伊坂幸太郎  作品別 内容・感想2

キャプテンサンダーボルト   6点

2014年11月 文藝春秋 単行本(伊坂幸太郎・阿部和重 共著)
2017年11月 文藝春秋 文春文庫(上下巻)

<内容>
 金に困っていた相葉時之は、悪徳業者を脅して金を奪い取ろうともくろむ。しかし、相手を間違え、外国人テロリストがからむ事件に巻き込まれ、殺人鬼から追われる羽目となる。一方、相葉と小学校時代に友人であった井ノ原悠は、子供の病気により彼も金に困っており、コピー業者という職種を活用し、違法のスパイ活動をしてお金を稼いでいた。あるとき井ノ原は昔の特撮ヒーロー“鳴神戦隊サンダーボルト”に関する情報を集めることを依頼される。そのサンダーボルトに関する件を調べていると、偶然にも相葉時之と遭遇し・・・・・・

<感想>
 伊坂氏と阿部氏、共著の作品。私は伊坂氏の作品は読み続けているものの、阿部氏の作品については未読。ゆえに、共著と言われても、どこに阿部氏の要素が入っているのかはわからなかった。この作品を読んでみると、基本的には従来の伊坂氏の作品という印象のみが強かったが。

 序盤はちょっと話がバタバタしていて読みづらかったような。ただ、話が進むにつれて主要人物が絞られ、落ち着いて読むことができるようになっていった。昔あこがれた特撮ヒーローの存在を背景とし、そこに謎の沼の水の存在、風土病、かつて軍が遺した秘密、何かを探す謎のテロリスト集団、といったものを絡めて物語を構成していくところは見事。

 また、主人公らが何ら特殊技能のない、普通の人々というところも大きなポイント。そういった人々が大きな謎の勢力を相手取り、活躍するというところはお約束の物語であるとはいえ、楽しめた。追いかける謎が大きい割には、日常のほのぼのとした雰囲気も楽しめるというエンターテイメント作品に仕立て上げられている。


火星に住むつもりかい?   6点

2015年02月 光文社 単行本
2018年04月 光文社 光文社文庫

<内容>
 日本に“平和警察”というものができ、彼らは魔女狩りのごとく次々と危険人物と危ぶまれるものを捕らえてゆく。そして仙台が安全地区に指定され、平和警察によって取り締まられることとなり、仙台では次々と罪のない人が捕らえられ、公開処刑されてゆくことに。そうしたなか、バイクに乗った全身黒ずくめの人物が現れ、窮地に陥った人々を助けてゆき・・・・・・

<感想>
 タイトルからして気楽な内容の作品かと思いきや、読んでみると魔女狩りが横行する体制社会が描かれた小説であることに驚かされる。

 特に前半部は、その体制社会について細かく描かれ、罪のない一般の市民に対して横暴な魔女狩りのような弾圧が行われ、さらには公開処刑へまでと発展する。その前半部は読んでいて、嫌な気持ちになってしまうのだが、中盤以降になるとその体制に反抗するひとりのヒーローが現れ、徐々に読みやすくなってくる。

 ただし、本書は決して単純なヒーロー物語ではない。実際に、物語の後半で男が何故ヒーローのような行為を行うことになったのかが、描かれてゆくこととなる。この作品は、そのヒーロー行為にどうこうとか、正義とはどういうものだとか、実はそういったものを訴えるものではないようなのである。

 そうして物語の最後に、とある登場人物によりこの作品の本質が述べられる。それは、我々が現実に生きている世界にも当てはめられるものであり、もし今の世が生きずらい社会であると感じている人には是非とも一読してもらいたい内容となっている。


ジャイロスコープ   6点

2015年07月 新潮社 新潮文庫(文庫オリジナル短編集)

<内容>
 「浜田青年ホントスカ」
 「ギア」
 「二月下旬から三月上旬」
 「if」
 「一人では無理がある」
 「彗星さんたち」
 「後ろの声がうるさい」

<感想>
 単行本未収録作品を集めた短編集。最後の「後ろの声がうるさい」のみ書下ろし。バラバラに集められた作品ばかりのわりには、全体的に統一感を持っているように感じられた。また、最後の書下ろし作品により、全体をまとめるかのように幕を引く、強引な力技っぷりもよい。

