三津田信三  作品別 内容・感想1

ホラー作家の棲む家   6点

2001年08月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
「怪奇小説」の執筆を目論む編集者の三津田は、偶然発見した人形荘に惹かれて住むことに。が、絡みつく「ぞっ」とするような感覚。身に覚えのないホラー大賞への応募原稿と執筆を始めた連載小説の制御不能な展開。さらに愛読者との付き合いまで始まって、日常は怪異に淫していく。

<感想>
 構成がいい! 読ませる!
 メタミステリ的な要素もあり、いろいろ楽しめる。
 これからホラーの方へと進むのか、違った形のミステリを見せてくれるのか、これからが期待。


作者不詳 ミステリ作家の読む本   7点

2002年08月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 奇妙な古書店で手に入れた曰くつきのミステリ同人誌には怪異が宿っていた。
 霧の中たどり着いた館で見たドッペルゲンガー/見世物小屋から消えた赤ん坊/下宿における屈折した青年の殺意/一人の女性をめぐっての毒殺劇/残酷で屈折した高校生等が殴殺された事件の恐るべき記録ノート/時計屋敷での謎の死喜劇無残に切断された首が招く無人島の殺戮。
 謎の古書『迷宮草子』に宿る七つの話。本格に徹した幾多の謎に現実は絡めとられ、身の毛もよだつ終幕が襲う。気宇壮大なミステリ曼荼羅。

<感想>
 奇書と言ったらいいすぎかもしれないが、ミステリ愛好家ならば楽しめること間違いなしの構成になっている。著者がホラー作家としてのスタイルを崩さずに、ミステリに対するこだわりを余すことなく一冊の本に載せている。ホラーとミステリの見事な融合であるといっても過言ではあるまい。

 内容は、主人公等が手に入れた本『迷宮草子』には七つの短編が掲載されており、そのひとつひとつを読んだとき、その話に隠されている謎を説かなければ怪異が起こる! といった話しの流れで進んでいく。そのひとつひとつの短編の謎解きが非常に面白い。

 第一話「霧の館」は、題名そのものから連想されるミステリ世界がそのまま描かれている。といっても読み始めたとき謎解きの要素のことなど考えていなかったので、ホラーとして読んでいったのだが。そして後の解釈ではなるほどと。

 第二話「子喰鬼縁起」こちらは特にホラーとしての要素も強い。すべてが明らかになったとき、薄ら寒ささえも感じさせ・・・・・・

 第三話「娯楽としての殺人」、第四話「陰画の中の毒殺者」の二編はフーダニットにこだわったミステリ小説となっている。それだけにきれいにまとまりすぎたという感もあるのだが。ただ、「娯楽の・・・・・・」の解決の仕方の視点がなかなか面白かった。

 第六話「時計塔の謎」は青春ミステリとでもいったところか。それでもなかなかあなどれない話となっている。

 第五話「朱雀の化物」、第七話「首の館」のニ編はクリスティの「そして誰もいなくなった」にこだわった二編。このミステリの形式を定義付けての解説解答というのもなかなか面白い。

 という具合にそれぞれ多彩な色のミステリを見せてくれる。構成としても挑戦としてもこれはほっておけない一冊である。そしてミステリだけではなく、じわじわと肉迫してくるようなホラー的要素にもぜひ注目してもらいたい。これは今年のベストとまではいわないが、注目作のひとつには間違いない。


蛇棺葬(じゃかんそう)   6点

2003年09月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 幼い頃に父に連れられ、突然暮らすことになった田舎の旧家・百巳家。未だに因習が続けられる不気味な屋敷をとりまく世界の中で私はさまざまな恐ろしい事件に出くわす。夜中、<百蛇堂>にて何者かに追いかけられたり、父が百巳家に伝わる葬送儀式の祭に突如失踪したりと・・・・・・。そして成長した私は、またその百巳家へと足を向けることに。

<感想>
 ミステリーというよりはホラー色が強い作品となっている。田園ホラーとでもいえばいいだろうか。

 突如、父と二人で田舎へと引っ越すことになった主人公の精神的な孤独、田舎ならではの因習、そしてその因習を戯言だとは一概に言い飛ばすことのできない奇怪な人々と不気味な出来事。それらの事象を田舎(というよりもむしろ隔絶された一地域)ならではの情景が薄ら寒さを増す効果をかもしだしている。

 そして本書での見所と言うか、一番恐ろしく感じられたのは、<百蛇堂>という小屋の中での一夜。何かを引きずるような音をたてる何かに追いまわされる様相は鳥肌がたちそうになった。そしてミステリーとして見せてくれるところは、葬送の儀式の祭に閉ざされた小屋の中からの消失という事件。これに解釈を突ける事により、本書はホラーミステリーというジャンルとして成立することになる。

 興味深い作品となっているものの、一つ付け加えるとすれば、全体的に冗長だということ。序盤は動きが遅い分、かなり長く感じられた。

 ここで全体的な印象をまとめたいところなのだが、11月に“もうひとつの物語”という形で「百蛇堂」という作品が出るようである。今回の作品ではまだすべたが語られていないような印象がある。であるならばまだ結論を出すのは早いかもしれない(特にミステリーとしては)。ということで、感想はいったん次回作に持ち越し。


百蛇堂  怪談作家の語る話   6点

2003年12月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 作家・三津田信三は龍巳という男から、彼が体験したという“百蛇堂”を巡る話を聞かされる。三津田はその話に深く興味を持ち、この話をひとつの企画として出版しようと考える。しかし、三津田を含めたその原稿を読んだものが次々と怪異な現象にあうことになる。三津田はその怪異現象の原因をつきとめようとするのだが・・・・・・

<感想>
 普通に考えて、本書はホラー作品であるといえる。しかし、その中にはミステリーの要素が含まれているといえる。とはいうものの、本書はあくまでもミステリーとして書かれたものではないと思われる。では、どういったところがミステリーめいているのかというと、不可思議な現象を現実の事象として解釈しようという姿勢がミステリー的に見えるのである。本書では奇怪な出来事に対して、それから逃げ、恐れおののいて終わりというわけではなく、それは現実的に解釈できるのではないかというスタンスを立てている。これは物語のなかで主人公の命にかかわる、ありえないような出来事が起こるのだが、(例に挙げれば「リング」のように)その事象を現実的なものに当てはめて考え、なんらかの打開策があるのではと考えていくのである。そういった部分がミステリー的であると感じられるのだ。また、それだけではなく、本書では時系列や事の起こりなどが意識的に系統立てて書かれており、かなり計算された本であるとも感じられる。そういったことより、この本はホラー小説でありながらもミステリー的でもある小説だといいたくなるのである。

「百蛇堂」を読んでから思ったのだが、前作「蛇棺葬」は何か読みづらさを感じた。しかし、それは語られた話であるがゆえのものであり、計算されたものなのかもしれない。そしてこの「百蛇堂」のほうは分厚いにもかかわらず、かなり読みやすかった。これも著者の狙った効果の一つであるのかもしれない。

 また、序盤に書かれているホラー関連の本を出版するにあたっての編集部の内情などが書かれている部分はなかなかの見ものである。 これから読もうという人は必ず「蛇棺葬」からどうぞ。


シェルター  終末の殺人   5点

2004年05月 東京創元社 ミステリ・フロンティア

<内容>
 6人の男女が火照陽之助の持つ核シェルターの取材に訪れ、見学をしていた。その見学をしていたとき、空に異変が起き、取材に訪れていたものたちはあわててシェルターの中へと逃げ込むことを余儀なくされる。そして閉鎖された空間の中での生活が始まろうとしたとき、その静寂を打ち破るかのように、シェルターの中に閉じ込められた者たちが、ひとりまたひとりと殺されてゆく。この極限状態の中で、犯人は何故人を殺さなければならないのか? そして最後に生き残るのはいったい??

