綾辻行人  作品別 内容・感想

十角館の殺人   7.5点

1987年09月 講談社 講談社ノベルス
1991年09月 講談社 講談社文庫
2007年10月 講談社 講談社文庫(新装版)

<内容>
 大分県の大学の推理小説研究会のメンバー7人が離れ小島にある十角館という建物ですごそうと、島を訪れた。その島には十角館を建てた中村青司という建築家が住んでいたのだが、奇怪な死を遂げていたことで一時期話題になっていた。そんな島ですごす7人であったが、彼らの前に殺人の予告のようなものが・・・・・・当初は冗談かと思われたが、一人また一人と推理小説研のメンバーが殺害されていくこととなり・・・・・・
 一方、島の外ではかつて推理小説研究会のメンバーであった江南の元に告発状が届けられる。江南は何が起きているのか調べてみようと、仲の良かった守須のもとに相談しに行き・・・・・・

<感想>
 今更ながら再読。実はこの作品、きちんと再読するのは初読時以来。というのも、これまた島田荘司氏の「占星術殺人事件」と同じで、作品自体にあまりにもインパクトがありすぎて、主となるトリックを忘れられずにい続けたからである。とはいえ、感想も書いていないので、新装版で再読しようと思い立った次第。

 読んでみて思うのは、非常に読みやすいと言うこと。これは綾辻氏の作品全般に言えるのだが、ただ単にミステリとして良くできているというだけでなく、読みやすさからくる取っ付きやすさというのも大きな特徴ではないかと。それゆえに、より多くの人たちに手に取ってもらえた作品ではないかと感じずにはいられない。その“読みやすさ”というのは小説として非常に大事な事なのであろうと今更ながら考えてしまう。

 内容については、アガサ・クリスティーの「そして誰もいなくなった」を彷彿させるような孤島における連続殺人事件。その島にそびえる十角館とそれを造った中村青司にまつわる奇怪な事件。島の外で事件に関係する背景を追う者たち。そんな形で物語が展開され、やがて殺人が全て成就された後に、その犯行が島外にいる人々の目に明らかにされる。

 本書というか、この“館”シリーズにおいて、弱いとされるのが謎を解く探偵の存在感。本書に出てくる探偵、島田潔(あまりにもという名前なので、後の作品で変更される)という人物については、名前以外にほぼ印象に残らない。ただ、この作品のみに関するのであれば、本書はあくまでも“探偵不在”でも成立する作品と言ってもよいような内容になっている。それゆえに、別に探偵役のものが希薄になってもしょうがないところなのである。物語最後の犯人が明らかになる場面と、犯人の独白の様子を窺えば、そういったことを痛切に感じさせられることになる。

 再読して改めて、これは良い作品だと感じずにはいられなかった。オールタイム・ベスト級の一冊として、出版されてから30年以上経った今なお残り続けるのも納得の作品。


水車館の殺人   6点

1988年02月 講談社 講談社ノベルス
1992年03月 講談社 講談社文庫
2008年04月 講談社 講談社文庫(新装版)

<内容>
 中村青司が建てた館、“水車館”。館の主人は、故人の不世出の画家・藤沼一成の息子である藤沼紀一。紀一は事故により、車椅子に乗り、覆面をすることを強いられる生活を送っていた。そして、紀一の若き妻・由里絵。二人は館の使用人と共に、水車館で孤独に暮らしていた。
 そんな館で1年前にひとつの失踪事件と、ひとつの殺人事件が起きていた。失踪したのは館の客人である副住職・古川恒仁、殺害されたのは館に居候していた正木慎吾。しかも館から絵画が盗まれていたことにより、古川が正木を殺害して、絵画を奪い、逃走したと結論付けられた事件。そして、事件から1年後、また当時と同じ客が館に集まり、さらには、もう一人の男がイレギュラーとして館を訪れる。失踪した古川の友人と名乗る島田潔という男が・・・・・・

<感想>
 感想を書いていなかったので久々に再読。たぶん“館シリーズ”のなかでは一番再読している作品だと思える(3、4回)。ただ、何故かそのたびに感想を書いていなかったので、今回また改めての再読。

 綾辻氏の初期に書かれた“館シリーズ”のなかでは一番オーソドックスで普通の本格推理小説っぽい内容。ただ、読んでいる最中思ったのは、なかなか事件らしい事件が起きないなと言うこと。1年前に殺人事件が起きたということは最初から明らかになっているものの、現代のパートと、過去のパートが並行して語られてゆくゆえに、肝心の事件がどのようにして起きたのかが、なかなか明らかになってくれない。それゆえに、序盤から中盤にかけてはやや低調。

 後半にはいると、過去の事件が全貌にさらされ、そして現代のパートでも事件が起き、一気に物語は加速してゆくこととなる。そして驚愕の真相が・・・・・・ということであるのだが、本書については、とある一点のことがわかってしまえば、それによりほぼ全貌が明らかになってしまうと言って良いかもしれない。ゆえに、それがわかってしまうと、やや興が醒めてしまうこともありうるものとなっている。私もそれに気が付き・・・・・・というか、再読だから当たり前か。それに気づかなった初読の時は、結構面白く読めていたという気がする。


迷路館の殺人   7点

1988年09月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 風邪をこじらせ寝込んでいた島田のもとに一冊の本が届く。「迷路館の殺人」鹿谷門実著。その内容は、推理小説の老大家・宮垣葉太郎が4人の作家とその他数名を自分の屋敷である迷路館に招待するところから始まる。彼らを待ち受けていたのは宮垣による遺言で、4人の作家に5日間という時間のなかで作品を書いてもらい、一番良い出来であった者に遺産の全てを贈呈するというものであった。迷路館に閉じ込められた状態で小説を書き始める作家たち。しかし、この閉ざされた館の中で一人、また一人と作家たちが殺害されることとなり・・・・・・

<感想>
 久々の再読・・・・・・もう最初に読んでから20年ぶりくらいとなるであろうか。もうずいぶん前に書かれた作品であるにもかかわらず、その内容は全く色あせていないと感じられた。今更ながらに思うのだが、綾辻氏の作品のなかでも上位に入る出来栄えと言えよう。いや、これは再読してみてよかった。

