<内容>
「文芸部長と『音楽室の殺人』」
「文芸部長と『狙われた送球部員』」
「文芸部長と『消えた制服女子の謎』」
「文芸部長と『砲丸投げの恐怖』」
「文芸部長と『エックス山のアリバイ』」
<感想>
近年、東川氏の作品の多くは文庫化してから買っているのだが、今回は単行本で購入。この作品、シリーズというほどでもないが、“恋ヶ窪学園”が舞台となっており、以前出版された「放課後はミステリーとともに」と同じ舞台。そのときの主人公は霧ヶ峰涼という人物であったが、この作品には出ていなさそう。と思いつつも、かつて楽しんで読んだシリーズ作品を思い出しつつ、今作を購入した次第。
それで読んでみたところ・・・・・・かなり期待外れであったなと。今作では第二文芸部で唯一の部員で部長を務める水崎アンナが、文芸部と勘違いしてきた新入生の“僕”をつかまえて、彼女が書いた推理小説を読ませるという趣向。
この趣向自体は別に良いのだが、内容がどの短編もいまいち。というのも、あまりにも普通のミステリ過ぎて、全くと言っていいほど捻りがない。さらに言えば、作品自体の設定の拙さを素人が書いた作品だからと言い訳してしまうところもどうかと思ってしまった。そんなこんなで、読みどころがほぼなかったような作品であったなとしか言いようがない。期待して読んだだけになんとも残念。
「文芸部長と『音楽室の殺人』」 音楽教室から飛び出してきた何者かにぶつかった文芸部長水咲アンナは、音楽教師の絞殺死体を発見し・・・・・・
「文芸部長と『狙われた送球部員』」 送球部の部長を殴打したと思われる容疑者は二人。しかし、二人には雨が止んだ時間が証明するアリバイがあり・・・・・・
「文芸部長と『消えた制服女子の謎』」 プールの更衣室で殺人を犯したと思われる女は部活棟のほうへと逃げ、そのまま行方がわからなくなり・・・・・・
「文芸部長と『砲丸投げの恐怖』」 砲丸投げの玉によって気絶したと思われる陸上部員。果たして、誰が重い砲丸を投げることができたというのか??
「文芸部長と『エックス山のアリバイ』」 山でナイフを刺された状態で発見された女は、男の名前をつぶやくのだが、その男には堅牢なアリバイがあり・・・・・・
<内容>
「足を踏まれた男」
「中途半端な逆さま問題」
「風呂場で死んだ男」
「夏のコソ泥にご用心」
<感想>
兄が父親から継いだ居酒屋“鰯の吾郎”。岩篠つみれは、女子大に通いながら、たまに閑散とした店を手伝ったり、手伝わなかったり。そんなつみれが、開運グッズを売る“怪運堂”の店主・竹田津優介と知り合い、二人のコンビが谷根千で起きる様々な事件を解決してゆく。
と、そんなミステリ短編集であり、本書もいかにも東川氏らしい作品という感じのもの。ただ、これを読んで思ったのは、そんなに色々なシリーズというか、探偵役を出す必要があるのだろうかということ。だいたいどの作品も探偵役の背景を変えただけでやっていることや、事件の在りようも一緒なので、別に色々な探偵象を造形する必要はないのではと思ってしまう。
今作で特に気になったのは開運グッズを売る店の店主が探偵役となるものの、この人物が事件に関わるスタンスが薄すぎるというところ。何故に事件に関わろうとするのであろうというところ抜きに探偵役に収まってしまっていたので、全編的にこの人物が作中で浮いてしまっているように感じられた。とはいえ、出版社ごとに設定を変える必要があるとか、まぁ、さまざまな事情はあるのだろうから致し方のない事なのだろう。。
本書は東川氏のミステリ短編集としては、普通であり、特に見所のある作品と言うものもなかったかなと。
「足を踏まれた男」は、石材屋に泥棒として入るリスクが大きすぎるのではと。単に買えば済むのではと思ってしまう。
「中途半端な逆さま問題」は、趣向としては面白いが、最終的に普通に収まってしまっている。
「風呂場で死んだ男」は、単にややこしくしているだけの印象であるが、意外とミステリとして裏をかいた作品となっているのかもしれない。
「夏のコソ泥にご用心」は、普通そうな事件を面白おかしく書ているという感じ。まぁ、これはこれで東川氏らしくよいのかもしれない。
気軽に読めるミステリ作品集としてはいいのかもしれない。タイトルからして、ガチ目なミステリを求めて読む作品という感じではないので、四の五の言わずにその内容を楽しめばよい作品というものであろう。
「足を踏まれた男」 バーベキューの最中に足を踏んだ事件(?)、石材屋に泥棒が侵入したものの何も盗まなかった事件。二つが結ぶものは??