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<感想>
 核シェルターに閉じ込められた中での連続殺人事件を描いたもの。“孤島もの”とか“山荘もの”というジャンルというよりは、「そして誰もいなくなった」型の作品といってしまったほうがよいであろう。

 最初に登場人物らがシェルターに閉じ込められるところから物語は始まるのだが、そこでまず違和感を感じてしまった。平和な世の中にあって、突然外で異常事態が発生したからといって、即核戦争勃発と考えるのはどうだろうかと思われる。どちらかといえば、誰かに意図的に閉じ込められたのでは、と考えたほうがしっくりくるような気がするのだが終始そのような考え方はなかったようである(真実はどうであるのかは読んで確かめてもらいたい)。

 前述のような部分も含めて、本書はミステリー作家が書いたミステリーというよりは、ホラー作家が書いたミステリーであるなというように思わされる部分が多々あった。本来、こういうミステリーであれば、こういったところでもっとあれこれ議論されるのではないかとか、もっとこういうことにこだわるのではないかとか、あれやこれやと茶々を入れながら読んでいた。

 まぁ、展開に関してはおおむね悪くないとは思うのだが、結末に関しては不満が残るものであった。このような終わり方をしてしまうと、結局今までの議論はなんだったのだろうという感じになってしまう。ミステリーとして話を進めたのであれば、もう少しミステリー色を強めた決着の付け方をしてもらいたかった。こういう物語とするのであれば、最初からホラー作品という位置づけとして書いたほうがよかったのではないかと思われる。


厭魅の如き憑くもの   8点

2006年03月 原書房 ミステリー・リーグ

<内容>
 その村は憑き物筋の“谺呀治家”を中心にいくつかの分家に分かれたなかで、水面下で対立していた。とはいえ、昔から村全体で“憑き物”という存在自体を信じきっており、“カカシさま”というものを信仰していた。その村では昔から“神隠し”などの不思議な出来事が多々起こっていたというが、そういうことでさえごく普通に受け入れられていた。
 そしてある日を境にして、村で連続殺人が起こることに。殺害されたものは皆“カカシさま”の衣装を着せられており、口の中に何かが突っ込まれていた。それぞれの事件が誰も犯行を犯せないかのような不可能な状況を示していたのだが、まさか本当に“カカシさま”のたたりのせいで殺されたとでもいうのか・・・・・・

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<感想>
 これは今年度前半期の国内本格ミステリの中では随一を誇る作品といっても良いであろう。本書は作品全体がどちらかといえばホラーよりのように感じられたのだが、事件の解決には本格ミステリとして驚愕の真相が用意されていた。

 雰囲気としては横溝正史のような作品という感じがする。村にはびこる因習を背景にして連続殺人事件が起こるというもの。しかし実際に読んでみれば横溝作品とは異なるものを感じ取れるはずである。どういうことかといえば、その村に伝わる因習というか、その背景についてが事細かく書きつくされているのである。例えば、登場人物の相関図が掲載されているのであるが、このひとつの物語だけにここまで複雑な背景を作る必要があるのかと思うくらい書き込まれている。さらには、村で昔起きた事件が登場人物によりホラーテイストでこれもまた細かく描かれている。

 とにかく、このような描き方によって、途中殺人事件が起きているにも関わらず、事件そっちのけで民俗ホラーを堪能させんとばかりに話が繰り広げられてゆくのである。

 という書き方によって、このような背景の中で事件が本当に現実的なものとして解決できるのかと心配していたのだが、その心配は杞憂に終わった。真相に関しては見事にやられたという他はない。はっきりいってネタだけ聞けば、さほど複雑なトリックを用いたというものでもないのだが、それまで語られたホラーテイストの伝承により、そのような解決が成されるとは全く考えることはできなかった。ある意味、その“ホラー”の中に包み隠されたことによって、効果が強められたと言ってよいであろう。

“ホラーと本格ミステリの融合”などと言うと、最近では色々な小説に用いられていて、胡散臭く響くかもしれないが、本書においてはこの言葉にも文句なくうなずく事ができるであろう。いや、これは本当に今年の大本命になる可能性もあるのではなかろうか。


凶鳥の如き忌むもの   7点

2006年09月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 怪異を求めて日本中を旅する怪奇作家・刀城言耶は瀬戸内海にある鳥杯(とりつき)島へと行く事に。その島で行われる“鳥人の儀”という儀式に参加させてもらえることになったのである。しかし、その儀式は18年前に行われたきりであり、その前回行われたときには6人の人間が消失しているのだというのだ。
 そして、18年ぶりに刀城の目の前で行われる事となった“鳥人の儀”。今回の儀式でも、閉ざされたはずの部屋から巫女の姿が消えうせて・・・・・・

<感想>
 今年、原書房から出版された「厭魅の如き」に続いて、同じシリーズの2作目となる本書「凶鳥の如き」。同じシリーズといっても主人公・刀城言耶が出てくるという共通点のみで、別に話がつながっていたり、関連性があるということはないので、独立した一冊の本として楽しめる。

 本書を読んで感心するのは、よくここまで色々と調べたなぁ(もしくは考えた?)ということ。ミステリ作家というよりも怪奇作家としての比重が高い三津田氏ならではこその、怪奇的要素に対する書き込みの分量がとにかくすごい。今回は“鳥人の儀”というものが行われる場所、背景、儀式そのものなどに対する設定がとにかくこと細かく描かれている。

 ただ、細かく描かれているのはいいのだが、この辺を楽しめるか楽しめないかによって、本書に対する見方も変わってくるのではないかと思われる。なにしろ、そういう設定などに本書の半分が費やされているのだから・・・・・・・これは読んでいてかなり冗長とも感じられた。

 そして、半分が終わったところでようやくミステリらしき展開へと突入していく。この作品では密室(実際には開かれている部屋ではあるのだが)からの消失を扱ったものとなっている。そのトリックに対する感想はといえば・・・・・・ちょっと“バカミス”っぽかったかなと。ただ、バカミスとは言いづらいような凄惨さがあるので、気軽にそうもいえない雰囲気がある重厚な作品とも言えなくもない。

 ただ、結論が出てしまえば、ある意味最初からその解答が目の前にあるといっても過言ではないものなので、目から鱗が落ちるというほど納得づくの解決ではあった。

 本書も「厭魅の如き」に続いて、読み手を選ぶようなミステリとはなっているのだが、それでもこれを読み逃してしまうのは惜しいのではないかと思われる。今年は「厭魅」のほうを個人的なベスト10に入れたいと思っているので、こちらは脱落する事となるだろうが、それでなければ年間のベスト10には入れておきたいような作品である。


首無の如き祟るもの   7点

2007年04月 原書房 ミステリー・リーグ

<内容>
 奥多摩に代々続く秘守家。その地方では、昔からの言い伝えにより、首無しの祟りによって秘守家の男は病弱で死亡する者が多いという。そのような言い伝えの残る村で“婚舎の集い”の儀式の際に突如、連続首無し殺人事件が起こることに。しかも10年前にも、同じような奇怪な事件が起きた事があるのだという。その二つの首無し事件にはどのような関わりがあるのか・・・・・・そして真犯人の正体とはいったい・・・・・・