 この作品の前に書かれた「水車館の殺人」は非常にストレートな推理小説であったが、それに対抗するかのようにこの「迷路館の殺人」は変化球気味の内容となっている。ただし、変化球気味だからといって、“フェア”という点においてはギリギリの水準できっちりと描ききっているところが著者らしいと言えよう。

 作中作である「迷路館の殺人」だけでも、一定の水準に到達している作品だと思えるのだが、それをあえて作中作によるトリックやどんでん返しまで仕掛けているところはさすがである。新本格推理を存分に堪能できる一冊であった。


緋色の囁き   7点

1988年10月 祥伝社 ノン・ノベル
1993年07月 祥伝社 ノン・ポシェット
1997年11月 講談社 講談社文庫
2020年12月 講談社 講談社文庫(新装版)

<内容>
 女子高生の和泉冴子は伯母が校長を務める聖真女学園に入学することとなる。その学園は全寮制で、冴子は入学するや否や、あまりにも厳しい校則に驚かされ、意気消沈することとなる。そうしたなか、同部屋の少女、高取恵と打ち解けようとするのだが、彼女にはどこか近寄りがたいところがあった。高取恵からは、自分は“魔女”だから、あまり近づかないほうがよいと忠告をされることに。そして、冴子が学園に来て間もなく殺人事件が起きることとなる。しかも連続で! 和泉冴子は“赤色”に関する閉ざされた記憶があり、夢遊病のように徘徊する癖があることに気が付く。やがて冴子は、殺人事件を起こしているのは自分ではないかと悩み始め・・・・・・

<感想>
 いつか再読しようと思っていた作品が新装版で出版されたので、これを機に再読。文庫本で見ると、意外とページ数が分厚く、読み始めるのを若干躊躇していたものの、読んでみると非常に読みやすく、あっという間に読み終えることができた。

 そんな本書であるが、その中身は、全寮制の女子高、必要以上に厳しい校則に押さえつけられた生徒たち、魔女という謎の存在、焼かれた死体、次々と起こる謎の殺人事件、主人公の過去と事件への関与の疑い、そして真犯人は誰か?、等々見所満載の作品に仕立て上げられている。

 綾辻氏の作品でいえば、論理的な本格ミステリというよりは、純然たるサスペンス・ミステリという感じがした。それでも最後に驚愕の真相や、秘められた記述トリックなども盛り込まれているので、綾辻作品らしさは決してそこなわれてはいない。これはこれで、なかなか楽しめる作品であった。


人形館の殺人   6点

1989年04月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 飛龍想一は、育ての母親である叔母とともに、実の父親が残した京都の屋敷に引っ越してきた。彫刻家であった父親は自殺を遂げたことにより、通称人形館と呼ばれる屋敷は周囲から不気味な目で見られていた。そのため、現在は家の半分をアパートとして貸し出しているものの、半数しか埋まっていなく、小説家、大学院生、目の不自由なマッサージ師の3人のみが住んでいた。

 そんな人形館に想一が住むようになってから、彼の命を付け狙う不吉な事件が起こり始める。さらに巷では子供ばかりを狙う連続殺人鬼が跳梁していた。想一は助けを求めようと、かつて知り合いであった島田潔に連絡をとるのであったが・・・・・・

<感想>
 久々の再読。言わずとしれた館シリーズなのであるが、館外伝というか、囁きシリーズのほうに近いような感触。

 本書の大きな点は、館自体があまり生かされていないということ。マネキン人形も思わせぶりな配置や恰好のわりには、あまり活用されずじまい。

 ひょっとすると、今までの館シリーズを踏まえてのミスリーディングを誘ったものを著者は意識していたのかもしれない。その大きな穴にシリーズを続けて読んできた読者は、本書の主人公である飛龍想一と共にはまってしまうことになるという趣向なのであろう。

 そんな内容であるため、単体で読まずにシリーズの流れを踏まえて読んだほうがよさそうな作品といえよう。


殺人方程式  -切断された死体の問題-   7点

1989年05月 光文社 カッパ・ノベルス
1994年02月 光文社 光文社文庫
2005年02月 講談社 講談社文庫

<内容>
 新興宗教の教祖がマンションの屋上で死体となって発見された。しかも首と右腕が切断されているという変死体で! 容疑者はマンションに住む被害者の義理の息子。彼は義父のことを憎んでおり、前教祖である母親の死についても義父の関与を疑っていたのであった。この義理の息子を犯人とするには犯行状況に不審な点が多々見受けられたのであったが、事件当時マンションに出入りしたのは容疑者のみであり、他の者がやったとしても死体をマンションに運び込むのは不可能という状況。捜査一課の刑事・明日香井叶は、双子の弟・明日香井響の手を借りて事件の謎に挑むこととなり・・・・・・

<感想>
 久々の再読。昔ながらの新本格推理小説を堪能できて楽しかった。本書を読んで感じたのは、この探偵役のキャラクターが2作品にしか登場しないのは惜しいということ。綾辻氏といえば“館シリーズ”であるのだが、そちらに登場する探偵はどこか印象が薄い(名前も微妙であるし)。それに比べて、こちらに登場する探偵はキャラクターが立っているので、これを生かさないのはもったいないと感じてしまう。

 本書の内容についてであるが、かつて読んだ印象では“HOW”を強調した作品であったと思い込んでいたのだが、今回読み直してみると実は“WHO”に力を入れた作品であったということを認識できた。

 実は真相で犯人が登場したときには、これまた強引なと思ってしまったのだが、その後明らかにされる真相を聴くと実はしっかりと複線をはりめぐらせることによって、真犯人をきちんと指摘していることに気付かされる。いや、これはうまく書かれているなと、いまさらながら脱帽させられてしまった。犯行後の大掛かりなトリックについては、いささか強引だと思えないこともないのだが、犯行における心理的な部分や事細かい隠ぺい工作などについては、きっちりと考え抜かれているなと感心しきり。

 いや、一度読んだときに記憶を忘れていた分、存分に堪能することができてしまった。これを読んでしまうと、館シリーズのみに限らず、この殺人方程式のシリーズも3作目4作目と書いていてくれたらなぁと考えずにはいられなくなってしまう。


暗闇の囁き   5.5点

1989年09月 祥伝社 ノン・ノベル
1994年07月 祥伝社 ノン・ポシェット
1998年06月 講談社 講談社文庫
2021年05月 講談社 講談社文庫(新装改訂版)

