<内容>
全寮制の名門女学院に入学し、期待に胸を躍らせる坂本優子。美貌の生徒会長・朝倉麻里亜を中心とした学校生活に優子が慣れ始めたころ、学校内の不穏な噂を耳にする。昨年、優子と似たような女子が飛び降り自殺をしたと・・・・・・。さらには、朝倉麻里亜が大量出血しをした状態で死亡しているのが発見される事件が起きる!
単独で探偵活動をする“黒猫”こと、鈴堂美音子のもとに依頼がくる。それは、朝倉麻里亜の父親から、娘の死の真相を探ってもらいたいというものであった。しかも麻里亜の姉までもが不審な死を遂げていたと・・・・・・
<感想>
久々の再読。第4回メフィスト賞受賞作って、1998年に出版されたのか。もう20年前となるんだな、感慨に浸りながら読んでみた。
舞台は全寮制の女子高。このような舞台を題材にした本格ミステリって、昔はいくつか見られたような気はするのだが、近年はあまり目にしないような。そのへんも時代の流れなのかな?
物語は全寮制の女子高で起きた過去の事件と、さらに現在進行中の事件を学校の外から“黒猫”と呼ばれる女探偵が捜査するというもの。女子高のなかでは単なる“いじめ”にとどまらないような不可解な事件が起きており、しかも“ジャック”という謎の言葉が蔓延している。さらには、女子高の外でもそれに関連した事件が起きており、どうやらとある産婦人科に事件の鍵が隠されているという事を探偵が突き止める。
というような形で事件は進行していくものの、この作品、普通の推理小説として考えて話を追っていくと、真相であっけにとられるような展開が待ち受けることとなる。今であればSFミステリも珍しくないゆえに、普通に受け入れられるかもしれないが、この作品の発売当時であれば、微妙な受け止められ方をしたのではなかろうか。ただ、真相を知ったうえで作品を読み返すと、伏線というわけではなくとも、きちんと細かい説明がなされたうえでの作品だということに気付かされる。
ガチガチの新本格ミステリを期待する人にとっては肩透かしを食らうかもしれないが、そうでなければそれなりに楽しめるミステリ作品に仕上げられているのではなかろうか。著者のデビュー作のわりには、その読みやすさに感心させられる作品でもある。
<内容>
ミステリ愛好家が集まるグループのなかの中心的人物である伍黄(ごおう)が、奇妙な言葉を残し、密室のなかから突如消え失せ失踪した。その後、メンバーの一人が書いている小説の通りに連続殺人事件が起こることに。しかも、それらはすべて密室のなかで起きており・・・・・・
<感想>
発売当時、講談社ノベルスで購入して読んで、それ以来の再読。何故か全くと言っていいほど、その内容を覚えていなかったのだが、その理由も再読してみて納得。
この作品、もちろんタイトルからして竹本健治氏の「匣の中の失楽」を意識しものであり、登場人物もミステリーサークルに所属する10人を中心にまわっていくという内容。この辺はいかにも新本格ミステリらしい設定ではあるのだが、肝心の中身がそれに伴っていないという感触。最初の事件は、はっきりとしない失踪事件ゆえにか、登場人物らによる推理や語りもあまりパッとしない。中盤以降からは密室殺人事件が矢継ぎ早に起こるものの、それでもあまり本格ミステリらしさを感じることはできなかった。
というのも本書は、やたらと事件に直接関係ないような数々の薀蓄が長々と語られる場面が多数を占め、肝心の事件に対するアプローチがいまいちなされていないと感じられるのである。それぞれの密室に対しても、一応は解答らしきものは語られててはいるものの、さほど強調されていないので、それが真の解決なのかどうかがわからないまま話が先へと流れて行ってしまっている。
そんな形でミステリらしい形態はとられているものの、実際にはいまいちミステリしきっていない作品という印象が強く残る。言葉遊びとか、占星術のようなもの、または物理学とかそういったものに傾倒して、最後の最後でちょっとSFっぽくなっているという作品。他では見られない変わった作品であり、普通のミステリを読みたいという人にはお勧めできないが、変わった物語を読みたいという人にはもってこいの作品であるかもしれない。
<内容>
辰巳まるみの書いた小説「機械の森」がゲーム化されることとなり、その開発スタッフのなかに辰巳自身も加わることとなった。そのゲーム制作もひと段落し、スタッフ一同で湖畔の洋館で休暇をとることとなった。スタッフのひとりであるゲームデザインを担当する十河香織は、ゲームを製作する会社社長の令嬢で、彼女の誘いにより、その洋館ですごすこととなった。しかし、その休暇のなかで香織が洋館の塔から落ちて死亡しているのが発見される。香織の親である会社社長から、辰巳とゲーム制作のリーダーであった天童に事件の真相を調べてもらいたいとの依頼が・・・・・・
