<内容>
現在、過去、未来。別々の時を刻む三つの大時計を戴くクロック城。そこは人面樹が繁り、地下室に無数の顔が浮き出す異形の館。謎の鐘が鳴り響いた夜、礼拝室に首なし死体、眠り続ける美女の部屋には二つの生首が。行き来不能な状況で如何に惨劇は起こったか?
<感想>
近未来SFのような背景で語られる、私立探偵と館のミステリー。というところであるが、その背景とミステリーが全く融合しているように感じられなかった。探偵が感じる異形、世界の終焉を見届けようとするもの、防ごうとするもの。そして“クロック城”で殺人事件が起こるのだが、その殺人事件の場面と事件の検討をしている場面がまるで別の作品であるかのように感じられる。どうも、その背景で語られるSF的なものと、またそれとは別のミステリー。その二作品を別々に平行に読んでいるかのような気がした。
今や閉ざされた館で殺人事件が起きたといっても、ありきたりな作品となってしまう。そこで、このような背景を付け加えたのか? どうかは分からないが、今現在におけるそれぞれの作家の苦悩であり、またはその作家の特徴付けの一端でもある。この著者の場合は残念ながら成功しているとはいいがたいであろう。
ミステリーのトリックとしてはなかなか面白かった。しかし、それ以外がついてくることができずに、そのトリックが浮き上がってしまうという結果に終わっている。
また、キャラクターであるが、“菜美”は本書において必要なかったのではないだろうか。結局、全体的に作品が中途半端であったという感に終始する。
<内容>
密室と化した図書館内で女性が短剣で貫かれる。周囲には七芒星の模様が。城から六人の男が消失、首を切られ、辿り着けるはずのない湖で発見される。さらに頭部を失くした人間が突然現われたり、人の出入りのない状況で四体もの死体が消える。恐るべき不可能犯罪の運命的な連鎖を描く本格ミステリ。
<感想>
前作の処女作に比べて複雑な構成をとっているが、それでも前作よりはわかりやすい。といっても通常レベルでは理解しにくい。いわゆるタイムパラドクスを扱った話なのだが、それが効果的に演出されていなく、かえってわかりにくくなっている。3つの場面が前後して並列に話が進んで行くのだがそれよりは各々を短編として扱ったほうがよかったのではないかと思う。
それぞれに扱われているトリックがみな大掛かりなものなのであるがあまりそれが作風にあっていないような気がする。トリックだけでいえばどう見ても“バカミス”的なものなので、もっとおおげさな話でもないかぎりは「なんだこれ?」というような扱うを受けるだろう。シリアス路線であるならばそれなりのトリックと理由付けを考えなければ、まず話として成り立たなくなってしまうだろう。
<内容>
岩手の洋館・アルファベット荘は、庭や屋敷内に奇怪なアルファベット形のオブジェが並ぶ奇妙な屋敷だ。そこに招かれた売れない役者・未衣子とその仲間(変人の看板女優・美久月と、何も持たない探偵・ディ)は、パーティーのほかの客とともに、謎の物体『創生の箱』をめぐる、血も凍るような惨劇にであう。
<感想>
強引ながらも、嵐の山荘ものの本格推理を展開してくれるのはミステリファンにとってはうれしい限りである。アルファベット荘といういかにも怪しげなオブジェクトを用いているところからは、北山氏ならではの大掛かりなトリックが出てくるだろうということ期待させてくれる。
というように、ミステリーの王道を地でいっているのだが肝心なトリックにはちょっとと思うところがある。『創生の箱』のトリックは正直言って強引過ぎると思う。ちょっと無理ではないのかなと。
また肝心な部分でのトリックなのだが、全編にわたって芸術的とかスマートなイメージを説いていて、一番重要なトリックもそういう印象で決めたかったのだろうと思う。しかし私の頭の中でそのトリックどおりに行おうとすると、汗水たらした犯人がそこらじゅうに痕跡を残しながら『創生の箱』をえんやこらとかついでいるイメージしか浮かばないのである。大掛かりなトリックであるならば、あまりきれいにまとめようとしないほうがよいのでは。
<内容>
