<内容>
「ホームに佇む」
「姉は何処」
「饒舌な依頼人」
「浴槽の花婿」
「お家がだんだん遠くなる」
「ミステリー研究会の幽霊」
「それは叫ぶ」
<感想>
読みは幽と書いて“かくれ”たる事件簿。心霊探偵・濱地健三郎が助手の志摩ユリエとともに怪奇事件を解決してゆく短編シリーズ第2弾。
第2弾となるので、本書がミステリというよりは、怪奇ものというジャンルであることは既に浸透していることであろう。怪奇ものという前提で読めば、十分に内容を堪能できる面白い作品集である。事件の解決方法に関しては、“霊”が求めるものを読み取り、説得するというような感じになっている。「それは叫ぶ」のように強めの霊との対決が見られるものもあるが、さすがにサイキック的なSFというところにまではいかず、あくまでも落ち着いた対決というくらいにとどめられている。
ミステリともとれるような「姉は何処」や、学園での幽霊騒動を解決する「ミステリー研究会の幽霊」あたりが面白かった。その他の作品も物語として、しっかりとした出来栄えとなっているので、それぞれ楽しめるものとなっている。あまり怖くない幽霊ミステリ作品集として楽しめるといっても良いかもしれない。
「ホームに佇む」 電車内から目撃された駅のホームに佇む幽霊の正体は!?
「姉は何処」 行方不明になった姉が霊となって指し示す真相とは?
「饒舌な依頼人」 探偵事務所にやってきて、肝心の事件とは関係のなさそうなことを饒舌にしゃべる依頼人の目的は?
「浴槽の花婿」 資産家の夫が死に、義弟から疑いをかけられ続けている未亡人からの依頼により・・・・・・
「お家がだんだん遠くなる」 毎晩幽体離脱を遂げ、どこかへ引っ張られていくという依頼主からの悩みは・・・・・・
「ミステリー研究会の幽霊」 高校のミステリー研究会に現れる幽霊の正体は!?
「それは叫ぶ」 拝み屋でさえも匙を投げる幽霊に対し、濱地健三郎は・・・・・・
<内容>
マンションの一室で元ホストの男が殺害され、スーツケースの中から遺体で発見された事件。関係者のなかから容疑者が絞り込まれ、事件はすぐに解決されるかと思われた。しかし、マンションについていた監視カメラの映像より、誰がどのタイミングで殺害したのかが絞り込めないという状況。警察からアドバイスを求められることとなった火村と有栖川。二人は、容疑者たちのアリバイを崩し、犯行方法を見出すことができるのか!?
<感想>
近年、有栖川氏が描く作品で、この作品のような趣向のものが増えてきた気がする。どのようなものかと言えば、事件のみ描くのではなく、事件に関わる関係者の人生を深掘りし、物語を濃厚にさせるという趣向のもの。それを動機に絡める場合もあるのだが、本書では動機云々ではなく、とある人物らの人間関係を濃厚に描き出したものとなっている。
今作では、物語の濃さのみならず、事件に関連するトリックも重要事項として描かれている。監視カメラで人の出入りが完全に把握されている中で、犯人はどのようにして犯行を行ったのか? その部屋に持ち込まれたトランクや、メールから犯行時間が設定され、容疑者たちのアリバイについても言及していく内容となっている。
トリックというか、犯行方法に関しては、ありそうで今まであまり書かれていなさそうなものが扱われていた。なんとなくミステリ小説ではなさそうだが、現実にはありえそうだと思ってしまった。また、人間関係云々に関しては、面白いと思える一方で、警察関係者にまで人間関係を絡める必要があったのかどうかは疑問。こういった人間関係云々を描くことによって、最近の有栖川氏の作品のページ数が厚くなりつつあるところは、ちょっとした懸念である。個人的には、ほどほどで良いのではないかと。
<内容>
京都舞鶴の浜辺で発見された青年は記憶を失っていた。手がかりは唯一持っていた一本の扇。その後、青年の正体が判明するも記憶は戻らないまま。そのままの状態で青年が生家に戻ることになるも、そこで待ち受けていたのは密室殺人事件であった。殺人事件が起こり、ナイフで殺害された被害者が閉ざされた室内で発見されるものの、記憶喪失の青年の姿は見当たらず・・・・・・
<感想>
国名シリーズというよりも、近年の有栖川氏の作品で見受けられる物語に辻褄を合わせる感じのミステリ作品となっていた。論理的でもなく、捜査主体という感じでもなく、背景の物語にどう当てはめるかというようなミステリ作品という感触。
記憶喪失の青年と、旧家で起きた密室殺人事件。これら背景となる物語をどう組み合わせて謎を解いてゆくのかと言う展開となる。話が進んで後半になるまで、青年の記憶喪失前の話がポイントになるのか、それとも旧家の中での出来事の方が焦点になるのかが、わからないというい状態。それゆえに、途中、殺人事件が起きた後の聞き取り調査の部分があまりにも長いのが気にかかった。これだけ長いスパンをとって、全く動機などと関係なかったとしたらどうなのかと、つい思ってしまった。
しかし、ふたを開けてみれば、しっかりと旧家の人間関係にスポットを当てたものとなっていて、納得のいく真相が明かされることとなる。真相が明らかにされれば、なるほどとしか言いようのない結末であった。記憶喪失云々の話はどうかと思いつつも、作品全体で見れば、良くできたものと思われる。読み応えのある物語貴重のミステリという感じであった。