飴村行  作品別 内容・感想

粘膜人間   

第15回日本ホラー小説大賞長編賞受賞作
2008年10月 角川書店 角川ホラー文庫

<内容>
「弟を殺そう」。長兄の利一と次兄の祐二は、義母の連れ子で彼らの弟となった雷太の存在を恐れた。雷太は小学生にも関わらず、身長195cm、体重105kgの巨漢であり、乱暴者で恐れ知らずであった。利一たちは、近隣に住む河童の力を借りて、雷太の殺害を企てるのであったが・・・・・・

<感想>
 なんだ、この物語は! と、読んで驚かされるのみ。何の説明もないまま、不条理な世界で物語は展開されてゆく。

 戦前の日本のような、軍がはびこる背景のなかでごく自然に妖怪の存在が許容されているという世界。しかも、そこに住まうもの全てが卑しき者達ばかり。

 ホラー小説長編大賞を受賞しただけあって、その世界はグロテスクさに満ち溢れている。これはとてもではないが、万人に薦められる小説ではない。しかし、こういう内容のものが好きな人にとっては、たまらなく豪勢なご馳走と感じられることであろう。

 ダークファンタジーというには、情景があまりにも和風であるので似合わない。むしろ何が出てくるかわからない、闇鍋小説とでも言った方がしっくりとくるのかもしれない。


粘膜蜥蜴   

2009年08月 角川書店 角川ホラー文庫

<内容>
 国民学校初等科に通う堀川真樹は、同級生で病院を営む資産家の息子である月ノ森雪麻呂から自宅に招待された。もうひとりの同級生と堀川の二人は、雪麻呂の贅沢な暮らしぶりに驚かされるばかり。しかし、雪麻呂は金持ちで甘やかされて育てられたゆえの残虐な一面も持っており、彼らが病院地下の死体安置所へと連れていかれたとき、恐ろしい事件を目の当たりにすることに。そして堀川はのっぴきならない状況におちいることになるのであったが、そこで奇跡が・・・・・・

<感想>
 なんだこの吸引力は! グロテスクで目を背けたくなるような描写が多々あるにもかかわらず、ページから目をひきはがすことができなくなり、一気に最後まで読まされてしまった。奇怪な内容であるにもかかわらず、その突き抜けっぷりがすごいゆえに、思わずその世界の理に納得させられてしまうのである。

 変な物語であるのだがそれを変というだけで終わらせずに伏線をきちんと回収し、さらなる奇怪さを生み出しているところがすごい。病院地下死体安置所での奇怪な事件、戦地で遭遇する蜥蜴人との出会い、その二つの物語を経て、病院院長の息子が許嫁をめぐる決闘へとなだれ込んでいく第三部で全てが収束される。

 特に“腑に落ちる”とか、うまくできているとか、そんな言葉で表現できる物語ではない。とにかく力技で強引に引きちぎれた分断されたルートを無理やりくっつけるといったような感じで語られてゆく。

 飴村氏だけが書きうることができる、奇妙奇天烈な世界。一度入り込んだら、中毒(中読?)になりそうな吸引力。


粘膜兄弟   

2010年05月 角川書店 角川ホラー文庫

<内容>
 麿太吉と矢太吉の双子の兄弟は町はずれで下働きのヘモヤンと共に“フグリ豚”を飼育して生計を立てていた。そんな二人はカフェーで働くゆず子に熱を上げており、しょっちゅうカフェーへと足を運んでいた。そうするうちに、二人はゆず子に告白することを決意し・・・・・・

<感想>
 全二作に続き、不思議な設定の世界で起こる奇妙な物語を描いている。今作において、今までの作品と異なる部分は展開の仕方。今までは3部作という構成をとりながら、主人公を変えながらも、奇妙なつながりを描いていくというものであった。それが今回は3部作というのは変わらないものの、終始一貫して主人公は双子の兄弟のひとり麿太吉を軸として描いている。

 ではその結果、物語はどうであったかといえば・・・・・・今までと比べれば明らかに盛り込み不足という気がした。三作目にして、もうネタが切れてしまったかなと。過去の2作品では、こんな奇妙なつながりがあるのか、とか、こんな変な要素をつなげているのか、などといった驚きが多かったものの、今作ではそういったものがほとんど見られなかった。

 そういうわけで、奇怪な世界設定のなかで暮らす兄弟の物語がつづられているだけという感じで終わってしまった。第4作品はどうするのだろうか? このまま粘膜シリーズを続けるのか。それとも新たな世界をつづるのか。とりあえず、もう少しこの作家の作品は追ってゆきたいと思っている。


爛れた闇の帝国   

2011年01月 角川書店 単行本

<内容>
 高校生の正矢は学校を退学した。母親が学校の先輩と付き合いだし、家に入り浸るようになったということもあり、生きていく気力が無くなっていったのである。突然学校を辞めた正矢を心配し、親友の晃一と絵美子が来てくれたものの、きちんと現状を説明することもできないまま帰ってもらう始末。そんな正矢であったが、夜な夜な奇妙な夢を見るようになり・・・・・・