孤島に建つ“アリス・ミラー城”に隠されているという、存在も不確かな“アリス・ミラー”を求めて集う探偵たちと主催者、合わせて11名。アリス・ミラーを求める者たちは、城を彷徨ううちにひとり、またひとりと殺害され、チェス盤に置かれた駒は誰かが死亡するたびにひとつずつ消えてゆく。そうして最後に残ったものは・・・・・・
<感想>
既読ではあったが、感想を書いていなかったので再読。著者の北山氏といえば、物理トリックを用いた作品でメフィスト賞を受賞し、その後も物理トリックを用いた作品を書き続けていた。最初の頃は内容が荒々しかったという印象を持っているのだが、この作品あたりから一皮向けて、良い作品を立て続けに書き上げるようになったという風に記憶している。
本書についてであるが、再読ゆえに、謎の核となる部分については憶えていて、それを踏まえたうえでの読書となった。改めて読んでみると、この作品も十分荒々しいなぁと。表現はおかしいかもしれないが、“佳作と雑”の狭間というような感じ。ギリギリのところで、それなりに本格ミステリ小説としての水準を保ったという気がする。
この作品、密室の真相などについても意外と楽しめるものとなっているのだが、最も重要なのは犯人は誰かということ。これがフェアとアンフェアの狭間であり、問題作と言ってもよさそうなほど。私が最近読んだばかりの、過去に書かれた有名作を想起せざるを得ない内容。ただ、フェアとアンフェアの狭間と書きつつも、やっぱりアンフェアというような気が・・・・・・何故ならば、読者は犯人の存在について予想だにできないものの、登場人物たちが“それ”を警戒対象としないのはおかしいからである。
<内容>
人形塚に捨てられていた人形から見てとれる、助けを求めるサイン。その助けに応じて、探偵を名乗る幕辺とその友人の頼科は、そこに住む主人が惨殺死体で発見されたことから“ギロチン”城と呼ばれるようになった邸へと向かうことに。そこで彼等が見たものは、数々のセキュリティーによって閉ざされた邸と不可思議な住人達と数々の処刑道具。そして彼等が邸に訪れるのを待つかのように始まる殺人劇。不可解な状況で次々と邸の中の住人が殺害されてゆくのを探偵たちは止めることができるのか!?
<感想>
さすが物理トリックにこだわる作家というだけあって、この作品でも、よくもここまでと思わされるような大掛かりなトリックを炸裂させてくれている。いやはや、奇想天外というよりは“やり過ぎ”という感はぬぐえないにせよ、ここまでやってくれれば逆にそれはそれでたいしたものなのかもしれない。ただ、いつもの作品どおり、そのトリックの必然性というものは希薄に感じられるように思えた。
とはいえ、著者なりの“スクェア”というものを利用してのこだわりのトリックを存分に見せつけることができた作品といえるのではないだろうか。たとえ“バカミス”といわれようとも、こうした姿勢はこれからも続けてもらいたいものである。最近のメフィスト賞作家の中では、この北山氏のみが新本格推理小説の継承者であるといえよう。そう考えれば、この作家はいつしかもっとすごい作品を書いてくれるのではないかと期待してもよいのではないかと思える。
また本書は、大掛かりなトリックのみで終わらないところに本懐がある。「アリスミラー」でも見せてくれたように、この作品も一筋縄ではいかない結末が用意されている。本当になかなか楽しませてくれたミステリ作品であった。
<内容>
この世界では人々は書物を所有してはならず、昔に書かれた書物は全て焼き捨てられた。そして現在、周囲の状況を知る手段はラジオのみとなっており、そのラジオの内容は政府によって厳しく検閲されたものとなっている。
そんな日本のある町に英国人の少年・クリスがやってくる。クリスはその町に住む車椅子の少年ユーリと仲良くなる。ユーリからクリスは現在の町で起きている事件のことを聞かされる。その事件とは、町の家のいたるところに何者かが赤い十字の印を付け回っているというのである。その印を付け回っている人物は町の人々から“探偵”と呼ばれていた。“探偵”は森に住んでおり、その森に近づいてきたものを首を切り取って殺してしまうのだと・・・・・・
