魍魎の匣


男は匣を持ってゐる。
匣の中から声がした。
「聴こえましたか。誰にも云わないでくださいまし。」
男はそう云ふと匣の蓋を持ち上げ、こちらにむけて中を見せた。
匣の中には綺麗な娘がぴつたり入ってゐた。
ああ、生きている。
何だか酷く男が羨ましくなってしまった。
(本文より)



 木場修太郎は通りがかりでおきた駅での人身事故に、つい関わるはめになってしまった。派出所の巡査・福本の代わりに現場にいた少女から事情を聞くことになる。ホームに落ちて瀕死の重傷を負ったのは柚木加菜子という少女。そしてその時に一緒にいたのが事情聴衆をしている少女、楠本頼子。要領を得ぬまま木場は福本の運転する車に乗って頼子とともに加菜子が運ばれた病院へと向かう。

 看護婦に加菜子の様態を聞くと、予断を許さぬ状況であると。すると、そこにようやく加菜子の肉親とも思われる者たちがやって来た。増岡という態度の横柄な男と雨宮という気の弱そうな男、そして加菜子の姉と名乗る、柚木陽子。陽子は昔、木場があこがれている元女優の美波絹子であった!陽子は加菜子が助からないという状況を見越して、転院を決意する。「私の懇意にしている名外科医」の元へと。


 巷ではバラバラ死体の事件が報じられていた。そのころ、関口に編集者から短編集をまとめた単行本を出さないかという誘いを受ける。その折に関口は、若手幻想文学界の旗手といわれる作家・久保竣公を紹介される。関口は久保の強引さとアクの強さに閉口してしまうのであった。いつもどおりに。

 関口が家に帰ると、そこには別の編集者の鳥口が待ち構えていた。今、巷で噂のバラバラ死体をネタにひとつ話を書いてもらいたいと。彼らは取材と称して死体が見つかった相模湖へと乗り出す。相模湖では警察らが捜査を行っていたが、関口が前回の事件で知り合った青木、木下両刑事を見つけ彼らから情報を集めることに。

 その情報収集の帰り、彼らは道を間違えて奇妙な建物のある場所に出てしまうことに。それは黒く巨大は箱のような建物であった。そしてそこには何故か木場の姿が・・・・・・


 何日かが経ってから楠本頼子は加菜子は何者かにホームから押されたのだと福本巡査に訴える。ようやく思い出したのだと。彼女は加菜子は黒い服を着た何者かに押されたのだというのだった。

 福本はあのときの夜のことを思い出す。結局あの後、加菜子はすぐさま転院手続きをとり、「美馬坂近代科学研究所」という所に移された。そこは奇妙な正方形、いや立方体の巨大な建物であった。

 福本は頼子から加菜子に会いたいと懇願され、木場刑事に何とか頼れないものかと・・・・・・


 木場は一週間近くも単独行動をとっていた。加菜子がここに入院した後、加菜子に対する誘拐予告状が届いた。そして連絡を受けた神奈川県警の石井警部が指揮をとることになったのだが、それが頼りなく木場は勝手に自分も残ることに決める。理由はそれだけでなく、実は陽子の事が気になっているのであるが・・・・・・

 そんな木場の元に福本が頼子を連れてやって来た。そして頼子が加菜子に会いたいということで許可をとり、昏睡状態の加菜子の元へ・・・・・・。建物の中のテントのようなものの中でギブスに体を包まれ、体のあちこちから管を伸ばした加菜子。

 そのとき、診察ということで美馬坂博士と助手の須崎がやって来た。全員テントの外に出され、一人、箱のような機械を持ちテントの中に入る須崎。すると物音がした後、須崎の悲鳴が・・・・・・。テントの中に慌てて入ると、ベッドの上には誰もいなかった!

 加菜子は忽然と消えてしまった!!