<感想>
 飴村行が帰ってきた! なんて言い方は失礼か。でも前作「粘膜兄弟」を読んだ時には、それ以前の作品よりもトーンダウンしたと感じられ、ピークを過ぎたのかなと思ってしまった。しかし、4作目となる本書を読んで、まだまだ行けるんじゃないかとそう感じられた。

 今作も、今までの作品と時代背景は似たものと思われる。ただし、今まで登場してきた、トカゲ人間などは出ていなく、意外と普通の社会のなかで描かれたものと言ってもよいのかもしれない(ただし、最後まで読むといつもながらの飴村ワールドに入り込むこととなる)。

 物語は、独房に監禁され、繰り返し拷問される日本軍兵士のパートと、母親が同じ学校の先輩と付き合い始めたことにより、高校を辞めた正矢のパート、二つの話が交互に語られることとなる。全く関係なさそうな二つの話は徐々に近づき始め、やがて奇妙な形で融合することとなる。この“融合”の仕方こそが、まさに飴村流と言いたくなる展開なのである。

 というわけで、期待通りの飴村ワールドを堪能することができた。「粘膜蜥蜴」などを読んでファンになった方は是非ともこの作品もお薦めしたい。ただし、ミステリというよりは、あくまでもエンターテイメント小説であるので、まだ飴村氏の作品を未読の方は、角川ホラー文庫の既刊の作品から読み始めてもらったほうがよいであろう。


粘膜戦士   

2012年02月 角川書店 角川ホラー文庫

<内容>
 「鉄 血」
 「肉 弾」
 「石 榴」
 「極 光」
 「凱 旋」

<感想>
 期待の“粘膜”シリーズであるが、読んでみて短編だとわかり、やや期待外れ。

 というのも、元々のこのシリーズは、短編中編というくらいの規模の話が最初にあり、それらが他の話とどのように結び付くのかが肝であると言えよう。よって、最初これらが短編だとわかったとき、最後の最後で話が全て結びつくのではと期待したのだが、そういったものではなかった。

 本書の短編は、新しい話も混じっているのだが、いくつかは今まで登場した人物の背景が描かれたものとなっている。よって、前作までを照らし合わせながら読むと、それぞれの作品に対する印象が変わってくるかもしれない。

 このままでシリーズが続いていくと、一冊の本のみならず、作品全体で奇怪なつながりを見せていくこととなるかもしれない。それらは決して精密なつながりとは言えないであろうけれども、眩暈がするような不思議なつながりとなっていくことは間違いあるまい。シリーズ再読必至の予感。


ジムグリ   5点

2015年06月 集英社 単行本
2018年01月 集英社 集英社文庫(大幅加筆改稿)

<内容>
「トンネルにまいります」との書置きを残し、失踪した内野博人の妻・美佐。その行方を追って、博人はトンネルへとおもむくことに。そのトンネルとは、現代文明とは別の発展を遂げた“モグラ”と呼ばれる者たちが巣くう場所。文献や口伝でしか知られていない者たちの世界へと入り込もうとする博人であったが・・・・・・

<感想>
 久々に読む飴村氏の作品。著者ならではの作風がしっかりと発揮されていた。

 ただ、面白いと思えたのは前半のみで、後半はいまいちであった。後半、物語は“モグラ”と呼ばれる謎の人々が巣くう地底国へと場面が移り変わるのであるが、こちらでの展開が微妙。そもそも地底国の設定が、ピンと来ないものとなっており、そのために物語も尻切れトンボとなっていたような。

 まぁ、後半に関してはエンターテイメント作品ではなく、文学的な展開へと収束していったという言い方もできるかもしれない。主人公の内面へと迫り、主人公自身へと収束していくというような感じにも捉えられる。とはいえ、個人的にはもう少しエンターテイメント要素を強くしてもらいたかったところ。


粘膜探偵   6点

2018年05月 角川書店 角川ホラー文庫

<内容>
 国民の自由が制限され、憲兵が目を光らせる戦時下日本という舞台。特別少年警邏隊に入隊した14歳の須永鉄児は、あこがれの部隊に入れたことに心躍らせる。そうした期待も束の間、いくつかの事件に遭遇し、現実に直面することとなる。さらに鉄児は、元医学者の父親と寝たきりの祖母をも巻き込んだ陸軍の陰謀に巻き込まれ・・・・・・

<感想>
 久々に復活した“粘膜”シリーズ。ただし、シリーズといっても時代背景が一致するだけであり、特に共通のキャラクターとかがいるわけではないので、この作品から読んでも、まったく問題はない。

 それで読んだ感想はというと、このシリーズ作品としては普通。何気に中盤で主人公が探偵活動をする地味なところが一番読みどころがあった気がするが、その探偵活動が後半ではなし崩しになってしまうのがもったいなかったような。

 最後はそれなりのカタストロフィを見せてはくれいるものの、もう一味期待したいところであった。むしろ、この作品の後のことのほうが気になるところであったような。一軒の屋敷のなかでの出来事にこだわったがゆえに、作品もそれなりの規模で終わってしまったという感じ。




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