そしてさらなる事件がクリスや町の人々の目の前で起こる事に! 衆人監視のなか、湖の上で殺人事件が起き、さらには犯人が跡形もなく消えうせてしまったのだ。事態を重く見た政府は、その町に少年検閲官を派遣することとなり・・・・・・
<感想>
一風変わった架空世界で繰り広げられる探偵小説。ただし、探偵小説といっても、設定がかなりファンタジーめいていて純然たる推理小説という感じはしなかった。読んでいる最中はその世界自体で何が繰り広げられているのか分かりづらく、どのように展開していくかという先行きも見えないまま物語は進行してゆく。
しかし、最後になって事件の解決がなされると、この物語が設定から犯人の行為、事件全体が全て一貫されたものとなり、全てひとつのパーツでつながれて行くこととなる。まさにこの作品の設定にふさわしい結末の付け方と言えるだろう。
と、良く出来た物語であるといえる半面、途中でその全てを把握するということは難しいので、推理小説としてはどうかと思える。ただし、ひとつのミステリ作品として細部までよく練られた作品となっており、ラストでは唸らされる作品であるということは間違いない。
<内容>
引っ込み思案の探偵・音野順と彼を名探偵として活躍させようとする推理作家・白瀬白夜がさまざまな難事件に挑む。
「踊るジョーカー」
「時間泥棒」
「見えないダイイング・メッセージ」
「毒入りバレンタイン・チョコ」
「ゆきだるまが殺しにやってくる」
<感想>
引っ込み思案で引きこもりがちの探偵と、彼を心配する少々おせっかいな作家とが活躍するシリーズ・・・・・・たぶんこれからも続いてゆくのだろうと思う。
主人公らの人物造形については、あまりにも現代的でありがちと思えるものの、不必要に余計なキャラクターを出さずに、シンプルな探偵小説を作り上げようとしているところは好感触が得られる。
また本シリーズの特徴として、作中で使われるトリックというのが、良く言えば斬新な発想、悪く言えばバカミスというような、ちょっと変わった考え方を元に作り込まれている。
特に「踊るジョーカー」その最たるものと言えよう。密室トリックは普通であるものの、“凶器”に関するトリックについては、誰もこんなこと考えないと言うか、考えても使わないと言うか。
「時間泥棒」も時計を盗む動機に凝った作品。
「見えないダイイング・メッセージ」はタイトルそのものでダイイング・メッセージに凝った作品ではあるのだが・・・・・・これ普通の人では解析しようがないような。
「毒入りバレンタイン・チョコ」は毒を入れるトリックに凝った作品。
「ゆきだるまが殺しにやってくる」は雪だるまによるアリバイトリックとでも言えばいいだろうか。
というように微妙な部分にそれぞれ凝りに凝った作品がそろっている。ただ、推理小説としてそれぞれの短編で見るべきところがその一点だけなので、少々物足りなさも感じられる。とはいえ、それなりに楽しめる事は間違いないので、気楽に楽しむ事ができる探偵小説と言えよう。
<内容>
「密室から黒猫を取り出す方法」
「人喰いテレビ」
「音楽は凶器じゃない」
「停電から夜明けまで」
「クローズド・キャンドル」
<感想>
引っ込みがちの名探偵シリーズ第2弾。前作に負けず劣らず微妙な本格ミステリ短編集であるのだが、慣れてくるとその微妙さが癖になってしまいそうである。
何が微妙かと言えば、ちょっとした事件であるにもかかわらず、やたらと大掛かりなトリックを用いているところ。しかもそれらが実現可能なようには到底思えないようなものばかり。
「密室から黒猫を取り出す方法」は展開自体が工夫されている。単なる密室ものとせずに、ひと工夫入れて、閉ざされた殺人現場から迷い込んだ猫がどうやって脱出したかを考える作品。しかもその脱出方法が、普通はやらないだろうというような、やたら大掛かりで危なっかしそうなものなのである。もっと他の方法がありそうなのになぁと思わずにはいられない。
「人喰いテレビ」では理由が付けられているとはいえ、わざわざ死体の腕を切断したり、「音楽は凶器じゃない」ではそんな凶器を使わなくても、っていうか本当に凶器になりえるのか? と思われ、「クローズド・キャンドル」もあまりにも大掛かり過ぎて、床とかに傷がついていそうな・・・・・・などと、どれも微妙に思えるような不必要に大掛かりなトリックをさらっと使っているところがなんともいえないのである。