 関口の家に鳥口が訪ねてきた。バラバラ死体事件の取材のほうは、事件自体が大きくなってしまったので逆に雑誌で取り上げることが出来なくなってしまったという。そこで今は、もう一つのネタとして御筥様と呼ばれる教祖がいる宗教団体について調べているのだという。関口は調度、単行本のことで相談しようと思っていたので鳥口を連れて中善寺に話を聞きに行くことにする。

 鳥口は中善寺に、自分はこの御筥様と呼ばれる霊能者の摘発を行いたいという。彼が調べたところによるとどうもうさんくさいところが多々あるようなのだ。そして鳥口がさらにつっこんで事件を調べることにより、御筥様の信者の名簿を買い取ることになる。その名簿を調べると、なんと今起きているバラバラ事件の被害者と共通していることを見つけ出したのだ。そして関口がその名簿を見てみると、そこにこの間、会った久保竣公の名を見つけるのであった。そして関口も事件に巻き込まれて行くことに・・・・・・


 木場は一週間の謹慎を命じられた。加菜子が消えた後、須崎の死体が焼却炉の前で発見され、雨宮が失踪していた。その後、加菜子の行方はわからない。

 木場の元に部下の青木が訪ねてきて、バラバラ事件とあわせて事件の経過などを彼に報告する。どうも、加菜子はさる財界の大物の血縁であるようだと青木は語る。

 木場は単独で捜査を再開する。知人の監察医の里村を訪ねてバラバラ事件のことを訪ねてみる。監察医が云うには、どうもバラバラにされた死体は生きているうちにバラバラにされたようだと・・・・・・


 探偵の榎木津礼二郎は父親から頼まれ、とある依頼人に渋々会うことになる。その依頼人とは柴田財閥のお抱えの弁護士で増岡というものであった。増岡は榎木津にさらわれた柚木加菜子の行方を探してもらいたいというのだ。加菜子は柴田財閥の創始者である柴田耀弘の嫡男・弘明と柚木陽子の娘だというのだ。そして弘明はすでに戦争で亡くなっている。当時、弘明と陽子の仲を耀弘は認めず、陽子は娘を連れて出て行ったのだが、耀弘は年をとり身内がいないことから寂しさを覚えたのか、全財産を加菜子に譲ると言い出したのだという。そして、その耀弘が亡くなったというのだ。ただし、柚木加菜子が本当に弘明の血を継いでいるのか、はっきりしない部分もあるという。しかし、とにかく今は柚木加菜子を見つけ出すのが先決であるというのだ。

 榎木津は依頼を結局引き受けることにする。


 関口と鳥口が互いの調査結果を報告しに、京極堂へと行くと、そこには榎木津がいた。榎木津は彼らに、例の依頼のことを話す。そして関口も監察医から聞いた話を伝え、鳥口は御筥様の身辺調査の結果について報告する。御筥様の本名は寺田兵衛といい、箱造り職人であったという。ある日、寺田は先代が残した箱に入っていた壺の中の紙に「魍魎」と書いてあるをみて、急におかしくなったのだという。

 京極堂は「魍魎」ときき、狼狽の気を見せる。そして彼らが話し合う中、木場までもがそこに現れる。


 鳥口は引き続き、御筥様の追跡調査をすることに、関口と榎木津は楠本家を訪ねることにする。奇しくもバラバラ殺人の新たなる被害者に、楠本頼子がなる可能性があるのでは?と、信者名簿から予想したのだった。楠本家の近くで鳥口は、なぜかそこに久保竣公の姿を発見する。そして榎木津は久保に向かって、「君は柚木加菜子を知っている」と断言する。知らないという久保に加菜子の写真を示すと、とたんにうろんな表情になる。久保は心当たりがあるかもしれないから写真を貸してくれと・・・・・・

 久保を残し、楠本家にいき、頼子の母、君枝から話を聞く。彼らは、君枝から、御筥様の信者になったという身の上話を聞くことに・・・・・・



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