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<感想>
「厭魅の如き」「凶鳥の如き」に続き、また三津田氏がやってくれた。感覚的には道尾秀介氏の「骸の爪」を思わせるような内容。つまり、“腑に落ちた”感の強いミステリとなっている。

 今作では時間を遡り、同じ場所にて時代を経て、2度起きた事件について検討するというものになっている。その2度起きた事件と言うのは、どちらも“淡首様”をまつる村での“首無し”殺人である。

 序盤、読み進めているときには、他の作品と同様に、地域の風習について長々と語られており、そういったところはなんとも読み進めづらい。それでも中盤以降になって、事件が動き出してからはかなり読み進めやすくなっている。とはいえ、「厭魅の如き」に比べれば格段に読みやすくなっているので、続けて作品に触れてきた人にとっては何の障害にもならないと思われる。

 そうしたなかで、本書の欠点と思われる部分は、起こる事件について、読者に対する誘導が何もなされていないということ。1度目の“首無し事件”とそれから時間をおいての2度目の“首無し事件”が物語上展開されて行くのだが、不可解なまま、ただ流れて行くだけという感じで進められて行く。

 というのも、通常のミステリであれば、何故殺害されるのだろうか? とか、誰がやったのだろうか? とか、ミスリーディングを誘う要素があると思うのだが、この作品においてはそういったものがほとんど見受けられなかった。

 殺害された者が、強烈に誰から恨まれていたというようにも思えないし、必要に迫られて事件を起こさなければならない人物というのも、読んでいる途中では見えてこないのである。そういうわけで序盤から中盤、事件がただ進行しているだけのように感じられてしまい、これも読み進めづらい要素の一つであったのではないかと思われる。

 ただし、最後の事件の真相が暴かれるという部分に関しては、これはただただ感心させられたという他に言いようがない。不可解としか言いようのない事件が、ある一点についての疑問を問いただすだけで、瞬く間に事件の真相が解かれていくという手法は見事であった。

 さらには、読んでいる最中には思いもよらなかった、数多くの伏線がちりばめられており、色々な方面から真犯人を示唆しているというところにもまた驚かされる。そして、本書が“手記によって描かれている”というところもまたミステリの要素として回収されており、多重構造ぶりもうまく出来ている。

 と、そういったわけで、部分部分には不満もあるのだが、これだけ見事な結末で締めくくられれば、もはや文句の言いようはない。最近、書かれている三津田氏や道尾氏による、ミステリとホラーが融合した本格推理小説の形式のなかではひとつの到達点といってよいのかもしれない。


スラッシャー 廃園の殺人   6点

2007年06月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 ホラー作家の一藍が全財産をなげうって作り出した廃墟庭園。そこでは以前から行方不明事件が頻発しており、ホラースポットとして有名になっていた。ビデオ製作会社プロフォンド・ロッソのスタッフは役者達を引き連れ、その廃園で恐怖映画の撮影を行う。しかし、彼らの背後から何者かが忍び寄り、スタッフたちがひとりひとりと惨殺されてゆく。その殺人鬼の正体とは!? そして、最後まで生き延びることができるのは・・・・・・

<感想>
“ホラー”と“映画”と“ミステリ”という要素が集められて作られたサスペンス・ホラー作品。ただし、ミステリという観点に関してはやや弱い。“映画”という要素に関しては・・・・・・それは実際に読むことによって堪能していただきたい。

 いや、このような血飛沫が飛ぶホラー作品を読むと、綾辻行人氏の「殺人鬼」を思い出す。本書は「殺人鬼」の第1作に比べれば、印象度の点では劣るものの、それなりのミステリ的要素を取り入れつつ、独自の世界観を出したホラー作品となっている。

 本書を読んでいて気になったのは、部分部分でスポットが当てられる場面での幼稚さのようなものが感じられること。どうも登場人物が変に説明口調であったり、違和感を感じたりと変な拙さを感じられるところが多々見受けられる。では、その拙さは作家の力量によるものなのかと思いきや・・・・・・なるほど、そういうことなのかと最後の最後で全てが明らかにされるという仕掛けがなされている。

 というように、それなりに見るべきところのある作品となっている。誰もを十分に納得させられる作品かと言えば、そうではないところもあるかもしれないが、軽く読めるサスペンス・ホラー作品というくらいの位置付けでよいのであろう。

 ちなみに三津田氏が以前にかいた「シェルター 終末の殺人」とは若干前作に出てきたものの名前が語られるくらいで、本書との内容においてのつながりはほとんどなく、この作品は独立した作品として読めるものとなっている。


禍 家   6点

2007年07月 光文社 光文社文庫

<内容>
 中学生となる棟像貢太郎は両親を交通事故で亡くしたため、祖母と二人で東京郊外の家に引っ越してきた。初めて訪れたはずの家なのに貢太郎は何故かこの家、この場所を知っているような気がしてならなかった。そして、その家に住み始めたとたん、貢太郎にさまざまな怪異が迫り来ることに・・・・・・

<感想>
 ミステリ的な要素もあるのだが、基本的にホラー作品とみなすほうがよいのであろう。純然たるホラー作品として読んでいくと、終盤でのミステリ的な要素をなおさら楽しむ事ができるのではないだろうか。

 読み始めるとすぐにホラー作品として描写が続いていくものの、なんでもかんでも驚いていたら身が持たないのではないかと余計な心配をしたくなってしまう。私は特に霊感とかはないようなので、この作品のような怖さや不気味さというものを感じることはないのだが、似たような体験をしてしまうという人はいるのだろうか。このような事象に共感できない者にとってみれば、ちょっと大げさ過ぎやしないかと感じられてしまう。それにここまで怖がっていながらも、よくその家の中で日々を過ごす事ができるなと、そちらのほうが不思議に思えてしまう。

 個人的には、この作品の内容がホラーのみに終始することなく、それなりに事象の理由付けをして(たとえ超常的なものであっても)、あいまいなままで終わらせなかったというところを評価したい。また、ホラー作品を主に読んでいる人にとっては、その人なりの別の評価をくだすことができるのではないかと考えられる。

 よって、ホラーのみ、ミステリのみというジャンルに関わらず、とにかく手にとって読んでどのように感じる事ができるかを試してもらいたい本といえよう。


山魔の如き嗤うもの   7点

2008年04月 原書房 ミステリー・リーグ

<内容>
 郷木靖美は生まれ故郷にて“成人参り”の儀式を行うこととなった。それは独りで山へ登るという単純なものであったのだが、昔からその山には“出る”という言い伝えが・・・・・・。靖美は一本道のはずの山中で迷い、偶然一軒屋にたどり着き、その家に住む家族のもてなしを受ける。しかし翌日、靖美が起きると家の中には誰もいなかった。家の中から閂がかけられた状態であるにもかかわらず。
 その事件をきっかけに、精神的に危うくなってしまった郷木靖美。かれの親戚にたのまれて刀城言耶は山で起きた怪異を調べる事に。刀城がその地へとたどり着いたとたん、六地蔵にまつわる童歌を見立てた殺人事件が起こり始め・・・・・・

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<感想>
「厭魅」や「首無」ほどのインパクトはないにしろ、本書も端正に描かれた、出来の良い本格ミステリ作品であることに間違いはない。さらには、今までのシリーズ作品の中では一番読みやすかったとも感じられた。

 今作では山の中で起きた不思議な失踪事件から、連続見立て殺人へと発展していく様子が描かれている。閉ざされた室内からどのようにして、外へ出たのか? そして限定された立地のなかで次々と起こる連続殺人事件。それぞれの事件がどのようにして起きたのか? さらには、それらの事件が意味するものは何なのか?