<感想>
感想を書いていなかった作品の再読。乾くるみ氏の3作品目。
“閉ざされた山荘”での事件、というような閉鎖的なものではないのだが、なんとなくそれに近い雰囲気を持ったミステリ作品。社長令嬢が別荘にある塔の最上階から落ちた事件を調査するという内容。本書のエピローグに事件性を匂わす場面が描かれており、犯人は当時別荘にいた何者かであると予想させられる。
本書の特徴は、物語が時系列順になっておらず、タイトルの“断章”が示す通り、事件前、事件が起きた時の様子、そして事件後の話がバラバラにつなぎ合わされている。ただ、読んでいてそれにより混乱を生じるようなことはなく、普通の作品と同様に読むことができた。
この作品のミステリ的なヤマは、序章に描かれた場面に物語がどうつながるか、その一点といってもよいほど。ゆえに、論理的な本格ミステリというわけではなく、ちょっとしたサプライズが隠されているサスペンス小説というような作品。意外な落とし穴に落とされるような快感を味わえる内容。
<内容>
とにかく私は驚いた。ある晩、目覚めたら勝手に動いている自分の体。意識はハッキリしているのに声は誰にも通じない・・・・・・まさか私、何かに乗っ取られちゃったの!? 誰の仕業かと思っていたら、なんと操り主はあこがれの森川先輩らしい。でも森川先輩って、殺されちゃったらしくって・・・・・それっていったい???
<感想>
「塔の断章」で度肝を抜く推理小説を書いた後、沈黙が続いた著者であったが、突然徳間デュアル文庫での復活を遂げた。
本書を読んでいる最中に思ったことは、西澤保彦氏の作品を意識したようでもあり、有栖川有栖氏の「幽霊刑事」を異なる視点から見たかのような作品に感じなかなか面白いのでは!? と。これならば、別に前三作品と同じように講談社ノベルスから出版しても・・・・・・と思いきや。最後まで読んでいくと、うーーん、そうきたか。なるほど、解説を読めばSFを意識して書いた作品であるそうだ。とにもかくにもあいかわらず、こちらの予想を軽々と反してくれる作家である。良い意味、悪い意味で。
それにしても、内容の文章書いてて自分で気持ち悪くなってしまった・・・・・・
<内容>
「いちばん奥の個室」 (「ジャーロ」:2002年春号)
「ひいらぎ駅の怪事件」 (「ジャーロ」:2002年夏号)
「陽炎のように」 (「ジャーロ」:2002年秋号)
「過去から来た暗号」 (書き下ろし)
「雪とボウガンのパズル」 (「ジャーロ」:2003年冬号)
<感想>
ライト系のミステリー短編集となっている。それぞれの作品はそれなりによくできていて楽しく読めはするものの、全体的に見てみると印象が薄く感じられてしまう。それというのも、どの短編もなんとなくどこかで読んだことのあるようなものばかりに感じられてしまうからであろう。また探偵たる主人公のキャラクター性も非常に薄いものである。
「いちばん奥の個室」
コンサート会場のトイレで起きた殺人事件。事件の不可能性うんぬんよりも、このトリックというかネタは今さらのように感じてしまうのだが
「ひいらぎ駅の怪事件」
強引というようにも感じられるが逆によく考えたといえなくもない。奇想天外なドミノ倒しというところか。それでも最後のネタはやりすぎのような・・・・・・
「陽炎のように」
これはメインの事件よりも幽霊に関する謎のほうが面白かった。日常における、ちっとした出来事がうまくミステリーに転換されている。
「過去から来た暗号」
これは日本語版“踊る人形”という作品。暗号をあれこれひねって解読するというのは面白い作業かもしれない。暇なときに自分でやってみるのもいいかも。
「雪とボウガンのパズル」
この作品が一番本格ミステリーらしい短編となっている。雪の上の足跡なき殺人事件。偶然的な部分には首をひねってしまうものの、思わず納得してしまうトリックである。こんな事件が実際にあってもおかしくないかもしれない。
<内容>
A面
大学生の鈴木は気乗りしないまま合コンに参加したときにマユミという女性と出会った。それをきっかけに二人はつきあいはじめるようになり、少しずつ二人の間の距離が近づいてゆくことに・・・・・・
B面
鈴木は地元の企業に就職したものの、東京勤務を命じられてしまう。マユミとは長距離恋愛になってしまい・・・・・・
<感想>
物語は大きく二つに分かれており、A面とB面という形で区切られている。A面では鈴木という冴えない男性に恋人ができ、その仲が徐々に進んでいくということが語られている。そしてB面にて急展開になるかと思いきや、そうではなく、物語はそのまま続けられる。推理小説を読みなれている人であれば、B面の途中にて「おやっ」と何かに気づくのではないかと思う。そして最後のページにおいて、ある事実が告げられたとき物語の真実が見えてくるというものになっている。
