垣根涼介  作品別 内容・感想

午前三時のルースター   6点

2000年04月 文藝春秋 単行本
2003年06月 文藝春秋 文春文庫

<内容>
 旅行代理店に勤務する永瀬は、得意先の社長の頼みにより、16歳の孫の慎一郎のベトナム旅行に付き合ってもらいたいという頼みを受ける。高校入学祝といいつつ、実は社長の義理の息子で慎一郎の父親が、ベトナムのサイゴンで死亡したらしく、その感傷のための旅行と言うことであるらしい。永瀬が慎一郎本人と旅行の打ち合わせをすると、なんと彼の父親がサイゴンで生きているらしく、祖父に内緒で父の行方を捜したいのだと・・・・・・

<感想>
 読んだことのなかった作品を本屋で見つけたので購入。垣根涼介氏のデビュー作品。

 旅行代理店に勤務する男が、16歳の少年に付き合ってベトナムで父親捜しをするという内容。少年の成長物語であり、アクションあり、ちょっとした陰謀めいたものもありと、見所たくさんの小説。これはデビュー作としてはなかなかのもの。

 さらに言えば、数多く出てくる登場人物の設定もよく、キャラクター造形に関しても際立っていると思われた。ただし、登場人物の数が多い分、無駄に思えるキャラクターが出てきたり、場面場面で活躍が見られないキャラクターも出てきていたので、それについては、もっと絞ったほうが良かったように思われた。特に主人公とその友人の源内という人物を分ける必要はなかったように思われる。

 都合よく出来すぎの物語のように思われるが、それゆえに、読みやすく感情移入しやすく、普通に面白い作品と感じられた。これこそ大人が楽しめる冒険活劇小説と言ったところであろう。


ワイルド・ソウル   6点

2003年08月 幻冬舎 単行本

<内容>
 1961年、日本の移民政策により、多くの家族が夢と希望を抱いて南米へと旅立った。約束された楽園であったはずが実際に待っていたのは想像を絶する地獄であった。なんの設備も整えられていない未開の地、ひんぱんに起こる洪水により作物を育てる事も出来ない痩せた土地。そしてひとりふたりと日本人達は次々と野垂れ死に、または逃げ出してゆくことに・・・・・・・
 それから40年の月日が経ち、地獄から生き延びた者達が日本への復讐を図ろうと・・・・・・

<感想>
 これもいつかは読まなければと思っていながら積読になっていた本。単行本で買っていたものの、ちょうどこれを読む直前に文庫本が発売されてしまった。

 さて、読んでみての感想はというと、とにかくすさまじいのひと言。日本の移民政策というのは知っていたがこれほど壮絶な地獄が繰り広げられていた事までは知らなかった。確かアントニオ猪木の一家がブラジルへ移民して、という話を聞いたことがあったくらいで、移民後は皆ごく普通に暮らしているのかと思っていたのだが、実際には闇に隠されていた一面もあったということか。

 という、移民について前半語られて、中盤から後半にかけては生き残った者たちの日本への復讐劇が行われるのだが、本書では前半部分の移民の歴史についてが全てであるという印象に留まる。後半の復讐劇というのは、なんとなく中途半端に感じられ、あまり何かを行ったという達成感は感じられなかった。ただ、そこで復讐を企てようとする人物像が魅力的であったので、物語にひきこまれはしたのだが。

 というように、後半については若干不満も残るのだが、たぶんこれらの書き足りなかった部分を後の「ギャングスター・レッスン」などの作品で晴らして行ったのではないかと思われる。

 また、本書が過去の日本への復讐を抱いた作品と見てとっていたのだが、最後まで読んで感じたのは、この著者が書きたかったのは南米で暮らすものたちのしたたかさと力強さを書きたかったのだろうということが伝わってきた。とにかくあらゆる意味で“力強さ”というものを感じさせられる一冊。