 最後に刀城言耶によって犯人が明かされたときに、全ての謎が明らかになる。

 今作はオーソドックスな探偵小説といえながらも、真相について感心させられてしまった部分がある。

 それについてはネタバレになるので、反転して表示することにする。
<ネタバレ>↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
 この作品を読んでいる最中感じたのは、事件の被害者であり主要人物ともいえる人々について、あまり詳しく描かれていないということ。このへんはもっと、ぞれぞれの人物についてきちんと描いたほうが話しに厚みが出るのではないかと感じていた。

 しかし、真相が明らかにされることによって、実はこの作品の主題たる部分は冒頭にある郷木靖美によるプロローグにあり、その後の部分はそのプロローグで起きた事件の復讐がなされていたに過ぎないということ。ゆえに、プロローグに出てきた人のみこそが主要人物ともとれるのだということ。

 そう考えたときに、うまく著者の手の上で踊らされてしまったという想いを強く感じてしまった。

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(ここまで)

 ということでインパクトこそ少ないものの、本書はホラー作品たる怪しげな雰囲気とミステリ作品たる謎がうまくかみ合った三津田氏ならではの作品といえよう。

 ただ、読みやすさで言えば、この「山魔」から読み始めて「首無」、「厭魅」と読み進めていったほうが一連のシリーズとしてはとっつきやすいかもしれない。


十三の呪   死相学探偵1   6点

2008年06月 角川書店 角川ホラー文庫

<内容>
 拝み屋の祖母のもとで育てられた、人の死を見る力を持つ、弦矢俊一郎。俊一郎は二十歳になり、ひとり立ちを決意し、その能力を生かした探偵業を営むことに。彼の最初の依頼人はIT事業で成功した青年と婚約したという女性。婚約した彼の家族を不穏なものがとりまいているようだというのだ。何の兆候も見えない女性に対してアドバイスすることもなく、送り出す俊一郎であったが、その後婚約者の男性が急死してしまい・・・・・・

<感想>
 かなりうまくまとめられているホラー系ミステリ作品であると思える。なかなか読みやすく、三津田氏の作品を最初に読むには最適の書といえるかもしれない。

 本書は読み終わってみればホラー系ミステリ作品と言えるものの、読んでいる途中はどういうスタンスで、ホラーとミステリ、どちらに重点を置いているのかがわからなかったので、ただただ起こった事象を追っていくというだけの読み方になってしまった。こういったジャンルの本は少ないためか、探偵がどのような方法・手順にて事件を解決していくのか検討がつかなかったので、読んでいる側としては先の展開を見通すどころか推測もできない状況であった。

 ただ、終わってみれば純然たるミステリとはいえないものの、“十三の呪”というタイトルにかけた、うまい構図に仕上げられている作品であるということが伝わってきた。どちらかといえば、なんとなく倉阪鬼一郎氏が描きそうなネタという気がしないでもない。

 とにもかくにも、今後も楽しめそうなシリーズであることは間違いない。次回作はどのようなネタで楽しませてくれるのかと、期待して待つこととしよう。


凶 宅   

2008年09月 光文社 光文社文庫

<内容>
 小学四年生の日々乃翔太は両親と姉妹の5人家族で新しい家へと引っ越してきた。しかし、この家は“何かおかしい”。翔太は家の中で何者とも知れない人影を見たり、屋外の山に不穏なものを感じ取る。そして、近隣に住む人たちも何か異様な雰囲気を・・・・・・。ある日、翔太はここに住んでいた事のある女の子の日記を目にすることに! そこには、この家からすぐに逃げろと!!

<感想>
 毎年恒例(?)となりつつあるような三津田氏による光文社文庫書下ろしシリーズ。今回は新しく引っ越してきた家族に忌まわしい恐怖が襲うという内容になっている。

 今作は特にホラーよりの作風となっている。前作の「禍家」と比べれば、こちらのほうが純然たるホラーと言ってよいであろう。
 小学四年生の翔太が近所に住む新しく友達となった同年代の男の子の力を借りて、この家にまつわる忌まわしい謎をあらわにし、家族を助けようとする話である。

 また、本書は以前に三津田氏が書いた「蛇棺葬」「百蛇堂」の外伝的な作品とも取ることができる。特に、直接話が結びつくことはないので両者を読み比べる必要はないのだが、三津田氏の作品を読み続けている人は、あぁ、あの祟りがこんなところにも影響を及ぼしているのかなどと感じ入る事ができるであろう。

 今作は特にホラーという内容のみならず、友情や家族・姉妹に対する愛情などが描かれている作品とも言えよう。こういったヒューマニズムを強く感じ取ることのできる内容のものは、今まで描かれてきた三津田氏の作品群の中では珍しいといえるかもしれない。


四隅の魔   死相学探偵2   6点

2009年03月 角川書店 角川ホラー文庫

<内容>
 城北大学に編入して月光荘の寮生となった入埜転子は、入寮後すぐに戸村に誘われ、百怪倶楽部に入ることとなった。百怪倶楽部とは、ちょっとしたホラー系のサークルであり、入埜は倶楽部に馴染むことができ、充実した学生生活を送っていた。そんなある日、戸村の誘いにより百怪倶楽部で“四隅の間”という事件を行うことになり、深夜地下室に部員5人が集まることとなる。そして“四隅の間”を行った後、結果としてひとりの部員が死亡し・・・・・・

<感想>
 このシリーズは取っ付きやすく、読みやすい。

 今作での題材は、部屋の四隅に人が立ち、次の角の人の所まで行ってタッチし、タッチされた人はまた次の人へという例のアレ。なんでも名称は“ローシュタインの回廊”とか“雪山の遭難”などと言うらしい。この題材は有名であるので聞いたことがある人も多いかと思われる。それをコックリさんのようにひとつのホラーゲームのような形にし、ゲーム感覚で行ってみた学生たちに悲劇が起こるという内容。

 わかり易い題材を扱い、わかりやすいホラーミステリを展開させたというところが今作での一番のポイントか。ホラーよりの作品のようでありながら、きっちりとミステリ的な解釈を添えているところもよいと思われる。また、この作風であれば完全にホラーよりになったとしても特に問題はないであろう。

 シリーズ第2作ということで、前作ほど主人公の弦矢俊一郎は登場しないけれども、今作ではちょっとした成長が見られるようになっている。この作品だけ読んでも全体的な背景がわかりにくいところもあるかもしれないのでシリーズとして読み続けてもらいたい作品。三津田作品のなかでは手軽に読めて、手軽に楽しめるシリーズ。


密室の如き籠るもの   7点

2009年04月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 「首切の如き裂くもの」
 「迷家の如き動くもの」
 「隙魔の如き覗くもの」
 「密室の如き籠るもの」

<感想>
 3つの短編と1つの中編が掲載された作品集。タイトルでわかるとおり、どれも刀城言耶が活躍シリーズ。

 3つの短編に関しては、どれも1発ネタという感じがするので、これというほどのものはなかった。

「首切」は凶器の所在について(バカミスっぽいけど実際にできそうなトリック)。
「迷家」は怪談風のミステリだが、もっと怪談の要素が強くてもよかったと思えた。
「隙魔」は幻想的でありつつも、結局はアリバイトリックもの。

と、短編については普通であったが、中編「密室の如き籠るもの」はかなり良い作品であった。

 こちらはタイトルが示すとおり、密室殺人事件を扱ったもの。しかも和風レトロな雰囲気にも関わらず、扱う題材が降霊術という洋風のもの。ただし、降霊術とは言わずにコックリさんという表現。