そうしたなか「停電から夜明けまで」は今作のなかでは一番うまくできていると思われた。二人の兄弟が実行しようとする殺人計画は実にずさんなのだが、その計画の暴き方が秀逸な作品。名探偵の存在感のなさを逆手に取った内容といえよう。
<内容>
「恋煩い」
「妖精の学校」
「嘘つき紳士」
「終の童話」
「私たちが星座を盗んだ理由」
<感想>
北山氏によるノン・シリーズ短編集。特に統一性はないのだが、そのどれもが“厭”な終わり方をしているというのが特徴と言えよう。今までの作品と比べると北山氏らしくはないと言えるが、ある意味新機軸ともとることができる。ただ、こうした内容の作品は最近多くの作家が書いているものでもあり、目新しいとは決して言えないものである。
作中のベストとしては、「恋煩い」。最後の一文を読むと、ここまで落としていいのかと心配になるくらいの“厭”さ加減。
「妖精の学校」は謎としては良かったのだが、最後の一文で明らかになる真相が全てを明らかにするわけではないというのがやや不満。読み終わった後には、インターネットで経度と緯度でなんとかそれらしいものを発見することができた。
「嘘つき紳士」と「私たちが星座を盗んだ理由」の二つはややありがちというようにも思えた。個人的にはもう一捻りくらいあってもよかったかなと。また、「終の童話」は厭ミスというよりは、寂しい昔話という感じであった。
<内容>
大学の探偵助手学部に通う君橋と月々の二人。彼らは2年から特定の探偵が担当するゼミにつかなければならなかった。名のある名探偵の下につきたいと思ったものの、二人は猫柳十一弦という頼りなさげな若い女探偵のゼミに所属することとなる。とはいえ、猫柳は厳しいわけでもなく、猫柳と共に気楽な学生生活を満喫し続けることができた。そんなある日、探偵ゼミで合宿へと行くこととなる。名探偵として有名な雪ノ下ゼミが合宿するので、合同での合宿を誘われたのである。かくして、雪ノ下ゼミの7人、猫柳ゼミの2人と雪ノ下、猫柳を含めた11名で孤島へと向かう。そこで研修のディスカッションが行われる予定であったが、彼らは連続殺人に遭遇することとなり・・・・・・
<感想>
将来、探偵を目指すのではなく、その助手を目指すという、ちょっと変わった学部が創作されている。そこで助手を目指す面々と女探偵を主人公とし、難事件に挑む様子が描かれている。
北山氏といえば、変わった世界設定を構築したり、トリック重視のミステリ作品を描いたりと様々な作品が描かれている。今回もある意味、世界設定を創造したなかでのミステリ作品と言えるが、それほど異様な世界ではなく、探偵助手というものを設定したのみのごく普通の世界。とはいえ、その世界観をうまく利用したミステリが本書では描かれている。
隔絶された孤島で起こる殺人事件ということで、ミステリファンにはたまらない内容。起こる事件はレトロなものと言ってもよいくらいの普通のミステリ風のものなのであるが、犯人の正体よりも犯人が何を狙っているのかがわからず、そこに注意が惹かれてゆく。さらには、ここで登場する猫柳という探偵がどのようなスタンスにて謎を解いていくのかということもわからず、通常のミステリとは異なる所に気を惹かれつつ読み進めていくこととなる。
すると徐々に、この猫柳という人物が犯人を指摘するよりも、犯行を抑えることを重視していることに気付かされる。実際、いくつかの犯行を体を張って阻止している。こうした行為は探偵ならば当たり前のようでありつつ、なかなかこういうスタンスのものは見られないので好印象を抱かせる。そうして、最終的に孤島での連続殺人事件の真相を猫柳が明らかにする。
事件の解については、やや納得がいかないところもあるのだが、猫柳という探偵のスタンスというものは十分に理解することができた。謎解きも重要ながら、猫柳がどのような意図により行動をし続けていたかというところこそが本作品の焦点と言えるのではないだろうか。今後もこの探偵には活躍して行ってもらいたいのだが、このようなスタンスであると事件を描きづらいのではないかと心配になってしまう。シリーズ化は無理かな??