 それぞれの短編に統一テーマとして感じられたのは“カオスっぷり”。一見、普通の短編に見えても、どこか突き抜けてしまうという荒業が光っている。

「浜田青年ホントスカ」は、東京創元社の“蒲倉市”という統一背景のなかで多数の作家によって色々な作品が書かれたうちのひとつ。今回唯一の既読作品。単なるロードノベルかと思いきや、相談屋から派生するラストの急展開に驚かされる。

「ギア」は、理由も説明もなく、バスの中の乗客が追い詰められているなかでの会話を描くという、最もカオスな内容。セミンゴという架空の生き物についての言及がさらなる混沌をあおりだす。

「二月下旬から三月上旬」は、一人の男の人生を描いた作品なのであるが、これが事実と想像の狭間を行き来し、精神的にふらふらとしたところを彷徨い歩くような内容。普通に書けば、わりと良い話のようにも思えるのだが、そこをあえて不安定に描き出しているような。

「if」はバスジャックが起きる中での一コマが描かれた作品なのだが、乗客たちの葛藤や悩みにスポットが当てられた作品といってよいであろう。その、ため込まれた思いがラストに思わぬ形で吐き出される。

「一人では無理がある」は、サンタクロース株式会社の話。その設定だけで十分カオス。さらには、“鉄板”や“+ドライバー”などの謎の贈り物が意味するものが秀逸。

「彗星さんたち」は、新幹線の車内清掃をする人たちの様子を描き上げた作品。これは普通の小説だなと読んでいると、思わぬ展開が待ち受けることに。ちょっとしたSF的な展開がなされるものの、登場人物の全てがその出来事を素直に受け入れるところが感動をさそう。

「後ろの声がうるさい」は、新幹線車内の後ろの席での会話を聞きつけるというもの。偶然出会った二人の男のはずが、実はそこには隠れ潜む意味が・・・・・・という内容。さらには、前述の短編に登場した人たちがそれぞれ軽く登場。


陽気なギャングは三つ数えろ   6点

2015年10月 祥伝社 ノン・ノベル

<内容>
 成瀬、久遠、雪子、郷野の四人は久々に銀行強盗を企て見事成功。その後、雪子の息子の職場であるホテルのラウンジカフェでくつろぐ四人であったが、フリーライター火尻と芸能人・宝島沙耶とのいざこざの巻き込まれることに。その出来事により、四人は火尻から付け狙われることとなり、とうとう銀行強盗の件で脅迫される羽目となり・・・・・・

<感想>
 まさかのシリーズ第3弾。1冊目と2冊目の間隔も3年ほど空いていたので、まさか続編が出るとはと思っていたのだが、今度は9年ぶりの新刊。伊坂氏の作品って、単発だと思いきや、忘れたころに続編がというものが幾ばくか見られる。

 今回の作品では銀行強盗自体がテーマではなく、卑劣なフリーライターからの脅迫を四人がどのようにして撥ね退けるのか、というもの。今回興味深く思えたのは、このような卑劣な記者から脅迫を受けるという可能性が誰にでも考えられるという事。では、もしそのような事態に直面したらどのようにすればいいのか、四人はどのように対処するのか? ということに注目して読み進めていった。

 そして最終的には・・・・・・面白い方法でフリーライターを計略にはめるのであるが、ちょっと微妙かなと。作中に登場するヤクザのような集団がいるのだが、彼らが非常に知的に描かれていたにもかかわらず、最後の最後には、単純な集団のように成り下がってしまっている。それならば最初からステレオタイプのようなヤクザを出しておいた方が、ラストは納得しやすかったのなと。

 このシリーズは内容云々のみならずキャラクター設定が面白く、それだけでも楽しめる作品。だからこそ、前作を忘れる前くらいに次の作品を出してもらえた方が読んでいる側としては助かるのだが。


サブマリン   6点

2016年03月 講談社 単行本
2019年04月 講談社 講談社文庫

<内容>
 家庭裁判所調査員の武藤が担当するのは無免許事故を起こした19歳の少年。武藤に対し、全く心を開こうとしない少年であったが、それでも面談の回を重ねるごとに背景がわかりはじめる。どうやら彼は過去に自動車事故で友人を亡くしていることが発覚する。武藤はデリカシーのない変わり者の先輩・陣内と共に事件について調査を進めてゆくのであったが・・・・・・