<内容>
 悠木拓也は、大学の卒論を誰もいない静かな場所でこなすため、東京から車で4時間離れた伯父の別荘へと向かっていた。その道中で、二人の少年と出会うことに。彼らは悠木が宿泊する別荘の近くに住んでいるという。彼らを車で家まで送った悠木、何故か彼ら兄弟と、彼らが住む家のことが気になってしょうがなかった。あくる日、その兄弟の家で住み込みの家庭教師をしているという女性から話を聞くことに。彼女が言うには、あの家の周辺でいくつかの事件が起きていて、不穏な噂が流れていると・・・・・・

<感想>
「緋色の囁き」に続いて、こちらも新装改訂版により刊行された。再読したいシリーズであったので、無事に刊行されてなにより。

 この「暗闇の囁き」を読んでの感想なのだが、「緋色」に比べると、かなり弱いかなというところ。というのも、全編にわたって、ほぼ事件として語られるものがないのである。過去に起きた事件はあるものの、現在の時間軸では失踪とか、事故っぽいものくらい。そして漠然とした謎のみが漂うばかり。

 全体的なイメージとしては、物語風な作品かなと。もしくは、普通にホラー小説として捉えられる内容であるのかもしれない。ミステリ性があまりに薄いところが、本書の弱さと言えよう。ただ、再読ゆえに私がそう感じられただけで、初読であればもう少し強い印象が残るのかもしれない。


殺人鬼   6点

1990年01月 双葉社 単行本
1994年10月 双葉社 双葉ノベルズ
1996年02月 新潮社 新潮文庫
2011年08月 角川書店 角川文庫(改題:「殺人鬼 覚醒編」)

<内容>
 双葉山に夏合宿と称して集まった“TCメンバーズ”の一行。楽しいはずのサマーキャンプは、古くから伝えられる謎の殺人鬼の登場により、阿鼻叫喚の地獄と化すこととなり・・・・・・

<感想>
 昔読んだ作品の再読。ある種の伝説とも言える作品を久々に堪能。

 本書はミステリというよりは、純然たるホラー小説といってよい作品。ただ、最後まで読んでいくと、そこに驚くべき仕掛けが施されていることが明らかになる。再読ゆえに、それを知った上での読書となるのだが、そのことをかみしめつつ、数多くの伏線を堪能しながら読むことができた。

 この作品はホラー要素が強く、かなりグロテスクなシーンが多いため、誰にでもお薦めという作品ではない。ただ、そういったグロいシーンがあまり気にならないという人は、一度読んで、この作品に秘められた仕掛けを味わってもらいたいと願う。後に、同様なトリックが他の作品にも用いられたこともあるので、ある種それ系のトリックの先駆け的な小説ともいえよう。


時計館の殺人   9点

1991年09月 講談社 講談社ノベルス
1995年06月 講談社 講談社文庫
2006年06月 双葉社 双葉文庫(日本推理作家協会賞受賞作全集68)

<内容>
 久しぶりに会った、現在推理作家として活躍中の鹿谷門実と、編集者となった江南孝明。江南は自社の編集クルーと大学のミステリー研究会らと共に、“時計館”という建物を取材しに行くという。そこに高名な霊媒師を連れて、霊視を行うというのだ。しかもその建物はあの中村青司が建てたという。そして、その時計館へと向かった江南らは、そこで恐るべき出来事に遭遇することとなる。そんな江南を心配した鹿谷は単独で時計館へと向かうのであったが・・・・・・

<感想>
 最初に読んで以来の再読。実は綾辻氏の作品で最初に読んだのがこの「時計館の殺人」。そのせいもあったのか、個人的には国内ミステリに関してはこの作品が私のなかではオールタイムベストであった。以後、さまざまな作品を読んできたが、再読するとどう評価が変わるのか、それが怖くて再読を避けていたような気がする。日本推理作家協会賞受賞作全集として双葉文庫から出版されたのを機に読んでみようと思ったものの、実際に着手したのが7年も経った今となって。恐る恐る読んでみたものの、実際に面白さは色あせていなく、完成度の高い作品であったことを再確認出来てほっとしている。

 読んでみると、かなりホラー色の強い作品であったという事がわかる。時計館のなかに自らこもった編集クルーとミステリー研究会の面々。そこで三日間を過ごす計画であったのだが、殺人事件が起きてしまう。通常のミステリであれば、そこで推理や検討が行われることが多い中、そんな検証をする暇もないというばかりに次々と矢継ぎ早に事件が起きてゆく。時計館の中にいる者たちが検証を行うことができないその代り、時計館の外では江南を心配した鹿谷と、遅れたミステリー研のメンバーのひとりが外で時計館にまつわる過去の事件を調べてゆくこととなる。

 そして三日後、時計館の扉が解放されたときに、中で起きた惨劇が明らかとなる。そこから徐々に真相が語られることとなるのである。その真相解明部分もページとしてはかなり長いものの、けっしてそれが無駄に描かれていると感じないところに感心させられてしまう。この事件の真相を解き明かすには、それだけのページ数をかけることが必然だと受けることができるのである。

 そして事件の真相に関しても、しっかりと練りに練られているなと感心しきり。何故このような事件が起きたのか? 過去に起こった事件の真相は? この時計館が建てられた意味とは? 事件が起きた際、時計館の中の時計の全てが破壊されていた理由は? そして事件は誰がどのようにして行ったのか? というった謎の全てがうまく重なり合い、見事に調和してひとつの作品を作り上げている。

 決して後味の良い作品とは言えないが、ミステリとしての完成度は非常に高いと感じられる。綾辻氏の作品のなかでは一番の出来だと思っているし、著者が一番乗りに乗っている時に書かれた作品なのだなと感じてしまう。そして、私自身の国内ミステリ作品オールタイムベストであるということも再読した今も変わらないでいる。


黒猫館の殺人   6.5点

1992年04月 講談社 講談社ノベルス
1996年06月 講談社 講談社文庫
2014年01月 講談社 講談社文庫(新装版)