<内容>
龍姫伝説の祟りが伝えられる稲木村の後鑑家。その家では代々20歳までに結婚しなければならないという因習があった。その四女である千莉のもとに龍姫を名乗る者から脅迫状が届いた。掟に従わなければ一族を追放する、と。ただし、千莉には未婚の姉が三人いて、彼女たちにもそれぞれ同じ脅迫状が届いたが何事もなく無事に生活している。とはいえ、不穏なものを感じた千莉に対し、探偵助手学部の君橋と月々は協力して、この事件の謎を解こうとする。そして、前回の事件から傷が癒えつつある探偵・猫柳十一弦も捜査に乗り出すこととなり・・・・・・
<感想>
事件が起きる前に犯行を防ごうとする探偵・猫柳十一弦。その存在感は、前作よりも今作の方が遺憾なく発揮されている。事件が起きた後にただ立ち尽くすばかりという探偵ではなく、事件を防ぐために奔走する探偵と助手の地道な活躍に新鮮味を感じることができる。
前作の様子から考えると、やはり探偵助手は二人では多いというところか。今作では一人は妙な立場へ(強制的にではなく積極的に)追いやられることとなり、語り手である君橋と探偵・猫柳がマンツーマンで活躍することとなる。どちらかといえば、この体制の方が自然と言えよう。
事件もさることならが、目次に書かれている章立てが面白い。まるで、事件解決から発端へと逆に話が進んでいくような描き方。実際話の展開は、そこまで逆転してはいないのであるが、それでも従来の探偵小説と比べれば、変わった構成であることは確かである。
話の流れとしては面白いのだがその分、謎となるべきものが少ない分量のままストーリーが発進していき、徐々に詳細が明らかになって行くという構成。決して最初から謎が存在していないというわけではないのだが、それでも謎解きというよりは、冒険もののように感じられてしまうのは仕方のないことであろう。
とはいっても十分著者の意図は伝わり、探偵・猫柳十一弦が活躍する事件というものが存分に描かれていたと感じられた。難しい趣向ではあると思えるが、是非とも今後とも続けてもらいたいシリーズである。ただ、この作品のタイトルの“失敗”という意味がよくわからなかったのだが・・・・・・
<内容>
父親を亡くし、失意にくれるハンス・アンデルセンであったが、変わり者の画家ルートヴィッヒ・グリムと出会うことによって不思議な事件に巻き込まれる。二人がハンスが亡くした人形を探していると、倒れていた女性を発見。彼女は自分が人魚だと言い、城で王子が殺害された事件の真犯人を探し、当時城で働いていた人魚の妹の汚名を晴らすのだというのだ。信じがたい話であるが、ハンスとルートヴィッヒは、限られた時間しかないという彼女を手伝うこととなり・・・・・・
<感想>
最初、話が始まった時には、“人魚”という存在に対しても、なんらかの解明が行われるのではと、これは期待できるミステリ作品かと思われた。しかし、話が進むうちに、“人魚”という存在ありきの物語であり、ファンタジー・ミステリという感じで物語が展開されてゆくことに。
ファンタジー・ミステリといっても、事件はきちんと存在しており、怪しい者が誰も出入りしていないなか、王子は誰に殺害されたのか? さらには、王子は城にいつ戻ってきたのか? ということが焦点となる。
と、その解明がなされるように話が進められていくのだが、ある意味一発勝負のトリックをぶち込んできたというような内容。それも北山氏らしいトリック。ただ、そのトリックのみがほとんどであったように思われてしまうところがやや物足りなかった。
“探偵グリムの手稿”というタイトルからして、シリーズものになるのかと思いきや、最後の展開ではそんな感じてもなさそうな。もう少し、ハンスとルートヴィッヒのコンビの活躍を見たかった気もするが。
<内容>
「かわいい狙撃手」
「つめたい転校生」
「うるさい双子」
「いとしいくねくね」
「はかない薔薇」
「ちいさいピアニスト」
<感想>
今回は北山氏がどんな作品を書いてきたのかと思いきや・・・・・・まさにタイトル通りの人外境のロマンス! ミステリ作品ではないものの、思いのほか楽しむことができた。
ちょっとした恋愛模様を描いた作品集なのだが、これが普通の恋愛ではない。タイトル通り、人ではないものとのロマンスが描かれているのである。それぞれの内容に触れてしまうとネタバレのような感じになってしまうので、先入観なしに読んでもらったほうがより面白いと思われる。