<感想>
「チルドレン」という作品に登場していた家庭裁判所調査員が再び登場する作品。ただ、「チルドレン」自体がかなり昔の作品で、全く内容を覚えていなかった。それでも前作とは関係なしに今作を読むことができるので、そこは問題ない。

 この作品はミステリだとか、そういった内容ではなく、何人かの登場人物の人生を追っていく作品という感じ。その人生のなかに何故か陣内という家裁の調査員が度々顔を出し、色を添えている。まぁ、色を添えているどころか、何故かその陣内が脇役のようでありながら、全ての中心になってしまっているのだから不思議に感じてしまう。他の登場人物もその陣内の存在を鬱陶しいと感じつつも、何故か彼のペースに引き込まれてしまう。

 自動車事故をめぐる現在と過去、あらかじめ予想して犯罪を食い止めることができるかを考える少年、そして何故かその犯罪を食い止めることに協力させられる家裁の調査員、陣内と何故か友人関係となった盲目の男に関するエピソード、そしてとある漫画に関する話、などがひとつの方向を示して、この「サブマリン」という物語を形成している。全てがなんとなくという感じで結び付けられるところは、伊坂氏らしい作品という感じがする。


AX アックス   6.5点

2017年07月 角川書店 単行本
2020年02月 角川書店 角川文庫

<内容>
 殺し屋の“兜”は、“医師”から仕事の依頼を請け負い、日々の業務をこなしていた。そんな“兜”は妻や子を持つ普通の家庭人であり、常々自身が行う殺し屋家業から引退したいと考えていた。そうしたなか、日々の家庭業務をこなしつつ、仕事もこなし、そして自信を狙う魔の手から逃れつつ・・・・・・

<感想>
 読み始めは主人公が殺し屋だとわかっていながらも、どこかほのぼのとしたアットホームな雰囲気を感じ取れた。妻のご機嫌を必要以上にうかがう夫が、息子の進路相談の日取りを気にし、敷地内にできたスズメバチの巣を家族に内緒で駆除しようとし、パパ友との交流を楽しみにする。そんな家庭を持つ男の普通の生活をゆるゆると眺めることができる内容。

 と、そんな感じで全編進むのかと思っていたら、後半に急展開が待ち受けている。それは、男が殺し屋という職業をし続けていたゆえの必然か? 思いもよらぬ展開と、最終的にどのような着地点が待ち受けているのかが気になり、だんだんとページをめくる手が止められなくなってゆく。

 と、そんな具合で、最初ほのぼの、後半サスペンスフルな雰囲気を楽しめた作品。やはり伊坂氏の作品は面白いと改めて感じられた本書。


ホワイトラビット   6.5点

2017年09月 新潮社 単行本
2020年07月 新潮社 新潮文庫

<内容>
 仙台市で起きた籠城事件、通称“白兎事件”。それは誘拐をなりわいにしている男が、自分の組織のボスによって妻を誘拐され、とある(オリオン座に詳しい)詐欺師を連れて来いと脅迫される事件。脅迫された男は、いつのまにやら民家に籠城する羽目になり、住人を人質に警察に詐欺師を探してくるよう要求することとなり・・・・・・

<感想>
 文庫化されたので早速読んでみた。単行本で出版されたときは、年末のランキングなどで取り上げられていたので、文庫化を待ちに待った作品。

 誘拐犯なのに自分の妻を誘拐された男。オリオン座に詳しい詐欺師。突然の乱入者によって籠城させられることとなった息子とその母親。仲間のちょっとしたミスからのっぴきならない状況に陥った泥棒。その泥棒の二人の仲間。そして心に闇を抱えた刑事。ひとつの籠城事件を通して、これらの人々が奇妙な人間模様を作り上げていく。

 一見、ただの籠城事件に見えつつも、途中から意外な様相をていしてゆくことに。そこはいかにも伊坂氏の作品らしい展開。さらには、なんとも言えない味わいの結末が待ち受けていることに。