<内容>
 江南と鹿谷のもとに一人の老人からの相談が届く。その老人は鮎田冬馬といい、彼はホテル火災に遭遇し、記憶を無くしたという。鮎田は自分で書いたを思われる手記を持っており、そこには中村青司によって建てられた“黒猫館”で起きた事件の顛末が書かれていたのだ。黒猫館で起きたという殺人事件・・・・・・その真相を確かめるべく江南と鹿谷は調査を進め・・・・・・

<感想>
 久しぶりの再読であり、しかもこれが2度目の読書故に、全く内容を覚えていなかった。ただ漠然と、この作品に対する印象は良くなかったという記憶はあったのだが、今回読んでみると意外と面白いと感じられた。年を取って、作品に対する感じ方が変わったのか。

 一人の老人の手記により語られる黒猫館の存在と、そこで起きた事件。しかし、あくまでも手記なので本当に起きた事件なのかもわからない。そういったことも踏まえて江南と鹿谷の調査が開始される。

 過去に読んだときに物足りないと感じたのは、黒猫館で起きる事件自体が小ぶりだったからであろう。それは、とうてい“館”で起きた事件として取り上げるほどのものではないもの。

 しかし、この作品でのメインは館の中ではなく、館の外における真相にあると言えよう。よく言えば、館に収まりきらないミステリという感じ。意外にも大味なトリックが使われていたことに改めて驚かされる。

 それと、作品全体にそれとなく、細かいところにまで伏線を張り巡らせているところは、さすがと感じられた。これは読み返すことによって良い印象にひっくり返ったので再読して良かった作品である。


黄昏の囁き   6.5点

1993年01月 祥伝社 ノン・ノベル
1996年07月 祥伝社 ノン・ポシェット
2001年05月 講談社 講談社文庫
2021年08月 講談社 講談社文庫(新装改訂版)

<内容>
 医学生の津久見翔二は、兄が亡くなったとの知らせを受け、故郷へと帰ることに。実家を離れて、ひとりマンションで暮らしていた兄は、そのマンションから飛び降り亡くなったのだという。その死に納得できないものを感じた翔二は、兄の死について調べることに。翔二が幼い時のころ、うっすらと記憶している、“ノリちゃん”と呼ばれていた子供、サーカスの記憶、古い硬貨、あのときに起きた何らかの事故。それらの記憶は何を意味するのか? かつての記憶と事件の真相とは!?

<感想>
「緋色の囁き」「暗闇の囁き」そして本書と、新装改訂版が続けて出版されたので、連続して懐かしみながら読むことができた。久々の再読で“囁き”シリーズを存分に堪能することができた。「緋色」は面白かったのだが、「暗闇」はいまいちと感じたので、この「黄昏」はどうかなとちょっと不安を感じたものの、そんな心配を吹き飛ばすかのように面白かった。個人的には「緋色」>「黄昏」>「暗闇」という順位付けである。

 本書においても記憶が鍵となり、かつて体験したことを徐々に思い出しながら、過去を拾い出し、そして現在に起きた事件を紐解いていくという内容。伏線あり、レッドへリングあり、どんでん返しありと、なかなか豪華な内容になっている。そういった内容のものが速いテンポで進んでいくので、一気読み必至のミステリとなっている。最後まで読むと、実はわかりやすい伏線が張ってあったことに気づいたりと、実はミステリとしてなかなかよくできていると感嘆させられることとなる。30年近く前に書かれた作品であるはずなのに、今読んでも決して既存のミステリに遜色のない作品と感じられた。


鳴風荘事件   殺人方程式U   6.5点

1995年05月 光文社 カッパ・ノベルス
1999年03月 光文社 光文社文庫
2006年03月 講談社 講談社文庫

<内容>
 かつての友人たちとタイムカプセルを開けるという集いに参加することとなった明日香井深雪。彼女の小さいころの夢は刑事と結婚することであり、実際に夢をかなえた彼女は集まりに夫である明日香井叶を連れて行こうとする。しかし、叶が病気になり、急きょ彼の双子の弟である響に代役を頼むことに。そうして、二人は夫婦の振りをして現地へと向かう。そして、彼らが止まることとなった鳴風荘であるが、一晩を過ごすと、集まりに参加したうちのひとりが殺害されているのが発見されることに! しかも事件の状況は昔起きた事件に似ているところがあり・・・・・・

<感想>
 久しぶりに再読。今や懐かしいという思いが強い、新本格ミステリを堪能できる1冊。

 過去に起きた事件や、その後に起きた事件などもあるが、基本的には鳴風荘のなかで起きた事件に対する一点張り。いくつかの不可解な状況証拠を見据えて、事件の謎解きをすることとなる。

 私は再読ということで、この作品の事件の謎についてのポイントが非常に明快で一度読めば忘れられないようなものになっているので、ある程度ネタを心得ながら読んでいくこととなった。それ故に、この作品の構造が実にうまく作られているということを理解しながら読み進めていくこととなった。

 序盤の登場人物が一堂に会すところからしっかりと伏線の種はまかれている。偶然できたペンキがこぼれたことによる廊下を分断するような跡、このペンキ跡が事件の解決の大いなるポイントとなっている。そして、その事件解決の裏付けをするかのように、現場から持ち去られたと思われる物品の一覧が読者に開示されている。

 これらのヒントにより、論理的に犯人当てが行われるという趣向は、本格ミステリならではであり、かつこの作品でその趣向が成功していると言えよう。その丁寧とも言えるヒントの見せ方から、犯人を特定できたという人も結構いるかもしれない(私は当然のごとく初読時は見当もつかなかったが)。まだ、この作品に触れたことが無いという人は是非とも犯人当てに挑戦してもらいたいところ。そしてもう一つ付け加えると、シリーズ続編の“殺人方程式V”が出なかったことが今更ながら実に残念だと痛感した。


眼球綺譚   6点

1995年10月 集英社 単行本
1998年01月 祥伝社 ノン・ノベル
1999年09月 集英社 集英社文庫
2009年01月 角川書店 角川文庫

<内容>
 「再 生」
 「呼子池の怪魚」
 「特別料理」
 「バースデー・プレゼント」
 「鉄 橋」
 「人 形」
 「眼球綺譚」

<感想>
 過去に読んだ作品の再読。今回は角川文庫版での再読となる。綾辻氏におるノン・シリーズ・ホラー小説短編集。ノン・シリーズと言いつつも、登場人物のなかに必ず“由伊”という名前の女性がいるせいか、一連の物語を読んでいるという気分にもなる。