ギャングスター・レッスン

2004年06月 徳間書店 単行本

<内容>
 渋谷のチームを解散したアキは柿沢と桃井という犯罪のプロから犯罪チームの一員にならないかと持ちかけられる。アキが了承したことにより、3人のチームが結成される。柿沢と桃井により、犯罪テクニックを叩き込まれるアキ。そして、ひととおりのレッスン終了したとき、3人は大きなヤマを踏むことに。

<感想>
 垣根氏の本を読むのはこれが始めて。何気に買ってしまった本であるが読んでみると面白く、一気に読み終えてしまった。本書の内容はまさしく“ギャングスター・レッスン”そのもので、一人の男を犯罪者として育てていく過程が描かれている。その肯定といい、内容といい目を惹くものばかりで、犯罪理論と手口には感心させられてしまうばかりであった。

 ただ、ひとつ残念に感じたのはラストに行われる“実戦”の顛末。これはもっとスマートにきっちりと決めてもらいたかったというところ。せっかく、そこまでの過程がスマートきていたのだからこそ、そう思わずにはいられなかった。

 また正直いって、この物語がこれだけで終わってしまうのは食い足りないと思ってしまう。と思いきや、本書の続編というかたちで「サウダージ」という作品が出ているとの事なのでさっそくこちらも購入してきてしまった。さっそく続けて読んでみようと思っている。


サウダージ   6.5点

2004年08月 文藝春秋 単行本

<内容>
 関根和明、彼は柿沢たちと昔一緒に仕事をしていたが、その仲間から外された男であった。以来、関根は一人で犯罪を繰り返し生き延びてきた。そんな中、関根はコロンビアからの出稼ぎ売春婦DDと出会う。DDは容姿はいいのだが、気分屋で、金に汚く、すぐに人をなぐるというどうしようもない女。しかしなぜか関根はそんなDDから離れなれないのであった。
 ある日、関根は大きなヤマの情報を得る。関根は昔の仲間の柿沢に連絡をとり、一緒にやらないかと持ちかけるのであったが・・・・・・

<感想>
 前作「ギャングスター・レッスン」では不完全燃焼に終わった部分もあるのだが、こうして続編が書かれたことにより補完され大満足である。これからもこのシリーズは続くのではないかとう気がする。いや、ぜひとも続けてもらいたいものだ。

 また本書を読んで、この一連の話が「ヒートアイランド」という作品から続いているのだということがわかり、前作でアキがどうして唐突に柿沢らの仲間になったのかということを納得。後回しになってしまったが、これは「ヒートアイランド」も是非とも読まねばならない。まだ、これらを読んでいない方は順番に読むことをお薦めする。

 本書の内容は、前作「ギャングスター・レッスン」の内容に、馳星周氏の「不夜城」をくっつけたようなものといったら乱暴すぎるだろうか。今回も前作に続き、アキらが登場するものの、インパクトでは今回の主人公・関根の存在に食われてしまっている。どうにもならない今回の主人公カップルであるのだが、彼らの人生における不自由さの中での奔放な生き方が読むものに痛烈な印象を焼き付けてくる。ある種のノワール作品ともいえ、主人公らの行く末はだいたい見えているのだが、その堕ちてゆく生き様こそが彼らの解放につながっているというよう思わされる内容であった。

 日本の作品では、こういった痛烈な作品というのは久しぶりに読んだ気がする。これからもますます期待したいシリーズのひとつである。


君たちに明日はない   

2005年03月 新潮社 単行本
2007年10月 新潮社 新潮文庫

<内容>
「日本ヒューマンリアクト」、そこは企業に委託されて人員整理を行うという、いわばリストラを請け負う会社である。そこの社員である村上真介は今日もファイルを片手に、企業のリストラ対象者たちとの面接を行う。
“会社と人”との関係に、リストラという観点からスポットを当てた企業小説。