陽気さが全面に出たコミカルなものから、はかない恋を描いたものまで、色々な恋愛模様を楽しめる。特に恋愛小説というものが好きではない私にも楽しむことができた。誰にでもお薦めできる、手軽に読むことができる作品。
<内容>
書物が駆逐される世界にて、ひとり旅を続けるクリス。クリスはその旅の途中でユユという話すことはできないが、歌うことができる少女と出会う。さらには、少年検閲官エノとの再会。クリスはガジェットを回収するというエトに同行し、ユユが追われることとなった島へと向かう。その島はオルゴール職人たちが集い、彼らは日々オルゴールを作り続けていた。そして、彼らが島へと到着すると、次々と不可解な殺人事件が起こることとなり・・・・・・
<感想>
物語の導入部分はファンタジー系ながら、ミステリとしては大がかりなトリックを扱った派手な内容。最近のミステリではなかなか見られなくなってきた、大きな舞台での大きなトリックを成し遂げている。
一つ目の事件は、灯台の途中にある鉄骨にささった宙吊りの死体(百舌鳥の早贄のような感じ)。二つ目の事件は、倒れたビルのなかで発見される死体。これは、人の行き来が限定された建物のなかでの犯罪となっている。三つ目の事件は、塔のなかでの密室殺人。これらそれぞれが図入りで説明されている。
なかなか派手な事件を取り扱ったものであったのだが、作品全体としては今一つのようにも。まず、全体的に冗長であったかなと。特に導入部分の物語が結局のところ長い割には作品全体にあまり生かされてなかったという印象。さらには、それぞれの不可能殺人についても、解決がややあっさり目。終章で明かされる真相についても、あまり“やられた”という感はなかった。
魅力的な世界観、魅力的な不可能犯罪を用いている割には、どこか消化不良で終わってしまったように思われる。物語全体がうまく結び付けられているようでありながら、あまりしっくりとしていないような所も見られ、不完全というイメージが強くなってしまった。決して悪いミステリというわけではなかったのだけれども・・・・・・
<内容>
凪島で暮らす三人の中学生は、それぞれ別々の高校へと進学することとなった。神灯雪子は灯台守高校へ、千歳圭は探偵高校とも呼ばれる御盾高校へ、小舟獅子丸は怪盗高校とも呼ばれる黒印高校へ。別々の高校へと進んだ三人であったが、放課後や休みの日は行きつけの喫茶店“ナサ”に集まり、伝説の怪盗フェレスについての新たな謎について話し合い・・・・・・
「先生、記念に一枚いいですか」
「先生、待ち合わせはこちらです」
「先生、なくしたものはなんですか」
<感想>
“何が盗まれたのか?”を解明する斬新なミステリ・・・・・・とのことであるが、ミステリというよりはラノベ系の軽めな話という感じ。ラノベ系の物語としてはまぁまぁではないかと思えるのだが、ミステリとしては薄めかなと。
設定が架空の島に暮らす人々たちの、ちょっと変わった風習のなかでの物語。探偵となるべきエリートたちが集う御盾高校。体に黒い印を持ち特殊な盗みの技術を持つ者たちが集う黒印高校。そして中立的な島を見守る者役目が与えられる(?)灯台守高校。島にはこの三つの高校があり、主人公とその幼馴染たちは、それぞれ別々の高校へと進学し、互いの近況を報告しながら、島のなかで噂される不思議な事件に関わっていくというもの。
こうした設定ありき、キャラクター造形ありきのミステリ小説となっているのだが、個人的にはやや低年齢向きと思われる(講談社タイガから出ている小説って、全てそういう風に作っているのかな?)。その設定をくだらないと一蹴してしまう人にはなじめないと思えるのだが、それを受け入れさえすれば、それなりに楽しめるのではないかと思われる。とはいえ、主人公らのキャラクター造形がいまいち弱く感じられてしまうのだが、それは今後のシリーズを通して強調されることになってゆくのだろうか。
<内容>
「見返り谷から呼ぶ声」
「千年図書館」
「今夜の月はしましま模様?」
「終末硝子」
「さかさま少女のためのピアノソナタ」
<感想>
物語調で語られてゆくなかで、最後に思わぬ結末が待ち受けているという趣向の作品集。分かりやすい話と、ちょっと分かりにくい話がそれぞれあったかなと。
「千年図書館」は、古い図書館のなかで、引き継がれ、今でも淡々と続けられる仕事の内容。その仕事が何を意味するのか、最後に意外な結末がまっているのだが、それが未来を予想させるような物語で極めて印象的。
一番印象に残った物語は「終末硝子」。とある村で流行るようになった、死後に建てられる塔にまつわる物語。話の流れは特に・・・・・・という感じであったのだが、最後の一文で語られることになる村の行く末には驚かされた。