 いろいろな内容のものが書かれているが、ホラーに特化したものよりも、ちょっと変わった内容のもののほうが面白いという印象。「再生」という、体の一部が再生するという女性の顛末を描いた作品はそのアイディアも展開もなかなかのもの。また、「呼子池の怪魚」はホラーというよりも、単に昔懐かしシーマンをイメージしてしまったのは私だけであろうか。

 一番インパクトの強い作品は「特別料理」。特にグロテスクな描写はないものの、その中身は凄まじいほどグロテスク。これほど生理的嫌悪感を催す作品というのも珍しかろう。

 その他は、普通のホラー系の作品ゆえに、それぞれインパクトが薄かったかなという感じ。それでも最後の作中作で描く“眼球綺譚”は、最後に明かされる事実に意表を突かれた。


「再 生」 体の部位が再生するという女と知り合った男の顛末を描く。
「呼子池の怪魚」 池で捕まえた魚が大きくなってゆくと・・・・・・
「特別料理」 特別な料理を出すというレストランにはまってゆく夫婦。
「バースデー・プレゼント」 パーティーで誕生日を祝われる女が体験したものとは・・・・・・
「鉄 橋」 電車のなかでの怪談話が・・・・・・
「人 形」 ふと拾ってきた人形が家に居座り始め・・・・・・
「眼球綺譚」 眼球綺譚という作品に秘められた謎を描く。


フリークス   7点

1996年04月 光文社 カッパ・ノベルス
2000年03月 光文社 光文社文庫
2011年04月 角川書店 角川文庫

<内容>
 「夢魔の手 −313号室の患者−」
 「409号室の患者」
 「フリークス −564号室の患者−」

詳 細

<感想>
 ノベルス版の帯に“謎と恐怖と驚愕の三重奏”と書かれているのだが、まさしくその通りの作品集。

 この作品は、全て「EQ」誌上で掲載された作品であり、「409号室の患者」のみ先立って単行本化されている。3作品出そろった後、ノベルス化され、ひとつの作品集と相成った。すべてが精神科という共通の舞台が出てきてはいるものの、内容は関連がなく、3つそれぞれ別々のものとなっている。

 内容は恐怖と驚愕を楽しむ作品といったところであろうか。それぞれの登場人物の行動どころか、語り手自身の話すら、決して本当のことが語られているとは言えないので、真相や先行きを解き明かすというのは無理な話。ただただ、読み通していって、それぞれがどのような展開から結末を迎えてゆくかを楽しんでいってもらいたい作品集。

 ただひとつ「フリークス」のみは、作中作により犯人当てが試みられているのだが・・・・・・ちょっと、こちらの意図したものとは異なる論理を用いていたような。まぁ、ある意味ミスディレクションを誘った犯人当てという風に言えるのかもしれないが。


どんどん橋、落ちた   7点

1999年10月 講談社 単行本
2001年11月 講談社 講談社ノベルス
2002年10月 講談社 講談社文庫

<内容>
 「どんどん橋、落ちた」
 「ぼうぼう森、燃えた」
 「フェラーリは見ていた」
 「伊園家の崩壊」
 「意外な犯人」

詳 細

<感想>
 久々の再読・・・・・・であるのだが、インパクトの強い作品が多く、内容を覚えているものが多かった。それでも、その真相を踏まえつつ読んでいくのもまた楽しい。

「どんどん橋、落ちた」は、この作品集でもメインとなる作品であり、本格ミステリとして味わい深い(人によるかな?)作品ともいえよう。一見、不可能に見えるアリバイトリックをどのように解決するのかが見もの。ただし、フェアを貫いていると著者は言いつつも、なんだかんだ言って、人をだますために作られた作品に他ならない。

「ぼうぼう森、燃えた」は、「どんどん橋」を踏まえての別トリック作品。一つの例を踏まえている故、こちらのほうが難易度が低そうに思われるが、これはこれで大概の人がだまされそう。私自身も、初読のときは全く見当が付かなかったはず。これもまた人をだますために作られた本格ミステリ。

「フェラーリは見ていた」もインパクト抜群で、一回読んだら忘れられない作品。しかし、内容についてはあまり覚えておらず、“それ”がどのようにして犯人特定のポイントとなるのか、確認するように読んでいった。この作品に関しては、前2作に比べれば、本格ミステリとしては弱いかもしれない。実際、そんな感じのエンディングを迎えているし。

「伊園家の崩壊」は、今の時代に書かれていたら、いろいろなところでたたかれたのでは・・・・・・いや、そのくらい世に広められた方が、この作品集を読んでもらえる機会が増えるのでは!? 某国民的アニメの平和の象徴とも言われた家族の崩壊の話(作中では某作品とは何のかかわりもないと書かれている)。これは、もう犯人当て云々よりも、その物語のほうのインパクトが強すぎて・・・・・・。また、実際に使われているトリックも、結構わかりやすいものと感じられた。

「意外な犯人」は、かつて綾辻氏が作ったはずの映像ミステリの真相を、それを作ったのを忘れてしまった綾辻氏自身が当てるという趣向。なんか、こういう映像トリックというと我孫子武丸氏の「探偵映画」を思い起こすのだが、作品集全編に“タケマル”が出てくることを考えると、実際にそれを意識していたとしてもおかしくなさそう。内容を忘れたにも関わらず、犯人については予想できてしまったのだが、真相はさらに問題編を事細かくえぐるものであった。


最後の記憶   6点

2002年08月 角川書店

<内容>
 若年性の痴呆症を患い、ほとんどすべての記憶を失いつつある母・千鶴。彼女に残されたのは、幼い頃に経験したという「凄まじい恐怖」の記憶だけだった。バッタの飛ぶ音、突然の白い閃光、血飛沫と悲鳴、惨殺された大勢の子供たち。死に瀕した母を今もなお苦しめる「最後の記憶」の正体とは何なのか?

