藤原伊織  作品別 内容・感想

ダックスフントのワープ   6点

1987年02月 集英社 単行本
1990年03月 集英社 集英社文庫
2000年11月 文藝春秋 文春文庫

<内容>
 「ダックスフントのワープ」
 「ネズミ焼きの贈り物」
 「ノエル」
 「ユーレイ」

詳 細

<感想>
 かつて読んだ本を再読。著者の藤原伊織氏といえば「テロリストのパラソル」にて江戸川乱歩賞を受賞してデビューというイメージが強いが、実はその前に短編「ダックスフントのワープ」で第9回すばる文学賞を受賞している。ゆえに処女作品となるのがこちらの作品集。

 久々に読むので細部については覚えていなかったが、衝撃的な「ダックスフントのワープ」の結末だけは覚えていた。その衝撃的な結末が個人的には良いとは思えないのだが、それでも忘れられない作品として心に残るのは確か。

 全体的に、これらが書かれた当時の典型的な文学作品っぽいというような味わいがある。そんなにその当時の文学作品に詳しいわけではないのだが、いわゆる“村上春樹”っぽさを感じてしまうような作風。無機質な主人公が、ちょっと気の利いた会話をするというような感じの。これらの作品集に出てくる主人公たちも「ノエル」の女子高生を除けば、皆がそんな感じ。そして、会話に関してはなぜか同性同士の会話はほとんどなく、男女の会話ばかりがとりあげられているというところもポイントというような気がする。

 中味については、無機質な作品よりも感情を爆発させたような「ノエル」あたりのほうが好感が持てるかも。ただ、若いころに読めばむしろ他の「ネズミ焼きの贈り物」や「ユーレイ」あたりのほうが、良いと思えるのだろうなと感じてしまう。


テロリストのパラソル   7点

1995年09月 講談社 単行本
1998年07月 講談社 講談社文庫
2007年05月 角川書店 角川文庫

<内容>
 アル中のバーテンダー島村はいつもの日課として、新宿中央公園の芝生に横たわりながらウイスキーを口にしていた。すると突如、公園内に爆音が響き渡る。その場から無事に逃げ出した島村であるが、その事件は死傷者50名を超える大惨事となった。島村は死者のなかに何人かの知り合いの名前を見つける。彼は20年以上前に学生運動をやっていたおりに、ある爆破事件に関わったことがあったのだ。今回の事件は過去の事件と関係があるのか?

<感想>
 乱歩賞を受賞し、単行本化されたときに読んでいたので再読となるのだが、読んでからしばらくたつので新鮮な気持ちで読む事ができた。江戸川乱歩賞と直木賞をダブル受賞した作品であるから、よい作品であることは間違いのないのだが、再読してみて確かにこれはすごい小説であると改めて感じさせられた。

 この作品の主人公は過去にとある事件を起こして身元を隠したまま生き続け、現在はアル中のバーテンダーとして過ごしている。こういった人物造形にしても、他に出てくる登場人物にしても、それほど際立っていると思えなかったのだが、読んでいくうちにぐいぐいと惹き付けられるものがあり、そこがまた不思議に思えた。プロットなども良くできているとはいえ、何が他の作品と異なって、ここまでリーダビリティがあるのかと疑問に思いつつも、最後まで一気に読まされた。

 プロットは複雑ながらも、最初から最後まで読者の興味を惹きつつ物語が展開されてゆく。公園の爆破事件に始まり、掘り起こされる過去に起きた爆弾事件、暴力団の介入、麻薬の密売、爆破事件による過去の知人の死。こういったさまざまな要素が公園での爆破事件をきっかけに浮かび上がってくることとなる。一見、それぞれの事件が何も関係なさそうに見えながらも、最終的には始まりは全てひとつのところから発生したものであったという力技を見せ付けられる。

 人間の感情的な面から見ると、少々難癖をつけたくなる部分もなくはないのだが、大筋で非常にうまくまとめられているといえるだろう。主人公を含めて、脇を固める登場人物たちもそれほど個性が強くないとはいえ、そのバランスがうまく作品にマッチしていて、全体的に筋をうまく生かす設定になっていると感じられた。