 この作品、優れているとはいえ実際に扱っている題材は特に目新しいものではない。それどころか、言ってしまえば極めて普通のトリックを扱っている。

 ただ、その題材の扱い方が相変わらずうまい。独特の雰囲気を出しつつ、注目点を絞り、和風怪談の雰囲気にとりこむことによって独特の作風を表すことに成功している。今作での注目点は何と言っても、被害者が密室に籠る直前に見せた驚愕の表情の意味は? というもの。これが最終的に真相があらわになったときに、なるほどと思わせるものになっている。

 というわけで、今作の三津田作品も十分読み応えのあるものであった。まだまだこれからも良い作品を出してくれるだろうと期待し続けてよさそうだ。


赫 眼   

2009年09月 光文社 光文社文庫

<内容>
 「赫 眼」
 「怪奇写真作家」
   怪談奇談・四題(一)旧家の祟り
 「見下ろす家」
   怪談奇談・四題(二)原 因
 「よなかのでんわ」
 「灰蛾男の恐怖」
   怪談奇談・四題(三)愛犬の死
 「後ろ小路の町家」
   怪談奇談・四題(四)喫茶店の客
 「合わせ鏡の地獄」
 「死を以て貴しと偽す」 死相学探偵

<感想>
 三津田氏による怪奇短編集。短編から、ちょっとした怪談までさまざまな作品が収められている。

 過去の作品と照らし合わせれば、長編の「ホラー作家の棲む家」「百蛇堂」らのモチーフになったかのような内容のものを見受ける事ができる。

 三津田氏の作品は今のところ全て読んでいるのだが、個人的にはどうしてもミステリ作家として作品を読んでしまう。ゆえに、純然たる怪談作品にはあまり感慨がわかない。別に怖がりではないことはないと思うのだが、ホラーというものを文章で読んでいても想像力が乏しいためか、あまり怖いとは思えないのである。ゆえにどうしてもミステリ的な作品にばかり注目してしまう。

 注目したい作品はミステリ的というか、または違った言い方をすればオチが付けられている作品である。

 そうした観点で見ると、死相学探偵シリーズものの短編である「死を以て貴しと偽す」が特に印象深い。ありがちな作品と言えないこともないのだが、うまくできていると感じられた。

 また、乱歩の作品をモチーフとした「合わせ鏡の地獄」や、露天風呂で出会った老人から聞く奇怪な話を描いた「灰蛾男の恐怖」などが興味深かった。


水魑の如き沈むもの   7点

2009年12月 原書房 ミステリー・リーグ

<内容>
 奈良山中の村で雨乞いの儀式が行われるということで、作家の刀城言耶と編集者の祖父江偲は村へと向かう。ただ、その村では、かつて儀式の最中に不可解な死を遂げた者がいるというのである。また、村では儀式を司る神社の最高実力者である水使龍璽の元に、戦後満州から逃れてきた水使家の養女である左霧と3人の子供達が戻ってきたことから不穏な雰囲気が・・・・・・。そして刀城言耶らが見守る雨乞いの儀式の最中、不可解な事件が起きる事に!

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<感想>
 刀城言耶シリーズの最新刊。今作は今までの作品の中でも一番ページ数が分厚いとのこと。しかし、初期の作品と比べれば格段に読みやすくなっているように思え、読み通すのに特に苦労はしなかった。やや、事件が始まるまでが長いとも感じられたのだが、全部読み終えてみると前半部の長さも必然であったと感じられる。

 今作のポイントは、何故儀式の最中に事件が起こったのかということ。さらには、その後連続殺人事件へと発展してゆくのだが、その理由も重要項目となっている。終盤に来て、刀城言耶による推理が行われるのだが、その際に事件を通して不可解に思える事の全てが列挙される。そうして、その不可解なこと全てに理由を付けて整合性をとり、そのとき犯行が可能であったものを犯人として指摘している。しかも、これがいつものように二転三転させながら真相が徐々に見えてゆくという趣向がなされている。

 事件の真相についてはなるほどとしか言いようがない。しかもそこまでたどり着くまでに、伏線というよりも、あえて読者に罠を仕掛けて真相から目をそらさせるようなルートを選択しているところが心憎い。

 また、これは「山魔」でも感じたことなのだが、後半連続殺人事件が勃発することによって、あまり詳しく説明されていない登場人物の名前がどんどんと挙げられてゆき、犯人を指摘すると言うようなレベルではないと思えてしまう。しかし、物語が終わってみれば、詳しく説明されている登場人物がきちんと物語の中心に収まっており、こうした書き方もうまくできていると感じられるところ。

 とにかく、このシリーズは新作が出るたびにレベルの高さに驚かされ、それが5作品も続いているという自体がものすごい。ホラーと本格ミステリを融合させるという三津田氏にしか書けない一大ジャンルを築き上げたと言ってよいであろう。これはまた2010年の活躍も楽しみである。


六蠱の躯   死相学探偵3   6点

2010年03月 角川書店 角川ホラー文庫

<内容>
 都内で発生した連続猟奇殺人事件。その事件の犯人は、女性たちそれぞれの“部位”を狙い、まるで完璧な女性を創造しようとするような行為を行っていた。事件に怪奇的なものを感じた警察は死相学探偵・弦矢俊一郎に依頼するのだが・・・・・・・

<感想>
 あっさり目な“アザート”殺人事件簡易版、といったところか。ホラー小説に対して、あっさり目というのも気が引けるが。

 今作は、主人公である弦矢俊一郎の登場が少なかったという気がした。また、その登場の場面のほとんどが曲矢刑事との会話の場面となっており、動きが少なかったように思える。その割には、最後はしっかりと皆を集めて事件の解決を披露している。

 事件の解決に関しては、いつもの三津田作品のように、やたらとどんでん返しを披露しているのだが、ちょっとやり過ぎではないかと。とはいえ、解決に関してはしっかりと伏線を張りつつ、狙いが定められたものとなっており、ホラー作品でありながらもしっかりと探偵小説しているところはさすがと言えよう。

 短い作品ゆえにあっさり目と感じられるのは仕方のないところだが、簡潔に読みすすめることができるシリーズもののホラー系ミステリ小説としては十分な内容。


災 園   

2010年09月 光文社 光文社文庫

<内容>
 奈津江は幼くして、不慮の事故により両親を亡くすこととなる。しかし、彼女を引き取りにきた祭深咲により、彼らは奈津江の実の親ではなく、深咲と奈津江は血を分けた姉妹であると告げられる。そうして、彼女らの実の父が経営する施設“祭園”で彼女らは過ごすこととなる。そこは、わけありの少年少女が集められて共に過ごす場所であった。そこに怪しげな廃墟“廻り家”という建物があるのだが、そこで奈津江はさまざまな怪異と遭遇することとなり・・・・・・

<感想>
 この作品でも登場する主人公が例によって姿の見えないものに追いかけられる羽目に陥ることとなり・・・・・・というのは、いつものこと。特にシリーズというようなものではなく、主人公も今までの作品とは全く異なる人物。それが他の三津田作品と同様、怪異に遭遇することとなる。

 三津田氏の作品の特徴はなんといっても、最後の最後にならなければ、そこで起きた事例が“怪異”なのか“人為”なのか判別がつかないというところにある。特に説明のないまま、こういった作風を書き分けているため、“人為”ということで結末付けられるような作品の場合は、騙された(もちろん良い意味で)という感が強い作品となる。この作品はどのようなものであるのかは、もちろん自身で確かめてもらいたい。