この本ではとりあえず、最後まで読み終えたら、そのまま最初に戻りA面のパートを読んでもらいたい。そうすれば多くの意外性を発見することができるはず。本書はたぶん表面的に見えることだけではなく、掘り下げれば掘り下げるほど発見すること考えられることを多々見つけられる本であると思える。ぜひとも自分ならではという意見を発見してもらえたらという本である。
ネタバレ反転↓↓↓↓↓↓
指輪の事を頭に置き、B面を読んだ後にA面をじっくりと読むとその移り変わりの様相がうまく練られていることがわかる。
マユミに貸した本でさえも、一種の伏線となっているのには感心した。
何で“夕樹”という名前に対し“タッくん”という無理やりなあだ名を付けたのかということがわかったとき、そこにあざとさを感じてしまった。そこが一番強烈な印象。
逆に読み取れなかったところは、A面でマユミはなぜ鈴木が車の免許を取ることにこだわったのかというところ。これはただ単にマユミが“男は車くらいもっていなければ”という考えを持っているというだけなのだろうか?
ひょっとしたら、実はマユミにはB面以前にも彼氏がいて、さらにはA面の鈴木とも今後の長距離恋愛を経たうえで別れて違う男に乗り換えるという事を前提としているのではないだろうか。全てはマユミの“イニシエーション・ラブ”の繰り返しに過ぎないと考えてしまうのは穿ちすぎであろうか。
<内容>
大学生の毛利の元に奇妙な電話がかかってきた。その電話の男は一時間後に起こる地震を予知し、的中させたのだ。男の話では、彼は10ヶ月前の世界に戻ることができる“リピーター”であるというのだ。よって、この10ヶ月以内のことはあらかじめ知っているのだという。男は毛利に10ヶ月後の世界へ戻ってみないかと持ちかける。そして、男と毛利と他に選ばれたメンバーとで10ヵ月後の世界へと戻るという事を試してみるのであったが・・・・・・
<感想>
これはもう設定勝ちというしかない。興味深い設定を創り、見事その世界の中でミステリーを展開させている。これはもはやあっぱれというしかない。
本書は全体的に見ると、サスペンス小説というような内容かと思うのだが、そこにミッシングリンクなどを交える事によりミステリーとしての展開もなされているという、なかな凝った内容の物語となっている。なんといっても本書の目玉はタイトルのとおり、“リピート”というものにあるのだが、それが何をもたらすのか? そして主人公らが“リピート”するという行為が何を意味しているのか? ということなど、さまざまな疑問が読んでいるうちに浮かび上がる。そしてそこには、とある強烈な結末が仕組まれているのである。
結末に関しては、これはいろいろな手法があるだろうと思われ、このような終わり方をしなくてもとか、いろいろな意見があげられるのではないかと思う。しかし、それは魅力的な設定ゆえに巻き起こる結果だと思われ、もはやこうした物語を構築したという事だけでも賞賛に値するであろう。
それにしても「イニシェーション・ラブ」といい、本書といい、いつの間にこんな安定感のある文章をこの作家は書くようになったのだろうと唸らずにはいられない。本書はそこそこの厚さがあるにもかかわらず、一気に読み通すことができた。これを読んだら乾氏は来年以降にはさらなる飛躍を遂げるのではないかと期待せずにはいられなくなってしまった。
<内容>
「マリオネット症候群」 (2001年10月 徳間デュアル文庫にて出版)
「クラリネット症候群」 (書下ろし)
<感想>
以前、出版された「マリオネット症候群」に書下ろしの「クラリネット症候群」を含む中編作品集。ただ、はっきりいって「マリオネット症候群」を持っている人にとっては、あまりお買い得ではない。
どちらも本格ミステリというわけではないので、それを期待しての購入はひかえたほうがよいかもしれない。特に「マリオネット症候群」はむしろSFといったほうがよいような設定であり、死亡した少年が女子高生の体をのっとってしまったという話。しかもそこからさらに奇想天外な展開が待ち受けている。
再読のせいか、最初に読んだときに比べると、あまり腹は立たなかったというか、慣れたというか。まぁ、ここまでやってくれれば、むしろ可笑しさのほうが先行するのだろうが。
書き下ろしの「クラリネット症候群」は暗号ミステリといってもよいのかもしれない。ただ、本書が“症候群”たる、“ドレミファソラシド”の音を認識することができなくなったという設定に関しては、ただ読みづらいというだけ。しかも、その設定を生かすような事象といえば、猥談と勘違いしたというだけにとどまっているだけだし・・・・・・