 ようするに、乱歩賞と直木賞をとるに値する作品であったということをまざまざと見せ付けられた気がする。再読するにふさわしい作品であり、これからも何度か読むことになるオールタイムの小説であると言い切ってよいであろう。


ひまわりの祝祭   5点

1997年06月 講談社 単行本
2000年06月 講談社 講談社文庫
2009年09月 角川書店 角川文庫

<内容>
 かつて美術関係の仕事に勤めていた秋山であったが、妻の自殺をきっかけに仕事から手を引き、自宅に引きこもるという生活を続けていた。そんな秋山の元にかつての職場の上司が訪ねてきたことにより、隠遁生活は一変することとなる。幻の絵画の行方と、妻の自殺の真相を見出すために、秋山は行動を起こさざるを得なくなるのであったが・・・・・・

<感想>
 感想を書いていなかった作品の再読。初読時もあまり良い印象を抱いていなかった作品であるが、あらためて読んでみるとそのあまりの酷さに驚かされる。特に「テロリストのパラソル」で賞を受賞した後の作品であるゆえに、期待して読んだものがこれであったというところもなおさらであろう。

 何が酷いかと言えば、主人公の人物設定。広告会社に勤めていたが、妻の自殺を機に引きこもり、数年の間無職。現在は家でビデオを見て暮らす毎日で、甘いものばかり食べていて虫歯に悩まされる。かつては美術に関する賞を受賞したこともあるという才能の持ち主で、賭け事に強く、ライフルの扱いに精通しているというわけのわからない背景。そんな引きこもりを続けていた人物が事件に見舞われるや否や、いやいやながらも様々な人々と相対し、洞察力を見せつけ、さらにはアクションシーンまでもをこなしてしまう。なんとも、漫画でもこんな無茶苦茶な設定はないのではなかろうかというほどのもの。

 そして、本書のメインたる部分はゴッホの幻のひまわりを探し出すというところ。ただ、そのメインたる部分について書かれている分量は少なく、中盤以降になってからグダグダな感じで話しが流れてゆくという感じのみ。

 全体的に、なんとなく小説やドラマとして受けそうな場面を切り貼りして作り上げた作品という感じ。リアリティもなく、伏線というほどのものもなく、最後の最後で大味に締めたという感じの小説。主人公の人物造形を最初からスーパーマン的に描いていれば、もう少し読める作品であったかもしれない。ただただ、変な作品とう印象のみが残る。


雪が降る   6点

1998年06月 講談社 単行本
2001年06月 講談社 講談社文庫

<内容>
 「台 風」 1997年10月号 小説現代
 「雪が降る」 1998年3月号 小説現代
 「銀の塩」 1995年10月号 小説現代
 「トマト」 1996年5月号 小説現代
 「紅の樹」 1998年1月号 小説現代
 「ダリアの夏」 1996年春第215号 別冊文藝春秋

<感想>
 悪く言えば、ありきたりなのであろうが、それでもリーダビリティがあり、読者を惹きつける短編集となっている。それにしてもちょっとひねくれた中年を書くのがうまい。短編にしておくのが惜しいくらいのできだとは思う。

 文庫でこの作品を読んだのだが、調度この作品の後の「てのひらの闇」はこの短編集の中の「雪が降る」と「紅の樹」を元にして書かれたのかなと思える。他の短編もそれぞれ魅力的なのでこれからの長編のネタにでもしてもらいどんどん作品を書いてもらいたいものだ。