<感想>
 リストラ請負人の村上真介とリストラされる側の芹沢陽子との視点によって交互に描かれる作品となっている。リストラ対象者や該当企業はいくつかあるので、陽子の話のみで語られているわけではないのだが、今作では陽子も主人公のひとりとなって、職のてん末について最初から最後まで語られる形式となっている。

 この作品はサラリーマンであれば誰もが何かを考えさせられる内容であると思う。誰しもが今いる会社にさまざまな思いで入社したことであろうが、そこを辞めさせられるとなれば色々なことを考えさせられるのではないだろうか。

 辞めさせられる側にしてみれば、他人から見るとダメ社員であっても本人は全くそんなことを思っていないかもしれない。また、辞めさせられると聞いてホッとする人もいるかもしれないが、それでも解雇という形をとられると何かやりきれないものが残る人もいるであろう。

 また、いざ辞めさせられるという場になったときに、人それぞれの内に秘めたものが明るみに出てくるということもあるだろう。

 さらに反対側の面から見れば、いかに会社が社員を解雇する事が難しいかということも伝わってくる。

 人員整理をするにしても、人に優劣をつけるというのは難しいことであるし、辞めさせるからといってその人が必ずしもダメな社員かといえば、そうではない場合もある。また、ダメな社員だからといってすんなりと首を切る事ができないというのも確かなようだ。

 ということで、この本を読んだからといって、何か結論を得るということはないのだが、とにかく考えさせられてしまう。現代社会の重要な一面を表した小説であるといってもよいかもしれない。サラリーマン必見の作品。


借金取りの王子  君たちに明日はない2   

2007年09月 新潮社 単行本
2009年11月 新潮社 新潮文庫

<内容>
 「二億円の女」
 「女難の相」
 「借金取りの王子」
 「山里の娘」
 「人にやさしく」

<感想>
 2作目となったためか、“リストラ請負人”という職のことよりも、物語上の続編という色合いが濃くなったように思えた。主人公のリストラ請負人である村上が前作で恋人となった陽子と共に全編に登場し、村上の仕事を通しつつ二人の関係のその後を描いている。

 全体的なストーリーとしても流れがあるので、本書は連作短編集といったほうがよいのであろう。特に後半の2編については、リストラに関する仕事よりも村上と陽子の今後の展開を示唆するような内容が強いという印象を受けた。

 本題のリストラの仕事に関しては、今作では、デパート営業、保険会社の総合業務、サラ金の支店長といった仕事の内幕が描かれており、それぞれ興味深い内容となっている。ただ、これを読んでいると日本の未来って本当に大丈夫なのかと心配したくなってしまう。なんとなく、資本主義の限界が垣間見える・・・・・・などというのは大げさか。

 内容については面白く、続編が気になる事は確かなのだが、主人公を取り巻く恋愛模様のほうに重心が傾き、本題がややおろそかになりそうなところが気になるところである。


張り込み姫  君たちに明日はない3   

2010年01月 新潮社 単行本
2012年04月 新潮社 新潮文庫

<内容>
 「ビューティフル・ドリーマー」
 「やどかりの人生」
 「みんなの力」
 「張り込み姫」

<感想>
 前作は“リストラ請負い”よりも主人公についての書き込みの方が多かったように思えたが、今作では“リストラ請負い”とリストラされる側により強くスポットが当てられた内容となっている。

 今回リストラされるのは、英会話教室、大手旅行代理店、自動車ディーラー、大手出版社の写真週刊誌部署。まさに世相を表した内容であるのだが、そのどれもが大手企業というところに、さらに時代性を感じてしまう・・・・・・もちろん悪い意味で。

 この作品では4者4様のパターンが表されているのだが、そのどれもが共通のテーマに基づいていると感じられた。“自分自身がどのように生きるべきなのか”。4人の人物がそれぞれの選択をするのだが、そこには決して正解というものはないと思われる。それが最良の選択であるとも言えないし、悪い選択であるとも限らない。しかし、自分自身がどのように決めて、どのように人生に立ち向かうべきなのかが一番重要なのであろう。それがはたから見て悪い選択と見えても、まずは自身が納得しなければならないのである。

 いろいろな仕事に対するスタンスというものを見ることができて非常に参考になった一冊。自身がこういった状況に陥ってもおかしくはないからか、かなり物語にのめり込むことができた。そういった個人的な部分を差っ引いても、かなり読みやすい本であると思われる。サラリーマン必須、一気読み必至の人生読本!