「中途半端な逆さま問題」 旅行帰りの女性が家に入ると、家にある多くのものが逆さまに置かれていた。しかし、何も盗まれたものはなく・・・・・・
「風呂場で死んだ男」 風呂場で死んでいた独り暮らしの男。そして近くの廃屋の風呂場では何かがなされた形跡が・・・・・・
「夏のコソ泥にご用心」 一人暮らしの女子のアパートに侵入し、逃げ出した男。事件におけるささいなアリバイの誤差が示すものは!?
<内容>
「風祭警部の帰還」
「血文字は密室の中」
「墜落死体はどこから」
「五つの目覚まし時計」
「煙草二本分のアリバイ」
「若宮刑事に倫理観はあるのか?」
<感想>
「謎解きはディナーのあとで」の新章とも言うべき作品。テレビドラマ化されて、シリーズとしてはさらに勢いがついたということか。
それで読んでみたものの、内容は以前のシリーズと比べてもだいぶ弱まった感じになっている。普通に予想通りの内容であったり、普通の内容のものを無理やり捻じ曲げたりと、全体的にだいぶ微妙な内容と思われた。
「墜落死体はどこから」は、事件が提示された際には、なかなか面白そうな事件だと感じたものの、真相が明かされると、それはちょっと・・・・・・思わずにはいられなかった。というか、そういうふうにはならないだろうとしか・・・・・・。面白そうな作品であっただけに、かなり残念な感じであった。
東川氏の短編集を読むと、だいたい1作品くらいは、目を見張るような作品が含まれているのだが、今作ではそういったものを見ることができなかった。シリーズとしてのフォーマットは良くできているものの、ミステリとしてはネタ切れになってしまっているのかなと。それだけ、多くの作品を書き上げているから致し方ない部分はあるのだろうが。
「風祭警部の帰還」 資産家の後継ぎが首吊りをした事件。自殺なのか? 他殺なのか? 屋敷に居たもののアリバイは!?
「血文字は密室の中」 密室のなかで発見された死体のそばには、ダイイングメッセージが遺され・・・・・・
「墜落死体はどこから」 ビルの間で発見された墜落死体。この事件はどのようにして起きたものなのか!?
「五つの目覚まし時計」 死体のそばに置かれていた五つの目覚まし時計。それらのアラーム時間が意味するものは!?
「煙草二本分のアリバイ」 発見された死体と3人の容疑者。容疑者のアリバイから導き出される真相は!?
「若宮刑事に倫理観はあるのか?」 ベビーカーを押しながらエスカレーターに乗る母親に対する、麗子と若宮の考え方の違い??
<内容>
「2016年 カープレッドよりも真っ赤な嘘」
「2017年 2000本安打のアリバイ」
「2018年 タイガースが好きすぎて」
「2019年 パットン見立て殺人」
「2020年 千葉マリンは燃えているか」
<感想>
文庫化されたので購入して読んでみた作品。多少ではあるが、プロ野球に関して興味があるので、単行本で出ていた時から気にはなっていた作品。
警視庁捜査一課に勤務する親娘刑事コンビ、神宮寺勝男と神宮寺つばめが遭遇する事件。その謎を解くのは、ベースボール・バーその名も“ホームラン・バー”にて出くわすカープファンの女子。出会う度に名前が変わるこのカープ女子が快刀乱麻の活躍を見せる・・・・・・そんな短編集。
ミステリとしてのできよりも、プロ野球に関する知識を堪能できるものとして楽しめる作品。解くべき謎が、プロ野球に対して細かい蘊蓄を知っていないと解けないものとかがあるので、純然たるミステリという感じではない。ただ、プロ野球ミステリとしては、これで良いと思われる。これくらい振り切った趣向の作品があっても良いであろう。
なんだかんだで、コミカルな野球ミステリを堪能できた作品。プロ野球に詳しければ詳しいほど楽しめる作品といえるかもしれない。プロ野球に興味がない人が読んでも・・・・・・いまいちピンとこないかもしれない。
「カープレッドよりも真っ赤な嘘」 巷で貴重なレプリカユニフォームが盗まれる中、それに関連したかのような殺人事件が起き・・・・・・
「2000本安打のアリバイ」 ベテランアナウンサーが殺された事件。アリバイは2000本安打が証明することに!?