確かに「クラリネット」のほうがミステリとしては読めるものの、それにしてはミステリとしての密度は薄いといえる。物語にしろ、ネタにしろ、ちょっと物足りなさを感じてしまう。
<内容>
資産家の三男坊である古谷と元新聞記者である井上が二人で開設した“カラット探偵事務所”。その探偵事務所に持ち込まれた難問に二人が挑む。
「卵消失事件」
「三本の矢」
「兎の暗号」
「別荘写真事件」
「怪文書事件」
「三つの時計」
<感想>
どれもそれなりに楽しむ事のできる短編に仕上げられている。本書は特に日常の謎というものを扱っているというわけではないのだが、陰惨な殺人事件などは出てこないせいか、なんとなくほのぼのと読む事ができる。
一番面白かったのは「卵消失事件」。これはとある家庭で奇妙な出来事が次々に起こるのだが、何故それらが起きたのかがわかったとき、真相の奇抜さに驚かされた・・・・・・というか思わず笑ってしまうような内容。とはいえ、こういったネタをよく考えるなとつくづく感心。
「卵消失事件」はメールを使った内容であるが、他にも「兎の暗号」では和歌に秘められた謎を解き、「別荘写真事件」では一枚の写真から秘密を暴き、「怪文書事件」ではマンションに配布された怪文書から事件の真相を解いて行く。こういった一連の流れは本短編集の特長とも言えよう。
また、最後に「三つの時計」で連作短編集のようなまとめ方もしているのだが・・・・・・これは特に伏線を張っていないような気がしたのだが・・・・・・まぁ、これはこれでよしとしよう。
これといって強烈な作品集というわけではないのだが、次作が出れば読んでみたいと思えるシリーズである。
<内容>
「六つの玉」
「五つのプレゼント」
「四枚のカード」
「三通の手紙」
「二枚舌の掛軸」
「一巻の終わり」
<感想>
乾氏の新作は林茶父(はやし さぶ)というチャップリン風の元奇術師が探偵役となって謎を解く作品集。
ミステリ作品として、全体的にうまく出来ていると思われる。ただ、どれも何となく平凡という感じが否めなく、やや地味目のミステリ作品というように思われた。
そうしたなかで一番よいと思われたのは「二枚舌の掛軸」。これは何故犯人が2枚の絵が付いた掛軸を、犯行後に入れ替えたのかという問題を論理的に解き明かす作品。この作品の論理には素直に感心させられた。
また、バカミスっぽいものの面白かったのが「一巻の終わり」。短い作品ながら、私が感じた疑問をそのまま容疑者が探偵役にぶつけており、それが見事に解き明かされるというもの。脱力系のようでありながら、“うまい”とも感じられる。
あと本書を読んでいて納得しがたかった点を一点。それは、ここでの作品はどれも殺人事件を扱っているのだが、あまりにも簡単に人を殺しすぎではないかということ。それぞれの短編のなかの謎の着眼点はよいと思えたのだが、それらの事件が何故殺人までに発展するのかということが理解しがたかった。特に、このような作風であればむやみに殺人事件までにしなくてもよいと思われたのだが。
<内容>
官庁勤めを辞めて、林雅賀はミステリ専門の古本屋を始めた。その書店の名前は蒼林堂。日曜日になるとミステリ談義とコーヒーを求めて、もはや常連となった林の同級生である大村と高校生の柴田が店にやって来る。また、最近はそのメンバーに小学校教師の茅原しのぶが加わることに。彼らは蒼林堂でささやかなミステリ談義を楽しんでゆく。
<感想>
ミステリ本の紹介とリンクした日常系ミステリ短編集。ハートウォームな感覚でミステリ談義が楽しめる作品。
日常系ミステリということで、ミステリ作品としてはかなり軽め。よって、一見ミステリ初心者向けのようであるのだが、さまざまなミステリ書籍の紹介もしているので意外とコアなミステリファンでも楽しむことができそう。マニアックな作品は少ないものの、これを読むと既読の作品でも手にとってしまいたくなる。特に私の場合は、家に積読にしている作品が紹介されていたりして、これは読まねばと思ってしまうところが辛かったりもする(ただし、思うだけで終わってしまうのだが)。
単純にミステリ短編集のようでありながら、最後には一冊の本として話をまとめているので、うまくできている作品とも言えよう。忙しいときでも手軽に読めるミステリ作品としてはもってこい。
<内容>
「科学のちから」というTV番組で人気となった中学生レポーターの羽鳥亜里沙。彼女はそのレポーターの仕事で<未来科学研究所>を訪れる。その施設では冷凍睡眠装置の研究をしていて、実はすでに実用化に耐えうるものが完成しているというのである。その施設内で亜里沙は後に大きな問題を引き起こすこととなる出来事に遭遇し・・・・・・