てのひらの闇   6点

1999年01月号〜07月号 オール讀物 (ホワイトノイズ 改題)
1999年10月 文藝春秋 単行本
2002年11月 文藝春秋 文春文庫

<内容>
 飲料会社宣伝部課長の堀江は会社の経営不振によるリストラにあい、近々会社を辞めることとなった。そんな折、堀江は会長の石崎から直々に仕事を頼まれることとなる。それは、会長が偶然に撮ったという人命救助の場面が写ったビデオテープを会社の広告に用いてほしいというもの。堀江はそのビデオテープを念入りに確かめた末に、会長にある指摘をし、仕事を断った。その翌日、堀江は会長が自殺したことを知らされることに。堀江がこの会社に入ったのは、20年前のとある出来事により、会長直々に会社に雇われていたのだった。その時のことを思い出し、堀江は事態の真相を知ろうと部下やバーの姉弟を巻き込み事件の裏に潜むものを調べ始め・・・・・・

<感想>
 藤原伊織氏の感想を書いていなかった作品を再読。かつては単行本で購入して読んでいたのだが、今回は文庫版を入手して読んでみた。

 まぁ、面白い事には面白いのだが、どこかバランスを欠いているような。というのは、ちょうどこの間、同じ著者の「ひまわりの祝祭」を再読したばかりなのだが、それと同様に主人公の設定を盛り込みすぎだと思わずにはいられなかった。本書は、ある種の企業小説のようなものであるから、その範疇で作品を書けばよいのではないかと思われる。そこに、主人公が実はヤクザの息子で、剣術を得意とし、相手をバッタバッタとなぎ倒す・・・・・・というような設定はいらないのではないかと感じてしまうのである。

 せっかく企業を舞台とした作品ゆえに、企業小説の範疇で一介のサラリーマンが調査してゆく物語として描けば良さそうな作品と思われたので、妙なアクションはいらなかったのではなかろうか。それとも、こういった主人公をスーパーマンに仕立て上げることこそが、当時の流行であったのかなと考えてしまう。あと、さらに付け足せば、主人公が40度の熱をかかえて・・・・・・という設定も邪魔でしかなかったような。

 一本のビデオテープから始まった物語から、企業の裏側や、そこでやり取りを行った人々の闇を描き出すという内容は面白く読むことができた。個人個人の思惑のみならず、そういった個人の思いから揺さぶられることとなる企業の行く末を描くという内容についても良かった。それだけに、もう少し普通の主人公が活躍する小説として描き上げてくれればなと感じられた作品。


蚊トンボ白鬚の冒険   6点

2000年9月2日号〜2001年11月24日号 週刊現代
2002年04月 講談社 単行本

<内容>
 ランナーの道を断念して以来の全力疾走をした日、若い水道職人・達夫は、羽音と不思議な声を聞く。奇妙な能力を持った蚊トンボ<白鬚>が頭に侵入してきたのだった。達夫はシラヒゲの力で、オヤジ狩りに遭っていたアパートの隣人・黒木を救う。黒木は、株取引で巨額の損失を暴力団に与え、血眼で行方を追われる身だった。彼らは、黒木の居場所を達夫に吐かせるため、恋人・真紀をターゲットにしたが、凶悪な気を放つ赤目の男の介入に、達夫は闇社会に真っ向から挑む道を選んだ。

<感想>
 以前、マンガで「寄生虫」という作品があったが、それを連想するかのような設定の作品。頭の中に語りかけてくる“蚊トンボ・白鬚”、そしてその白鬚によってもたらされる瞬発の超人的力。それらの力を持った途端、水道職人の青年がやっかいごとに次々と巻き込まれていくというもの。

 物語は面白く、また株等の難しい世界をわかり易く示しており、とても読みやすい。ただ、読みやすく面白いながらも、どこか物語りに引いてしまうものがある。というのは、あまりにも話が都合よすぎるのである。別にリアリティなどを求めているわけではないのだが、これまでの青年の生活を無視するようにこの冒険のみのために集められた世界というのはどうも違和感がある。また、逆にいえば力が無ければ言いたい事もいえないし、自由に生きることもできないのではと、主人公が“白鬚”の力を借りて危機を脱するさいに感じてしまうのだ。力を持ったからこそ、主張することができるかのような生き様というようなものに、逆に反感を持たざる得ないのだ。