<感想>
 七年の沈黙を破り、ようやく綾辻氏が長編にて我々の前に姿を表してくれた。ただし、作品の形態としてはホラー小説と銘をうったものとなっている。

 読む前は、今までの作品群の中から比べれば“囁き”シリーズに近いものかと思ったのだが、読んでみるとまたそれも違うように感じた。今作はどちらかといえば、ホラーというよりも幻想譚というべき趣がある。今まで書かれた“囁き”シリーズや“殺人鬼”などの作風をぎりぎりに残しながらも別の領域に昇華した作品といってもよいだろう。作家活動が沈黙していたにもかかわらずこれだけの物語を紡ぎ出すことができるところに感心せざるを得ない。

 とはいいつつも、綾辻氏を“本格ミステリ作家”として捕えている者にとってはまだ寂さを感じてしまう。ホラーという銘はうたれながらもラストにはギリギリともいえるトリックが仕掛けられている(このへんもあれこれ触れたいのだが、少しでも類似の作品を述べてしまうと完全にネタばれになってしまう。まぁ、ホラー作品ゆえにギリギリ許せる仕掛けということで)。やはりこういう部分があればミステリ作家としての綾辻氏に期待したくなる。けっして腕は衰えていないどころか、文章を書く腕前はますます熟練しているではないか。この力量でぜひともこれからも多くの作品を期待したい。

 次は“暗黒館”本当に楽しみである。


暗黒館の殺人   6点

2004年09月 講談社 講談社ノベルス(上下)

<内容>
 江南孝明は母の四十九日にて九州の実家に帰っていたとき、伯父の一人から熊本県の山の中に建つ館、“暗黒館”の噂を聞く。その暗黒館も中村青司に関係がある建物であることを知り、江南はその館を一目見ようと一人車を飛ばす。そして霧の深い中“暗黒館”にたどり着いたものの、そこで江南は・・・・・・。

<感想>
 いろいろな意味で前館シリーズ「黒猫館」が出てから「暗黒館」が出るまでに12年の歳月がある事を感じさせられた作品であった。

 今作「暗黒館」は今までの館シリーズの雰囲気とは違うものが感じられた。それは作中で語り手の記憶について意図的に書かれているからという理由もあるのだろうが、どちらかといえば前作「最後の記憶」に近い感覚ではないかと思われた。また、この「暗黒館」が出るまでに書かれた綾辻氏のホラー系の作品の雰囲気も取り込まれているように思える。ようするに綾辻氏の作家人生の現段階における集大成ともいえる作品がこの「暗黒館」なのであろう。しかしながら私自身としてはホラー的な要素などをとっぱらった、ミステリのみとしての“館”というものを読みたかったというのが正直なところである。

 では、本書をミステリとして評価できるかという点についてなのだが、その点においても微妙であると言わざるをえない。

 まず1点として、本書は起伏のなだらかな山を登って降りたかのような構成となっているように感じられた。いくつかの謎が提示されるものの、細かいものはそのつどそのつど解き明かされてゆき、最後に全ての謎が解き明かされるというものではない。このような手法はミステリの書としては平坦すぎるのではないかと思えた。

 また本書では大きなカタストロフィがひとつ用意されている。しかし、それが私には“カタストロフィ”と感じられなかったのである。別に途中でトリックがわかったとかそういうわけではない(実際、全然わからなかった)。ただ、それが明らかになったからといって事件自体にそれほどの影響を及ぼしていないのではないかと考えられるのだ。このカタストロフィを感じることができるのは、あくまで視点にたっている人物のみであり、読者にまで及ぼされるものであるのかどうかは微妙でないかと思われる。また、その本書の一番の謎ともいうべきものが、伏線をはったうえでのフェアさというものは認められるが、現象としてフェアであるかどうかは疑問である事も付け加えておきたい。

 ただし、当然のことながら本書にはミステリとして大いに評価できる部分も多々ある事は事実である。この作品では“密室”的な状況がいくつか出てくるものの、それらのほとんどは隠し扉という存在により解決がなされてしまう。しかし、それらをあえてギミックとし、その隠し扉が使われた状況において犯人を限定するための論理的解釈を持ってくるというところはさすがというべきであろう。

 そして上記に書いた“カタストロフィ”であるが、それによってある人物が犯人として特定される条件が浮き彫りにされるという事も事実であり、本書はその効果を狙った作品といえるだろう。

 ようするに本書は“誰が犯人か?”を論理的に解明されるように練りに練られた作品であるということがいえる。そして、それがおそらく容易に解くことができない、難解なミステリとして完成されているともいうことができる。

 と、評価すべき点も多々あるのだが結局のところ前作から長らく空いてしまった時間というものが本書のネックになっていると思うのだ。それは近年、“世界の崩壊”というものを描いたミステリというものは多く書かれているということである。本書「暗黒館」は8年前から着手したとのことであるが、この作品が8年前なり、5年前なりに出ていたのならばまた評価のされかたは変わっていたであろう。しかしながら、今の時期になりこの内容の作品が世に出たとしても今さらという気持ちがあることは否めないのである。


びっくり館の殺人   5点

2006年03月 講談社 ミステリーランド

<内容>
 僕は久々に戻ってきた町で、ある事からふと、昔に起きた事件のことを思い出した。それは不思議な屋敷で起きた殺人事件のことである。その屋敷は中村青司という変わった建物ばかりを建てる建築家の手によって建てられたものであり、周りのひとたちからは“びっくり館”と呼ばれていた。屋敷には病弱な小学生のトシオとそのおじいさんの二人が住んでおり、ぼくはたまたまトシオと仲良くなり、その館へよく遊びに行っていた。しかし、あるクリスマスの夜に招待されて館へと行った時に殺人事件に遭遇する事に!!