永遠のディーバ  君たちに明日はない4   

2012年05月 新潮社 単行本(「勝ち逃げの女王」)
2014年10月 新潮社 新潮文庫(改題:「永遠のディーバ」)

<内容>
 「勝ち逃げの女王」
 「ノー・エクスキューズ」
 「永遠のディーバ」
 「リヴ・フォー・トゥデイ」

<感想>
 リストラ請負人シリーズ第4弾。今作では、航空会社のCA、楽器メーカーの管理職、ファミレスチェーン店の店長を村上真介が相手取る。

 4編のなかで1編だけ番外編があり、それが「ノー・エクスキューズ」。ここで今まで謎とされていた、村上の上司である高橋の過去が明らかになる。番外編ではあるものの、過去に三大証券会社のひとつと言われたとある会社がモチーフとされたものが登場しており、しっかりと企業小説たる部分は取り込まれている。今までのシリーズとしては、村上の恋人・陽子が取り上げられることが多かったが、今作での登場は少なめで、その代わりとして今作では高橋の登場が多めとなっている。

 全4作含めて、今回も4者4様のさまざまな“仕事”についてのスタンスが取り上げられている。特にどれが正解とか、どの生き方が正しいというものはないのだが、本人が納得をして次のステップに踏み出せるかということが重要ととらえられる。リストラ請負人である村上自身も、ノルマの達成よりも、自分の仕事に対するやりがいというものを感じながら、仕事に臨むようになってきたと思われる。

 リストラというものは、決してよい響きではなく、大変厳しいものではあるのだが、自身を見直す機会として、このような場は活用できるのではないかと好意的にとらえられる部分もある。ただし、現実と照らし合わせてみると、リストラからハッピーエンドを期待するのは難しいだろうとも感じてしまう。


迷子の王子様  君たちに明日はない5   

2014年05月 新潮社 単行本
2016年11月 新潮社 新潮文庫

<内容>
 「トーキョー・イーストサイド」
 「迷子の王様」
 「さざなみの王国」
 「オン・ザ・ビーチ」

<感想>
 企業からのリストラを請け負う会社で働き、さまざまな人々との面接を繰り返してきた村上真介。彼が主人公を務めるこのシリーズもこれで最後。

 今作で扱うのは、合併した化粧品会社の高学歴女性社員、家電メーカーの設計者、本屋で働く口下手な社員、さらには村上自信の行く末も問題に。

 非常に面白いシリーズ作品であった。架空の会社名にしているとはいえ、実際に存在する会社をモデルにして、その内情を表していたりと、現代社会を巧みに描き切っている。このシリーズを通して読んでいくと、バブル後に日本がたどった軌跡を確認していくことができるようになっている。

 また、スポットを当たられた人物が改めて自分の人生を振り返り、その中で“仕事”と向き合うところにはいろいろと考えさせられた。仕事というものを通しつつ、社会人としての生き方そのものを教えられた作品であった。

 シリーズを通して一言付け加えておくと、後半段々と分量が少なくなって行ってしまったのは、語るべきことなくなってしまっていったのかなと。特にこの最終巻はページ数が少なくて、やや寂しかった。また、主人公とその恋人との関係についても、思ったよりも語られるべき物語が少なかったのは残念。シリーズ途中では、恋人を会社の社長にとられるのかなと思っていたのだが。




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