは、おなかのなかに双子をかかえたまま、脅迫状の謎を調べ始める。そして、湖で亡くなった男と、作家クリスチャンが知り合いであったことから、事件の関連性が疑われることとなる。そうして、事件はさらなる展開を迎えることとなり・・・・・・

<感想>
 エリカ&パトリック・シリーズの第6弾。肝心の主人公らは、双子を身ごもったことでストレス満載ながらも夫にないしょで単独調査を行うエリカと、どこか体の調子が悪いパトリックという様相。こんな二人がどのように事件を解決していくのかが見どころ。

 事件は行方不明になった普通のサラリーマンの話と、新人作家(といっても若くはない)に来た脅迫状という2点。結局行方不明のサラリーマンは死体となって発見されるのだが、動機らしきものがみあたらないなかで、何故殺害されなければならなかったのかを捜査してゆくこととなる。

 今回の作品はやや冗長と感じられた。というのも、事件に関連のある者たちが、なんらかの秘密を共有しているようとのことなのだが、それが謎というほどのものでもなく、だいたい想像がつくようなもの。故に、それだけで延々と話を伸ばされているように思えてならなかった。

 ただ、真犯人の像については、ラストに近くなるまでなかなか見えなく、予想外の地点に着地するものとなっている。終わってみれば“WHO”にこだわったかのようなミステリ作品ととらえることもできるような内容であった。

 シリーズ作品としては相変わらず楽しませてくれるのだが、最後の最後で気になる2つの事象が起きて終わることとなる。これは主人公らがどうなったのか、気になってならない。たぶん続きが出るのはまた来年となるのだろうから、気をもみながら首を長くして待ちたい。


霊の棲む島  エリカ&パトリック事件簿   The Lost Boy (Camilla Lackberg)

2009年 出版
2014年10月 集英社 集英社文庫

<内容>
 交通事故という悲劇に見舞われたエリカであったが、無事双子を出産することができた。しかし、妹のアンナは・・・・・・。なんとか病気から回復したパトリック、警察署の勤務に復帰するもすぐに事件が起き、奔走することとなる。マッツ・スヴェリーンが何者かに銃で撃たれ殺害されるという事件が起きる。このマッツという人物は、おとなしい人物であり、人から恨みを買うようなことはないはず。何故、彼が殺害されなければならないのか? 彼がこのターヌムスヘーデへ戻ってくる前、暴行されるという事件に遭遇していたことを知ったパトリックは、その線で事件を追い始める。
 島へと帰ってきたエリカのかつての旧友アニー・ヴェステル、再び心を閉ざしたエリカの妹アンナ、生活ぶりが順調となり徐々に余計なことをしでかし始めるメルバリ署長、自治体の執行委員として盛大にスパの開催を計画するアーリング、そしてスパ開催の裏でとある計画を練る者達、エリカとパトリックの周辺で起こる事件の行く末は・・・・・・

<感想>
 シリーズ第7弾となる作品。今までの流れと比較すると、やや弱めとなってしまったような。3巻〜6巻までは、それぞれなかなか佳作と感心させられたのだが、今作は小休止といった感じ。

 前作はショッキングな形で終わっていた。エリカとアンナが交通事故の瞬間に遭遇し、パトリックが倒れるという場面。しかし、この作品が始まると、エリカは無事であり、パトリックも少々休んだだけで元の状態を取り戻していたという形。結局双子が生まれただけで、あまり普段と変わりがないというのは、何なんだかと。さらにアンナのみが心を閉ざした状態というのも、これもシリーズをとおしてマンネリ化というか、またかよという感じ。

 読み終えてみると全体的に弱めな作品と感じられたのだが、実は読んでいる最中は楽しかった。群像小説として、さまざまな登場人物が出てきて、それぞれが腹に一物抱えている感じ。さらには、幽霊島を巡る伝承も物語に並列して語られてゆく。そうして様々な事象が起きた中で、どのようにして全てがつながってゆくのかと思っていたのだが・・・・・・結末はあっさり目。

 どうも、あっさりと終わってしまったというか、きちんと解決がつけられていないようなモヤモヤとしたままというものもあり、全てがきっちりと結びついたというには程遠い。幽霊島へ帰ってきたアニーの行く末についても、想像の範囲内で収まってしまい、終わってしまうと拍子抜け。最近は、やり込めれられてばかりいたメルバリ署長が今作では久々に調子に乗った行動に出ていたのだが、彼が活躍し出すと物語の面白さもトーンダウンしてしまうのかなと、つい考えてしまう。

 そろそろ面白いを越えて、マンネリ化してきた感があるシリーズであるが、あと何作まで続くのであろうか? 次の内容如何によっては、そろそろシリーズを追うのを辞めてしまってもいいのかなと考えてしまう(結構長いページ数というのもあり)。


死神遊び  エリカ&パトリック事件簿   Anglamakerskan (Camilla Lackberg)

2011年 出版
2016年06月 集英社 集英社文庫

<内容>
 エリカとパトリックが住む家から少し離れたところにあるヴァール島に、そこに35年前に住んでいたエッパが夫と共に戻ってきた。二人は幼い子供を亡くしており、心機一転を図るために島で暮らすこととしたのであった。しかし、その島はいわくつきであり、エッパが一歳のころ、その島で寄宿学校を営んでいた家族たちが一夜にして消え失せるという事件が起きていたのである。エッパを残して消えた家族たちがどうなったかは未だ不明で、未決事件となっていた。そしてエッパらが帰ってきたことにより、島で奇妙な事件が起き始め・・・・・・

<感想>
 実はこのシリーズ、ややマンネリ化してきたように思えて、そろそろ読むのを止めようかと思っていたところだったのだが、前作が出版されてから少し間があいてしまい、その期間が長かった故に、久しぶりだから読んでみようかと思って、つい、手に取ってしまった。

 実際読んでみたら、これが意外と面白い。最初は、登場人物が多く、過去にこんなキャラクター登場したっけと、混乱しながら読んでいた。しかし、話が進むにつれ、前半に登場してきた見ず知らずのキャラクターと、本作の物語との関連がわかりはじめ、そこからなるほどと思いながら興味を惹かれつつ読み続けることができるようになっていった。

 今作では、35年前に起きた未解決事件の真相が徐々に浮き彫りになってくるという内容。この未解決事件がなかなか興味をひくものであり、物語全体を通して興味深く読むことができた。序盤から全編にわたって挿入され続ける謎のエピソードも最後の最後で、ようやく物語の真相に追いつくこととなるように書かれている。

 と、面白く読めたのではあるが、シリーズキャラクターについては、必要と思える人物と、不要と思われる人物とが個人的に大きくわかれはじめている。一応主役のひとりであるはずのエリカは、終始家庭生活における不満を述べるばかりであるし、またその妹についてもシリーズ全編にわたるトラブルメーカーであり(しかも物語上関係ないようなトラブル)、この姉妹がいないほうが普通のミステリとして読めるような。まぁ、反対にドラマ的なものを求める人にとっては、この二人の存在は得難いのかもしれないが。あと、近年かわいそうキャラとなりつつあったメルバリ署長が今作では、嫌われ者キャラを存分に発揮していた。




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