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<感想>
 読んだ感想としては“館シリーズ”の前作「暗黒館」と同様の作風が何点か感じられたということ。特に大きな点を2点あげるとすれば、ひとつはホラー作品としての傾向が強いということ。もうひとつは“密室”に対するスタンスというもの。

 ホラー作品の傾向が強いというのは、2000年以降出版された「最後の記憶」「暗黒館の殺人」に見られるように、ミステリーとしてよりホラー作品という印象が強く感じられること。ただし、昔に書かれた“ささやき”シリーズなどは元々ホラーの傾向も強いと思われたのだが、それでもミステリー作品として受け入れられたように思える。ということは、ここ数年の作品はミステリー的なものが薄まったということで、そう感じるようになったのかもしれない。

 また“密室”に対するスタンスなのだが、「暗黒館」でも見られたように今の綾辻氏の作品は“密室もの”というよりは“アンチ密室もの”というような印象を抱いてしまう。なぜならば“密室”というものを真正面からとらえずに、その密室自体にあらかじめ抜け穴を作っておき、それらをすべてひっくるめて推理や考察の対象にしているように思えるからである。ようするに私自身が望む“密室もの”とは違ったものが描かれているのである。

 と、2点ばかり挙げたのだが、これらに関しては見てわかるとおり作品に対してあまり好ましくないということを書いているのである。結局のところ、期待する推理小説とはどこか違うものであったということだ。

 また、蛇足ながら、この作品は“ミステリーランド”だからこそ出版した作品なのであろうが、子供に読ませたくなる作品だとはとうてい思えないという事も付け加えておきたい。


Another   6点

2009年10月 角川書店 単行本
2011年11月 角川書店 角川文庫(上下)

<内容>
 榊原恒一は東京から夜見山中学へと転校してきた。持病により急きょ入院する必要があったため、榊原は5月から新しい学校へと通い始める。彼が転入した3年3組は不思議な雰囲気のクラスであった。どこかよそよそしく、全員で何かを隠しているかのような。さらには、クラスのなかでミサキという美少女が阻害されているように感じるのである。特にいじめられているというようではなさそうなのだが。やがて、榊原は夜見山中に隠された秘密を知ることとなり・・・・・・

<感想>(再読:2023/11)
 文庫本にて再読。一度読んで感想まで書いたものの、ものの見事に肝心な部分の内容を忘れてしまった。最初「エピソードS」が出たときは、外伝なので無視してもいいかと思っていたのだが、その後に「Another 2001」までもが出てしまったので、これは読み返した方がいいのでは!? と思っての再読。これで、後発の作品を読むのに準備万端。

 それで再読をした感想はというと、前に書いた感想と比べてみても同じことなのだが、なんでこれだけの事件が世間一般で噂にならないのかと、やっぱり思ってしまう。また、学校内で事件を重く見ているのであれば、何でよりによって3年3組に転校生を入れるのかと思わずにはいられなかった。もはや、呪いの魔力に全てが吸い寄せられているのではないかと思えるほど。

 まぁ、結局のところ、とあるひとつの地域が世間から精神的に隔絶され、その地域のみの呪いスポットになっているというような設定で解釈すればよいのであろう。設定さえ受け入れられれば、ボーイズ・ミーツ・ガールを含む学園ホラーとして楽しめる作品と言えよう。会話文が多めのせいか、ページ数のわりには、あっさりと読むことができるライトテイストな作品でもある。


<感想>
 ホラー小説としてはなかなかのもの。分厚いページ数にも関わらず、読みやすく一気に読む事ができてしまう。

 系統としては、「リング」に近いものがある。超自然が介在する謎の出来事が起こるのだが、それがどういう法則で行われ、それを防ぐにはどのようにしたらよいのか、という事態に主人公らが立ち向かうという内容になっている。

 ホラーのネタとしては十分におもしろく、よく考えられたものになっていると思えるのだが、その反面起きる現象が大きすぎるとも感じられた。これは、さすがに地域内だけで隠蔽しておけるような事態ではないように思える。というか、とっくにその地域から人がいなくなってしまいそうな気がするのだが。

 そういう点さえ除けば、非常にうまくできたホラー小説と思える。この内容であれば、長さ的にもちょうど良いのではないだろうか。また、これは大人向けというよりも、ここに登場する主人公と同じくらいの年齢にふさわしいと言えよう。やたらと読みやすかったせいか、なんとなく子供向けというイメージが強かった。


奇面館の殺人   7点

2012年01月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 作家の鹿谷門実は、自分に容姿が似た同じく作家である日向京助から、奇面館での集いに代わりに参加してもらいたいと頼まれる。その奇面館が中村青司の手による建築物であることを知り、興味を抱いた鹿谷はそこへと向かうことに。その奇面館で行われた集いとは、主人と招待客6人が全て用意された仮面をつけて会合するという奇妙なものであった。そうしたなか、予想されたかのように殺人事件が起きてしまう。雪に閉ざされた館のなかで発見された首なし死体。首と指が切断された死体は、館の主人のものだと思えるのだが・・・・・・

<感想>
 久しぶりに館シリーズを堪能できたという気がした。個人的には“黒猫館”“暗黒館”“びっくり館”は変化球気味に感じられたので、ストレートな館シリーズとしては時計館以来のような。ただ、驚天動地の館シリーズというよりは、作風としては「殺人方程式」風の地道な犯人当てというような内容。

 奇妙な館のなかで、奇妙な面をつけた、奇怪な会合が行われる。そして当然のように起こる殺人事件。発見された死体は、首と指が切り取られた状態。そんな異様な形で事件は幕を開けるのだが、調べが進められていくうちに事件はだんだんと地味な方向へと進んでゆく。

 首が切り取られ、指が切り取られているのだから、死体の主の正体を隠すためにやったのだろうと疑うのは当然のこと。しかし、死体の主は予想を覆すというものではなさそうで・・・・・・という具合に、推理小説的な裏をかいた行為が次々と否定されてゆく。すると残されるのは地味な殺人事件という事実のみ。しかし、どうしてこんな奇妙な館の中で普通の事件が起きなければならなかったのか。

 そういったところを焦点とし、探偵役である鹿谷は事件の核心へとせまってゆく。それら犯行方法の異様ながらも普通ともいえる状況のなかから的確に犯行の筋道を見つけていく推理は見事なものである。起きた事件が小さなものであったのは館シリーズとしては残念ながらも、きちんとした犯人像と犯行への道しるべが的確に表された良質のミステリ作品であることは確かである。


Another エピソードS   6点

2013年07月 角川書店 単行本
2016年06月 角川書店 角川文庫

<内容>
 見崎鳴は榊原恒一に語り始める。1998年の夏の夜見山合宿の際にあった大きな事件の前に、鳴は家族と共に海の別荘へ行っていたという。そこで賢木晃也と会うことができるから。彼は1987年、11年前の3年3組の卒業生。彼から、3年3組の呪いにまつわる話を聞くことができると考えていた鳴であったが、彼女が出会ったのは賢木晃也の幽霊であった。幽霊の賢木晃也は、自分がどのようにして死んだのか分からずにこの世を彷徨っているのだと・・・・・・