 今作は少年少女による“肝試し”というような内容。読んでいるときは、そのおどろおどろしさから単純に“肝試し”という感じはしなかったのだが、読み終わってみるとそのような印象が強かった。もちろんのこと、単なる肝試しというように綺麗に終わる内容ではない。それでもおどろおどろしいなりに、着地点は見事に決まっていたというような作品であった。

 今回、内容とは関係なく気になったのは帯や裏表紙のあらすじに「家シリーズ三部作最終章」と書いてあったこと。読んでいる身としては、特にシリーズとか、三部作といったことは意識していなかったので意外に思えた。この光文社文庫書き下ろしで毎年書きあげてくれた作品であったが、別に間隔が空いてもよいので、またなんらかの作品を書いてもらえたらと思っている。三津田氏の新刊を文庫で手軽に読めるというのは貴重なので、今後も続けてもらいたい企画である。


七人の鬼ごっこ   5.5点

2011年03月 光文社 単行本

<内容>
 自殺を思いとどまらせるための電話ボランティア“命の電話”にひとりの男から電話がかかってきた。男は、もし、この電話がつながらなかったら自殺しようと思っていたという。月曜から金曜日まで、昔の友人に電話をし、つながるかどうかを試してみたが、全てつながったという。この電話を受け、福祉センターの職員は男が電話を掛けてきたと思われる場所を捜し、たどり着く。しかし、そこにはすでに男が自殺したかのような跡が。さらには、男が生前電話をしたという昔の友人たちが次々と死んでゆくこととなり・・・・・・

<感想>
 スティーブン・キングの「IT」を日本版にすると、こんな感じになるのだろうか? と、言うのは言い過ぎかもしれないが、過去の友人から電話がかかってきた者たちが、漠然とした恐怖におびえることとなる。ただ、登場人物だけではなく、読んでいる方もなんとなく“漠然”という印象が強かった。

 本書はホラー系の作品でもあるのだが、連続殺人という言葉を最初から用いているせいもあり、ミステリ色のほうが強く感じられた。しかし、ミステリというには、物語の展開が漠然と流れていくというだけのよう。昔の友人たちが次々と殺害されていくものの、特にあがらうことなく、あまりにも淡々とし過ぎていたようにも思える。

 解決がなされれば、全体像はきちんと見えてくるものの、どうも犯人の行動力とか、動機とか、全体的にイメージとしてマッチしてこなかった。三津田氏の作品の中では、決して出来が良いとは言えない作品だったと思う。


生霊の如き重るもの   7点

2011年07月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 「死霊の如き歩くもの」
 「天魔の如き飛ぶもの」
 「屍蝋の如き滴るもの」
 「生霊の如き重るもの」
 「顔無の如き攫うもの」

<感想>
 刀城言耶の学生時代の事件簿。パートナーというほど毎回出てくるわけではないのだが、シリーズキャラクターとして阿武隈川烏という強烈な人物が登場する。
 本格ミステリ短編集として読み応えのある作品。そのどれもが怪異と謎に彩られ、さらに見事なトリックがそれぞれ用いられている。これもまた今年読み逃してはならない1冊と言えよう。

「死霊の如き歩くもの」
 元々「新本格推理」に寄稿された作品なので既読。読むのは2回目であるが、2度読むことで質の高さを感じてしまう作品。4つの部屋に囲まれた建物の中庭で起こる足跡無き殺人事件。さらに刀城言耶は、下駄だけが歩く怪異を目撃する。
 この作品の注目点は何と言っても殺害方法。毒を塗った竹筒という変わったものが道具として用いられる。なぜ、このようなものが犯行に使われたのかということが見事なトリックに結び付けられている。

「天魔の如き飛ぶもの」
 こちらは「凶鳥の如き忌むもの」が原書房版で刊行された際に付け加えられた短編。目撃者の前から突如人が消えてしまうという怪異と謎の連続殺人事件を刀城言耶がぎりぎりのタイミングで解き明かす。
 うまくできているような、平凡ともとれるような。それよりも何よりも日本の怪異で“天馬”によるという所がいまいち納得しづらかったりする。

「屍蝋の如き滴るもの」
 刀城言耶が足跡のない殺人事件に巻き込まれる。さらには、犯行時に屍蝋状態の死体が目撃されるという怪異までが起こる。
 これまた解き明かされてみれば普通なのだが、うまくトリックを作っていると感心させられる。犯人の機転の利いた事件と言えよう。細かいところまで伏線が張り巡らされている作品。

「生霊の如き重るもの」
 生霊を巡る事件に刀城言耶が巻き込まれ、二人の後継ぎのうち真の後継ぎを見極めなければならなくなる。ドッペルゲンガーにまつわる事件。
 やや前置きが長かったか。どんでん返しを用いながら真相に迫るといういつもながらの解き明かし方。いろいろなパターンが考えられそうであるが、真相を解き明かされるとまさにそれしかないと思わされてしまう。単純なようでありながら、論理的に練りに練った作品。

「顔無の如き攫うもの」
 誰も出ていくことができない場所から少年が消えてしまったという事件。少年は妖怪“顔無”となってあの世を彷徨うこととなったのか!?
 今作の中で一番インパクトの強かった作品。トリックに少々無理があるような気もするのだが、その強引なところがまた何とも言えなくなる。とある有名な密室トリックを扱った短編作品を思い出してしまった。


幽女の如き怨むもの   6点

2012年04月 原書房 ミステリー・リーグ

<内容>
 戦前、金瓶梅楼という遊郭にて、幽女が現れるという噂がささやかれた。恨みをもった花魁の霊がさまよっていると。その金瓶梅楼にて緋桜という花魁が働き始めるようになってから奇怪な事件が起こり始める。3階にある、幽女が窓から覗き込むと噂された部屋で起こる3件の飛び降り事件。そして時が変わり、戦中、戦後となっても、そこに2代目、3代目の緋桜の名を継いだ花魁が現れたとき、同じ悲劇が繰り返される。3代にわたって続く遊郭における事件を刀城言耶はどのように推理するのか。

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<感想>
 今回の作品はミステリというよりも、遊郭と遊女というものに対するドキュメンタリーのような印象を受けた。戦前から戦後に至るまで遊郭がどのように変貌を遂げることとなったのか。また、遊女の生活とは如何なるものだったのか。といったことについて、詳しく描かれている。

 今作で印象に残ったのは、作品に対する読みやすさ。元々、三津田氏の作品というと、やや癖があって読みにくいものであった。それが徐々に緩和されて読みやすくなっていったのだが、本書は実に読みやすかった。全体的にミステリ色が薄く、遊郭について事細かに描かれた内容というわりには、スイスイと読みあげることができた。

 肝心のミステリ部分についてなのだが、今回は謎自体が実に漠然としたもの。飛び降りなのか、そうではないのか。“幽女”は本当にいるのか。とか、そのくらいであって、“事件”というほど印象の強いものではない。最後に真相が明かされることにより、うまくまとめられていると思いはするものの、もっと伏線として強調されるのかと思っていたものがサラッと流されたという気持ちも強い。

 基本的には遊女という設定を生かすための、遊女による遊女のためのミステリという感じ。いつもの得意の怪奇系の部分に関しても、今作ではさほど強調されていなかったように思われる。


ついてくるもの   6点

2012年09月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 「夢の家」
 「ついてくるもの」
 「ルームシェアの怪」
 「祝儀絵」
 「八幡藪知らず」
 「裏の家の子供」
 「椅人の如き座るもの」

<感想>
 三津田氏によるホラー短編集。別にミステリとうたっているわけでもなく、ミステリ性を強調しているわけでもないのだが、ミステリ的な部分を感じられる作品もあり、意外と楽しめる作品集。しかもホラー作品としても、結構怖い!