<感想>
内容がやや暗い「夏への扉」と言ってもよいかもしれない。冷凍睡眠装置をSF的に用いた作品であるのだが、それをどのように活用しているのかは是非とも読んで確かめてもらいたい。
内容はともかくとして、本書で一番気になったのは展開について。序盤はあまりにも説明的な文章が多すぎるように思えた。中盤以降はそれなりに読みやすいとも思えたものの、やや物語性が欠けていたとも感じられた。もう少し全体的に読ませる物語として作り上げてもらいたかった。
後半に、話を一変させるような挿話が盛り込まれていて、なんとなく嫌な予感がしたものの、ラストではうまい具合にミステリ作品として帰結していて、ほっとするとともに感心させられた。とはいえ、その最後についても見せ場としては淡泊だったように思われる。アイディアとしては悪くないので、もうちょっとうまい具合に書いてくれれば話をもっと盛り上げることができたように思えたので、やや残念。
とはいえ、SF系ミステリ小説としてはそれなりに良くできている作品。途中でリタイヤせずに、最後まで読みとおしてもらえれば驚愕の真相へとたどり着けることとなる。
<内容>
木工所で働く里谷正明は先輩に連れられてスキーへと行くことに。そこで先輩の彼女が連れてきた女性、内田春香と出会う。正明と春香は意気投合し、やがて恋人同士となる。そうしてある日、正明はふとしたことから入ったパブで春香とそっくりな女性・美奈子と出会う。美奈子が言うには、春香とは生き別れになった双子だと・・・・・・
<感想>
帯に“「イニシエーション・ラブ」の衝撃、ふたたび”と書かれていたのだが、確かにそれに勝るとも劣らない衝撃を受ける作品であった。
とはいえ、やっかいなのは、その衝撃の内容を最後の最後まで味わうことができないということ。前作「スリープ」もそうであったのだが、ラストの衝撃を味わうために普通の地味な小説を延々と読んでいかなければならないというのが少々きつい。今作は、言ってみれば普通の青年が恋をして、二人の関係がだんだんと発展していくというラブ・ストーリー。しかも地味目。できれば、ここのところも何らかの工夫をこらしてリーダビリティを厚くしてもらいたかったところである。
とはいいつつも、ラストまで読めば、少々の不満が吹っ飛ぶくらいのインパクトがあるということは間違いない。まぁ、決して“陽”の作品ではないので、ぶっ飛ぶというよりも「えぇーっ!」という感じの恐ろしさを味わうことができるようなラストに仕上げられている。
物語全般のラブ・ストーリーの部分を楽しんで読むことができれば、文句なしの一冊と言えるのではないだろうか。それでもラブ・ストーリーに興味のないという人も、とりあえずラストまで読んで、著者がどのような仕掛けをしているのかを味わってもらいたい作品である。
<内容>
「嫉妬事件」
城林大学ミステリ研究会にて犯人当てのイベントが開催されるはずの当日。部員達が部室に入ると妙な臭いに気づく。あたりを見回すと、本棚の中の本の上に異様なものが置かれているのを発見する。その異様なものとは“うんこ”であった。誰がいったい何のために? 部員達は犯人当ての代わりに、“うんこ”の謎に取り組むこととなり・・・・・・
「三つの質疑」(ボーナストラック)
雪山の山荘で発見された惨殺死体。限られた容疑者のなかで真犯人をわりだすことはできるのか!? 読者への挑戦付き。
<感想>
竹本健治氏が「ウロボロスの基礎論」に書いた“京大ミステリ研BOXうんこ事件”。どうやら京大にこのような事件が実際にあったと伝わっているらしい。本書はそれに似たような事件を設定しており、その謎に迫るという内容。
雰囲気としては非常に楽しい。一つの謎をミステリ研に集まった面々が互いの推理を展開しながら謎に迫っていくというもの。新本格ミステリ世代にはたまらない内容である。しかも事件が“うんこ”遺棄事件ということで嫌でも盛り上がってしまう。
そして事件に対する真相であるが、これがまたトンデモナイものを持ってきており・・・・・・。やや脱力系ではあるものの、これはこれでよいのではないだろうか。最後の一文を目にした時、何とも言えない気持ちになってしまう。
そしてボーナストラックとして短めの犯人当て作品が付いている。こちらも脱力系ミステリなのだが、それなりに楽しむことができる。是非とも謎に挑戦してもらいたい。
あっさり目の作品であるのだが、これが文庫で読めるとなるとお買い得といってよいであろう。これは是非とも広くお薦めしたい・・・・・・広く薦めるにはややマニアックか。だから文庫書き下ろしなのかな?