<感想>
「Another」の再読に続けて、この「エピソードS」まで一気読みしてしまった。こちらは、「Another」に対して外伝的な内容。登場人物は「Another」から続けて出るものとしては見崎鳴くらいで、その他はあまり関係ない。読み始めは「Another」の内容にも一部踏み込むのかと思ったが、結局はほぼ関係しなかったので外伝といってよいであろう。ただ、世界設定は引き継いでいるので、「Another」から読んだほうが取っつきやすいと思われる。

 ひと夏の幽霊譚を描いた作品。ただ、綾辻行人氏が描くゆえに、それだけで終わるというものではなく、ちょっとした仕掛けも兼ね備えたものとなっている。見崎鳴と、彼女が出くわした“幽霊”と共に、幽霊となった人物の身に起きた事件を紐解くというもの。軽めのホラー・ミステリという感じで楽しめる。


人間じゃない   5.5点

2017年02月 講談社 単行本

<内容>
 「赤いマント」
 「崩壊の前日」
 「洗 礼」
 「蒼白い女」
 「人間じゃない −B〇四号室の患者−」

<感想>
 綾辻行人氏の各シリーズに関わる番外編的な短編集。例えば「どんどん橋、落ちた」に含めるべきもうひとつの短編とか、「人形館の殺人」の後日譚とか、そういった位置づけのものが集められた作品集・・・・・・ということなのだが、なんとなくその設定も後付なような感じであり、“ボツ短編作品”とまでは言わないまでも、単なるノン・シリーズ短編集という感じ。全体的に、もう少し本格色が濃かったらよかったのだが、ホラー色に押されてしまっているのが個人的には残念なところ。

「赤いマント」
 著者自身が語っている通り、本書のなかでは一番本格色が濃い内容の作品。都市伝説“赤マント”が噂される公園のトイレ、個室に入った女性とを女教師が見守っていたのだが、誰も入ることができないはずの個室のなかで生徒はペンキまみれになっていたというもの。“誰?”ではなく、“何故?”にこだわった内容の作品。

「崩壊の前日」
「眼球綺譚」の系譜を継ぐ内容の作品。そういえばこの作品集に出てくる女性の名は全て“ユイ”となっていたことを思い出す。ホラーのような、幻想小説のようなという変わり種の作品。

「洗 礼」
「どんどん橋、落ちた」の番外作品という事なのであるが、内容に関してはそんな感じには捉えることができなかった。とはいえ、きちんとそれなりの謎解き小説となっていることは確か。ダイイングメッセージにこだわった内容の作品となっている。それでも作中の設定にもなっている、デビュー小説というくらいの位置づけのレベルの内容ではなかろうか(といっても、私は解答を当てられなかったのだが)。

「蒼白い女」
「深泥丘奇談」シリーズの番外編とのこと。短めの幽霊譚。

「人間じゃない −B〇四号室の患者−」
 一応、「フリークス」の番外編ということにしているようだが、元は漫画作品であり、それを小説化したものということ。本当はこの作品がミステリ的な内容で締めてくれれば、作品集全体としてバランスがとれていたように思えるのだが、ホラー作品のままで終わってしまったのが残念なところ。


「赤いマント」 (「人形館の殺人」の後日譚)
「崩壊の前日」 (「眼球綺譚」に収められた「バースデー・プレゼント」の姉妹編)
「洗 礼」 (「どんどん橋、落ちた」の番外作品)
「蒼白い女」 (「深泥丘奇談」の番外編)
「人間じゃない −B〇四号室の患者−」 (「フリークス」番外編)


Another 2001   6点

2020年09月 角川書店 単行本
2023年06月 角川書店 角川文庫(上下)

<内容>
 多くの犠牲者が出た1998年から3年が経った夜見山北中学校の三年三組。今回その三年三組の一員となったのは、3年前に見崎鳴と出会った少年・比良塚想。この三年三組には“死者”がクラスに紛れ込むことがあり、それが紛れ込んだ年には三年三組のクラスの関係者から多くの死者がでるという現象が起きていた。今年もその死者が現れる年という予兆があり、クラスでは対策が行われることとなった。そして死者の代わりにクラスにいない者として想ともうひとりのクラスメイトが選出され・・・・・・

<感想>
 だいぶ昔に単行本で読んだ「Another」の内容を忘れてしまっていたので、文庫化された「Another」と「Another エピソードS」を合わせて立て続けに読み、それから本書に着手した。その読み方が正解であり、前2作の内容を把握していた方が本書をより楽しむことができる内容であった。

 基本的には「Another」と内容・進行の仕方についてはほぼ同様と言えよう。それでも、前作を踏まえてと言うこともあって、それも内包しての進行がなされてゆく。そして、前作における犠牲者を止めるための対策がなされるものの、それだけにとどまらず、さらなる試練が主人公や三年三組のクラスの者達に襲い掛かることとなる。

 前半部分は、三年三組に降りかかる呪いさえなければ、普通の青春小説のような感じに捉えられるような内容となっている。普通に高校生らが人間関係に悩んだり、恋に悩んだりと、微笑ましいともとれるような展開がなされてゆく。ただ、三年三組の呪いが降りかかってからは、そこからはひたすら険しい展開がなされてゆくこととなる。

 続編として、前作の内容のみにとどまらないような展開がどのようになされるのかと思いきや、結構波乱展開がなされてゆくものとなっている。後半では、前作以上に呪いによる現象が派手な感じになっていた。そこで、進行する呪いを止めるために、とある解釈がなされるわけなのだが、なるほどと思えつつも、結局のところ、やや後付けというような印象を抱いたのも確か。今作のような展開になってしまうのであれば、前作でも同様のことが起きてもおかしくなかったのではと、つい思ってしまった。

 このシリーズはこれだけに留まらず、「Another 2009」が予定されていて、これがシリーズの最終作になるとのこと。これもまた、本書からの続きとして書かれる作品のようである。とすると、また次のシリーズを読むときに今までの三作を覚えてなければならないのだろうが、忘れる前に出てくれれば・・・・・・と思いつつも、たぶんまた再読することになるのかもしれないと考えつつ・・・・・・




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