「夢の家」は個性的な女性との出会いを描いた作品。その女性がどこか普通の人とは異なることを感じ、別れようとしたのだが、今度は夢のなかを侵食してくるという内容。逃れられない絶望感がなんともいえない。

「ついてくるもの」は雛人形の呪いが描かれている。これが何とも怖い。徐々に迫りつつある、逃れられない絶望がなんとも言えない。後日譚までもが恐ろしい。

「ルームシェアの怪」は何ともミステリ的。4人でルームシェアをしているなかで、ひとりの人間がおかしくなっていく様子が描かれている。最後に全体像が明らかにされたとき、思わずハッ! としてしまう。異色の恐ろしさ。

「祝儀絵」は叔母からもらった絵が怪異を呼び起こすという話。“祝儀絵”というものは実在するのであろうか? あるとすれば何とも言えない風習である。そういった奇妙な風習のものが人知れず世の中に出ると考えると、より恐ろしくなってくる。

「八幡藪知らず」は三津田氏らしいホラー作品。子供たちが、立ち入ってはいけないという森に入り込む話。その子供たちが、森に入るまでの展開がうまくできている。そしてその後の展開がまた怖すぎて・・・・・・

「裏の家の子供」は新居を襲う怪異を描いた話。これを読むと、都会から離れた住人が少ない町の家には住むべきではないと思ってしまう。いくら安いからと言って、いわくありげな家には特に。単に怪異のみで終わらせないところが見どころでもある。

「椅人の如き座るもの」はタイトルの通り、刀城言耶シリーズなのであるが、それならばシリーズ短編集に入れた方が良いような気がするのだが。人の体をモチーフにした家具職人という題材は面白い。ただ、普通のミステリ作品という感じで、他のものと比べるとインパクトがやや薄い。


のぞきめ   6.5点

2012年11月 角川書店 単行本

<内容>
 さまざまな会談を聞き集めていた著者が、とあることから聴きつけた怪異“のぞきめ”。その怪異に関する経緯が書いてあるノートを著者は手に入れた。その内容を見ると、以前別のいきさつにより聴いていた怪異と内容が酷似しているのであった。そこで、その二つの怪談を一つの本に同時に掲載し、終章にて著者なりの考察を付けている。

 <序 章>
  第一部「覗き屋敷の怪」
  第二部「終い屋敷の凶」
 <終 章>

<感想>
 昨年、手を付けることができなかった作品であるが、これまた昨年のうちに読んでおけばよかったという完成度。実によくできている作品。

 これは、とにかく怪談として怖い作品。第一部の「覗き屋敷の怪」がすこぶるよくできている。これだけ起承転結、きっちりとよくできてる会談というのもまれにみるのではなかろうか。この作品だけ読んでも満足させられるほどの完成度。映像化しても面白そうな内容である。

 そして第二部の「終い屋敷の凶」は、第一部のずっと過去の話。「覗き屋敷」たる背景がどのようにしてできてのかが描かれている。そして、終章にて怪異についての論理的な考察がなされている。最終的にミステリとしてもよくできていると思われるのだが、やや食い足りなさが残る。第二部は話として十分な長さではあるものの、最後が尻切れトンボのようにも感じられてしまう。また、終章の推理の場面もやや短すぎると感じられた。全体的なページ数の制約があったのかもしれないが、これはもう少し長い作品でもよかったのではないだろうか。第一部の怪談が非常によくできていたがゆえに、全体的にはやや惜しい気がした。


五骨の刃  死相学探偵4   6.5点

2014年03月 角川書店 角川ホラー文庫

<内容>
 死相学探偵・弦矢俊一郎の元に新たな依頼人が来る。菅徳代と峰岸柚璃亜という怖いもの好きの20代前半の女性。ふたりのうち、菅徳代に死相が表れていた。その異変の原因となったのは、二人が男二人を含める四人で、いわくつきの館へ“無辺館”を訪れたことによるという。その館では半年前に、5種類の凶器を使用した惨殺事件が起きていたのである。未だ未解決となっている事件であったが、今回俊一郎が依頼を受けたためなのかどうか、再び半年前の事件が動き出すこととなる。この事件により、死相が表れた者たちには、何らかの共通点があるはず! そう考えた俊一郎は、必死にミッシングリンクを探すのであったが・・・・・・

<感想>
 4年ぶりの死相学探偵ということで・・・・・・もうこのシリーズ終わってしまったのかと勝手に思っていた。続編が書かれて何より。今後も何年かに一冊のペースで続いてゆくのだろうと期待したい。

 長らく待たされたかいあって、濃密なホラー・ミステリを堪能することができた。今作はある種のミッシングリンクものとなっている(前作もそうだったかな?)。依頼者に死相が表れた理由を究明するという内容。その依頼者が半年前に惨殺事件があった館を訪れ、それが原因で怪異に襲われるようになったという。半年前の事件を主人公が調べてみると、同様に死相が表れている者を発見してしまう。こうしたことから、彼らに何故死相が表れたのかということを推理してゆく。

 最後の最後まで予断を許さぬ内容であるが、ミッシングリンクの謎といい、真相といい、よくできている。超自然的なものを用いているとはいえ、それとは別個にミステリ的にも十分よくできていると思われる。むしろホラー系の舞台の中で見事ミステリ的な要素を押し出していると言ってよいであろう。それぞれの伏線や、事細かい言葉による呪いの構築など、見どころは満載。これは、今後も書き続けてもらいたいシリーズであると、再認識させられた。


どこの家にも怖いものはいる   6点

2014年08月 中央公論新社 単行本

<内容>
 「序 章」
 一つ目の話 「向こうから来る」 母親の日記
 二つ目の話 「異次元屋敷」 少年の語り
 幕 間(一)
 三つめの話 「幽霊事件」 学生の体験
 幕 間(二)
 四つ目の話 「光子の家を訪れて」 三女の原稿
 五つ目の話 「或る狂女のこと」 老人の記録
 「終 章」

<感想>
 ホラー作家三津田信三と編集者の三間坂が二つの似た怪談について注目し、互いに意見を述べていく。そのうち、他にも似たような怪談も見つけることとなり、計5つの怪談からその裏に潜む真相を見出すという内容。

 ひとつひとつの怪談はいつもながらの三津田氏の作品らしく楽しむことができる。ただ、それらをひとつに結ぶというのはいささか強引なように思えた。最初の二つの怪談を読んでも、さほど似たような感触も受けなかったし、三津田氏の作品のなかで描かれる怪談話って、だいたいこんな感じじゃなかったかと。

 五つの怪談を結び合わせるというのは、いささか強引ながらも、終章で至った見解ついては面白いと感じられた。ただ、それでも「五つ目の話」ありきで、他の作品が必ずしも同一性を見出さなければならないというほどのものでもなかったかなと。むしろ、ただ単に五つの怪談を紹介するだけで、それらをどう感じるかは読者に委ねてもよかったのではないだろうか。


誰かの家   

2015年07月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 「つれていくもの」
 「あとあとさん」
 「ドールハウスの怪」
 「湯治場の客」
 「御塚様参り」
 「誰かの家」

<感想>
 ホラー短編作品集。三津田氏の作品と言えば、ホラー系の話の流れからミステリ的な趣向を交えてという作品が数多くあるが、今回の作品集に関していえば完全なホラーものとなっている。よって、ミステリを期待してという人は避けたほうがよいかもしれない。