<内容>
「小麦色の誘惑」
「昇降機の密室」
「車は急に・・・・・・」
「幻の深海生物」
「山師の風景画」
「一子相伝の味」
「つきまとう男」
<感想>
「カラット探偵事務所の事件簿@」として始まったからには、続編もあるんだろうなと思っていたものの、なかなか出ない。それが4年ぶりにようやく登場・・・・・・なのだが、何故か文庫による出版。前作はあまり売れなかったのかな・・・・・・。
謎解き専門の探偵事務所が挑む数々の事件。事件というには微妙なものもあるのだが、“日常の謎系”とはちょっと異なる事件を垣間見ることができる。
「小麦色の誘惑」は、知らない間に、日焼け跡に奇妙な模様が! という事件なのだが、解決にはやや脱力。
「昇降機の密室」は、終わってみれば、事件として依頼するのはおかしいのではという内容。
「車は急に・・・・・・」は、実際にこのような事件があったのではないかと思わせるもの。なかなか面白い。
「幻の深海生物」は、ちょっとしたクイズ+異様な行動力。
「山師の風景画」は、風景画から真相を読み取るというものなのだが、良い話というよりも、やや後味が悪い。
「一子相伝の味」これが一番面白かった。謎がちょっとした暗号になっていて、うまくできている。
「つきまとう男」は、ストーカー事件の裏に隠された謎にせまる。何気に井上調査員の逆襲!?
さらっと読めて、それなりに楽しめる。強烈な印象を持つものはないのだが、全体的にうまくできているとも感じられる。しかも文庫で読めるので、ますますお手軽。ちょっとした読書には持ってこいの一冊。
<内容>
「《せうえうか》の秘密」
「記録された殺人の予告」
「牛に願いを」
「贈る言葉」
<感想>
北乃杜高校にて起こる事件を仲のよい5人組が解き明かすという話。“探偵部”といっても実際にそのような部を組んでいるわけではなく、5人の仲間を総称した表し方である。
最初の「《せうえうか》の秘密」は、校歌(正確には校歌とは別の位置づけの歌)の歌詞が何年か前に変えられているという事実から、校歌に隠された暗号を解き明かすというもの。この作品は以前、別のアンソロジーにて既読。そのときは、さほど感銘を受けなかったものの、高校生による探偵部が活躍する事件簿のなかの一つとしては、なかなかうまくできていると感じさせられた。難易度の高い、グループ研究というようにもとらえられる。
「記録された殺人の予告」は、修学旅行中に学校のサイトに書かれた殺人予告を発見した主人公たちが、犯人を特定しようと奔走する。
「牛に願いを」は、文化祭で起きた騒動の一幕を描く。
「贈る言葉」は、卒業間近となった主人公たちが、悪質なチェーンメールの騒動を解決しようと試みる。
と、探偵部が活躍する作品が続くものの、ミステリとしての濃度がどんどんと薄くなってしまっている。あまりミステリらしくない最初の作品のほうが一番ミステリらしいといえるくらい。また、本作品のなかで、一番ページ数が多い「記録された殺人の予告」がいまいち盛り上がりに欠ける終わりかたをしているのも残念。
全体的に、高校生活を描いた青春小説としては十分描き切れていると思えるのだが、その分ミステリとしての内容が薄くなってしまったのが残念なところ。特に後半は、あっさり目のミステリになり過ぎていたような感じがしてならない。高校生としての学校生活の様子や主人公のさまざまな思いは、うまく表されていたと思えるので、もっとページ数を厚くして、“学園ミステリ”として書ききってもらいたかったところ。
<内容>
「ラッキーセブン」
「小諸−新鶴343キロの殺意」
「TLP49」
「一男去って・・・・・・」
「殺人テレパス七対子」
「木曜の女」
「ユニーク・ゲーム」
<感想>
7という数字に共通する内容が盛り込まれている7つの短編が集められた作品集。それぞれの作品に関連はないのだが、7という共通項を盛り込んだがゆえに、1冊の本として楽しむことができる。7という数字以外は、共通項がないどころか、ジャンルもバラバラ。SF、ミステリ、ホラーっぽいものから、ノンジャンルといえるものまで様々。次にどのような話が来るのかということですら楽しめる要素となっている。何気に本屋に並んでいて、危うく買い逃すところであったが、これは読み逃さなくてよかったと思えた作品。
学園SF&デスゲームという内容の「ラッキーセブン」。トランプを使った斬新なゲームに、とんでもない設定を盛り込んでいる。意外なことにラストが良い感じ。
見立て殺人を描いた「小諸−新鶴343キロの殺意」。刑事小説っぽい展開ながらも、ストレートには終わらせてくれないところが、この作品集らしさでもある。