 というようには感じたものの、この物語を読む際はあまりめんどくさいことは考えずに素直に読むべきなのかもしれない。タイトルに“冒険”と銘うってあるように、あくまでのその一瞬における冒険のみと捕らえて素直に青年と蚊トンボの奇妙な交流を楽しむべきなのであろう。


シリウスの道   7点

2005年06月 文藝春秋 単行本

<内容>
 大手広告代理店の営業副部長の職に付く辰村祐介。彼が勤める部署では、唐突にも大手スポンサーによる大きな仕事が提示され、プレゼンテーションの企画をたてる事に追われていた。そんな折、辰村はスポンサー企業の中にとある苗字を見つけてしまう。それは、25年前に彼が大阪に住んでいた頃の二人の幼馴染を思い起こさせるものであった。昔、幼き日の辰村たちはある事件を引き起こそうとしていたのだったが・・・・・・

<感想>
 広告業界を背景に展開される企業ミステリーとでもいえばよいだろうか。

 基本的には広告業界の仕事の話によって展開されてゆく内容となっている。ゆえに企業小説と表現してもよいかもしれない。その広告業界の仕事をしていく中で、主人公が本人には直接は関係のない脅迫事件へと関わることになっていくというもの。物語の途中から、この脅迫事件が挿入されることにより、本書のミステリー性が高まってくる。ただ、その脅迫事件の件も物語全体から見れば、あくまでも“挿入”というくらいのレベルでしかなかったように思われる。この辺は、もう少し事件よりに展開してもよかったのではないかと思うのだが、本書ではあくまでも“広告業界での仕事”というスタンスを崩さずに話が進められていくものとなっていた。

 というようにミステリーとしての不満が若干あるものの、それくらいでは本書の面白さは損なわれることは一切なかった。企業小説とはいっても、他社との仕事の競合や社内での社員同士の確執などと波乱万丈に描かれていて、読むものを飽きさせない構成となっている。

 広告会社の主人公ってみんな同じような描かれ方をしているなとも思いつつも、逆にそれが安定感につながったのかもしれないとも考えられる。いかにもというような主人公が筋を通しながら仕事をこなしていく様は、企業内ハードボイルドとでも呼びたくなってしまう。

 秋の夜長にはぴったりの大人の小説。これはお薦めの本。


ダナエ   5点

2007年01月 文藝春秋 単行本

<内容>
 「ダナエ」
 「まぼろしの虹」
 「水 母」

<感想>
「ダナエ」
 主人公である画家の個展が開かれるなか、何者かが肖像画に硫酸をかけて台無しにした。それを行ったのは、どうやら高校生くらいの少女らしいと・・・・・・
 と、画家の絵が破損されるところから物語りは始まるものの、なんとなく全体的にバランスが悪く感じられた作品。物語自体は綺麗にまとまっており、別にバランスが悪いというわけではないのだが、どうも主人公の感情の面でのバランスの悪さが感じられた。
 主人公は一見、冷徹のようだが内に秘めた情熱がある、というように描かれていたと思われる。しかし、そこまで冷徹であるならば、事件自体に関わらないだろうし、また、少なからず情熱を持っているのであれば、もう少し取り乱すようなしぐさがあってもよかったのではないかと感じられた。変にクールにし過ぎていたように思われる。


「まぼろしの虹」
 血のつながらない姉弟の両親が熟年離婚の危機におちいるという話。そこにもう一組の親子の存在が浮き彫りになってくる。
 日常の生活に、波乱が舞い起こり、さらには非日常ともいえる出来事までが入り込んでくる・・・・・・と、そのわりにはなぜか終始、ほのぼのとした作品になっている。


「水 母」
 老練な広告デザイナーが、かつて付き合っていた部下の危機を聞きつけ、とある行動にうつるというもの。
 普通に業界小説としても楽しむことができ、ミステリー作品としてもほどほどに楽しむことができる。また、「まぼろしの虹」に若干リンクしているところも面白い。
 ただ、わがままを言わせてもらえば、「まぼろしの虹」や「水母」のような作品を4編か5編くらい書いて、それぞれが少しずつリンクしているような話を書いてくれればもっと楽しめたと思える。やはり、このくらいのボリュームでは食い足りないと感じられてしまう。