 海と山の怪異を時を超えたなかで関連付ける「つれていくもの」はなかなか恐ろしい。旅先で美女から誘われるといううまい話に遭遇した際には警戒すべし。

 子供の想像が現実的な怪談となってしまう「あとあとさん」。家の中のみならず、現実世界へとはみ出していく恐怖がなんともいえない。

「ドールハウスの怪」は、なんとなくありがちの話のようにも思えたが、それが現実の建物として出くわすことになるというと、何とも言えないものを感じてしまう。

「湯治場の客」は、ミステリ的な作品としても描けそうであったが、あえて怪談のみで通している。これまた旅先で出くわす女性を通した怪異。

 丑の刻参りをテーマに描いた「御塚様参り」。具体的な丑の刻参りの説明が参考になる。一族の業として描き上げたところが見どころ。

「誰かの家」もミステリ的なネタとしても描けそうな内容。広大な誰もいない広い屋敷の中で、シーツに覆われた多数の人形という設定がすごい。

 純粋な怪談として、なんとなく現実的にありそうな「つれていくもの」が印象に残った。また「湯治場の客」の女性の描写もなかなか怖い。そして「誰かの家」の設定というか、実際に自分がそのような家に出くわしたらと思うと恐ろしい。ある種、新しいゾンビもののようにも捉えることができそうな内容。


十二の贄  死相学探偵5   6点

2015年11月 角川書店 角川ホラー文庫

<内容>
 孤児として施設で育てられた悠真は、莫大な資産を持つ大面グループの総帥・大面幸子に引き取られる。中学生である悠真以外にも屋敷には幸子の親族が同居し、五人の叔父・叔母、さらには7人の異母兄姉らと暮らすこととなる。ある日幸子が死亡し、不可解な遺言状により莫大な遺産が相続されることとなった。その内容は、相続人13人の生死によって遺産の取り分が変わるという複雑怪奇な内容のもの。その遺言が発表されるや否や、一人が死亡し、悠真が行方不明になるという事件が起きる。事態を収拾するため、死相学探偵・弦矢俊一郎が呼び出されることとなり・・・・・・

<感想>
 前作から約1年半で続編が発表されることとなった。死相学探偵シリーズ第5弾。占星術をからめた不可解な遺言状を巡る連続殺人事件の謎を解くというもの。

 今作でも動機が問題視される。とはいえ、遺産が殺人の動機となっているのは当然のこと。それゆえに、誰が殺されると誰が得をするかが問題となってくる。さらには、中学生である悠真の生死も大きなポイントのひとつとなっているのだが、当の悠真はさらわれて行方知れず。

 動機というか、誰が得をするかという人物相関図についてはなかなか複雑だなと感じてしまった。これで犯人が特定できるのかと思いきや、真相は思いもかけない方向からもたらされ、謎が解ければなるほどと単純な構図に落ち着くこととなる。といいつつも、死相学探偵・弦矢俊一郎は、すぐに真の解決を教えてくれるわけでもなく、あちらこちらへと他の登場人物や読者の思考を引きずりまわし、最後の最後でようやく真の解答を教えてくれるのである。

 如何にしてという面については、ある程度は整合性がなされているものの、ややおざなりのような気がしなくもない。とはいえ、きちんとした解答をきっちりとした形で提示していることは間違いないので、ミステリ作品としてうまくできているということは確か。遺言状の複雑さばかりが強調されていて、他の面については印象が薄い故に、今までの作品と比べるとやや小ぶりのような気もするのだが、基本的な水準を越えている内容であることは間違いない。いつもながらの楽しめるシリーズ作品であった。


怪談のテープ起こし   6点

2106年07月 集英社 単行本

<内容>
 <序 章>
 「死人のテープ起こし」
 「留守番の夜」
 <幕 間(一)>
 「集まった四人」
 「屍と寝るな」
 <幕 間(二)>
 「黄雨女」
 「すれちがうもの」
 <終 章>

<感想>
 以前、中央公論新社から出版された三津田氏著書の「どこの家にも怖いものはいる」と同じような趣向のホラー作品集。個々のホラー作品が収められているのだが、それを序章、幕間、終章とつなぐことにより、一連の物語とした構成をとっている。ただ、そうした構成はとっているものの基本的には別々の話のホラー作品集という感じ。それでも、一連の流れの話として語ることで、それなりの興味は惹かれるようには作り上げられている。

 表題にもなっている「死人のテープ起こし」というものが魅力的なホラー題材となっている。死を遂げる直前の自殺者の声というものが生々しく、なんとも言えない仕上がりであった。

「留守番の夜」は、ありがちな話のような気もするのだが、結末がやや漠然とし過ぎている。ただ、奇妙なバイトという題材としては面白いものかもしれない。

「集まった四人」は、三津田氏の作品にありがちな何か恐ろし気なものから逃げるという内容。ただし、山に集まった見ず知らずの四人という設定における気づまり感がホラー的で良い。

「屍と寝るな」は、過去から掘り下げる多重ホラーのようになっていて興味深い。病室の奇妙な隣人には気を付けろ! ということか。

「黄雨女」は、都市伝説的な話。黄色い雨具を着た女の話って、どこかで聞いたことがなかったっけ?

「すれちがうもの」は、霊にストーキングされる人の話のような。それはそうと、最初の父親の失踪の話のほうが気になる。

「屍と寝るな」が、内容が深く一番興味深く読むことができた。病室とか電車の中とかでの奇妙な出来事という、誰でも体験しそうな話というところが怖い。また、物語全編に関連する、怪談のテープを聞くという行為そのものが恐ろし気に描かれており、映像無しの怪談のみの音声とか聞けなくなりそう。


黒面の狐   6.5点

2016年09月 文藝春秋 単行本

<内容>
 戦後、大陸から帰還した物理波多矢(もとろい はやた)は、行く当てもないまま日本をさまよい続け、北九州へとたどり着く。そこで、合里光範と出会い、その出会いがきっかけで物理は炭鉱で働くこととなる。過酷な労働を強いられる現場でありつつも、やがてその生活慣れつつあった物理であったが、やがて炭鉱を揺るがす連続密室殺人事件に遭遇することとなり・・・・・・

<感想>
 当初は“刀城言耶シリーズ”として描こうとしたようであるが、結局はノン・シリーズとして描かれた作品。内容は意外とガチガチの本格ミステリといってよいようなもの。三津田氏の作品というとホラー色が濃いものが多いが、本書ではそのホラー色はやや薄め。また、舞台が炭鉱という特殊な場所を用いた故に“刀城言耶シリーズ”ではなく、ノン・シリーズとしたようである。ただし、内容や構成は刀城言耶が謎を解くシリーズものとほぼ変わりはない。

 前半は、戦後の日本や炭鉱というものの背景や、主人公の生い立ちなどが語られており、やや読み進めづらかったかなと。ただ、主人公が炭鉱で働き始め、最初の事件が起きてからは、スピーディーに読み進めることができた。何しろ中盤以降は、事件が矢継ぎ早に次々と連続して起きてゆく。

 舞台としては特殊であったのだが、それ以外は普通のミステリとして読むことができたかなと。事件の解決っぷりについても、いつもながらの三津田作品らしい仕様となっている。真相については、なんとなくわかりやすい部分もあったのだが、さすがに全てまでを見通すことができなかった。“密室”についてのとらえかたが、ややあっさり目に描かれつつも、実は背景にこだわった仕掛けがしっかりとなされていた。全体的に、きっちりとした本格ミステリとして描かれていた作品であった。




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