 そんなこんなで、全体的にいつも通りの伊坂氏らしい作品でありながらも、ミステリとしても見栄えのする作品に仕上げられている。ち密な計算というよりも、大雑把な力業というような展開にも関わらず、最後の最後はそれなりのところにまとめてしまう力量が素晴らしい。これは一読の価値ある作品。


フーガはユーガ   7点

2018年11月 実業之日本社 単行本
2021年10月 実業之日本社 実業之日本社文庫

<内容>
 双子の兄弟のフーガとユーガは、父親から虐待を受けながらも、なんとか二人で協力し合いながら暮らしていた。ある日、別々の場所にいた二人が突如、体ごと入れ替わってしまった。さらに調べてみると、それは誕生日の日だけ、2時間おきに起こるということを発見する。そんな不思議な力を利用して、通常では解決できない様々な事態を解決しようとするのであったが・・・・・・

<感想>
 すごく伊坂氏らしい物語。フーガとユーガの双子の兄弟が持つ、ちょっと変わった能力をうまく物語に活かしている。

 ちょっと変わった能力、のほほんと語りながらも凄惨なる生活を強いられてきた二人の兄弟、過去のいじめられっことのエピソード、世にはびこる悪人たち。こういった要素の全てが伊坂作品らしいと感じられた。そしてこれらの要素のそれぞれをいかんなく扱って、心地のよい物語を紡ぎだしている。

 といいつつも、最後のはフーガとユーガがもっと幸福になっても良かったのではないかと思うのだが、やはりエンターテイメントとしては、事件やそれに伴う結果も避けては通ることはできないことなのであろう。


シーソーモンスター   6点

2019年04月 中央公論新社 単行本
2022年10月 中央公論新社 中公文庫

<内容>
「シーソーモンスター」
 北山宮子は義母との関係に悩んでいた。いわゆる“嫁姑問題”であるが、どうにもこの義母とはそりが合わない。どうやら二人の間には過去から続く深い因縁があるらしい。そんな宮子はかつて諜報機関で働いていたが、今では普通の夫と結婚し、姑との問題以外は幸せに暮らしていたはずが・・・・・・夫が厄介ごとに巻き込まれたようで・・・・・・

「スピンモンスター」
 水戸直正は幼少期、自動運転の車に家族で載っていた際、事故に遭い、自分以外の家族を失っていた。同時に事故にあった車に乗っていた同い年の檜山景虎も同様に自分以外の家族を失っていた。その後、二人は学校で出会うこととなり、さらなる因縁を広げていくことに。大人になった水戸直正は配達人という職を個人で行っていたのだが、新幹線に乗っていた時に見知らぬ人から手紙を渡され、ある人に渡してもらいたいと依頼される。それをきっかけに、大きな陰謀に巻き込まれることとなり・・・・・・

<感想>
 文庫で購入した作品なのだが、どうやら“螺旋プロジェクト”という複数の作家が参加した企画ものの作品らしい。与えられたテーマを踏まえて作品を作るということだそうだが、別に他の作家の作品とのつながりとかはなさそうなので、単体でも普通に読める作品のようである。ということで、さすがに他の作家の作品にまで手を伸ばそうとは思わなかった。

 ただ、この伊坂氏の作品に関しては、普通に伊坂氏らしい作品で十分に楽しむことができた。「シーソーモンスター」と「スピンモンスター」という二つの中編が収められている。

「シーソーモンスター」に関しては、最初は嫁姑のいさかいが描かれている内容で、少々げんなりしたのだが、読んでいくうちに嫁の方が元諜報機関で働いていたという設定が出てきてからは、俄然話が面白くなっていった。単なる普通小説ではなく、アクションシーンも絡めた読みどころ満載の内容となっている。

「スピンモンスター」は、「シーソーモンスター」から数十年後の日本が描かれており、現代と比べも数年先の未来が舞台となっている。そこで追われる者と追う者の因縁が描かれ、大きな事件を通して、移り行く二人の感情が色濃く描かれている。なんとなくSFチックな感じがまた良い味を出している。