遊 戯   

2007年07月 講談社 単行本

<内容>
 著者が闘病中書き続けながらも未完に終わった「遊戯」から始まる連作短編に中編「オルゴール」を加えた作品集。

<感想>
「遊戯」から始まる短編はネット上で知り合った、人材派遣会社で働く男とモデルタレントを目指す女との邂逅を描いた作品。短編によって男と女の視点が切り替わり、男の秘密に覆われた生活と、女の周囲の環境が変わっていく様子が交互に描かれていく。その二人に初老のストーカーがつきまとい始める事によって、暗雲がたちこめることとなるのだが・・・・・・

 と、順風満帆に成功しつつあるモデルタレントの女性にストーカーの影がちらつき始めたところで、藤原伊織氏が亡くなってしまったことにより、物語は未完のまま終わってしまっている。これについては藤原氏が亡くなったのを惜しむ気持ちだけではなく、純粋にこの作品の続きが読めなくなってしまったということも惜しみたい。特に途中から出てきたストーカーの真意というものが全く見えないまま物語が流れていたので、彼が何を目的としていたのかが非常に気になるところである。さらには、二人の男女の行く末も気になるところ。

 ということで、本書は藤原氏の遺稿ともいえる作品なのだが、かなり面白いところで終わってしまっているので、特に藤原氏のファンだというのでなければお薦めできない作品である。なにしろ、途中まで読んでしまったら続きが気になってしょうがないという魅力的な作品であるのだから。


 そして本書には中編「オルゴール」という作品も掲載されている。これは企業の運営に失敗した男が亡き妻の思い出をしのぶという話。なんとなく読んでいて白川道氏あたりが書きそうな作品だなという風に思った。

 今はただ、この作品のみの内容をどうのこうのというよりも、こういった藤原氏の良作をもっとたくさん読みたかったなという思いでいっぱいである。享年59歳というのは本当に早すぎる。


名残り火  てのひらの闇U      6点

2007年09月 文藝春秋 単行本

<内容>
 かつての同僚である柿島が暴行にあった末、病院で死亡した。無差別の集団暴行か、はたまた、おやじ狩りにあったかのような状況であったが、堀江はそこに何か計画的なものを感じ取っていた。堀江はかつての仕事仲間の手を借りつつ、警察の制止を無視し、捜査を進めて行くのであったが・・・・・・

<感想>
 本書は「てのひらの闇」という作品のその後を描いたものである。とはいえ、前作とは全く別の事件が起きているので続けて読む必要はないのだが、「てのひらの闇」は既に文庫になっているので未読であれば続けて読むのも悪くないと思われる。

 この作品を読んで感じたのは、妙なアンバランス加減。作品に登場する人物達は、知的でそれなりの地位を築いたいかにも“仕事の出来る”という人物ばかりで、会話についても専門的な内容が多く、どこか鼻に付くような印象が強かった。

 主人公である堀江自身もどちらかといえば、そういった知識人側の方に属する人物のはずなのだが、事件の捜査の仕方についてはそういうインテリめいた立ち位置から大いに逸脱するのである。

 この主人公である堀江のアンバランスな立ち位置こそが本書の象徴ともいえるであろう。アンバランスというよりは、どこかバランスを欠いたというほうが合っているかもしれない。この作品で起こる事件自体も一般サラリーマンの世界を揺るがすようなバランスを欠いた無法の暴力によるものである。その事件を堀江は元サラリーマンとしての知識を有効に活用しつつ、暴力という手段までもを用いて、事件の真相へと迫ってゆく。

 そうして真相が見えてきた末にたどり着いたものというのが・・・・・・また、ここでも“いびつ”としか表現できないようなラストが待っている。さらに付け加えておけば、こういったやるせない雰囲気の中で事件が収束したわりには、やけに平和な終わり方というものも、また奇妙に感じられた。

 と、そんなこんなで内容全体については微妙ながらも、やけにインパクトだけが強いと感じられた作品であった。




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