「タイガースが好きすぎて」 殺人事件が起きるものの、被害者が見ていた阪神戦により、容疑者のアリバイが成立してしまい・・・・・・
「パットン見立て殺人」 ボコボコになった冷蔵庫の扉が凶器! これはまさか、プロ野球の“パットン事件”の見立て!?
「千葉マリンは燃えているか」 千葉マリンスタジアムの西日による中断がアリバイとなり・・・・・・
<内容>
二代目安楽椅子探偵、安楽椅子(あんらく よりこ)。彼女は居酒屋“一服亭”を一人で切り盛りする女主人。しかし、客商売には向かないほどの人見知り。そんな彼女が不可思議な犯罪を客から聞いた話のみで快刀乱麻のごとく解決してゆく。
「綺麗な脚の女」
「首を切られた男たち」
「鯨岩の片足死体」
「座っていたのは誰?」
<感想>
この前の作品として「純喫茶『一服堂』の四季」というものがあり、そこで登場する探偵が安楽椅子(あんらく よりこ)という名の文字通りの安楽椅子探偵。今作も二代目と冠した安楽頼子という探偵が出てくるのだが、ほぼ前作とは関わりがない。ゆえに、この作品のみを読んでも全く問題がない。というか、別に前作を踏襲する必要はなかったと思えるのだが、著者にとって“安楽椅子”という名前が使い勝手が良かったのだろうか。
東川氏の作品らしくユーモア調のミステリとなっているのだが、起きる事件は体のどこか一部を切られた死体が発見されるものばかり。陰惨な事件をここまで明るく推理してゆくというのもまた、東川氏らしい作品である。
本書ではこれでもかといわんばかりに、体の一部を切り取られたり、バラバラにされた死体が登場する。そして、何故体の一部、または全部を切り取らなければならなかったのか、ということに言及するミステリとなっている。
細かいところを突けば、突っ込みどころは多々あるものの、“何故バラバラに”という点をテーマとしたミステリとして、うまくできているなと感じられた。テーマをぼかさなかったことにより、何気にしまったミステリという感じに捉えられたのかもしれない。これは同一テーマで話をまとめたことにより、成功した作品といってよいものであろう。
「綺麗な脚の女」 閉ざされた家の中で発見されたバラバラ死体の胴体。しかし、その胴体がちょっと目を離したすきに消失し・・・・・・
「首を切られた男たち」 銃殺されたはずの被害者。何故か首を切られた死体。死体の主は? そして首を切られた理由は??
「鯨岩の片足死体」 キャンプ場で発見された死体。何故か片足のみが切り離されており・・・・・・
「座っていたのは誰?」 必要以上にバラバラにされて発見された死体。何故、死体をバラバラにしなければならなかったのか?