 そんなわけで、普通に伊坂作品として楽しめる内容であった。作家たちが集まってひとつのプロジェクトを行った作品と言うことで、なんとなく敷居が高いような気がするかもしれないが、そんなことは全く関係なく楽しめる作品である。もちろんプロジェクトに興味を持った人は、他の作品も合わせて読んでもらえれば、より楽しく読めるのではないかと。


クジラアタマの王様   6点

2019年07月 NHK出版 単行本
2022年07月 新潮社 新潮文庫

<内容>
 製菓会社の広報部で働く岸は、商品への異物混入の問い合わせの対応に追われていた。会社に非難がぶつけられ、のっぴきならない状況の陥りそうなとき、一人の議員の登場により、事態は解決へと向かうことに。その議員・池野内と親しくなった岸は、彼から驚くべき話を聞かされることに。それは、池野内と岸が共通して見る夢の話であった。さらに池野内はもうひとりの男と3人で協力して、夢のなかでハシビロコウが指し示す中、怪物と闘ったと・・・・・・

<感想>
 現代の物語とファンタジー世界を融合させたかのような作品。といっても、ファンタジー世界というほど、そちらの世界が描かれているわけではなく、ほとんどが現代基調。それでも、伊坂氏がこういった物語を書くと、やはり伊坂氏らしい作品になるのだなと。同じテーマで、他の著者が書けば、全然異なる内容の作品になるのだろうなとふと考えてしまった。

 最初は企業小説のような感じがしたが、徐々に一つの会社では収まらないような話になっていく。製菓会社の広報部で働く普通のサラリーマン岸と、都議会議員の池野内、アイドルグループメンバーの小沢ヒジリといった、一見何の関係もなさそうな三人が同じ奇妙な夢を見続けていることからつながりが出来てゆく。やがて、彼らの人生を左右するような大きな事件が降りかかることに。

 その後の展開では、まさにコロナウィルスをモチーフとしたような話が出てきたと思いきや、どうやら本書が書かれたのは騒動が起きる前とのこと。それゆえ、本書でも鳥インフルエンザという名前が使われていた。それでも、今のコロナ騒動に通じるような内容となっているので、コロナ前とコロナ後では違った感情で読むことになる作品とも言えよう。

 まぁ、コロナ云々は抜きにしても、なかなか興味深く面白い作品であった。途中途中に挿入されている漫画は、アクションシーンをより動的に読者に味わってもらいたいと思ったからとのことらしい。


逆ソクラテス   5.5点

2020年04月 集英社 単行本
2023年06月 集英社 集英社文庫

<内容>
 「逆ソクラテス」
 「スロウではない」
 「非オプティマス」
 「アンスポーツマンライク」
 「逆ワシントン」

<感想>
 道徳的な小説という感じであった。主には小学生を中心に、その身の回りの出来事、そして生き方考え方というものを、読み手にも考えさせるような作品集。

 そういった道徳的な小説という意味では「逆ソクラテス」や「逆ワシントン」あたりが、それに相当するといった感じ。特に「逆ソクラテス」での、物事を決めつける大人に対しての子供たちの抵抗というところは、非常に興味深く読むことができた。

 また「非オプティマス」での、生気のなさそうなクラス担任による、ちょっと長めの演説には感動させられた。色々な意味で大人な意見であるなと。

 全体的に、それぞれの短編で登場人物が繋がっていたり、話が少し関連していたりという部分が見受けられた。ただ、それらがどうも中途半端。むしろ、関連させようとしたことによって、話の進行をややこしくしてしまっていたようにさえ思えてしまう。このくらいの繋がりであれば、むしろ別々の作品として分けてしまったほうがスッキリとしたのではないかと思われた。


「逆ソクラテス」 物事を決めつける担任にたいして、とある生徒を見直させようと、安斎君は色々な計画を練り始め・・・・・・
「スロウではない」 走るのが苦手な者がクラスのリレー代表となってしまい・・・・・・
「非オプティマス」 授業中に缶ペンケースをわざと落とす生徒に対し、授業参観時に久保先生は皆の前で・・・・・・
「アンスポーツマンライク」 小学生時代にミニバスをしていた仲間たちが、時代と共に再会し・・・・・・
「逆ワシントン」 初代大統領ワシントンの逸話と、正直に生きると言うこと。




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