「TLP49」は、西澤保彦氏の「七回死んだ男」を思わせるようなSF小説。ただし、ここでの設定はちょっと違うもの。都合良すぎる終わり方が意外とはまっているかも。
ホラー小説っぽい「一男去って・・・・・・」はショートショートといってよいくらいの分量。でも、じっくり書かれると後味の悪さがすごそうなので、このくらいの分量でちょうどよい。
「殺人テレパス七対子」は、まっとうなミステリ作品。とはいえ、トリック自体はさほどでもないので、この作品単体では弱いか。7組の双子がうまい具合に利用される不可能殺人。
「木曜の女」も一発ネタながらも面白い。ミステリネタとしてはよくある話だが、愛人を用いてこういうのを描くのはなかなか斬新。
最後の「ユニーク・ゲーム」は3人と4人という二組に分かれた捕虜が生き残りをかけて行われるゲームの様相を描いたもの。複雑なロジックがこれでもかといわんばかりにかき回されている。そうして、得られた結論というものが皮肉極まりない。
<内容>
「田町9分1DKの謎」
「小岩20分一棟売りアパートの謎」
「浅草橋5分ワンルームの謎」
「北千住3分1Kアパートの謎」
「表参道5分1Kの謎」
「池袋5分1DKの謎」
<感想>
久々の乾氏の作品であったので期待したのだが、色々な意味で食い足りないと感じられた作品であった。雑誌に掲載された作品ゆえに字数の制限があったのか、どれも短すぎるという印象。探偵役の登場の仕方が適当なところも気になったのだが、作品によっては結末がしっかりと書かれていないように思えたものも何点か見受けられた。
結局のところ不動産に関する蘊蓄本というような感じ。「不動産というものにはこんな裏もあるんだなぁー」とか、「こんなことが身に降りかかったら嫌だなぁー」とか思ったりして参考にならないことはない。ただ、それだけで終わってしまっているところがもったいない。
「田町9分1DKの謎」 格安マンションに隠された詐欺の話。
「小岩20分一棟売りアパートの謎」 自分が住んでいるアパートが勝手に売り出された? 話。
「浅草橋5分ワンルームの謎」 マンションの上階に住む者の足音が気になった話。
「北千住3分1Kアパートの謎」 貸しマンションの部屋をいくらで貸すか悩む話。
「表参道5分1Kの謎」 マンションにおける“現況有姿”と“残置物”に関わる話。
「池袋5分1DKの謎」“心理的瑕疵有り”という事故物件に関わる話。
<内容>
「ラッキーセブン」
「GIVE ME FIVE」
「三つの涙」
「女の子の第六感」
「マルキュー」
「偶然の十字路」
「ハチの巣ダンス」
<感想>
この短編作品に登場する人物はそれぞれ異なり、舞台も別々となっているが、登場人物全てが曙女子高に通う女子高生。曙ゆえにAKBということか。特に作中でAKB48に言及した文章はないものの、それぞれの短編のタイトルとか細かなところで、AKB48に関するこだわりが見えるような気がしてならない。
最初の「ラッキーセブン」という作品のみどこかで読んだことがある。これはトランプを使用したデスゲームを描いた作品。これのみSFチックになっており、かつゲーム性にあふれた作品になっている。この路線で全ての作品が語られてゆくのかと思えばそういうわけではなく、他はミステリあり、ちょっとした同級生同士のすれ違いあり、女子高生たちの冒険あり、陰謀ありと、様々な内容の作品の盛り合わせとなっている。
面白いと思ったのは「偶然の十字路」。こちらは部室棟で起きた事件を描き、犯人探しをするミステリになっている。決してフェアな内容というわけではないものの、内容といい、事件構築の過程、そして真相とそれなりに見るべきところがある。
その他、女の子たちがワチャワチャしながら冒険するという内容を楽しめれば、面白い作品と感じられることであろう。ちょっとやり過ぎとか、行き過ぎとか思えるところもありつつも、最初の「ラッキーセブン」からして非現実的な作品であるので、さほど違和感を感じずに読むことができる。何が飛び出すかわからない学園小説という感じで楽しめる作品集。
「ラッキーセブン」 7人の女子高生がトランプによる命を賭けたデスゲームを開始する。
「GIVE ME FIVE」 カラオケ店のなかで苺が盗まれた事件、関係者は5人の女子高生。
「三つの涙」 部屋で殺害されているのが発見された編集部に務めるひとりの女性。事件の鍵を握るのはアイスの・・・・・・
「女の子の第六感」 サッカー少女がもらってきたスマホケースを巡るすれちがい。
「マルキュー」 ひとりの少女の助成金獲得を願い、クラスのメンバーは行動を開始する。
「偶然の十字路」 部活棟でおきた殴打事件。そこにいたもの達のアリバイは!?