<内容>
鵜飼探偵事務所に烏賊川市の有力企業社長・小峰三郎が訪れる。彼が言うには、何者かから脅迫を受けているので、護衛をしてもらいたいと。小峰は毎年クリスマスには、ゲソ岬にあるスクイッド荘に宿泊するので、そこに一緒に来てもらいたいという。鵜飼と助手の戸村は依頼を引き受け、後日小峰と共にスクイッド荘へと向かう。途中、大雪のため事故を起こしていた車のなかで意識を失っている男を救出し、スクイッド荘にたどり着く。そこで彼らは殺人事件に出くわすことに。そして、事件は20年前に起きていた、バラバラ殺人事件の真相にも言及することとなり・・・・・・
<感想>
久々に東川氏の長編を読むことができると、楽しみにしていたわけだが・・・・・・なんか、あまり盛り上がらなかった作品だったなと。
この作品で、一番微妙と思われたのが、謎が全て出揃ってからの推理というわけではなく、物語の進行と共に同時に謎が語られてゆくという感じになっていたせいか、不可能性とか謎とかいうものをあまり感じられなかったところ。そんな進行の仕方であるために、徐々に物語の全貌がわかっていきつつ、それと共に流動的に謎が解かれてゆき、そのまま終幕という流れ。よって、どこで話が盛り上がるとかがなかったような印象。
脅迫状は誰から送られてきたのか、そして送られてきた小峰三郎は何を隠しているのか? スクイッド荘へ行く途中、遭難していた男の正体とその目的は? 20年前に起きたバラバラ死体事件の真相は? スクイッド荘で起きた殺人事件の犯人は誰であり、どこへ消えたのか? 等々と、とにかくミステリ要素は何気に盛りだくさん。
こんな感じでミステリ要素満載で、物語自体もうまくできていたと思われる。また、いつもながらの烏賊川市シリーズらしく、脱力系の物語と登場人物らのやり取りが楽しめ、面白く読める作品であることも確か。ただ、やはり話の構成というか、物語の展開の仕方が微妙に思え、それゆえにミステリとして弱く感じられることになってしまったのは惜しかったかなぁと。
<内容>
岡山の資産家が死亡し、遺言状により瀬戸内海の斜島に建てられた“御影荘”に集められた親族一同。遺言執行人の代理を務める弁護士・矢野紗耶香、行方がわからなくなっている親族のひとりを見つけ、彼と共に島に来た私立探偵・小早川隆生。一同集められた中で遺言が公開されたものの、特に大きな混乱もなく無事に事が済まされる。しかし翌朝、相続人のひとりが死体となって発見されることに。嵐によって閉ざされた島で犯人探しをする小早川と矢野。調べていくうちに、23年前にこの別荘で不可解な事件が起きていたことを知り・・・・・・
<感想>
今年「スクイッド荘の殺人」が出て、さらにこの「仕掛島」と長編が2作も出るなんて、なんて豪華な。東川氏というと、短編作品集が多いので、長編を待ち望んでいたのだが、今年はなんと2冊も読むことができた。
今回の「仕掛島」は「スクイッド荘の殺人」よりも良かったかなという印象。シリーズというわけではないのだが、同じ東京創元社から2005年に出た「館島」を継ぐような作品。一応、前作について言及するような場面はあるものの、あくまでも本書は単体で楽しめるので、この作品のみで安心して読むことができる内容。
孤島の島に建つ、何がありそうな変わった形状の別荘。そこで唐突に起きる殺人事件と、不可思議な目撃情報。そこから過去に起きた事件が浮き彫りとなり、この別荘にて不思議な出来事が色々と起きていたことがわかる。さらには、釣り人達がこの島の付近で体験した不思議な出来事。こうした謎がどのように結ばれ、どのように紐解かれてゆくのか? 頼りなさそうな私立探偵は果たして本当のこれらの事件の謎を解くことができるのかと。
本書で感心したのは、建築物の謎。タイトルの仕掛島という名の通り、建物に何らかの秘密が隠されていることは間違いない。それを考えながら読んでいたものの、今までのミステリとは少々異なる館の仕掛けに感嘆させられることとなる。これは、一風変わった仕掛けで面白い。そして、作品の内容にきちっと合ったものとなっており、そこがなお良い。
今作は全体的に話の内容が良くできていると感心させられた。ただ単に派手なミステリというだけでなく、一連の話の流れとしてうまくできていたなという感じ。ひとつ気になったのは、本書も東川氏の作品らしくコミカルなものとなっているのだが、そこはあえてシリアスな作風にしたほうが良かったのではないかと言うこと。ただ、もう東川氏の作品すべてがコミカル基調なものとなっているので、それを求めるのは無理というものか。