「今夜の月はしましま模様?」は、異星人とのコンタクト、そして侵略が語られる話であるのだが、そこにもう一つ別の要素が表れてきた故に、内容がぶれたような。
「見返り谷から呼ぶ声」と「さかさま少女のためのピアノソナタ」は、変化球気味の男女の恋を描いたような話。ただ、どちらも結末がややわかりにくかったところがもったいない。まぁ、特に「見返り谷〜」のほうは、あえて効果を狙った終わり方であったのかもしれないが。
<内容>
「人形の村」
「天の川の舟乗り」
「怪人対音野要」
「マッシー再び」
<感想>
久々の音野順シリーズ。もはや、どんなキャラクターなのかすら忘れてしまっていたが・・・・・・まぁ、それはともかくそれなりに面白いミステリを展開させてくれている。今回は4編掲載されているが、個人的には最初の2編は微妙で、後半のシンプルな2編のほうが楽しむことができた。
最初の「人形の村」は、とにかく説明が足りなすぎ。結局、裏で何が起きていたのかもよくわからないし。それらが事実なのかすらよくわからない。推理というか、単なる予想を繰り広げただけで終わってしまったという感じ。
本書のメインは表題にもなっている「天の川の舟乗り」だと思えるのだが、なんかすんなりというか、シンプル過ぎる展開で終わってしまっていた。最初に伏線らしきものが色々と描かれているのだが、それが捻りもなく、そのままという形で真相として表されている。もう少し、捻ったところがあっても良かったように思われる。
「天の川の舟乗り」と比べれば、ずっとシンプルな作品であるのだが、後半の「怪人対音野要」と「マッシー再び」のほうが、何気に楽しんで読むことができた。城で起きた怪人が起こしたと思われる真相を暴いたり、再び舞台となる真宵湖付近で起きたマッシーによる犯罪!? と思われた事件の真相と、シンプルなわりには味があったかなと。
そんなわけで前半まで読んだときは微妙と思えた作品集であったが、最後まで読み終えるとそれなりに楽しく読むことができたかなという感じ。まぁ、前の作品のことはよく覚えていないのだが、こんな感じでゆるく楽しむようなシリーズであったのかもしれない。
「人形の村」 髪が伸びるという人形を一晩見張ることとなった雑誌社アルバイトの男が体験した奇譚。
「天の川の舟乗り」 空飛ぶ船、真宵湖のマッシー、金塊をまつる祭、そして閉ざされた扉のなかで発見された死体・・・・・・
「怪人対音野要」 音野要が体験したイギリスの城のなかで起きた怪盗による殺人事件。そして盗まれたものは・・・・・・
「マッシー再び」 またまた真宵湖で起きた不可解な事件。犯人は果たしてマッシーなのか!?
<内容>
“月灯館”、そこは著名な推理作家・天神人が新鋭のミステリ作家たちが作品を書くために提供する山奥の館。作家デビューしたものの、その後まったく作品が書けなくなった孤木雨論は、編集者に勧められてこの館を訪れることに。そして、すでにそこに住まう5人の作家達。そんなある日、夕食の席で突如鳴り響く不気味な声。それは天神人を含む7人の作家を糾弾するものであった。そして、その罪を贖うべく、彼らは一人一人と密室のなかで殺害されてゆくこととなり・・・・・・
<感想>
久々に北山氏の長編ミステリを堪能。今まで、こういった本は講談社ノベルスから出ていたが、今後は星海社FICTIONSに移行していくのかな。今や本格ミステリはライトノベルス扱いか?
内容はガチガチの新本格ミステリ。大雪により、館に閉じ込められた作家たちが、ひとりまたひとりと殺害されてゆく。しかも全て密室で。館に残された偉大なる推理作家・天神人の15歳の息子ノアと、彼のワトソン役を買って出た作家・孤木雨論が密室の謎を解き、真犯人を見つけようとするのだが。
これでもかと言わんばかりに密室殺人事件を披露している。しかも、それらの出来も結構良いと思われた。意外とうまくできているなと。ただ、作品に込められた著者の思いが変に重すぎるような。本書はミステリ作家が登場する作品となっているが、そのミステリ作家の葛藤というか、複雑な思いが込められている作品となっている。しかもそれが、重要な動機として作品に練りこまれているのだ。
若干、作家の恨みつらみみたいなものが込められているようで、ある種微妙に思えるところはあるものの、全体的にはうまくできてると言えよう。ただ、最後の最後で放たれる一言は余計だったような。そこまで細かく整合性がとられていたとは思えなかったのだが。