「ハチの巣ダンス」 クラスメイトの携帯を奪い返すため、少女たちは立ち上がる。
<内容>
「秘密は墓場まで」
「遊園地に謎解きを」
「告白のオスカー像」
「前妻が盗んだもの」
「次女の名前」
「真紅のブラインド」
「警告を受けたリーダー」
<感想>
そんなに長く間が空いていない気がしていたのだが、2作目が刊行されたのが2012年ということで8年も間が開いている。そういえば、どんな作風だったかいまいち思い出せなくなっているような・・・・・・
読んでみると、なんとなくミステリとしては微妙なような。あまりに捻りのない単純な解決であったり、もしくは「遊園地に謎解きを」などは事件を解決するというものではなく遊園地のアトラクションをどうするか考えるというもの。また「告白のオスカー像」に関しては、クリスマスのプレゼント当てに関する謎ときのはずが、結局のところ謎を解き明かせなかったような・・・・・・(物語的には完結しているのだが)。と、そんなこんなで微妙と思いながら読んでいたものの、だいたいこうした緩めのスタンスのミステリ作品だと思うようになってきて、徐々に楽しむことができるようになっていった。
見知らぬ人が自分の家の墓にお参りにきていたり、前妻が家に忍び込んで何かを持って行ったり、死んだ夫が次女に付けようとした名前を解き明かしたり、女子更衣室のブラインドが開いていた謎を調べたり、アイドルグループのいざこざを解決したりと、そんな事件を取り扱っている。
日常の謎系のような感じでありながら、日常に起こりそうで起こらなさそうな事件という微妙な感触が何気に良い味を出している。新刊の帯には“やっぱり今度も騙された”とか、“衝撃の大どんでん返し”などと書かれているが、いっさいそんなことはなく、緩めに楽しむ探偵物語という感じのものになっている。強烈なものを期待せずに、軽い気持ちで手に取って、緩めな気持ちで読んでもらえればいいのではないかと。
<内容>
「夫の余命」
「同級生」
「カフカ的」
「なんて素敵な握手会」
「消費税狂騒曲」
「九百十七円は高すぎる」
「数学科の女」
<感想>
色々な作品が集められた短編集。基本的にはどんでん返し系と言ってよさそうなタイプの作品集という感じもする。総じて全体的に面白く読むことができた。
「夫の余命」「なんて素敵な握手会」あたりは、似たようなネタといってもいいかもしれない。最後の最後に、天と地がひっくり返るような内容。
「同級生」は、唐突な展開という気もするのだが、あだ名に込められたヒントが面白い。
「カフカ的」は、まるでパトリシア・ハイスミスの交換殺人もののようなサスペンス小説。
「消費税狂騒曲」は、著者自身の体験や苦情が込められた作品のような。消費増税の切り替わりを歴史的に追っていくという趣向は面白い。
「九百十七円は高すぎる」は、これまた消費税ものかと思いきや、なんとメケルマンの短編作品に挑戦したものか。前にさんざん消費税について語られた作品があるゆえに、フェイントに引っ掛けられたような感触を味わえる。
「数学科の女」は、主人公となる男一人の視点から、男4人女1人のグループの行く末を見ていく作品であるのだが、これは想像がつきやすい内容と言えよう。作品集のなかでは一番長い作品であったのだが、中味は一番弱めであったような気がする。
「夫の余命」 余命1年を告げられた夫婦の生活をフラッシュバックで辿る。
「同級生」 久々にあった同級生、過去のことを思い出しながら、ある人物について考えてみるのだが・・・・・・
「カフカ的」 久々に会った知人と話をしていたら、交換殺人の話に発展してゆき・・・・・・
「なんて素敵な握手会」 アイドルの握手会の状況を描く。
「消費税狂騒曲」 警察官とミステリマニアの、消費税にまつわる暮らしと事件。
「九百十七円は高すぎる」 「えっ、そんなに? 九百十七円?」と先輩が話しているのが耳に入り・・・・・・
「数学科の女」 同じ大学の実験グループで、男4人女1人となり、その女子中心に物事が回り始め・・・・・・