東野圭吾  作品別 内容・感想5

マスカレード・ゲーム   6点

2022年04月 集英社 単行本

<内容>
 新田刑事は、殺人事件の捜査に当たっていた。被害者はかつて事件を起こし、少年院に入っていたことがあった。かつて起きた事件に恨みを抱く親族の仕業かと思われ、捜査が進められる。そんなとき、かつて事件を起こしたことのある加害者が狙われ、殺害されるという事件が立て続けに起こっていたことが判明する。これらの事件はなんらかの関りがあるのか? そして、それら事件の関係者たちがホテル・コンチネンタルに宿泊することが明らかとなる。コンチネンタルは、新田刑事らが、今まで何度か捜査で協力してもらったことのある曰く付きのホテル。またしても潜入捜査をすることとなった新田であったが、そこにロサンゼルスから帰ってきた山岸尚美が現れ・・・・・・

<感想>
 すっかりシリーズとして定着しつつあるマスカレード・シリーズ。ホテル・コンチネンタルを舞台に新田警部とコンシェルジュの山岸が活躍する。

 今作は、全体的には面白かったものの、途中やや中ダレ気味になっていたかなと。かつて親族を事件によって亡くした人々が軽い罪で済んだ犯人に対し復讐をしているのでは? と考えられる事件。その心に傷を負った親族たちがホテルに集まり、何かを企んでいるのではないかと、そこで起きると思われる事件を阻止しようと警察官らが奔走する。いつものように、ホテルの協力を得て、海外から帰ってきた山岸も加えて盤石な体制が整いつつも、ホテルで何が起こるのか、一向に突き止めることができないという状況。

 この相手側が何を企んでいるのか? そして、実際になにが起きようとしているのか? そういったことを突き止めようとするものの、それらが最後の最後まで判明しないものとなっている。よって、その途中は中ダレ気味になってしまう。その途中で起きることと言えば、今回のそのための役割であるかのように登場する女刑事・梓との衝突の繰り返し。この辺は、中ダレというか、ややげんなり気味になってしまう部分でもある。

 ただ、終幕が近づいてきて、ホテル内で何が起きようとしているのかが徐々に明らかになり、そしてその行為を阻止するという方向に向かってからは、物語が一気にスピィーディーに進展してゆく。最後のほうになると、もはや一気読みという感じになっていった。

 ということで、不満もありつつも、全体的には面白く読めたかなと。シリーズとしても安定している感じがする。また、今作の最後で次の作品が出ること間違いなさそうな展開も控えているので、そこも読みどころのひとつ。


魔女と過ごした七日間   6点

2023年03月 角川書店 単行本

<内容>
 刑事の脇坂拓郎は警備員が殺害されて川に放置されていた事件を追っていた。被害者はかつて警察に勤め、指名手配犯を探す部署についていた。それがAIの発展により仕事を奪われ、警察を退職した後は警備員として働いていた。被害者には中学生の息子・月沢陸真がおり、脇坂は彼から事情聴取をしていた。陸真は、父親が亡くなったことにより天涯孤独となり、その状況に途方にくれていた。そんな陸真を励ます親友のおかげもあって、陸真は父親が生前にどのようなことをしていたのか自分の手で調べ始めることにした。そうしたなか、陸真は不思議な女性、羽原円華と出会い・・・・・・

<感想>
「ラプラスの魔女」という作品に出ていた羽原円華という人物が登場するシリーズ作品。ただ、この羽原円華が登場するというのみで、他の作品との関連はないので、単体の作品として普通に楽しむことができる。しかし、この羽原円華という人物については、シリーズ長編と短編集と両方読んでいるものの全然記憶に残っていない。

 本書は詳しくは言及していないが、近未来の日本が背景になっていると思われる。今よりもAI技術が発展し、それらが日常に浸透している世界を描いているようだ。そうした世界の中で、ひとつの殺人事件が起こり、それを刑事の脇坂が追い、さらには被害者の息子である中学生の陸真が羽原円華の手を借りて、捜査を進めていくというもの。

 まぁ、普通に面白く読める作品ではあるのだが、どうも作品全体がうまく融合していないという気がした。大きなテーマとしては近未来の体制の真相に迫るというものがあり、そのなかで三人の人物(刑事・中学生・魔女)が行動していくものとなっている。その三人のスタンスがどうも噛み合っていないようで、そこが物語上融合していない原因と感じられた。

 一応、中学生を主人公のひとりとして出しているゆえに、成長物語みたいなものを描いていると思われるのだが、事件自体が大きなものであり、しかも警察機構の体制に迫るという内容まで含まれているので、とても中学生の手に負えるものではない。ゆえに、それならば脇坂という刑事ひとりを主人公とした方がむしろしっくりくるような内容と思われる。また、肝心の羽原円華という人物についても、ただ単に不思議なことができ、行動力があるというのみで、決して物語上全体をまとめるようなパーツになっているとは思われなかった。

 はっきりいえば、詰め込み過ぎであったのではないかと思われる作品。刑事と羽原円華のコンビのみで、十分であったと思われる。また、シリーズ主人公の羽原円華についても、今作を読んでも結局のところ印象の薄さは変わらなかったような。


あなたが誰かを殺した   6.5点

2023年09月 講談社 単行本

<内容>
 4件の別荘地に集まった人々。昨年に続き恒例となりつつある近所同士の交友を高めるパーティーが行われることとなった。子供から大人まで15人が参加した。そしてパーティーが終わり、それぞれの別荘に帰った後、悲劇が起こる。別荘地を襲った殺人鬼の手により、数名が殺害されることに。事件後、犯人が自首をしてきたことにより事態は終結したと思われたものの、いくつかの不可解な点が残る。生き残った被害者家族らにより、事件の検討会が行われることになり、オブザーバーとして刑事の加賀恭一郎が参加し・・・・・・

<感想>
 タイトルを見たときに、以前出版された「どちらかが彼女を殺した」のように、結末が描かれていなく、読者に考えさせる趣向の作品なのかと思ってしまった。しかし、読んでみるとそんなことはなく、しっかりと結末まで描かれた作品となっている。私と同じように疑った人も、安心して読めるものとなっている(結末を自分で考える方が好みの人もいるかも?)。

 この作品はミステリとして、なかなか読み応えがあった。最初、別荘地で殺人事件が起きるものの、その全容がすぐには明らかにされず、被害者家族によって行われる検討会によって徐々に事態が明らかになってゆくという趣向。そして検討会を行うことによって、一般的に明らかにされている結論の裏に隠れる真相を見出すこととなって行く。

 犯行模様から、動機、さらには一人一人の人物造形まで丁寧に描かれた作品である。それぞれが抱える真の思惑も、伏線を張りつつ、うまく隠されている。そして、最後になってそれらが明らかにされた時には、なかなかうまく描かれていると感心させられるものとなっている。うまく創りこまれたミステリ作品であると、普通に感心させられる内容。




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